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ミローユ先輩の結婚式:後篇


::後篇



 大々的にやらないのであれば手間は多くない、というか俺はおばちゃんを先輩に紹介しただけで、後はパーティー会場の飾りつけが主な任務だった。


 そんな手作り感あふれるパーティー会場、いよいよ本番当日。


 その会場の横ではウィズ教教会があり、教会の調理場を借りて現在メトアンさんが人数分の料理を作っている。


 ミローユ先輩は、完成したドレスをいたく気に入ったらしく、これを着るのをずっと楽しみにしていたそうで、今は教会で設けた着付け室で女性陣と一緒にキャッキャフフフ♪しているそうな。


 まあ平和なのは良いことだ、そんな俺の役割は受付係、皆色々と忙しいので、俺が一番早くに来て、席順表を渡す段取りとなっている。


(立っているだけと割と暇なんだよな、受付係、今日はお客さんも絞ってあるし)


 誰が来たかチェックするだけの簡単なお仕事、ちなみに俺もおばちゃんに頼んでフォーマルな服装を一着注文して作ってもらっていて着ている。


 招待客は、いつもの仲間の面々ではあるが、王子だけはどうしてもスケジュールの都合がつかず来ることができなかった。


 その代わり追加で来ることになった人物もいて、時間的にそろそろかと思った時だった。


 教会の前で5台ほどの馬車が到着する。そこに刻まれた紋章を見て、ちょっと気が重くなる。


 そしてその人物は多数の取り巻きを伴って現れた。


「お久しぶりですね、神楽坂大尉」


「……お久しぶりです、セアトリナ子爵」


 そう、目の前に現れたのはウィズ王国の大物の1人、女王、セアトリナ・ケルシール・ノトキア子爵だ。


 それはそうか、普通に出歩いていい存在じゃないんだよな。


「ようこそ、結婚式へ、えっと」


 という俺の言葉を待つまでもなく、セアトリナ子爵は周囲に命ずると1人の女の子を残して全員その場を立ち去った。


 その残された女の子、思えば初対面だが当然に誰かは分かる。


 セアトリナ子爵から是非にと申し出があり、先輩も了承した招待客だ。


「挨拶なさい、フロア」


 セアトリナ子爵に促され、その女の子はドレスの両端を摘まみ上げ、見惚れるような優雅な仕草でお辞儀をする。


「初めまして、神楽坂イザナミ文官大尉、私は修道院文官課程第204期、貴族枠入学、フロア・ケルシール・ノトキア、セアトリナ母様の長女、次期当主ですわ」


(この子が、今の期の貴族枠の王……)


 トカートから聞いている、既に女王の片鱗を見せており、子爵家の次期当主として着々と実績を積み上げているそうだ。


 彼女はモストと同様取り巻き達を作ってはいるそうだが、その目的は自己承認欲を満たすためだったモストとは真逆、本当の意味での貴族枠を体現したと言われている。


「フロア、この神楽坂文官大尉と仲良くしておきなさい。彼の周囲の雑音は所詮は周囲に同調したものにすぎません。この方は将来名君としてウィズ王国史に名を残すフォスイット王子に認められた側近中の側近、既に王子を表ではなく裏から支えている国家最重要人物ですから」


(それをわざわざ俺の目の前で言うのがまた……)


「分かっております。神楽坂大尉の功績は枚挙に暇がありません。神楽坂大尉」


「は、はい」


 すっと、自然にフロアは俺の手を取る。


 手を取られて握られるまで気が付かなかった、それ程に自然な手の取り方だった。


「神楽坂大尉、どうぞ私を「配下」として使ってくださいませ」


 と人懐っこい笑顔で言った。


「……そ、そんな、はは、配下とか、大げさなだなぁ、きき、君は将来の子爵様だし、そそれに、配下というのなら、俺の配下じゃなくて王子の配下じゃないかなぁ? そ、それに、なっても部下じゃないかな?」


「いいえ、配下で正しいです神楽坂大尉、そうそう、お会いした記念として一つ土産話を」


「な、なんすか」


 すっとこれもまた自然に俺の耳に口元を近づくと囁く。


「ケルシール女学院の特別枠の3人が貴方に興味を持っています」


「…………へぇ?」


「全員美人で淑やかで身持ちが固く一途にお慕い申し上げていると」


「フロア」


 少し咎めるようなセアトリナ子爵にすっとフロアは離れる。


「出過ぎた真似はよしなさい、その事はまだ内密だと言ったはずです」


「失礼いたしました」


「神楽坂大尉、今の言葉は忘れてください、えっと、ミローユは何処にいますか?」


「……今は、教会の控室でドレスの着付け中です、話すぐらいはできるかと」


「ありがとう」


 と2人はそのまま連れ添って教会の方へ向かった。







「クソババアいったみたいだね~」


 と手をひらひらとさせながらネルフォルが一足遅れてひっそりと到着する。


「ネルフォル……」


 と先に来ていたクォナが咎めるが。


「別にいいでしょ? アンタと一緒、セアトリナ卿とは相性が悪いのよ、ってまた引っ叩かれたの?」


「流石に公衆の面前でそれをするような方ではないのは分かっているでしょう、今はユニアが相手をしているわ」


「おおう、流石ね、って……」




「…………」←無言で体育座りで壁に向かって座っている神楽坂




「ダーリン、どうしたの?」


「……セアトリナ卿とフロア嬢の「毒気」に充てられて」


「あらら、あの様子だと特別枠の件も耳に入ったのかな?」


「って、本当の話なの!? 噂には聞いていたけど!!」


「そう、有名な話でしょ? イザナミの「愛人候補たち」の話、特別枠の中で選りすぐりの美少女達って話」


「現実味がありません! ご主人様は身分はエリートと言えど官吏、金持ちではありませんわ! 複数の愛人を抱えるのは現実的では!」


「何言ってんのよ、それでもいいって話だよ、ひょっとしたら私達と同類かもね」


「…………まあ、そうですか、となれば……」


 と鉄扇を持つと、ギギギと力を入れて。


「その愛人候補たち、どうしてくれようかしら? 原初の貴族の一門、シレーゼ・ディオユシル家直系の男に手を出して無事に済ませるのは、イカガナモノカシラ?」


 バチンと折れる。


「おお怖い、つーかアンタの男じゃないけどね。でもケルシール女学院だと私達じゃ手出しは出来ないよ、どの道ね。しかもあのクソババア、だからフォスイット王子に接触しているみたいだし」


「王子……確か今日は、来れないという話でしたが」


「接触した内容は極秘で情報は王子が良しと判断しない限り、私たちが知ることはないだろうね」


「…………」


 ギリリと唇をかむクォナ。


「ま、王子は凄い人だけど、ダーリンと一緒で女が絡むと駄目だから、シナリオ通りに進むんじゃない?」


「さっきから、余裕があるのね?」


「言ってんじゃん、イザナミはちょっと紳士すぎる。エシルから聞いたけどボニナ族の見分の時もビビッて手を出さなかったみたいよ。でも絶対に押しに弱い、そしてそれを知るであろう愛人候補たちを全員食って欲しいのよ、そうすれば男としての魅力が一段階あがる、そしてその上で奪えばいいじゃない?」


「よくない私は絶対に許さない! だけど、そうね、ご主人様も男、誘惑に負けて仮に他人の物になっても奪えばいいというのは、悪い発想ではないわね」



 と肉食獣2人の会話から少し離れたところで。



「クイクイ」←たまたま近くを通りかかったセレナの袖を引っ張る神楽坂


「わあびっくりした! なに? 何こんなところで座ってんの!? 受付係は!?」


「あ、あの、さっき、俺、ケルシール女学院のフロアから、ケルシール女学院の特別入学枠の何人かが、俺にね、興味を持っているとか、言われたんだけど、嘘だよね?」


「…………神楽坂大尉」


「な、なに?」


「まあ、人生いろいろあると思うけど、頑張ってね」


「え?」


「じゃ! 私は準備を手伝わなくちゃだから! じゃあね!」


 と足早に立ち去ったのであった。


「…………」


(もうヤダ……)


 とシクシクと泣く神楽坂であった。




――




 セアトリナ母娘がミローユと会って話をしている時、また1人別の招待客が来る。


 メトアンは、その来訪を告げられると、料理の最後の仕上げを終えて、挨拶をしにウキウキ気分でその招待客の下へ小走りへ走り……。


 その姿を見て立ち尽くしてしまった……。


「…………メトアン、か」


 前の前にいた人物、それは車いすに座り、横には奥さんに付き添われ、首だけかろうじて動かして、そう話しかけるのは、かつてのラウォリナの首席料理人であるメトアンの師匠だった。


「…………」


 言葉が出ないメトアンに付き添いの奥さんが代わりに説明してくれた。


 それは突然に訪れた、体が動かなくなり全身の筋肉が衰える病気にかかってしまったのだ。


 色々な名医と呼ばれる人たちに診てもらったが、進行を遅らせることしかできず、今は魔法都市ウルリカの有名な回復魔法使いに魔法をかけてもらっている状態だそうだ。


 引退の際も、治らないと悟った時、誰にも言わずすぐに引退を決めたのだそうだ。


 幸いにも料理人として破格の報酬を受け取っており、散財もしない性格であったため、そのまま隠居生活を送ることが出来たそうだが。


 引退を誰にも言わなかった理由、それは……。



 プライド。



 多数の弟子を抱え、筆頭料理人として名をはせた料理人としてのプライド。かつての師匠としての姿をそのままにしておきたかったのだ。


 だが今回、元弟子であるメトアンの結婚式の招待を受けた時、この姿を見せててでも受けると決めたのだという。


「お前が、料理を作ると、聞いたからだ」


「っ!」


 その言葉と気持ちを黙って受け取り、そのまま奥さんと共に招待席に座り、一礼して教会の方へ戻っていった。


(メトアンさん……)←復活した神楽坂




――結婚式




 そうやって出席者が揃い、メトアンさんと先輩の結婚式が始まる。


 ウィズ教の教会でウィズが祝詞を読み上げ、主役が登場する。


「わあ……」


 誰の声だろう、純白のドレスを纏った先輩の姿に特に女性陣が熱心に視線を送る。


(へー、化ければ化けるもんだね、化粧もばっちりで美人に見える)


 当然口には出さないし出せないけど、その横ではメトアンさんが滅茶苦茶緊張していたのがちょっと面白かった。ちなみに2人の1歳になる赤ちゃんは、ミローユ先輩の母親が抱っこしてスヤスヤ寝ている、可愛い。


 そんなこんなで、結婚の儀が無事終わり、そのままメトアンさんは、料理人の服に着替えると、料理の総仕上げを始める。


 ちなみに花嫁であるミローユ先輩は「メトアンの好きにさせる」とばかりに、ドレスを着たままで女性陣と客席で話している。そんなフランクな雰囲気がいい感じ、あのセアトリナ母娘も普通に交じって会話をしているのが何か不思議な光景。


 まあ女性陣は女性陣で楽しんでいるからいいとして、俺が気になるメトアンさんだ。


 料理を運ぶ上で師匠さんだけにはメトアンさん自ら給仕をして、前菜を出す。


 どうするんだろうと思ったが、師匠さんは、料理をじっくりと眺めると……。


「……食べさせてくれ」


と隣の奥さんに頼んで、サラダとスープを口に運び、咀嚼して呑み込む。


「ふう」


 食べるのも苦労するのかため息をつく師匠だったが、それを見届けてメトアンさんは、再び厨房に戻り、その後もずっと師匠さんにだけ自分で給仕し、食べるのを見届けて厨房に戻ることをを繰り返す。


 そして料理も最後のデザートを残すことになり、師匠さんはそれを無事に食べ終わる。


「…………」


 じっと講評を待つメトアンさん。


「ラクォリナの9席を、叙された時の、お前の料理は、傲慢の一言だった「俺の料理を食え」とな、だから、食べるに値しなかった、味以前の問題だった」


「だが、今のお前は、ずっと私の反応を見て、味付けを変えて、料理を変えた、それは結婚して、家族を持ったからだろう」


「腕をあげたなメトアン、うまかったよ」


「っ!!」


 ぴくっと震えるメトアンさんは、そのまま師匠の手を取り、お互いに涙を流したが。


「主人は、家で仕事の事は一切話しませんでしたが、貴方が入ってきた時だけは、それはそれは嬉しそうにしていたんですよ「ついに自分の後継者が入ってきた」と」


 突然に奥さんの発言にびっくりするメトアンと師匠。


「お、おまえ、それは」


「だから絶対に褒めないと決めたそうです。褒めれば満足してしまうからだと。だから貴方が腕をあげてラクォリナの9席に叙された時はそれはそれは喜んでいたんですよ」


「…………」


 メトアンからすれば信じられないの一言だ。師匠から怒られるのは日常、徹底的に怒られた、認めてなんかすらもらえなかった。


 他の弟子にはどんどん師匠に褒められて認められ、後輩が独立をどんどん許されるなか自分は一切許されなかった。師匠からは何年たっても「3流料理人」だと怒られ、それに同調する料理人も多数いた。


 そんな自信喪失の日々、だけど師匠の言っていることは正しいというのは分かったし、付いて行けばいくほど自分の腕が上がることも分かっていた、だからこの人に絶対についていくと決めて食らいつくようにして修行に励んだ。


 そしたらいつの間にか世界の食通たちから絶賛され、原初の貴族も固定客を持つに至る。ここでやっと自信を持ち始めたメトアン。


 だが超一流の料理人の証である、当時空位となったラクォリナの9席を叙されることになったのだが、実は筆頭料理人である師匠だけ唯一反対したのだ。「未熟者に与える地位ではない」と。


 とはいえ結果、次席を始めとした師匠以外の全ての10席までの料理人が賛成し、オーナーも「これほどの料理を作るのならば問題なかろう」ということで結果9席を叙されることになった。


 9席に叙された時は長年の苦労はこのためにあったのだと嬉しかった。師匠は認めずとも「自分はこれで超一流の料理人と認められた。俺の料理は素晴らしい、それは世界の食通たちが証明している」と得意の絶頂だったそうだ。


 だが結局は師匠にコテンパンにされて、雪辱を果たせず、しかも突然の引退の報を聞き、理由を聞こうにも答えてくれず、辺境都市に帰ってしまい、会いたいと手紙を出しても「料理人として認めてやれば会ってやる」とだけで一切会おうともしてくれなかった。


 あの時の目的を奪われたような喪失感は相当なものだったが、でもミローユとの再会をして再び付き合い始め、結婚して、子供を授かり、かつての焦燥感の様なものはなくなった。


 そうか、そうだったんだ、認めてもらえていたんだ……。


 厳しい愛情、そう、分かっていたじゃないか。


 周りが色々言おうとも……。




――自分の期待が高ければ高い弟子程認めなかった人だったことを




 涙を流し続けるメトアンに師匠は慌てた素振りで首だけ動かして妻を見る。


「お、お前は、男の矜持というものを」


「それと貴方、さっきから聞いていればなんですか」


「え?」


「この場は修行の場ではありません、弟子に対してはなく、招待客として別にいうことがあるでしょう?」


 という言葉に。


「だから、それは」


「ちゃんと言ってください、四の五の言わず」


 と静かに諭されて、バツが悪そうな顔をする師匠だったが。


「結婚おめでとう、メトアン」


 とぶっきら棒に述べて、メトアンさんは頭を下げたのであった。







 師匠か……。



 メトアンさんとあの師匠という関係ではないけど、周りの雑音を置いておくとして、実際にミローユ先輩を尊敬しているのかと聞かれれば間違いないく尊敬している。


 理由は簡単、能力が高く努力をする人であること、そして他人ちゃんと見ることができること、その上で策を弄することが出来るからだ。


 自分の評価は他人が決める。


 だからこそ「優秀という評価は能力の評価ではない」のだ。


 そして「能力の高さを評価された上で優秀と評価される人物」というのが如何に稀有な存在であるかは言うまでもない。


 それは世界最難関と言われる修道院だって例外じゃなかった。


 俺の同期で能力を評価されて優秀な同期は1人もいなかった。まあこれは能力がそれこそミローユ先輩を超えるモノを持っていても致命的なまでに気と器が小さいが故に害しかもたらさないモストの「悪行」である結果ではあるけれど、そういう意味では、俺の期は特殊かもしれない。


 だけどミローユ先輩は間違いなく「能力の高さが評価され、更に優秀な評価を得ている」人物であることはよく分かった。


 視野も広く、気が利く人、あのユサ教官も一目置く人だ。


 思えば宿屋での俺の使い方も修道院であれだけ最下位だ無能だ等、散々な俺の風評に惑われず「長所も短所も見抜いた上」での運用だったから、こき使われたけど楽だった。


 だからこれからも関係を続けていきたい、そう思える「いい先輩」だ。


 だから色々考えた、この結婚式参加にあたり、俺が後輩として出来ること。


 それは尊敬する先輩が幸せな結婚生活を送るために役に立つことであるということ。


 そして俺には「男」として出来ることがある。


 決意した俺はミローユ先輩に近づき話しかける。


「先輩、いいですか?」


「ん? どうしたの神楽坂?」


「先輩、まあなんだかんだありつつも、先輩のことは尊敬しています。そして私はその先輩とメトアンさんとの結婚について、末永く幸せになって欲しいという思いは本物なんです。メトアンさんにも可愛がってもらいましたし」


「……は? なに急に?」


「先輩、いいですか、先輩はどうにも男心の理解が足りないので、メトアンさんに愛想をつかれるのは流石に可哀想だと思うんですよね」


「…………」


「となれば私のできることは一つ、男心が分からない時は私に言ってもらえれば、ちゃんと正直に答えます。男ってのは女の前ではカッコつけてしまう生き物ですが、先輩の前では私はカッコつけません、赤裸々に男心を語りましょう」


「…………」


「あ、もちろん先輩が全部悪いだなんて言いませんよ、男女の仲でどちらが悪いという事はありません、メトアンさんにだって原因はあるのでしょう。ですけども先輩との付き合いで、男のプライドを平気で踏みにじるのは駄目なんです、これはもう理屈ではありません。それをすると男は愛想をつかし、家に帰ってこなくなるか、別に女を作るのです」


「…………」


「特に先輩のお子さんは一歳、大変な時期ですよね、宿屋の運営と子育て、当然にミローユ先輩の疲れも尋常ではないとは理解しています。ですが男とはそういう部分がどうしてもあるんです、わかりますか?」


「…………」


「…………」


「神楽坂」


「はい」


「ちょっとこっち来て」←手招き


「? はい、なんでしょう?」←ススッと近づく


「ふん!!!」←両側からこめかみを思いっきりグリグリする


「ギャアアアアアア!!!」←もんどりうつ神楽坂


「んなことは分かってんだよ!! この祝いの席に本当にアンタは!! だからモテないんだよ!!」


「ギャアアアア!! イダダイダダ!!! 先輩ギブギブギブギブ!!!」


「ポイ」←そのまま捨てるミローユ


「ぐふっ」←ぱたりと地面に倒れてピクピクする神楽坂


「パンパン」←手を払うミローユ


「あ、貴方達って、本当に仲がいいのね」


 そんなやり取りを若干引き気味に見ていたセアトリナ子爵が話しかける。


「仲がいいって言うんですかね、フロア嬢」


「は、はい」


「ちなみにコイツの今の言葉って嫌味でも何でもなく100%善意で言っているとか言ったら信じます?」


「え、ええ~、ぜ、善意、ですか?」


「ですよね、失言にしか聞こえないですよね? 喧嘩売っているようにしか聞こえないですよね? 本当にこんな奴の配下なんて言っていいんですか? こいつは死ぬまでずーーーっとこんなアホなことを繰り返すアンポンタンですよ?」


 とミローユの返しに引きつった笑いを返すが……。


「でも、この方を「支配下」に置くことは出来ませんから」


「…………」


「一見して御しやすいように見えるから軽く見られるけど、これほどまでに強固な自我を持つ方を他に知りません。私は今まで数々の人物を洗脳してきましたが、この方を洗脳するのは無理ですわ」


「それにこの方は自らを支配下に置こうとした人物という時点で「取り巻きが必要な器の小さい人間」と判断し「わざと逆らって相手の器を確かめる悪癖」を持つ方です。モスト息などはその最たる例です。モスト息は神楽坂大尉を馬鹿にする言動が多いですが、それ以上にモスト息を下に見る言動が多いのが実は神楽坂大尉です」


「要はこの方は自分が認めた人物以外に従うことはない、そしてそれを相当に露骨に出します。そして神楽坂大尉が従うと決めたその人物がフォスイット王子」


「だからこそ、私は「配下」でいいのですよ。我がノトキア子爵家の為に、ねえ母様」


「そのとおりだけどフロア、前々から注意しているけど貴方は少し言葉を使いすぎる。確かにミローユは信用できるけど誰が聞いているか分からない。モスト息についての批判言動は間違っても口にしてはならないと教えた筈よ。神楽坂大尉がそれが許されているのは特殊中の特殊だと考えなさい」


「はい、申し訳ありません、お母様」


「…………」


 ここでミローユは理解する、ふむ、成程、今の言葉に嘘はないけど、多分この子は神楽坂の事を……。


「まだまだ未熟なのよ」


 と小声で話しかけてくるセアトリナ。


「まあでも、修道院生としては適切な評価ですよ、だから私も監督生としての加点は0点にしたんですからね」


「貴方の神楽坂大尉に対しての0点とあの子の0点は意味が全く違うわ」


 とお互いに分かり合ったように笑う2人を怪訝そうな顔で見つめるフロア。


「さて、ごめんなさいね、ミローユ、貴方のお祝いの席なのに」


「いいえ、まあ可愛い後輩のためですからね。でも頼みますから本気でおちょくるのだけは辞めてくださいよ」


「もちろんよ」


 と笑顔で返すが、何処まで信用していいのやら。


 というのもこの人の男の気に入り方は二つに分かれる。


 一つは普通に男性として好みである場合。


 もう一つは存在としての好みである場合。


 んで神楽坂が後者なのはもうわかっているから心配だ、この人の本気のおちょくり方は害をもたらさない分、色々と質が悪いのだ。


 とまあ、そんな色々な事を考えつつ、結婚式は無事に終わる。


 しかし結婚式なのに色々な思惑でみんな好き勝手していたなぁと思う。


 もう1人の主役である夫は結婚式どころか、式が終われば自分を放り出して師匠さんとの会話に夢中だし、自称自分を慕っているこのアンポンタンは100%善意の失言を繰り出して、お仕置きして床にピクピクと震えているし、それでいて「自分の師匠」は色々と思惑があるみたいだし。


 でもまあ…………。


「ミローユさん」


 と話しかけてくれるのは、クォナ、その後ろには連合都市の女性陣達、自分もこうやって改めて付き合いが増えた。


 その付き合いは、まあ、そこに寝っ転がっているアンポンタンのおかげでもあるのだろうか。


(まあ、私らしいかもね)


 まあ面白くなりそうではあるかと、そう納得したミローユでありました。




――おまけ:結婚式が終わり・数刻後




「ぶえーーーっくしゅ!!」←地面に転がされた後復活した神楽坂


「…………」


「…………」


「…………放置かーい(ビシッ)」




:::おしまい


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