第6話:教え子登場・後篇
――そんなこんなで
「はい、じゃあまず自己紹介ね、俺は神楽坂イザナミ、所属はウルティミス・マルス連合都市駐在官、階級は文官大尉、修道院第202期文官課程卒、趣味は演劇鑑賞と芸術鑑賞と読書、好きなジャンルは推理物と冒険物、よろしく」
と簡単に済ませると4人に問いかける。
「さて、根本的な事なんだが、どうして全裸だったんだ?」
「ああ、先生が赴任するにあたってさ、男の人が喜ぶシチュエーションを勉強したくてね、先生の愛読書をママ先生に頼んで取り寄せてもらったんだよ、それを参考にした」
「…………え?」
「確かに自己紹介のとおり推理物と冒険物も多かったんだがー、クエル」
「ちょちょちょちょ」
とここでクエルが持ってきたバッグからバサッと3冊の本を取り出す。
――「ハーレムを構築しようとしたが、想像以上に突き抜けてしまった件」
――「モテすぎちゃって、これからどうなっちゃうの~」
――「なんでお前ら俺の傍を離れないんだよ」
「ギャアアアアアアアアアア!!!!」
「それを超えるこの圧倒的なハーレム物の多さ、いやいや分析は簡単だった、とにかく美少女の裸裸裸のオラオラコンボ、好きだよね~」
「モオオオ!!」 ←ミミズのようにのたうち回っている。
「「「「はっはっはっは!(大爆笑)」」」」
こ、こ、この野郎、というか分かった、ナセノーシアか、なるほど、この4人の中ではリーダー的存在という事か。
しかも頼んだって、セアトリナ子爵にバレたんかい、ハーレム物ばっかり買ってたのバレたんかい、あんなシリアスな絶対服従とか言っておいて、ハーレム物が好きだとかバレてたんかい(〃△〃)
「そんな訳で愛人候補として先生の親睦を深めに来たの」
と向こうもまたあっさり言ってのけた。
「……まあいいや、親睦を深めるのは大歓迎だしな、だけど男の俺のところにいるってのは大丈夫なのか?」
「私達は愛人候補だからね」
「そ、そうか、それで片付くのか、凄いな、色々、だけど寮の門限間近だろ、帰らないといけないんじゃないか? 校則は厳しいと聞いたが」
「先生の試験運用はそもそも論として例外中の例外なんだよ、それは私達にも適用されたってことだよ」
「?? 何だよ急に、つまり?」
「この建物が不自然に大きいとは思わなかった? 私達も昨日引っ越し終えて、ここに住むことになった、つまり臨時の女子寮になったんだよ。先生はそこの管理人も兼務することになる」
(詰め込み過ぎじゃね、女子校の先生に女子寮の管理人とか、詰め込み過ぎじゃね、そうか、セアトリナ卿が何か言い淀んでいたのはこれだったのか、凄いなぁ、本当にハーレム物のオラオラコンボだ)
「先生も凄いよね、まさにハーレム物の主人公だよね」
「…………」
言葉が出なかった。
「まあいいか、あんまりよくないけど、となると、あそうだ、俺が担当する歴史なんだが、引継ぎを受けようと思ったんだが前任のヒネル先生が「産休」で不在だとかで引継ぎを受けられなくてな、だからお前達に確認したいんだけど」
産休、当然に邪神の影響なのは知っているが……。
「それについては、今、ケルシールで話題になっているんだよね」
とナセのアーシアが切り出す。
「それ聞いた、何か失踪したとか噂になっているんだってな」
「先生何か知らないの?」
「知るも何も、産休だから引継ぎ受けられないって話しか知らない、今日赴任して学院長からそんな噂になっていると初めて聞いたんだよ」
「そっかー、先生なら何か知っていると思ったんだけど」
「失踪って、なんか根拠はあるのか?」
「まずさ、突然過ぎるんだよね」
閉鎖空間であるが故に話題に飢えているケルシール女学院、特に先生の色恋沙汰ともなれば、全員のアンテナは高く、どんなに秘密にしてもバレるそうだ。
だが今回の先生については、ある時を境に姿が見えないと思ったら、突然産休と告げられて「停職」したという話を一方的に告げられてのことだったそうだ。
なお産休自体は珍しい話ではなく、子供産んだ後に復帰も認められているから、退職ではなく停職として扱われるのだそうだけど、事情を誰も知らないから、色々な噂が飛び交っているそうだ。
だけど……。
「うーーん、なんか、よくある話って感じだな、その先生の評判ってのは、どうなんだ?」
「いい先生だよ、生徒達の評判もいいし」
「部活の顧問何かしていたのか?」
「クロラ部だよ」
クロラとは、日本でいう囲碁と将棋の位置の知的遊戯だ。
格式も高く、上流の武の嗜みが王国剣術ならクロラは文の嗜みと表現してもいい。
プロのタイトルホルダーともなれば、上流の指南役としてのスカウトもある。
「どれぐらい強いんだ?」
「本気でやってたみたいだよ、アマチュア4段ぐらいの実力は持っていたみたい」
「そうか、となると一手ご教授願いたかったが」
「先生できるの?」
「つっても初心者用の本で勉強して一桁級位程度だよ、ちょっと強い人にはころっと負けるレベル、だけどあの自分の世界に没頭できる感じが好きなんだよね」
「そうなんだ、だったらクエルとも気が合うかもね、クロラ強いよ」
「そうなのか?」
「はい、色々と教えられると思います。棋力はヒネル先生と一緒のアマチュア4段ぐらいです」
「ほー! それは凄いな!」
「でもさ、さっきの話だけど、突然何処に告げずの失踪、面白そうだと思わない?」
「うーーん、まあ謎解きと考えれば面白いかもしれないが、セアトリナ卿からは深刻な感じは受けなかったぞ」
と聞いたところでヒソヒソと話し始める。
「やっぱり失踪なんてデマなのかな」
「噂は噂だからね」
「となればさ、機会があれば私達で調べてみるってのはどう?」
「先生、いい?」
とナセノーシアが聞いてくるが。
「構わんが、その時は俺も一緒にやるからな」
「……駄目って注意しないの?」
「別に、だが危なくなったら止めるからその時は従えよ、それと出来るだけお前達の動きは制限したくないと思っているんだ、リスクを背負っているからな」
「確かにバレたら罰掃除だものね」
「いや、そういう意味じゃなくて、ケルシール女学院生にとってリスクがあるって意味だよ」
「?? 意味が分からない」
「お前らも分かっているんだろう? セアトリナ卿は男女平等の象徴じゃない、男女不平等を利用していると」
「…………」
「セアトリナ卿が言っていたんだ「男を利用して成り上がるが、どの男を選ぶかはあくまで本人の意思」であると。お前らがここにいるというのは、そういう事だ。だから協力できることは協力したいとは考えているが、その前にはっきりさせておきたいことがある」
ここで俺は言葉を区切ると全員に言葉を放つ。
「俺は愛人は囲えない、別にカッコつけているわけじゃない、理由は金がないからだ」
「あれば囲うんですか?」
これはクエルの言葉。
「うーーーーーーん、正直分からんなぁ、金持ちになるってのが俺にとって非現実的なんだよ、なる予定も無いし。ただ金を持った男が愛人囲うのは気持ちは分かるかな」
「分かるんですか」
「幻滅したか? まあ実際、仮に俺が外れだった場合、俺と一緒に住むってことは貞淑という意味において致命的とも言っていいからリスクと表現したんだよ、つまり今後俺以外の男がどう見るかという事だよ」
俺の言葉ため息をつくのはファテサだ。
「……そういうことをはっきり言うあたり、噂通りなんですね。ってことは、首席監督生をしていた時に、自分を裏切った後輩の為に、その裏切を完遂させるために尽力したってのも本当ななんですか?」
「よく知っているな、バカボンのおかげで苦労してな、アイツもあれだけ高い能力を持っているのに、どうしてスパイなんてさせるのかが分からない」
「原初の貴族の次期当主をバカボン……」
「はい、というわけで、俺は俺のやりたいようにやる、それは通させてもらうぜ、それにお前達も従ってもらう、といっても頭ごなしじゃない、俺に譲れない時があるってことだよ、その時は従えって話だ」
「先生、従えは良いけど、ケルシール女学院はママ先生がいる、私たちだけじゃない、先生方も誰も逆らえないけど」
「セアトリナ卿には了承済み、譲れない時はセアトリナ卿も俺に従ってもらうとな」
「ええ!!?? マ、ママ先生に!? よくそんなこと言えたよね!?」
「そりゃそうだよ、言うべきことはきっちりと言わないとな。無論セアトリナ卿に従う選択肢を選ぶことも出来るが、その場合俺のコストパフォーマンスは思いっきり落ちるし、その場合は俺は「首を飛ばされて」しまうよ」
「……いやいや、そう考えて本当にママ先生に言えるってのは思いっきり少数派だと思うけど」
「細かいことは良いの、まあなんかあったら言ってくれ」
「というか先生もそこまで言ってくれるのなら、私達も先生の事って色々聞いていい?」
「どうぞ」
「先生って神との繋がりがあるって本当なの?」
「急にストレートに来たなぁ、まあ、無いわけじゃないわけではない」
「どっち!?」
「そこら辺は言えないのだよ、橋渡し役だからね、言えるのはそれぐらい」
「修道院最下位って本当?」
「それって本当によく聞かれるけど、本当だよ、政治的介入は一切なし、実力どおりの成績だよ」
「でも王子の側近に取り立てられたんでしょ?」
「それもよく聞かれるけど王子とは友人なの、一緒に遊ぶ仲間なのさ」
「アーキコバの物体の解明は?」
「それも聞かれるなぁ、メディは知っているか?」
「知ってるよ、私達も先生の資料は読んだし、メディさんはマルスで診療所で医者をやっているけど、実際は医学者としての功績が凄い人でしょ?」
「本人にとっては不本意だそうだがな、そのメディが9割5部論文を書いたんだよ、俺はまぐれで謎を発見して、おまけで受勲したんだよ」
「でもドクトリアム卿が後ろ盾になったよね?」
「お偉いさんが何を考えているのか俺にはよく分からんのですよ、どっちかというとその恩恵はウルティミスの幹部達の方が上手く活用している」
「ラメタリアの傑物、ワドーマー宰相と戦って勝ったとか」
「それもデマ、というか何でそんな噂が出たのかわからない」
「でも先生が言ったとおり首席監督生に選ばれたんだよね?」
「監督生の選出基準が、功績をポイント化しての上位から選抜される。その貰った勲章が凄いポイントを持っていたからな。正確には「規定でそう決まっていたから選ばざるを得なかった」が正しい」
「モスト息との険悪なのは本当に本当なの? 殴り合いをしたって聞いたけど」
「今まで話した俺のこういう所をアイツは凄く嫌っていてな。アイツも能力は凄いんだが、気と器が致命的に小さい。んで監督生の時もさっき言ったとおり俺にスパイを送るという幼稚な嫌がらせをしてきてさ、それだけなら許せたんだがな」
「ゆ、許せるの?」
「ああ、アイツもアイツでドクトリアム卿の劣化コピーなんて言われているのは分かっているし気にしているっぽいなと思って、華を持たせてやろうとは思っていたのさ。だがスパイに利用された奴が使い捨てられてな、たから流石の俺もキレて喧嘩を売ったの」
「ど、どんな感じで喧嘩を売ったの?」
「ん? 面と向かって「スパイなんてくだらない真似をさせるとは流石劣化コピー」みたいなことを言ったら凄いキレてな、やっぱり気にしていたんだなと思ったものだよ」
「「「「…………」」」」
絶句している、というかちょっと引いている。
「で、でもドクトリアム卿は先生を切っていないよね?」
「だからお偉いさんが何を考えているのか俺にはわからんのですよ」
「え、えっと、そう! エンチョウのマフィアを皆殺しにした虐殺の指揮を執り、結果世界最悪最強の危険亜人種であるボニナ族配下に従えたのは?」
「あんまり口外しないでほしいのだが、ボニナ族って部族の悪口と彼らが定めた掟さえ軽んじなければ、むしろ温厚でいい奴らばっかりなんだぜ、だからボニナ族は支配下ではなく友人がいるって形だよ」
「先生は愛人は何人欲しいの?」
「そうだなぁ、って1人もいらんわ! というよりも愛人なんて囲えるほどの金はないって言ったでしょ!!」
「わかった、んでクォナ嬢とネルフォル嬢との関係は?」
「ああ、聞かれると思った、普通に友人だよ」
「惚れられているとか噂があるけど」
「普通にデマ、本当だとしても正直あの2人が俺の何処に惚れているかよく分からん」
「…………」
質問は終わったのか、ナセノーシア達は圧倒されたみたいで、しばらく呆然としていたが、ヒソヒソと話し合って、何やら考えているようだが。
「先生から私たちに聞きたいことはないの?」
と聞いてきた。
「今のところは特に、親睦は徐々に深めていくのが面白いと思うからな」
「ん、なら次で最後、というか、先生の活動についてなんだけど、さっきの私達と一緒にいるって話の発展形で、課外は私たちの部活動の臨時顧問をしてもらうからね」
「…………部活? それは初耳、なんの部活?」
「日常部」
(日常部……)
ああそうなんだ、もう突っ込むまい。
「ママ先生からは、放課後は先生と交流する以外は特に言われていないからさ、お願いね」
「って日常部って何の活動するんだよ、ダラダラするのか」
「そんな日もある、そこはおいおい、やってみると面白いと思うよ」
「わかった、そこは楽しみにしておこう」
「こっちも先生の授業、楽しみにしているね」
「あ、そうだ。授業で思い出した、ていうか丁度いいか」
とカバンの中をゴソゴソと漁る。
「これから勉強の時間だ、何処まで進んでいるのか、色々と教えてくれ」
と教科書を取り出して振り返った先。
そこには誰も居なかった。
「……まあそうか、俺も勉強って聞いたら逃げてたっけ、ユサ教官、ごめんなさい」
しかし、やたら個性的な奴らだったな。
あれが、俺の愛人候補達か、何か自分で言って全然実感がない。
「…………」
どうなっちゃうの~って、本当にどうなるんだろう。