第24話:荘厳の儀・第二の試練・後篇
「……夕方から夜に、先生、計測が終わりました、昼間が2時間、夜が2時間、夕焼けと朝焼けは10分です、このサイクルで3回、間違いないと思います」
交代で計測係をしていたファテサが話す。
俺があの後まず指示したのは、サイクルの把握だった。
第二の試練は、第一の試練と違い、向こうから情報を与えられて攻略しろ、状況を元に推理をして攻略をしろという方式だ。
だからまず絶対に必要なのはサイクル、これが把握できれば、いよいよ外に出て探索を再開する予定だ。
イベント進行のスイッチは、これ見よがしに設置してあった、旧ラジオ会館にあることは間違いない。
まずは、そこを重点的に調べる必要がある。
「さてサイクルが分かれば、次にやることは探索。動くのは二時間後から、それと探索についてはエリアを決めて二手に分かれる、班編成についてだが、俺は1人で動く、後は日常部の面々は適当に二つに分けてくれ」
「先生は単独で動くんですか?」
「まあな、例のラジオ会館に入れる方法を探ってみる。それと探索の方法は、建物に入れるかどうかを一つ一つ頼む」
「建物に入れる?」
「俺は化け物に取り込まれてスーパーに転送されて、食料品と飲み物を確保できた。だが外に出た時に中に入れることができなかった。んで試すってのは「ぶっ壊せるほどの衝撃を与えて欲しい」ってことだ」
「ぶっ壊すって」
「ルールが知りたいのさ、少しでもね。俺も試してみるよ」
●
「うーん、結局、建物に入るすべはないのか」
旧ラジオ会館前、ガラス扉を思いっきり殴ったりけったり、物を投げつけたり試してみたがヒビ一つ入らない。これは他のメンバーの報告も同じだった。
これまで建物に入れた場合は二つ。
俺の実家に入れたパターン。
そして化け物による転送パターン。
つまり現段階では建物の中に移動には化け物に取り込まれるしかない。
化け物の動きの特性は理解した。
化け物に触れると場所転移することが明らかになった。
そして進行のためのスイッチがあることも判明した。
ただ問題なのが、取り込まれることと失敗条件の関連性が不明。
まあ色々ある、回数とか場所とか。
だが、、、、。
「化け物との接触はどの道避けては通れない、だが化け物に取り込まれるのが攻略のポイントなのかは、現段階では判断できない。だから第一の試練でやった人体実験を俺だけでやる」
「全員ではなくてですか?」
「ペナルティが分からないからだ、俺は一度取り込まれているから、俺が適任。そしてある物を使う」
「これって」
「ここが用意されたものであるのなら、あるとは思って探したらビンゴだ、これはアーティファクトではないが、俺の世界では普遍的にある」
「スマートフォン、ってやつだよ」
まさかとは思ったが、俺以外の家族分があった。
ちなみに家にあるパソコンは起動は出来たものの、やはりネットは繋がらないが、個人で収集したデータなんかは残っていた。
そしてスマホは、家族間の仲でならSNS通話も出来た。
だから俺がやることはデータ収集と分析だ。
●
俺は夜になると化け物に取り込まれて、場所移動を繰り返す。
その度に、SNSでメッセージを送り、距離と覚醒までの時間の測定を繰り返す。
これで20回目、もうこの段階になれば、化け物に取り込まれることについての直接的なペナルティはないと判断して進めていた。
その異形な風貌から、化け物相手には最初こそ恐怖心が先行したが、正直慣れた。
そして化け物の取り込むそのものが目的だと解釈できて、その分析の結果。
「取り込まれる時の体の向きが飛ばされる方向、そして飛ばされる方向が距離にして約100メートルか」
約というのは、飛ばされた先が壁だったりする場合には、適宜前後していた。壁の中にめり込まれるなんてことも無かった。
んで覚醒時間についてだが、実はラグはほとんどなかった。移動時間があって、その間軽く気を失っている感じになる。
そして地図上に印をつけておく、ラジオ会館の中に入る上で一番適切な場所は。
「最初に立っていた場所か」
なるほど、それもヒントになっていたという事か。
そのデータを踏まえて俺は、最初の場所に立っている。
第三の試練に備えて、十分な休養は取った、体調は万全だ。
さあ、日が暮れ始めた、
夜になり、化け物達が俺を見つける。
もう特段にやることはない、体をラジオ会館の方へ向けて。
いつもの暗転、俺は取り込まれて、、、、。
「よし!」
計算通り、気が付くとラジオ会館の1階だった。
うんうん、昭和色濃く残る旧ラジ館、懐かしいなぁ。ある意味、貴重な経験が出来ているわけか。
その時だった、ガラガラとシャッターが下ろされる。
閉じ込められた、つまり、外に出られない。
「先に進んだってことか」
スマホを立ち上げてSNS通話を立ち上げる。
「クエル、作戦成功だ、シャッターが下ろされて閉じ込められた、予想どおり、もうそっちには戻れない、全員こっちに来い」
「……わかった、先生」
ん? なんだろう、その間。
まあいいか、皆が来るまでの間、ちょっと1階を探索してみよう。
とまあ、ぶらぶらと1階を歩いて回るが、店の中に普通に入れるし、こう無人の店舗内を歩いている感じ。
探索はあっという間に終わった。
んで次の段階へ続く鍵もあっさり発見、階段はシャッターが下りていて駄目だが、エレベーターの電気がついている。
つまりエレベーターで上に行けってことだが、まあ今ボタンを押すのは論外だ。
じゃあお迎えの出入口に戻ってと、、、、。
「あれ、シャッターに張り紙? さっきこんなところに張り紙なんてなかったよな」
何かが進んだのかと思って見てみる。
――先日、お客様が購入した黒い人についてですが、人だから命令を聞かないことは十分にあり得ますし、殺してやるとまで言われたのは貴方に問題があり、それをクレームとして返品することは、コンプライアンスを考えても狂っているし、こんな事を言ってくる人は店員一同、テメエを皆殺しにしてやるまで憎いです、だから箱の中で待っていてください。
「な、なんだこれ」
意味不明な文言、幸い日本語で書いてあるから、他の面々には大丈夫だろうけど。
今のタイミングでここに張られるってことは注意しろってことなんだろうが、ふーむ。
と唸っている時だった。
「っと」
ふわりと、モカナが現れた。
「……こんな感じなんですね、思ったより全然何ともないです」
淡々している。
その一方で、心配そうな顔をしているが。
「どうした?」
「…………いえ、心配で」
「心配?」
と言った時、続いてファテサが舞い降りたが。
「…………」
顔面蒼白で口元を抑えていた。
「ファテサ、大丈夫?」
「うん、なんとか、ありがとう」
なんとかと言いつつ、辛そう。
でもさっきまでは普通で、あ、今気が付いた、そうか、察しろってそういう。
「すみません、実は、こういう怖いのが本当に駄目で……」
ファテサがそう言った。
「そっか、すまない、気が付かないものだな」
だから2番目か、一番怖くない順番をみんなで選んだわけか。
と続いて現れたのはナセノーシアだ。
「……おおう、本当に建物の中、なんか変な感じ」
次に現れたのは、クエルだった。
「……本当にシャッターが下りてる」
とはクエル。
現れた2人もファテサを気遣っている。
「ありがとう皆、もう大丈夫だよ、先生、お騒がせしました」
「大丈夫なら何よりだ、これで無事全員集合だな」
「もう、先生の実家には戻れないんですね」
「まあ、いつか本当の実家に連れていければいいけどな、さてさて、これからの移動手段は見つけてある、この1階の中でエレベーターが動くってことは、これに乗れってことだろうな」
「えれべーたー?」
「俺の実家のマンションにもあったやつだよ。エレベーターってのは、そうだな、要は凄い丈夫な紐で吊ってある箱に入って、その紐に引っ張られて縦に移動するんだよ、数百メートルの高さのまでいけるのもあるんだ」
「こわ!! 紐がちぎれたらどうするの!?」
「い、いや、幾重にも安全装置があって、千切れたとしても大丈夫なように設計されているが、まあ、確かにそういう事故は起きているな、そう考えると怖い乗り物だなぁ」
とボタンを押すとエレベーターが来る。
「とにかく全員で乗る、さて、出る順番について、俺が先頭、殿はナセノーシア、2番目にファテサ、3番目にモカナ、4番目にクエル、以上だ」
そしてエレベーターが到着してゆっくりと開く。
全員がおっかなびっくりしながらのり、エレベーター内のボタンを操作するが3階で既にボタンが押されていた。
他のボタンは反応なし。
「出た瞬間に何かあるかもしれない、全員警戒を怠るなよ」
エレベーターが3階で止まり、扉が開くが、、、、。
身構えるが、誰も居ない。
フロアは少し薄暗い。
ボタンを押すも反応なし。
待っても扉が閉じる様子はない。
出ろという事だろう。
「殺気の指示通り、俺が出る、ファテサは俺に続け、クエルはファテサのフォローを頼む」
と一歩出て、当たりを伺うが誰も居ない。
「よし、1人ずつ出ろよ」
とファテサがゆっくりと体が半分ほど出た時だった。
ポンという電子音と共に。
「危ない!!」
と勢いよく扉が閉まってきたのでファテサを思いっきり引き寄せる。
「先生!」
エレベーターの中から声が聞こえる。
「大丈夫だ! こっちは何とかする! 全員で固まって動け!」
と話すと同時にエレベーターが動き出しここから3階上で止まった。
「…………」
ファテサは顔面蒼白状態で、俺の服を握っている。
俺はぎゅっとファテサを抱きしめる。
「せ、せんせい!?」
「いいか、離れるなよ、俺から」
「は、はい!」
「今回の荘厳の儀で一番恐ろしいのはパニックだ。そして単純に物理戦闘でどうにかなる試練ではない」
「す、すみません、足手まといで」
「何言ってんだよ、第一の試練で決着をつけたのはクエルだが、最大の功績者はファテサだ。お前抜きに作戦は成り立たなかった。言っただろ、一番の役立たずは俺だったと、俺は作戦立案だけで後は全てお前達に頼んだ。誰にだって苦手なものはある、今度は俺達がフォローする番だ」
「…………」
「落ち込む必要はない。苦手な部分があるのは当たり前だ。お前らぐらいの年だと自分が出来ないと認めることと人に頼ることを「無能」だと解釈しがちだがそうじゃない。その見極めが出来ない人物が無能なのさ」
「…………」
「そこは経験がものをいう。積み重ねていけばいい、怖いものはしょうがない、存分に怖がっていいぞ、その代わり俺も怖がる時は怖がるからフォローよろしく」
「はい、分かりました」
「後、俺の前でイケメンである必要ないからな、本当は嫌なんだろ? 男役に見立てられるの」
「っ! 先生……」
「これは気が付いたぜ」
という俺はファテサを放すとぼんやりとしていたが、すぐに気を取り直す。
「ありがとうございます、先生の講義、ありがたく拝聴しました。少し落ち着きました。それと、男役として見られないのは、日常部の面々の前だけにしますよ。女の世界はキャラも大事なので」
「はは、とまあ、これからやることは変わらない、探索だ。多分それで向こうからイベントが提示されるからそれをクリアする。そのイベントが俺の不得意の部分だったらよろしく頼むぞ」
「はい、先生」
「安心しろ、何らかのギミックを解けばよい、攻略は進んでいるってことだ、さて相変わらず何も提示されてない、つまり強引に二手に別れられたのも、イベントの一つという事さ」
「つまり、これからも何かが起こると」
「もちろん、だから探索を始めるぞ、だから離れるなよ」
「はい」
とはっきりと答えてくれる、良かった少し気がまぎれたようだ。
さて、薄暗いとはあるが、それは通常に比べて明かりを少し落としているというだけで視界は良好、人が全くいないから普通に開店前の印象を受ける。
「それにしても先生、色々なものが売っていますね」
「ああ、まあ何というか、エンチョウでも娯楽小説の登場人物のグッズだったりを制作して売ったりしているだろ?」
「それと一緒ですか、可愛い絵ですね。あ、服も可愛いです」
「うむ、中には登場人物の衣装を売買して着たり、カードゲームをしたり、娯楽小説の二次創作をしてそれを売ったりと、祖国は娯楽にはかなり寛容だぜ」
「凄い、これ全てが小説ですか」
「ああ、娯楽小説だ、こっちは漫画で数々の名作が生み出されてな、コレとかコレとか好きで読んでいたんだよね」
「あ、先生、このカード、ですか? この木の棒をもって構えていたり、大きなボールをもって構えているのは、なんですか?」
「ああ、木の棒を使うのは野球と言ってな、祖国の一番人気スポーツの一つなんだ。俺は祖国の首都を拠点とする青色のユニフォームのチームのファンでな。んでこっちはバスケットボールという球技の選手で、世界最高峰のリーグでスタメンクラスの選手でな、追っかけしてる」
「先生は剣術以外にも好きなことが多いんですね」
「ああ、野球とバスケのスポーツ観戦、落語や宝塚と言った演劇鑑賞、博物館めぐり、色々趣味がありすぎて、時間が足らないぐらいだ」
「ふふっ、先生は祖国にいたころから先生なんですね」
「ファテサは、王国格闘技以外では何かあるのか?」
「ありますよ」
と言った時、ある店を見て目を輝かせて近寄る。
「これ、可愛い!!」
そこは先ほど話した店はコスプレのショップだった。
ファテサが持っていたのはフリフリのメイド服だ。
「そっか、そういうのが好きなのか、これはメイド服って言ってな。まあ、使用人の服と考えて間違いないよ、本来ならプレゼントしてやりたいがな」
と祖国での話をしながら色々と盛り上がる。そこからは本当に何もなく、上の階へはエスカレーターが動いており、そこから3階上がったところで。
「先生! ファテサ!」
「あ! みんな!」
という俺達の声を聴いて振り向いた先、ナセノーシア達3人がいて、無事合流したのであった。
●
「良かった! 心配したんだよ!」
ファテサは3人に駆け寄りお互いに抱き合う。
「こっちもだよ! 何かあるんじゃないかって、大丈夫だった?」
「ああ、何とか、先生のおかげだよ」
という言葉に3人は俺をジロジロ見る。
「ほーーー、意外と頼りになるんだねぇ」
「意外は余計だよ」
「ファテサの貞操は?」
「奪ってないよ(#^ω^)ピキピキ」
「先生側は何かあった?」
「いや特に何もなかった。普通にウインドウショッピングという感じで、そっちは?」
「ああそうか、先生ガイド付きか~、こっちはそもそも何が書いてあるか分からないから正直何を売っているのか、あんまりわからないのも多かったなぁ」
「はいはい、俺の祖国に来ることがあれば、案内してやるよ」
「約束だからね、ってな訳で、先生、実はこっちは進展があったんだよね」
とにやりと笑う3人。
「進展?」
「うん、やっとこの不気味な感じともおさらばよ、ついてきて!!」
と言われて、3人に案内されたのは、最上階にあるイベントスペースだった。
イベントが開催されていなければ殺風景な景色だったが……。
「実は出口が見つかったのよ!」
と指示したのは、そのスペースの中央に置かれたやたらカラフルな箱だった。
「見てよ、明らかに不自然でしょ? だから試しに入ってみたら、ここから出られたんだよね」
と自信満々に説明するナセノーシア達。
「確かに凄い不自然だなぁ、これ」
と俺はしげしげと眺める……。
「…………」
あれ、なんかこれ……。
どこだっけ、どこかで見たよな。
それとは別に箱って何処かで、、、、。
という俺の思考を余所にナセノ-シアが説明を続ける。
「こんなところさっさと出ようよ、ファテサも怖かったでしょ? これでクリアだよ!」
「ああ、よかった、先生、早速入りましょう!」
と箱に近づくファテサがやたらゆっくりに見えたから……。
「痛い!!!!」
と叫ぶファテサ、
それは思わず俺は思いっきりファテサの腕を引っ張っていて、全力で握りしめていたからだ。
「せ、先生! 何を! 痛い! 痛いです!! 放してください!」
と俺から全力で手を引きはがそうとするファテサに仰天するのは3人だ。
「ちょっと先生何しているの!」
「ファテサが痛がっています! どうしたんです!?」
「早く放してあげてください!」
「近寄るな!!!」
俺は有無を言わさず、3人に怒鳴る。
ビクッと恐怖で震える3人にやっと俺も少し落ち着いて、ファテサを手を離してグッと肩を寄せる。
「痛くしたのはすまない、だが離れるなファテサ!」
「え? え?」
「ここから出られると言ったが、この先に何があるのか、そしてどうやって戻ってきたのか教えろ」
俺の突然の質問に混乱するファテサ。
「ど、どうしたんですか、先生」
「別に、気になっただけだ、3人とも、質問に答えろ、これは出口なんだろう? その先に何があるのか、どうやってここに戻ってきたのかだよ」
「「「…………」」」
「しかもクリアだと言ったな? この世界に来たとき、一番最初のダンジョンには戻れなかった、なれば一度出口の向こうに行ってこっちに戻れるのなら意味がある筈だとは俺は考える」
俺の質問にようやく合点がいき、青ざめるファテサ。
「不自然なんだよ、俺だったら、この不自然なまでに置かれた箱を見たら、今までの経験から鑑みれば、まず入ろうとは思わないね」
「「「…………」」」
「どうした? そうだ、お前らが先に入ってくれよ、その後で入らせてもらうよ」
「「「…………」」」
スッと、3人の顔から表情が喪失したと思ったら……。
次の瞬間、本当に次の瞬間、ナセノーシア達3人がデッサン人形3体に代わっていた。
「…………」
俺は構えるが動かない、どうして今までこんなデッサン人形をナセノーシア達と見間違えていたんだろうと疑問に思うぐらいに。
「……ふう」
危なかった、ってファテサは。
「……ぐすっ、ひっ、ぐすっ」
泣いている、まあ、これは突っ込むまい。
と頭を撫でたのであった。
●
「先生、この箱は」
やっと泣き止んだファテサはかろうじて言葉を紡ぐ。
「まあ嵌めようとしている時点で十中八九、何かのトラップなんだろう。見破れずに入ったら失格とか荘厳の儀の失敗になるのだろう、まったく、こういう風に仕掛けてくるとは」
「は、はい」
とファテサはずっとへたり込んでいる。
「せ、先生」
「分かったよ、おぶっていくさ」
としゃがんで背中を向ける。
「…………」
「何恥ずかしがってんだよ、日常部の面々にはバレているんだろう?」
という俺に渋々とおぶさり、ひょいと担ぎ上げた。
「いや、軽いな、背は高いのに」
「…………先生は、デリカシーに欠けます」
「え!? そうなの!?」
とイベントスペースから出た瞬間、シャッターがガラガラと下りて入れなくなった。
「これでイベントが進行したか、となれば」
と呼応するように屋上への扉が開く。
昇れという事だろう、階段を登り扉から屋上に出た時だった。
目の前にナセノーシア達がいて。
「「近寄るな!!」」
とお互いに構えたところで、顔を見合わせる。
「……先生たち、本物?」
「その反応するってことは、そっちも?」
「うん、先生とファテサの偽物と遭遇した」
「よく見破ったな」
「それはこっちの台詞でもあるよ、先生の場合はどうして?」
「イベントスぺ-スに不自然な箱があってな、お前達偽物は「この箱が出口を見つけたから早く出よう」だとさ。それがどうして出口なのかも説明せずに、何処に繋がるかもわからないのに、それを出口と表現したのさ」
「ああ、確かに今まで散々怖がらせておいてそんな箱があっても、さあ入ってみようとは思わないよね」
「ああ、だからお前達が先に入ってみろって言っただけだよ」
「流石先生」
「そっちは?」
「そんな難しい話じゃない、こっちはね、こう質問したの」
「本物の先生なら私たちのスリーサイズを知っている筈だよ! ってね!」
「しらねーよ!!!」
「あれ? 渡した資料に書いてあったはずじゃ」
「確かに書いてあったし読んだけど! スリーサイズを空で言えるぐらい覚えようとは思わんわ! それでよく見破ったな!」
「いや、先生の偽物は全部覚えていて言い当てていたよ」
「へ? あ、ああ、なるほど、別に確かにスリーサイズなんて覚えていないよな、成程それで見破ったのか」
「は?」
「え?」
「…………」
「…………」
「いや、男の人って女のスリーサイズに興味津々だと聞いていたから「うわぁ先生、マジで覚えているんだ」と思って、ちょっと引いてキモいなって思ったんだけど、男の人だし、そういうのは覚えるものだと思って理解してあげたの」
「偽物と見破った話じゃなくて俺の性癖が理解された話なのかよ! そんなんで信じるんじゃねえよ! 疑えよ偽物って! って何のタイミングでその話をしているんだよ!( ;∀;)」
「だから、方針転換、私達が見破ったのはファテサが余りにも堂々としていたからなの」
「……そうか、こういうのが苦手なのは知っているんだよな」
「うん、偽物のファテサは怖がるどころか、むしろ私達を守るってイケメンぶりにおかしいって話になって、カマかけたら引っかかって、問い詰めたら人形になったの。んで今の先生の言葉とファテサの様子を見ると先生たちは本物みたいだね」
「理解してもらえたようで助かるよ( ;∀;)」
「私達も本物だと確かめる必要はある?」
「いや、その必要はないだろう」
「え?」
「だって、ここは屋上だ、んで下にはもう戻れない。ってことはだ」
――荘厳の儀 第二の試練 達成
と頭上に出た。
「あ、成程」
「そう、ここがゴールなんじゃないかと思ったんだよ」
と言っているうちに第一の試練のクリア時のどおり、扉が出てきた。
最初の試練をクリアした時は、興奮しっぱなしだったが。
「ふう、何か第一の試練とは、違った意味で疲れたね」
とはナセノーシアの言葉。
「結局、失敗条件って何だったんだろうね」
とはクエル。
「先生が遭遇した箱なんじゃない? 化け物だって最初は怖い存在だったけど、それがクリアの鍵だったりしたからさ、そういう意地悪な事をしてきそう」
とはモカナ。
「…………先生」
とファテサが話しかけてくる。
「なんだ?」
「その、顔が、怖いです」
というファテサの指摘にペチペチと顔を叩く。
「っと、色々と緊張を強いられる試練だったからな、そのせいだろう、クリアできてよかったよ」
「…………」
「どうした?」
「……いえ、なんでもないです」
「そうか、ファテサも辛かっただろう?」
「い、いえ、皆がいましたから」
「さて、今度こそ次のステージに行くよ!」
とクエルの号令の下、扉を開けて、日常部の面々が入っていく。
「…………」
俺は最後に振り返り景色を見る。
「先生早く!」
「ああ」
と俺が最後に入り、いつもの小部屋に出る。
そうすると前回と同様周りの風景が徐々に消えて光に包まれる。
さて、次は何が出てくるのかと思い。
――最後の試練・開始
という文字が出たと思ったら辺りは光に包まれた。
●
「ほー、これは凄いな」
光が消えた後に辺りに広がる光景。
今度は大都市から一転、視界には辺り一面に草原が広がっており、都会の雑多な空気と違い草の匂いもする。
今度は日常部の面々に動揺はない。
さて、目的地はと思ったが。
「遠くに街が見える」
というファテサの言葉に視線を移すと確かに街が見える。
全員が目的地だと分かり、そのまま歩を進める。
その道中でのことだった。
「ブツブツ」
と何かつぶやいている男が向かって歩いてきてて。
日常部の面々はおしゃべりに夢中で気づいていない様子、それは向こうも考え事に夢中だったようで。
「あ、あの!」
という俺の声に男ははっと我に返ったようだった。
「っととと、す、すみません、ちょっと考え事をしていて」
「いえいえ」
「いやあ、こんな広いのにぶつかりそうになるなんて」
「まあ考え事に夢中になってしまうのは分かりますよ」
「「はっはっは」」
「というわけで、私はこれで」
と背中には弓矢だろうか、かなりゴツイ造りの弓矢を携えて再びブツブツと言いながら、歩き去っていった。
「…………」
「!! 先生!! みんな!!」
というモカナの大声で何事かと思ってみると。
「ごめん! ちょっと先行ってる!!」
と走り出してしまった。
呆気にとられる俺達を尻目に一足先に着いたモカナが興奮気味に建物を色々ペタペタ色々触りまくっては何かを考えている。
「あ、あの」
というナセノーシアの言葉に勢いよく振り向くと、こういった。
「間違いない!! ここはフェンイアだよ!!」