おまけ:ルール宿屋・審議の場
――ルール宿屋。
修道院出身であり元王国府官吏であり首席監督生を勤めたミローユ・ルールが経営者を勤め、王国二大レストランで9位の序列を付与されていた、メトアン・ルールを筆頭料理人として首都に開業。
連合都市から最高級肉であるピガンを供給する唯一の店。
破竹の勢いで業績を伸ばし続け、星を受勲した。
その中の契約に、連合都市専用の秘密の部屋を作ってもらい、連合都市の極秘の拠点として活動を続けている。
本編の最後で、ミローユにネルフォルに騙されていると大爆笑された神楽坂。
憮然とするもようやく銀行の預金台帳を返してもらい、折角だからと秘密の部屋である特別室で泊まることになったのであった。
そのお金で明日は観光に行こうとウキウキ気分。
その夜。
再び俺はグルグルと簀巻きにされて転がされていた。
「って、また、なんなの」
俺を見下ろすのはいつもの女性陣と。
「しかもまた……」
ミローユ先輩もいた。
「あの、先輩、これは一体」
「いや、また突然呼び出されたから来たんだけど、本当に板についているよね、合うって感じがする」
「全然嬉しくない、というか、まさか、この展開って……」
「そうよ、審議の場よ」
「ええ!? なにまた!? まだ俺がミローユ先輩好きだとかになってんの!?」
「いいえ」
「へ!?」
「そこはちゃんとわかってるよ、諦めているって分かる、まだ時々辛そうにしているけどね」
(フンニイインン!!!!)
辛そうにしているそうだ、そうなのか、そう言われることが一番つらいのだが、まあいい、いや、全然よくないけどね。
「じゃ、じゃあなんで、ミローユ先輩がいるのかな(#^ω^)ピキピキ」
「神楽坂、私たち仲間だよね?」
「へ? も、もちろんだけど」
「ありがとう、そして仲間が人の道を踏み外そうとするのなら、身を挺して止める、それが仲間だよね?」
「う、うん、そ、そうだよ」
「分かった、その言葉を忘れないで」
何が何だかわからないままに、アイカは続ける。
「神楽坂、私はね「人を好きになる」ということについて自由であるべきだと思う」
「ん?」
「でもやっぱり、自由であるべきだけど認められないことはどうしてもあると思うの」
( ,,`・ω・´)ンンン? ←神楽坂
「でもごめんね、貴方の苦しみに気付いてあげられなくて」
「ちょちょちょちょっと待った! 前回と流れが全く同じ流れなんだけどさ! なんなん!?」
「そうね、確かにまわりくどかったかもね、だったら結論から言うわ」
「う、うん」
「アンタさ、私たち全員を嫁にするつもりなんでしょ?」
「…………」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
うん、もう一度反芻して見て冷静になって考えてみる、全員を嫁にするとアイカは言った、全員とはつまり我が女性陣という意味だ。
んで、アイカの言葉の感じがすると、全員嫁にするというのは俺が「ハーレムを作る」と言いたいのかな。
なるほど、ふむ、なるほど。
「…………え? そうなの?」
と間の抜けた返事にアイカは首を振る。
「確かに振られて辛いのは分かる、だけどね、自棄になっちゃダメ」
「ちょ、ちょ、ちょっとまって! 頭がはっきりしてきた! 全員を嫁にする!? なんでなん!? なんでなん!? なんで全員を嫁にするかおもうんーーー?」
冗談じゃない! ハーレムは男の浪漫! その浪漫をよりにもよってこいつら相手に! というよりハーレムなんて非現実的過ぎ、全く、何を考えてそんな結論に至ったのやら。
ああそうだ、振られて自棄になっているって言ってたね、ホントにもう……。
「ていうか普通に俺の名誉に関わるやんけ、というわけで先輩が否定すれば済むことじゃないですか、そもそも先輩を好きな事実もないし、別に振られてないし、自棄になってないし、という訳でお願いします」ゴロン
スッ ←半歩下がる
「…………」
「…………」
「なんで離れたんですか?」
「え?」←本気で嫌そう
「…………」
「あー、大丈夫大丈夫、貴方は可愛い後輩よ、だから話しかけないで、そこから近寄らないでね(ニッコリ)」
「先輩……」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!!!
「だー! ちょ! ちょ! ふん!!(ゲシッ!)」
「グヘェ!」
蹴られてぐったりとする俺に、アイカ達は淡々と進める。
「申し開きはある?」
「いっぱいあるわ! そんなこと考えてねえよ!!」
「まあ、こんな状態じゃ正直に言えないよね」
「い、いや、だからさ、違うってさ」
「だけどね神楽坂、侍らすとかさ、アンタ女を何だと思ってんの?」
「だから違うの!! 何で信じてくれないの!?」
「証拠があるからよ」
「はい!? しょうこ!?」
女性陣がコクリと頷く。
「…………」
またあれか、このパターンだとハーレム物のエロ本か。
「はん!! またハーレム物のエロ本とか言うんだろ!? あーはいはい! 持ってますよ! ふーんだ! プイ!!」
「なんでそれが証拠になるのよ」
「ええーーー!!!??? だって!! 前回!! ええーーーー!!??」ピョイーン
とのたうち回る俺に、アイカはズイとある物を差し出す。
あれ、これって、前に使った画像編集機能付きのアーティファクトじゃないか。
「これは私達も出したくない証拠なのよ、素直に認めてくれれば使わないよ」
「…………」
だそうだ。
なんか腹立ってきた、侍らすなんて事実無根なのに、そもそもこいつらが男に侍らせられるようなタマか。
「なんだよもう! いいよ! 分かったよ! 証拠でも何でも見せてみ! あるなら見せてみ!」
という俺の声に女性陣一同は「残念だ」とばかりにため息をつくと、再生ボタンをぽちっと押した。
パッと映し出された映像、場所はラムオピナ、会員となるだけでステータスとなる上流の社交場、顧客に原初の貴族も抱える王国最古のカジノだ。
そこには国から認められた成功者たちが客として振舞い、その負け額が慈善事業に寄付されるとあって、負けることもまた「粋」と解される。
その成功者たちがとある人物を見て顔色を変える。
そこにはツカツカと歩く黄泉チシキに扮する俺が映っており、周りが噂する。
「あの者が黄泉チシキか」
「あの悪女優と対等に付き合える男だ、まさか本当にいるとはな」
「だが本当なのか、黄泉は確か神楽坂」
「しっ! 辞めろ! 知らないのか!? 奴に敵と認定されれば、殺されるぞ!」
「マフィアの皆殺し事件の黒幕は、もうほぼ奴で確定しているというからな」
「元より黒い噂が絶えない奴だったが、神の御使い、いよいよ表、いや裏舞台にも姿を現したのか」
「それにしても……」
「金と地位だけじゃない、女も思いのままか、まさに勝ち組ってやつだな……」
「すとーーーーっっぷ!!!!」←神楽坂
ポチッ ←停止
「何?」
「わ、わかった! 認める!」
「…………」
「確かに、そう誤解される行動をしていた! だが誤解だ! お前らはいい女だ! 人としてもそうだがちゃんと女性として敬意と尊敬をしている! だからこそ仲間になってくれと頼んだ! そんなお前らを「侍らす」なんてことをするわけないだろう!?」
「…………」
「だからこれ以上は、ね?」
ポチッ ←再生
と無情にも再生ボタンを押す女性陣。
「おねがい、おれが、おれが、悪かったから(´;ω;`)ウゥゥ」
そして映像が俺がVIPルームに入り、近づいてきた女達、俺はその女達を気にするそぶりを見せず、豪華な椅子に座る、そのタイミングに合わせて美人達が周りに座り、両脇に侍らせて、その女達に俺は言い放った。
――「この世には2種類の男しかいない、俺か、俺以外か」
「ギャアアーーー!!!!」
――「冴えない男と飲むリシャールよりも、俺と飲む雨水」
「イヤアアアア!!!!」
――「女性は水とパンと黄泉チシキがあれば生きていける」
「ヤメテエエ!!!!!」
――「馬車を運転して右折する時は合図じゃなくて、オーラ出して曲がります」
「アンギャアアアア!!!」
ポチッ ←停止
「ピクピク」
説明しよう!
俺が黄泉チシキと別人として認識させる。
容姿についてだが、せっかく作るんだったらと思った時に、外見はネルフォルをナンパした時の王道ドS美男子にした。
容姿についての相手に与える印象は馬鹿に出来ない。ハロー効果といって、外見のイメージがそのままその者に関わる事象に影響を及ぼすのだ。
ネルフォルをナンパした時に「壁ドン」を例えに出したが、我々とイケメンだと全く同じ行動でも与える印象がまるで違うのだ。
次にその内面、つまりキャラについてだが、どうするかと悩んだんのだが、折角だから思う存分はっちゃけようと思って採用した。
んで「コツは恥ずかしがらずに言うこと」って男子中学生にアドバイスしているのを見て、なるほどなぁって思って、んでどうせ自分じゃないキャラだと思ってアドバイス通りにして、今のとおり台詞は片っ端からパクった。
まあでも実際はこんなので女子受けすれば苦労ないと思ってたから適当なところで切り上げようと思った。
そしたらこれが思いのほか凄い女子受けが良くて……。
「つい調子にのっちゃったんだよーーー!!ヽ(≧Д≦)ノ ウワァァン!!」
「ふーん、その女子受けが良くて毎晩女変えてるんでしょ? 自分の容姿を誤魔化してさ、最低ね」
「しとらんわ!! そのために!!」
「ウィズに協力してもらったんだよ!!」
そう、それこそ最初に言った、黄泉チシキの「ステータスとしての女」をどうするのかについての解決策がこれだ。
ネルフォルと俺との噂はそのまま黄泉チシキとしてスライドさせたがその際に「女にシビア」としてのキャラを確立させる。
そう、黄泉チシキは、女にシビア、ヒモで自分に貢がせる、それでいて鉄火場をくぐっている男が黄泉チシキだ。
んで、毎晩女を変えているという弁のとおり訪れるたびに「モテた女」から適当に1人を選んで別室に連れて行っているが、実は全員ウィズだったりする。
だけどもさっきの映像のウィズ以外の女性に別に仕込みはないのが驚きだ、女の好みってよくわからないなぁ何て思ったものだ。
んで黄泉チシキとしての活動はラムオピナにたまに姿を現す程度だし、それで十分と考えている、噂の架空の人物と言われるのは困るからその噂が立たない程度に。
「以上が理由だよ。もちろん女に理解しろなんて言わないよ、だけど男の世界だと金と女と名誉ってのは凄く分かりやすいステータスなんだ」
「んでネルフォルの他に多数の愛人にしているんだ噂は、その噂自体が立つことが目的だったんだよ」
「まあ、金については正直どうにもならない、ラムオピナで遊ぶ金なんて持っていない、とはいえ金が無いのがバレるのはまずいからな、姿は滅多に表さないつもりだから、これで事足りるのさ」
「…………」
ポチッ ←再生
――「故郷に雪を降らせることは出来ないけど、俺の魅力で君の頭を真っ白にすることならできるぜ」
「アゲエエエエ!!!!」
ポチッ ←停止
「なんで!? なんで再生したの!? 必要ないよね!? ってウィズもそう言ってくれればいいじゃん!! そうすれば最初からこんなことにならなかったのでは!?」
と何故か俯いているウィズに向かって話しかけると。
「ぶはー!!」
と思いっきり吹き出した。
「いーっひひい!! 神楽坂様!! 私にはこのセリフが普通に神楽坂様の姿で言っているように見えるんですよ!? ドヤ顔で!! 思いっきりなドヤ顔で!!」
「(ノД`)シクシク」
「はー! はー! いや失礼しました、これはイジリ甲斐のあるネタだと思ってつい」
「ついじゃない! もう」
とむくれている俺を訝し気な視線で見る他の女性陣。
「なんかすごく仲良くなっているのよねぇ、ウィズのこの姿見ても驚かないし」
「ああ、今回の異動で一緒にいって色々やっただろ? 途中あたりからこんな感じなんだよね、ってお前らも驚かないのか」
「それこそ私達に対しては割とこんな感じなんだよね、まあ自警団の子達とかアイドルみたいに見ているから言わないでおいているんだけど」
「へー」
「ということで、ウィズ、神楽坂は侍らせようとは思っていないのね?」
「はいそのとおりです、皆さん、すみません。少なくとも「私は」侍らされてなんていませんよ、ひょっとしたら私の知らないところで「つまみ食い」しているかもしれないですが」
「しとらんわ! 実際にラムオピナはそのハニートラップで食い荒らされていたんだぞ! そんな迂闊なことするか!」
「じゃあネルフォルとの熱愛報道は? 騙されてはいないの?」
「事実無根! って、騙されている前提なの(´;ω;`)ウゥゥ」
「その顔を見ると本当みたいだね」
「そうだよ、もう、何度も言っているのに、あ、そうだ、思い出した、そのネルフォルから伝言を預かっていてな、えーっと、お前らがやっている女子会? ってのに参加して交流を持ちたいとか言っていたんだ」
「…………」
「だからクォナかユニア辺りで誘ってやってくれないか、アイツは中々に面白い人材だと思う、とはいえ色々と手強い、だから同性のお前らの方でも確かめて欲しいんだよね」
「…………」
「え? え? 何その顔?」
ポチッ ←再生
――「人間は酸素を吸うと二酸化炭素を吐くらしいが 俺は酸素を吸うと名言を吐いてしまう。 ただそれだけの事なんだ」
「ギエエエエ!!!!」
とすっとアーティファクトを目の前に置く。
「じゃあ要望どおり皆で行きましょうか」
「実はネルフォルから誘われているんです、七つ星レストランに」
「それはいいことね、交流を深めることにしましょう」
「お会計はご心配なく、会社の経費として落としますよ」
とぞろぞろと帰る女性陣。
「何で帰るの!? どうして!? ちょっとまって! ほどいてほどいて!! 止めて止めて止めて!!!」
――「俺の事が好きな女。 そして これから俺の事を好きになる女。 この2種類だ」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァーーーーー!!!!」
●
「ピクピク」
と震えていると、スッと料理が出してくれる。
出してくれたのはもちろんメトアンさんなんだけど。
「はっ! アレは!! ピガンの肉!! しかも最高級部位!!!」
賄いにも本物を、というのはメトアンさんのスタンスとは以前に述べたとおり。
だがピガンだけはどうにもできなかった、原材料は高いだけではなく何より希少価値が高いため、客の提供分を確保するだけでも手いっぱいだったのだ。
そのピガンの肉なのだが、王国2大レストランでの一つで、序列9位を与えられていたメトアンさんから見てもピガンを見た時に「これ以上手の加えようがない」と感じたのだという。
ここでメトアンさんは拘ったのはその周りだったそうだ。
まずソース、これが駄目だと肉が台無しになるという理由で、寝る時間を削って研究に勤しみ、ついにピガン専用のソースが完成。
更に付け合わせの野菜にも拘り、休日を使って野菜を新規開拓して、ピガン専用の付け合わせの野菜を発見する。
最後は白飯もまた、ホクホクのとろけるような食感らしい。
らしいというのは俺が食べたことなかったからだけど、お客はもう幸せそうな顔で会話を忘れて夢中で食べている姿を何回も見た。
そんな姿を見て「目の前の大事な人より夢中になる食事を作るのは料理人としてはどうなんだろうな」とこれまたカッコいいことを言っていたのだ。
そっか、俺が羨ましそうにずっと見てて、それで高くて手が出なくて、だから作ってくれたんだ、出されたピガンの肉の量少ない、だけど大分無理して少しだけ確保してくれたのが分かるのが泣ける。
「しかもメトアンさん、これ、出産前の若い雌なんじゃ」
メトアンさんはコクリと頷く。
「ウルウル、メトアンさん……」
わかる「俺もミローユにプロポーズした時は、こうやって頑張って気障なことをしたんだ」って言ってくれているのだ。
そうか、メトアンさんもそうなんだ。
やっぱり優しいのメトアンさんだけだ、あの自称美人モテ女の性悪女には本当にもったいないぐらいの人だ。
「うまい! うまい! グスッ! うまいよう! おいしいよう!!」
誇張抜きに涙が出るほど美味かった。