第35話:『【私の考えていることだ】』
「…………」
後ろに邪神がいる。
今回の元凶が、、、。
さて、まずは後ろを振り向くかについてだが……。
振り向かない、振り向けば殺されるだろう。
『【後ろを振り向かったのは褒めてやる、振り返っていればお前を殺すつもりだった】』
「心得ているよ、それは「今この時」じゃないからだろ? 声まで変えているお前の労力を無駄にするつもりはないさ」
『【…………】』
「どうした? なら今度はこっちからいいかい? いくつか聞きたいことがある」
『【それに私が答えなければならないと?】』
「なんだよ、わざわざここにきてこれを見せて俺に話しかけるってのは、そういう意味も込めているんじゃないのか?」
『【このまま私に殺されるとは思わないのか?】』
「愚問だぜ、お前の気まぐれで俺が殺されるなんてのは、俺がここに赴任するとお前が決めてからずっとだろ?」
『【……命は惜しくないと?】』
「んなわけないだろ! 俺は絶対死にたくないの! 健康で長生きしたいの! 美味しいものを一杯食べて、好きな所に旅行に行って、色々やりたいことが多すぎるぐらいだ! その為に色々聞きたいの!」
『【…………】』
「さてさて、沈黙は肯定として続けるぜ、まず、確認事項から、この球体はヒネル先生か?」
『【それを答えてどうなる?】』
「俺の推理が捗る、そして俺の推理が捗ることをお前がどう思うかだ」
『【…………分かった、なら答えてやる、そのとおりだ】』
「ヒネル先生を殺した理由は?」
『【答える必要ない】』
「分かった、次に状況の確認、ヒネル先生を今ここで俺に見せる意味はあったのか?」
『【状況と時に意味はない、なんとなくだよ、いつどう見せるかが面白いか、それを考えた結果だ】』
「…………」
『【なんだ?】』
「いや、なんでも、じゃあ次、そもそも俺を今回の活動に選んだ理由ってなんだ?」
『【先ほどと一緒だ、面白そうだったからだ】』
「ふむ、、、、、」
俺は少し考える。
「お前は邪神エテルムでいいのか?」
『【っ】』
ここで驚く様子が背中越しに伝わる。
『【……そうだ】』
「ん、分かった、次にヒネル先生が殺されたと、学院長には言っていいか?」
『【ここで駄目だと答えたらお前はどうするつもりなんだ?】』
「駄目だと言われたら言わないし、言っていいと言われたなら言うつもりだ」
『【好きにしろ、それとこちらも聞きたいことがある】』
「いいぜ」
『【ルルトとウィズの助けを受けているな?】』
「アドバイス程度だがな、ただ直接的な助力は受けてないし、この体は使徒ではあるが加護も受けていない人の体だ。そっちが提示した条件は意に沿うようにしているつもりだ、疑うのなら調べてみ」
『【……アーティファクトを体に埋め込んでいるのか?】』
「そのとおり、フメリオラに頼んでな、そっちも気づいていたんだろう?」
『【…………】』
「再び今度はこっちからいいかい?」
『【なんだ?】』
「これは確認というか、お前の口から聞きたいことがあってな、荘厳の儀の第二の試練の時、俺の故郷の秋葉原の旧ラジオ会館での話なんだが」
「俺がもし気付かず、ファテサがあの中に入った場合、どうするつもりだった?」
『【お前を殺す、惨たらしくな】』
「そっか、それが聞けて良かった、安心したよ」
『【なんだ、それは?】』
「更に俺も最後にもう一つ、言いたいことがある」
『【言ってみろ】』
「俺の教え子に手を出すな、出せば殺すぞ」
『【殺せるものなら殺してみろ】』
「いや、俺じゃなくて、ウィズとルルトがだよ」
『【っ!!】』
ぐっと手を後ろから首を掴まれて。
首を支点して体が軽く持ち上げられる。
『【舐めているのか?】』
「がはぁ! なめて、なんかない! そのままの意味だ!」
『【…………お前、ひょっとして、私が誰だか見当がついているのか?】』
「ぐ、愚問だ! 何故バレていないと思った!」
次の瞬間、力から解放されて、俺はゲホゲホとむせる。
「ったく、今の俺は人と変わらないって言っただろ、もう少し優しくしろ、、、」
と軽口をたたいて反応を待つが、何の反応もない。
「おい、いるんだろ?」
「…………」
「もしもーし!」
と叫んだところで、、、。
俺の意識は、ふっと途切れた。
●
「「先生!」」
揺さぶられて目を覚ますと、目の前にはモカナとナセノーシアがいた。
「…………」
俺はムクリと起き上がる。
「先生大丈夫!?」
とナセノーシアが焦りながら問いかけてくる。
「……ああ」
大丈夫、そう、大丈夫だ、身体を少し動かすが痛みとか全く異常は一切ない。
そして辺りを見渡すが、、、ヒネル先生の遺体も無かった。
だが匂いは残っている、、、。
「……ふふん、驚いたかね?」
「え!?」
「いやいや、ちょっとした悪戯だよ、俺が寝ていたら、焦るんだろうなぁって思ってさ」
「「…………」」
あまり意味が呑み込めない様子の2人。
「ごめんごめん、そんなに焦るとは思わなかった、悪かったよ、それとこの匂いについてだが、動物の死骸が腐っていてな」
「……動物?」
「いや、色々調べてみたが人の手というよりも獣に喰い荒らされた感じだったから不審者がどうこうってわけじゃなかった。ちなみに死骸はお前たちに見せるとショッキングだからかなと思って、既に処分しといたよ」
「「…………」」
むむ、ちょっと不自然だったかな、ったく、邪神め、遺体だけじゃなくて、そっちのフォローもしとけっての。
「分かりました、言えないことがあるんですね」
とはモカナの言葉だ。
「……言えない事って、なあ、俺ってそんなに分かりやすい?」
「はい、浮気したら証拠引き連れて否認する感じ」
「なんて例えだよ!(´;ω;`)ウゥゥ」
まあでも浮気か、うん、じっさいにやったら実際そんなことをするっぽい、否定できない。
「げふんげふん! ま、これで依頼達成だ、結果は全部気のせい、まあ分かり切ったことっだったがな」
という訳で、七不思議の依頼は「無事」達成した。
翌日、全てを報告して平気な俺達の様子を見て報告を受けたオカルト研究会の面々も安心した様子だった。
――放課後・学院長室
「…………」
執務室の机の上にヒネル先生の身分証明書を置き、セアトリナ卿は目を閉じて、何かを耐えている。
「……神楽坂先生、ありがとうございました」
かろうじて絞り出す。
「学院長、遺族にこの事はまだ話さないでください。この状況が終わるまで」
「わかりました、どの道産休と認識されている以上話せませんし余計な混乱を招くだけです、あの、それと神楽坂先生、質問が」
「受け付けません」
ぞっとするような冷たい声と目に凍り付くセアトリナ卿。
「言ったでしょ? 私に絶対服従を誓うと」
「…………」
その時の神楽坂の表情。
それは怒り、、、。
その表情を見て感情は分かるが、、、。
(その怒りは、、、、)
――邪神がヒネル先生を殺したことに向けられているのか
その問いはセアトリナの口から紡がれることはなかった。
●
――五右衛門風呂
「あ゛あ゛~~い゛い゛~~」
俺は五右衛門風呂に入っている。
お湯を無茶苦茶熱くして「あぢぢ」と叫びながら入った。
皮膚がジンジンと痛むが、それを我慢して入るのは最高だ、更にこれが露天風呂ってのが、更に最高だ、星を見ながら入るのは最高だ。
「あああ゛゛~」
少し慣れて来たか、我慢に我慢を重ねながらゆっくり目を開けて、ゆっくりと周りの景色を見た時だった。
そこには体にタオルを巻いたモカナとナセノーシアが立っていた。
「きゃあああ!!! ってあぢぢぢぢ!!!」←神楽坂
とザバァと出て床でのたうち回る。
「おおぅ~~!」
と痛みに耐えていると、ナセノーシアが五右衛門風呂に近づく。
「そんなに熱いって、あつ! 本当に熱い! こんなの入っていたの!?」
「俺は江戸っ子だからな! 風呂は熱いに限るのさ!!」←振り向いていない
「先生、何でそんなに荒れてんの?」
「…………別に荒れてなんかない、というか何で来たんだよ」
「いや、先生と一緒に入っていないの後は私達2人だけでしょ?」
「そんな理由で、お前たちは本当にもう、、、、」
「落ち込んでいるみたいだから、男って女の裸見ると元気出るんでしょ?」
「……ああ、そうだな、そうだったか、そうだな、元気出るな、ありがとな、まあでも、実際こう、マジマジと見る気にはなれないけど」
「それって魅力がないからですか?」
「あほ、そんな訳ないだろ、お前達は十分に魅力的だよ。見る気になれないってのは男ってのは義理と人情の生き物だからだよ、いやらしい目で見られるのは嫌だろ?」
「別にいいけどね」
「よくないの! 俺が悪いの!」
「はいはい、紳士紳士」
「…………」
男ってのは本当に不思議だ、例えばネルフォルだって、仲間になる前までは、童貞を殺すセーターからの横乳であれほど興奮できたのになぁ。
「もう、お前達が可愛いのも大事なのも本当だよ、教え子だからな」
今、自分出た「教え子」という言葉、、、。
思えば、この言葉に自分の中ですっかり違和感が無くなっていた。
「……そろそろお前たちの事も考えないとな」
「え?」
「え? って、そりゃそうだよ、今後の事、お前たちの家の事もちゃんとね」
「「え!? 考えてくれてたの!?」」
「そりゃそうだよ! え!? 考えてないと思ったの!?」
「「うん」」
「ええーー!!」
「適当な理由つけて、先伸ばしているのかなって」
「まあヤリ逃げしようとしないだけ立派だよねとか話していた」
(´;ω;`)ウゥゥ ←神楽坂
「でもまあよかったです、心配していたんですよ」
「何がだよ、俺はちゃんとお前達のことを」
「そうじゃなくて、今日、泣きそうな顔をしていましたから」
「……そうかよ、ありがとよ、じゃあ背中流してくれよ」
とどかっと椅子に座ると背中を向ける。
俺の反応でちょっと驚いたみたい、とはいうものの2人はゴシゴシと背中を流してくれる。
おおう、他人に背中を流してもらえるって結構気持ちいいな。
「とりあえず、モカナとナセノーシアに伝えておく」
「え?」
「あのサクィーリアのお嬢さん、そろそろ何か「仕掛けて」くるぜ」
「え?」
思考を切り替えろ。
既に人が1人死んだのだから。
最悪のエンディングだけは絶対に回避しないといけないのだから。
――翌日・生徒会室
既に恒例となった生徒会とその候補生たちは生徒会室での昼食会。
その昼食会後の雑談をしている時だった。
「さて、サクィーリア選定式も後4日、貴方達には、試験に挑んでいただきます」
「「「…………」」」
突然の切り出しだが候補者たちは既に驚かない、このままで終わるわけではないと、全員が考えていたからだ。
「それは来年度の部費及び要望回答の草案、これを纏めてもらいます」
部費の草案。
金が絡む生徒会の大事な仕事の一つ。
誰だって部費は欲しい、だがこれは過去の実績がものを言うから、以外と揉めない。利権が絡まないので大人の世界に比べて非常に簡単に終わる。
だが問題なのは、要望回答についてだ。
要望回答、生徒達の要望を聞いて叶えるのも仕事の内だが、実はこれが生徒会の一番の嫌われ仕事でもある。
要望と言えば聞こえがいいが、実際は我がままに起因するものも多く、「要望を聞いておいて対応しない」というのは想像以上の反感と不信を招くのだ。
もちろん全員それを理解する。
「さて、この成果をもって、次代サクィーリアを決定します、頑張ってください」
という言葉で昼食会は終わりになって、、。
生徒会室を離れ、それぞれの帰り道につこうとした時だった。
「あのさ」
とクエルがホルとラミナに話しかける。
「一つ、提案があるの」
――日常部・部室
「ふむ、ここでの肝は部費の配分ではなく生徒の要望回答についてか、、、」
クエルから報告を受けた俺は考える。
さてさてフィオの文言からすると、これは一見して。
「あのさ、先生、皆、聞いて欲しいことがあるの」
と思考を打ち切られるでクエルが真剣な表情で全員に話しかける。
なんだろう、凄い真剣、いや深刻な表情だけど、、、、。
固唾の飲んで見守る中、そのクエルが話した内容、それは、、。
最初は驚いた。
だけどその話の理由を聞いたら、、、、。
「いいんじゃない」
とはナセノ-シアだった。
「私も賛成」
とモカナも賛同する。
「私も異論はない。というよりこれ以上ない素晴らしい結論だと思ったよ」
ファテサも笑顔だ。
さて結論を出して欲しいとばかりに自然に視線は俺に集まる。
「ファテサではないが、素晴らしい結論だ、教え子の成長を嬉しく思うよ、ってことは」
そう、、、。
このサクィーリア選挙で俺の出番が無くなったってことだ。
後は生徒達の自主性に任せるとばかりに各自課題の解決の為に動き出すのであった。