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第6話:真実の構図


 用心棒稼業としての1週間は楽そのものだった。


 全体を3班に分けて24時間3交代で仕事に就く、休みの日に指定された人物が日常品の買い出しをしたり、その折に娯楽商品も買ったりする。


 用心棒なんていうと浪漫な響きがあるが、何かが起こるという訳ではない。


 そう、いつもと変わらないのだ、ボニナ都市で住んでいた時と同じように。


 となれば、だ。


 1週間経った後から、俺は今、打ち合わせ通りエシルとも別れウィズとも別行動という形で、ずっと動いていた。



 認識疎外の加護を使い、お互いに気が付いたことがあれば積極的に情報を交換して、その都度対策を考えて実行する。


 急がなければいけないと思っていたから、ずっと動きっぱなしだった。


 そして、俺の勘は徐々に形になっていき、少しづつ迫っている汚れ仕事に想いを馳せながら活動を続ける。


 今回の情報収集においての問題は当然ながら事態の把握の難しさにあった。


 その事態を把握するために必要なのは「頭脳戦か肉体戦」に大別される。


 前者は、頭脳明晰なウィズに頼み、俺は得意な「肉体戦」にずっと重点を置き、活動を続ける。


 24時間交代の勤務であったが、原則夜昼関係なく片っ端から収集にあたった。そこら辺はエシルは約束を律儀に守ってくれたのか、何も言われなかった。


 そしてようやく目途がつき始めたのが2週間とちょっとかかり、3日後には交代を控えた日に最終的な情報整理を行い、お互いに話し合いを重ねて。


 そしていよいよ本日、結論を出す。


「…………」


 ウィズの表情は硬い。


「ビンゴだな、やっぱりそうか」


「神楽坂様のおっしゃるとおりでした、これは、本当に……いつからですか? これに気付いたのは?」


「あてずっぽう、という意味では最初からだよ、裏付けも根拠も何もないからな。ボニナ族と一緒に過ごしてきてそれが「勘」に変わったというところだ。しかし助かったぜ、ヒューミントは得意だが、こっちの方は頭も使わなければだからな、そこは流石ウィズだ」


「そこは私も得意とする分野なのでどうとでもできます。それで神楽坂様、情報は出揃いました。どうするつもりですか?」


「この情報をもって、本格的に動き出す、その為に、この情報を提供する」


「分かりました、ワイズ街長が明後日きますから、その時に接触を」


「いいや、違うよ」


「え?」


「最初に言っただろ? 今回のことは色々ちぐはぐだってな」


「は、はい」


「ずっと考えていたんだ、この違和感についてな」


「だからこそこの情報と関係があったという事ですか?」


「いいや、逆」


「え?」


「関係があったと思ったからちぐはぐだったんだよ」


「あの、どういう」


「さて、その説明をするためにも、アイツのところに行かないとな」





 休日に俺達用心棒が動ける範囲は、ラムオピナのボニナ族専用の居住区のみ。


 これは別に決まりがあるわけではないが、ボニナ族は目立つ故に人目に触れないようにしている。


 その居住区から少し離れた、木々の一つを目印に俺はウィズに頼んで人目避ける形で夜、目的の人物を連れ出すように頼んだ。


 ウィズに連れられて来た彼女は、俺を見て胡乱気に見る。


「なに、疲れて眠いんだけど」



「その眠気を飛ばす話さ、エシル」



「…………」


 じっと俺を見るエシルは視線をそらさない。



「さて、少し長くなるが、俺の推理はこうだ、間違っていたら訂正してくれ」





 さて、まずは最初から順に説明していく前に、一つだけ明らかにしなければいけないことがある。


 それは俺を駐在官としてボニナ族が手をあげた理由だ。


 その理由について街長は「統一戦争で御先祖様が敗北した神の力の真実が知りたい」と言っていた。


 だがそれは嘘だ、ボニナ族はわざわざ神の力なんて確かめる必要はない、何故なら既にリクスと交流を通じて神の力の真実をちゃんと知っていたからだ。


 ここでいう神の力の真実とは二つ。一つ、リクスが神の傀儡ではなく神の相棒であること、そして二つ目は神の力に人の理が耐えられないことだ。


 だからこそボニナ族はリクスに協力して戦争に参加したのだ。


 これはちゃんと代々のボニナ族に受け継がれている、これは神の力の真実を知りたいと言いながら実際には放置されていたり、タドー達も俺が神の力で身体強化をしていることを知りながら、その件で非難の色や好奇の色も無かったことからも分かる。


 ならば俺を呼んだ本当の理由は何なのか。


 その理由を考えるにあたり、前提条件を一つ確定させなければならないことがある。



 それはボニナ族のグーファミリーに対しての皆殺し事件がきっかけであることだ。



 さて、この前提条件を確定させる必要がどうしてあるのか、それはこの事件は俺を呼んだ理由ではなく「きっかけ」であるからだ。


 どうしてこうまわりくどい言い方をする必要があるのか。


 まずボニナ族は虚々実々様々な噂が流れている。その大半が血生臭い噂であり、それは当然に全部嘘ではない、実際に今回のように必要とあらば人の命を奪うことも実行する。


 だが、ボニナ族との交流があれば分かるとおり、ボニナ族は快楽殺人集団ではないし、殺すことで糧を得る風習を持つ民族でもないということだ。


 クォナの悪戯絡み時もそうだったが、ボニナ族は短気どころかむしろ温厚で陽気、好戦的なのはあくまで「民族性」という域に留まっている、俺とタドー達の喧嘩が証拠、故に先ほども述べたが理由もなしに他人を害したりはしないのだ。


 つまりボニナ族にとって殺すというのは、自身の戦闘に向いた身体能力を駆使した手段であると考えていい。


 これは統一戦争以前に、山賊団と言った悪党相手に財物を巻き上げていたというエシルの言からもそうだし、現在でもボニナはストイックに自分の仕事をこなし日々を過ごしているし、何より行動を律して不用意に喧嘩に巻き込まれない様に気を使っている。


 これは長所でもあるが、下手をすると舐められる事態を招きかねない。故に戦うべき相手が「掟」に反した時、その戦闘力を使って非情に振舞う。


 そして徹底した秘密主義この二つが合わさって「危険な亜人種民族」というハッタリを構築することに成功した。


 そのハッタリのおかげで今回のグーファミリー皆殺し事件は、タキザ大尉のいうとおり世間をビビらせるための虐殺なんて憶測を生み、その憶測は当然周辺にも波及する。


 ――ボニナはやばい、マフィア相手でも平気で殺す


 こんな感じ。


 さてとなれば、このマフィアの皆殺しのについての動機、つまりなぜ殺したのか、という点が重要になってくる。


 この動機について憲兵は色々と理由を考えていたものの、憶測の域は出ていない。


 憲兵はグーファミリーの皆殺しの事件について、発生して半日足らずで、ボニナ族との犯行だと辺りをつけて、一般市民に被害が及ばない様に警戒するというまで、迅速に対応をしている。


 なのにグーファミリーの皆殺しの件について憲兵は「どうしてボニナ族がマフィアを皆殺しにしたのか」について、色々有力な説があったが見当すらもついていない状態だった。


 これがまずおかしい、翌日にはボニナ族が犯人だと特定できるほどに、迅速に対応したにも関わらず、情報すら出ていないなんてのはありえない。


 何故なら、マフィアの動機は斬った張ったがもつれたのか金のため、だがマフィアがボニナ族と揉めたことはあった形跡もない、そして何よりその前後の金の動きが無いから。


 だから実行犯が特定できてもグーファミリーを皆殺しした理由について、経験豊富な憲兵大尉殿が導き出したのは周囲をビビらせるための「虐殺」が有力だというぐらいだ。


 それは現在も続いている、タキザ大尉とも連絡を取っているが、まだ憶測の域から出てすらいないのだ。


 繰り返すがこれはありえない。


 となると、真実を明らかにするためにはこれはもう考え方を逆にするしかない。


 逆にするとはどういうことか、その為にはボニナ族のうっているハッタリを剥がす必要がある。



――キレたら相手を絶滅させるまで収まらない世界最大危険な亜人種戦闘民族



 このボニナ族のうっている「ハッタリ」をだ。



 となると、ほら、別の観点が見えてくる。


 別の観点が見えてくるとはどういうことか。


 つまり……。




「今回のグーファミリー皆殺し事件の被害者はマフィアじゃない、ボニナ族なんだよ、そしてさらに、加害者はグーファミリーではない、その加害者が今回の敵だ」




 俺の言葉にエシルは無言で何も答えない。


「最初からずっと考えていたんだ、どうして皆殺しなんだってな。しかもただのマフィアじゃない、大規模マフィアだ。いくら相手がボニナ族と言えど、その周りが黙っていない筈だし、だが現実、対策を立てている様子が何もない。何故か」


「さて、この答えを話す前にエシルに一つ聞きたい」


「……なに?」



「掟を使っての対価を求める形での取引は出来るのか? 例えば、そうだな、タイマンに勝ったら掟を教えろとか」



「っ!」


 目を細めて睨むように俺を見るエシル。


「出来るんだな?」


「詳しい状況までは分からないが、ボニナ族の掟が外部に漏洩してしまった。その外部ってのは当然にマフィアを指す、そしてその掟の内容ってのは、危険な亜人種と言われるボニナ族を相手にしてもいいと思えるほどの内容であった」


「なぜそこまで分かるのか。これも難しく考える必要はない」



「統一戦争でどうやってリクスはボニナ族に勝ったのかを考えればね」



「リクスもまたボニナ族の掟を知り、勝つ方法を知った、その方法とは「ボニナ族の掟を守って戦う」ことだった」


「つまりさボニナ族はさ、戦下手なんだよ」


「最強民族が戦下手なんて発想はそもそも無いだろうし、仮に考えたとしても掟を知るなんてことを「試す」には余りにもリスクが高すぎる。となると掟の内容は「正々堂々と奪われてしまった」と考えればいい」


「補足をすると最初はボニナ族からの裏切り者も考えたんだけど、裏切っても何の得もないからすぐにその考えは捨てたんだけどね」


「…………」


「エシル、掟がどうして漏洩したのか聞いていいかい?」


「……大した理由はない、それこそ簡単よ、私たちはミスをしてしまったの」


「子供が好奇心ついでに馬車に潜り込んでしまった、子供は悪戯するものだし、初めてのことじゃない、だけどその子供は、特徴を晒してしまい、マフィアに拉致された、それがグーファミリー」


「マフィアは子供相手に掟をかけた戦いを仕掛けた、子供とはいえボニナ族であることには変わりはない、最強民族とはいえ、多勢に無勢では流石に負けて、知っている限りの掟の内容を吐かされることになってしまった」


「そして私たちは戦い方を知らないのさ、掟による肉弾戦以外ね、皆殺しをすることで牽制になるかとは思ったけど、結局牽制にならなかったんだよ」


「そりゃそうだ、マフィアだって馬鹿じゃない、掟を軽んじれば本気で皆殺しにされることが分かったのがむしろ収穫だったと思ったはずだ」


「だったら別の戦い方をすればいいだけなのだからな」


 別の闘い、俺の言い含めた意味が分かったのか、エシルの表情は苦渋に染まる。


「やはりそうなのね」



「そう、ボロボロだぜ、ラムオピナの従業員の幹部連中が軒並みマフィア達に取り込まれている」



 そうこれが、ウィズと2人で必死に集めた情報だ。


「ボニナ族は喧嘩が強いだけと踏まれてしまった、多分、バックに誰も居ないことまでばれてしまっている、何故なら「掟によって言われたことに嘘はない」のだから、つまりボニナ族は仁義に厚い民族だから、その仁義を建前ではなく本気で掲げているのだから」


 仁義、俺達の世界でも反社会勢力がよく使う言葉として知られているが、実際は建前で使っているのみ。


 そんなものを本当に掲げてしまえば、結果こうやって付け込まれてしまう。


 さて、結論を出そう、つまり俺が呼ばれた本当の理由は」



「ピンチだから助けてくれ、だよ」



 ここで言葉を切る、エシルは表情を変えずずっと話を聞いていたがため息をついた。


「想像でそこまで話せるなんて噂で聞いた読みが鋭いとか、そう言うのを通り越して変人よね、修道院出身というのはみんなそうなの?」


「他の奴はどうかは知らないが、俺がそうだという話だよ。色々仮説を立てて一つ一つ検証し、間違っていれば訂正する。んで今までエシル側からの訂正が無いということは正しいってことでいいのかい?」


「……そうだよ、噂には聞いていたけど、型にハマった時の凄まじさ、本当みたいだね」


「それで?」


「それでって? ああ街長には私から」



「とぼけるなよエシル、今の話だけだったらわざわざお前にする必要はないだろ、最初から直接街長に話せば済むことじゃないか?」



 俺の言い含めた意味がやっと理解できたのかエシルは大きく目を見開いた。



「そ、そこまで気が付いたの!?」



「最初からずっとチグハグという点が気になっていた。もしボニナ族が助けてほしいにも関わらず何もしないことをな、俺は最初それを「メンツ」かなと思ったが。それでもあの放置はどうやっても繋がらない。タドーを介して俺の情報を収集しているのかと思ったが、それは最初の歓迎会で連携が取れていない時点でないことは分かるし、そもそもタドーには向いていない、それはエシル、お前も一緒だった。だから気付いたんだよ」


「そう、俺は勘違いをしていたんだ、それがチグハグの正体だった」


「つまりボニナ族がピンチであるという理由と助けてほしいという意志を両方ボニナ族の物であると勘違いしたんだ」


 絶句するエシルに俺は一歩迫る。


「さて、エシル、更に聞きたい」



「俺を本当に呼んだ奴は誰だ?」



「…………」


 既に隠すつもりもないのだろうため息をつく。


「本当に凄いよね、そこまで分かるなんて」


「そこまでというより、俺は「カマかけを混ぜながら話して」いるからな、一方的に話しているようで、エシルの表情をちゃんと見てるってこさ、俺のカマに気付いているのか、いないのか、何処まで気づいているのかいないとかさ」


「え? カ、カマ?」


「気が付かないか? そうだな、さっき俺のことを「型にはまったら凄まじい」という話だとか言っていたけど、誰から聞いたんだ?」


「っ!!」


「ね? その表情は「街長からじゃないな」って俺は「今思った」のさ、まあそういう部分も全部含めてね」


「もういいよ、それより先は「姉さん」に話してよ」


 姉さん……。


 まずこの意思統一が図れていないチグハグな状況が生まれているということは、俺を本当に呼んだのはボニナ族じゃない、部外者だと考えていた。


 ここで重要なのは部外者でありながら、駐在官を受け入れるほどに影響力を持つ人物ということになる。


 そしてボニナ族は他民族との交流を徹底して制限している。そのボニナ族との交流を持つに値する人物は誰なのか。


 ピンチだから助けてほしいと思い、その事情をしったその人物は俺を思いつき、リスク承知で提言する人物。


 その人物は「部族外の姉さん」という意味だ。


 ここで出る部族外の言葉、以前にタドーに裸の付き合いで聞いたエシルのことは。


「ハーフだって聞いたが」


「そう、私は亜人種と人間のハーフ、私が最強なのはそういう理由があるのよ」


 そう、ハーフ、でもトレーニングの様子を見て彼女の体には入れ墨が無いと思ったのけど。


「ちなみに神楽坂さんが考えている入れ墨は私には必要ないの。魔法は使えないからね、ちなみに私は母親がボニナ族、んで父親はとある有力者、母のその妾なのよ、姉さんは「腹違いの姉」ってことになるね」


「…………」


「あー、変な気遣いは無用よ、他の兄弟は嫌いだけど、姉さんとだけは仲いいの。だけどね、姉さん街長の間に何かあったかは知らされていない、私は姉さんから神楽坂さんが真実に近づいた時に、案内しろと伝えられただけ」


「分かったよ、聞くのは姉さんとやらから聞く、いつ会えるんだ?」


「今からよ、もともと活動拠点はここだし、神楽坂さんがラムオピナについてからは、ずっと注目しているからさ、今から姉さんの拠点に向かうよ」





 ウィズ王国は格差を認めている、格差を認めるというのは成功者を認めているという意味だ。


 その娯楽の殿堂エンチョウには従業員の関係者の住まいがあるとは述べたとおりだが、成功者が住まう居住区がある。


 こうやって明確に「差別」をすることで「いつかあの立場になってやる」という気概が生まれる。


 その成功者である「彼女」は、その類稀なる才覚をたくさん持ちながら、結果住まいをその居住区ではなく、王国最古のカジノであるラムオピナに拠点を持つに至る。


 だから歩いてすぐの場所にあり、一般には公開されていない場所へと立ち入る。


 エシルにとってはいつもの道なのだろうが、明らかにその主の為に作られた道であることが分かる。


 扉の前で、エシルはノックも無しに扉を開けて俺と一緒に入る。



 そこで出迎えてくれたのは主。



 ラムオピナを拠点にしているのは有名な話だから、あの時から知っていたけど。まあ俺の顔を知っている有力者なんて限られているから、考えていないわけじゃなかったけど。


「久しぶりね、神楽坂大尉」


 出迎えてくれたのは、クォナと双璧を成す、王国2大美女。


 男の夢を体現したのがクォナなら彼女は男の悪夢を体現した美女と言われる。


 その悪夢は彼女が齢13の時から始まり、その悪夢は未だ覚めず、ますますの強さを放つ。


 ついたあだ名が、悪女優。


 ネルフォル・ツバル・トゥメアル・シーチバル・ネルダント。


 そんな彼女を見て……。


(まじかー)


 と思ったのだった。





 彼女に出されたお茶をズズッと飲む。


 思えば王主催の懇談会でナンパして(俺が)逃げた以来か、なんだろう。


「ニコニコ」


 とこんな感じで笑顔でずっと俺の顔を見ている。


 うーーん、ナンパしたこと怒っているのかなやっぱり、だよなぁ、軽く見られて愉快な気分はしないよなぁ。


 しかも結局、ナンパが成功してパニックになった俺は「ネルフォルの俺に惚れた振り」を見抜けず、結局彼女に恥をかかせる形で立ち去ったのだ。


 あの時は、もう二度と絡まないとは思っていたけど、まさかこんな形で向こうから接触してくるとは思わなかった。


「さて、さっきエシルから貴方の推理を聞いたわ、凄まじいの一言よね、さて、ボニナ族と窮状を一言でいうとどんな感じなの?」


 ワクワクした様子のネルフォルに俺は結論だけ告げる。



「エンチョウにはびこる全マフィアと抗争状態にあるってことだよ」



 俺の言葉に満足気に微笑むネルフォル。



「そのとおり、んー、私と会ってもあまり驚いていないのね? ちょっと残念」


「十分に驚いているよ、なんぜネルフォルとボニナ族がどういう関係にあるのかなんて分からないし、ラムオピナとの関係も分からないからな」


「ラムオピナは私のカジノなのよ、支配人は別に置いているけどね。ギャンブルで私はここを手に入れて、以降ここに住んでいる、私にとっての安らぎの場所かな」


「安らぎって、カジノが?」


「ラムオピナは莫大な利益を上げてはいるけど、品格も求められているから、鉄火場ではないのよ。知ってのとおり負けた額が慈善事業に寄付される仕組みだから、それもまた「粋」だと解釈されるほどにね」


「それもまた凄い話だと思うけどな」


「んでエシルとはね、こんな感じで気が合ってよく遊んでいるのよ」


 頭を撫でててエシルもくすぐったそうにしている。なるほど、仲がいい姉妹というのは本当みたいだ、それだけは微笑ましく思う。


「さて、ラムオピナは私の遊び場でもある、そこに虫が入り込んだ、だから気に入らないさっき言ったエシルがいったラムオピナがボロボロって情報だけど、資料はある?」


「あるよ、見てくれ」


 俺の資料をパラパラと読み進めてネルフォルの表情がかげる。


「想像以上ね、これほど深くマフィアの爪が深く食い込んでいるのは厄介ね、無理に引き抜こうとすると肉ごと引きちぎり、こちらも派手に出血するか、ラムオピナの格式を考えると、出血多量で死にかけない、正直お手上げ状態ね、ねえ神楽坂さん」


「このままだと、負けるわ、ボニナ族と「私」がね」


「やはりネルフォルも狙われていたのか……」


「流石、それも気づいたの?」


「流石と言われる程じゃない、ボニナ族に勝ったところでマフィアに金銭的以上の利益が無いなとは考えれば明らかだ。んでネルフォルもまた原初の貴族としては異端だから相手取るのは可能だと思ったんだよ、だけどさ、ネルフォル」


「なに?」



「ありとあらゆる才能に恵まれたアンタが随分と弱気じゃないか、負けるなんてな」



「え?」


「気が付かないか、この情報の一番の肝に」


「肝?」



「マフィアの爪がボニナ族には食い込んでいないことだ」



「??」


 首をかしげるネルフォル。


「凄まじいなんて言っていたみたいだが、これに比べれば俺がやった推理なんて全然大したことないぜ。俺が今回、悩み苦しんだ今回の難題は推理じゃない、ボニナ族がマフィアの爪に食い込んでいるのではないかということだったんだよ」


「それはそうだろ? 憲兵が「マフィアとしてのボニナ族の情報」を一切仕入れていない状況は十分に不自然だった。だから反社会勢力として認定していない、だが「シロ」だなんて当然に思えない」


「憲兵も随分警戒していた、我々が把握していないかもしれない繰り返し言うほどに。かくいう俺もかなり疑っていたんだ。ボニナ族立場でマフィアと繋がっていないなんてにわかには信じがたいから、だから本当に、本当に凄いことなんだよ」


 マフィアと繋がった人間の末路は皆同じだ、日本でもそれが証明されている。これだけの誘惑にも動じないというのは、繰り返すが本当に凄いことだ。


「? マフィアと繋がりが無いことは分かったけど、それが、どうしたというの?」



「マフィアと繋がりが無いのなら、最強ってことだ」



「は?」



「もし繋がりがあったら正直かなり厄介なことになっていたからだ、それこそネルフォルの言った肉を引きちぎる必要があると考えていたほどにな」


「…………」


 まだ理解していない様子だったが俺は構わず続ける。



「ネルフォル、今回の敵は誰だ?」



 俺の言葉でネルフォルは、話しを続けるべきだと判断したのだろう、少し考えた後、その敵を告げる。



「今回の敵は、エンチョウに根を張る2大マフィア、ペナマーシルファミリーとスチラファミリー、そのボスであるクタとソレラよ」



「…………」


 事前に調べてあったから、名前自体に驚くことはない、首都でも大規模マフィアの一つに数えられているが、この二つは活動拠点はエンチョウを縄張りを張っていて、本部もエンチョウに構えている。


「まあ、肩で風を切って歩いて、エンチョウじゃ怖い者なしの奴らよ」


「いいや、違うぜネルフォル、分からないか? ちゃんとマフィアはボニナ族を怖がっているという点だよ」


「え!?」


「だからこそ武力行使をしてこないのさ、武力行使の大義を与えると、勝てないと分かっているという証拠だ、だからちゃんとこんな感じでボ人族に手を出さずに、従業員に対して攻撃を仕掛けているのだからな。しかも期せずして俺が駐在官として赴任したことは、相手にちゃんとダメージを与えているのさ」


「ど、どうして?」


「どうしても何も、連合都市誕生の経緯は当然知っているだろうし、その理由からセルカは浄化目的でインフラ設備の整備を重点に置き、警護として憲兵という合法暴力を使い、手を出したらどうなるのかということを宣伝している、そんな都市の駐在官が何故急遽駐在官に赴任したんだぜ?」


 俺の言いたいことが分かったのかネルフォルは表情を変える。


「当然、この三つは当然に関連付けて考える。もちろんハッタリであることも考えてはいるだろうけど「考えない方のリスクが高い」となれば、真実であると考えざるを得ない。そして人間は得体のしれないものについてはマイナスの思考が働く」


「神楽坂イザナミは、何かを狙っているのかもしれないってな」


「相手の思考状態を自分の立場やイメージを使ってハッタリを打つのは割とオーソドックスなんだぜ、タキザ大尉もよく使っている」


 憲兵が高圧的で権力をかさに着て偉そう、というイメージを利用してわざと高圧的に権力をかさに着て偉そうに振舞う、そうすることにより相手の失言や攻撃を誘発したりする。これも暴力装置としての「発動の大儀」を作るためだ。


 だが今の話では俺の結論が見えないのだろう怪訝な表情を崩さないネルフォル。


「なら私の助けてほしいという願いについて、貴方は叶えることができるの?」


「それはそっちの覚悟によるぜ」


「え?」



「俺はここで戦争を起こす。その戦争の当事者としてネルフォルには動いてもらう、その為に俺の命令には絶対服従だ、誓えるか?」



 ネルフォルは驚くがすぐに「もちろんよ」と答えてくれた。



「だったらこっちも腹をくくる、よし、エシル、街長が来たときにネルフォルを交えて作戦を話す、その段取りを組んでくれ」


「作戦って」



「ああ、今回の作戦は一つ」






「俺は正義の味方の主人公になるのさ」





次回は、18日か19日です。

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