表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/238

第7話:正義の味方・前篇



 マフィア同士の関係について述べてみる。


 俺がいた世界では、それこそ「お国柄」で異なるから一概に言えないが、ここは日本で例えてみる。


 例えばとある反社会勢力が海外の反社会勢力の大幹部を呼んでもてなす時、ある不文律がある。


 それは大幹部を呼んだ反社会勢力に恥をかかせないように他の反社会勢力が協力するのだ、それが例え抗争状態であってもだ。


そこは一旦抗争を辞めるどころか、その外国の大幹部の敵対する人物が来日していたら、日本国内で外国人同士の抗争を起こさせないように守る程だ。


 何故こんなことをするのかというと、仮に外国の大幹部が日本国内で暗殺されるようなことがあれば「招待した組織のメンツが丸つぶれになり、結果他の反社会勢力も舐められるから」という「一部の恥を全体の恥」と捉える日本人の特性による。


 逆に、欧米のマフィアは真逆で「如何に恥をかかせるか」に重点を置く。


 欧米のマフィアが日本の反社会勢力の大幹部を呼んでもてなすとき、敵対する組織は日本の大幹部を暗殺しようとするのだ。


 これは「一部の恥は一部の恥であり自分たちは関係ない」という個人主義による。


 しかも欧米は、反社会勢力が当たり前のように堂々と民間に食い込んでいる。


 例えばカジノでもてなす時、日本の大幹部が来る時だけは、そのホテルとカジノの従業員を全て休ませて、自分の息のかかった人物だけ出勤させるということをやってのける、これは日本では考えられないことだ。


 ウィズ王国でのマフィア同士の関係は、欧米ほど個人主義ではないが、どちらかといえば欧米よりの関係である。


 多額の金が動くエンチョウでは3大マフィアがお互い三すくみの状態で君臨していた。


 ペナマーシルファミリーとスチラファミリー、そしてボニナ族に滅ぼされたグーファミリー、この三つのファミリーはエンチョウを三つに分けてそれぞれの縄張りにしていた。


 その三すくみはグーファミリーが滅ぼされたことにより崩れようとしていた。


 ペナマーシルファミリーのボスであるクタ。


 スチラファミリーのボスであるソレラ。


 いずれも切れ者として名を馳せ莫大な金を上納し、成り上がった2人である。


 その2人はエンチョウの最高級ホテルのスイートルームでボディーガードと最高幹部数人を連れて会合を開いていた。


「さて、順調にことは進んでいるわけだ、難攻不落と言われたラムオピナのことも大分わかってきたな、やってみれば案外大したことはなかったか」


 そういうのはクタに返すのはソレラだ。


「グーファミリーが奴らが気を急いてボニナ族に仕掛けて失敗した甲斐があったという事だな」


「3大マフィアなんて言われても奴らが落ち目なのは事実だったからな、結果、我々にとって功を奏したわけだが」


 グーファミリーは、それこそボニナの活動区域を縄張りとしていたため、活動が制限されることになっており、ずっと厄介な相手だったのだ。


 そこでグーファミリーの頭目は一計を案じ、ボニナが掟を重んじるということを知っていたため、ボニナの子供を拉致、無理矢理掟を守らせる形で戦いを仕掛け、知っている限りの掟を全て吐かせたのだ。


 結果、ボニナの逆鱗に触れて滅ぼされたわけだが、当然その掟の内容は、他の2大ファミリーも知るところとなり、戦う上で致命的な弱点が判明したのだ。


 それは戦下手であるという事、相手の掟を守れば、むしろ戦いやすい相手であることだ。


 その掟を利用し、ラムオピナは順調に攻略していたが……。


「だが一つ、気になる動きがある」


「神楽坂イザナミか、現在、ボニナ都市の駐在官に赴任してラムオピナにも入っているな」


 神楽坂があの皆殺しの直後、請われる形でボニナ都市の駐在官として異動したことは、自分達にだけではなく、憲兵にも激震が走った。


 当然に何か狙いがあるとして2大ファミリーは監視は続けているが……。


「特段目立った動きは見せていない、か」


「だが奴が巷で噂されている無能ならば、そろそろ「動き出す」だろうさ。なんせ奴には魅力的な「特典」がたくさんついているからな」


「まあ、動かないのならよし、動くのなら尚よしだ」


「いずれ、ラムオピナとネルフォルは我々の物になる。異端とはいえ彼女も原初の貴族の直系だ、そうすれば我々は王国で逆らえる者は誰もいなくなる」


「ああ、そうだな、そのとおりだ、だがことを急いてはならない、グーの二の舞は御免だ」


「だが一応注意をしておく、神楽坂が動いた際に、すぐに報告するように徹底しよう」


 その決をもって会議は終わったが……。


 当然そんなのは「お為ごかし」だ。


 人の欲は果てしない、ラムオピナの件が一息つけば、今度はお互いが戦う。


 2人の大頭目は次の戦いに向けて思考を巡らせるのであった。



 その同時刻、自分たちの傘下で小さな動きがあることを彼らは知る由もなかった。



――



 さて不良漫画で例えてみよう。


 不良漫画の世界とは「強い奴が最高で正しい」といった理屈で物語が進んでいく。


 だが現実世界において「暴力は一つの手段」すぎないのは繰り返し述べた通り。


 現に最悪の武闘派憲兵と呼ばれるタキザ大尉は「俺がマフィアだったら友好を選ぶ」という言葉が物語る、不良漫画のように全て喧嘩で白黒つけるのは下策だ。


 これは意外と分からない人が多くて、日本の反社会勢力同士の喧嘩は何も殺し合いだけじゃない、口喧嘩で終わったり、金で終わったり、理性的に話し合いだってする。


 そういう計算の上に成り立っており、裏社会にもちゃんと秩序が存在する。何故なら秩序が存在しないと自分達が不利益を被るからだ。


 と裏社会のことを語りだすときりがないので、この辺で切り上げるとして以上のことを踏まえて考えてみよう。


暴力組織と言えど暴力は一つの手段と表現したが、なら暴力以外の手段とは何なのか。


 これも様々あるが、代表的な手段について紹介しよう。


 それは「相手の弱みに付け込む」ことである。


 なんだそれと思うかもしれないが、弱みに付け込む手段の「練度」を上げる努力をするのがマフィアだ。


 そのマフィア達はどうやって弱みに付け込むのか。


 その方法もまた様々だが要は「弱みを作るか見つけるか」だ。


 分かりやすく政治家で例えてみよう、政治家の弱みに付け込みたいと考えた時、協力者を使って、色々調べ上げる。


 その中でお決まりの闇献金なんかがあれば、そのネタを掴み政治家と接触する。


 さて、ここまで語るとドラマのように「脅されて金銭を要求される」を思い浮かべるかもしれない。


 無論その場合もあるといえばあるが、この使い方をする時は「弱みが金にしか代えられない場合」だ、その場合は搾り取って捨てる。


 なら先の事例「政治家の闇献金の弱み」を見つけて政治家と接触して、どうするのか。


 これはそう、こう言えばいい。




――「悪い奴が来たら、守ってあげますよ」




 政治家の弱みを金に換えるなんて馬鹿のすることだ。この政治家から今の日本の政策がどうなるのか、どの法律が発議されて通るのか否か、そして何処が開発されるのか値千金の情報が手に入る、しかもこの政治家と繋がりがあるだけで「ハッタリ」も打てるようになる。


 昔からある王道の手法、つまり弱みに付け込んでどうするのかというと、弱みを握って離さないことだ。


 そうすると向こうもその弱みを離されない様に動くしかない。何故なら弱みを離された瞬間に「反社会勢力と繋がりの有る政治家」として烙印を押され政治家生命が終わるのだから。



「とまあ、こういう訳でさ、人の弱みに付け込むなんていけないことだと俺は思うんだよね」



 と突然の行動にびっくりしたのだろう、首をかしげて俺を見る、人相の悪い男と。



 同じように固まっているラムオピナの幹部がいた。



 人相の悪い男は、面食らった様子だったが俺を睨みつける。


「おい、兄さん、そりゃあ、なんの真似だ?」


「そうだね、自己紹介がまだっただね、初めまして、俺の名前は黄泉チシキ、よろしく」


「…………」


「いやさ、人の弱みに付け込むのは良くないよって言っているんだよ。えーっと、ちょっと待っててね、たしかこの幹部従業員は借金を抱えていて、肩代わりしてあげたんだよね、だけどその代わり、内部の情報を寄越せなんて駄目だよ、正義の味方として放っておけなくてね」


「お前脳味噌ついてんのか? その真似は何だと言っている?」


「だから俺は正義の味方なのさ、このまま立ち去ってくれるのなら何もしないけど、このまま続けるのなら、恥をかいてもらうことになるけど、どうする?」


 俺の淡々とした物言いに、その構成員はため息交じりで、頭をポリポリとかく。


「なあ兄ちゃんよ、この世界のりゅうぎ」



 バキン! 俺の回し蹴りが顔面にヒットして共に数メートル吹っ飛ばされて壁に叩きつけられて失神した。



「全くもう、話し合いが一番なのに、んな訳で従業員君」


「ひっ!!」


「ギャンブルで借金はいけないよ、賭け事はね、自分の収入で楽しむものなんだ、ああ、そうそう、コイツがもう来なければ、君とはこれっきりだ、じゃあね~」


 と襟首を掴むと「これから鬼の征伐に~♪」と歌いながらその場を後にして。




――そして次の日、その構成員は全裸にされた状態で、事務所前のビルに逆吊りされていた。




――某ファミリー事務所内



「ぐあ!」


 バキっという、思いっきり殴られて地面に叩きつけられ、そのまま頭目に足で顔面を踏みつけられる。


「てめえ! なにしてやがんだ!! この醜態はなんだ!! ああ!!??」


「がふっ! す、すみません、おゆるしを」


「幹部会で俺がどれだけ恥をかいたか聞くか!!?? 素人相手に油断しやがって!!!」


「あ、う……」


 グッタリとしているが、まだ怒りが収まないボスは、ひとしきりリンチをした後、息が切らしながら髪の毛を掴み強引に自分の方へ向ける。


「やったのは誰だ? これだけの恥をかかされたんだ、実行犯の命を取らないと、この汚名をそそげねえぞ」


「わ、わかいおとこ、で、名前は、たしか、よみちしき、と」


「ヨミチシキ? なんだそりゃ、人の名前か? 明らかな偽名だな、それ以外は何かねえのか?」


「せいぎの、みかたで、それがゆるさない、とだけ」


「……ちっ、おい!!」


 ボスの恫喝に他の幹部達が震えあがる。


「聞いてたな? 話を聞くとこの世界の流儀を弁えない、イキった兄ちゃんだろうよ、こういった輩は、調子こいて同じことを繰り返す、その時に捕まえて連れてこい」


「「「「「はい!!」」」」」




――翌日




 弱みに付け込む、さて先ほどは闇献金を例に挙げたが、探した結果、これといった弱みが無い人物についてはどうするのか。


 これもまた色々あるが、代表的な手段を一つ紹介しよう。


 ハニートラップである。


 笑い事ではない、そう、本当に笑いごとではない、男相手のトラップとしては紀元前からある長い歴史を持つもの、そしてどうしてそのトラップが長い歴史を持ち、今もまだ使われているのか、答えは簡単、有効だからである。


 ちなみにハニートラップの良いところは手段がとても簡単という点に尽きる。


 まず相手の好みのタイプを割り出す。そして金なり薬なりでキープしている女達から好みに合致する女を送り込む。


 そして逆ナンをして、一夜を過ごし、自分の肉体関係にあった証拠写真をおさめて、出来上がり。


 更にこのハニートラップの素晴らしいところは、相手が社会的ステータスが高ければ高いほど効果を発揮する点で、妻や子でもいれば更に良し。


 そして弱みを握れば後は一緒だ、この写真を返すという名目で相手と接触、その際にこう言えばいい。




――「色々と気を付けた方がいいですよ」




「いかん、いかんですよ、人の弱みに付け込むなんて、よくないよ」


 と人相の悪い男と幹部従業員と会っている姿を見る。


「俺はこう見えても紳士でね、俺は女性を敬う軍団を作っていて、その代表者を務めているんだ。だから女性はお姫様扱いが鉄則だ。だからね、女をそんな道具のように使うなんてよくないし、それで脅すなんてもっと良くないよ」


 自分に話しかけていることは分かるも、言っている内容は理解できない表情の構成員。


「だからこの幹部従業員は悪くないよ、うんうん、分かるよ、凄くよくわかる、俺もモテないからね。だから女にモテると舞い上がってしまうんだ、だけど残念ながらそんな上手い話は何処にもないんだよね」


「なんだ、お前は?」


「俺の名前は黄泉チシキ、正義の味方だよ」


 その名前を聞いた瞬間、顔色が変わった。


「て、てめ!」


 ガツンと言う音の下、再び壁に叩きつけられて失神した。


「流石情報が早いね、さて従業員君」


「ひっ!」


 俺の視線に後ずさる。


「これに懲りたらちゃんと、身の程を弁えることだよ、いやぁ自分に言い聞かせるようだな、心が痛い痛い」


 とむんずとつかむと「これから鬼の征伐に~♪」と、その場を後にして。




――翌日、構成員が所属する事務所の前に、裸にされて逆さずりにされていた。




――某ファミリー事務所内




 逆さずりにされた構成員はリンチを受けており、ぐったりとしたところを見て、ボスは他の構成員にリンチを辞めるように指示する。


「あれか、他のファミリーもやられたって言う、例の奴かよ」


「ボス、事前情報のおかげで今回は手掛かりを得ましたぜ、間抜けにも素顔を晒してますからね」


 隠し撮りした魔法写真を手に取る。


「コイツが黄泉チシキ……」


 ボスが考える。


「ん? どこかで見た顔だぞ、何処だ?」


「ボス! ボニナ族と一緒にいた奴です!! ボニナ都市の駐在官!!」


 その名前で、一気に場が凍り、ボスの顔が苦渋に歪む。


「ちっ、大頭目の指示だ、復讐は一旦辞めだ、上に連絡して指示を仰ぐ、俺達だけじゃ対応しきれない」




――最高級ホテル・スイートルーム




「ついに動き出したか、神楽坂イザナミ、黄泉チシキとはまたふざけた偽名を使うな」


 クタの言葉でお互いが静まり返る。


 この二つの全裸の逆さずり事件は、間違いなく何か意図があるのは明白ではあるが。


「どういうことだ、こんな派手な真似をして、何を考えている」


「考えても無駄だろうよ、だから向こうの挑発に乗ってやるさ。特段躊躇するべき理由はない、全構成員に生け捕りを指示しろ、奴の「弱み」は後々役に立つ、後は普通に奴隷にすればいい、連合都市への最初の一歩になるだろうからな」


「ウルティミス・マルス連合都市か、あそこはすっかり綺麗になってしまった上に、あの憲兵39中隊が拠点にしているからな」


「タキザか、ウチのコフバーファミリーが奴に壊滅させられたからな、忌々しい」


「だが話が分からない奴じゃない。カタギに仕掛けなければ「無害」な奴らだ、だから連合都市には手を出すな、いたずらに敵を増やすだけだからなしかも、コイツは単独犯だ、事を焦ると元も子もなくなる、じっくりいくぞ」


「単独犯? 何故そう思う?」


「ボニナの正々堂々の掟を考えてみろ。このやり方はボニナのやり方じゃない、関係はあるだろうが現在のコイツの行動は単独でやっている」


「だがボニナの監視を緩めるわけにはいかない、グーファミリーの皆殺しの件で、暴力闘争を仕掛けてはいけないことはよくわかった、ぐれぐれもボニナに実力行使は駄目だ、それだけは徹底させておく」


「分かった、ペナマーシルにラムオピナに奴隷はいるか?」


「ああ、幹部クラスに3人程」


「分かった、俺のところも含めて今後そいつらと接触しないようにする、それこそ口実を与えるだけだ。もしこの神楽坂に何らかの意思があるのなら、このまま何もしないということはありえない、だから向こうから動くようにけしかける」


「それと敵を知ることだな、神楽坂を調べ上げろ、何かある筈だからな」




――エンチョウ裏カジノ




 日本でもおなじみの裏カジノ。


 日本でも単純に表の公営ギャンブルが存在するが、こうやって裏のギャンブルも存在する。賭場は何処でも大きな収入源となるものの、どうして裏カジノが存在するか。


「単純にテラ銭を低くすれば客は来るってことだ、人間ってのは欲に弱い生き物だからね、いや欲が弱みになると解釈すればいいのか、流石マフィアだよね、つまり」


「悪いのは君達さ、放っておけないよね」


 と目の前で青くなっているディーラーに話しかける。


 ここはエンチョウの裏カジノ、俺が今遊んでいるのはルーレットだ。


 最大で数字の数、色、偶奇数、範囲、色をピンポイントで当てて、ルーレットの出目に応じて配当が支払われる。


 一番当たりづらいのは数字をピンポイントで当てるもので、倍率は10倍になる。


 俺は、その数字を1点買いで勝ち続け。



 既に10連勝している。



 それだけで今日の俺の勝ち額は年収分に匹敵する。当然その年収全部を賭けるという事、それがどんな意味をさすのかは分かる。


 だからディーラーは動かないのだ。


「さて、俺が賭けるのは相変わらずの7だ。俺の祖国じゃ「ラッキー7」なんて呼ばれている7番に1点賭けだ、早くして」


「お、お客様、これ以上は」


「あれ? 青天井なんだろ? 客がやりたいと言っているのにやらせないのか? 非合法からこそ、儲けられると思ったのに、ああそうそう」



「ひょっとしてイカサマしているのが気に食わない?」



 俺の堂々の宣言に、ディーラーの顔が引きつる。


「だからチェックすればいいじゃん、イカサマの証拠が見つかれば言い逃れは出来ないからね、全部認めるし、どんなバツでも受ける、あーでも、ただ「裸で吊るす」のだけは勘弁してね」


 ここで言葉を切って後ろを振り向く。


「そうそう、後ろの構成員さん達、誓って言うけど、このディーラーさんは潔白だぜ、アンタらのように弱みに付け込むなんてことはしないからね。ああ、そうそうイカサマはバレなければイカサマじゃないのさ、俺の祖国の娯楽作品はみんなそう言っている」


 俺がこの店に入ってからすぐに情報がいったらしく、構成員達が飛んできた。当然こいつらは、黄泉チシキだと知っている。だが他の客のいる手前で手が出せない。


 さて、周りの空気が最悪になり限界に近付いたことを見計らって俺は席から立ち上がる。


「ああそうそう、構成員さんたち、知ってる感じだけど初めまして、俺の名前は黄泉チシキ。アンタらが、ここのケツ持ちかい? 従業員の躾が出来ていないぜ、といっても利益を上げなければ話にならないよね、ゴネてごめんね、換金して」


 とドサっとディーラの前にチップを置く。


「か、か、換金をしてさしあげろ」


「……分かりました」


「そうだよねえ、客の勝ちを反故にされるなんてことはあってはならない、目の前ではね、裏ではやるだろうけどね」


 歯ぎしりをして、俺は、ディーラーが持ってきた金を受け取ると。


 他の客に対してばらまいた。


「裏カジノなんて汚い金は最初から目的じゃない、俺は正義の味方だからね、こういう悪い店はやっつけないといけないのさ」


 もう隠すことも出来なくなったのだろう、ギリギリと悪意を出す。


「そんなわけで、憲兵もそろそろ来るんじゃない? 俺は善良な市民だからね、憲兵には協力する義務がある、俺がちゃんと証言すればこの裏カジノは消滅だ」


「「「「っっ!!!」」」」


 その瞬間、遠巻きてみていた、客が堰を切ったように全員駆け足で帰った。


「あらあら、嘘なのに、憲兵だって暇じゃないからね、こんな裏カジノ如きでわざわざ来ないだろうさ、それじゃあ明日もまた来るから」


 とガキン! という後頭部の衝撃と共にタタラを踏む。ひょっとしてと思ってそのまま失神する振りて床に倒れる。


「…………」


 すぐに顔に袋をかぶされるのが分かる、よし、単純にリンチじゃなくて、このまま拉致だな、よきよき。


 いよいよ次のステージだと。



 俺はそのまま遅れて失神したふりしたのだった。




次回は、21日か22日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ