第21話:荘厳の儀・第一の試練・後篇
――クエル・サイド
「…………」
魔王の特殊攻撃、シンフォニックレイン、防御不能回避不能の大ダメージ、後は三分の一、残り1回。
「ふうぅーーー」
と細く長く息を吐き、気を落ち着かせる。
荘厳の儀の失敗に王手がかかったこの状況。
この状況、先生だったらどうするだろう。
サクィーリアの時みたいに、訳の分からない視点から意味不明な事を言って解決するのだろうか。
先生はそれを思考の海を泳ぐと表現していた。
私はそう、得意な盤上遊戯、クロラに例えてみよう。
私の持ち時間は、次の魔王の詠唱まで、この時間を使って盤面を次の一手を刺すことを思考しよう。
荘厳の儀は、歴代の先輩の積み重ねの情報が当然にあるが、司祭先生の言ったとおりオリエンテーリングと表現するゲーム性を持っている。
成功した先輩達と失敗した先輩達、両方に言えるのは、そのゲーム性の部分で失敗しており、そのゲーム性が余りにもランダム過ぎて対策が立てられないのだ。
だけど神楽坂先生を始めとした司祭先生たちはこう言っていた。
――「荘厳の儀は、難易度の高低はあるが絶対にクリアできる試練なんだよ」
そうクリアできるのだ。逆にそう考えなければ話にならない。
この試練における「運」はあくまで難易度のみ。
つまりこの魔王を私は絶対に倒すことができる、つまり「詰めろ」が存在する。
そこから思考を組み立てる。
私がもし魔王を設計するのなら、どう攻略できるように設計するだろう。
最初からそうだが魔王の攻略の鍵は特殊攻撃にどう対処するかだ。序盤に出てきたモンスターですら応手を間違えれば死ぬ。
しかし応手を間違えなければ、絶対に勝てる。
さて、特殊攻撃を仕掛けてくる前まで、私は相手に一方的にダメージを与え続けて、自身はノーダメージ、これは理想的な展開だと言っていい。
だから先生の作戦は正しい、そこを疑っては駄目だ。
さて、そう考えると、一点不思議な点が出てくる。
それは、、、、、。
魔王はどうして、回避不能な強力攻撃を最初からしてこなかったのか。
そこから組み立てると、ほら、不自然な点が出てくる。
先生は「点と点を強引でもいいからつなげてみろ」と言っていた。
だからその点をつなげてみると、、、、、。
――「地に這う魔低の僕よ」
さあ、持ち時間は使い切った。
私の応手、それは。
――「我の声に、なっ!?」
そう「三分の一を削る回避不能の全体攻撃を回復手段を持たない勇者との戦い」でこれほどまでに頻発してくるのなら。
(それが対処法に直結する!!!)
狙い通り、私が一気に距離を詰めてきたことで詠唱を辞める。
(その詠唱中は隙だからけ、だから!!)
「ふっ!!」
と剣で一閃してダメージを与える。
「ぐあっ!」
ダメージを受けてタタラを踏む魔王。
その傍ら横目で空を確認し夜になっていないことを確認する。
(そう、魔王は「ピンチ」なんだ!!)
当たり前ではあるが詰めろはかけられる方がピンチ。
最初から特殊攻撃をかけていれば「必勝」であったはず、それをしなかった理由。
特殊攻撃、この場合だと奥の手と表現した方がいいだろう。
そう、考えてみれば、王道ではないか、魔王がピンチとなり奥手を出すなんて展開は。
魔王は詠唱を途中で止められたことで急いで距離を取ると。
――「地に這う魔低の僕よ、我の声にこたえて」
「はあ!!」
と一閃した。
「手応えあり!」
攻撃をしている時に稀にある会心の一撃、さあ詰めるぞと思った時だった。
魔王は、今度は距離を取らず、その場で立ち尽くす。
そこで変化が起きた。
魔王の体が光に包まれ始めたのだ。
――「ここまでか、見事だ、勇者クエルよ」
「よし!!」
とガッツポーズをとるクエル。
良かった、賭けだったけど、本当に良かった。
――「何も言ってくれぬのか?」
「え!?」
と魔王の言葉で我に返る。
あ、そうか、えっと、その、えーっと。
――「敗者にかける言葉はない、それがお前の優しさか、その優しさのせいか、不思議だ、心が晴れている」
そ、そうか、また適当に解釈してくれた。
――「さあ行くが良い勇者一行よ、私が歩めなかった道を、見れなかった景色を、過ごすことができなかった歴史を代わりに見てくるか?」
「え? ああ、も、もちろん! 約束する!」
――「そうか、その言葉が聞けただけでも満足だ。だが勇者クエルよ、平和を勝ち取る事よりも、それを保つことの方が難しいと知るが良い。かつての初代魔王が統治した世界は平和そのものであったが、我はそれを維持することができなかったのだからな」
「…………」
と最後は何か説教臭いことを言って。
――「さらばだ! 勇者クエル!」
と言って、光の粒子となって空へ消えていった。
「……勝ったよ、先生、みんな」
と空を見つめて呟くクエル。
――神楽坂・サイド
――「こ、これは見たこともない剣術型、戦士よ、お前の修めた剣術はなんという?」
「玄黄二刀流」
――「二刀流、だと?」
「剣の世界では邪道とまで言われる二刀流。だがハッタリだと思ったか? 確かに我が祖国ではマイナーな流派、だがその強さは折り紙付き」
――「どうやらハッタリではないようだな、私が修めるのは既に途絶えた古流、柳剛流の使い手!」
「途絶えた古流、だと?」
と中二病ゴッコを楽しんでいた時だった。
四天王の体が光に包まれる。
――「……そうか、負けたのですね、魔王様」
と自分の胸に手を当てて呟く四天王。
「…………」
そうか、勝ったか、クエル、よくやった。
――「戦士よ、お前との邂逅、楽しかったぞ」
「お前は元は人間、戻れるのか?」
――「後悔はない」
「そうか、ならば私はもう何も言うまい」
――「さらばだ戦士よ! また相まみえようぞ!」
と光の粒子になって天へ消えた。
そして消えた後に、天井から階段が下りてくる。
俺はそれに従い、階段を昇った先は、一面の青空。
その先にはクエルがいた。
「先生!」
と笑顔で駆け寄ってきて、俺は思わず頭を撫でててしまう。
「よくやった」
「うん! 先生の言ったとおりにやったら勝てた、最初から正々堂々勝負していたら負けていた!」
「そうか、俺を信じてくれたか、こちらこそありがとう、クエル」
と話していると同じように、床に三つの階段が現れてその先からは。
ファテサ、モカナ、ナセノーシアがそれぞれに現れて、クエルを見つけると。
「「「「やったー!!」」」」
とお互いに抱きしめ合って功績をたたえあう。
「流石クエル!」
「これでクリアだね!」
「信じてたよ!」
そんな微笑ましい光景。
これで第一の試練クリアか。
「それにしても、他の3人は大丈夫だったのか?」
という俺の問いかけにクエルは我に返ると。
「そうだよ! 皆こそ大丈夫だったの!?」
というクエルの問いに、3人はそれぞれに戦闘時の状況を話してくれた。
――モカナ・サイド
「ケヒャヒャ!! まずはお前は俺の女だ! そういえばお前以外にも上玉がいたな! 後はそいつらだ! ケヒャヒャ!!」
「…………」
「ケヒャヒャ! 怖くて声も出なイダアア!!」
とモカナは杖を思いっきり肩を打ち付ける。
「ケ、ケヒャ?」
「おい、焼きそばパン買って来いよ」
「……へ? へ? け、ケヒャヒャヒャ!! 度胸があるな!! オゴ!」
杖を押し付けたままドカッと手を叩きつける形で肩を組む。
「だから焼きそばパン買って来いって言ってんだけど?」
「ケ、ケヒャ、ケヒャ」
「アヂヂヂヂ!!」←肩を組んで炎の杖を押し付けられている
「はい、いーち、にー、さーん」
「ギャアア!! アヂヂヂヂ!! ハ、ハナセエエ!!」
「は? 俺の女なんでしょ? つれないこと言わないでよ」
――
「…………モカナ、お前」←神楽坂
「私、ああいうSキャラを徹底的にイジメて屈辱に震える姿にゾクゾク来るんですよ」
「「「分かる! Sキャラって実際にいたらむかつくよね!」」」
と盛り上がる。
モカナは一見すると枢機卿の家系の清楚系のお嬢様なんだが。
清楚系ってストレスがたまるんだろうなぁ、クォナもそんな感じだった。
「まあ、無事なら何よりだ、あの、ファテサは」
「はい、私は」
――ファテサ・サイド
「コフーコフー! 筋肉はタンパク質! 筋トレ後の30分がゴールデンタイム!」
「…………」←うんざりしているファテサ
と開始直後からひたすら筋トレについて語っており、何もしないでいると、筋トレのやり方をひたすら語りまくっている。
なお、タンパク質の話はこれで9回目である。
まあ、戦わなければそれはそれでと思った時だった。
「コフー! お前、俺よりゴツイ、羨ましい」
「…………ぇ?」
一瞬、何を言われたのかわからず、呆然と聞き返すファテサ。
「俺よりゴツイ、筋肉がつきやすい証拠、羨ましい」
「…………」
ファテサは、年頃になった時から、周りの女子達からは男役に見立てられていた。
正直女としては複雑だし、嫌だと思う事はあったものの、キャラが大事な女子の世界ではそれも仕方なく思っていた。
そして徒手格闘。
もちろん好きで続けていたものの、結果身体は男子受けする丸みを帯びたものではなく、筋肉質になってしまったが、それも致し方ないと思っていた。
だけど。
だけど、、、、、、。
目の前の筋肉達磨より、私が……。
ブツッ ←意識が途切れる音
――
「気が付いたら、八つ裂きにしてました」
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←神楽坂
「最低ね、そいつ、女を何だと思っているんだろうね」
「大丈夫だよ、ファテサはスレンダーのモデル体型だから」
「私はむしろ羨ましい、どうしてそんなに痩せているの?」
と口々に慰められているファテサ。
「ファテサは可愛いよ、ね? 先生(圧)」←ナセノーシア
(´・ω・`)ハイ ←神楽坂
「その、それでその、ナセノーシアは?」←神楽坂
「ああ、私は」
――ナセノーシア・サイド
「私は、魔王軍学校の中では首席で卒業して、初戦で武勲を立ててな、当時の上官たちは使えないの一言だったよ、だが俺の判断で戦況を打破したというのに、それを認めず、命令無視をしたと俺のせいにしてな、まあ馬鹿相手が一番楽だから(以下略)」
「へー、凄いね(白け)」
出た出た、自分語りに演説、まあ戦わなければいいか、相槌を打つことが戦いだと思った時だった。
「それにしても、勇者一行は女だらけのパーティとは軟弱もいいところだ」
「…………は?」
「女は、男より前に出ずに散歩下がって立てるべきだ。近頃は女も戦いの場に参加するという話だが実に嘆かわしい、女は淑やかに女は黙って男の言うことを聞けばいいのだ」
プチン←何かが切れる音
「えーっと、そういえば、アンタさ、四天王最強なんだっけ?」
「え? ああそうだ、思えばアイツラも本当に使えない、真っ向勝負しかできない馬鹿に、筋肉馬鹿、性格異常者の馬鹿に散々で」
「いや、アンタが一番弱かったんだけど」
「…………ぇ?」
「アンタが馬鹿にした真っ向しかできない馬鹿とやらは2回攻撃な上に素早さがあったから、とにかく前衛は凄い苦戦していたし、私たちは前衛が2人落ちたらかなり劣勢になる弱点があったから、割と冷や汗な勝負だったんだよね」
「アンタが馬鹿にした筋肉馬鹿は、半端ない攻撃力があった上に特殊攻撃が攻撃力倍加攻撃、先生は素早さがないからまともに喰らって落ちた時には焦ったんだよね、ファテサが素早さに特化していたからこそ、攻撃を仕掛けず避けることに集中し、モカナの遠距離攻撃があったからこそ何とかなったけど、一撃必殺って恐ろしかった」
「アンタが馬鹿にした、性格異常者はその異常者に違わぬとにかくいやらしい戦法で、からめ手を主体とする私達とは実は一番相性が悪かった。特殊攻撃は「ものまね」でやられたことをやり返すわけだから、それを知らない時は回復魔法に攻撃魔法に素早さ特化の攻撃に防戦一方状態、敗戦を覚悟したよ。ただ特殊攻撃が必ず存在するという事を起点に、発動する時の癖を先生が見抜いてくれたから、特殊攻撃を発動する時に「何もしない」をして、その隙に徹底して攻撃してやっと勝ったんだよね」
「しょ、しょ、所詮それは運で「えーっと! そういえば、アンタの特殊攻撃ってなんだっけ? あーそうだ! 思い出した! 確か回復不能な状態異常攻撃だっけ!?」
「そ、そ、そ」
「だけどさ、それを与えるための条件は攻撃を当てなければならない、だけどさ攻撃も素早さも対して高くない単調な1回攻撃でファテサに交わされまくって先生にはヒットして状態異常を与えたけど通常攻撃がノーダメージだからほとんど影響ないし、そもそも回避手段無しの状態異常攻撃ってのは確かに四天王に最後に出てくるだけあってチート技で、攻撃対象を後衛に、要は私にひたすら攻撃をすれば落ちて私たちは敗北だったのに、先生に挑発されてまんまとそれに乗ってじり貧になっているのも関わらず、突っ込んで敗北」
ここでナセノーシアはポンと肩を叩く。
「アンタは一つだけ正しいことを言った、それは」
「馬鹿相手にするのが一番楽勝ってことよwww」
――
「モラハラ野郎にはモラハラ、なんかいろいろ反論してきたけど最後は半泣き状態で「うるせえんだよおお!」って絶叫していた、ザマァwww」
「…………」←何も言えない神楽坂
「そういう先生はどうだったの?」
「え!?」
「今までの話だと、先生の相手はあの武人ですよね」
「同じ剣術使いってことは、割と剣を使った激戦だったんですか?」
「祖国のえっと、ニホン剣術でしたっけ、それで山賊団をやっつけたって聞いていたから、正々堂々の一騎打ちをしていたんですか?」
「…………」
うーーーーんっと……。
「むむむ無論、げげ激戦であったぞ、相手は途絶えたと言われる柳剛流の使い手で、戦いと言えどお互いに礼を尽くして云々」
まさか中二病ゴッコしていたとは言えなかった。
しかし、こう、タイマンで戦わせることについては、心配していたというか、ほら、か弱い乙女みたいに怯えたりするんじゃないかなぁって思ったんだけど、このお嬢様方はどうしてこう、、、、うーーーーーん。
「そうそう、肝心のクエルの相手はどんな魔王だったの? イケメンだった?」
そんな問いかけにクエルはんーと考えると。
「先生みたいな魔王だった」
「え?」
――「貴殿の覚悟しかと受け止めた。因果の鎖それを断ち切るのが、魔の代表である私か、人の代表たる貴殿か、既にどちらが倒れるしかない結果!」
――「魔王、いざ参る」
ポーズ付きで再現するクエル。
「「「「どっ」」」」
と全員が大笑いする。
「ちょちょ! ちょっと! 俺、そんなん!?」
「はい、この荘厳の儀が始まってから、そんなんです」
「そ、そうなんか(///ω///)」←神楽坂
「って、魔王が倒したけど、これから……」
と思った時、空に女神がホログラムで映し出された。
――ありがとう勇者クエル、貴方のおかげで世界が救われました、これで人類に平和が訪れました、勇者クエルの偉業は永遠に称えられるでしょう、その一行も含めて幸あらんことを、また会いましょう勇者クエルよ
とホログラムが消えて、、、。
――荘厳の儀・第一の試練、完遂
と文字が現れて、そのまま両開きの大きな扉が現れた。
「おお~、こんな感じで出るのか、これでクリアだな!」
「第一の試練、結構大変だったね」
「うん、戦術と戦略をちゃんと考えないと」
「初見殺しも結構あったよね」
「次も覚悟しておかないとね」
「「「「でも楽しかった!」」」」
とお互いに感想を述べあっている。
「まあ一つ不満を言えば、俺は魔法使いがよかったなぁ~」
という言葉にクエル達が吹き出す。
「なんだよう、いいじゃんか! 魔法を使うのが男の浪漫なの!」
という言葉に肩をすくめて、そのまま扉を見る。
「行こう、荘厳の儀の第二の試練へ」
という言葉の元、クエルが扉を開くと再び小部屋に出る。
全員が入った後、最初と同じように光が辺りを包み込んだ。
――荘厳の儀・第二の試練・開始
さてさて、次は何が来るのやら。
そんな第一の試練の時と同様、十秒程度光に包まれたあと、光が収まる。
そして目前に広がった光景……。
その光景を見て俺は呆けてしまった。
そう、でもそれは本当に一瞬で、、、、、。
俺は……。
「~~っっっ!!!」
大声をあげそうになって必死で堪えた。
視線を移すと、一方日常部の4人は絶句している。
「ここ、どこ、なに、これ?」
先ほど余りの違いに、お互いに身を寄せ合って怖がっている。
それは無理もない、日常部にとっては未知の光景だったからだ。
そして俺にとっては既知の光景、、、、、。
つまり俺はここが何処だか知っている。
ヲタクには説明無用の場所。
つまり、、、、、、。
(秋葉原!!!)