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異世界レビュアーズ


 異世界転移、異世界転生。


 現在、物語の一形態を超えてジャンルとして扱っていい程の隆盛を極めている。


 とはいうものの、この物語形態自体は今に始まったわけじゃない、ファンタジー世界に転移若しくは転生するのは昔からある古典的な展開と言ってもいい。


 というのは所謂ファンタジー世界に憧れたことは一度だってあるだろうし、魔法を使ってみたいなんてことも考えたことある人も多い筈だ。


 つまり「自分がファンタジー世界の主人公になる」という物語にあっての手段としての「転移と転生」なのだ。


 さて、前置きはこれぐらいにして俺が転移した異世界、そこは王族と貴族が統治する世界最大最強国家ウィズ王国。


 その世界はまさにファンタジー世界、魔法といった要素はもちろんのこと人間だけではなく、エルフ、セイレーンの亜人種も存在する。


 そして世界が違えど種族が違えど、男という生き物が存在する限り、男の浪漫は変わらない、つまり……。



 種族問わずエロい店も当然に存在するのである!!



 確かに亜人種については一言では語れない歴史がある、だけど「同じ店行ったなら、種族を超えた仲間さ!!」って俺の大好きな作品でも言ってた。


 男の友情に四の五の理屈はいらない! おっぱいさえあればいいのである!!


 ちなみに性風俗につきものの避妊関係は「避妊魔法」というどこぞのランス君ばりの便利魔法が結界という形でかけられており、その心配は一切ないのだ。


 当然にマルスも避妊魔法を導入しており、その為に魔法の才能がある亜人種の元娼婦をウルリカで教育し、メディの下、魔法結界を維持しているのだ。


 さて、どうしてそんな長々と解説を入れるのかというと……。


「いやぁ~、こういう花街の活気は良いですなぁ~」


「うんうん、こういう男の浪漫は国問わずで嬉しい限りだなぁ~」


 と俺と王子は花街を闊歩している、この独特の活気ある雰囲気、ひたすら男の浪漫店が数百店軒を連ねている姿は圧巻だ。


 さて今の王子の「国問わず」は言葉のとおり、ここはウィズ王国ではない。



 そう俺と王子は今、海外にいるのである!!



 説明しよう!


 俺が最優秀官吏勲章を受勲し、王子との付き合いが公になったことで、王子は時折自分の行幸に俺を連れて行ってくれたりするようになったのだ。


 今回訪れたのは二か国、4大貴族が統治する公国とその公国の属国であった王国に行ってきたのだ。


 とはいえ俺の苦手とする範囲、つまり本当に外交的に重要な行幸には俺が共をすることはない、あくまで視察がメインの時のみだ。


 視察だけと言えど王子は国賓、だから視察場所も政治的に機密事項の高い、公国の宮殿の中枢や属国だった王国の城の中枢に連れて行ってくれた、王子もミローユ先輩と同じく俺の性質を分かっているので観光……もとい貴重な経験をさせてもらった王子には感謝しかない。


 国が違えば文化が違う、いつも感じるウィズ王国とは違う空気、これぞ海外旅行の醍醐味よ。


 そんな観光、もとい視察も今日の夜が最後、明日には帰国する、そして楽しみの締めとして選んだのが今俺達が闊歩しているのは王国の花街で遊ぶことだ。


 ここで驚きなのは王国が花街を管理しているそうだ。


 というのは前国王の治世が悪性そのもので崩壊寸前まで国力が落ちたそうだが、軍事クーデターで当時の宰相が王位を奪い取り、まず最初に国力をつける為に力を入れたのが「賭博と風俗」だったそうだ。


 賭博と風俗で結果を出し、そこで得た国力を基礎として世界有数の花街に発展したのは良いものの、結果、この公認の花街が「体裁が悪い」という問題が出てきているのだそうだから、国が違えても、世界が違っても同じなのは因果なもの。


 我が連合都市の拠点の一つであるマルスという遊廓都市は性風俗の問題を先送りにした結果、その管理を一見してロッソファミリーというマフィアを隠れ蓑に金庫番であるドクトリアム侯爵が裏で統治をするという苦肉の策を採ったほどだ。


 だがこの王国の花街は正真正銘マフィアに裏で統治されていた。


 それもクーデター直後で国力が落ちていたところを付け込まれてしまい押し切られ、国力を回復すると同時にマフィアも力をつけ、我が物顔でのし歩き、悩みの種になっていたそうだ。


 んで力をつけて勘違いをしたのか知らないが、俺と王子の噂を聞き付け「ハニートラップ」を仕掛けてきた。しかも派手に仕掛けてきたせいでこっちも見逃すことが出来なくなってしまい反撃する羽目になり、しかも手加減は出来ないので、極秘に連れてきたボニナ族と一緒に皆殺しにする羽目になったのだが。


 いくら売られた喧嘩で相手がマフィアとはいえ外国での武力行使な上に俺達がやったことは犯罪行為、どうするかと考えたがそこは流石王子だった。


 相手の王と宰相に貸しをつけるという形で、後始末は丸投げして解決させた。そういう意味じゃ俺達も弱みに付け込むマフィアのことは言えないか。


 ってなわけで一見していつもと変わりないように見えるが、その王と宰相は裏ではこれを機に、マフィアを排除して憲兵で固めるつもりらしいからワタワタしているのだ。


「まったくもう、折角のりょ、視察だったのに何でマフィア退治なんぞを、余りボニナ族を使いたくないんですよね、ブツブツ」


「まあいいじゃないか、この度めでたく独立を果たした王国に対して、借りとまではいわないが、布石位は打つことができたわけだからな」


「そういうものなんですかね」



「そういうものだ、あの若い王と宰相、この若い国を知ることになるだろう、国家にとって「敵」とはなんなのか、ということね」



「…………」


 王子の重みのある言葉、国家にとっての敵か。


「っと、そんな難しい話は置いといて! 今日は楽しむぞ神楽坂よ!」


 当然にただ花街を観光するために闊歩しているわけではない、こうやって流れに身を任せて店を選ぶのも良いが、今日は王子プロデュースの元店は既に決めている。


 なにやら、一風変わった男の浪漫を提供してくれるということで客引きを断りつつ目的の場所に向かって歩いているのだけど。


 さて、その店とは……。


「いやぁ、これは盲点でしたな、ゴーレムの店とは~」


 説明しよう!


 ゴーレムとは人形に魔力を与え自立機能を与えた「疑似生命体」のことをさし、今回遊びに行く店はその人形ごーれむと遊べる店なのだ!


 そしてこの店は、花街のメインストリートではなく、一本入った路地、そこは花街の従業員の居住区で人通りは余り無く、そこでひっそりと店を構えている。


 こんな場所であるにもかかわらず、売上自体は中堅ぐらいだそうで店を続けられるそうな。


 さて、それは何故なのか、それはこの店の売りと関係してくる。


 この店の売りとは、遊び相手であるゴーレムの「容姿」を自由に作れる点である。


 つまり……。



 疑似とはいえ憧れのあの子とあーんなことやこーんなことが出来るのである!!



 まさに禁断の遊び、そんなディープな感じだから、みんなコッソリと遊ぶらしい、ひっそりと店を構えているのは、そういう訳だ。


「ここでもクォナやネルフォルが人気というのが色々生々しいですな」


「だからこその禁断の遊びだなのだよ、それで誰にするか決めたのか?」


「うーーん、まだ決めていないんですよね、誰にしようかなぁ」


 そう、色々考えた、さっきからずっと悩んでいるのだが、誰を思い浮かべてもイマイチピンとこないのだ、


「ちなみに王子は決めているんですか?」


「キリッ!」←王子


「? ど、どうしたんです? その顔……」


「神楽坂よ、人形遊びとはディープな遊びである。この場合人形で遊ぶというよりも「誰にして遊ぶか」という部分がディープであるいということ、つまり「倫理」に触れるからなのは理解しているな」


「はい」


「そして私は先程こう言ったはずだ、「禁断の遊び」であると、そして私は今回、その禁断の領域に踏み込むのではなく、踏み抜き、突き抜けると決めているのだよ」


「禁断の領域を、踏み抜き、突き抜ける……」


 Σ( ̄□ ̄|||)!!!??? ←神楽坂


「おおお!! おうじ!! まさか!! まさか!!!!」


「気が付いたか、そうだ」




「今回のターゲットは、我が仲間達である女性陣だ」




「…………」


 男は義理と人情に生きる生き物である。


 我が女性陣はいい女である、そしてこのいい女とは容姿だけを指すのではない。


 人間として敬意を払い尊敬をしているのはもちろんではあるが、それは人間としてだけではなく、女性としても含まれる。


 そう男とは、人間としても女性として敬意を払い尊敬をしているの相手を「エロい目」で見ると罪悪感に襲われるものなのだ!


 しかも今回はエロい目どころか、疑似とはいえ行くところまで行ってしまうのである!


 王子の「禁断の領域を踏みぬき、突き抜ける」とはそういう意味。


 最低である、だが……。


「な、なんという漢気と勇気ですか! 王子!!」


 神楽坂は理解した!


「ふっ、流石我が右腕、さて私は仲間内の誰にするかについてだがもう決めている」


「伺っても?」



「ウィズだ」



「え? ウィズ、ですか? なんだろう、なんか意外」


「ほう、意外か? ならば今一度問うぞ神楽坂よ」



「我を誰だと心得る」



「!!!」



 ウィズ王国にはタブーがある。



 それは偉大なる初代国王と並んで人を論じてはならない。


 だがそれには例外が存在する。


 今のウィズ王国で、偉大と並んで論じられる存在は2人しかいない。



 その1人が目の前にいるのだ!!



「神楽坂、俺は今日、偉大なる初代を超える、異存はないな?」


「ははーー!!!」←ひれ伏している


「神楽坂よ」


「はっ!」


「まさかとは思うが、この期に及んで「カッコつける」つもりはないだろうな?」


「王子、私は非公式ではありますが私は王子の右腕を自負しておりますよ、王子の漢気と勇気、なれば私もまた禁断の領域を踏み抜き、突き抜けることをお約束しましょう」


「ほう、なれば述べてみよ、お前は仲間のうちの誰を選ぶのだ?」


 ここで俺はにやりと笑う。



「セルカ」



「ほう、セルカか、確かにいい女」



「まだ終わっていませんよ?」


 Σ( ̄□ ̄|||)!!!??? ←王子


「おおお! おまえ! まさか!!」



「セルカとクォナとネルフォルとアイカとユニアとシベリアとリコとメディです」



 ハーレム!!


 説明しよう!


 男の浪漫、それはハーレム。


 たかがハーレムと侮るなかれ、その歴史は紀元前にまでさかのぼる。現代世界でも一夫多妻制度を採用している国はあるし、ウィズ王国も同様、日本でも昔、特権階級の男達は側室を持っていた。


 そして創作物もハーレムというのは男性向けの一大ジャンルであり、今までも、そしてこれからもハーレムヒロイン達は男に夢を与え続けてくれるのだろう。


「ウィズは王子こそふさわしい、セレナを外したのはパグアクス息へのせめてもの義理ですよ」


「…………」


 繰り返す、仲間たちに払う人間として女性としての尊敬と敬意を払っている、それは嘘じゃない。


 神楽坂のハーレムとは、その尊敬と敬意を「嘘」とまでに昇華させる悪魔の所業だが……。


「最低だ、だが見事だ神楽坂よ!!」


 王子は理解した!!


「光栄至極に存じます、マイマジェスティ」


「よいな、ここからは私のことは「先輩」と呼べ、分かったな後輩よ?」


「はっ! カグラ後輩了解でありますフォス先輩!」


「よし、覚悟完了、ついたぞ」



 そこで見上げる2人。


 ここが今回の戦いの場である。




 こういう中二病ごっこって本当に楽しいですよね。







 そんなわけで訪れた店の名前は「性の操り人形」まんまやな。


「いらっしゃいマせ~、御予約のフォス様、カグラ様でよロしいですね?」


 と扉を開けて出てきたのは、繰り糸で吊られた人形の店員さんだったが。


「すご! クオリティ高い!!」


 明るいところで見ると絶妙に違うので人形だと分かるが、暗いところだと分からないレベルだ。


「ありがとうござイます、造形師である店主の一番の自信作なンですよ」


「会話まで可能なの!?」


「ある程度ハ、とはイえ多数のパターンから入力して、それを組み合わセているだけデすけど」


「それでもすごい、棒読み感が少ししかない、先輩!」


「うむ、店員よ、俺達は人形の自作は出来ない。だから造形師に頼みたいのだが」


「はい、その場合は2割増シで、一時間ほどお時間を頂キますが」


「かまわんぞ」


「それでは作って欲シい人の写真を下さい、色々ナ角度からが多けれバ多いほどいいです、写真は後でお返しします。こちラに希望の性格やシチュエーションなどを記入してクださい」


「はいはーい」


 と写真を渡して紙を受け取る。


「へぇ~、事細かにあるんだなぁ、先輩はどうするんです?」


「そりゃあ、降臨の儀の時のテンションいくぞ、初代を超えるならやはり攻めだろう、ちなみに後輩どうするんだ?」


「もちろん「みんなで幸せになろうね!」のハーレムエンドからの~、後は文字通り、デュフフ」


 と希望を記入すると、写真と店員に手渡す。


「それでは、料金は前払いでいただきマす、お帰りは既定の時間まデに退室シていただければ特に手続き入りませン、こちらの部屋で待っていテくださいね~」


 とするすると天井裏へと消えていった。


「後輩よ、今日は海外旅行、もとい出張の最後の晩餐、じゃあなカグラ後輩よ、死と再生、生まれ変わった我と明日の朝、相まみえよう」


 王子の言葉に俺はニヒルに決める。


「ハーレムは泡沫の夢。その夢を見て私は一度死ぬ、それは悪くない、故に一夜限りその死に身をゆだねるとしましょう」



 と中二病特有の意味があるようでまるでないタテジワネズミの会話をした2人はそれぞれ部屋へと向かうのであった。





「ふむ、お茶も軽食も美味いな」←王子


 通された部屋は、確かに一番いい部屋とあって、本やらの娯楽道具が一通りそろっており時間を潰せる仕組みとなっている。


 一番いい部屋とはいえ、ここはスラムに隣接した花街、外から見えるのは、薄暗く、薄汚れた裏路地、ガラの悪そうな男たち、寝っ転がっている酔っ払い、立ちんぼの娼婦、地面も小便や吐しゃ物が所々に見える。


 神楽坂が、綺麗に整備された都会も好きだけど、こういう荒んだシチュエーションにも浪漫を感じるとか言っていたっけ。


 神楽坂、異世界からきた来訪者、友人であり仲間でありビジネスパートナー。


 モーガルマン教皇からの報告を聞いたのが初めてだった、神々の橋渡し役だというが、もっと近い位置にあるかもしれないと。


 だからこそ勲章と特別昇任を許可し、動向を探っていたが、アーキコバの物体の解明功労を聞いてラベリスク神と接触していると確信した、これは原初の貴族の間では衝撃的なことで、ドクトリアムとクォナのように独自に行動を起こした人物もいた。


 そして神楽坂と知り合い、エンシラとの件で一緒に活動したことは自分の次期国王としての活動に大きな転換期となった。


 ウィズ神、王族の始祖、リクス・バージシナの仲間。


 王族も含めて会話はもちろん触れることもその考えすら持たなかった主神。


 その主神をあっさりと「仲間」といって自分の目の前に連れてきて、自分自身も交流を持つようになった。


 その交流の中で今でも自分の主神は、リクスを仲間と思い大事にしていることを知った。


 リクスの生まれ故郷であり現在の聖都であるフェンイアは、最初は小さな宿場町であり目立った産業や発展する要素もなく、それは永遠に変わらず、統一戦争が起きれば、いの一番に滅ぼされるか吸収されるような町だったそうだ。


 それはまさにウルティミスと重なる。


 自分は今、初代国王の神話をなぞっているのだろう。


 これから楽しみだと、感慨を抱いた時だった。


 コンコン。


 とノックの音が木霊する。


「むむ! よしよし、はーい、今開けるぞ~」


 と扉があいた先、そこにはウィズが笑顔で立っていた。


「へー! 凄い似ているぞ! 造形師の腕も大したものだな!」


「ご満足いただけたようで何よりです」


「まあまあズズイと入りたまえよ!」


「はい、よろしくお願いしますね」


 と部屋の中に通すと興味深そうにあたりを見渡している。


「そんなに珍しいか?」


「はい、このような場所は初めてですので」


「ほほう、そんな感じに反応も凝っているのだな」


「クスクス、それでどうリードしてくれるのですか?」


「まあまあ物事には順序というものがあるのだよ、その準備の為にちょっと失礼するぞ」


「はい、楽しみにしていますね」


 と部屋を後にするのであった。



 テクテク ←歩いている



 テクテクテクテク! ←早歩き



 ドドドドド!!! ←走っている



「はあはあはあ!! なんで!! 何でなん!! 何でなん!! 何でバレたん!? 本物やんけ!! 本物がきたやんけ!! アカンでしかし!! アカンでしかしいい!!」


 だってここ外国じゃん!! ちなみに行幸に女性陣を連れていくことも多く、その時はあえて健全な店ばかりに選定し布石を打っておいたのに!! 今回は花街の遊びを予定していたから、あえて予定を外すことで2人で遊びに来たのに!!


 流石に本物の主神を抱くとか、いやいやいやいや! そもそも俺にはエンシラという恋人がいるし! それは浮気やし! 浮気! 駄目! ゼッタイ!!


 しょうがない! 神楽坂には悪いがここはいの一番に逃げさせてもらう!!



 男の悪戯には不文律がある。



 一番大事なのは、絶対に成功することではなく、失敗した時、捕まった時に、速やかに死ぬこと



 こっちにウィズが来たということは、神楽坂のところに誰が来ているのかは考えるまでもない。



 ここで故に自分が逃げても神楽坂なら分かってくれる、目がそう告げていた。



 だからその不文律に従い、自分は……。







――「本当にそれでいいのか?」




「っっ!!!」


 ピタッと、足を止まってしまった。


 何だ今のは……。


 逃げるのが不文律の筈なのに、どうして俺の足は動かない。


 これは、ひょっとして、俺の内なる声なのか。


 そう、今回ばかりは洒落にならないのではないか。


 俺のところにウィズが来ていたということは、神楽坂には注文したメンバーが来たという事だ。



――「ハーレムは泡沫の夢。その夢を見て私は一度死ぬ、それは悪くない、故に一夜限りその死に身をゆだねるとしましょう」



(うん! アイツは今夢じゃなくて、走馬灯を見ているに違いない!! 「この世界は残酷だ…、そして…とても美しい、いい人生だった…」とか言ってそう!)



 そうだ、言ったじゃないか、神楽坂は自分の次期国王としてのスタンスを決めた……。



 いや違う!! そうじゃない!!



 友達を助けたい!! それでいい!!




 助ける理由なんて、ただ一つでいい!!




 そのためには、自分のやることは一つ!!



 ウィズ王国次期国王の威光を使う!!



 自分に真に逆らうというのが、どういう意味を指すのか、それは言うまでもないことだ。



 確かに仲間内の中の威厳は地に落ちるだろう。



 だがそんなことは承知の上だ!



 友人を助けるためなのだから!



「かぐらざかーー、かぐらざかーーー」


 くっ、小声なのがもどかしい、こんなところででかい声で探すわけにはいかない、しかも薄暗いから中々はかどらない。


 くそう! アイツが案内された部屋番号を聞いておけばよかった!


 どうする! 時間が無い! 多分向こうも自分の出方を警戒している筈、となれば別の場所に連れていかれてお仕置きされるに可能性が高い! そうなってしまえばもう終わりだ!


 神楽坂! 頼む!! 答えてくれ!!


 と天に願う王子の声に


「王子!」


 そう! 神楽坂の声が応えたのだ!


 まさに奇跡!!


「神楽坂よ! よかった! かろうじて逃げてこれたか!!」


「はい! 王子!」


「よし! 逃げるぞ! 私について来い! 案ずるな! 万難は私が排してやる!!」


「はい! 王子!」


 と2人で逃げ出す。


 もう2人に言葉はいらない、逃げる、ただそれだけだ。


 2人はダッシュで店を出て、花街の裏路地をかける。


 それは2人の命がけの愛、もとい哀の逃避行。


 それにしても料金が前払いなのが幸いした、このまま逃げても相手の店もこっちを追いかけてくる可能性は低い、仮に問いただされたとしても、適当に理由つければいいし、向こうだってそれ以上何とかしようとは思わないだろう。


 無論ただ逃げるだけではない、逃げる場所について決めてある。


 今回大事なのは自分の威光が届く場所。


 海外でそれが出来る場所は一つしかない。



 それはウィズ王国公使館!!



 今回の視察は、属国から友好国へ上がったことにより、政治的な重要性が本国でも見直されて領事館から公使館へ格付けが上がったのだが、その視察という理由をつけているのだ!!


 無我夢中でかけた先、花街を抜けて公官庁通りに入る、その最奥に鎮座するのは保護国であった公国、その次に位置するのが我が国の公使館だ!


「フォスイットだ! ここを通せ!」


 ウィズ王国の王族の紋章と自分の姿を見た門番は飛び上がるほど驚く。


「お、王子! 何か」


「私用だ! 本国への報告の必要はない! 通るぞ!」


 とすぐに公使館の中に入り、宿泊用の居室に神楽坂と一緒に入る。


 だがこれで終わりじゃない、すぐに壁を触ったり自分の体を触ったり確かめる。


 以前に神の力を使われて、認識を誤魔化されて自滅したことがあったからだが、よし! 今回はそれはない、間違いなくここはウィズ王国公使館で、ここは宿泊用の居室だ。


 やった、逃げ切ったんだ! 良かった! 仲間と一緒に逃げ切れた!


 見捨てないで良かったと、思わず泣きそうになるが、それを堪えて後ろを振り返る。


「ここまで来れば一段落だ! なあ神楽坂よ!」



 と振り向いた先。






「ハイ! オウジ!」




 と絶妙に似せた神楽坂(人形)がいた。



「……………………」



「ハイ! オウジ! ハイ! オウジ! ハイイイオウジ! ハハイオウオウオジ! ハハハイイイオウイオウオウジジハイアヒアハイホアオウオウジ、オオトココノノノノ、ロママママ」


 ボン! ←煙を吹いて壊れる



「…………………………………………」





「かぐらざかあああぁぁぁ!!! うああああぁぁぁ!!!」

























――神楽坂の日誌







ウィズ王国歴,××年



 今回は、王子と一緒に、海外旅行、もとい視察に行くことになった。

 今回訪れる国は二か国。

 一つは4大貴族が統治する公国。

 もう一つは、その公国の属国だった王国。

 この度、王国がその国力を認められ属国から友好国となるからだそうだ。

 とっても楽しみ。













ウィズ王国歴,××年


 まず訪れたのは4大貴族の公国だった。

 国家の運営を四部門に分けてそれぞれの部門を公爵家が統治して国家を運営するらしい。

 そして効率的運営という名の相互監視の為に公国を一望できる高台に宮殿を作り、そこに4大貴族が勤務場所しているそうな。

 王族と原初の貴族が統治するウィズ王国とは全然違うが、強国と呼ばれている国はシステムを上手に利用するものだ。











ウィズ王国歴,××年


 次に訪れたのは、公国の属国であった王国。

 この度、めでたく友好国へと条約を結びなおした国。

 活気にあふれていてまさに新興国という感じだ。

 前国王の治世は一部の貴族だけが富を独占して、城を離れれば飢えた民が転がっている、そんな国だったそうだが、軍事クーデターの後、30年かけて国民一丸となって裕福になるために努力したらしい。

 んで、王城に行った時に、次期国王から王子が挨拶されていたが、すげーイケメンだった、しかも頭もよくて性格も良くて人望もあって、王国抱かれたいランキング第一位らしい、けっ!!











ウィズ王国歴,××年


 王国では、視察もそうだけど遊ぶ計画も立てており、カジノやら花街やらで豪遊する予定なのだ。

 表向きはマルスとエンチョウのカジノの為ということにしており、さあ視察をしようと思ったところ、この花街を牛耳っているマフィアが何を勘違いしたのかハニートラップを仕掛けてきた。

 結局ボニナ族と共にマフィア退治をすることになったのだけど、海外で武力行使は極力避けたい、王子が上手くとりなしてくれたようでよかった。

 さて、明日は旅行、視察最後の日、カジノに行ったあと花街で豪遊、でゅふふ。












ウィズ王国,××年


 夜、街へ繰り出し王子と一緒にカジノへ行きポーカーをやった。

 ディーラーの奴、やたらついてやがったが、きっといかさまにちがいねェ

 俺たちをばかにしやがって











ウィズ王国歴,××年


 今朝5時頃、結局女遊びをしようとしたのが女性陣にバレてしまったが、「めっ」ってされただけで終わった、なんだかんだで笑顔で許してくれる女性陣は本当にいい女達だ。

 その代わり宇宙服みてえな防護服を着させられた。

 なんでも流行り病があったらしい。

 本当に優しい女性陣だ。











ウィズ王国歴,××年


 昨日からこの宇宙服をつけたままなんで、背中がむれちまって妙にかゆい。

 あまりに背中がかゆいんで女性陣に相談したら、背中にでっけえバンソウコウを張られた。

 それから、もう俺は宇宙服を着なくていいと女性陣が言った。

 おかげで今夜はよく眠れそうだぜ。











ウィズ王国歴,××年


 朝起きたらやけに静かなんで、足引きずって見に行ったら誰もいねえ。

 そういえば王子は大丈夫だったんだろうか、大事な体、敵対勢力に見つかったら大変だ。











ウィズ王国歴,××年


 昨日、この国のマフィアが、殺された、て、はなしだ。


 夜、からだ中、あつい、たのしい。

 俺たちが国のはれ物 たいじし たら くさり落ちやがた。

 いったいおれ どうな て











ウィズ王国歴,××年


 やと ねつ ひいた も とてもたのしい

 今日 はらへったの、 いぬ のエサ くう












ウィズ王国歴,××年


 たのしいたのしい、おうじー きた

 ごうきゅうして なんで

 たのしかっ たです











 4


 おとこ

 ろま











――神楽坂の日誌をファイルにとじました



いつものとおり完結してありますが続きます。


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