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第37話:行方、、、


――日常部部室


 親睦会という名の麻雀大会。



 いつもなら雑談しながらだが、今回ばかりは、会話はほとんどなかった。



 だけどそれで気まずいとかじゃなくて、会話が無くても平気な関係。



 もう、これが自然体になっている。



 次は、、、。



 俺が結論を出すべきだ。



「俺の主義を話していいか?」



 手を止めて、何を言いたいのかわかったのか全員が無言で頷き、俺は続ける。


 俺は人が人を助けるというのは傲慢だと思っている。


 使い古された例えだが、物を食べる時、食べ物を口に運ぶのは助けるとは言わない。他人の手を借りず食べる方法を一緒に考えて実践するのが助けるだと考える。


 助ける主体はあくまで本人、責任は助ける側ではなく助けられる本人だという事だ。


「もう何回も言っているが、俺の神との繋がり原初の貴族や王族との繋がり、それらは全て友人で、それ以上の事は出来ない」


「例えば王子は、そうだな、俺が困っていれば助けてはくれる。だけどそれはお前達だって同じ日常部の仲間が困っていると助けるよな? それと同じレベルだという事だ」


「繋がりのある神についても同様だ。そもそも神の理に人の理は耐えられない、だから髪の力は滅茶苦茶使い勝手が悪くて普通では使えたもんじゃない」


「そして俺は政治的な力は全くないし、タダの駐在官であることには変わりはない。そしてそれはずっと変わらない」



「それでも良いというのなら、それを踏まえた上での「助ける方法」を話す、まずクエル」



「はい」


「お前の問題は単純に金で全て解決できる。奨学金を考えたことがあるか?」


「もちろんあります、ですが先生シェヌス大学の無返済奨学金は、私の学力では厳しいです。修道院の文官課程合格レベルの学力がないと」


「わかっている、さてここで俺からの提案だ。うちの私立ウルティミス学院は進学実績が欲しくてな。セクって奴が修道院合格を果たしたが、後続が続いていない。だから籍だけウルティミス学院に置く形で、シェヌス大学を受験してくれ」


「そして合格して実績に貢献してくれた場合、報酬としてシェヌス大学の学費だけじゃなく滞在費まで出す。だから食券の金はお前自身の遊興費や将来の金に使え」


「ほ、本当ですか!? 滅茶苦茶いい条件じゃないですか!」


「ただ連合都市の街長、そこまでならと、セルカからもう一つ条件を加えられた」


「当然ですね、伺います」



「将来は連合都市の専任顧問弁護士となること」



「連合都市の専任顧問弁護士!! 条件どころか成り手多数いるというか、破格の対応じゃないですか!!」


「だがそれはシェヌス大学に合格しなければ話にならないし、司法試験にも合格しなければならない。その点は「お前が頑張れ」よ。それにこれはビジネスだ。成り手多数とはお前の言葉のとおり、セルカはいつまでも待たないぜ」


「はい! 最短期間で司法試験に合格して見せます!」


「期待している。そしてモカナとファテサ」


「「はい」」


「お前達の件は既に王子と話をしてある」


「「っ!!」」


「まず状況をまとめよう。お前達は言い方を選ばなければ「上流社会から家が干されている状態」ということになる、故にこの状態を「王子が救う」というのは不可能だ、そこまではいいな?」


 とここでモカナが発言する。


「先生、さっきの話の流れだとセルカ街長と共に、という事ですか?」


「違う、お前達を連れてところで連合都市の利益にならないだろう、あくまで連れて行くのは自分の利益になる人物だけだ」


 厳しい指摘に2人は口をつぐむが、ハッと気が付いて俺を見る。


「そうだ、俺はサノラ・ケハト家の当主、ドクトリアム侯爵の後ろ盾を得ている。つまり社交界の参加資格を持っている」


 上流と庶民。


 何回か述べているがウィズ王国の上流の定義は「社交界への参加資格の有無」となるため、参加資格は厳格に定められており、庶民とは上流以外の全ての総称だと解釈していい。


 その庶民が社交界に参加する方法はただ一つ「社交界に参加資格を持つ人物の「連れ」として参加する」という点だ。


 これも何回か述べているがセルカの場合は、俺達の仲間ではあるが、あくまで4等都市の街長であるため庶民であった。


 だから参加資格を持つ曙光会の会長が招待された時の「連れ」として参加するしか方法はなかったのだ。


「前提を話す。王子は俺に上流の活動をさせたいと考えていてな。俺もどうしようと思っていたが、今回のことはそういう意味ではいいきっかけとなった。だから俺の方から「お願い」した。お前達を連れとして招待した時、それを許可して欲しいと」



「結果それは許可された。お前達は王子の主催する社交界に出席してもらう」



「「…………」」


 呆然とする2人。


 神楽坂は簡単な事のように言ってのけるが、クエル以上の破格の対応となる。


 上流は原初の貴族とそれ以外に分けられるは繰り返し言ったとおり。


 なら王族はどうなのか。



 それは国そのもの、貴族と比べる存在ではないという意味だ。



 その国そのものである王族が主催する社交とは何なのか。


 王族は年に一度開催される上流の資格持ち全てを招待するパーティーを除けば、仲間しか招かない。


 王族の仲間は原初の貴族達のみ。


 つまり王族主催の社交に参加するためには「王族が個人的に招待した上流」及び「原初の貴族達の連れ」として参加するしかない。


 しかも次期国王主催ともなれば、直系はもちろん原初の貴族の当主達が一堂に会する場でもある。


「「…………」」


 2人は震えている。


 これは恐怖で震えているのだ。


 粗相は許されない。


 過失だろうと何だろうと「絶対」に許されない。


 立場が上であればあるほどその怖さは肌で感じる。


 しかも2人とも「リーチがかかっている」状況であるのなら尚更だ。


 王子主催の社交は神楽坂はもちろん、セルカすらも招待したことがない場であるのだ。


「さて、王子主催の社交ともなればファテサとモカナだけの問題ではないのは分かるな? 王子に許可をもらったのは日常部全員だ」


「「「「え!?」」」」


「クエル、まずお前はその中で俺の秘書を務めてもらう」


「ひ、秘書ですか!?」


「過失でも粗相は許されない、だがこれは王族主催に限らず必要な心構えでもある、だからこそ社交界への参加資格保有者には優秀な秘書が必要なんだ」


 人間関係は暗記の世界でもある。


 誰と誰が仲が良い誰と誰が仲が悪い、この招待客は誰で何が好きか嫌いか。


 セクもユニアにそれをテストされていた。


「シェヌス大学の勉強に加えて、上流の社交の頭に入れて活動をしなければならない。今後のお前の公式の肩書は俺の秘書として、業務としては俺たち全員の秘書となり、更に生徒会庶務としての仕事もする。どれも失敗は許されない」


「…………」


「そしてナセノーシア、お前も他人事ではないぞ」


「私も!?」


「当たり前だろ。お前は瑕瑾の無い男爵家令嬢だ。この4人の中では序列は一番上になる。招待客に話しかけるのはお前だ。その社交性のある性格を活かして2人をリードしろ。それに女の世界はそれこそ俺はどうにもできないから、お前にそこを担当してもらう」


「あ、うん、、、」


 そう、俺の言ったことはつまり、、。


「日常部はこれからも続くってことだよ、卒業しても、ずっとだ」


 俺の言葉に一気に緊張感が解けてて笑顔になる。


「「「「先生!」」」」



「ちょっと待て、まだ対価について話していない」



「「「「っ!」」」」


 全員が聞く体制になったのを見届け続ける。


「もちろん「対価無しで提供」は当然にできないのは分かるな?」


 4人が頷く。


 俺は4人を見据える。


 こいつらは俺の可愛い教え子たち、、、。



 だから正直に言えば対価無しで考えていた。



 だがそれは駄目だ。教え子ではあるが故に「施し」になってしまう。


 それに対価無しの利益の提供は結局は、お互いの首を絞めてしまう結果になる。


 だから、俺にはこれしかなかった。


 その対価、俺は意を決して4人に告げる。




「お前達には俺の愛人になってもらう」




「「「「…………」」」」


「もちろん猶予を与える。卒業までに」


「先生」


 俺の言葉を遮るようにナセノーシアが問いかけてくる。


「なんだ?」


「それだけ?」


「……はい?」


「要は対価として私たち全員を自分の女にするんでしょ? なら今の言い方はないよね?」


「え!?」


 対価として全員を自分の女にする、え、え、そう、そうなのか、そうなるのか、、。


 ファテサが発言する。


「対価は感謝します。ですけど今の言葉は何ですか? ビジネスパートナーなんですか?」


「え!? いや、違う、お前達は教え子、、、、」


「それと?」


「へ!?」


「はい、私たちは教え子です。それと?」


「それと、、、、、、、、その、、、、、、、、あい、じんに、、、、、、」


 ファテサはため息をつき、クエルが発言する。


「まさかとは思うけど、今この状況においてもまだ他に良い男が出来たらそっちへとか言わないですよね?」


「へ!!?? その、それは、だって、お前達の、けんりというか」


 クエルがため息をつきモカナが発言する。


「というかさ前々から思っていたんですけど、足りないのは先生の方ですよね?」


「な、なにが?」


「覚悟」


「か、覚悟はあるぞ! お前たちの人生に責任を持つ気持ちに偽りは」


「はいはい、というか私達の方で考えてある」


「はい?」




「先生が考える精一杯で情熱的に口説いて欲しいってこと」




( ゜д゜)エ? ←神楽坂


「期限は、3日後から1日1人とします。順番と日時は任せます。情熱的に口説かれて、合格すれば、それをもって愛人契約を成立としましょう」


( ゜д゜)チョ、チョット? ←神楽坂


「あ、そうだ、一つ条件、荘厳の儀の時みたいにユナ王妃への告白作戦のキモいの無しね」


( ゜д゜)キモカッタノ!? ←神楽坂


「うん、荘厳の儀で、先生立案の作戦の中で、唯一「失敗」がよぎったよ」


( ゜д゜)ソンナ、、、 ←神楽坂


「やるの? やらないの?」


( ゜д゜)ヤ、ヤルヨ! ←神楽坂


「まあいいでしょ、じゃあ今度は私たちの番だね」


「え? 番って……」


 ゴホンとナセノーシアが咳ばらいをすると。


「まあ、こんな感じだけど、私、先生のこと好きだよ」


 と告げて、、、。


「私も今まで出会った殿方の中では一番だと思います、いつまでも一番でいてください」


 とはファテサ。


「ちゃんと愛してください。でなければ浮気しますからね」


 とはモカナ。


「先生、好きです、末永くよろしくお願いします」


 とクエル。


「…………」


 ポカーンとしている俺にナセノーシアが不機嫌そうにつぶやく。


「美少女4人から一気に告白されて、その表情はないよね?」


 と再び怒られる、、、。


「す、すみません、、、」


 告白、、、。


 そうか、告白なのか、、、。


「俺の人生で美少女4人から同時に告白されるなんて絶対ないと思っていた」


「ぷはは! なんか、こんな締まらない感じも、私達らしいかもね」


 と4人が笑っている姿を見て、、、。




――美少女4人からの同時に愛の告白




「っ~」


「ど、どうしたの?」


「い、いや、なんでもない」


 そんな俺の言葉に。


「先生さ、ちゃんと卒業までいてくれるんですよね?」


 と不安げにモカナが聞いてくる。


「…………」


「先生、、、、」


「……それは学院長が決めることだよ。俺はあくまで臨時講師だからな、だけど」



「改めて言う、お前達は俺が守るよ、だから一緒に楽しく生きようぜ」



 俺の言葉にすっと、ナセノーシアが代表するように、、、。


「先生、打ちなよ」


「え?」


「牌だよ、今は麻雀中でしょ?」


「あ、ああ」


 なんだろうと思いつつ牌をうつと。


「「「ロン」」」


 と3人が一斉に倒したのでびっくりして手牌を見るが、、。


「な、なんだこれ?」


 全員がノーテンだ、えっと、これって。


「チョンボでしょ?」


「あ、ああ、チョンボだけど、、、」


 3人のワザとのチョンボ、、これは、、、。


「…………」


 俺は改めて4人を見る。


 全員覚悟を決めている。


「……わかった、ありがとう、お前達の気持ち、とても嬉しく思う、だから、、、」




「3日後なんていらない、明日の夜、お前達の4人の内、まず1人の部屋に行くよ」




 当然に俺の言葉の意味を理解する日常部の面々。


 誰も言葉を発しないけど、一番目に誰に行くというのはそういう意味だ。


 全員が、それを受け入れてくれたことを確認して、、。



「俺はちょっと、月光浴がてら風呂に入ってくる」



 と溢れそうになる涙を堪える為に、それを誤魔化すために、俺は風呂に入った。



――自室



 4人からの愛の告白を受けて、自然とその場は解散することになり、俺は自室で色々と赴任から今まで思いをはせていた。


 邪神事案であれど、臨時講師として赴任し、日常部の面々との出会い、教師としての活動、サクィーリア後継者候補へと認定され、荘厳の儀への参加、そしてサクィーリア選挙に落選したが、生徒会役員庶務としての抜擢を受ける時、、、。


 そして継承式を終えて教え子4人からの愛の告白。


「…………」


 じっと窓から外の景色を見ている。


 もう消灯時間は過ぎており静まりかえっている。


 思えば半年もいたのか……。





――名門女子学院の教師に着任し、美少女4人の教え子から愛の告白。





――全員自分の女にする、ハーレムエンド





 ああ、そうだ。




 最初から歪んでいたんだよ、、、。




 そんなことは分かっていたんだ、、、。




 だから俺は、、、、。




 俺はスッと、体の中のいつものスイッチを入れる。




「……王子、神楽坂です、聞こえますか?」




【聞こえている】




「…………」




 それだけで言葉でない俺の何となくの重さを理解しているのか向こうもそれだけ答えると黙っている。




「王子」




「ゲームは遂にエンディングを向かえます」




――王子の執務室



 エンディングを迎える。


【先ほど、日常部全員から愛の告白されました。結果、全員が自分の愛人になることに了承されました】


「…………お前の予想どおりになったという事か」


【はい】


「終わらせる時が来たという事か?」


【私はそう判断しました。後はこの「歪んだ世界」がどう終わるのです】


「…………」


 神楽坂の「歪んだ世界」と評するこの世界。


 それは今回の舞台、ケルシール女学院そのもの。



 邪神の支配下にあり、いつ崩壊してもおかしくない世界。



 支配しているのは邪神エテルム。


 姿は「若い女性」というだけで後は能力含めて一切の謎となっている。


 とはいえ、比較的表舞台に立つ方の邪神で記録されているだけで3回記録されていることから性質はある程度分かっている。




 実験。




 彼女の神話はそれで彩られる。


・生きたまま人を解剖して、どのようにどうすればいつ死ぬのかを克明に記録した564例の実証実験。


・当時の某強国の国王を除く王妃や王子等の王族を強制的に自分のカルト信者状態にして、そして信者男女数千人を全裸で当時の強国の軍隊に突撃させて、どう対応し、国がどう崩壊するのかの実証実験。


・アーティファクトを利用し、強制的に亜人種の古代文明を促進させ、差別されていた亜人種たちを差別する側に立たせた時どうなるのかの実証実験。



 いずれも結果は凄惨、彼女の実験によって死亡した人は10万を超える。


 彼女の邪神神話は、これでも人の業を克明に記している。


 王子の脳裏に、神楽坂によるヒネル死亡の報告を思い出す。


 完全な球体となった、未だ回収ができない遺体。


 更に殺されかけた神楽坂に、壊されかけたファテサ。


「…………」


 王子は無意識に強く拳を握りしめる。


 ウィズを神と崇め、主神として展開する宗教施策は、邪神対策であった。


 力こそ序列である神の世界の掟を利用して、ウィズ神の存在と保護を公にする。


 つまり、逆らったら殺す。


 この効果は劇的でウィズ国内だけではなく、公に邪神が活動することはなくなった。


 無論いなくなったわけではないから、不可解な事件があった時に、邪神の仕業では何て陰謀論含めて色々語られる。


 だからこそ王子自身、邪神事案に遭遇するのは初めて、いや、初代国王のリクス含めて初めての事であった。


 もちろん国家施策としては、邪神対策はしていたつもりだったが、いかにそれが机上の空論で無駄であり自分の油断と無能を思い知らされた。


 この半年間、ケルシール女学院はいつ崩壊してもおかしくない状態。


 今日は無事でも、明日全員が死んでいるかもしれない。


 ケルシール女学院の崩壊は、それこそ世界に波及してしまう。


 この状況に対し王子自身、神楽坂の報告があるまでこの半年間、気が気じゃなかった。


「これほどまでに自分が何もできないとは思わなかった。世界最大最強国家の次期国王がとんだ無能を晒したわけだな」


【何を言っているんですか、逆ですよ王子、長期間のサポートありがとうございます、それと予想外に色々と金を使ってすみませんでした。アイツら麻雀が強いのなんのって】


「今生の別れみたいな言い方は辞めろ神楽坂」


【…………すみません】


「……いや、私も気が立っていた、すまない。神楽坂、結論から聞く、邪神はやはり」


【はい、彼女で間違いないかと】


 ここで神楽坂は王子に話す。


 赴任から今までのことを踏まえての邪神が誰なのか、その理由について、洗いざらいすべてを話した。


「……そうか、分かった」


 王子は神楽坂の話を静かに聞き、目を閉じる。


「…………」


 言葉が出ない王子。


「すまない、言葉が出ない」


【いいんです、私も一緒ですよ、必死で言葉を出しているだけです。それと約束、覚えていますよね、無事に戻ってきたら一緒に天河を奢ってくれるって】


「もちろんだ、なに、これだけのことをしてくれたのだ。1人とは言わん、アキスに聞いたことがあるが、金さえ持っていれば複数人でも指名可能、つまり「ハーレム」が可能だそうだ。無事に帰ってきたら天河を7日間貸し切り、女全員を相手に出来る本物のハ-レムを約束してやるよ、慰労会と称して楽しむぞ神楽坂」


【わあ、それはマジで楽しみです、女性陣にバレない様にしないといけませんね】


「うむ、全く、アイツらはもっと男の遊びに寛容であるべきなのにな」


【まったくもってそのとおりですよ!】


「…………」


【…………】


「神楽坂はどうするか決めてあるんだな?」


【はい、明日の夜の自由時間、自室に向かい告げるつもりです】


【そして、明日以降についてなんですが、4日間私からの連絡がない場合は失踪扱いとしてください。それとこれはひょっとしてなんですが、セアトリナ卿からもし来て欲しいという連絡があれば、4日より前でも来るようにお願いします。その際はウィズとルルトが共に来るように頼んでください。後の運用については任せます】


「分かった、生き残れ、神楽坂」


【はい、おやすみなさい、王子】


 と言って通信が切れた。


「……パグアクス」


 王子は後ろで控えていたパグアクスに声をかける。


「はっ」



「ドゥシュメシア・イエグアニート家全員を極秘招集させろ」



――王子執務室



 王子は、全員が集まった状況で話し始める。


「今までよくぞ、何も聞かずに耐えてくれたことを感謝する、今の状況を伝える。まず結論から言おう」



「邪神が企画立案したゲームは、エンディングを迎えるとのことだ」



 王子の言葉を黙って聞く仲間達。


 王子は、そのまま神楽坂の言葉を全て聞かせる。


「王子、イザナミさんはどうなるんです?」


 セルカが発言する。


「分からない、神楽坂の連絡を待つしかない、そして4日間何もない場合は、失踪として扱い邪神対策をはじめる。後はケルシール女学院から何かアクションがあれば、それに沿うように要望があった」


 次にネルフォルが発言する。


「王子、今の話の感じだと」


「皆まで言うな。最悪の状況が発生する危険性がある。そこは神楽坂にかけるしかない」


 王子が言った最悪の事態と神楽坂の最悪のエンディング。


 それは失踪扱いはもちろんなのだが、、、。



 最初から懸念されているケルシール女学院の関係者全て皆殺し。



 邪神事案だと知っていて、全員人質を取られた状態で何もできず、全員が殺される。


 国の権威の関わることだ。


「王子、私達に出来ることはありますか?」


 クォナが問いかける。


「それもまた結果次第だ。ただ……」



「覚悟だけは決めてくれ」



 ピンと空気が張り詰める。


 覚悟、そう、色々と。


 ヒネル先生という犠牲者が既に出ている。


 完全な球体に尋常な殺され方をしていないのだ。


 王子の指示で、何かあった時に即座に動けるように全員が極秘に待機をすることになった。


 当然ウィズもルルトもフメリオラも滞在している。



 だけど、でも、この時は何処か、明日には神楽坂から連絡があってという想いがあった。



 それはそう、いつもの神楽坂の意味がよく分からない、それでも何かを見通したかのようの言葉で、思いもよらない解決策で導いてくれる。



 ひょっこりと報告が入って「いや~、危なかったよ」なんて、そんな感じで、、、。




 そして次の日の定時報告の時間になって、、、、。






 翌日、初めて神楽坂からの連絡が途絶えた。




――




「…………」


 連絡が途絶えた翌日、その翌日になっても、何の報告もない。


 明日、いよいよ失踪扱いとして動く。


 無論、ケルシール女学院には女性憲兵が常駐しており、活動記録はチェックしているが、邪神の支配下にあるところからの報告なんて当然に信用できない。


 それは憲兵だけではなく女王であるセアトリナも当然に例外ではない。


 娘の死体を傍に置いて「異常なし」と報告させることなんて造作もない。


 先述したとおり、特に邪神エテルムはそういった「実験」を非常に好む。


 何か自分のルールがあって自分の好奇心があって自分の好奇心を満たすために実験をする。


 あの異常なまでの球体を見るに、残虐非道な手段を実行が必要だとするのなら、、、。


 それがエテルムの実験に必要なら、、、。




 もう既にケルシール女学院は全員死んでいるかもしれない。




 いや、タダ死ぬのならまだ良い、、、。




「王子、そろそろ決裁書類を」


「っ!」


 とはパグアクスという言葉で我に返る。


 何を考えているのだ、心を乱すな、今の仕事は国家運営のための決断、今することは必要があれば決裁をしなければならないのだ。


 だから今から失踪時の各仲間への任務付与と調整をしなければいけない。


 この決裁書類を終わらせてすぐに、ウィズ神、ルルト神、フメリオラ神の打ち合わせをしなければならないのだから。


「まず王子は絶対に私たちの傍を離れないでください。エテルムの特殊能力は、神の基本能力の他、直接的に精神的支配をすることは明らかになっていますが、その手法は私たちでもわかりません。何故なら自分の能力を他の神に知られないようにするのは基本中の基本だからです」


 とはウィズの言葉、次にフメリオラが欠伸をしながら話しかける。


「ふわあ、全く相変わらず人使いが荒いよね。はいこれ注文の品。これで神の間接的な能力攻撃は防げるよ」


 とペンダントを渡してくれる。


「これは神楽坂がいつも使っている神石の類似品だね。人の体でも耐えられるけど、その代わり非常に脆弱だから神の直接的な攻撃にはまるで意味がないけどね、だからエテルムの物理攻撃を受けたら吹き飛ぶよ、文字どおり」


 ここでルルトが発言する。


「直接的な身辺警護は任せてね。王子の身は守る、イザナミから特に厳命されていたからね」


「感謝する、パグアクス」


「はっ」


「留守を頼む」


「仰せのままに、他のドゥシュメシア・イエグアニート家直系には?」


「私の指示どおりに、我々の報告を待て、常に連絡だけはつくように厳命しろ」


「分かりました、王子、お気をつけて」


 と会話をしている時だった。


 コンコン。


 とノックがある。


 会話が会話の内容だっただけに緊張感が走る。


 当然に誰も入れるなと伝えてある。


 それなのにこの扉のノック。


「私がでますよ」


 とウィズが立ち上がり扉の前に立ち、喉にシールを張ると。


「【どなたですか?】」


 とパグアクスの声色で応対する。


 そこから返ってきたのは。


「アレアです。王子に御目通りを願います」


 アレア、王子の幼馴染であり姉的存在であり女性使用人の筆頭。


 そして彼女の仕事は、王子の女性来客の統括。


(まさか、、、)


 王子は通せとウィズに目配せをして今度こそ、パグアクスが応対する。


 王子は、入ってきたアレアに詰め寄る。


「アレア! 用件はなんだ!?」


 突然の王子の言葉にびっくりした様子だったが、何かを察して用件だけ告げる。



「セアトリナ子爵卿、正確にはケルシール女学院から封書が届いているよ」



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