神楽坂と仲間たちと……:前篇
ここはいつもの駐在官詰所、ユニアはセルカ共に出張しつかの間の休息を楽しむ神楽坂はリーケとデアンとトカートと麻雀を打っていた。
「へー、王国貴族における男爵と子爵の立ち位置の話は面白いね、原初の貴族とそれ以外か」
「そうなんすよ、ぶっちゃけウチみたいな貧乏貴族は王国に食わせてもらっている身分なんすよね」
「そこはかつてのウルティミスと重なるなぁ、しかし話を聞く限りでは貴族でお金を稼ぐのって難しくないか? 求められるのが商才って感じだと違和感があるんだが」
「ではなく原初の貴族の一目置かれないとって話にならないって形ですかね。原初の貴族は資産運用という形で富を得ているんですが、原初の貴族から一目置かれれば王より「領土」が与えられて、その仲間に入れてもらう形になるんですよ」
「ふーん、ってその統一戦争時代の初代将軍の功績で領土は貰わなかったの?」
「それが長年に続く貧乏で少しづつ切り売りして今では土地なし(ノД`)シクシク」
「どこも世知辛いなあ(´;ω;`)ブワッ」
「そういう意味で我が家にとって俺の収入はデカいですね、あんまり人には言えないですけど」
「俺も人には言えないか、この古城も家賃とか諸々全部タダだし、仕事らしい仕事なんてしていないなぁ」
「あの、ユニア嬢には」
「……いいんだよもう、こんな感じでユニアがいない時に羽を伸ばせれば、そういえば休暇中はずっとウルティミスにいるの?」
「はい、楽しくていいところですよね」
「貴族だと社交が忙しいそうに思えるけど」
「(´;ω;`)ブワッ」←トカート
「ど、どうした?」
「神楽坂大尉、社交というのはお互いに呼ぶ価値があるからこそ呼ばれるものなんです。我がカガン男爵家はとっくにその価値あるリストなんて外れていますよ(ノД`)シクシク」
「世知辛い(´;ω;`)ブワッ、というかそれで貴族枠ってやっていけるものなの?」
「そこはまぁ、王国貴族であることには変わりがないので、いくらでもやりようがあります。それに下位の王国貴族の実態はある意味他言無用みたいな雰囲気があるので。それに今の貴族枠の王はケルシール女学院のセアトリアナ子爵卿の実娘ですから上手くやってますよ」
「セアトリナ子爵の娘か……なんか強烈な性格してそう」
「まあ、既に何人か男もいるみたいで」
「そんなに何人も男を捕まえて大丈夫なのか? 人間関係が命の修道院でそれやると崩れるような気がするが」
んー、トカートの話を聞く限りなんというか、どうしても「ヲタサーの姫」みたいなのを連想してしまうが。
「それがですね、嬢もやるもので支配されたい気質を持つ男を見つけて、巧みに操って支配下に置くんです、しかも」
「う、うむ」
「顔は一切関係ないんです、はっきり言えばその男達の中には醜男も2人程、特にそういった男たちは、女神さまのように見ていますよ」
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←神楽坂
「怖い、なんか醜男側の気持ちが圧倒的に分かるから余計に怖い」
「私も絶対に近づきたくないんですよ。まあ、どの道、その、向こうから干されていますから、俺、はは」
「…………」
「そういえば、神楽坂大尉は社交には呼ばれていないんですか?」
「俺はそういうんじゃないの、出たところで主催者に恥をかかせるのがオチだし、むしろそれが狙いで呼ばれたりもするから全部断ってる」
「んー、とはいえ上流のルールと名簿と挨拶の順番を覚えてしまえば楽勝ですよ」
「楽勝って、招待客って下手すると数百人規模になるんじゃ」
「はあ、でも覚えるだけですから」
「…………」
そうか、能力はずば抜けているという話だっけ。
「「「「トカートさん!!」」」」
と待ちきれないようで、剣術道具を持った自警団員達がやってきた。
「あれ? まだ時間が随分」
「「「「早く稽古見てよ!!」」」」
「はいはい」
「トカート、俺も付き合ってもいいか?」
「へ? いいですよ、見ても面白い物じゃないけど」
――古城前
ルルトと並行して行われた稽古だったが……。
「さて俺の休日も残り少なくなってきたんだけど、5人に共通して言えるのは、下半身が致命的に弱い、これだと絶対勝てない。ってなわけで、これが俺が作ったメニュー、俺いない間、これだけでいいからやってね」
と練習メニューを手渡して内容を見た5人は目を見開いていた。
「そう、大会まで形とか剣とか一切握らなくていいからね」
とあっさり言ってのける全員が戸惑っている様子だ。
「ふふん、まあこのメニューこれから実際にやってみよう、やれば分かるよ」
とトカートの号令の中始まったものであるが……。
「「「「「…………」」」」」
全員が立てなくなるのに30分もかからなかった、文字通り本当に立ち上がれないのだ。そしてトカートが出したメニューの3分の1も消化していない。それなのに疲れ果てて言葉も発することも出来ず座り込んでいる。
そんな中、一緒に同じメニューをしていたトカートはケロッとしている。
「いかに下半身が弱いかよくわかったでしょ? ちなみに俺が王国大会に向けてやっていた「朝練」のメニューがそれ、ぶっちゃけるとこのレベルがこなせないで、剣を握って形云々なんて早すぎる」
「まあ王国大会レベルも分かっていない奴多いんだよなぁ、なまじっか運動神経とセンスに恵まれているから手を抜くんだ、何回アドバイスしても聞かないし」
「ちなみに俺はガキの時稽古を始めて数カ月で「あ、これは剣の腕が上達するには下半身だ」だと思って剣ほとんど握らないで今の3倍のメニューを5年してたよ。その間、剣は基本の抜き打ちをひたすらやってたぐらいやね」
「どうする? 確かに剣を握らないのは不安だろうし、ぶっちゃけ俺のやり方は何故か知らないけど独自で独特みたいで周りからの理解は得られないから、散々馬鹿にされたんだよね。そういう精神面でのタフさも必要になってくるぞ」
とトカートは剣術部員を見渡すが。
「「「「やる」」」」
「本当に?」
「「「やる!!」」」」
「わかった、だったらセクの帰郷に合わせて、何回か来るよ、その時にチェックするけど」
「やってないのは一発で分かる。その時点で俺はもう稽古をつけないよ、上達するには師匠を信じる心も必要だからね」
「「「「っ」」」」
「目標はこれを4時間以内でこなすこと。とはいえ3ヶ月後の大会じゃ結果出るかわからないけど、それでもやる、いいね? 繰り返すこのメニュー以外やらないこと、剣も握らない事」
「そしてこのメニューをもし愚直にこなしたのなら、最後の2週間、修道院に確かイベントはなかったはずだから、来れると思うけど、その時に、抜き打ちを教える。んで試合はそれ一本で勝負ね」
「さて、4時間以内といったけど、今は一日何時間かかってもいいから必ずこのメニューをこなすこと、さあいつまで休憩しているの? このままじゃ日が暮れるよ」
「「「「「はい!!」」」」」
といって、地べたに這いつくばるようにして、稽古を再開する、とここで俺はトカートに話しかける。
「帰るのは明後日だっけ? セクと一緒に帰るんだよな?」
「あ、はい、お世話になりました」
「明日のイベントは知っているよな?」
「知ってますよ、例の日ですよね」
「その件についてセルカから、時間があれば明日の朝からセクと共にイベントへの同行してほしいと言われているんだが……」
「……私が?」
「まあ言うても、食事会と雑用を少々頼みたいとのことだったが、夜には普通に解放されるから身支度の時間はあると思うぞ」
「いいですよ、お世話になりましたし、荷物と言っても衣類だけですし」
「よっしゃ! だったら今日の夜、セクと合流してくれ! んで明日は、最後の夜! セクも時間取ってくれるみたいだから、歓迎会兼見送り会だ! さてさて、買い出しに行かないとな!!」
――翌日
トカートは一足早くにセクと合流し出迎えの準備をしている。
俺とルルトは支度を済ませて、今日のために戻ってきたユニアと共に連合都市の出入口に行く。
そこに待っていたのは、セルカとヤド商会長とキマナ婦人部長のウルティミスの幹部達に、一足先にウィズも来ていた。
合流しても俺達に会話はない、漂う緊張感、何故なら今日は双方にとっても歴史的な日だからだ。
「街長、来ました」
と緊張感を感じ取ったのかデアンが言葉少なめに報告すると、セルカは頷き、正門が開く。
開いた門の先には一見して何の装飾もなくシンプルな馬車が1台だけだったが、あらゆる攻撃に耐えるように設計された特殊馬車でもある。
そして俺にとっては見慣れた馬車、そしてその周りには、声こそ上げないが物好きな連中が馬車を遠巻きに見ていた。
その連中を無視する形で静かに馬車は正門の中に入ると門が閉じられる。
その馬車から降車したのは……。
「ようこそ連合都市へ、ワイズ街長」
そうこの度、神の眷属として認められたボニナ族のワイズ街長、そして更に降り立つのは2人。
「お、お世話になります!」
と緊張気味で挨拶してきたのはタドー、そして。
「よろしくお願いします」
と対照的に落ち着いたエシルがいた。
●
連合都市とボニナ族と交わした盟約はいくつかあるが、その中の一つが、タドーやエシルと言った、若手を連合都市のウルティミス学院に入学させ、実際に連合都市に住民として居住させることだった。
誰にするかについては、セルカとワイズ街長が協議を進めていたようだが、何故かワイズ街長は、俺にその若手を誰にするか決めてほしいと言ったらしく、だったら男代表としてタドー、女代表としてエシルと名前を挙げたら通った。
そんな適当でいいのかと思ったが、俺の言葉だから大丈夫という謎理論を返された。
こんな感じで前回の作戦以降何故か完全に一目置かれている感があるが。
(リクスの記録か……)
あの案件の後、ワイズ街長と話した時、かつての統一戦争時代の記録が残っているという話をしてくれた。つまりボニナ族が記したリクスの記録も残っているのだという。
その記録は歴史的価値は無茶苦茶あるやつだ、それこそ偉大なる初代国王リクス・バージシナの生きた記録が国民以外の側から残されているのだから。
リクス・バージシナ、絶大なカリスマ性を持つ偉大の名を冠する唯一の王、フォスイット王子の御先祖様であり始祖様。
無論歴史上の人物はどうしても美化をされてしまうし、それを非難するつもりは毛頭ないけど、それでも物凄い人物だったのはボニナ族の盟約を守り続ける姿勢を見ればわかる。
別に俺はリクスと一緒じゃないと一回言ったのだが、聞いてみると統一戦争時代のボニナ族もまた世界最強最悪の危険民族という評判だったらしいが、実体は盗賊から金品を巻き上げて生活するだけの、戦下手の蛮族だったそうだ。
その戦下手の蛮族であるというをリクスに見抜かれて掟を逆手に使われる形での敗北、そして敗北後消滅を覚悟したが、リクスに窮状を見抜かれた上での力が欲しいと言われリクスの仲間として統一戦争に参戦した。
なるほど、確かにそれを聞けばマフィアの戦争はまさに初代国王の記録と似ている。だから俺の言うことに従順なのか。
まあいい、細かいことを気にしてもしょうがない、それにタドーもエシルも別に適当に名前を挙げたわけじゃない、前回の任務でタドーとエシルの人柄は分かっているからな。
さて、これからの段取りではあるが、まずは2人を住処に案内する、そこで荷造りを終えた後、エシルは同世代の女性陣と合流し、タドーはそのまま俺達と合流、夕飯は街長たちと一緒に食べて、翌日は俺とルルトで連合都市の観光だ。
その翌日にはワイズ街長はボニナ都市に戻り、いよいよ本格的に生活をスタートさせるのだ。
「ここがタドーとエシルの住処だよん」
と案内したのは、ウルティミスの居住区の一角にある平屋の空き家で軒を連ねている。
別の家とはいえ、男女で軒を連ねる形で大丈夫かと思ったがエシルはあっさりと。
――「夜這い? かければ? 後悔させてやる」
ちなみにタドー曰く「本当に後悔することになる」らしく怯えていた。強いなぁボニナ族の女は。
んでエシルは女ということで、俺は主にタドーの荷造りを手伝い、といっても、物は少ないのであっという間に終わり、エシルはウルティミスの女性陣と共に交流を深める為に消えていき、タドーはもちろん。
――男の浪漫団詰所
「そんなわけで野郎共! 今日新たな仲間が加わった! ボニナ族のタドーだ! 本日をもって私立ウルティミス学院に転入学をすると共に男の浪漫団への入団を果たした! タドー! 挨拶!」
「え、えっと、ボニナ族のタドーです。お、俺達、ボニナ族は、あの、色々と、言われて、怖がる人も多いけど、えっと喧嘩好きなのは否定しないけど、えっと、俺も含めて、良い奴らばっかりです! 今回は俺が遊びに来た形ですけど! 皆さんも来てください!」
とたどたどしくも、人柄が伝わってくる言葉に自然と笑顔になる
(*-ω-)ウンウン♪ ←神楽坂
と、そんな感じでタドーの歓迎会がスタートしたが……。
皆と盛り上がるなか、じっとタドーはトカートを見ていた。
「トカートさん、でしたっけ」
「そうだよ、といっても、俺はここの人間じゃないし、すぐに修道院に戻るけどね」
「……トカートさん、強いですよね? 分かりますよ、その体に凄い力を秘めている」
「まあ、うん、そうかなぁ、俺ぐらいなのはごろごろいると思うけど……」
とトカートは俺に視線を送る。流石剣士、そこら辺は言わずもがなだ。
(構わんよ、むしろ歓迎)
という視線に少し笑うとトカートは。
「だったら、仲良く喧嘩する?」
「マジすか!? いいんですか!?」
「いいよ、だけどタドーに素手じゃ勝てないから、こっちは模擬刀を使うってことになるけど」
「もちろんですよ!」
という2人の会話を聞きつけていた自警団員達が盛り上がる。
「おお! 王国最強剣士とボニナ族!!」
「どっちに賭ける!?」
「俺は剣術部だからトカートさんに明日の昼食!」
「「「「俺も俺も!」」」」
「俺はタドーさんに明日の昼食!」
「俺もタドーさん! 世界最強部族の喧嘩って見てみたい!」
と、2人を中心に歩いていく自警団員達。
うんうん、男のこういう気持ちのいい喧嘩って、なかなかできないからなぁ。
とまあ、そんなこんなで。
「いちち……」
とトカートは顔面を半分腫らしており、地面には顔を全部を腫らしたタドーが座り込んでいた。
「はあ、流石王国最強、悔しい、完敗です」
「何が完敗だよ、ったく、かすっただけで倒れるかと思った、しかも剣術は素人なんだろ? それが俺の抜き打ち3回も交わすなんて自信失くすわ!」
と2人がお互いに憎まれ口を叩きながらもお互いに笑顔で話している。
それにしても、既にタドーも初日で自警団員達と打ち解けている。
本当に懐が深いよな、今朝はボニナ族ってことで凄い緊張していたのに。
とまあ、そんなこんなで男の次の話題と言えば。
「なあタドー、なんかもう1人女が来ているんだろ?」
とトカートが話しかけ、一斉に乗ってくる。
「俺も聞いた!」
「何かかわいい子だって!」
「ボニナ族って勝気美女が多いって本当!?」
とわらわらと群がってきて必死で制するタドー。
「い、いやぁ、どうなんだろう? エシルは確かに可愛いし、人気はあるけど」
「「「「「「まじ!? 会える!?」」」」」
「まあ、そりゃあこれから住民として暮らしていくわけだし、ウルティミス学院に入学するわけだし」
「「「「「そうだった!!」」」」」
とキャッキャウフフ♪と騒いでいる時だった。
バタンと突然ドアが開いたと思って驚いて視線を送るとそこには……。
「あれ? エシル?」
間違いないエシルが立っていた、そんな俺の言葉に飛び跳ねるように群がる自警団員達。
「貴方がエシルさん!?」
「可愛い!」
「自警団へようこそ!」
とわらわらと群がるが。
「初めまして、エシルです。って今は挨拶よりもさ、神楽坂大尉、タドー」
と俺とタドーに話しかける。
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃないよ、飯の時間、とっくに過ぎているんだけど」
「あ!!! そうだった!!!」
「まったく、みんな待ってるよ、タドー!」
「はい!!」
「初日に遅刻とかどうなの? もっと気にしなよ」
「了解であります!(`・ω・´)ゞビシッ」
とやたらびくびくするタドーに近づく自警団員達。
「いやさ、ボニナ族って対外的には凄い男性社会で売っているんだけど、生むのは女だから権利は女にあるんだよね、しかもエシルは最強で、ボニナの若手の女の中でボス的存在だから逆らえないんだよね」
(´;ω;`)ブワッ ←自警団員達
どこも変わらない、涙する自警団員達であったが……。
「…………」
エシルを見たデアンの中で何かが落ちる音がした。
(´・ω・`)ん? ←神楽坂
●
「だだだだ団長! 団長! だんちょーーー!!」
と夕飯の時間も終えて、タドー達も自宅に送り届け、俺も自宅に戻ろうとした時に、デアンに呼び止められた。
「なな、なんだよ、どうしたんだよ」
「案内役!!」
「へ?」
「明日のエシルさん達の案内役! 団長がやるって言っていたよね!?」
「あ、ああ、そうだけど」
「俺もやる!!」
「俺もって、何で?」
「エシルさん!」
「エシルさんって」
とデアンの顔を見て理解した、ああそうか、確か気の強い女が好きなんだよな、だけど確かデアンは。
「……お前ハンナはいいのかよ」
そう、デアンは3軒隣のハンナに惚れていたのだが。
「とっくに振られたよ! 今は都市外に彼氏がいるんだよ!(´;ω;`)ウゥゥ」
「そうか(´;ω;`)ブワッ」
だそうだが……。
うーーーーーーん。
「まあいいか、いいよ、ならエシルの案内役を頼むよ、明日は早朝から一日かけて案内するから、セルカには俺から話を通しておくよ、タドーも協力してくれると思うから頑張んな」
「分かった! 頑張る!!」
と意気込むデアンであった。
::後篇へ続く