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第20話:荘厳の儀・第一の試練・中篇



――「よく来たな、勇者クエルよ」


 と四天王が椅子に座っており、俺達の姿を認めると立ち上がると。


――「貴殿に問う、人の世に本当に守る価値はあると思うか?」


 と問いかけてきた。


「…………へ?」


 当然、突然の問いかけに戸惑うクエル。


――「…………」


 じっと待っている四天王。


「と、突然そんなこと言われても」


――「…………」←待っている四天王


「あ、あの、その」


「クエルさんクエルさん、あなたは何もわかっていない」←神楽坂


「え、え」


「それっぽいこと返すの!」


「それっぽいことって……」


「そうだなぁ~」


――「確かに腐った世の中かもしれない、だが私は今の世の中が好き! 人が好き! 大事な人を守るために私は戦う!」


「こんな感じ」


「ええー!! そ、それをやるんですか!! 人前で!?」


「人前でやるんだよ!」


「や、やだ」


「やだじゃないの!」


 と言った時だった。


――「答えられぬか勇者クエル、その悩みは迷いとなり、瞬時の判断において命取りになるぞ」


「ほらー! 四天王さん気を使ってアドバイスモードになっているぞ! ほれほれ! 何か返しなさい!」


「~~っ!」


 ぐぐっと決断したクエルは。


「わ、わたしは、ひとのよが!! すきだからーー!!」


 とどこぞのドンゴンみたいな口調で返す。


――「それが今の答えならばそれでよい、さあ勇者クエルと仲間達よ! 剣を交えようぞ!」


 と戦いの幕が切って落とされた。


 そして……。





――「み、見事だ、勇者クエルよ、だが私は四天王の中では最弱、残りの3人は比べ物にならないほど強いぞ、ぐふっ」


 と言い残して、灰になって消えた。


「進む道が違えば、友になれたかもしれぬな」←神楽坂


「せ、先生、まさか残り3人もこんな感じ?(〃ノωノ)」


「うん、こんな感じだと思う」


「…………」


「しかし四天王という設定だけど、特殊攻撃は2回攻撃のみの一つのみ。んで性格も武人な感じだったから正々堂々とした戦い、つまり四天王と言えどモンスターとして設計されている訳か、ふむふむ、ってお?」


 その灰の中から何か緑色に光り輝く珠が出てきた。


――勇者クエルはグリーンオーブを手に入れた!


「やや! これがかのグリーンオーブ! うんうん小さい頃はどんな形をしているのだろうと心ときめかせたものよ!」


「これで一つ謎は解けたな! 各フロアごとに1人の四天王、そして一つのオーブ! このオーブが四つ集まる時何かが起こるってなわけだ!!」


「いやぁ~、楽しいなぁ! さあ! 行こう! 俺たちの戦いはこれからだ!!」


 と振り向くと再び4人は雑談していた。



「本当に、男ってさ、年上なのに」

「でも兄貴やお父様もあんな感じだよ」

「私は可愛いと思うけど」

「うん、ちょっと身近に感じるかな」



「こらー! 荘厳の儀だぞ! 真面目にやりなさい!」


「はいはい」


 と四天王の間の奥の扉を進み階段を登り次のフロアへと行く。



 階が進んだところで変わるのはモンスターの種類と特殊攻撃の内容と強さだけで対処方法は変わらない。



 レベルはカンストしているわけだから、人体実験を繰り返しながら危なげなく進み。



――「ケヒャヒャ!! 勇者と聞いたからどんな奴らが来るかと思えば上玉ばっかりじゃねえか!! よし気に入った!! お前ら俺の奴隷!! これは決定事項!! 男のお前は八つ裂きにして食ってやる!! ケヒャヒャ!!」


「おお!! これもありがちの下衆キャラ!! よしクエル!! 一発かましたれ!!」


「(〃ノωノ)」←クエル


「ほれほれ、お前が何か言わないと始まらないぞ」


「…………」←無言の抵抗


――「ケヒャヒャヒャヒャ!!」←笑いつつ待っている四天王


「ほらー! ちょっと不自然な感じで笑ってるじゃんか! 下衆キャラに気を使わせるんじゃない!」


「っ~~!! わわ、私は人の世をまもるのおおおお!!!」


 とやけくそ気味に叫ぶクエルの言葉と共に戦いの火ぶたは斬って落とされ。



――「ケヒャヒャ、ああ、やりたいほうだい、楽しかった、魔王様、お先に失礼します」



 と灰になって消えた。


「コイツに殺された者たちよ、その無念晴らしてやったぞ」←神楽坂



 そして次の階層……。



――「俺、強い奴以外、興味ない、コフー! コフー! お前、強いのか? コフー! コフー! 俺を負けさせたの魔王様のみ、コフー! コフー!」



「おお! これもありがちの脳肉キャラ! よっしゃクエル! もうわかるな!」


「(〃ノωノ)」←クエル


「クエル、だからね、貴方が何かを言わない限りね、始まらないのよ」


――「フン! ハァ! セァ!」←フロントダブルバイセップスからバックラットスプレッドにモストマスキュラーのポージングをする四天王


「ほらー! 今必要ないボディビルのポージングとか始めたぞ! はよはよ!」


「私は強い! ので! 貴方を倒す!」


 とそんなどこぞの調査兵のような言葉と共に戦いの火ぶたは斬って落とされた。



――「クエル、お前、強い、最後に、強い奴、戦えてよかった」



 と灰になって消えた。


「純粋に強さを追い求めるその姿勢、同じ男として共感するぞ」←神楽坂



 そんなこんなで。



――「ふん、あの役立たずどもめ、勇者の侵入をここまで許すとはな、本来四天王など必要なかったのだ、私1人さえいればよい、あの3人と同等に見られること自体虫唾が走っていたのだよ」


「おおー! これもまたありがちの傲慢キャラ! クエル!」


「(〃ノωノ)」←クエル


「クエルさんや、もう諦めなさいよ」


――「ははは! 私に恐怖して声も出ないか! 違うのなら証明してみせよ!!」


「ほらー! 別に問いかけられてもいないのに促されているじゃないか! はよはよ!」


「幻想をぶち壊す!!」


 とどこぞの無能力者のような言葉で戦いの火ぶたは斬って落とされ。



――「バ、馬鹿な、こ、こんなことが、あってはならない、私は、最強の筈、どうして、どうしてだ! ぐ、ぐああ!! まおうさまぁああ!!!」


 と灰になった。


「お前と私たちの差は絆の差だ!!」←神楽坂



――勇者クエルは、パープルオーブを手に入れた!



「よし! さあ! これで四つ目のオーブやで! となればそろそろ!」


――「よくぞ四天王を倒しました、勇者クエルとその仲間達よ」


 と待ってましたとばかりに回復の泉の女神が再びホログラムみたいな感じで出てくる。


――「ですが安心してはいけません、四天王の怨念がまだ渦巻いています、このままでは魔王の間までたどり着くことが出来ません」

-

――「その為に必要なのが四天王が残したオーブなのです。四天王の怨霊と対峙するためには、1人がオーブを一つ持ち、それぞれの部屋に行き四天王と戦わなければなりません、その戦いの間、霧が晴れて魔王の間へと続く道が現れ戦う事が出来るのです」


――「勇者クエル、勇者とは真の勇気を持つもの。魔王と1対1で勝負するのです。さあ進みなさい! この先にあるエリアが最後の安全エリア、このエリアの四つの扉にそれぞれの仲間が入りなさい! そして現れた第五の扉の向こうに魔王がいます! 魔王は1対1の勝負を望んでいます! その魔王を倒し! 世界に平和を取り戻すのです!」


 とホログラムが消えた。


「よし! 相変わらず凄い説明口調の割には理屈はよく分からないが、要は怨霊と名を借りた、今までのボスとのタイマンか、王道だな、後は任せろって奴だ!」


「ってちょっと待って先生!」


 とナセノーシアが話しかけてくる。


「タイマンって、先生は防御特化型で、倒せないんじゃ!」


「倒す必要はないだろう?」


「へ?」


「女神は俺達4人が戦っている間と言っていた、倒せとは言っていない」


「で、でも、本当なの?」


「そもそも論として、四天王の能力を考えたら、タイマンで勝てるのはファテサぐらいだろうよ、それに条件を覚えているだろう」


「条件?」


「ゲームオーバーの条件は、クエルが死ぬこと、クリア条件は」



「魔王を倒すこと」



「…………」


「魔王とのタイマンはそういうことだ、俺達が負けても大勢に影響なし」


「せ、先生って、ほ、ほんとに、凄いところで冷静だよね」


「そうかい? てなわけで、誰がどれのオーブを持つ?」


「それについては先生は何かないの?」


「うーん、特になし、適当にクジとかでいいんじゃないか?」


 という俺の提案が採用されて、くじ引きの結果、それぞれにオーブを手に持つ。


「「「「「…………」」」」」


 何となく黙ってしまう俺達だったが、オーブをもって扉に向かうと開錠の音がして目の前に一つの灯がともったことで最後の戦いだという実感を得る。


「じゃあね、頑張ってね、クエル」


 ナセノーシアが部屋の中に消える。


「別に失敗しても命を取られるわけじゃない」


 モカナが消える。


「クエル、繰り返すとおり、仮に失敗したとしてもサクィーリア選挙への当選、頑張ろう」


 そしてファテサが消えて、俺とクエルだけになった。


「先生……」


「覚えているか? 俺が与えた作戦」


「はい」


「いいか、作戦を実行するというのは俺を信用するという事だ。できるか?」


「はい!」


「よし! いい返事だ、じゃあな」


 と最後に俺が消える。


「…………」


 1人残されたクエルが集中力を高めようとした次の瞬間だった、


 天井が開き、階段が下りてくる。


「よし!」


 と気合を入れると階段を登った先、そこは当たり一面の青空が広がっており昇ってきた階段が消える。


「……なるほど、逃げられないってことだね」


 視線を前に移すと、人型の魔王が空を見上げて立っていた。


――「透き通るような青空ではないか、そうは思わないか、勇者クエルよ」


 と空を見たまま話しかけてきてクエルに向き直る。


――「私は思うのだ、何故魔族と人が争わなければならなかったか、本当に私たちは争わなければならないのかと、お前はどう思う?」


「…………」


 どう、って言われてもなぁとクエルは思う。


 神楽坂先生が曰くそれっぽく返せばいいのか、えーっと。


「争いは何も生まない、だけどそれが分かっていても争わなければならない、因果の連鎖は罪深い」


 ってやばい、自分で何が言いたいのかよく分からないが。


「なるほど、流石勇者クエル、私たちの邂逅は因果の鎖ということか」


 何が成程なのか分からないが納得した様子、魔王といい神楽坂先生といいこの芝居がかった口調は何なんだろう。


 と考えて吹き出しそうになる、思えばあの変な先生も、荘厳の儀に入ったままあんな感じだ。


――「笑顔とは余裕だな勇者クエルよ」


 まあいいか、もうカッコつけてもしょうがない、だったら先生に則って。


「余裕ではない、これは私が自分自身に対しての勝利の誓い、私は貴方を倒し、私自身の目標を達成する!」


 クエルもまた大森流の血ぶりをして、魔王は不敵に笑う。


――「貴殿の覚悟しかと受け止めた。因果の鎖それを断ち切るのが、魔の代表である私か、人の代表たる貴殿か、既にどちらが倒れるしかない結果!」


――「魔王、いざ参る」


(ぶふぅ!)


 ポーズまでまんま先生じゃないか、いやいや、集中、集中。


 さて、その先生の作戦通りに動く。


――「いいかクエル、こういう最後のボスと戦うにあたりパターンはいくつかある。まずはタイマンの場合だ」


――「この場合おそらく、さあ一騎打ちだと言わんばかりに正々堂々を勝負を挑んでくる形になると思う。だが正々堂々とした勝負は受けるなよ、何故なら絵にはなるが実戦的ではないからだ、これは今回の試練の共通した思考トラップだ」


――「何故なら正々堂々の勝負を受けてしまうと、クエルの唯一の欠点である回復手段を持っていない点が響いてじり貧になるからだ」


――「とはいえ難しく考える必要はない、基本スタンスは人体実験の時と変わらない。だから最初は逃げまくり魔王の攻撃方法を見極めろ。そして魔王も例外なく特殊攻撃を持っている筈だ。散々やってきたことだからできるな? その逃げまくる上で隙を見て聖魔法をありったけ打ち込め!」


――「そして全ての聖魔法を撃ち尽くした後に、その観察で得た情報を元にして戦え、何にしてもそうだが、特殊攻撃が分からないから、そこだけは気をつけろ」



 そう、そう考えれば怖くない。


 クエルはスッと距離を取り、クレバーに作戦を実行する。



――神楽坂・サイド



 俺は一番最初の四天王の怨霊と対峙していた。


――「……初めて会った時より、強くなっているな、戦士よ」


「……やはりお前にはわかるか、だが望んで強くなったわけではない、戦場で生き残るためには、強くならざるを得なかった、が正しいか」


――「もしや、お前も深淵を見た者か?」


「……やはりお前もか」


 と早速中二病ゴッコを楽しんでいた。



――モカナ・サイド



――「ケヒャヒャ! 久しぶりだな上玉! お前は俺の女の1人にしてやるぜ! ケヒャヒャ」


「うげぇ、そうか、こういうタイプだったかー、笑い方がキモいわ」


と杖を振りかざす。



――ファテサ・サイド



――「コフーコフー! デッドリフト! スクワット! ベンチプレス! コフーコフー! これさえやっておけば大丈夫なビックスリー!! コフーコフー!」


「え? 何? 筋トレ?」



――ナセノーシアサイド



――「来たか、いいか、前回私が負けたのは私が油断したからだ。油断していれば負けることはなかった、お前たちは勘違いしているだろうから、まずそれをはっきりとしておかないとな、私は四天王最強で本来ならば」


「あーーーー、うざーーーーーー」



――クエル・サイド



「ふっ!」


 と魔王の攻撃を避けて距離を取り。


「聖魔法!」


 と打ち込み魔王にダメージを与える。


 遠距離攻撃のチート技と先生は表現したが、どの位置からでも放てば当たるというのは確かにチート技だ。


 徐々にMPを減らしているものの、ひたすらに逃げまくっているおかげでステータス減少がない。


 と思った時だった。


 魔王は立ち止まると。


――「地に這う魔低の僕よ、我の声にこたえて顕現せよ」


 と述べた時だった。


 空が一気に夜になり。


「っ!!」


 巨大な悪魔が出現する。


――「顕現し僕よ、目の前の不遜の存在を滅せよ」



――「シンフォニックレイン」



 悪魔が両手を挙げたと思うと。


 全方位で赤い雨が降る。


 急いで避けるようとするが……。


「避けられない!!」


 せめて両手で体を覆うが。


「ぐっ!」


 赤い雨がクエルの体を蝕み、攻撃が終わり再び青空に戻る。


「…………」


 すっと、静かに両手を下ろす魔王。


(噓でしょ……)



 クエルのHPの三分の一が削られていた。



 そして魔王は血ぶりをすると。


 魔王は一気に距離を詰めてくる。


「ぐっ!」


 と距離を開けて。


「聖魔法!!」


 と魔法を放ち、魔王にダメージを与える。


(危なかった! 正々堂々闘っていたら今の一撃で終わっていた! でも……!)


 三分の一を削られるほどのダメージを受ける回避不能の全方位打撃。


 これが魔王の特殊攻撃、流石に凄いが……。



(落ち着け私! これほどの攻撃なら頻発してくることはありえない! ここで惑わされて近接戦闘を仕掛けるこそ愚策! 私は冷静に先生の与えられた作戦を……)





――「地に這う魔低の僕よ、我の声にこたえて顕現せよ」





(…………先生!!)



 クエルの頭に初めて「荘厳の儀の失敗」がよぎり、全身が硬直する。



――神楽坂・サイド



――「問おう戦士よ、卿は、魔である私に対して、何故礼を逸しない?」


「知れたこと、立ち振る舞いを見ればわかる、兄は名の知れた武人」


――「そうか、深淵を見ている者、であったな」


「だからこそ疑問に思う、何ゆえに魔に身を落としたもうた?」


――「私は、人の世に絶望したのだ、愛する人を失った、あの時に!!」


「なんと愛する人を! それはどのような?」


――「私はかつて王国に使えていた騎士! だが王国に裏切られ、殺されたのだ!」


「待たれよ! 確かに人は愚かなことをする! だが(以下略)」


 と相変わらず中二病ゴッコを楽しんでいた。



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