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第18話:荘厳の儀・禊


――荘厳の儀の前夜・夜



 いよいよこれから荘厳の儀の前夜祭、禊が始まる。


 礼拝堂では既にウィズ教の職階を叙階されている先生たちが準備をしており、今日一日は礼拝堂への立ち入りは禁止されている。


 そして儀式は複数日にまたがるという事で、特例として儀式に必要な食料は食券を使うことなくタダで手に入るのだ。


 俺達は食料品と衣類を全て揃え、後は礼拝堂に向かうだけだとなった。


「いよいよだね」


 とはナセノーシア。


「ここまで、来たらもうやるしかないという気持ちだね」


 とはファテサ。


「私達だったら絶対に攻略できるよ」


 とはモカナ。


「さて、クエル、一言を」


 とナセノーシアに促されてクエルが発言する。


「私が、今回の荘厳の儀に参加できたのは皆のおかげ。皆とは、入学してからの付き合いでまだ日は浅いけど、こんなにもいい仲間に巡り合えるなんて思わなかった。皆とだったら、荘厳の儀だけじゃなくて、その……」


 感極まったのか、ポロポロと涙を流すクエルに皆が集まる。


「クエル、泣くにはまだ早いよ、それに私達なら絶対大丈夫だから!」


 と意気揚々と立ち上がる日常部員達。


「さあ行こう! ってな訳で……」


 とナセノーシア達は視線を、、、、



「荷物持ち、お願いね、先生」



 巨大なリュックを抱えている俺に話しかける。


「…………はいよ」


「それで浮気を許してあげるんだから私達って本当に優しいよね」


「…………そうだな」


 浮気なんてしてない、という言葉は余計な事だと分かったので、何も言わず従うことにした。


 くそう、割と重いぞこれ……。





 外に出た時、辺りはシンと静まり返っていた。


 本来だったら外出禁止の時間帯、その中で堂々と歩けるのはそれだけでちょっとした特別感を演出している。


 街灯があるから真っ暗という訳じゃないけど、確かに深夜の見回りはルウ先生じゃないがちょっと怖くもある。


 そして見えてきた礼拝堂。


 薄くライトアップされた姿は幻想的でもある。


 既にラミナとホルは仲間を連れて入口の前に集まっていた。


「「っ~」」


 手ぶらな日常部4人に対して巨大なリュックを背負った俺を見て察したのか笑いを堪えているラミナとホルの2人。


 まあいい、言わぬが花だ。


 とどっこいしょとリュックを下ろして馬術部と聖歌隊に並んで整列した時だった。


「時間です」


 と司祭先生の言葉で全員が先生に注目する。


「改めて荘厳の儀のこれからの流れについて説明します」


 と言って語り始める。


 荘厳の儀は禊をした後、聖泉がある部屋に通されて身を清めた後、そこで一夜を過ごす。


 翌日、礼拝堂の聖櫃に指定された順番に入る。


 階段を下りた先は10平方程度の小部屋になっており、それぞれにいっぺんに扉が三つがあり、好きな場所に入る。


 全員が入った瞬間から荘厳の儀の試練が始まる。


 試練の数は三つ、その内容も多岐にわたり、難易度も初等学院から難解な謎解きに至るまで多種多様であり、こればかりは実際に試練を受けないと分からない。


 ただし、試練はあくまで「与えられた問題にどう対処するか」が重点に置かれていることのみ共通事項があること。


 三つの試練の達成日数に制限はない。最短で二日、最長でも2週間程度だそうだ。


 試練をクリアした人物は、目の前にいる聖職者の先生ですらも入ったことがない、つまり何処にあるのかもわからない特別な宮殿に招かれそこでウィズ神から直接言葉を賜ることができる。


 達成者が出た場合のみ、礼拝堂の鐘が鳴り響き、その功績を周りに知らしめる。


 達成に失敗した場合は、別の部屋で全員の結果が出るまで待機をさせられる。


「以上です。それと繰り返しますが、試練を達成できなくても、それは失敗でも失態でもないという事を十分に理解してください。何故ならオリエンテーリングという表現を使う生徒もおりますが、7割の参加者が問題に対処できず1日で失敗しています」


 この言葉で一気に空気が引き締まる。



「覚悟が出来たようですね。それでは禊を行います。まず礼拝堂の中に入ったら、中に禊の儀式用の服を用意しています。荷物を置き着替え、肖像画の前に集まりなさい、それと」



「参加者は、聖櫃の中に入るまで私語厳禁です。何故ならウィズ神は、既にこの荘厳の儀の達成者に降臨されるために顕現の準備をされています。ウィズ神は偉大なる初代国王リクスの仲間でありますが、同時にとても苛烈な女神でもあり、無礼にはとても厳しい方です」



「故に参加者はウィズ神に対してまず礼儀を払う必要があるのです。それが荘厳の儀の参加者の最初の試練。これをクリアできないのなら参加者としての資格をはく奪することを肝に銘じるように」



 無言で生徒達は先生を見て、その覚悟を見届けた司祭先生の主導の下、礼拝堂の中に入った。


 いつもの光景だけど、どこか違うように見える。


 指示通り、椅子の上には白を基調とした質素な生地を使った服があった。


 それぞれ手に持り別室に向かい、俺は隅っこで着替える。


 着替えた全員はウィズの肖像画の前に集合する。


「ただいまより、禊を始めます。私に続いて奥へ」


 と礼拝堂の奥の扉の重たい閂を外し、全員が中に入る。


 そこに広がった世界、そこには建物内にありながら、月光が取り入れられる形で設計された、ウィズの像が見下ろす形で設置されている泉があるだけの簡素な空間だった。


 ここは、ケルシール女学院内で開催される、宗教儀式の時にのみ使われる空間で、聖職者の先生たちが管理している。


 年に一度の教皇との行幸も使われる由緒ある場所だ。


「この泉に入り身を清め、そして祝詞により心を清める聖なる場所、荘厳の儀の参加者たち、全員入浴しなさい」


 全員が、無言のまま意を決して泉に入るが……。


「~~っ!!!」


 全員の声に出さない悲鳴が伝わってくるようだ。


 かくいう俺も必死で耐えている。


 そう、凍える程に冷たいのだ。


 禊は第零の試練とも呼ばれ、これから30分、司祭先生の祝詞を聞き耐えなければならない。


 繰り返す通り私語厳禁、代表の司祭先生は像に膝まづき、祝詞を唱え続ける、その他の聖職者の先生は泉を囲まれる形で座り唱える。


 俺達は祝詞が終わるまで震えながら待つのであった。





 祝詞の後、出るように促された俺達に司祭先生は話しかける。


「さて参加者は、ここで私達と共に一夜を過ごします。朝食は私たちが持ってきます。それを食べ、朝礼の時間になったら、この扉を解放します」


「そして聖櫃を解放し、中に入ります。中に入る順番は、ラミナ、ホル、クエルの順番、それぞれが仲間と共に入り、合図があったら次が入ることになります。それまで私たちの指示に従ってください。聖櫃に入った後は自由です、各自試練をクリアするように努力をしてください」


 全員が震えながらも頷く、風邪ひくんじゃないかと思ったが、何とか体が温まってきている。


 でもここに別室は無いし、となると俺もここで着替えることになるのだが、男が俺だけなので言葉も話せないのでどうしようとオロオロしていたが、先生が「私の指示があるまで後ろを向いてください」とフォローをしてもらったのは助かった。


 そしてウィズの像の前で先生と一緒に地面の上で寝るのであった。



――翌朝・礼拝堂



 荘厳の儀の始まり、全校生徒が集まるもシンと静まり返っている。


 この日ばかりは、セアトリナ卿は脇役、聖職者の先生たちが主役となる。


「参加者、入場」


 重厚なパイプオルガンの音色の下、閂が外されて俺達は礼拝堂の中に入る。


 全員の注目が集まる中、俺達は聖櫃の前に整列する。


「これより、荘厳の儀を開始します」


 と布を取った時、どよめきが起こる。



 聖櫃は不思議な光に包まれていたのだ。



「普段この聖櫃はこのような光に包まれておりません。この光はウィズ神が降臨している証だと言われて、どういう原理で我々も分からない聖なる光なのです」


 そして聖櫃が丸で見ているかのようにガラガラ音を立てて開く。


「…………」


 中は暗闇に包まれており、一寸も見えないのが不気味ではあるけど……。


「ホル・レベッツ、入りなさい」


 司祭先生の言葉に我に返ったホルはおっかなびっくりな様子で仲間と一緒に入る。


 全員が入り終わったところでそれを察知したかのように光が強く輝き、聖櫃が自動的に閉じられた。


「光が弱まり再び聖櫃が開かれた時、それが次の参加者への合図です」


 という司祭先生の言葉で固唾を飲んで全員が見守る、大体5分から10分程度かかるそうだが……。


 すっと光が弱まり再びどよめきが起こると、再び聖櫃が開かれた。


「ラミナ・ギクス入りなさい」


 その言葉と共に、ラミナと仲間達もまた聖櫃に入り閉じられる。


「…………」


 う、緊張してきた。


 いよいよだ、いよいよ次だ……。


 そして5分ぐらい経った後。


 光や弱まると、聖櫃が開いた。


「クエル・ケンパー、入りなさい」


 とクエルは息を吐くと彼女が先導する形で俺達も入る。


 そうして先と同じように聖櫃が閉まった。


「…………」


 閉じた後も暗くなることなく、不思議な光で照らされた先は緩やかに下り階段が続いていた。


「……話してもいいんだよね」


 とはファテサの言葉に全員が視線を下に向ける。


 自分たちの周りだけ照らされている形で、先は暗くどうなっているのかは分からない。


「まあ、どの道出たとこ勝負だ、俺が先導するよ」


 と俺が先導してゆっくりと階段を下る。


 時間にして数分程度だろうか、辿り着いた先は10平方メートル四方の小さな部屋だった。


 その部屋の特徴は、3辺全部にそれぞれ3つづ扉が設置されており開放状態となっている。


 その部屋の天井に近い壁に書かれているのは一つ。



――参加者たちは任意の扉に入り扉を閉じよ



 扉が閉まっているのは2つ、つまりこの扉の中にラミナとホルは入ったという事だ。


「先生、どうします?」


「まあ、これは司祭先生のいうとおりヒントは何もないから、適当に選んでいいんだろう、クエル、参加者として選ばれたのはお前だ、だからお前が決めろ」


「はい、じゃあ……」


 と左側の中央の扉を指さす。


「よし、決まりだ、俺について来い」


 と言いながら扉を開けて部屋に入り。


 入った先は、広さはこの部屋と同じぐらいの10畳ぐらいの部屋だった。


 全員が入ったところで扉を閉じた瞬間にガチリと鍵がかかると変化が起きた。


 すっと空中に、文字が浮かび上がる。



――荘厳の儀・第一の試練・開始



 文字が消えると同時に。



 部屋全体が光に包まれる。



(さあ、鬼が出るか蛇が出るか……)



 荘厳の儀、始まる。




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