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第36話:サクィーリア選挙・終幕・そして、、、


――三日後・生徒会室



「…………」


 サクィーリアであるフォルは、候補者たちが作成してきた報告書を静かに見つめている。


 その報告書は当然に自分が出した課題についてだが、、。


 その報告書は一本しかない。


 そう、3人がそれぞれに課題に適した報告書ではなく。


 1本を3人の連名で出したのだ。



――3日前



「全員で協力しない?」


 そう2人に持ち掛けたのはクエルだった。


「あのさ、サクィーリアは、お互いに競い合わせるようにしているけど多分これ、、、」


 とクエルは言葉を打ち切る。


 それは2人の表情を見たからだ。


「あー、成程、その様子を見ると、お互いに考えていることは一緒みたいだね」


 ここで2人が頷く。


 気持ちが一緒なら何よりと、まずはそれぞれの部に戻り、今回の協力し合うことを提案。


 全員が仲間から提案の了承を得て、翌日の放課後、聖堂に馬術部と聖歌隊と日常部の面々が集合する。


 そして各自情報を出し合い、報告書を作成したのであった。


 これが今回の流れだ。


「サクィーリア、全員で解決してはいけないとは、一言も言っていませんよね」


 代表する形でのホル・レベッツが発言し、フィオが答える。


「……はい、そのとおりです、何の問題もありませんよ」


 今回の結論を読んでいたのかいないのか、フィオは満足げに微笑むを報告書の内容を確認する。


「そして問題となる内容ですが、協力しただけあって完璧です、このまま学院長へ提出させていただきます。お見事」


 フィオの言葉に3人が笑顔で顔を見合わせて、、、。



「まだ終わっていませんよ」



 と今度はラミナ・ギクスが発言し、今度こそ呆気にとられるフィオ。


「私ホル・レベッツと」


「私、クエル・ケンパーは」




「「サクィーリア候補を辞退します」」




「…………」


 2人の言葉、まさかそう来るとは思わなかったのか、フィオは驚きの表情を浮かべ、2人を見つめる。


 まずはホルが発言する。


「サクィーリア、私は貴方に言いました、私は女騎士として活躍したいと。ですけどそれはサクィーリアとしてではなく、あくまでも競技者として活躍したいのです。だからこそ私は候補を辞退し、次期サクィーリアとしてラミナ・ギクスを推します。卒業してこの二人と繋がりを持ちたいです。それが女騎士の地位向上になると信じて」


 次にクエルが発言する。


「私もあくまで弁護士として活躍したいです。ですから私は将来はシェヌス大学法学部を目指します。その為にラミナ・ギクスを推します。弁護士として活躍する時、この馬術部と聖歌隊の人と繋がりを持ちたいからです」


 2人の決意表明、それを聞いたフィオは目を閉じる。



「ラミナ・ギクス」



「はい」


「貴方に問います。サクィーリアになる決意表明を聞かせてください」


 これは試験いや、確認だ。



 さて、何を答えるのか、ラミナに注目が集まるが、、、。



「私は単純に政治活動が苦になりません。故にこれはサクィーリアに向いているという事だと思います」



 以上と言葉を切る。あっさりとした言葉、つまり「水にあう」と言いたいのだ。


 人気者。


 このタイプは二つに分かれる。


 計算して振舞えるもの、天然で振舞えるもの、ラミナは前者だ。


「サクィーリア」


「なんです?」


「そしてその政治活動をする上で、副会長にホル・レベッツ、庶務にクエル・ケンパーを推薦します」


「…………」


 フィオは答えない、既に3人は既に結論を出し、前を向いているということだ。



「分かりました。次代サクィーリアはラミナ・ギクス、後を頼みます」



「はい! それとサクィーリア、副会長と庶務については」


「そもそも生徒会役員の任命権はサクィーリアの専権、私からは是非もありませんよ。それと今回の件については、発表まで他言無用で願いますよ」




――サクィーリア継承式




 聖堂にて行われる、サクィーリア継承式。


 これは学院の中でも重要な行事の一つでサクィーリアの招聘で教職員までも集合する。


 サクィーリアの指名によりセアトリナ卿が任命する、これが継承式だ。


 既に人の口に戸は立てられぬとばかり、次代のサクィーリアの人事は公然の秘密状態となっていた。


 サクィーリア、フィオが登壇するとしんと静まり返る。


「今回の選挙にあたり、いちばん悩んだことは、どの程度私が介入すべきかという点でした。何故なら過干渉は自立を阻害し、放任は自覚の欠如を生むからです」


「ですが、最終的にこの私の悩みは、むしろ後継者候補達3人を軽んじていたことだと反省した次第です」


「私が何もしなくても全員が協力し課題をクリアし、そして自ら生徒会役員としての活動の未来を私に示してくれました。私が何もせずとも自立と自覚を得た、私は得難い人材に恵まれたようです」


 ここで言葉を区切る、、。



「さて発表します、次代サクィーリアは、聖歌隊隊長ラミナ・ギクス」



「はい!!」


 静かな聖堂にひときわ大きく声が木霊する。


「ラミナ、次のケルシール女学院を頼みますよ」


 フォルは、サクィーリアの証であるバッジを外すとラミナの胸元につける。


「さて、新サクィーリア、生徒達に対して決意表明と宣誓を」


 言葉に促されてラミナが登壇する。


「皆さんこんにちは、新しくサクィーリアとなったラミナ・ギクスです。荘厳の儀を始めとした私1人だけでは何もできませんでした、同じ聖歌隊の仲間の助力があって初めて達成することが出来ました」


「そして私は今回の選挙で聖歌隊の仲間だけではなく新たな仲間を得ることが出来ました」


 ここで言葉を切り高らかに宣言する。




「その新たな仲間である生徒会役員の人事を発表します。副会長には馬術部部長ホル・レベッツ、庶務には日常部のクエル・ケンパーを任命します」




「以上が新生生徒会です。そして更なる活動の幅を広げていきます。みなさん期待してください!」


 新生生徒会誕生、それに会場は沸き返ったのであった。



――生徒会室



 世代交代を無事終えた生徒会は、最後の引継ぎと引っ越し作業を進めている。


 生徒会役員は活動拠点が生徒会役員室に移る。


 1年も使えば私物も増え、思い出の品もあり、先輩から引継ぎという名目の下、色々なものが置いてある。


「もっと寂しいと思うと思いましたが、いざ、これでサクィーリアとして最後の仕事を終えたと考えると、安堵の気持ちしかありませんね」


 フィオは、整然とした部屋を見ながら、そう呟いたところで、、。


「ああ、そうだ、最後の仕事、一つだけ残っていました、そしてその仕事を私がしなければならないことについて私は落胆しています」


 ときつい言葉でわざとらしく腕を組みながら3人を見据える。


「さて、貴方達、新生生徒会の最初の失態を既におかしています。それが何なのか言いなさい」


 フィオの口調に緊張が走る、だが、、。


「「「…………」」」


 3人は答えられない。


「答えられませんか? まあいいでしょう、貴方方の失態は、今回の人事について、私は他言無用と申し向けた筈でした。それが結果皆が知ることになったことです」


 失態と言い放った今回の事。


 だがその言葉について3人は、、、。


「私が言いたいのはこの件について失態だと言葉にしているのにピンときてないところです」


 フィオは続ける。


「さて、新生生徒会3人に問います。貴方達3人は今回の人事を部外者に話しましたか?」


 その言葉に全員が首を横に振る。


「それでは自分が所属する部員に今回の人事のことを話しましたか?」


 今度は全員が縦に首を振る。


「他言無用だという事は伝えましたか?」


 全員が、ゆっくりと頷く。



「なるほど、となれば「他言無用だという事知りつつ故意に情報漏洩をした悪辣な犯人」は、貴方達の仲間か、我々、ということになりますね?」



「「「…………」」」


 サクィーリアの問いかけに、まだ全員が答えられない。


 だが言いたいことを徐々に理解してくる。


「情報漏洩のリスクは身内にこそ高いのです。いいですか? 生徒会を続けていく上で3人だけで機密保持の命令がママ先生から下されることがあります。その場合、、、」




「最も信用してはいけないのは、応援してくれた仲間達だということを肝に命じなさい」




「「「…………」」」


「貴方達が望んだ世界はこういう世界です。さて説教は終わり、それでは次の継承式まで頑張ってください」


 と堂々とした振る舞いで3人は生徒会室を後にした。



「「「…………」」」



 最後の最後まで存在感を放ったままの先代。



 波乱があると思われた生徒会選挙はあっさりと終了する形となった。



 結果だけ見ればクエルはサクィーリア選挙に負けた、けど、、、。



 満足しているようだった。





 先代生徒会であるフィオ達はセアトリナ卿の秘書の末席に任命されて、現在は社交界デビューに向けての猛特訓中だそうだ。


 そして後を継いだ新生生徒会の活動についてだが、部活動巡り、先生との折衝、学院長との折衝、まずは先代をなぞる形で活動を行っている。


 ただ先代生徒会役員は、中立性を保つため自分が所属していた部活を休部する形にしたが、ラミナ達は精力的に活動している。


 もちろんそれは「自分の部活を贔屓にしている」という評価を呼ぶことになるが、それはもう既に覚悟の上だ。


 なるほど、次の組織運営は、かなり柔軟性を持ってやるそうだ。


 そんな中、ナセノーシアが下部組織と言い放ったものの、日常部は変わらずの情報収集担当、やってることは変わらない。


 庶務は生徒担当、情報の収集は順調だ。


 まず生徒達から「男役」として人気のあるファテサは、徒手格闘部に限らず顔が広い。


 モカナは枢機卿の娘として主に文科系部活に強く。


 ナセノーシアは下位とはいえ「瑕瑾の無い男爵家」であり社交性のある性格であることから、貴族令嬢と付き合いを深めている。


 クエルに情報の集約と報告のみに集中させている。


――「クエルをシェヌス大学法学部に合格させる」


 それが、今の日常部の目標になっていた。


 クエルもその期待に応えた、首席を維持するどころか「歴代の首席成績」でも上位に入るほどになった。


 人間は自分に適した役割を与えられると、能力以上の力を発揮するのは異世界でも変わらない。


「…………」


 そんな生徒達を見ていて、俺は感慨にふけっていた。


 良い方に進んでいる、それが俺は嬉しかった。


「生徒たちの成長に日々驚かされるばかりですよね」


 というのはルウ先生、俺は今昼休みで、歴史教科の職員室でバイア先生とルウ先生と一緒にいた。


 ルウ先生の言葉を受けてバイア先生が発言する。


「荘厳の儀の達成者たちは伊達ではなかったという事でしょう。私自身候補者たちでお互いを認め合い、結果候補者の2人が辞退するとは思いませんでした。このような形での決着は選挙制度を採用してから初のようです」


「それにしても聖歌隊は凄いですよね、3期連続の聖歌隊からのサクィーリア選出もまた初の快挙だと伺いました」


 というルウ先生だったがバイア先生の表情は晴れない。


「聖歌隊として必ず良いとは思いません。慢心とは技術だけではなく己の立場からも来るのですから」


 と少し愚痴るバイア先生。


 先生としての評価よりも聖歌隊としての評価を気にするのはバイア先生らしい。


「神楽坂先生は、日常部の方はどうです?」


 どうです、というバイア先生の言葉はただ近況を知りたいという言葉ではない。


 そう「日常部をどうする」のか、それは、、、。



「近日中に結論を出します」



「結論、ですか、、」


「はい、その結論次第では、いつまで臨時教師の職にいるか分からなくなりそうですけど、出来ればアイツラの卒業まではやりたいなと思ってはいるんですが」


「それがお互いの幸せにつながりますように祈っていますよ」


「誠心誠意努力します」


 ここでルウ先生が発言する。


「そっかー、すっかり馴染んでますけど、神楽坂先生は臨時ですものね、このまま正職員としての採用はないんですか?」


「それはないと思いますし、法整備の問題からも学院長も考えていないと思いますよ、なにより本業は連合都市の駐在官なので」


「あ、そうでしたね、それもすっかり忘れていました、それにしても、、」


 と言葉を切って。



「ヒネル先生、子育て頑張っているかなぁ」



(!!!!!!!!!!)


 ルウ先生の言葉に心臓が跳ね上がる。


「…………」


 心臓がありえないぐらいバクバクしている。


「そう、です、ね」


 と精一杯な俺の様子には気付いていない様子のルウ先生。


「…………」



 そうだ、、、。



 そうだったんだよ、、、。



 何を忘れているんだよ、、、。



 この平和で楽しい日常は、、、。



 激しく歪んでいる、、、。



 一歩間違えば崩壊する程に、、。





 そしてそれを、つい忘れそうになる、、、。







「…………」


 日常部の部室に向かってトボトボと歩いている時だった。


「先生、何沈んだ顔をしているんです?」


 とはクエル、俺の帰宅を察知していたのか4人が建物の出入口で迎えてくれた。


「……どうした、全員揃っての出迎えなんて、珍しいじゃないか」


 俺の問いかけに4人は黙ったままだったが。


「生徒会活動も一段落したでしょ、親睦会、する?」


 とナセノーシアが問いかけてくる。


 親睦会か、、、。


 そうか、もう決めないとだ、さっき自分で言っていたじゃないか。


 それなのに結局向こうから促される形になってしまった。


「はは、遠慮がちなんてお前達らしくないじゃないか、麻雀、やろうぜ、ルートは?」


「「いつものとおり」でいいでしょ?」


「ああ、いいよ」



 こちらも、結論を出さなければいけない。

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