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第25話:荘厳の儀・最後の試練・第一話


 フェンイア。


 ウィズ王国においては聖地としての呼称。


 モカナのいうフェンイアとは。


「ここがウィズ王国の始まりの地なんだよ!!」


 何回か述べているがウィズ神話は、リクスが住んでいたという始まりの街、フェンイアから神話が始まっている。


 その神話によれば一番最初のフェンイアはそれこそ統一戦争が始まれば、いの一番に滅ぼされるような小さな交易拠点と伝えられている。


「みんな! ここは私が説明でいいですか!」


 と興奮気味にモカナが説明を始める。


「ごほん! これもまた他言無用で願います。皆さんは聖地フェンイアにウィズ教大聖堂があるのは知っているよね?」


 ウィズ教。


 リクス・バージシナと共に歩み統一戦争の勝者となったウィズ神を主神として崇めている宗教。


 神の相棒となり王となったリクスは、統一戦争時代を勝ち抜く上でウィズを神とした宗教を「政策」として広め、現在は世界最大の宗教となっている。


 そのウィズ教は統一戦争後に勝利した時に、現在の首都へ遷都、その際に建てられた中央政府の建物が現在の修道院だ。


 遷都と同時に聖地として認められたのが、フェンイア。


 現在は、そこにウィズ教の本拠地がある大聖堂がある。


 大聖堂は本当に巨大な建物でフェンイアの観光名所でもあり、俺自身も修道院時代の時に研修として一度だけ訪れたことがある、とはいえ観光客のルートとそう変わらない道だったけど。


 要はウィズ教の総本山が大聖堂だ。


 その大聖堂の中にはウィズ神の聖居、つまり家がある。


 ただ何処にあるのかはわからない、何故なら聖居は王族や教皇を含めたありとあらゆる人が場所を知ることも入ることができないからだ。


 だから「ある」と聖典にのみだけ伝えられている。


 そんな聖居だが大聖堂の巨大な建物の屋上に玄関が設けられており、ここからウィズ神が出入りしていると言われている、見たことがある人物はいないが。


 次に聖域。


 ウィズ神が日常的に降臨する場所、入れるのは教皇と王と原初の貴族の当主と次期国王のみ、場所については聖域に入れる資格を持つ者のみが知ることができる。


 これはまあ、俺も一応原初の貴族の当主であるので、有資格者として場所は知っている。


 次にここでやっと一般民衆にも広く知られている場所、聖庭と呼ばれる場所がある。


 ここが教皇と枢機卿の居住場所であり滞在場所、要はウィズ教の心臓部で各所掌事務を執り行い、教皇がウィズ神への報告書を作成するところだ。


 無条件の立ち入りは、教皇と枢機卿と大司教。そして聖庭の立ち入りを認められた者のみ。なお認められる人物に職階の制限はなく、その所掌事務の範囲の広さから数百人規模で勤務している。


 モカナは、枢機卿の娘として生を受け、神学者の道を志すようになり、いずれは王立神学研究所に入るために、入学前はここで修業をしていたという。


「その聖庭は始まりの地であるフェンイアをそのまま模して造られていて、まさにこのままです! それが荘厳の儀で現れた! これは神学者として黙っていられませんね!」


「そうだったのか、、、」


 聖庭、ウィズ教の心臓部となる執務場所、それが、始まりの地であるフェンイアを模して造られている、、、、。


(ウィズ……)


 ボニナ族の時、初めてウィズと2人で行動して、俺のことをリクスと何回か間違えていたが、、、、。


 ……まあいい、今やることをやる、なれば。


「モカナ、じゃあガイドを案内してくれよ」


「はい!」


 と意気揚々と案内を始めてくれた。


 統一戦争前のフェンイア。


 それは当時強国の一つであり、いずれ原初の貴族の初代当主の一門となる、ツバル・トゥメアル・シーチバル三兄弟が治めるエンチョウ国との他国との交易に使われる数多くある小さな宿場町の一つ。


 人口数百人の小さな村、それがフェンイアだ。


 娯楽らしい娯楽はなく、観光地でもなく、遊びに行きたいときはエンチョウ国に行くしかない。


 主な収入は宿屋と食事処で開業している店は大体両方兼ねている。


 とはいえ小さい宿場町と侮るなかれ、サービスの質の良さから賑わっているそうな。


 その証拠に交易の馬車がたくさん止まっており、食堂から漏れ聞こえる活気のある声はそれを裏付ける。


「凄いです、街の作りがほぼ私の記憶のとおりです、そして皆さん、私は今から是非行ってみたいことがあるんです!」


 神学者としての血が騒ぐのか、モカナはずっと興奮しており、意気揚々と向かった先は、、、、。


「ここが偉大なる初代リクスのフェンイアでの居住場所と言われる場所であり、歴代教皇猊下の住まいでもあるんですが、、、、」


 とメインどおりに面したかなり大きい2階建ての家屋であったが。


「…………」


 モカナは訝し気な表情を浮かべている。


「空き家になっているな」


 そう、家屋の周りを歩いてみるが誰かが住んでいる様子はない、立地は良いように見えるが。


 としげしげと見ていた時だった、、、。


「あーお兄さんら、そこらは、空き家だよ、宿屋と食堂を探すのなら別の場所にしな」


 と通りがかったおっちゃんが言ってくれた。


「…………」


「先生?」


「おっちゃん、この家の大家さんに話がしたいんだけど、誰か知ってる?」


 と聞いた時だった。


「…………」


 明らかにバツが悪そうな顔というか、関わり合いになりたくない感じだった。


「……あそこにある孤児院の院長だよ」


 と言いながらそのまま立ち去った。


「先生、どうしたの? 大家さんって」


「建物の中を見てみ」


 との俺の言葉に日常部の面々が中を覗き込むが、、、。


「うわ、凄い、なにこれ、荒らされている」


「そう、荒らされている、何者かに、、、しかもこの場所の立地はいいように見える。そして中にある調度品も比較的新しい、そしてこれが空き家であり、さっきのおじちゃんの顔、、、、」


「……先生」


 不安げなモカナだったが。


「今回の試練は荒事がついて回るかもしれん。試練の性質上、身の危険はないとは思いたいが、向こうの善意を期待するのは愚の骨頂、、、、」


 俺は日常部の面々と向き直る。


「一応言っておくぞ、荒事となると、お前達には任せられない、よってここでも役割分担だ。まずモカナ、お前がリーダーとなって、このフェンイアの情報を収集しろ。その仕入れた情報は逐一俺に報告、それとチンピラみたいな奴らには近づかないように」


「先生は?」


「色々とな、まあ考えていることがある」


「先生」


 今度はクエルが問いかけてくる。


「なんだ?」


「先生の荒事の交渉事、是非見てみたいです」


「駄目だ」


「ど、どうしてです!?」


「お前が女だからだ」


「な!」


「これはマジで言っている。荒事の交渉事において「女連れ」は論外なんだよ」


「…………」


「きつい言い方をしてすまない。だがこれは普遍的なものだ。仮にお前を連れて交渉事に望んだ場合、下手をすると「話し合いそのものが成立しない状況」になってしまうからだ。だからお前にしかできないことをしてくれ」


「……分かりました」


「ただ、参加させることは出来ないが、細かいところで手伝っては貰うからな」


 俺はクエルの頭を撫でると不承不承ながら納得した様子、俺はモカナに話しかける。


「モカナ、まず今回の攻略については、繰り返すがモカナの情報が重要だ。第二の試練で神の橋渡し役と言ったが、実は神学は素人なんだよ、だから神話をまとめておいて欲しいという事と」


 とモカナに近づく。


「今日の宿屋についてだが」


 耳打ちをする。


「!! なるほど!!」


「ただし、ちゃんと客として振舞えよ」


「分かりました!」


「先生」


 とクエルが再び話しかけてくる。


「クエル、気を悪くしたら」


「いいえ、そうではありません、もう参加させろとは言いません。私が聞きたいことは一つ」


「ん?」


「先生は、何をするつもりなんですか?」


「まだぼんやりだから、詳しいことは言えない、ただ、、、」


「言っただろ? 荒事は任せられないが、作戦の一旦は担ってもらうことになるぞ、まずは孤児院に向かう、そこからだ」


 にやりと笑い、日常部の面々は引きつるのであった。







 おじちゃんがいった孤児院は、フェンイアの高台の上にあった。


「あれ? この孤児院の作り、、」


 と俺の言葉に問いかけることなくモカナが解説してくれる。


「はい! ユナ初代王妃とドゥシュメシア・イエグアニート卿が過ごしていた孤児院、このデザインはクォナ嬢の経営する孤児院のデザインモデルにしているんです!」


「……そうだったのか、本当に後世に影響を与えているんだな、さて」



「ここは俺が応対するから、お前たちは後ろで控えていてくれ」



 と話して、扉をノックをする。


 少したった後出てきたのは、初老の男性だった。


 無言で立っている俺に。


「……何の用です?」


 と猜疑心に満ちた目を向ける。


「あそこの空き家を借りたいんです。あの家の大家さんが院長先生だと伺いまして」


「…………」


 ますます猜疑心を強める。


「……アンタら、まだ嫌がらせが足りないのか!!」


「…………」


「何度言われてもお前達の力は必要ない! フェンイアは自分の身は自分で守る! 聞けばアンタらエンチョウじゃ権力闘争に負けて追い出されたマフィアだそうじゃないか!」


「…………」


「いいか! 絶対に俺は絶対に屈さない! 帰ったらボスに伝えておけ!」


「あの」


「なんだ!! 嫌がらせにも屈しないぞ!! 居座ろうったってそうはいかない!!」


「私は、ただの旅人なんですが」


「は!?」


「…………」


「…………」


「う、うそをつけ!!」


「と言われましても、あ、私は神楽坂と申します。ここにしばらく滞在したいと思い、良い拠点がないか探していたのですが、先ほど申し上げたとおり、あの空き家の大家さんがそちらの院長さんと聞きまして」


「…………」


「つきましては、家賃交渉と、それと手持ちが余り無いので出来れば仕事を紹介していただきたいと思い参じました」


「…………」


 俺の言葉に真偽を判断しかねている院長だったが、、、。


「おい、院長先生、こんな奴のいう事を信じるなよ」


 突然若い男の声が聞こえて後ろを振り向くと、、、、。


(!!!)


 思わず表情に出そうになった。


(ドゥシュメシア・イエグアニート!!)





 ドゥシュメシアは、院長先生以上にメンチを切ってくる。


「おい、アンタ、えっと、カグ、なんだ、なんて名乗った?」


「神楽坂、「かぐらざかいざなみ」といいます」


「? 変な名前だな、まあいい、チンピラ共も姑息な真似をするもんだ。ここには俺がいる。お前らは必要ない、用件は以上だ、帰れ」


「あの、私は旅人で」


「帰れ!!」


「弱ったなぁ~、おい、ちょっと来てくれ」


 と俺はここで、後ろに控えていた日常部の面々を呼び寄せる。


「先生、、、」


 その不安げな日常部の面々を見てドゥシュメシア・イエグアニートは驚いた顔をする。


「ごめんな、交渉が上手くいかなくてな、えっと、ならお兄さん、空き家は諦めるけど、手持ちが余り無いので何か仕事だけでも紹介を」


「……おい、アンタらは、何者だ?」


「(よし)繰り返すとおりただ旅人、そして彼女たちの教師でもあるんです」


「…………」


 ドゥシュメシアは院長先生を見て、二人で何か考え込んでいる。


(そう、日常部の面々は「真っ当」だ。真っ当であるってのは「育ち」でしか表せられない。更に無条件に女子供ってのは「そういう効果」がある)


 例えばだ、例えてみようか。


 ヤクザのような風貌の人間に、、、、、。


 小さい子供たちが懐いていたら、、、、。


 そう、警戒感が薄れるのだ。


「あの、院長先生とお兄さん、何か仕事を、、、、」



「狩りだ」



「え?」


 ドゥシュメシアがかぶせるように言う。


「狩りだよ。ここは宿屋と食堂で成り立っているが、他は何もない。だから食材調達が一番儲かる、俺もそれで糊口を凌いでいる」


「一番儲かる獲物は?」


「ピガンって知ってるか?」


「……知ってる。最強の草食動物でしょ?」


「あれを一頭仕留めれば、一年は遊んで暮らせる。だが現実的じゃないがな」


「なるほど、ね」


「まあ、他にも獲物は色々ある。食肉用の業者に問い合わせてくれれば相場が分かる。そこで調べて狩りをして買いとってもらうといい。それとあの空き家についてだが、今のところ貸し出す予定はない、以上だ」


「わかりました。ありがとう」


 と今度は素直に孤児院を後にした。





「先生」


 孤児院から少し離れたところで、モカナが問いかけてくる。


「心配しなさんな、第一段階は無事クリア」


「え? クリア、なの?」


「まあ焦りなさんな、さて俺はやることがある、これからは別行動、頼んだぜ」


 と手をひらひらさせながら日常部の面々と別れたのであった。



――フェンイアの外れ



 俺はフェンイアからも離れて、最初に俺達が降り立った場所にいる。


 多分、そろそろ戻ってくると思うんだが、、、。


 ととある場所で待っていた時、目的の男の姿を見つける。


「ブツブツ」


 最初に会った時のとおり、男が近づいてきて、今度は進路をふさぐ形で立っていた俺の姿を見つける。


 待っていた俺に男は最初ぼんやりとしていたが。


「あれれ、貴方は」


「はい、突然申し訳ない、貴方を待ってたんだ」


「ん? 何か用?」


「ピガンは狩れた?」


「いや、発見は出来たけど、遠目から見てもアレは確かにヤバい、1人じゃどうにもできなかった」


「なるほど」


「んで、今度はそっち、俺に何の用?」


「私は旅人でして、路銀が心もとなくなってきたので」


 と俺は、簡単に事情を話す。教師をしていること、生徒達と短い旅をしていること、孤児院に行ったこと、あの空き家を借りたいこと、稼ぎが狩りであること。


「…………」


 そんな俺の話だったが、男は俺を見ながら何かを考えている。


「何が目的なの?」


「? だから言ったとおり、路銀稼ぎを」


「嘘だよね?」


「……どうして?」


「ここで「どうして?」って聞くことが既に、そして、、、」



「君が自分が嘘を見破って欲しいことも分かったよ」



「…………」


「嘘をついた理由は?」


「俺には目的があってそれを達成するため」


「その目的は?」


 ここで俺は考える。


 さて、何て言おうかな。


 遠回しに嘘をつくなといっている、となれば。



「俺は未来人なんだ。遠い未来、俺は君の子孫と楽しく遊んでいる。そしてその楽しく遊ぶ中で、今抱えているフェンイアの問題を解決にし来たんだよ、リクス・バージシナ」



 俺の言葉に、男、リクスは呆気に取られていたが、、、、。


「あははは!! 面白いね!! 一応聞くけどそれって嘘?」


「まさか、超真面目、超本当」


「分かった、理解した、未来人さんね、名前は?」


「神楽坂イザナミ、祖国は日本、文字はこう書く。んで教え子たちと共に旅をしている、後で紹介するよ、さて、リクス、君が知りうる問題を抱えていることについて見解を聞きたいんだよね」


「わかった、話すよ」


 リクスが話してくれたフェンイアの現状。


 フェンイアの村長は孤児院の院長が務めている。


 その院長がかなりのヤリ手で、宿屋と食堂のギルドを結成、食料調達に狩りの部門を設けて専門的に集めて報酬を与えサービスの質を向上を目指し、フェンイアはどんどん豊かになっているのだという。


 今までは貧しい宿場町だった、それが豊かになれば当然、、、、。


「よからぬ輩が近づいてきたんだよ」


 まさにベタな話、金持ちにマフィアが寄ってきて「友達になってしゃぶり尽くす」こと、今も昔も世界も国も何処も変わらないなぁ。


「向こうの方便は何を使ってきている?」


「なんてことはないよ、フェンイアの治安維持担当を引き受けると」


「フェンイアの治安維持担当は?」


「正直、自警団的なものしかない。孤児院のドゥシュには会った?」


「会ったよ、ってことは」


「そう、彼が揉め事を解決するって立場なんだ。実際にドゥシュは一番の狩りの名手でフェンイアの男から一目置かれている」


「うーーーーん」


「そう、ドゥシュは凄いよ、だけど限界がある、いずれ直面する問題ではあったんだよ。そっちの対処が遅れていたのは事実で、まあ付け込んでくるよね。治安維持は経済的利益を生まないからどうしてもね」


「あの荒らされた部屋は?」


「マフィアの要求を院長は当然断ってね。結果あの状態、犯人については「他の国のチンピラ共が荒らしていった」とのことだよ」


「あはは! 本当に時代と場所を選ばずどこも変わらないなぁ」



――俺達がいなくなると他の国のマフィアに良いように蹂躙されるぞ。



 これも反社会勢力が必要悪と言われる定型句。


 反社会勢力を国から駆逐すれば、他の国のマフィアが乗り込んできて治安が悪くなる。


 つまり裏社会の治安保たれているのは、裏社会の人間のおかげ、といったものではあるが、、、、。


「って、思わず笑ってしまったけど、なあリクス、ひょっとして」


「ご明察、フェンイアの幹部からも必要悪論が出ている」


「…………」


 そう、一見して説得力があるように見えてしまうこの理屈は、気づかない人は気づかない。


 実はこれは全くの逆。


 自国に反社会勢力がいるからこそ、他の国のマフィアに好き勝手されるのだ。


 これは考えてみれば当たり前で、例えば反社会勢力が、他の国で犯罪で儲けようとするのなら、当然に「他の国の犯罪組織に助力」を得るのだ。


 この必要悪の理屈に騙されてしまうと「裏社会の治安維持を統治しているのは裏社会」だと思い込んでしまうため、それが分からなくなる。


「裏社会を統治しているのは表社会なんだがな、、、、」


 と思わず言葉が出てしまう。


 あくまで「裏社会は表社会に寄生して生きている」のである。日本の場合は島国であることも大きいが、それと同じぐらい報道されないだけで日々地道に努力をしているのである。


「でもしょうがないよ、分かりやすい理屈には流されてしまうものさ」


「となると、とりあえず必要なのは金か」


「うん、ピガンを卸せば、孤児院も安泰なんだけどなぁ」


「現状チンピラ共はどうする?」


「金を積めば当分はしのげる」


「へぇ、凌げるの?」


「アイツラ長期的な金づるを望んでいる。今は短期的な金づるになるのはしょうがないさ」


「神楽坂はアイツらの守るって言葉の信憑性を全然信じていないんだね」


「守る? んなわけないじゃん、アイツラの守ってやるは「金づる」を守るってだけで、

いざとなったら逃げるに決まってる、そっちもそう考えているんでしょ?」


「同意見、でも割と笑えない、どうするか」


「実はね、少し面白いことを考えていて」


 と俺の作戦をリクスに話すが、、。


「んーー、それは最終手段なんじゃない? 時間も手間もかかりそうだけど、ちょっと現実的じゃないような」


「まあ、それは、流れのままに」


 ここで会話がいったん途切れて、、、、。


「んで、神楽坂さんや」


「なんでしょう?」


「貴方はさっき気になることを言いました」


「なんですかね?」


「俺の子孫って言ったよね?」


 と急にモジモジするリクス。


 とその様子を見てピンとくる俺。


「ふふん、ユナちゃんでしょ?」


「……やっぱりわかる?」


「もちろん、ひょっとして」


「うん、もちろんフェンイアも大事だけど、ユナちゃんにもカッコいい所を見せたくて」


「ふっ、となれば作戦会議ですな!!」


 と盛り上がるのであった。




――日常部・サイド




 フェンイアは、小さな交易拠点だ。


 だが経済状況が良い、いやどんどん良くなっている。


 フェンイアの村長、つまり孤児院の院長先生が人望があり、フェンイアの「ギルド」を結成、繋がりを強固にして共存共栄を果たす。



 人並み以上に金を持つという事は自衛を求められる。



 ここでいう自衛とは「金はろくでもない輩を寄せ付ける」という点だ。


 ろくでもない人間と関わり合いを持ち、結果抜け出せなくなるというのも日常的にある物だ。


「「「「…………」」」」


 ここはフェンイアの広場、日常部の面々が仕入れた情報は、神楽坂と同様、そういったもので明るいものではなかった。


 更にそれとは別に全員が緊張していた。


 ユナ、、、、。


 ユナ・ヒノアエルナ。


 彼女が、従業員を務めている宿屋と食堂に自分達が向かうという事。


「「「…………」」」


 既に日常部は理解している。おそらく荘厳の儀は、この状況を打破すること事が関係してくるのが分かった。


 だが、、、、どうすることもできない。


 何の解決策も思いつかない。


 神楽坂は反社会勢力への最も有力な対処方法は憲兵に通報すると言っていた。


 だがその憲兵という暴力装置がフェンイアに存在しない。いや存在していたとしても頼りになんてなるのか、現実の憲兵も頼りにならないなんてざらに聞く。


――合法暴力装置は、万能じゃない、使い方。


 だそうだが、イマイチピンとこない。


 それにモカナは知っている。


「この時代での治安維持、つまり暴力装置は強国かその保護下でも限り、チンピラ共に頼らざるを得ないのが現状という記録が残っているの」


 更にそういった国がどうなったかも知っている。


 大体はしゃぶり尽くされるか、稀に強国になることもあったが、秩序が維持できず崩壊している。


「あのさ、例えば、その、エンチョウ国に保護を求めるとか?」

「それが現実的じゃない? エンチョウ国を治めるのは原初の貴族の始祖である三兄弟様でしょ?」


 というナセノ-シアとクエルの話を聞いて。


「モカナ、多分だけど、これは神話をなぞっているんじゃない? だから神話のとおりにすれば」


 ファテサの問いかけに。


「う、うん……」


 モカナは歯切れ悪く答える。


「モカナ?」


「ごめん、ウィズ神話の最大の謎と呼ばれるものがあって、それがウィズ神話の始まり、創世神話の部分、これが諸説あって、はっきりとしたことは分かっていないの」


「そ、そうなの、でも大聖堂には、、、、あ!」


 ファテサの言葉でモカナは頷く。


「そう、ウィズ教の宗教画では一番有名な絵画。偉大なるリクス王とウィズ神の邂逅、初代国王は何も言わずウィズ神を導く者として認め跪き、ウィズ神もまた一目で傑物と見抜き跪いたリクスに手を伸ばしている、現在でも神の加護により保存されている絵画」


 このモカナの言葉はつまり。


「早かれ遅かれ、ここは神に関わることになるってこと」


 ここでクエルが発言する。


「あのさ、先生って、別行動するって言ったけど、、、」


 あの突き放すような言動、そして自身が告白した神の繋がり、、、。



「先生は、今まさに創世神話を、なぞっているのかもしれない」



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