第32話:サクィーリア選挙・初顔合わせと、、、、
――教室
荘厳の儀の達成。
今回は全員達成という快挙に、学院中が沸き返ったものだが、それも落ち着き、次はいよいよサクィーリア選挙に向けて生徒達の関心もそちらに移っていく。
それは数日前に次代サクィーリア候補達が発表されたことの起因する。
そして現在、生徒達の関心は「選挙方法」にあった。
「以上が、前期試験の範囲だ、ちゃんと勉強しておけよ」
「「「「「はーい」」」」」
教室での授業が終了後、そんなお決まりな事を生徒達に言い放つ。
大分先生としての仕事にも慣れてきた。とはいえ、相変わらず女しかいない環境は、こう妙にプレッシャーになるというか、迂闊なことは出来ないというか、まあいいや。
前期試験は、そのとおりで日本の定期考査と一緒。
ケルシール女学院は、勉学は重要視されていないが、それでも平均より上の教養がないと話にならないのは知ってのとおり。
女学院の進学実績はクエルを筆頭に勉学で入学した特別入学枠があげている。
それ以外では、進学を目標としない生徒では程ほどであればよい。現サクィーリアのフィオなんかは、成績は中の上程度なんだそうだ。
ただ赤点は張り出されてしまう。
いくら上流でも学業が余りにもできないというのは名誉に関わるから、家名にかけてそれだけは避ける、だから必要最低限の学力は確保できる。
んで教育とはもちろん学業だけを指すのではない。女性の教育実績の為に様々な試みがされているが、、、。
「…………」
俺は、改めてサクィーリアの後継者候補3名が公示された掲示板を眺めていた。
「先生、おはとうございます」
と話しかけてきたのは選挙のライバル馬術部部長、ホル・レベッツだった。
「ああ、おはよう、ホル、立候補者認定、おめでとう」
「そちらもおめでとうございます」
「そっちはどうだ、選挙活動に向けて」
「今までと変わりません。それ以上のことは必要ありませんよ」
「そっか」
「そっちはどうですか?」
「こっちも一緒だよ、正直向こうがどう出るかだから、俺は教え子たちを信じるしかないな」
と言った時だった。
「先生、ホル」
と同じ聖歌隊隊長、ラミナ・ギクスが来て話しかけてきた。
「お疲れ、立候補者当選おめでとう」
「そちらもおめでとうございます、お互いに頑張りましょう」
「聖歌隊隊長さんは、どうするんだ?」
「どうするも、頑張るしかありません。聖歌隊の活動の他にしなければいけませんから、忙しくなりますね、先生の方は?」
「うーーーーん、俺は力になれそうにないんだよな」
「そうですか? 荘厳の儀の達成に導いた立役者ではないですか」
「さっきもそこのラミナと同じ会話をしたけど、俺は力になれないってことだよ」
「「「…………」」」
お互いに何となく黙ってしまう。
気まずさと似たような雰囲気、、、。
それは何故か、、、。
――候補者3名は放課後、生徒会室に出頭するように
候補者全員に呼び出しがかかっている。
ついに、今日からサクィーリア選挙が始まるからだ。
「悩んでもしょうがないですよ」
とはホル。
「サクィーリアのさじ加減一つですからね」
とはラミナ。
「さて、先生」
「なんだい?」
「折角の荘厳の儀で戦った者同士が揃いました、どうです、食事でも?」
その時にラミナも同調する。
「そうですね、色々と情報交換もしたいですし」
「ああいいよ」
と受ける。
「……あっさり受けるのですね」
「え? ああ、あの時は2人だけだったからな、3人で仲良くならいいだろ、お互いのメリットになるからな、色々と話もしたかったからさ」
「……そうですか」
と誘われるがままにノコノコとついていき、一緒に食事をした結果「本当に分からない人だよね」という日常部の面々の言葉の元、三度親睦会が開催されたのであった。
――日常部部室
「「「「…………」」」」
全員が俺の部屋で悩んでいた。
悩んでいる理由は当然、サクィーリア選挙のことだ。
冒頭から触れているがさてこのサクィーリア選挙は選挙と銘打っているが一般に想像される選挙とは全然違う。
まず創作物ではない生徒会選挙は政治のように「甲という候補者を支持した結果、甲が当選、結果、甲の支持者に社会的、経済的に利益を得る」ということが存在しない。
これが現実世界での生徒会選挙で学生達が必死にならない理由。
つまり誰が生徒会長になっても関係ない。
これがフィクションにおける生徒会とノンフィクションにおける生徒会の大きな違いだ。
とはいえここはケルシール女学院は、修道院の仕組みを意識して作られている。
繰り返すがサクィーリアは、女性庶民にとっての成り上がりの王道、サクィーリアになれずとも生徒会役員もこの生徒会及び側近になれば、上流への道が開かれる。
日常部の最大の懸念は、その選挙方法については現サクィーリアに一任されていることだ。
歴代サクィーリアは次の後継者には当然に政治力を強く見られる。
となるとやはりホル・レベッツ、ラミナ・ギクス相手に不利だ。
ホル・レベッツは馬術部部長、本人は可愛げがないなんて言っているけど、丁寧な物腰と凛とした雰囲気で人気がある。
ラミナ・ギクスはケルシール女学院の花形の部活の聖歌隊の隊長、バイア先生は聖歌隊は完全実力主義で序列を決めており、隊長とはつまり実力もナンバー1であり人気がある。
もちろんクエルが不人気という訳ではない。
学年首席でも驕らず親しみやすく人気がある。
だがその人気の「質」が違う、クエルの持ち味である学業優秀というのは、生徒間ではあまりプラスにならず「補充」としての役割が強くなっている。
(それに、クエルは荘厳の儀において落選候補の1人だったのだろうな)
ルウ先生の徒手格闘部部長の話ではないが、それは俺自身も懸念していたことだ。
立候補選定基準を考えると、クエルと同じ理由で徒手格闘部部長が落とされた理由が見えてくる。
だが大前提としてサクィーリアには貴族達の繋がりが絶対に必要だ。
何故なら彼女たちが主催する社交会に招かれるのだから。
ラミナもホルも名の知れた男爵家と繋がりがある。
だが、、、、、。
クエルは、優秀で有能ではあるが、繋がりを持つ貴族の家、モカナやファテサの生家の窮状は上流に認知されており、唯一瑕瑾の無いナセノーシアの家の格式は低い方。
そう、クエルをサクィーリアにする利益が、フィオにないのだ。
「有利なのは、ホルとラミナなのは分かっているの、単純に私の能力が足らないから」
と自嘲気味のナセノーシア。
「先生、、、、」
と全員が視線を向けるが。
「問題なのは、クエルがサクィーリアになりたいのかという理由がしっかりあるかどうかだよ」
「理由、、、先生、何か策があるんですか?」
「正直地道に活動をする以上の案がない」
「「「「…………」」」」
再び黙ってしまう。
まあもちろん何も考えていない訳じゃなくブレーンストーミング的には考えている。
例えば買収。
ここでいう買収は賄賂ではなく「経済的利益」と言った方が正しい。
ちなみに現実世界の選挙でもこれが実は上策というか、これを前提として動かなければ話にならない。
だがケルシール女学院の利益は経済的利益ではなく、あくまで社会的利益が重要視されから意味がない。
だからこそ荘厳の儀は大事なのだ、神に認められた人物であることが公になるのだから。
政治的なつながりが無くても、神に認められることは大きい、それはボニナ族のケツ持ちはウィズしかないと考えて戦争を起こした俺が一番よく分かっている。
「クエル、大丈夫かなぁ」
というモカナの言葉。
今頃、生徒会室で初顔合わせをしている頃だろう。
(さてさて、あのお嬢様はどんなやり方をしてくるのやら)
とフィオの策略に思いを巡らせるのであった。
――生徒会室
「改めて自己紹介を、私は生徒会長フィオ・コールシ、そして副会長ジシラ、書記のナハレニです」
玉座に座り、両隣にミールとナハレニを従える形で立たせているフィオに3人に緊張感が走る。
「まずは、貴方達三人が今ここにいるという事は、全員が次代サクィーリア候補として認定されたという事。故に今更私からこうするべきだとは言いません」
「さて、、、」
と不自然に区切ると、、、。
「これから担当を発表します」
担当、担当? 3人がお互いに顔を見合わせるが全員が初耳、という雰囲気に表情こそ崩さないが、内心動揺する3人。
その空気を察したままフィオは続ける。
「クエル・ケンパー」
「は、はい!」
「貴方は、臨時書記補佐に任命、ナハレニの指示を仰ぎなさい」
「え? そ、その」
「ラミナ・ギクス」
「はい!」
「貴方は、臨時副会長補佐に任命、ジシラの指示を仰ぎなさい」
「は、はい!」
「そしてホル・レベッツ、貴方は会長補佐、私の指示を仰ぎなさい」
「はい!」
「「「…………」」」
突然の出来事に呆然とする3人であったが。
「おや、質問はないのですか?」
3人の顔を見てフィオは満足気に微笑む。
「まあいいでしょう、質問は適宜、やりながら覚えてください、そして」
「今から7日後に、継承式を行い、次代サクィーリアを決定します」
3人は、ここでようやく今回の選挙方法に思い至る。
ここでの担当は即ち、、、。
「次のサクィーリアの最有力候補は、ホル・レベッツ!!」