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セクの休日と仲間たちと……:後篇


 ここは自警団員詰所、トカートは卓を囲みながら自警団員達に対して講義をしている。


「この揚げ物を伸ばしながらこうやってソースを染み込ませていくと、これだけでは食べられないぐらいしょっぱくなる。だからこれを三分割する、少なく見えるが飯にちょっと混ぜれば味が出て、3杯はいけるようになるんだ」


「色々試したが、これが一番よくてな、味も美味い! これで、一日の食費を劇的に浮かせることができるんだよ、お前らも金欠の時にやってみたらどうだ? 驚異的なコスパが体感できるぞ」


「…………」


 凄い、これが世界最大最強国家、王国貴族の言葉なのだろうか。


 ちなみにトカートはフォス先輩のパシリとして無事認定、有能と認められたら取り立ててやるとの言葉をかけられて凄い幸せそうな顔をしていて切なくなった。


「それにしても麻雀は面白いな、戦術と戦略を求められるのに運の要素が強いなんて」


 と言いながら牌を切るトカート、現在トカートはデアンとセクと王子で卓を囲んで麻雀を打っている。


「しかし前から思っていたんだけど詰所は随分綺麗なんだな、男所帯だからむさくるしい場所を想像していたんだけど」


 というトカートの発言に王子が少し考えると。


「ニヤァ」


 と意地悪く笑った。


「ああそうなんだよ、実は気の強い女が1人いてな、そいつが仕切っているんだ」


「仕切るって、自警団のトップって神楽坂大尉じゃなかったでしたっけ? それにえーっと確か男の浪漫団というのを作って楽しいことをして遊び歩いているとか、しかも女人禁制だとセクが言っていましたけど」


「そのとおりだ、だがな、アイツも優しいからな、掃除を指示するのは悪いことではないと許しているんだ」


「なんと! 男の浪漫団なのに!」


「そうだ、それにさっきも言ったとおり気が強くてな自警団員達も毎回怒られている」


「なんと! それは許せませんね!」


「とはいえ部外者の俺は何も言えなくてな、困っているんだよ」


「なるほど、あい分かりました! なれば」



「私がビシっと言ってやる必要がありますね(ドヤァ)」



「おお! やってくれるかトカートよ!」


 笑顔の王子に意図を察してさっと顔が青くなるセク。


「ちょちょちょ! むぐ!!」←王子に口を押えられる


 そんな時に再び鳴子が鳴ると、王子が伝声菅を開ける。


「どうした?」


【……あれ? ひょっとして先輩? 珍しいね】


「来たのか?」


【うん、そうだよ~】


「分かった、掃除をしっかりやらないと怒られるからな」


 と言って伝声菅を閉じて、目で合図を送りコクリと頷くトカート。


 そしてコンコンとノックと共に入った瞬間にトカートは言い放った、



「おい、ちょっといいか?」



「(# ゜Д゜)あ?」←ユニア



!!( ; ロ)゜ ゜ ←トカート


「いきなりなんです? カガン男爵家次期当主、トカート」


((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←トカート


「余りこういうことを言いたくはありませんが、爵位の序列をまさか忘れたわけではないでしょう? 上流の基本中の基本、それに逆らうことは秩序に逆らうことになるのですよ?(ゴゴゴゴゴゴゴ!!!)


( _。д゜)アウアウアー ←トカート


 とここでユニアは顎をしゃくり掃除用具入れをさす。


「修道院生の貴方はここでは下っ端、下っ端の仕事はまず掃除、パッと見たところ所々終わっていません、さあやりなさい、今すぐに」


「…………」


 仁王立ちのユニアと対峙したトカートはフットはニヒルに笑うとセクを見る。


(若い女のコの前で土下座なんて、俺のプライドが許すと思うかい?)



(許すんだよね)



「やらせてくださいお願いします…!!(バァーーン)」



「「「「「で…出たァ―――新・土下座「鶴の舞い」――――――!!」」」」」←自警団員達+王子







「せ、先輩(´;ω;`)ウゥゥ」


「すまんすまん、ちょっとからかいたくなっただけだ、気を悪くするな」


 結局あの後、王子のとりなしで事なきを得たトカートは、詰所をピカピカに磨き上げた、んで掃除の腕は大したものだと上機嫌になったユニアを見て胸を撫でおろしたのであった。


「さて、そろそろ時間だな」


 と自警団員達が身支度を始める。


「そろそろ? 巡回でも行くの?」


「いや、巡回は普段はやっていないんだけど、後で案内がてら連れて行くよ、今からやるのはフィリア駐在官による武術稽古に参加するためだよ」


「武術稽古、ああ、確か剣術の達人なんだよな?」


「ああ、異国の剣術使いでさ、うちの団長と一緒の流派なんだよ」


「ほほう、懸賞金が賭けられていた山賊団を2人でやっつけたとか聞いたけど」


「うん、滅茶苦茶強くてさ、それでいて教え方も上手で、定期的に稽古をつけてもらっているんだよね」


 フィリア軍曹により剣術稽古、護身も兼ねて行われるが、当然に面倒に思う自警団員達もいるのは事実であった。


 そこでセルカは武術稽古を自警団員の仕事として認定し、ちゃんと賃金も支給する施策を採る。仕事として組み込むことにより、自警団員達の護身術の全体的な底上げに成功したのだ。


 そんな説明を受けてトカートは感心する中、ススッとセクに近寄る。


「なあ、セク」


「どうしたの?」


「念のため聞いておくが大丈夫だよな? また下士官でも偉いさんとか、実は有力貴族と繋がっているとか、そんなことないよな?」


「あ、ああ、正真正銘、普通の庶民だよ、神楽坂大尉と気が合うみたいで、よく2人で仕事をさぼって、ユニア駐在官に怒られているよ」


「ほほう! ならば是非お手合わせを願いたいな!」


 とスッと立ち上がる。



「まあ今まではカッコ悪いところを見せてしまったが、俺は、これでも王国剣術の腕はそれなりなのだぜ?(ドヤァ)」



「はは……」


「ニヤァ」←王子


「? あの、先輩、どうしたんですか?」


「いや、別に、なんでも」


「?」




――古城前




「やあ、話は聞いているよ、君がトカートだよね?」


 と広場で集まった自警団員達を前にしてルルトが話しかける。


「お初にお目にかかります、フィリア武官軍曹、私はカガン男爵家直系、トカートです(ドヤァ)」


「う、うん、えっと、まあ退屈かもしれないけど見学していってよ」


「いえ、見学もいいのですが……」



「私と手合わせを願えませんか? フィリア文官軍曹」



「へ? 手合わせ? いいけど、怪我をしても知らないよ?」


 との言葉に髪をかき上げるトカート。


「はっはっは、これは色々と知らないと見える、フィリア武官軍曹、ヴィバル最高師範はご存知ですね?」


「誰それ」


「……誰それって、あの、男爵の爵位を持つ王国剣術の最高師範なんですけど」


「ふーん、他流派のことはよく分からないんだ、ごめんね」


「いやいやいやいやいや、一応剣術を修める身としてヴィバル最高師範を知らないってのは、まあいい、ともかく私は世界に名だたる世界最強流派を修めていてね」



「その最強師範に最年少で認められた高弟、引き下がるのなら今のうちですよ?(ドヤァ)」



「大丈夫だよ、えーっと、ボクは、神楽坂大尉のニホン剣術の、えーっと「めんきょかいでん」なのさ」


「免許皆伝! これはこれは大きく出ましたな、かくいう私も」



「史上最年少で最強の称号である範士を持つ者、引き下がるのなら今のうちですよ?(ドヤァ)」



「だからいいよ別に、じゃあ早速やろうか」


 と木刀を手に持つと軽く素振りをするとやれやれと言った感じで木刀を抜くトカート。


(けーっけっけ! 田舎の剣術なんて自己流ばっかりだからな! ちょっとは名誉挽回しておかないとな! 有能だと認められれば王子に取り立ててもらえるし!!)


 とルルトに構える。


「王国剣術範士が1人、トカート、いざ参る」


 とシリアスとは裏腹にウキウキ顔のトカートを目の前にしたルルトは王子に視線を送る。


(どうしたいいの?)


(やっちまいな)


 とコクリと頷くとルルトはトカートを見て。



 ほんの少しだけ神の力を解放する。



!!( ; ロ)゜ ゜ ←トカート



「じゃあやろうか(ゴゴゴゴゴ!!)」


⊂⌒~⊃。Д。)⊃アウアウアー ←トカート


(なんでやねん! どないやねん! アカンやつやでぇ!! これは死ぬやつやでぇ!!)


 ここでトカートは思い出す。


 王国剣術を修めるにあたっての大事な心構えを。


 大事なのは試合に勝った時ではない、試合に負けた時である。


 試合に負けた時に敗者がすることは二つ。


 己の未熟を認め自省すること、そして未熟を教えてくれた相手の剣技に感謝をすること。


「…………」


 すっと構えを解いたトカートは、フィリアに背を向けて座ったかと思うと。


「どうかフィリア軍曹! 私の稽古をつけてください!!」




「よろしくお願いしまぁ――す!!(バァァーーン)」




「「「「「で…出たァ―――新・土下座「ゆううつトンネル紀行」――!!」」」」」←自警団員達+王子+ルルト





「グスッ、なんなんだよう、連合都市パネェよ、噂には聞いていたけど、噂以上だよ」


 と自警団員達と巡回に出ているトカート。


 あの後、稽古の雑用係として従事した後、自警団員達と案内がてら巡回に出ることになったのだ。


「だ、大丈夫だよ! フィリア武官軍曹は滅茶苦茶強いからさ! 気を落とさないで!」


(´・ω・`)ウン、アリガトネ


 とそんな今自分達が歩いているのは、ウルティミスではなく、、、、。


「それにしても、随分な盛況ぶりだな、ここが有名な遊廓都市マルスか」


 と興味深そうにあたりを見渡すトカート。


 男のステータスである飲む打つ買う。


 その買うの部分についてはデリケートな部分であることから、明確な解決策を打ち出せず、先延ばしにした結果、かつては憲兵も手が出せず、巨額の金が動きながら格付けは5等の辺境都市であった。


 だが今は立位置は変わらないが様相はがらりと変わった。


 神楽坂が違法薬物エテルム流通を当時のマルスを裏で仕切っていたマフィア、ロッソファミリーであると突き止め、その情報を憲兵に流し壊滅させた。


 その隙をつきセルカ率いるウルティミスに乗っ取られる形で吸収され、以降は楼主長であるアキス・イミがセルカ街長の傘下に加わり連合都市の幹部となることで経営されている。


 都市能力値が大幅に上昇し、躍進のきっかけになった遊廓都市だ。


「意外と人がいるんだな」


「今の時間だと泊まりの客を送り出しているぐらいか、それが終われば休みの時間だからね、夜の開業まで体を休めるんだとさ。んで体を酷使する職業だからってことで、街長はそこら辺徹底的に勤務管理していて、今は休みも普通に取れる上に、メディさんって女医が常駐していて、定期的に健康診断を無償で受けさせているそうだ」


「なんかそれだけ聞くと、普通の会社みたいだな」


「まさに仕事内容が娼婦というだけで会社として運営しているんだよね。結果他の娼婦たちがここに就職したがり、競わせてもいるから質の向上にもつながっていると」


「はー清濁併せ呑むか、本当にセルカ街長ってのはヤリ手なんだな、それにしても王国貴族たるもの、いつかは遊廓都市の頂点、天河で遊んでみたいよなぁ」


 と自警団員達で散策していた時だった。



「キャアアア!!!!」



 と絹を裂くような悲鳴があたりに響く。


「おい! やばいぞ!」

「憲兵を呼べ!」

「客を逃がせ!」


 と従業員が血相を変えてかけていく。


「喧嘩?」


 と言った時だった。


 目の前を人吹っ飛ばされてきて、樽をなぎ倒す形で凄まじい音がして叩きつけられている。


 目は白向いて失神していたが……。


「あ! こ、この人!」


 と自警団員の1人が発言する。


「マルスの最強の用心棒!! かつては徒手格闘術で王国大会に出場した猛者だよ!!」


 その男が白目をむいて失神している。


「だあああこらああぁぁぁぁぁぁあぁあああ!!!」


 辺りに響き渡る雄たけびを上げ名が現れたのはそれは身長がゆうに190を超える筋肉隆々の男が刀を持ちだして、目が血走って奇声を発しながら歩いていた。



「何だアイツ!?」

「や、やば! 目がイッてる!」

「ど、どうすんだよ!!」

「どうするって、俺達も逃げないと!」



 と言った時だった。


「ん? 逃げていいの? 自警団員なのに?」


 そう返したのはトカートだった。


「え!? ああ、団長からそう言われているんだよ」


「団長って、神楽坂大尉?」


「ああ、もうすぐボニナ族の留学生が来るんだ。その前段階として、ボニナ族の幹部の人たちが街長たちと交流しているんだけど、交流するにあたって、揉め事は控えろって団長に言われていて! 何かあれば憲兵に頼れって!」


「なるほどね、とはいえアイツ違法薬物を食ってるな、あの武器もかなりの切れ味があるから、下手をすると人死が出るね」


 と言いながら、ひょいと長さ1メートルぐらいの軽い木材を片手に持つと。


「憲兵が到着するまで少し時間がある、だったら俺が行ってくるよ」


 と歩き出したのでびっくりしてセクは慌ててトカートを止める。


「ちょちょちょ!! 何してんだよ!! 見てわからないのか!? マルス最強の用心棒があんな姿になってんだぞ!」


 セクに続いて自警団員達も止める。


「そうだよ! トカートさん!」

「あいつはやばいよ!」

「戦わないのは恥じゃない! 俺達は避難誘導の手伝いをしないと!」


 そんな自警団員達の言葉にトカートは首をかしげるとあっさりとこういった。




「大丈夫だよ、あのフィリア軍曹に比べればまさに雑魚、びっくりするぐらい弱い」




「へ!?」


 とトカートはそのまま暴れている男の目の前に立つ。男はギロリと血走った視線をトカートに向けると


「なんだてめぁあああ!!! あああぁぁこらああぁあぁあ!!!」


 と叫びながら、膝から前かがみのように崩れ落ちると、そのまま仰向けにどしんと倒れた。



「……………………」



 この場にいた全員が状況を飲み込めなかった。


 何が起きたか分からなかった。


 間違いない先ほどまで目が血走って暴れていた男は白目をむいて倒れている。


 トカートは、木材を道端に放り投げるとその男に近づいて。


 ひょいと担ぎ上げる。


「このままだと見世物状態だからな、折角だから憲兵の詰所まで行くか」


 とそのまま軽快な足取りで歩き始めた。


「…………」


 何が起きた、何が起きたんだと未だに理解が追い付かず混乱している時だった。


「あれが抜き打ち、マジかよ、残像しか見えないじゃないか、やっぱり、そうなんだ、そうだったんだ、トカートさん、まさかとは思っていたんだけど」


 というのは、一緒にいた自警団員の1人、彼は高等学院で剣術部に所属している。彼もかなりの腕で、地区大会を優勝し方面本部大会に出場経験もある。自警団員の剣術家の中では最強の腕を持つ。


「なに、まさかって」


「王国剣術は、国境を越えて愛好家がいる世界的な剣術流派なんだけど、その頂点にいるのがトカートさんが言ってたヴィバル男爵なんだ」


 男爵卿は決して金持ちではないが、質素倹約を旨とし、王国剣術を愛好する原初の貴族も弟子を多数持つ、尊敬される立派な人だ。


 そしてそのヴィバル男爵が天才と称した剣士がいる。


 優れた身体能力はもちろんだが、彼の一番の武器は「頭脳で戦えること」だと評している。


 彼は年少の部でデビューして以降、王国大会年少の部3連覇、王国貴族大会5連覇、青年の部2連覇の公式戦無敗。



 その功績を讃え、最年少で最高の称号、範士を得るに至る、世界でたった15名しかない剣士に名を連ねることになったのだ。



「その天才剣士がカガン男爵家にいるって話だったんだ」


「…………」


 そういえば……パグアクス息の戦いの話って、なんか「楽勝」って感じで勝っていたように聞こえたけど。


「なあ、パグアクス息って強いの?」


「強いよ! 原初の貴族の次期当主の中じゃ最強! 貴族だからって舐めちゃ駄目だ! 普通に全国レベルの腕前を持つ人だよ!」


 ってことは。



――「その最強師範に最年少で認められた高弟、引き下がるのなら今のうちですよ?(ドヤァ)」


――「史上最年少で最強の称号である範士を持つ者、引き下がるのなら今のうちですよ?(ドヤァ)」



「あれが全部ハッタリじゃなくて本当だったってこと!?」


「ああ、ってなんでセクが知らないんだよ? 修道院で話は出なかったのか? 修道院にも剣術部があるんだろ?」


「い、いや、そもそもトカートは剣術部じゃなくて、音楽部に所属しているんだよ」


「ええーーー!!?? なんで!!?? 勿体なさすぎる!!」


「いや、本人が王国剣術については本当に何も話さなくて」


「マジかよ、まあ愛好家じゃないと知らない世界だから、一般の知名度は確かにあまりないんだけど、でも、武官課程じゃないのが勿体ないよな、確か武官課程だと剣術の成績評定が文官課程に比べて比重が大きいんだろ? そうすれば上位に食い込めたかもしれないのにな」


「…………」


「セク?」


「14位」


「え?」


「前期試験でトカートは14位だったんだよ」


「…………まじ?」


「ああ、恩賜組には一歩届けないけど、クラスで3番目の成績だったよ」


「「「「「…………」」」」


 世界最難関に数えられる文官課程においての上位の成績。


 そして世界に名を馳せる剣士としての才能。


 世界と渡り合える頭脳、世界で通用する身体能力両方を持っているという事だ。


 片方ですらほぼ全ての人間が持ちえないモノ。


 それを両方を持っている人間は、世界にどれぐらいいるのだろう……。


「才能の塊、完全な勝者じゃないか」


 自警団員の誰かの呟き、全員がトカートに視線を移す。


「おーい、早く詰所に行こうぜ」


 とそんなことを話しているとはつゆ知らず、手招きするトカートではあったが。


「ん?」


 と近くで倒れているお姉さんに視線がいくと。


(よく見りゃ悲鳴上げてたの美人なおねーさんじゃん! これを機会にうっしっし)


「やあお嬢さん、大丈夫ですか(爽)」←190センチの男を担ぎながら、手を伸ばすトカート


「いやあああ!!(o゜Д゜)=◯)`3゜)∵バシーン」


 とそのまま痴漢を見るような目で見られながら走り去っていった。



「…………」←頬を抑えているトカート



(((((いや敗者だろあの後ろ姿……)))))



:おしまい:



:おまけ:



――自警団詰所



「あのさ、どうして剣術始めたのかって聞いていい?」


「ん? えっとね、王国剣術ってのは王国貴族の嗜みとして男女問わず、子供のころに称号を持った剣士たちに最初稽古をつけてもらうんだけど、当時同世代の憧れの的のマドンナがいたんだ。んでね、その当時のマドンナの好きな人なんだけど」



「年は40歳の腹の出た教士の称号を持つおっさんだったんだよ!!」



「そして俺はこう思った「剣術をやればモテる!」と、んで、最高師範から「お前は才能がある」とか言われたから、これは渡りに船だと思って頑張ったんだが、全然モテなかった、俺は騙されたんだ」


「…………じゃあ、剣術部じゃなくて音楽部に入ったのは?」


「パグアクス息の話はしたよな? あのモテ野郎が王国府学院時代にな、当時のマドンナから思いを寄せられていたんだけど、そのマドンナがこう言っていたんだ「音楽ができる殿方って素敵」と、んでそして俺はこう思った「音楽をやればモテる!」と、だけどそっちの才能はからっきしで(ノД`)シクシク」


「…………」


 と何処までも残念な才能の塊である同期ではあったが……。


「だったらさ、今更だけど、どうして修道院に入ったの? そんな剣の腕を持っているのなら、いくらでも生計は立てられるような気もするけど」


「いや、そんな簡単な話じゃないのさ、前にも言ったがウチが貧乏だからなんだよ」


「貧乏って」


「どの分野にも立場を得るのに金がかかるのさ、ぶっちゃけるとウチみたいな下位貴族はな、立場こそ貴族なんだが実情は庶民と変わらない、だから貧乏なの。そんな貧乏生活から、せめて人並みの生活は送りたいと思ったからだよ、んで幸いにも勉強は得意だったから、貴族枠で入ったのさ」


「か、変わらないって、何回も聞くけど本当に?」


「うん、俺のお袋が前に病気で倒れてな、親父も体が弱いから仕事も出来ず、弟と妹も居て俺が家族の面倒を見なくちゃいけないんだよ、今カガン男爵家の収入は俺の官吏としての収入のみなんだよね」


「…………」


「それとあまり大きな声で言わないでほしいのだけど、男爵家だから首都の貴族居住区に住んでいて邸宅が与えられているが、実はあそこって家賃はかからない、維持費は全部税金なんだよね、だけどそれでどれだけ助かっているか、だから俺の稼ぎでもなんとかなるのさ」


「貰った給料はどうしているの?」


「集団生活をする上ではほとんどかからないから、8割は仕送りしている」


「仕送りしてるんだ」


「…………」


 神妙な面持ちになるセク「ま、崇高な動機じゃなくて申し訳ないだけどな」と締める。


「ト、トカートさん!」


 と突然声をかけられたので振り向くと、複数の自警団員達がいた。


「どうしたの?」


「あ、あの、その」


 と口ごもると……。



「「「「けけけ、稽古、つけてください!!」」」」



 と揃って頭を下げた。


「稽古? 俺よりもフィリア武官軍曹の方がはるかに強いぞ」


「え!? そそ、そうかもだけど! 俺はトカートさんに付けてもらいたい!! 俺達ウルティミス学院の剣術部なんだけど、実は弱小で」


「あれ? だって地区大会で優勝したって」


「それ以外全員が1回戦とか2回戦負けで、俺も、行き詰っていて……」


「そうなんだ、分かった、いいよ」


「いいの!? 本当に!!??」


「う、うん、え? 断られる思ったの?」


「そりゃそうだよ!」


「ガーン!! そんな器小さそうに見えるの!!??」


「じゃなくて! ウィズ王国じゃ5人しかいない範士の人に稽古をつけてもらえるとか! 普通じゃありえないから!」


「えぇ~、全員そんなお高くとまっている訳じゃないのに、まあでも持ち上げられ過ぎているのは確かだよな、だから距離が遠くなるんだよな、てなわけで、セク」


「ああ、いいよ、行ってきなよ」


 とトカートは自警団員達を引き連れて詰所を後にした。





「…………」


 王子は詰所の麻雀卓に座りながら、今の会話をずっと聞いていた。


 実は剣術稽古の後、王子は駐在官詰所に寄りルルトに直接トカートの腕前について聞いており、ルルトはこう答えた。


――「人間レベルでは勝てないね、才能ってのは本当にあるものだよ。それよりも驚いたのはボクの能力を感じ取った点だよ、本来なら人の理には耐えられないから、感じ取ることすらできない筈なのに」


 そして次に思い出すのはトカートとパグアクスの試合、当然に試合を見ていたわけだから王子は知っている。


 開始10秒で瞬殺されたあの試合を。


 実はパグアクスと戦ったあの試合、試合直後こそは冷静に振舞っていたが、あの後は珍しく荒れていた。


 それはそうだ、豆を何回も潰し必死の稽古を重ねていたのに瞬殺されては無理からぬことだ。



――「対峙した瞬間に理解しました、生涯勝てないと、天才は存在することが何より悔しい。しかも勉学までモストに迫る能力を持っていると聞けば、自信を無くしますよ」



 そこまで言わせたのがトカートだ。


「先輩」


「…………」


「先輩!」


「え!?」


「先輩の番だよ」


「あ、ああ、すまない」


 と牌を打つが。


「いやいや、先輩、それロンだよ、俺のこの捨て牌で初牌で風牌の南を切るとか、どうしたの?」


「っと、すまない、しらけさせてしまったか、いや、城に帰ってから考えなければいけないな事が出来たんでね」


「ふーん、大変なんだなぁ、王国府勤務も」



「まあな、有能なら取り立ててやると約束したからな」




――古城前




「いやさ、つくづく思わないかね?」


「え? 急に何?」


「ほらさ、こう、何気ないことが凄い偉い人に認められて凄い出世するみたいなシンデレラストーリー」


「……トカートさんさ、そのシンデレラストーリーを実現させる側じゃないのかな」



:おしまい:



いつものとおり完結してますが続きます。


後少しだけ、間章が続きます。

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