第19話:荘厳の儀・第一の試練・前篇
「ん……」
気が付くと光は収まっていた。
俺達が先ほどとは違う、30畳ほどの広い部屋に俺達は立っていた。
部屋の構造は単純、まずパッと目に付くのは三つ。
まず扉、外に出ていくためであろうものが一つ設置されている。
次に角に一つ、女神像が抱えている水瓶から絶え間なく水が出てくる泉がある。
まず俺は扉を調べる為に近づき、開けようとするがガチャガチャというだけであかない。
続いて泉を調べてみると。
――神楽坂イザナミのステータスが全快した!
「うおっと、びっくりした」
突然出てきた文字にたじろぐが……。
うん、そうか、まあ、実は、その。
何となくそんな感じはしていたのだ。
そう、まだ二つしか調べていない。
メインは、そう。
部屋の中央に高台が高台になっており、上に祭壇が一つ設置されているところだ。
俺はスッと、祭壇の上を確認すると。
武器と防具、それぞれ数は5個用意されていた。
「ふー」
と目頭を揉む。
「先生?」
と同じように高台に上ってきたクエルが話しかけてくるが……。
「ちょっと待ってくれ、クエル」
「は、はい」
とだけ告げると、まず武器を見る。
武器は「大剣、剣、グローブ、槍、杖」が置いてあった、
次に防具を見ると「大楯、盾、道着、軽鎧、ローブ」が置いてある。
「ふーーーーーーーーーーーーーーーー」
と再び目頭を揉む。
そう、今度は周りを見てみよう、この部屋を、ほら、なんとなくだけどさ、この、舗装されているけど古い感じの……。
ドラクエみたいな。
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! ←神楽坂
「「「「びくっ!!」」」」
と突然の大声にびっくりする日常部員。
まず杖を持ちあげてみる、ふむふむ、見た目に反して重たくて持ち上がらない、グローブ、これも同じつまり違う、質量に対しての不自然なまでの重さ、そして剣も無理という事は……。
大剣はすっと持ち上がった。
キター━━━(♥д♥)━━━ !!!!! ←神楽坂
「しゃあ! これが俺の武器!! なるほど他はゲームでいう「装備できない」という状況か! そしてこの数からすると、それぞれが装備できる武器だということになるわけだ!!」
という事は防具も同じことが言えるってことで。
まあ見当はついているけど大楯を持つと……。
スッと持ち上がる。
キタ━━━(゜∀゜)━( ゜∀)━( ゜)━( )━( )━(。 )━(A。 )━(。A。)━━━!!!! ←神楽坂
「これが俺の武器と防具! 大剣に大楯!! フルフル」←感動して震えている
「やっときた、やっときたぞ! これぞ異世界ファンタジー! よっしゃ!」
とドドドと扉に近づき開けようとするが。
「開かない! ってことは、まだやることやってから開く仕組みってことは、やっていないことがあるってことだ、っとなると、まず全員これを装備しろってことだな! さあ我が可愛い生徒達よ! いざいざ!」
と後ろを見ると4人が普通に雑談していた。
「こらー! 荘厳の儀だぞ! 真面目にやりなさい!」
「……好きだよねぇ男って」
「弟もよくごっこ遊びしているよ」
「ああ~、そのレベルだよね」
「いくつになっても変わらない」
「うるさーい! ほらほら! 早く武器と防具を装備する! 何をボーっとしているのかね! 日常部諸君! はよはよ!!」
「はいはい」
と近づいて武器と防具をしげしげと見る。
「おそらくそれぞれに装備できるものがある筈だ! 推理するにそれぞれの特性を踏まえた装備があると見た!」
「は、はぁ、うん、わかったよ」
と気のない返事をしながら、それぞれに装備を身につける。
その結果。
ファテサが、グローブと道着。
クエルが、剣と鎧。
ナセノーシアが槍と軽鎧。
モカナが、杖とローブだった。
「フォー! まさに王道RPGファンタジー衣装! 先生はとっても嬉しい! よく似合っているぞよ!」
「……あんまり可愛くない」
「可愛いとか可愛くないとかの問題ではなーい! これがファンタジーを体験できるというのが大事なのだ!」
「意味わからん、あのさ、先生、ちょっと落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか! ってガチャガチャと、ふむふむ、まだ、部屋から出られないってことは、まだ何かあるぞ! おそらく何かが起こる筈だ、ん?」
と祭壇の中央部分に穴が開いたと思うと、そこから一つの冊子が出てきた。
「ほほう! ふむふむ、パラパラと、これは取扱説明書だな!」
とみんなを呼び寄せて取扱説明書を読んでみる。
――取扱説明書
・登場人物・
:クエル:
小さな体に大きな勇気を持った人類の希望の星。
勇者であり主人公、全てのステータスにおいて第一位の才能を持つ勇者であり、聖魔法が使える。
:神楽坂:
神算鬼謀の知略者。
勇者と同等の攻撃力と防御力を兼ね備えた屈強な戦士。
:ファテサ:
高潔な格闘士。
君は戦士に次ぐ攻撃力と勇者と同等の素早さを兼ね備えた武闘家。
:ナセノーシア:
仲間たちのムードメーカー。
勇者と同等のMPとチーム唯一の回復と復活魔法が使える僧侶。
:モカナ:
冷静な攻撃者。
勇者と同等のMPとチーム唯一の地水火風の攻撃魔法が使える魔法使い。
・職業特徴・
勇者:全てのステータスで第一位の才能を持つ選ばれし者。攻撃魔法も勇者にしか使えない聖魔法を使える。1人でも何でもできるオールマイティ。
才能 攻撃力A、防御力A、素早さA、HPA、MPA
戦士:高い攻撃力と高い防御力、高いHPが持ち味、魔法を使う事が出来ない。
才能 攻撃力A、防御力A、素早さC、HPA、MPC
武闘家:高い攻撃力と高い素早さを持つが、防御力が低く、先制攻撃には向いているが、前衛には向かない、魔法を使う事が出来ない。
才能 攻撃力B、防御力C、素早さA、HPB、MPC
僧侶:回復魔法と復活魔法を使う事が出来る。防御力は魔法使いより高いが戦士や武闘家には及ばない素早さは戦士と同程度。
才能 攻撃力C、防御力C、素早さC、HPC、MPA
魔法使い:攻撃魔法を使う事が出来る。攻撃魔法は遠距離攻撃であり、属性防御がない限り必中する。しかし全てのステータスで最低値である。
才能 攻撃力A、防御力C、素早さC、HPC、MPA
・攻略のヒント・
レベルは最大20、ステータスはレベルアップ時の自然上昇の他にレベルアップポイントが付与される、これが攻略の鍵となる、何故なら才能が関係してくるからだ。
才能Cは1ポイントで1上昇、Bは1ポイントで2上昇、Aは1ポイントで3上昇となりHPとMP以外に振ることができる。
長所を伸ばすか短所を埋めるかはそれぞれ一長一短だ。
ステータスの降り直しは効かないので慎重に判断しよう、ちなみにポイントの後振りは出来るぞ。
モンスターに与えるダメージは、攻撃力に対しての防御力で相殺される形でダメージが判定される。
素早さは、数字が高ければ高い程相手の物理攻撃を避けることができる。
魔法攻撃のみ特殊で、魔法は必中する。しかし属性耐性を持つ相手にはダメージを与えることができず、MPも消費する。
アイテムはなく、魔法以外の回復手段は、安全エリアの回復の泉のみ。
なお、ダンジョンにはいくつか安全エリアが設けられており、モンスターも出ませんしトラップもありません。回復の泉でHPとMPが全回復できます。回復の泉に使用回数制限はありません。一番最初にいるエリアは安全エリアです。
それ以外の場所では、モンスターやトラップがあるほか、その場に留まっていても、モンスターが現れるため気を付けてください。
モンスターとの戦闘は、シームレスですが、戦闘態勢と表示が出ると、ステータス通りの動きしかできなくなるので注意してください。
プレイヤーが取れる選択肢は、戦う、魔法、防御、逃げる、のいずれかです。
4つの階層をクリアして、各階層のボスである四天王を倒し、魔王を倒すことが目的です。
最後に、当然このゲームは勇者が要となります、勇者をどう運用するかが鍵になります。勇者が死なない様に戦いの作戦を組み立てることがポイントです。
・ゲームクリア条件・
魔王を倒す。
・ゲームオーバー条件
勇者が死亡した時。
―――
とここで取扱説明書を読み終えて説明書を置いた時だった。
――「勇者クエルよ」
という声が響いたと思ったら、女神像がホログラムの形となって俺達の前に現れた。
――魔王の襲来により人間の世界は危機に瀕しています。
――圧倒的不利な状況ではありましたが、人類軍の総力戦により、貴方達は魔王の住むラストダンジョンに辿り着くことに成功しました。
――現在も尚、他の人類軍は命を懸けて魔王の配下たちと戦っています。勇者が魔王に負ければ世界は混沌の海に呑み込まれるでしょう。
――もはや一刻の猶予もありません。このダンジョンにいる四天王を倒し、最深部に鎮座する魔王を倒すのです。
――そうすれば、世の中に平和が訪れ、全員が幸せになる世界が訪れるのです。
――さあ、行きなさい勇者クエル、貴方の活躍に全てがかかっています。
とホログラムが消えるとガチャリと扉の鍵が開く音がした。
「よし! 凄い説明口調の割には理屈がよく分からないが、魔王を倒せば平和が訪れるそうだぞ! それにしても……」
俺は改めて取扱説明書を見る。
「…………」
と考えていると横でナセノーシア達が話し合っている。
「なるほどね、戦いの肝が勇者か、確かに凄いよね、流石主人公、クエルが肝か」
「勇者を攻撃の起点にするってことなんだろうけど」
「ということは魔法使いの私が後衛の要かな」
「勇者の運用が要ってことは武闘家の私が先陣を切って先頭に」
とそれぞれの感想を述べるが。
「いや、戦いの肝はクエルではないよ」
「え?」
俺の言葉に全員が向く。
「取扱説明書を見ると中々に意地悪な書き方をしている。これを見るといかにも、勇者が戦いの要みたいに書いてあるけど、そう解釈すると荘厳の儀が失敗する」
「ど、どういうことなの?」
「つまりこれは「勇者を主人公とミスリードさせるために存在する」ってことだよ。この試練で勇者はラスボス戦以外はヒーローよりもヒロインとして運用が正しいってことさ」
「ヒーローではなく、ヒロイン?」
「そう、つまり守ってあげる存在ってことだ、そして更に勇者と同じぐらいのヒロインがもう1人存在する」
「え?」
「それは僧侶、俺達で言うとナセノーシアだ」
「え!? 私!?」
「そう、このゲームにおいて勇者と僧侶は同じぐらい大事、だからナセノーシアもヒロインなんだよ」
「ど、どうして?」
「ナセノーシアが死んだらどうなる?」
という俺の問いかけにナセノーシアは手を叩く。
「……あ! そうか、僧侶が死んだら、ゲームオーバーではないけれど詰みになる!」
「そう、ナセノーシアが死んだら回復手段がなくなる。この試練での回復手段は安全エリアにある回復の泉とナセノーシアの魔法のみだなんだよ」
「でもさ、私が死んでも回復の泉で復活するんじゃ」
「説明書読んでみ」
――回復の泉でHPとMPが全回復できます。回復の泉に使用回数制限はありません。
「…………」
「さて、まとめるぜ、以上のことからクエルとナセノーシアは「事故」でも死ぬことは許されない。だからクエルとナセノーシアの分断だけは何としても避けなければならない。クエルは万能ではあるけれど、孤立すれば結局じり貧になって死ぬ、ナセノーシアも同様だ、分断のトラップを想定して、クエルとナセノーシアだけは常に組ませる」
「つまりモンスターと戦うのは、俺とファテサとモカナのみ。2人は経験値だけ与えられてレベルアップをする、これが基本戦術だ」
「あのさ、ということは戦いの要は戦士である先生ってことになるの?」
「いや、俺じゃない、攻撃の要、つまり攻撃最強職は」
「魔法使いであるモカナだ」
「え? 私ですか?」
「遠距離攻撃で外すことがなく、かつ反撃を喰らう可能性がないモカナの攻撃はチートだぜ? だからこそ「MPに加えて属性耐性無効」という制限をつけたのさ」
「…………」
「とはいえそのMPがある以上は、条件付無敵攻撃、MPが尽きた時に終わる。だから俺達の基本戦術は俺とファテサが前衛ってことになるが、この場合の前衛とはつまり捨て駒、ガンガン戦ってガンガン死ぬのが仕事だ」
「そしてクエルとナセノーシアはモカナと一緒で後衛だが、モカナが最前列で魔法を撃つからサポート能力を磨いてくれ、クエルは俺とファテサで「安全が確認された敵相手のみ」に実戦経験を積ませる時にのみ前衛に出る。最後にナセノーシアは武器を持っている気攻撃をする必要はない、常に自分とクエルが最優先。少しでも苦しくなれば遠慮なく俺達3人を盾にすればいい」
「繰り返すぜ、勇者って言葉に騙されがちだがクエルはヒロインとして扱う、ナセノーシアも同様だ、そして次、後はレベルアップだが……」
レベルアップに応じてポイントが付与されて自分でパラメーターをいじることができる、才能で伸び率が違い、持ち越しは出来るが振り直しは出来ない、最高レベルは20。
「これは保留、実際に戦ってみないと何とも言えない。さて……」
と俺は扉を指さす。
「よし! さあ外に出るぞ! 俺の言ったことは覚えているな! ファテサ! 俺について来い! 皆落ち着けよ! モンスターが出てくるからな!」
「せ、先生もね、どこまで進むの? 次の安全エリアまで探索する?」
「まさか、この安全エリアの前だけでいい」
「え?」
「トラップがあると言っていただろう? まあまだ序盤だから大丈夫だと思うが、俺がもし試練を与える側だったら、油断して進み過ぎた場合戻れなくするか、もしくは遠いところに転送するトラップを使う」
「……その、変なところで冷静なんだね、本当に」
「ってなわけで最初はこの近くだけで経験値稼ぎでレベルアップするぞ! モンスターが出てくるから全員戦闘用意!! ファテサ! モカナ! 第一種戦闘配置!!!」
「……先生、第一種戦闘配置とか言われても」
「そうだった! 扉をあけっぱなしにするからナセノーシアとクエルは外に出るな! 俺は防御力が高いから、前に出る! ファテサは俺の後ろ、モカナは扉の前で待機!」
と指示した後だった。
前方の角からモンスター3体が出てきた。
しかも、しかも。
「序盤の敵がスライム!! なんて王道!!」
と指示通りに俺はざざっと前に出る。
――戦闘開始
という文字が出現したと思うと。
「ぐっ!」
ステータスのとおり、素早さが一番低いせいか、露骨に動きが鈍くなるのを感じて、力と防御が強くなるのを感じる。
「先生、どう戦えば?」
一方で、少し不自由そうにしているも、既に戦闘態勢に入っているのは流石ファテサ。
スライムに対しての作戦か……。
「特段に作戦はいらん」
「え!?」
「大丈夫! スライムは一番の雑魚なんだから!」
と視線を逸らした瞬間だった。
「アイダ!」
と攻撃を喰らった、痛い、割と、だけど痛いだけ。
ステータスも「-1」だけダメージを喰らっている。
「っと!」
今度は盾で防いだ、痛み無し、ダメージ無し。
「ほほう、パラメーターはシンプルな割に、ぼーっとしていると攻撃してくるシームレス戦闘、だから止まっていてもダメなんだな! っと!!」
再びの攻撃を盾で防ぐ。
「ふむふむ、3体いるのに集団で攻撃してくるわけでもなく、順番で攻撃してくるわけか、つまり戦術と戦略は使わない、与えられた動きをすると判断していいか、ふっ」
とここでスライム3体と対峙する。
「観察完了……」
と大剣を大森流の血ぶりをする。
「神楽坂イザナミ、いざ、参る」
と歩いて近づく。
「あの、先生、油断し過ぎない方が」
「大丈夫! スライムは単純打撃のみの雑魚! ゴボォ」
と視線を逸らした先に急に視界が歪んだと思ったら、それがスライムが顔にまとわりついたと分かって。
「ゴボオ!(取れない!)」
「せ、先生」
「ガボガーーーボ!!(取れなーーい!!)」
「せ、せんせーー!!」
とみんなで剥がそうとするが剥がれず。
そして、徐々にダメージがで残りのHPが減っていき……。
パタッ。
と倒れたのであった。
●
「ぶは!」
息を吹き返したところ、俺は安全エリアの中にいた。
「……あれ?」
と目の前には復活魔法を唱えたであろう、ナセノーシアがいた。
「HPが尽きて死んだよ先生」
「あれ~?」
「スライムはまとわりついてどうにもできなかった。だから先生が死んで剝がれたからその隙でモカナ魔法でやっつけた」
「…………マジか」
「そして、ちなみにせっかくなので回復の泉で実験したけど、死亡ステータスは回復できなかったよ」
「…………そっか」
「あのさ、先生、死亡攻撃を持つモンスターって弱いの? そもそもスライムが弱いって何処からの情報?」
「…………ゲーム」
「ゲームって」
「うるさーい! 俺の祖国だとスライムは雑魚ってなってるの!」
「な、なに、その文化?」
「ちなみに死んだ俺をどうした?」
「普通に引きずって、重たかったよ」
「そうか、ありがとな、期せずして、扉の目の前で死んだのは良かったのか」
ある意味風評被害だよな、スライムが弱いって。
「なるほど、でも一つ分かった。通常攻撃の他にモンスターは変則攻撃を持っているってことだ。つまり戦いでは臨機応変の戦い方が求められる。応手を間違えれば今みたいに死ぬってことか」
「「「「…………」」」」
不安げな日常部の生徒達だったが。
「何を不安がっているんだよ。俺の立てた作戦が間違っていなかったってことだ。もしあの攻撃を喰らったのがクエルとナセノーシアだったら対処が遅れて死んだかもしれない、初見殺しもいいところだぜ、そうすればゲームオーバー、荘厳の儀は失敗だった」
「でも、モンスターってスライムだけじゃないんでしょ? この場合だと魔法攻撃を仕掛けてくるモンスターもいるよね」
「だろうな」
「どうするの?」
「どうするのって、まさに今俺が実践したことだよ」
「え?」
「人体実験」
●
「はっ!」
ファテサが勢いよく目を覚ます
「ふう、毒攻撃を持っているモンスターもいるんですね」
頭を振り、ムクリと起き上がる。
ファテサは、蜂に似た針を持つモンスターに刺されてしまった後、突然倒れてしまったのだ。
「ファテサ、死ぬってどんな感じなの?」
とモカナが話しかける。
「なんというか、突然眠らされるってのが正しいところだと思う、まあ死ぬってのは便宜的な名称だろうね」
「突然眠らされて突然起こされるって、凄いきつそう」
「まあ、それが私と先生の役割だからね」
「おおう、相変わらずのイケメンだね~」
「それにしても、色々と分かってきましたね、先生」
ファテサの言葉に俺は頷く。
そうこれが、俺が人体実験と称した方法。
そしてこの方法で40回ぐらい戦ってきて色々分かった。
まずモンスターは戦略と戦術を使ってこないが、今まで戦ってきた全てのモンスターが通常攻撃の他に特殊攻撃を持っており、それを見極めて戦わなければならないということ。
その特殊攻撃はモンスターにつき一つだけだという事。
そしてその特殊攻撃に対しては対処方法があるということ。
例えば最初のスライムの特殊攻撃は「顔にまとわりついてくる」であり徐々にHPが削られていく、対処方法は「味方にダメージを与える覚悟で魔法攻撃をする」という事だった、これをすると俺もダメージがくらうが、剥がすことができるのだ。
とはいえモンスターと初めて戦った時、その特殊攻撃は分からない。
当然、特殊攻撃は対処方法を間違えれば死ぬという事は実証済み、故に編み出すためには人体実験する必要があるのだ。
少しづつ前に進み、新しいモンスターが出れば、俺とファテサで人体実験する。
モカナは、俺とファテサが戦う上でのバックアップの訓練、打ち漏らした敵に対しての魔法攻撃に集中、ナセノーシアとクエルを徹底的に守る。
そしてクエルは、特殊攻撃と対処法及びステータス的に安全が確認できた相手のみ戦う、ナセノーシアについてはクエル最優先で回復魔法をかけ続けるのだ。
ちなみにモンスターのダメージは、支給された武器でしか通じない。同じ理由で、防ぐためには防具を使わなければならない事も分かった。
「そろそろ次へ進みたいが、問題なのは……」
モンスターの人体実験と、戦いの実戦経験を積むことを目的とした戦略は成功、お陰で、レベルが5ほど上がったが。
「先生、いい加減ポイントはどうふるか決めないと思います、そうしないと前に進めません」
というモカナの言葉に首をひねる。
「……すまん、まだ迷っていて、答えが出ない」
「何処に迷っているんですか?」
「……少し待ってくれ、結論は出かけているが……実際に体験してみない事には……」
とうんうんと悩んでいる時だった。
すっとあるモンスターが現れる。
「やや! またもや王道! ゾンビだ!」
ゆっくりと歩いてきたゾンビ3体が現れた。
「ちなみに一度に現れるモンスターは最大3体! ふっ、コイツの特殊攻撃は読めたぜ!」
「え?」
「ゾンビはゆっくり動くが、さっきのモンスターと同じステータス異常攻撃を持っている! 噛みつかれれば感染するぞ! それに気を付けグハァ!!」
と瞬時に距離を詰められて殴り倒された。
パタッ。
「…………」
昏倒している。
「せ、せんせーー!!」
●
「はっ!!」
気が付いたら再び安全エリアにいた。
「………………ごめんよ」
「……先生、あの後闘ってみたんだけど、ゾンビって普通に走るしパワーもあるし戦士系モンスターで毒も持っていなかったよ、特殊攻撃は先生が食らった大ダメージ攻撃だった、対処方法は大ダメージ攻撃は凄い大振りで来るからファテサなら避けるのが容易いから、ファテサが前面に出て戦ったよ」
「…………そう」
「先生、一応聞いておくけどのゾンビの動きが遅くて、噛みつかれて感染するってのは何処の情報なの?」
「…………ゲーム」
「ゲームて」
「うるさーい! ゾンビはそうなの! ウチの祖国ではそうなっているの!」
「ど、どんな文化?」
まあでも、確かに、ゾンビって元はブードゥー教が起源と言われていて、別にウィルスに感染してなるんじゃなかった。
スライムと同じく風評被害だよな。
「だが結論が出た。どうポイントを付与するかについて」
50回ぐらい闘って分かったこと、それは……。
「戦闘で一番の役立たずは間違いなく俺だ」
戦士が役立たず、普通のRPGではありえないことだが、この場合戦士の攻撃力も防御力も高いというのも惑わされるポイントだ。
最初の戦闘のとおりこの試練ではモンスターが現れた戦闘開始時の立位置がそのまま初期配置となる。
「ずっと考えていたんだ、レベルアップした時にステータスの上昇を自然上昇の他に任意で選べるようにする、何故この方式にしたのか、それこそ「戦士のMPを上げる」なんてのも出来るってことにな」
「戦闘での役立たずって、なら先生はどうするの?」
「ここでいう役立たずとは前衛に求められる能力に誤解があるという点だ」
「どういうこと?」
「つまり」
「前衛において、一番大事なステータスは、攻撃力でも防御力でもない、素早さだってことだよ」
「素早さ?」
「そう、戦士ではいずれ攻撃が当たらなくなる、序盤の今でも攻撃ミスはちょいちょいある、だから相手の素早さが上がれば近いうちに俺の攻撃は当たらなくなる」
「つまりキャラクターの育成についてはリスクを承知で「短所に目をつぶり長所を伸ばす」ことにある。そして「どの長所を伸ばすか」がポイントになるのさ」
「そして俺はポイントを全部防御力に全振りする、他のステータスには一切振らない」
「え!?」
「俺の活用方法は「盾役」だ。防御力を徹底して伸ばせば、仲間の中で最強の防御力を持つ、そのヒントの為の大楯なのだろうな」
「続けるぞ、ファテサは、攻撃力と素早さのみ。盾役がいれば、ヒットアンドウェイでどうにもなる、そこはまんま王国徒手格闘術の応用が利くのは何度も見た」
「モカナは、魔法使いだから逆に素早さをあげる必然性がない、ただし初期位置に気を付けること、代わりに魔法攻撃力を徹底してあげる」
「ナセノーシアは、これも武器を装備できるところがミスリードする点、が物理攻撃に意味がない。だからモカナと同様回復特化型だ、魔法攻撃力を上げる」
「さて、問題となるのがクエルなんだが……。」
クエルは全てにおいて最高の伸び率を持っている勇者だが……。
「勇者以外は、長所と短所がはっきりしているから、対策が立てやすい。だが勇者全てが最高値にあるわけだから、判断に迷うところだ、これに一番迷っていた」
オールマイティに上げた方が万全なのか。
それとも特化型にするか。
やり直しがきかない以上、慎重にはしたいが。
「さて、ここで俺はこう考えた。大事なのは「なれない」ことだと。クエルは俺のように盾役にもなれる。唯一「なれない」のは僧侶。だからこれは分かった、となれば同じ「なれない」のとを考えればいい、そしてこの場合は「なれない」の主語をクエルにすればいい」
「つまりクエルにしかなれないもの、オールマイティの戦士、全て均等に上げる」
「先生、ヒロインとして扱うのなら、防御力と素早さではないの?」
「魔王戦があるだろ?」
「あ……」
「その時には、多分クエルを「ヒーロー」として扱わないといけない筈だ、それにクエル」
「はい、計算してみました」
「え?」
「才能がAならば、全てに均等に割り振ってもかなりの高ステータスになります」
「流石首席殿、ならその一択だ、そしてクエルの肝は、おそらく地水火風の攻撃魔法に属さない勇者しか使えない聖属性の攻撃魔法だ、この攻撃魔法は、色々解釈があるが、クエルの攻撃魔法が魔王には効くと思う」
「だが当然、今の俺の案は、万全の策という訳ではない。俺の希望的観測も含まれているからな、だからみんなの意見を聞きたい」
と辺りを見渡すが。
「先生を信じます」
とはクエルだ。
「私も賛成、先生以上が案が思い浮かばないし」
「批判は代案を提示しなければならない、私に代案はありません、故に先生に従います」
「私も先生以上の策はないかと思います」
あっさりと言われた。
もっといろいろ反論されると思ったが……。
「いいのか? 試練が詰むってのは荘厳の儀の失敗を意味するぞ、サクィーリア選挙にも影響が」
ここで言葉を発するのはファテサだ。
「先生、歴代の参加者に聞いてみても荘厳の儀の参加者の7割が初日で失敗している。だったら覚悟の上で進まないといけませんからね」
「……わかった、だったらまずこの最初のエリアでレベルをカンストの20まで上げる」
「徐々にではなく?」
「カンストしてから冒険スタートだよ、面倒だがな」
そう、RPGは適正なレベルを上げて冒険を進めていく、だが時間をかかっても言い、やり直しがきかないのなら、これが一番確実だ。
そして……。
●
「っと」
攻撃にだけ気を付けていれば、敵はノーダメージになった、成程、衝撃もほとんどなくなった。
ファテサは、持ち前の身体能力の高さを活かし、打撃で相手にダメージを与えて後列に戻るヒットアンドウェイ、モンスターの攻撃の番になったら俺が前面に出て攻撃を受ける。
モンスターは、一番近くの味方にしてくることが分かったから、俺とファテサで先頭と殿を務める形で進んでいく。
モカナは、攻撃魔法の威力が抜群で、使用効率も良くなった。
クエルは全般的に能力を伸ばし、特殊攻撃とその対策が確認された安全な敵相手に実戦経験を積んでいる。
「うん! 順調だね! 先生の予想通り!」
ダンジョン攻略はつつがなく進行している。
ステータス異常攻撃や想像した通り分断トラップがあったものの、クエルとナセノーシアを組ませていることから危なげなくクリアして、無事に合流し進める。
「いや、ホッとした、連携が命だが、割と何とかなったな!」
「流石我が日常部!」
口々に感想を述べあうが……。
「……どうする、魔王直属の四天王か」
そう、順調に攻略が進んだとはその通りでエリア1の最後に差し掛かった時だった。
広間に出たと思うと、魔王直属の四天王の1人が立ちはだかっており。
――「私は魔王様直属の四天王、勇者達よ、私に挑む勇気が出来たのなら、準備を整えて、奥の間へ来るが良い」
と奥の間に消えた。
準備、つまり四天王が消えた先の横に部屋があり、入ってみると安全エリア、今ここに俺達はいる。
「レベル自体はカンストしているから、ステータスは問題ないと思う。後は特殊攻撃が何なのかを気を付ける、戦術は変わらないさ」
「そうだね、正々堂々と勝負ってやつね!」
と全員で歩き出そうとした時、
「いやいや、何言ってんだよ、まず確認したいのが四天王相手でも逃げられるかどうかだよ」
との俺の言葉にずっこける日常部面々であった。