第27話:荘厳の儀・最後の試練・第三話
――翌日・街はずれ、神楽坂
「やあ、リクス、来てくれたのか」
「もちろん、これからやることをやらないとね」
「分かった、さて、当面の課題だが、、、、、」
俺は視線をウィズに送る。
「え? なに? 胸に視線送るのマジでキモいんだけど」
「おくってねーよ(#^ω^)ピキピキ」
「じゃあなんなのよ」
「……その前に、今の状況は分かってるよな?」
「もちろん、質の悪いマフィアに絡まれている。内容は用心棒を買って出ている代わりに対価を寄越せ。このまま押し切られれば骨までしゃぶられる」
「よし、なら今回の問題の解決についてだが、ウィズの協力が必要だ」
「わかってるわ」
「ほほう、それは何より」
「あのチンピラ共を皆殺しにすればいいんでしょ? それで一件落着♪」
「「…………」」
「大丈夫、軍隊相手でも片手間でやっつけられるよ、私こう見えて」
「「すううぅぅーーーー」」←2人は大きく息を吸い込んだ
「「そんなことできるかぼけー!!」」
「神聖教団の結末は知らないのか! アレはラベリスク神とアーキコバ・イシアルがタッグを組んでいることがバレたからこそ滅んだのだろうが!」
「アーティファクトを使っているだのなんだの言われて滅ぼされたんだぞ! フェンイアが焦土と化すわ!」
「な、な、なによ! そんな2人して言うことないじゃない! そんなだからモテないんだ馬鹿!!」
「「モテないは関係ないだろ!!」」
「じゃあどうするの?」
「「…………」」
お互いに顔を見合わせる。
(なあ、この駄女神様って、、、)
(それがさ、未来では知略と智謀に長ける神様になるんだよ)
(……分かった未来人様のいう事だから信じるよ)
(助かる)
「まあいいや、まあ実際、神の力は使うがな」
「なんだ使うの? えーっと、喧嘩は強い奴からやっつけるのがいいって」
「俺が言っているのは使い方な(#^ω^)ピキピキ」
「どうすんの?」
「まずは、ハッタリが大事なんだよ、まず用意をしてもらいたいものがある」
――数刻後
フェンイアの出入口付近は大勢の人が集まっていた。
それもそのはず、、、。
「ピ、ピ、ピガン!! 間違いないピガンだ!! しかも2頭!!」
誰かの声で一斉に大歓声が上がる。
そう、ピガン2頭を仕留めたことによる凱旋で盛り上がっていたのだ。
その中心人物は3人、そのうちの1人は。
「リクス! お前スゲーな! ピガンを2頭も!!」
知り合いに声をかけられるのは、リクス・バージシナ。
「いやいや、俺1人の力じゃどうしようもできなかったよ、この2人と連携したお陰さ」
知り合いが視線を来るまず1人は。
「あ! なんか女連れできた外国人!!」
「女連れ、、、な、なんか、人聞きの悪いような」
「それと、そっちのアンタもリクスの連れだよな!」
「名前はクォイラ、よろしく」
無愛想に対応する、そう、俺とリクスのウィズの3人だ。
ちなみに仕留めたのはピガンのツガイだ、血抜きをして、その血を瓶に入れて持って帰ってきている。
「リクス!!」
そんな騒ぎを聞きつけたのか、飛び出すようにして現れたのがドゥシュだった。
「…………」
ピガンの2頭を見て絶句している。
「ど、どうやったんだ」
「人質」
「え!?」
「知っているだろ? ピガンの家族の絆は強いんだ、人質に取りその隙に仕留めたのさ」
「え!?」
「だから最初の一頭を、雌を不意打ちで攻撃、ここでのコツは仕留めない事だよ」
という俺達の話を聞きつけて、他の狩人たちは盛り上がる。
「おい聞いたか! そんな仕留め方あったんだとよ!」
「これは儲かるぜ!!」
と口々に言いながら早速狩りだとばかりに準備を始める。
「ちょ、ちょっと、待てリクス、それは!」
「しーー」
と黙るようにいうリクス。
何故なら、ピガンを仕留める上で家族愛が強いからこそやってはいけない危険な手法だ。怒り狂って手が付けられなくなる。
まああんな感じでロクに確認しようとせずに、金に目がくらんだ奴らは、積極的に狩りにして失敗してくれるだろうから、余計に俺達の強さが際立つことになる。
「リクス」
「まあまあ、事情は後で説明するよ、それよりもドゥシュ、このピガン2頭、多分相当高額になると思うから」
「あ、ああ、フェンイアの卸業者じゃ対応しきれないだろう、エンチョウの卸業者を手配する」
「頼む、よかった、これで孤児院は当分安泰だね」
「こ、孤児院?」
「そりゃそうだよ、孤児院運営は院長先生からすれば赤字でしょ。そのためにギルドを作り、あそこの家を宿屋兼食堂として経営し、その利益を孤児院運営にあてようとした。例のマフィア共への対策でも使える」
「そ、それでいいのか?」
「それでって?」
「山分けしても大金だ、それを」
「いいよ別に」
淡々としたリクスに目を白黒させていたが。
「ゴゴゴゴゴゴ!!」←ドゥシュメシア
突然激高しないだけで静かに切れてる。
「リクスよ」
「な、なんだよ」
「言っておくが、ユナに手を出したらただじゃおかんぞ」
「べ、べつに、その、、、」
「ユナは優しいからな」
とぷりぷりしている。
「神楽坂といったな! お前もユナを狙っているんじゃないだろうな!」
「へ!?」
突然飛び火してきた。
「ユナがここ出身であることを突き止めて、ここに取り入り、実権を握ってユナを物にしようという事か!」
「な、なんだってーー!!」
なんだよその陰謀論みたいな突飛的な論理思考は。
「いいか、ユナを一番愛しているのは俺だ、お前の付け入る隙は無い」
(うわぁ)
まあ、ウィズに聞いて知っていますけど、妹に対してだからね、ああ、ウィズが言っていたっけ。
――「筋金入りのシスコン野郎で、正直ちょっと気持ち悪いんですよね、イケメンなだけに余計に際立つというか」
ちなみにユナとリクスの間に娘が生まれた後は、そっちに愛情が移ったらしく「大きくなったら叔父さんのお嫁さんになる」と言うように躾けようして、ユナに怒られて、それでも辞めずに繰り返し躾けようとしたら、キレたユナに蹴飛ばされたけど、それでも懲りず躾けようとしたら、結果出入り禁止にしたら泣いて謝ったことから許したそうだ。
まあ、幼いころに両親に捨て子同然で世に出され、この孤児院に入るまで必死に妹を守ってきたらしいから仕方がないといえば、そうなのだろうが。
「まあいい、色々と世話になったのは事実、孤児院のガキ共の飯代については、当分困らないそうだ、そこは礼を言っておこう」
という言葉とは裏腹にメンチ切りまくっている。
リクスの無二の親友でありユナの実兄、歴代国王の私設部隊の非公式の原初の貴族の始祖。
(改めて俺の始祖様ってことになるのかなぁ)
ウィズに聞いたら愛する人と子供を残すことは出来なかったそうだが、妹と親友の為に義理堅く愛が深い人物。
――孤児院
エンチョウの業者を呼び、全ての査定が終わるまで半日かかり、俺達は現在、ドゥシュとリクスに頼みこうやって孤児院の中にいる。
机の上に置かれた大金、院長先生は圧倒されている。
「驚きました。ピガンを、まさか、リクスを含めた3人だけで、その、貴方方は一体、、、、」
「最初に申し上げた通り、私はただの旅人です。こちらの2人とは一時的に手を組んでいるだけです」
「リ、リクス、ここにいる、もう一人の方は?」
「同じ旅人のクォイラって奴、故郷の村が廃村になってさ、ずっと定住先を探していたんだって、つまり昔の俺と一緒、だから世話してあげたくなって」
「…………」
「もちろんまだ信用できないってのは分かるけど、クォイラの身分は俺とドゥシュが保証するってことで、駄目かな?」
「…………」
ずっと何かを考えている院長、最初に比べれば大分俺達を見る目が変わってきている、なれば。
「院長先生、私はいずれここを発つ身、ですけど、このフェンイアの窮状は放って置けません。お力になりたいと考えています」
「っ!」
ぴくっと反応をする院長。まさかこれを俺の方から言われるとは思わなかったのだろう。
「神楽坂さん、貴方は何の対価が欲しいんだ?」
単刀直入に聞いてくる。
さて、ここで嘘をつくのは最も愚かな選択、偽らないことだ。
「私は、彼女たちの先生をしています。手間がかかる子達ですが可愛い教え子たちなんです。勉強とは机の上で学ぶことも大事、でも同じぐらい大事なのがフィールドワーク、失礼ながら彼女たちの教育の現場としてこれ以上ないものを感じました」
「よって、彼女たちを孤児院の臨時職員として招いて欲しいのです。当然にこちらがお願いしていることなので報酬はいりません。雑用としてこき使ってやってください。見てのとおりピガンの分け前は貰い、懐は十分に潤いましたから、それに」
「私達がここにいる、というだけで違います、狙いはそこにありますし、交渉事のアドバイスもできるかと」
俺のいい含む意味が分かるのか、顔が強張る。
「私は、教師という役職ですが、そちら方面にも少し経験がありましてね」
「、、、、ドゥシュ」
院長先生はドゥシュに視線を送る。
「院長、リクスが連れてきた奴だ、胡散臭い奴らだが、いったん様子を見てもいいと思う、その後で結論を出してもいい筈だ、違うか、神楽坂?」
「もちろん、それでは、院長先生」
「分かった、君の滞在を許そう」
「まず確認なんですが今後マフィアに会う予定はありますか?」
「いや、一方的に来るだけで、特に予定はない」
「分かりました、こちらかは何もせず、まあ向こうから接触はあるかと思いますが」
「え?」
「その際について色々とアドバイスを、まずはアイツらとの契約について」
ここでドゥシュが話しかけてくる。・
「ちょっと待ってくれ、契約って、アイツラとの関係を結ぶつもりか?」
「まさか」
「は!?」
「そもそも論として向こうはこちらを金づるとしか見ていない、元より応じるとは考えていない筈、だから嫌がらせをしている。ここでこちらから、長期的な付き合いを望んでいるというスタンスという大皆変化を見せつける必要があるんだよ」
と対処方法を説明する。
その俺を横目で見つつリクスがウィズに話しかける。
「クォイラ、お前にもお願いしたいことがある」
「ん? なに?」
「まずはアイツらのエンチョウでの素行、つまり「どう悪い」のかが知りたい」
「うん、それは分かったけど、誰に聞くの?」
「直接聞けばいいじゃないか、エンチョウのマフィア達に」
「え!? 素直に教えてくれるわけないじゃん!」
「だから、神の力を使って脳味噌をいじくればいいじゃないか。できるんだろ?」
「そ、それをやれば廃人に、、、」
「今後戦争が起きるんだろ? それも確認しておきたいから丁度いい」
ぎょっとするようなリクスの言葉。
「ただし、やる人物は選定する必要がある。相手を知るってのは大事だ、だから俺と動くぞ」
「ちょ、ちょっとまってよ、そうなると現地での対策が」
「神楽坂がいるじゃん」
「ええー!! 信用していいの!? アイツがそれこそ別のマフィアの勢力の手下ってことも」
「それはない」
「ないって、確かにあの、生徒達はまともそうだけど、それが証拠には」
「大丈夫だよ、だからエンチョウに行くぞ」
――神楽坂・サイド
「先生!!」
宿屋に来て俺の姿を見て、日常部の面々が近寄ってくる。
「遅れてすまない、色々と時間がかかってしまった」
「かかってしまったって、先生見てたよ、ピガン!」
「ただ者ではない三人組が現れて聞いてさ!」
「それが先生だったってどういうこと!?」
と矢継ぎ早に質問してくる。
「流石に情報が早いな、さてそれは追々、さて、お前達には働いてもらう」
「働いてもらうって、何処に?」
「孤児院」、
「え?」
「話は既につけてある。お前たちは臨時に孤児院の職員となるんだ。とまあ主な仕事は雑用らしいがな、いいか? とにかく普通に過ごしてくれよ」
「「「「…………」」」」
「ん? どうした?」
フェンイアの現状に対して何の解決策もない。
そうやって、自分たちが手をこまねいている間に、何らかの進展を見せた神楽坂。
「さて、今日は豪華な飯を食べるぞ」
「え、お金は?」
じゃらりと、ピガンの金を見せる。
「……先生って、ひょっとして、凄いの?」
そんなナセノーシアの言葉だったが。
「? 全然、言っただろ、俺が凄いんじゃない、周りが凄いのさ」
と本心から言ってのける神楽坂に初めて恐れを感じた日常部の面々なのでした。
●
「…………」
院長先生は呆気に取られているようだった。
「この子たちが私の教え子です。クエルにモカナにファテサにナセノーシア、さあ院長先生に改めて挨拶」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「神楽坂さん、やはり、貴方の腹が読めない、、、」
「助けになりたいからでは信じていただけないかと思います。ただそちらを害する気はありません。それだけを信じてもらえれば」
「……分かりました、確かに人手不足なのは事実、手伝って頂ければ助かります」
「よかった、それと諸君ら、院長先生の言うことを聞いて、子供達と職員の人たちとちゃんと仲良くすることな、それじゃあ頼むぜ」
「先生はどうするの?」
「まあ、色々と、今は畑を耕しているところだよ、それと院長」
「な、なんです?」
「例の空き家、今度こそ貸してください」
「え!? そこに暮らすつもりか!? あそこは」
「分かっています。マフィアの嫌がらせの手段としての象徴ですからね、片付けられないのも同じ理由でしょう?」
「…………わ、わかった、よ」
「はい、契約成立、さて、面倒だけど片付けに行きますか、それとマフィアに俺があそこに住むことについては、ピガン討伐の金の寄付の代わりに押し通されたと話してください」
と手をひらひらとさせながら、その場を後にして、、、。
「えっと」
残された院長は日常部の面々に話しかける。
「あの、神楽坂という男は何者、なんだね」
「色々と変で凄くて、優しい先生ですよ」
「そうか、早速だが君たちには家事をやってもらいたいと考えているけど、特に子供たちは色々と食べるし気を使わなければいけない、だから料理の作り手が必要だが大丈夫かな」
「はい、全員出来ます」
あっさり答えたことにびっくりした様子だった。
「き、君たちもまた、品の良さが見えるが、、、、いいところのお嬢さんだったりするのかい?」
そんな院長の言葉にお互いに顔を見合わせると。
「まあ、そうですね、いいとこのお嬢様学校に通っていますわ」
とおほほと淑やかに笑うナセノーシアの言葉にお互いに笑いあう日常部であった。
「き、きみたちも中々のタマみたいだね」
「院長」
険しい表情のドゥシュに何かを察する院長。
●
マフィア達の交渉について。
合法でも非合法でも暴力を生業とする集団にとって「有形力の行使」はあくまで手段の一つに過ぎない。
つまり交渉、口喧嘩も普通にする、平和的解決が望めればそれに越したことはない。
院長は、現在フェンイアの例の荒らされた家の前でドゥシュと共に待っている。
待っている相手は当然にマフィアだ。
――大事なのはまず場所の選定です。絶対に相手のアジトで交渉しないこと。公共の場所なんかが良いですね。奴らは人目を嫌いますから。
「やあ、院長先生、ゴキゲンいかがかな?」
と2人の強面の取り巻きを連れてマフィアのボスが現れた。
さて、まずは最初の闘い、院長とドゥシュは神楽坂の言葉を思い出す。
――色々と話す前に、マフィアと対峙する上で絶対に必要な心構えを説きます。
――反社会勢力の本質は、統治でも維持でもなく寄生です。
――寄生虫は確かに外見はおどろおどろしく、毒性も強いものもあり、それに侵された姿も凄惨、そして命を奪うこともあります。
――だから危険であることは事実。しかし寄生虫は宿主がいなければ死んでしまう。そういう存在です。
――そして現実と同様に予防することが可能だということ。
「こんな無粋な場所ではなく、他の場所に移しましょう、我々の大事なことだ」
「立ち話で結構だ、用件は簡潔だからな」
「…………」
「契約書だ、これで納得できるのならサインをしてくれ」
「契約だと?」
「そうだ」
「…………」
「アンタらは治安維持を買って出てくれる、その暴力装置としての指針だ」
「? 指針?」
「読めばわかる」
ぶっきら棒に言い放つ院長にマフィアは訝し気に一枚の紙に視線を落とす。
そこには色々と書いてあったがようはこういうことった。
・賄賂を受け取らないこと
・職務に勤勉であること
・強い権力と組織力を持ち、同等のリスクを負う事
「…………」
読み終わった後、マフィアは絶句していた。
「こ、この三つを同時に成り立たせると言っているのか? 夢物語というか、大丈夫か?」
「…………」
今現実でも、国家権力が恣意的に使われる国、金や社会的地位で量刑が決まる国、思想で罰を受ける国が普通に存在する、いや、そうじゃない国の方が珍しい。
そして国家が犯罪組織に取り込まれている国、逆に国主導で犯罪を行っている国、クーデターを起こされる程に弱い国もある。
その中で日本の反社会勢力たちは、こういう。
――「警察と喧嘩をしても割が合わない、アイツラをいかに本気を出させないかが腕の見せ所」
無論、日本だって万全でも万能でもない、欠陥だってあるし、酷い冤罪も度々取りざたされる。
だが金で量刑が左右されない、社会的地位で量刑が左右されない、思想で罰を受けない、勤務に対して公僕が勤勉であることは凄いことだ。
大手自動車メーカーの最高責任者が、裁判を前に国外逃亡する程に。
あの社長は自分が本気で罰を受けるなんて微塵も思っていなかった筈だ。
それはそうだ、多額の税金を納め、世界的な社会的地位を持っている財界の大物がそこらのホームレスの犯罪者と一緒の刑務所に送られるなど「ありえない」からだ。
だからこの場合「マフィアの言ったことの方が正しい」のだ。
「悪いが契約としては下の下、論外と言ってもいい」
「論外も下の下なのも理解する、だが私は本気も本気だ」
「…………」
真意を測る。
「院長先生は、おそらく何かを勘違いしている、私のことが信用できないのか?」
――途中でもし、人道やら仁義に反するやらで罪悪感を煽ってくるようなことをしてきたら初手は成功です。向こうも証拠を残したくないのだから。
――そして当たり前の話ですが、こちら側から要求するのは構いませんが、相手の要求に乗ってはいけませんよ。
「信用できる出来ないの話ではない。私はアンタらのことをビジネスパートナーだと認識している」
――気を付けて欲しいのは揚げ足を取られないことです。変に向こうを「チンピラ」扱いをすると、名誉を傷つけられたと揚げ足を取られ詰め寄ってきます。だからこそ正当な扱いをしたいと徹底してください。
――向こうだって「アンタらは金づるだ、骨までしゃぶり尽くす」とは言ってこないのと同じ理屈です。
「後は、アンタらの決断だ。何も不当な要求をしているつもりはない。それはちゃんとここに書かれている」
「…………誰かに入れ知恵されたのか?」
――当然ここにいきつきます。んで回答はもちろん、方便を混ぜて。
「アンタも知っているだろう、ピガンを2頭倒した3人組の1人、神楽坂イザナミ。彼にアドバイザーとして滞在してもらっている。頭が回る男で、戦術と戦略を使いピガンを狩ったそうだ。その男にアンタらのことを話したら是非「契約相手」としては最良だと言っていた。確かに治安維持は綺麗事ではできない。自警団ではもう限界が来ているのは事実だからな」
「つまり、フェンイアの憲兵になって欲しいってことだ」
「…………」
マフィア達は睨んでいる。
――ここで応じれば手順が3省略できますが、まあ応じないでしょう。憲兵なんて誰が好き好んでやりますか。
「我々が断ったらどうなる? 他のマフィア達もここに目をつけている。そいつらに好き勝手されることになるぞ、その時は我々もどうするかわからない」
――直接的な暴力を匂わせてくる発言をしてくれれば願ったりですが、ほぼここで「必要悪の理論」を絶対に言ってくるはず。
――ただし、ここからは院長先生の勇気と決断も必要です。ここでの屈してしまえばフェンイアの未来はない。
――これは私達を信じてください。
「何回も言う通り、私たちは不当な要求をしていない、治安維持を買って出てくれるのだろう? 逆に聞きたいが、この契約の何が不満なんだ、アンタらはどうやってここを守るつもりなんだ」
「…………交渉決裂、だな」
――
マフィアとの交渉が決裂してから、数日は何も起こらなかった。
ちなみに日常部の面々は、戸惑っていたのは初日だけ、二日目からは孤児院の仕事である、炊事洗濯は完ぺきにこなし。
「先生! ちゃんと洗濯物ははたいて! 皴になるの分からないんですか!」
「そ、そんなの大して、変わらないだろう」
「変わるんです! というか邪魔です!」
と早速怒られた。
「男の人って本当に気にしないですよね!!」
「ううむ、、、、」
手持無沙汰になってしまう俺は、うろうろしていたが、、。
「先生、、、、」
「な、なんだよ」
「食器洗うのに使ったスポンジ、なに使いました?」
「な、なにって、普通に、シンクにあった奴を」
「あれはそのシンクを洗う汚い奴です! 食器を洗う奴は黄色い奴! 言いましたよね!」
「え、まあ、その」
「もういいです! もう一度洗いなおしますから!」
「…………」
「先生」
「何だよ、、、、」
「衣服が散らかってたけど、なんで片付けないの?」
「え、あれはすぐに着るから」
「片付けておいたから」
「…………」
「ちょっと外に行ってくるかー」
と虚空に発言して、休日でパチンコに行くお父さんよろしく、出ていこうとした時だった。
「神楽坂」
孤児院を出た先、リクスとウィズが立っていた。
「……その顔を見るに「進展」があったようだな」
「そのとおりドゥシュから朗報」
リクスの言葉ににやりと笑う。
「その顔を見るとひょっとして」
「ああ、早速マフィアに取り込まれた奴がでた、みかじめ払ってケツモチ依頼したよ」
「早い、そこは流石の手際だ」
「そのとおり、だから作戦会議」
「わかった、なあリクス、そろそろだが」
「分かっている。ドゥシュも混ぜよう」
「それと日常部にも一応知らせておくか」
「え? 大丈夫なの?」
「元々は教育の為に滞在させたわけだからな、この経験はアイツらにとっても有益なものになるだろうからな」
と悪だくみを開始するのであった。