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第12話:報い



「あーーーーつかれたーーーーーー」


 とボニナ都市の拠点でソファにばったりと倒れこむ。


「お疲れ様でした、神楽坂様」


 とウィズはお茶を淹れてくれて、ずずっとのむ。


「はぁー、お茶うめーー」


「エンチョウで買ってきた茶菓子をどうぞ」


「あ! これは一日10箱限定のお菓子じゃん! うまうま! うまうま!」


 パクパクと当のウィズも一緒に食べて雑談に興じる。


 今回の作戦、一番の功労者は当然。


「ありがとな、助かったよ」


 今回の作戦実行について、いくつかの場面については、使徒の身体的強度では不安があった、その部分に部分については彼女が俺に扮して俺の役をやってくれたのだ。


 んで首都にいる俺の姿はいつものとおりルルトに頼んで、俺の姿で散歩をするように伝えてあるだけ。「また面白そうなことをしているみたいだね」ときたものだ。


 同じ姿の人物が2人いる、種を明かせば怖くもなんともない、いつもの俺とルルトとのやりとりだ。


 だが、俺の今回の作戦はかなり汚いことをやってのけた、死人もたくさん出した。結果ボニナ族を変えてしまった、望むに望まないに関わらず。


 だから俺は……。


「軽蔑されるかなって思ってた」


「え?」


「けど、逆にノリがよくてびっくりした」


 俺の言い含めたことが分かるのか、ウィズは表情を崩す。


「そうですね、正義の味方なのに神の力を使ってインチキするのが面白かったですね」


「面白いってね、神の力を使ってのイカサマの馬鹿勝ちは正攻法だよ」


「ふふっ、それって正攻法なんですか?」


「イカサマは見抜けなければイカサマじゃないって、日本のギャンブル漫画は大体そう言っているんだよ」


 俺の言葉にクスクス笑って。


「神楽坂様は優しいです、だから軽蔑なんてしませんよ」


 といった。


「優しいか、優しいのかなぁ、優しい奴はこんなことしないと思うが」


「リクスも、優しい人でしたよ」


「…………」


「神楽坂様、統一戦争で勝ち抜くというのは、当たり前の話ですが綺麗事ではありません、戦争後平和が訪れましたが、その為にたくさんの人が死にました。そしてもちろん、リクス率いるフェンイア軍もまたたくさんの人を殺しました」


「ですけど、リクスが最後まで優しいままでいられたのは仲間たちのおかげです、信じるに値する仲間がいるからこそ、リクスは人のままでいれたんです」


「もし仲間たちがいなかったら、リクスは人ではなくなっていたかもしれません、今回の神楽坂様の動きは、その時のことを強く思い出しました」


「そっか」


 胸が締め付けられる、今回のウィズはずっとこんな感じ、無意識なんだろうけど、今回はこうやって俺とリクスを重ねて見ている。


「初代国王と比べられるのは恐れ多いよ、リクスはこんなインチキ使わなくたって能力もずば抜けて高くて、んで美男子で女にモテまくったんだろ?」


( ^ω^)………… ←ウィズ


「な、なんだよ、その顔」


「さあ、どうだったかなぁと思っただけです」


 そんな時に家に来訪者があった。


「はーい」


 とパタパタと外に出て扉を開けると、そこにはボニナ族の街長のワイズと10名弱のボニナ族の幹部たちがいた。


「? どうしたんです?」


 なんだろう急に、と思った時だった。


 街長含めて幹部たちは跪く。


「え? え? え?」


「神楽坂、我々は歴史の生証人となった。統一戦争時代、ご先祖様方はこうやって戦いに敗れ、リクスと出会い、交流を重ね、彼を認めた。そして彼のおかげでボニナ族は滅びず、統一戦争を生き延びた。そして現在、再びその奇跡と奇蹟により、我々は滅びを免れた。神楽坂よ、部族を救ってくれた恩は忘れない」


「そ、そんな大したことはしてないですよ」


「今後、エンチョウだけではなく、我がボニナ族は神楽坂の活動に尽力することを誓う。そして連合都市の提案も全て飲むことも決め、明日、セルカ街長へ伝達するため出向くことにした」


「お、それはいいですね! となれば早速タドー達にも話しておきますよ!」


「以上だ、今後もよろしく頼む、その挨拶に来たのだ、それでは失礼する」


 と街長たちはそれだけいうと再び踵を返したのであった。


「な、なんか、大仰やね、まあ感謝してくれるのはうれしいけど……」


 あの言い方はボニナ族も初代国王と俺を重ねていたのか。確かに王国では神の相棒は偉大と同義であるから無理もないことなんだけど。


 といきなりウィズに突然手をギュッと握られる。


「ふお!」


「私も貴方に付いて行きます、リクス」


「…………ああ、ついてきてくれよ」


 こんな感じで、俺は普通に返す。



今回の作戦は俺とウィズの二人三脚で実行してきたが、その時に実はこんな感じで何回か俺のことを気づかずにリクスと呼んでいる。



そんな彼女に、俺はせめてもの気遣いとして気づかないふりをした。



――



 戦いが終わり戻ってきた平凡な日々。


 なのは表向きだけで、今回のことで他のメンバーはいつものとおり頑張ってくれている。


 まず特に憲兵という国家権力を私的に運用してしまったので、王子にも動いてもらっているのだ、後でお礼を言っておかないとな。


 続いて連合都市がさらに強くなるために、俺以外のいつもの女性陣は、立場向上の為に頑張ってくれている。


 まず連合都市とボニナ都市が関係を公式に結んだことだ。


 今回のボニナ族の付け込まれる隙となってしまった買い出し時の子供の拉致、これはそもそもボニナ族がちゃんとした対策を採ってなかった点にある。


 故にボニナ族が必要な物資を全て連合都市が手配し、ワイズ街長をウルティミスの幹部の1人に組み込むこととなったのだ。


 組み込むとはいえ関係としては対等であること、それに代わりはない。


 その名代として立ったのはネルフォル、ラムオピナの代表として、彼女自身の「財布」であったラムオピナもまた組み込まれることになった。


 エンチョウは、ツバル・トゥメアル・シーチバル家の貴族領ではあるが、ラムオピナはネルフォルが勝ち取った「自治領」であるため、これが実現、連合都市は同家との繋がりも得ることになった。


 そして憲兵側の体制も変更になる。


 規模拡大と原初の貴族の3家が関わる連合都市となったことで、治安維持部隊であるタキザ大尉率いる第39中隊を主力として、大幅増員となった。


 それに伴い、タキザ大尉を取りまとめ役として、憲兵少佐に昇任、連合都市とエンチョウの一部に食い込むことになった。


 大幅増員に伴い人員に余裕が出来たことからアイカは憲兵中尉に昇任し、連合都市のセルカを始めとした女性VIPたちの身辺警護人として正式に命じられる。


 ボニナ族との交流はセルカを通じてとなるが、ボニナ族の女性陣とも仲良くなっている様子。ちなみにウィズも、家にはいない、連合都市に戻って色々と動いてくれている。


 その更なる発展についてだが、それはまた別の機会に語るとして……。


「zzzzzz」


 そんな俺はというと、のんびり昼過ぎまで寝ていた。


 こ後はムクリと起きて、散歩して、自警団の詰所で男のロマンを語る予定、こんな感じでいくら寝てもサボってもユニアの小言が飛んでこない、よきよき。


 んで、肝心かなめな俺の今後についてなのだが、王子によると、任務完了という事で、近々連合都市の駐在官への内示を出すようだ。


 タドー達にそれを話したら嬉しいことに寂しがってくれて、送別会まで開いてくれるという、本当にいい奴らだ。


 さて、今日はタドー達も色々忙しいらしく何時もの男のロマンの時間は無いという事で、一日家でゴロゴロする予定。


 そんな麗らかな昼過ぎ、来訪者を告げるチャイムが鳴った、誰だろうと思って、対応するとエシルだった。


「ここに来るとは珍しい、どうしたの? 何か問題でもあったの?」


「用事がないと来ちゃだめなの?」


「そんなことはないけど、あがってく?」


「ううん、用事があったのは事実だからさ、まあ大した用じゃないけど、お礼というか、お礼になるかわからないけどさ、風呂の話だよ」


「風呂?」


「そう、ボニナ族の風呂あるじゃない、それをさ、神楽坂さん1人で貸切で使い放題にしようかなって思ってさ」


「…………」


 パアアア ←目の前が輝く


「マジ!?」


「うん」


「あのさ、そのさ、1人で貸切ってことはさ、そのー、あのー、ちょっとマナー悪く使っても、いいかなぁ、とか」


「いいよ別に、街長の許可は採ってあるし」


「わーい! やたー!」


「じゃあ早速いく?」


「行く!!」





「フンフンフーン♪」


 エシルと一緒に颯爽と風呂に向かう。


 道すがらいろいろ聞いてみたら、先日の街長の行動は、あの宣言の言葉のとおりリクスのように仲間として認めてくれたらしく、今回の風呂はこれからの挨拶代わりとして、特別に準備をしてくれたらしいのだ。


 前にも言ったとおり、ボニナ族の風呂は百畳ぐらい広い、んで深さもそこそこある、そこを1人で使える、思う存分、特別にちょっとぐらいマナー悪く使ってもいいそうだ。


 さていきなり話は変わるが皆さんはザトウクジラをご存じだろうか。


 細かい生態は省くとして、ザトウクジラはダイナミックに水中から水上に向かってジャンプをするブリーチングという行動を行う。


 つまり、それをやるのだ。


 思えば異世界転移前に1人で温泉旅行に行ったとき、深夜まで温泉を開放している宿に泊まるとブリーチングをしたいがために、午前2時に目覚ましをかけて入りに行ったものである。


 そんなこんなで風呂場に到着した。


「とうっ!」


と早速ばかりに脱衣所に向かうも。


「…………」←じっと見ているエシル


「な、なに、あの、今から脱ぐんだけど」


「気にしてなくていいよ」


「気にするわ、早く外に行って」


「入り終わるまで外で待ってるのもだるい」


「……まあ見て面白いものじゃないからいいけど、まあいいか、となれば」


「キャストオフ!!」←神楽坂


 シュパパっと服を脱ぐと、そのまま、上機嫌のまま、風呂場へと向かう。


「フンフンフンフーン♪」


 さて、お湯を体にぱぱっとかけたら、まずは飛び込みをやろうかな。


 さあ行こう! 俺たちの戦いはこれからだ!!


 と上機嫌に風呂に入った先。


 そこはまさにパラダイスだった。


 男にとっての秘境、禁忌、だからこそ、追い求める浪漫。



「お、きたきた」



 と一足先に入っていたボニナ族の女性陣が出迎えてくれた。



 ピシャ! ←扉を勢いよく閉じる


 イソイソ! ←素早く服を着る


 ズンズンズンズン! ←エシルに近づく


「パクパクパク!!(訳:女が入ってるやんけ!!)」


「うん、入っているよ」


「パクパクパク!!(訳:貸切いうたやんけ!!)」


「ごめん、それ嘘」


「パクパクパク!!(訳:嘘!? 何で!?)」


「あれ? タドーから聞いてない? ボニナは対外的には男系社会で売っているけど、生むのは女だから権利は女にあるんだよね」


「パクパクパク!!(訳:知っているけど! そこじゃない!)」


 ここでガラッと扉が開くと何人かのボニナ族が顔を出す。


「神楽坂大尉、入らないの?」


「入るか!」


「なんで?」


「いや、なんでって、逆に何で入るの?」


「見分」


「見分!?」


「ボニナ族は優秀な遺伝子を残さなければいけないからね、その遺伝子を残すのは男じゃなくて女の仕事、今回ボニナ族を救ってくれたと街長から聞いてさ、だからその見分」


「いやいやいやいやいや!! 言い分はわかるけど、男を一緒に入るってさ、わかってんのかよ、俺はタドー達相手に10連勝して、つまりそれは」



「はっ、なんだ、ビビってんだ、じゃあいいよ」



「は、は」



「はああぁぁああーーーー!? なんだよビビってるって!? わかったよ!! 別に俺は全然いいし、ラッキーだし!! 言っておくが思う存分見てやるからな!! 文句言うなよ!!」


 ピシャ ←一緒に中に入る


「それにしてもお前らは本当に運がいいよな、本来だったら襲われても文句は言えないが、俺は女性を尊敬し敬意を払っている、だから俺は女性に対して侮辱するような、あ、ちょ、ちょっと、そ、そこ、そこは、あ、あ、あの、い、い、いや」



「ら、らめええええ!!!!」



 と絶叫の後、ガラッと扉があいてボニナ族の女性がエシルを見る。


「あれ? エシルは入らないの?」


「……私は遠慮しておく、これからちょっといかなければならない場所があるから」


「そう? わかったわ」


 と扉が閉じるのを確認して、エシルは踵を返し、ボニナ都市を発つ。


「…………」


 顔に焦りの色が見える彼女の向かう先は……。




――ラムオピナ・オーナー室




「これで今回の戦いがすべて終わった、マフィアの爪を出血覚悟で引き抜くのではなく、その爪そのもののを無くす手段をとり、一掃することに成功。神の力を使いボニナ族を眷属として神格化し保護を実現、連合都市ともつながりを得る」


「裏社会では黄泉チシキと神楽坂イザナミは敵として認定されると殺されるという理由で同一人物「ではない」というのが暗黙の了解となった。ボニナファミリーの支配区域はエンチョウの数字上では三分の一だけど、娯楽の主要部分の7割に及ぶ」


「今回のことは、初めて王子の息がかかった神楽坂イザナミという「仲間」が、公式に結果を出したということになる。しかも裏社会という表では触れられない分野で!」



「やっぱり、神楽坂イザナミを中心として動く渦はもう止まらない! 周りがいくら無能だと罵ろうと! 私のように周りが彼を放っておかない!!」



「エシルもそう思わない!?」


 興奮気味に語るネルフォルにエシルは冷めた表情だ。


 そう、あの後急いで彼女は街長に許可を取りラムオピナに飛んできたのだ。


「……姉さんには悪いけど、私は趣味じゃない」


「え? ああ、うん、そうね、確かに容姿は冴えないというか、女心も分からなそうだし、まあモテないわね」



「違う! 神楽坂イザナミはイカれているわ!!」



 絶叫するエシルに黙るネルフォル。


「こんなことがあり得るの!? たった2カ月であの男は全てを変えてしまった! 2か月前の私に、今の状況を説明しても荒唐無稽すぎて絶対に信じなかった!!」


「今回一番私がそう思ったのは、人死を作戦に組み込んだことじゃない! 裏社会というルール無法地帯における秩序を「悪用」して今回の皆殺しを実現させたこと! ウィズ王国という法治国家でこれだけのことをしてるのよ!? それが後腐れなく利益をもたらし秩序まで維持するその発想!!」


「首都の有力マフィア達は「神が相手」という方便を与えて、これ以上ない手を引かせる口実を作った! そしてエンチョウはツバル・トゥメアル・シーチバル家が仕切っていて、その異端である立場でもある姉さんの威光の強さも利用する!」


「いや違う、そうじゃない、神楽坂がイカれているのはね、これだけのことを全て見越した上での活動をして、この状況について、それを生み出した神楽坂はなんていったと思う?」



――「俺はズルしているだけ、凄いは俺じゃなくて周りだよ」



「それを本気で言っているのよ!? イカれてる以外どう表現しろってのよ!? あの男は何なの!? 本当に普通で本当に平凡で、だから本音であったことにぞっとした!!」


 息を切るエシルにネルフォルは満足げに微笑む。


「イカれてるか、というよりもクォナが傍にいて、アイツが惚れているという時点で推して知るべきよ。アイツが惚れた男がまともな男のわけないでしょう? これだけのことをして、今回のことを武勇伝とすら思っていない、そのイカれかたがシビれるのよ」


「……余裕なのね、言っておくけど、街長が忠誠を誓ったボニナを救ってくれた英雄として、他の子たちが女子風呂に「見分」のために招いたわ、神楽坂さんだって男でしょ、今頃どうなっているのかな?」


「あらそうなの、大丈夫よ、何もないはずよ「自分は理性の有る狼で良かったな」なんて言っている筈だから」


「そう? 押しに弱そうに見えるけど」


「というか、たくさん女を食って成長して欲しいと思うぐらい、ちょっと紳士的すぎるのよね」


「姉さんのそういうところはついていけない」


「…………」


「…………」


 ここでエシルは心配そうにネルフォルをみる。


 そうエシルがここにいるのは今回はあることを聞きつけて駆けつけてきたのだ。


 ネルフォルの机の上には、その心配のとおりの内容が記載された封書が置いてあった。


 その封書の内容はとある人物からの呼び出しだ。


「姉さん、大丈夫なの、その」


「まあ私にとっても賭けだったからね、その賭けはまだ半分、それにこの事件で私も命を懸けないとカッコつけないでしょ?」


「そ! そうだけど! そうだ、姉さん、私も一緒に行くよ! 今回のことがボニナ族を救う英断だったって私が言えばひょっとして! 街長だって借りがあるんだから頼めば!」


「そういう小細工はあの方は好まないわ、逆鱗に触れるかもしれない」


「で、でも!!」


「心配してくれてありがとう、確かにあの方は、とても恐ろしい方よ。だけど私の気持ちは決まったの、悪女優としても原初の貴族の直系としても、あとはあの方にそれを伝えるだけ、そしてどうなるかは、ふふっ」


 晴れ晴れとした顔で告げた。




「これが悪女優の最期なら、またそれもよし」




――ボニナ都市・ワイズ自宅




 ボニナ族には代々の街長に受け継がれる歴史書が存在する。


 その名が回顧録、ボニナ族について日々あったことを記録する書物、これを保管管理するのも街長の大事な仕事の一つだ。


 最初の回顧録は古く、統一戦争時代前から続いている。


 当然原典はボロボロで手を付けられる状態ではないため、そうなる前に、新しく写して歴史を後世に伝えている。



 統一戦争時の記録、つまりリクス・バージシナとの対談の記録も残っている。



 ワイズは、今回のことで何回読み返したかわからない、伝説とまで評され、偉大の名を関する唯一の王と伝えられる神の相棒リクス・バージシナ。


 その初代国王についてボニナが知る真実。


 リクスとの邂逅について当時の街長はこう記している。




――見るものを引き付ける才気にあふれ、傑物と評されるにふさわしい風格を持つ人物たちを従えた驚くほどの凡庸な男であった。




 最初、その傑物たちに囲まれているため、誰が王であるかわからなかったという。


 当時のボニナ族は、統一戦争の覇者の候補の一つと言われており、最強の戦闘民族という評価は今と変わらなかった。


 だがやっていることと言えば、追剥に毛が生えた程度、相手がならず者であったからメンツを立てているだけの、持ち前の戦闘能力で恐れられていただけの蛮族だ。


 神を相棒にした人物としての敗北は、今回と一緒、蛮族とまで自嘲した当時のボニナ族の窮状を見抜き、戦下手であることも見抜かれて神の力を使われる形で敗北する。


 そしてリクスをボニナ族の住居に招き、交流を深め、神の力、相棒の真実を知り、当時のボニナ族は族長を初めとした全員がリクスに忠誠を誓い、結果、フェンイア国の一員として統一戦争に参戦した。


結果、ボニナ族は革命的な変化を遂げた。世界を統一する初代国王の盟友として歴史に名を残すことになったのだ。


 統一戦争に参戦してからの回顧録は当時のボニナ族がいかに戦争に参加して戦えることに対して充実感を持っていたか分かるような内容だ。


 もしリクスに負けなければ、最強なだけの戦下手という弱点を暴かれ別の有力国に滅ぼされ歴史に幕を下ろしただろうと記している。


 そして統一戦争に勝利した後、これから始まる平和な時代において、ボニナの「暴力」を活かせる形でラムオピナの用心棒として糧を得て、現在まで生き延びた。



 だが、それも限界に来ていた、いや、これだけの長い間、よくもったと言っていい程にだ、そしてその限界は最悪の形で訪れてしまった。



 だがボニナ族は再び「神の相棒」により「神の眷属」となり再び革命的な変化が起きた。


 閉鎖都市としての特色を持ちつつ、外へ出るようになったのだ、連合都市、いや、神の相棒に認められし、神楽坂の仲間たちとの交流だ。


 変化に対する不安はある、それはそうだ、変化は怖い、それは変わらない、リクスの盟友となった時の回顧録でもそう記されている。


「変わらなくてもいいもの、変えなくてはいけないもの、この二つの判断で、いつの世にも悩まされるという事か」


 原典を丁寧に戻し、神の相棒による革命を担ったワイズは、これからの未来に想いを馳せる。



 リクスの対談を記した回顧録は、最後にリクスをこう評している。





――善悪を超える、精神の怪物である




――同時刻・某所




 ネルフォルは、跪き、その人物を仰ぎ見ていた。



 ネルフォルを見下ろす人物の目、その目を見たとき彼女は悟る。



 もし応対を間違えたら。




 自分の首筋には当てられている剣が、自分の首をためらないく飛ばすであろうと。




 その自分に首を当てている人物。



 フォスイット・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルア。



 彼は静かに見下ろしていた。




次回は、11日か12日です。

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