神楽坂と仲間たちと……:後篇
:::::後篇
翌日、顔を真っ赤にしながら「今日は俺が案内するから! よろしく!」と意気込むデアンに何かを察したエシル、そしてその空気を読みそれを任せ何も言わないタドー。
そこからのデアンは頑張った。
頼りになるところを見せるとばかりに必死にエシルをリードし、必死で連合都市をアピールしていた。
デアンのそれは一方的に早口でまくし立てているようであったけど、意外にもエシルはデアンの話を嫌がらずに聞いている感じ。
決して愛想があるわけではないが、適宜質問を交えて会話を進めていた。
この必死のデアンの姿、痛ましい、とは失礼の表現になるが、羨ましくもある。
(一目惚れかぁ~)
思えば俺に一目惚れの経験はない、それに気になるのは……。
「なあタドー」
と小声で話しかける。
「ええ、本気みたいですね、デアン」
「うん、デアンって勝気な女の人が好きでさ、一目惚れっぽい」
「一目惚れですか、それであんなに頑張れるなんて少し羨ましいですね」
と俺と同じことを思っていたタドーの言葉は俺にとっては意外だった。
「いいのか?」
「え?」
「いや、成就するか分からないけど、ボニナ族と他種族との恋愛になるし、まあ今回の動向を許可をしたのは俺だけど、色々と」
「いいんじゃないですか、個人の自由ですし」
「そ、そんなものなのか」
「というよりもボニナ族は単一民族ではあるんですけど、それは掟ではないですから。現にそのエシルの母親は原初の貴族のツバル・トゥメアル・シーチバル家当主の第三夫人ですし、ボニナ都市じゃなくて首都に住んでますよ」
「え? そ、そうなんだ、その、エシルの母親との結婚って」
「普通に恋愛結婚だそうですよ」
「え!?」
「当主が惚れこんでワイズ街長を説得したそうです、第一夫人と第二夫人は政略結婚だったそうだが、初めて恋愛結婚をしたいと、そう言ってきたとか、ボニナの間では有名な話です」
「…………よ、よく、そんな文言で許したな」
「というよりも街長は「赦すも何も、エシルの母親も惚れていたからな、なれば後は2人の問題だ」だそうで」
「そ、そうか、なんか色々と凄い話だなぁ」
「それよりも一番大変だったのは、政治的陰謀を勘ぐられて大変だったと言っていましたよ」
「むう……」
とまさに政治的陰謀を考えていた自分としては黙るしかない。
陰謀とは幽霊と一緒だ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
それに惑わされるのは駄目だって分かっているけど、俺も自分で何度も諫めているが中々難しい……。
と色々と考えている時だった。
いつの間にか離されてしまったが、デアンは何かをエシルに言っており、エシルは頷くと、デアンはそのまま走り去ってしまった。
あれれ、まだ案内する場所は残っているんだけど、と思ったらエシルは俺達に近づいてくるとこういった。
「大尉、今日の夜、デアンに飯誘われて一緒に食べることにしたから、いい?」
「…………」
「…………」
「ええ!!??」
も、もう、告白するのか、は、早くないか。
と思いつつエシルは「いいなら、案内はもういいよ」とのことで、一人でとっとと帰ってしまったのであった。
「タ、タ、タドー、展開が早すぎて何がなんだが……」
「ま、まあ、悪いことだとは思いませんよ、思い切りの良さはエシルにとって印象は悪くないと思います、だから夕食の誘いを受けたんでしょうし」
「「…………」」
「とと、とりあえず、自警団に戻るぞ! なんかこっちも案内どころじゃなくなった! まあ地理は自警団員達と遊ぶ上で覚えていくと思うから! そんな感じで頼む!」
――そんなこんなで
デアンは急いで自宅に戻り、自警団としての貰ったアルバイト料の貯金を必死でかき集め、速攻で夕食もマルスで洒落た店を予約し、簡単な小物のプレゼントまで用意した。
待ち合わせはマルスの正門前、来てくれるかどうか不安だったが、時間きっかりに現れたエシルに飛び上がって喜ぶとそのまま店に行く。
食後の散歩デートも必死でリードをして辿り着いた先が、マルスを一望できる高台に連れていく。
「し、知ってる? って知らないよね! ここはさ! 俺達自警団員達が見つけた秘密の場所で、その、あの、すすす、好きな女の子が出来たら、連れてこようって決めていたんだ! だからエシルさん!」
「…………」
「あ、あのあの、まだ会ったばっかりで、いきなりで、こんなだけど」
「好きです! 付き合ってください!!」
と精一杯のデアンの言葉に、エシルは少し考えた後……。
「私はさ、強い男が好きなんだよ」
「え?」
強い男、強いって、確かボニナ族は素手でマフィアを捻じり殺したというぐらいの腕力があるって神楽坂が。
「そ、それって!」
「違う私が今言ったのは腕力が強さって意味じゃない。むしろただ腕力が強いだけなんてのはボニナ族の女には全然響かないんだよね。私はむしろその腕力が弱い奴が強い奴に勝つってのが痺れる、何故ならそこには絶対に「弱者の強さ」があるからさ、それが私の好きな男のタイプって奴なんだよ」
「…………」
言いたいことは何となく理解できるが、意味が呑み込めないデアン。
「んー、分かりづらいか、例えばさ、神楽坂大尉は凄い人気だよ」
「え!? 団長が!?」
「付き合いがあるなら分かるでしょう? 神楽坂大尉は、無能とまでは言わないけど凡人であることに。その凡人である神楽坂大尉が起こしたマフィアと私達との戦争、その内容については少しは話は聞いているんでしょ?」
「…………」
全部を話してくれるわけではないから知らないことの方が多いけど、マフィアを皆殺しにしておいて撲滅なんて「欠片も信じていない」というのは分かったし、神楽坂らしいとは思っていたけど。
「神楽坂大尉は、その戦いを虐殺ではなく戦争にまで昇華させた。その中の過程で神楽坂大尉はマフィアを追い込み、結果私達を「導く者」となったこと。ワイズ街長たち幹部達にも一目置かれる存在となったの」
「そ、そこまで?」
「ええ、これ以上のことは言えないけどね。だからボニナの女たちは沸き返ったんだよ、外見は冴えない中身はもっと冴えない男がとてつもない男だったってことが分かったからね」
「そそ、それって! エシルさんは!」
「私は違う、私は、神楽坂大尉の強さは……全然響かない、むしろ……」
「むしろ?」
「なんでもない、話を元に戻すけど神楽坂大尉は結果「女を自由に、しかも複数選べるぐらいモテた」ってことだよ」
「…………」
話をじっくりと聞いていたデアンであったが……。
結局は駄目だってことだ。
何故なら俺はその響く強さを持っていないからだ。
そんな魅力のない己を呪うしかなかった。
「わかった、ありがとう……」
と肩を落として帰ったのであった。
――自警団員詰所
(゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい! ←神楽坂
「ふいー、なんか久々な感じだな」
とどかっと座る。
「でも団長、なんか今日イマイチさ、キレが無いような」
「うむ、やっぱり心配でな、なあタドー、実際のところどうなんだ? エシルに彼氏はいるって話は聞かないのか?」
「うーーん、いない……と思います、モテるんだけど、実際に告白して付き合ったって話は聞かないですし」
「そっかー」
エシルの好きなタイプ、確か前にちらっとボニナ族の女は強い男が好きかと言っていたな。
強い男、多分それは単純に「喧嘩が強い」という意味ではないだろう。攻めるならその部分に勝機を見出すしかないと思うが……。
「なあタドー、ボニナ族の女が好きな男の強さって何なんだ?」
「いやいやいやいや! 神楽坂さんがそれ聞くんですか!? 女に大人気じゃないですか! 見分に招かれるってもの凄いことなんですよ!!」
「「「「「えええええええ!!!!????」」」」」←自警団員達
「お前ら驚きすぎじゃね?(#^ω^)ピキピキ」
「「「「「どどどどういうこと!? そんなこと一言も言っていなかったじゃん!?」」」」」
「え、ええ、それは、その」
「タドーさん! どういうこと!?」
「ああ、前にちょっと話したけどボニナ族は対外的には男性社会で通しているんだけど、生むのは女だから、女の方が強いんだよ、ただその中の例外中の例外が見分なのさ」
「「「「「「見分って何?」」」」」
「ままままあいいじゃないかかか!」
「見分ってのは、例外的に「男の方が女を複数人選ぶことができる」というのを見分っていうんだよ。だからこそ「傑物と見込まれた男のみ」が招待される。本当に滅多にないことで俺も見分があるとは知っているけど生まれて初めてだね。えっと、神楽坂大尉、確か今回は女子風呂に招かれてるんですよね、結局誰にしたんですか?」
「「「「「ショシブロ? ナニソレ? キイテナイ、ソノアトハ?」」」」」←目のハイライトが消えた浪漫団達
「その後はもちろん、選んだ相手とそのまま」
「「「「「フロッテコトハ、ゼンイン、ハダカナノ?」」」」」
「え? ああうん、俺はそう聞いたけど」
「「「「「ダンチョウ? ウラギッタノ?」」」」」
「ちちちちがわーい!! お前らも男の浪漫団の団則を知っているだろう!?「女には敬意を払い尊敬をするべし! その上でハーレムを語るべし!」と!!」
「「「「「ソレデダレニシタノ? ソレトモフクスウ?」」」」」
「誰にもしとらんわ!! それにお前らは勘違いしている!! 女子風呂に招かれたのは事実!! 全員裸だったののも事実!! だがな実際はこんな感じだったんだぜ!!」
男の夢であるハーレム。
それは例えるのならウサギを中心に狼たちが円で描く形で徘徊していている光景だ。
突然中央に放り込まれたうさぎは震えるしかなくて、必死に狼達の気まぐれに期待するしかなかった。
本来であれば期待すること事態愚かな捕食者の気まぐれ。
だがその時奇跡が起こったのだ。
周囲を徘徊していた狼たちは何かに納得すると全員が帰っていったのだ。
――「この獲物はいつでも喰えると、その時に貪り喰らえばいいと」
だが奇跡は奇跡、うさぎは命を拾ったのだ。
「「「「「…………」」」」」
「まあアレだけどな!! もちろん狼は俺で!! うさぎは女達だしぃ!! 俺は理性的な狼だしィ!!」
(((((ああ、なるほど)))))←正気に戻った
うん、その例え話で神楽坂が狼だと、そもそも数があっていないからね。
「って団長! 大事なのはエシルさんもその中に入っていってことじゃね!? それだと!!」
「だから違う! エシルは入っていない! むしろ俺は「なし」だそうだぞ!」
「そ、そうなんだ、で、でも、エシルはモテるって、タドーさん!」
「でも、振られる時はバッサリと振られると思うから、結果は出ているんじゃないかな、凄いハッキリしている性格だから、戦死者多数だけど。俺の友達もエシルにさ、3年間片思いしていてさ、先日勇気を出して告白したんだけど」
――「無理」
「の一言で終わり、3年間の片思いが一瞬にして終わり、流石に泣いてたよ(´;ω;`)ブワッ」
「ああ、凄い想像できる」
となると多分デアンは今頃……。
「とりあえず、マルスで勝気巨乳美女の店を手配しておくか」
と俺は掃除用具入れの裏から冊子を取り出す、これはマルスの店の紹介雑誌だ。
しかも、これは公的に発行されているわけだから、怖いお兄さんが脅して多額を取られる典型的なぼったくりは許されない、安心を買えるのだ。
まあマルスの秩序を乱す場合はタキザ少佐が苛烈な罰を下せるように連携を取っているけど、それでも末端はマフィアに食われたりするので大事なのだ。
「この店なんか良いんじゃないか、アイツ好みの勝気美女がいるぞ」
「いいと思うけど、結構高いじゃん、金は大丈夫なの?」
「まあ一回ぐらいは奢ってやるさ、臨時収入もあったからな」
「なら団長に任せる、俺達もあまり触れないでやっておこうぜ」
「ああそうだな」
「でも告白するだけ凄いよな」
「俺も告白なんてしたことないし」
「振られるってきついよな」
「それを恐れないデアンに敬意を」
「あ、あのさ、みんな振られるの前提なの?」←タドー
と思ったら扉が開き、デアンが肩を落として帰ってきた。
やっぱりと、全員コクリと頷くと自警団員達がツカツカと近づく。
「「「「「女なんていくらでもいるさ! いつかお前に相応しい女が見つかるよ!」」」」」
「みんな……」
不器用な気遣い、そんな気遣いにデアンは……。
「ああーー!! 凄い腹立つ!! セクの気持ちが分かった!!」
とそんな微笑ましい光景にうんうんと頷くと、俺はデアンに話しかける。
「まあ、でもバッサリ切られるのならいいじゃないか、変に気を持たせるよりかはフェアだと思うぜ」
「ばっさり?」
「いや、なあタドー」
「ああ、デアンさん、アイツははっきりしている奴だから、悪気は」
「ばっさり、そうだったんだ、俺の時は全然違ったけど、優しく振ってくれたのかなぁ」
「え?」
「いやさ、ずっと、自分が好きな強い男とは何かって教えてくれて……」
俺はタドーを見るが、首をかしげている。
「デアン、そのエシルのタイプだとか云々について、告白した後の言葉を出来れば一言一句教えてくれないか?」
●
俺の言葉に辛そうにしながらもエシルの言葉を説明してくれるデアンであったが……。
「それって断られたのか?」
「え?」
「いや、断られたと解釈もできるけど「強い男になって欲しい」とも取れるけど」
「…………」
その解釈は考えてもみなかったのか呆けるデアン。
「なあデアン、俺はそのエシルが響く強い男が何なのか分からない。だけどデアンが考える強い男をエシルに伝えててみたらどうだ、それを目指すと」
「…………」
「団長の言うとおりなんじゃないか」
「ひょっとして、ワンチャンあるんじゃないか」
「確かに、無理って言われた訳じゃないし」
「となれば押しの一手だ! もう一度やってみろ! エシルのことだ。はっきりと聞けばはっきりと答えてくれるぜ!!」
という言葉に徐々に力がみなぎってくるデアン。
「わ、わかった! もう一度チャレンジしてみる!」
●
そしてデアンは数日、必死に答えを考えて、もう一度エシルを呼び出した。
「…………」
呼び出した時間きっかり、無言で来てくれたエシルを見ると。
「考えてきた! 聞いてくれエシルさん! 俺の強さを!!」
「…………」
無言で続きを促すエシル。
「実は、あるんだ、将来やりたいこと!!」
「……やりたいこと?」
「商売!」
「商売?」
「俺は将来ウルティミス学院を卒業したら連合都市に就職する。そこで、金儲けしたいんだ。その為に団長を通じて街長に頼んでヤド商会長の下で学業の合間を縫って見習いをしているんだ!」
「まだまだ雑用だけだけど、今は連合都市の流通部門を担当して金の流れを勉強している最中! 素人考えだけど、金儲けできる余地は十分にある分野なんだ!」
「現にヤド商会長は今や資産家として名を馳せている。ヤド商会長だけじゃない! どんどん今はウルティミスが豊かになっている! そしてエシルさん、いやエシルも手伝ってくれ!!」
「え? 私?」
「エシルは、ボニナ族じゃ俺と同じ大人の見習いだって聞いた、その立場からすると連合都市の学院に入学した主目的は、今後を見据えての俺達と交流するのが目的。となれば、都市運営に際しても自由にしていいとセルカ街長から指示を受けている筈、そしてその指示に従うようにワイズ街長からも言われていている筈だ!」
「エシルが将来どんな道を進んでいく進んでいくかは分からない。だけどウルティミスは想像以上に他の勢力からやっかみを受けている、それこそ街長やヤド商会長といった幹部達宛に、脅しや殺害予告なんてのは日常的だ! だからこそやりがいがある! だから俺は金持ちになる! それが俺の強さなんだ! だから、だから」
「だから、何かあれば俺を守ってほしい!!」
と最後のデアンの思わぬ言葉に虚をつかれたのか。
「あ、あは、あははは!!」
と声を上げて笑い始めた。
「と、途中までは、良かったのに、何かあれば俺を守ってほしいって、あはは! そんなこと言われたの初めてだよ! あはははは!」
とひとしきり笑うと。
「っていいの? 私に守ってほしいってことは、神楽坂大尉がいい顔しないんじゃない?」
「そこら辺はちゃんと話をしてある。団長は許可をしてくれた、俺のやり方でやってみろって」
「…………」
伝えることは伝えたとデアンはじっとエシルを見て、エシルは真剣に考える。
「いいよ」
「え?」
「まあ、商売というより、女を引っ張るんじゃなくて女と一緒に行きたいというのが、デアンの強さなんでしょ? そこがよかったかな、だったら、まずはその商売でなんでもいいから結果出して、そしたら、その時に、ちゃんと返事をする」
「…………」
とのエシルの言葉に一瞬黙ると。
「やったああああああ!!!!!!!!」
と雄たけびを上げるデアン。
「あのさ、まだ交際するなんて言っていないんだけど、もう……」
とまんざらではない様子のエシル。
「「「「…………」」」」」←一連の流れを物陰から見ていた神楽坂と自警団員達
「意外、エシルって、ああいうのがタイプだったのか」
「分からないものだね」
「でもあれって成功なのかな?」
「成功、でいいんじゃないか」
「そっか、デアンも彼女持ちになったわけか~」
とそんな口々に感想を言い合う自警団員達。
「…………」
その姿を俺は黙って見つめている。
そうか、皆色々と動いているのだなと、変に感慨深く思うのであった。
そしてその夜開かれるのはデアンの祝勝会タドーの歓迎会兼セクとトカートの壮行会だ。
セクとトカートは今日で連合都市を離れる。まだ休みは残っているけど、セクはセルカの首都出張について行き、トカートは実家に帰り家族の面倒を見るという。
そして休日が終われば2人とも修道院に帰り、教官への帰院報告の後、後期課程へと進む。
全員でどんちゃん騒ぎをして、それは深夜まで続いたものの、セクとトカートは明日は早く出立するため、お開きとなった。
セクはいつものとおり、頑張ってくるとだけ言い残して、トカートも一言述べると。
「凄い楽しかったよ! トカートさん!」
「トカートさん! あのメニュー、滅茶苦茶きついけど、一日がかりで何とかこなせるぐらいにまではなったよ!」
「だからまた稽古つけてください!」
「ああ、ありがとう、本当にありがとう」
と自警団員達の激励に何故か戸惑った様子のトカートに。
「トカートさん! またきてくれよ! 俺達はもう仲間じゃないか!」
というリーケの言葉にピタッと止まった。
「…………」
「トカートさん?」
「………………じゃない」
「え?」
「仲間、じゃない」
「え? え? な、なんで?」
「俺さ、最下位の貴族だって、話、したよな、カガン男爵家なんて、上流じゃ馬鹿にされて、誰も相手にしてくれない家なんだ」
「…………」
「だけど俺は勉強は得意で、それで、一念発起して勉強して、修道院に貴族枠で入ったは、いいけど「舐められちゃいけない」とかあの時の俺は、そんなことばかり考えていて、だから、当時、何も知らない連合都市の事とか、そ、その、かかか、神楽坂大尉の事とか、王子の事とか……色々、悪口を!!」
ぽろぽろと涙が流れる。
「ごべん!! 俺は仲間じゃない!! 最下位の貴族なんて当たり前なんだよ!! 卑怯で臆病なんだから!! そんな俺を!! 暖かく出迎えてくれて!! 俺、それが、辛くて辛くて!!」
というトカートの慟哭、それに対して自警団員達は。
「「「「「「知ってるよ」」」」」」
とあっさりと返した。
「………………ぇ?」
呆けるトカートにセクが話しかける。
「トカート、ごめん、実は全部話してあったんだよ、あの懇談会の時の事」
「ぜ、全部って」
「だけどさ、俺とお前がこうやって仲良くなって、友達として連れて行きたいって、そうしたら、いいよってさ、最初は不安だったけど、こんな感じで、俺の仲間たちと仲良くしてくれて、俺は素直に嬉しかった」
「これからもよろしくな、トカート」
と笑顔の自警団員達にトカートはボロボロと涙を流し。
「かか、神楽坂大尉、すす、すみませんでした、俺は貴方の悪口を」
「ばーか、気にしちゃいないよ、それにお前の悪口なんて可愛いもんさ。どこぞの原初の貴族の次期当主様は、修道院時代にもーそれこそ腐ったようなやり方を恥も外聞もなく繰り出して、しかも「全部俺が悪い」って論理展開して、周りの修道院生を手下にしていてな、こんなに器と気が小さい奴がいるのかと呆れたものだ」
「しかも本来だったら締める立場である筈の当時の教官方もユサ教官以外まるで頼りにならなくな、出世に響くの怖くて次期当主様に同調していたぐらいだ。当時のそいつらに素直に謝られるお前の爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ」
「はは、さ、流石、神楽坂大尉」
と引きつるトカートにセクが話しかける。
「実はトカート、ああいう時の団長って本気で言ってんだぜ」
「ええ!?」
「そうだよね、団長?」
「? というか今冗談言う場面だったか?」
という俺の言葉にみんな笑うのであった。
::おしまい