神魂 ~神様の手違いで異世界転移してハーレムチート主人公になった件~ :第六話:
――駐在官詰所
「…………」
詰所に入った瞬間、中にいた俺達を見て偽物は呆然と立ち尽くしていた。
これは首都への出張を終えて連合都市に帰る時、ユニアより詰所に来るように呼び出しを受けていた偽物は、そのまま駐在官の詰所に出向いた場面が今この時だ。
詰所の中にはユニアはおらず、中にいたのは俺とフメリオラ神だったからだ。
当然にユニアからの呼び出しなんてのは最初から存在しない。
「やっぱり、自分を創った神が俺と一緒に出てくるのは予想外だったか? 下位互換とはよく言ったものだね、偽物さんよ」
「……どういう意味だ?」
「きっかけはボニナ族の運用方法を知らなかったことだ。あれだけの傑物を演じておきながら、どうしてボニナ族をマフィアとして使ってしまうという失態を演じたのかという点と今までの傑物キャラを考えれば自ずと結論が出てくる」
「そう考えれば、傑物キャラはどう考えても不自然なのさ、いや、この場合俺から見ればということになるけど」
「言っていることが見えない」
「つまり、あの傑物キャラは神の介在が無い」
「俺の生活はそれこそ神の介在からスタートしたんだよ。そして俺の今まで上げた功績やら何やらは全て神の存在なしには語れない。だが傑物キャラの全てが「神の力の助けがない想定で同等の功績を挙げるにはどうすればいいか」ということを考えて作られている」
「修道院なんかがいい例だ。ユサ教官の「非の打ち所がない修道院生」という言葉、そしてあのモストが「自分より上」だと認める程の能力、スタートとしての修道院生としての立位置は立てた功績を考えれば必要不可欠とお前は俺を乗っ取る上で必要と判断した」
「だが当然に全てに完璧に対応できるわけじゃない、その一つがボニナ族の案件だ。それはそうだよな、俺自身色々と考えたが神の力を使わないでのボニナ族の問題の解決はマフィア化するしか方法はないからね」
「つまり常識的なウィズ王国人としての傑物、それが神楽坂イザナギなんだよ」
「そんな常識的なお前は俺を乗っ取るにあたり、ルルトとウィズとの繋がりを排除し、周りを味方にして俺を孤立させれば勝てると踏んだ、確かに勝つにはこれ以上ない上策だと俺も思う」
「だけどそれは「俺が神の力を頼れない」という想定の上で成り立っているし、同時にそこが弱点だと自分で言っているようなものさ。だから俺は遠慮なくそこをつかせてもらう、今回の騒動でフメリオラ神が何らかの形で接触してくるであろうことは読めたからな」
「後は、こんな感じで神様の御威光を使っていつもの反則勝ち、生憎俺は主人公でも英雄でもないんでね、孤立したら孤立したなりの戦い方をするまでさ」
「…………」
「おっと、動くなよ、偽物、下手に動くと」
「壊すぞ」
「っ!」
怒気を含んだ俺の言葉に固まる偽物。
「その様子を見ると分かっているみたいだな、俺の勝利が確定、お前の敗北が確定したことに」
そう、長々と述べた相手の動向を考えれば、偽物に対しての勝利方法は簡単だ。
フメリオラ神と俺で囲む、以上。
偽物が逃げれば俺が追いかけて物理で負ける、このまま逃げないで逆らったところで、中身をフメリオラ神にいじられて負ける。
つまり生殺与奪は俺にあるという事だ。
少し語気を強めた俺の言葉に、偽物は……。
「何故俺を「すぐ」に壊さない?」
と返してくる。
「うんうん、瞬時にそこを疑問に思ってくれるのは話が早くて助かる。もちろん理由はあるぜ、さていよいよ本題、その本題とはお前の運用方法、単刀直入に言えばだ」
「お前は俺の影武者になってもらう」
●
「偽物、いやイザナギ、今日からお前は俺の影武者になってもらう」
影武者、予想していたのかいなかったのか、表情を変えずに返事をしてくる。
「影武者ね、具体的に俺をどう運用するつもりだ?」
「俺の功績を全部やる」
「………………え?」
「要は、俺が挙げたとされる勲章やら首席監督生やら階級やら功績ぜーんぶ影武者にあげるって意味」
「はぁ!?」
「ウィズ王国の俺の表の部分を全部担当してもらう、ここでいう表とは黄泉チシキとしての活動も含める」
「って、そっちはどうするんだよ!?」
「俺は平の駐在官になるんだよ、あ、俺の給料は当然据え置きでね、下がると遊ぶ金が少なくなるから」
「いやいやいや! それってそっちが影武者ってなることだろう! それに普通は功績を独り占めにして、影武者に嫌なことをさせると発想する筈だ!」
「だから言ったじゃん、その傑物的な生き方って疲れないのかって、だけどな、そうは言ってもその振る舞いは必要な事だったんだよ、だけど俺は出来ない……いや、正直に言う、やりたくない、理由は面倒だからだ」
「面倒って」
「正直、色々な物がくっついてきて重たくてしょうがないのさ、しかも徐々にそれは重たさを増して、最終的に身動きが取れなくなる、そして動けなくなった時、俺は詰んでしまう」
「このままでは肝心な時に俺は敗北する」
「しかも解決方法がないお手上げ状態だったのだが、それがまさかこんな形で解決策が舞い降りるとは思わなかった。俺の偽物の癖に俺じゃないって所が最高だ」
「無論当然にそのままってわけにはいかないがな、俺に都合よく利用させてもらう。戦闘能力はそのままでいいが、周囲への洗脳の能力の排除、そして常識の範囲内での俺の言うことに服従する機能をつけさせてもらう」
「駐在官の運用計画の話をしていただろ? 今話したことを計画を加える。以上だ、何か質問があればどうぞ?」
「…………」
と一気にまくしたてた俺に、未だに信じられないといった顔のイザナギだったが。
「理由」
「え?」
「だから理由だ! お前は何を見ているんだ!」
「? 今度はそっちの質問の意味が分からないけど」
「意味が分からない!? それだけの地位も名誉も女も得て!! それを必要ないと全部捨てて!! なのに更に俺を利用して影武者にする!! これ以上 何を望むんだ!?」
「…………」
「お、おい、質問に!!」
「ああ、なんか人間は愚かだとかどうとか、フメリオラが言っていたっけ。あー、イザナギよ、俺の望みなんてシンプルだよ」
「俺の望みは王子と一緒に「遊ぶ」ことと男の浪漫団と「遊ぶ」ことなんだよ。俺は俺のやりたいことをだけをやりたい、やりたくないことはやりたくない、理由はそれぐらいかな」
「…………」
絶句しているイザナギだったが……。
「ここで俺が逆らったらどうなる?」
「壊すだけだ、特に周囲を洗脳する能力は害悪でしかないからな」
「…………」
「言ったろ? 俺は主人公でも英雄でもないんだよ、今すぐ決めろ、生か死か」
「…………」
言葉を発しないイザナギ、だが……。
「決まったみたいだな、これから頼むぜ、神楽坂イザナギ!」