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セクの休日と仲間たちと……:前篇


 ウィズ王国の上流は、大きく二つに分かれる。


 王国貴族と功績が認められた民間人。


 後者は例えば文官武官では将官以上、王国商会では金勲商人以上、街長では3等都市以上と言ったものがある。


 そして次に前者、爵位を与えられた人物とその家族。


 爵位は下から順に男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵と階級が設けられている。


「王国最古の貴族は原初の名のとおり原初の貴族12門、この12門で伯爵から公爵までの全てを独占している」


「そして男爵と子爵についてだが、これは統一戦争が終わり、フェンイア王国からウィズ王国と国名を変えた時、初代国王リクスが統一戦争時の顕著な功績を讃えて爵位を与えられたものが始まり。故に子爵家と男爵家は、このウィズ王国建国からが最古の家となるのさ」


「その後も、ウィズ王国は国力を増大するために苛烈な政治を行い、男爵は子爵はもちろん原初の貴族すらも名を残すことなく消えていった事例もあったけど、だからこそ現存する12門の原初の貴族は強い、そう」



「上流は、その男爵子爵の王国貴族を含めて「原初の貴族とそれ以外」に分けられる、それは同じ国内で二つの世界に別れているといっても過言ではない程に、それ程までに強くお互いに繋がり、王族を頂点に献身的に支えている。皆が想像する貴族像の全ては原初の貴族が作り出しているのさ、誇張でも何でもなくな」



 ごくりとつばを飲み込む自警団員達。


「そしてこのウルティミス・マルス連合都市は、この度3等の格を与えられた。3等と言えば大規模都市と同等の都市ってことになる。そして3等都市の街長は、ウィズ王国の上流として正式に名を連ねることになる。セルカ街長は見事、社交界への参加資格を得たわけだ」


「だが成り立ちが特殊なせいでありとあらゆる部分で異質な都市となっている。どう異質なのか、これも挙げればキリがないけど、一番わかりやすいのは治安維持の為に憲兵ではなく君たち自警団が存在したり、それでいて憲兵の中隊、いやこの度、昇任したタキザ憲兵少佐率いる大隊が、別枠で任務にあたっていたりね。この扱いはウィズ王国史上前例がないからだと言えるだろう」


「以上が、上流の世界の簡単な知識だ。まあ知識と言っても入門編もいいところだけどな」


 とそんな講義を神妙な顔で聞いている自警団員達。


 ちなみに壇上で講義をしているのは神楽坂ではない、神楽坂は現在王子と一緒に海外へ旅行、もとい出張に行っていたが、間もなく帰ってくると連絡を受けている。


 神楽坂ではない彼は誰なのか。


「ありがとな、トカート、いきなりこんなこと頼んで」


 と話しかけるのは、セク・オードビア。


「なーに、これぐらい朝飯前だぜセク、俺とお前はソウルメイト、なあブラザー?」


「……ああ、うん」


 と肩を組みながら話しかける男。


 彼の名前はトカート、セクの同期であり……。



 貴族枠で入った修道院生。



 ただの上流ではない、カガン男爵家の次期当主、。本名トカート・クユト・カガン、正真正銘の王国貴族の一員である。


「お前には助けてもらったからな、恩には報いる主義だぜ、これからも何かあったら言ってくれよ」


「助けてなんて、俺は何をしてないよ」


 助けてもらったとは何を指すのか。


 そう、彼こそが修道院の合格者を集めての懇談会で王子の陰口をたたき聞かれ、王子に「やっつけられた」件の修道院生なのである。


 んで、助けたとは王子の不興をセクを通じて神楽坂が王子にとりなし、許しを得たという図式が成立、その後、一緒のクラスになり席も隣同士となったカガンとの交流はスタートすることとなったのだが、実際に話してみると最初の嫌な奴はなんだったという感じで気のいい奴だったのだ。


 結局セクがなんだかんだで一番仲よくなったのが、このトカートだったのだ。人間関係は時折こういうことが起こりうるから面白い。


 仲良くなった後、王子の陰口の件についてある時思い切って聞いたらこう答えた。



――「いやね、舐められちゃいけないと思ってさ、精一杯強がったらさ、あの様だよ、だからごめんね、本当にごめんね、本心じゃないんだよ(ノД`)シクシク」



 とのこと、つまり修道院デビューを盛大に失敗したってことだったのだ。



 だがその失敗を許す程上流の世界も甘くない、セクの期生の王は、ケルシール女学院を卒業したノトキア子爵家の直系御令嬢だ。

 トカートは現在、貴族枠としての地位は表面上は保ってはいるものの、その御令嬢からは裏で手を回され干されてしまっている。



(´・ω・`)ショボン ←トカート


「ま、まあ! トカート! うちの駐在官が王子と仲いいみたいだからさ! そのうち何とかなるよ! 今は海外に出張に行っているけど、もう間もなく戻ってくるからさ! 俺からも頼んでみる!」


(´・ω・`)ウン、アリガトネ


 貴族枠。


 修道院の象徴ともいえる貴族枠という制度、入学資格は上流であることだが、貴族枠の中心となる人物は王国貴族で入学した修道院生が務め、王国貴族の筆頭取り巻きは上流が務めるという暗黙の了解がある。


 そしてその貴族枠との繋がりを得る為に他の修道院生達は終わらない奉仕を続ける。


 だけどカガンと交流をする上で貴族枠のもう一つの目的も見えてきた。


 それは王国貴族もまた、修道院生、つまり将来の中央政府の幹部達との交流を持ちたいと考えていることだ。だからこそ優秀な人材には、貴族居住区への入区許可を与え、カントリーハウスへの招待している。


(王子は、それでも強すぎる貴族枠の存在にも頭を痛めているって言っていたな)


 反則とも酷評された懇談会への王子の登場だが当然にその酷評は承知の上だ、アレはモスト息の修道院時代の行動が決定打になったと聞いている。


 モスト息、つまり原初の貴族の次期当主が繋がりを安易に許したこと、そして自分の取り巻きを修道院に求めたことを王子は歓迎していないそうだ。


 だからアレは周囲への牽制も含まれていたそうだ、派手にやりすぎるなと……。


 その意志を察知した王国貴族たちは「身の程を弁えて」修道院生活を送り、身分問わず有能な人材を取り立てる為に日々奔走している。


 そんなトカートとの関係は当然に街長には悩んだ結果、友人として報告したが、街長は興味を示しており、その関係については連合都市や修道院と言った「しがらみ」を一切考えない様に言われた。


 んで、貴族枠の輪から外れることになったトカートを長期休みを取得するにあたり単純に仲がいいという理由で休みが合う日に連れてきたのだ。そんなカガンは「噂の連合都市! 行く行く!」と二つ返事で了承してくれた。


 ただ長期休みではあるが自分は一日しか休みが取れない、そしてはっきり言えば王国貴族を招くにあたって貴賓室も使えない、自警団の仮眠室の一つを客室として使うしかない。


 どう反応するかと正直心配だったが、意外と言っては失礼なのだろうか、本人は全然気にしていない様子、そして貴賓室を使えないことも気にしていない。


 そして今日で7日間目、自分がいない時は自警団員と交流することになるから心配だったけど、普通に馴染んでいる。


 自警団員達はトカートの一番最初の嫌な奴としての振る舞いを知った上で、こういった



――「話してみたら全然いい人じゃん! あの人もティラーさんと一緒で色々あったんでしょ?」



 ティラー・ユダクト、神楽坂が首席監督生を勤めている時に面倒を見た後輩。


 だがそれは神楽坂を尊敬していたからではなく、険悪の関係であるモスト息からのスパイ、最終的には直前で裏切り、神楽坂を嵌める為に動いていたと聞いた。


 そんな事情を知っていて彼を連合都市に連れてきて、自警団に連れてきた理由は、判断出来なかったのは人柄を見たかったからだという。


 無論無理をしているのだろうとは思ったが、確定が出来なかった。進んでスパイをやるような人格なのか、それとも違うのかを見たかったのだという。



――「懐が深いんだよ」



 これはその神楽坂の言葉だ。


 確かにそうだ、懐が深いのだ。


 全てを素直に受け入れる、これだけで稀有な才能と言い換えてもいい。


 神楽坂はこの言葉のとおり自警団員の懐の深さを全面的に信用している。


 それは歴史に名を残す最強最悪の危険民族、ボニナ族の留学生を受け入れると同時に自警団員として迎え自分達と交流させる程に、そして身分を偽る形だけど王子を紹介する程に……。


 そして自分も同じことをしている。


 神楽坂は「修道院だと雑音が多くて判断しづらい」とも言っていたが、その意味を少しだけ理解した。


 結果トカートは自警団員達の言葉のとおり友人として信用できることがわかった、それが嬉しい。


 そんなことを考えていると他の自警団員が質問する。


「なあトカートさん、となると男爵と子爵ってのは、どういう立ち位置になるの? 今の言い方だと例えば成果を出せないと取り潰しとか爵位を剥奪されるとか?」


「いや、不祥事だったり、国に逆らうとかしない限りは別にそんなことはない。ただウィズ王国の施策等、色々な要因で対応しきれなくなり地位を保てなくなったという方が正しいかな」


「んで俺達、男爵、子爵の爵位を持つ家に与えられた国家の役割というか、立ち位置についてなんだけど、己の才覚を活かして活躍出来れば一目置かれるって形になるんだ。そこは正直、連合都市と変わらないと思う。ただ俺らの場合は成果を出せば、一気に王族と原初の貴族に認められるというのが利点なのかなぁ」


「その男爵、子爵で一目置かれる人って例えば誰がいるの?」


「そうだな、ケルシール学院は知ってるだろ? 王国貴族令嬢のための教育機関、そこの院長であるセアトリナ子爵卿なんてのは一番有名じゃないかな。卿は教育者として国家に認められた立派な「貴族」だよ、原初の貴族に教え子も多いから顔が利く」


「トカートさんは、どんな家なのか聞いていい?」


「俺の家は、統一戦争時代、初代国王の率いる直轄部隊の長であるカガン将軍が始祖様だよ。初代国王の為に命を張り、常に最前線で戦い続けたんだ。初代国王の直轄部隊は一番危険な部隊でありながら生存率は一番高かった。武術ももちろん、戦略戦術にもたけた名将軍だったと聞いている」


「え? 統一戦争時代ってことは……」


「ふっ、我がカガン男爵家は王国最古の男爵家の一つなのだよ!」


「へー! 凄いじゃん! 一目置かれる男爵家なんだ!」


「…………」


 (´;ω;`)ブワッ ←トカート


「え?」


 (ノД`)シクシク ←トカート


「ど、どうしたの?」


「違うの、いや、初代は本当に凄い人だったんだけど、その後は鳴かず飛ばずの王国貴族の落ちこぼれでさ。家も貧乏で派閥も何も属していなくて、だから政治抗争があっても敵だろうが味方だろうが関係ないからって理由で巻き込まれずに生き残っちゃって、王子から許してもらった理由も相手する価値ないからって、はは、は……(´;ω;`)ウゥゥ」


「「「「「…………」」」」」


 交流を始めて7日間、トカートはずっとこんな感じ、王子の陰口を聞かれて修道院デビュー失敗したとか、それが理由で貴族から干されたりとか、今の王子に許してもらった理由のしょーもなさとか。


 なんだろう、この残念な感じと器の小ささ、だけど親しみやすい感じ、どこぞの我が駐在官と仲の良い先輩を彷彿とさせる。


「まあでもさ! うちの神楽坂駐在官が王子と仲がいいみたいだし! 上手くいけば取り立ててくれるよ!」


(´・ω・`)ウン、アリガトネ


 そんな時だった、詰所の鳴子が鳴り自警団員の1人が伝声菅の蓋を開ける。


【セク、お前にお客さんだぞ~】


「え? 誰?」


【セレナ嬢、例の社交界の招待状を持ってきたってさ、直接渡すって】


「ああ、わかった!」


 と蓋を閉じると身だしなみを整えるセク。


 今から詰所に来るセレナ・ファビオリ・ディル。


 ディル男爵家当主の娘、彼女もまた正真正銘の王国貴族の一員だ。


 昨日、無事ユニアのテストをクリアして社交界への出席が決まった、そんな自分に貴族令嬢の彼女がわざわざ招待状を持ってきてくれる。


 プレッシャーという名の期待に身震いする、そういえばセレナ嬢も男爵家で……。


「もちろん知ってるぜ、セレナ嬢、ディル男爵家当主の娘であり直系だよ、っと丁度いいか」



 とスッと立ち上がる。



「お前らに王国貴族の関係ってやつを見せてやるよ(ドヤァ)」



 おお、と小さな歓声が上がる中、ノックと共に扉が開きセレナが入ってきた。


「こんにちは皆さん」


 と優雅にお辞儀をするセレナに対してトカートは。


「これはこれはセレナ嬢! ご機嫌麗しゅうございます! カガン男爵家の次期当主トカートでございます!(ヘコヘコ)」


「「「「「…………」」」」」←自警団員達


「こんにちは、ディル男爵家直系セレナです。そんなに畏まらないでください、私も同じ男爵家ですし、当主筋という意味ではトカート息の方が序列が上ですから」


「いやいやいやいや何をおっしゃいますか! ディル男爵家の当主ザード男爵は、原初の貴族、シレーゼ・ディオユシル家当主ラエル伯爵の右腕であり後ろ盾を得ている傑物! 同じ男爵家でも別格の名門ですよ!」


「父は父です。それに私はただの侍女、それに比べ貴方は将来の男爵卿じゃないですか」


「またまたまたまたご謙遜を! セレナ嬢は上流の至宝と称えられるクォナ嬢の侍女長であらせられる! その嬢からの全幅の信頼と信用と得てラエル伯爵の信頼も厚い! 私も見習いたいと存じます!」


「はい、あの……」


「分かってますよ! これからもカガン男爵家をよしなに! セク君や、セレナ嬢がお呼びですよ」


「……うん」


 とセクが近づくとセレナは豪華な箱から1通の封書を取り出す。


「セク君、社交界への招待状です、当日はよろしくお願いします」


「は、はい!」


 男爵家の貴族令嬢から直接渡される招待状。


 その重みに身震いするセク。


「ありがとうございます、頑張ります! セレナ嬢!」


「はい、それでは失礼します、トカート息もまた」


「おつかれーーーーしたっ!!(っ_ _)っ」


とセレナは笑顔で後にした。



「「「「「…………」」」」」←自警団員達



 ちらっ←トカートを見る


「ふっ、さっき言ったろ? 一目置かれる男爵家は違うと、特にディル男爵家は原初の貴族の一部に組み込まれていると言ってもいい程に強い貴族、一つ勉強になっただろ?」


 すげえこの人、全然ブレねぇ。


「ってなわけで社交界の招待状か、やったじゃん、セク」


「ああ、ありがと」


 と招待状に視線を落とす。


 豪華な紙に王族の封蝋、これが社交界の招待状か、ほんの半年前にはただの自警団員だった自分が……。


 封蝋を外し、中を取り出して開く、そこには主催日時場所がのみ記されていた。


「へぇ、意外と簡素、誰が招待されているとか書かれていないんだ」


 とのぞき込んできたリーケが呟く。


「うん、誰が招待されているのかを把握するところから始まるんだ、それが同時に自分の顔の広さ、人間関係能力が見られるんだよ」


「まじか……」


「中にはそういった人間関係情報収集を専門とする人もいるぐらいだよ」


「…………」


 と上流の世界に絶句する中、デアンが発言する。


「へぇ、主催者は王子で責任者はパグアクス息って形になるのか、なんか変なの、ふむふむ、責任者が招待客に対して招待状を作成して書くんだね」


 と言った瞬間だった。



「パグアクス息だと!!」



 と突然トカートが叫びだしたので皆凄いびっくりする。


「な、なに、どうしたの?」


 と思ってトカートを見ると……。


「…………」


 目を閉じて、悔しそうに手をギュッと握りしめていた。


「ごめん、いきなり大声を出してしまった、つい感情的になってしまって」


「…………」


 深刻な雰囲気のトカート、感情が治まったのかポツポツと話し始める。


「俺さ、ガキの頃から王国剣術を修めていてさ、それなりに熱心に稽古していたんだよ」


 王国剣術。


 王国で採用されている剣術であり最大流派、元は統一戦争時代の武人が流祖と言われているが諸説あるものの、当時のフェンイア国の軍人に剣術を修めさせ、結果統一戦争を勝利に導いたことから、現在でも採用されており、国を超えて愛好家がいる。


「剣術を修めるのも王国貴族の嗜みって奴なんだけど、その中で王国貴族の愛好家うでじまんだけで行われる剣術大会ってのがあってな。とはいえただの大会じゃない、主催者は国王であり、次期国王が来賓として招かれレベルも格式も高い大会なのさ」


「あれは1年前、俺は予選を勝ち抜き、決勝トーナメントへ進出した。その決勝トーナメントの一回戦で戦ったのがパグアクス息だったんだが……」




「その戦いは、俺はガキの頃から稽古を続けていた自分の剣術を否定された戦いだった」




 ピンと空気が張りつめる。


 パグアクス息の名前はセクはもちろん、自警団員達だって知っている。先ほど来たセレナが使える先、シレーゼ・ディオユシル家直系クォナ嬢の実兄であり。


 原初の貴族シレーゼ・ディオユシル家、次期当主。


 ここで皆は思い出す、トカートがしてくれた上流の世界の話。



 上流は原初の貴族とそれ以外の二つの世界に分けられる。



 上流の世界で最も大事なのは人間関係、つまり「忖度」を命とすることは神楽坂等から十分に聞かされ十分過ぎる程知っている。


 その「毒」の強さは、ティラーと交流する上で理解した。スパイをやらされ心が壊れる寸前まで追い込まれた。


 ここで全員が思ったことは一つ。



(八百長を強いられたのか……)



 自警団員達の注目を浴びる中、トカートは話す。



 彼の必死で積み上げた剣術が否定された日のことを……。




――1年前、王国剣技大会




「王国剣術大会! 予選を勝ち抜いた16人の精鋭たち!! この16人により決勝トーナメントが開催されます!」


「決勝トーナメント一回戦! 第一試合! 左方!!」




「パグアクス・シレーゼ・ディオユシル・ロロス!!」




「はい!!」


 と勢いよく立ち上がりウィズ王国国旗に、続いて王と王子に剣礼をして入場する。


「「「「「きゃああーーー!!!」」」」」


 と黄色い声援が飛び、審判に注意される。



「パグアクス様よ!!」

「綺麗!」

「素敵!」

「お顔には傷をつけないでね!!」



(けっっっっっっっ!!!)←舞台袖で待っているトカート



(((ん?)))←聞いている自警団員一同



「続いて右方!! トカート・クユト・カガン!!」



「はい!!」


 とパグアクス息と同じように立ち上がり剣礼をして入場するカガン。



「は? 何アイツ調子乗ってんの?」

「カガン男爵家って確か最下位の貴族でしょ?」

「うわっ冴えない」

「パグアスク息に傷つけたら殺す」

「不細工は死ね」



「…………」


 パグアクス息は王国貴族の中で別格である原初の貴族の次期当主。


 それだけではない、野郎は容姿にも恵まれ音楽の才能にも恵まれ剣術の才能にも恵まれ、貴族が通う王国府学院時代は、貴族令嬢の憧れの的であり、仕事の能力も王子から認められる一流の秘書。




 つまり、我々の敵だ。




「両者開始線へ!」




(男の価値は中身だ、今からそれを思い知らせてやんよ!!)



「始め!!」



 と審判の合図とともに戦いの火ぶたが切って落とされた。







「勝負あり! 勝者!! トカート!!」


 膝を付いたパグアクスを見て審判が勝負ありを宣言、それを受けてトカートは相手に剣礼をする。


(けーっけっけ! イケメンザマァwww)


 さてさて、これで女子共も目が覚めるだろう、今度は俺に群がったりしてな、ふっ。


 そんなことを考えながら納刀をした後、試合の流儀としてパグアクス息に近づいた時だった。


「「「「「大丈夫ですか!? パグアクス様!!ヽ( ゜∀゜)ノ┌┛)`Д゜)・;'」」」」」」


 わっとトカートを押しのけてパグアクス息に群がった。


「…………」←頬を抑えているトカート



「つーかさ、アンタ、謝りなさいよ!」

「そうよ! 謝りなさいよ!!」

「パグアクス様は原初の貴族の次期当主なのよ!」

「その重みを考えなさいよ!!」

「空気が読めない男って最低!!」



 と口々に罵る中。


「ちょっと待ってくれ、君たち」


 と前に出てくれたのはパグアクス息だった。


「気遣いありがとう、だけどこれは勝負なんだ。そして王国剣術を修めるにあたっての大事な心構えというものがある」


「心構え、ですか?」


「ああ、もちろん勝ちに拘るのは当たり前だけど、それ以上に大事なのは負けた時なんだ。自分が負けた時、敗者のすることは二つ。自分の未熟を自省すること、そして自分の未熟を教えてくれた相手の剣術に感謝すること、これが剣術道なんだよ」



「だからありがとうトカート、自分の未熟を気づかせてくれた貴方の剣に感謝を」



「……………………そっすね」



「流石パグアクス様」

「それに比べて……、コイツは本当に器が小さいよね」

「ホントよね、えっと名前なんだっけ?」

「何か食べ物の名前に似てなかった?」

「まあいいわ、どうせ落ちこぼれの最下位男爵でしょ?」

「言っておくけど優勝しなさいよ、パグアクス様の為にね」




 ブチッ ←何かが切れる音




 (`Д´)ゴゴゴ…━(ノдヽ)━( 乂 )━━━ヽ(゜Д゜)ノゴルァァア!!



「うっさいブース! ブースブース!!」




――現在




「そしたらさ、そのブスって言った女の1人が原初の貴族の傍系だったんだよ。おかげで社交界から締め出し食らいそうになって、まあ、それをパグアクス息が取りなしてくれてお咎めなしになったんだけどな」


「大体さ、あの外面の良さが胡散臭いんだよ。あんなモテまくっているけど、裏じゃ好きな女の私物とか盗んだりストーカーしたりとかしてんだよ、ぜったいそう、だから俺は奴を許さない」


「「「「「…………」」」」」


 凄い、何が凄いって、こんなに素晴らしい逆恨みがあるのだろうか、なんかパグアクス息がカッコよく見えてくる。


 やっぱりこの親しみやすい器の小ささは、うちの首席駐在官どのや、その先輩を彷彿とさせる。


 そんな時、カランカランと鳴子がなり、自警団員の1人が伝声管のふたを開ける。


【先輩来たぞ~】


「りょーかい、団長も一緒?」


【いや、それが過労で風邪ひいて病院に入院中だって、それが治ったら来るってさ~】


「過労(笑)、わかった、詰所で待ってるよって伝えて~」


 という自警団員達が話し始める。


「先輩来たか!」

「早速麻雀やらないとな! って団長風邪ひいたの? ウケる」

「過労って、絶対遊び過ぎて疲れて風邪引いたんだろうね」

「うん、本人は出張って言い張ってたけど、あんなウキウキだとバレバレなのにね」


 と別の話題で盛り上がる自警団員達にトカートは首をかしげる。


「ん? 先輩? まーじゃん?」


「ああ、トカートさんは初めてだっけ、麻雀ってのはうちの団長、神楽坂さんの祖国で流行っているボードゲームのことで、先輩ってのはその神楽坂さんが首都に長期出張に行っている時に仲良くなった人でさ、時間があるとここにちょくちょく遊びに来てんだよね」


「ほほう、どんな人なんだ?」


「えーっと、確か文官で下士官なんだけど王国府勤務でさ、拝命は上だから先輩なんだって。凄い面白い人でさ、しかも妙なカリスマ性があって、一気に仲良くなってよく遊んでいるんだよね」


「そうかだったら」


 トカートはスッと立ち上がる。


「拝命は上の先輩かもしれないが、修道院の貴族枠として、ここはいっちょ舐められない様にびしっとしないとな(ドヤァ)」


(あ!!)


 と顔色が青くなるセク。


「ちょちょちょ! トカート!!」


「あわてるなよセク、カガン家は確かに泣かず飛ばすの男爵家、だがそれでも王国貴族が舐められるってのは国益に反するのさ」


「じゃなくて!! 先輩は!!」


 と続きを言おうとした瞬間に詰所の扉が開き、気配を察知した振り向きざまにトカートは言い放った。


「おい、先輩とやら」



「(# ゜Д゜)あ?」←王子



!!( ; ロ)゜ ゜ ←トカート



「なんだ急に? カガン男爵家次期当主、トカートよ」


((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←トカート


「っと、確かそんな貴族枠の修道院生だとセクから聞いている。確かに階級はそっちが上かもしれないが、それを笠に着ては舐められるぞ(ゴゴゴゴゴ!!!)」


(_Д_)アウアウアー ←トカート


「どうした? 何を怯えている? 俺はタダの王国府の下士官の1人だぞ?」


「…………」


 王子の目を見てトカートは悟りを開く。


(やってやる…もうやってやる!! これ以上負けが増えないうちにやってやる――!!)


 と決意したトカートはジャンプして王子とびかかり、柔道の前回り受け身の要領で着地して。



 ザザーーーッ



 きゅっ



「貴方様に一生の忠誠を誓い申し上げます」



「「「「「で…出た――ジャンピング土下座ぁ!!」」」」」←自警団員達




:後篇へ続く:



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