表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/238

第5話:最古のカジノ、ラムオピナ


 世界最強最悪の戦闘民族ボニナ族にとっての、唯一の糧の稼く手段。


 それが娯楽都市エンチョウにある王国最古のカジノ、ラムオピナの用心棒。


 ラムオピナの用心棒、1ヶ月毎の3交代であり、ボニナ族の大人たちの義務だ。


 班編成は、街長と幹部達で話し合って決める。


 対外的には男が強い男系社会で売っているものの、カジノは女性客もいるため、普通に大人の女性ボニナ族もちゃんと班編成に組み込まれている。


 そして若い男女の年長者は、大人への見習いということで参加しているのだそうだ。


 街長の了承を得てから、班員同士との顔合わせを行ったが、ボニナ族のノリは基本的に陽気で温厚なのは変わらない。だけど俺がどう動くのかについては「知ることは自分の判断ではなく、街長の判断だ」とばかりの大人の対応だった。


 その証拠に、俺とウィズはエシルを班長とした見習い班に組み込まれることになった。んで特段指示もなく、エシルの指示し従い自由に動いていいとのこと。


 まあこれぐらい分かりやすい方がいい。


 そんなこんなで、出発の前夜、エシルによる説明会が開かれることになった。


「さて、この度2人はラムオピナの用心棒をしてもらうことになるけど、大まかな流れを説明するね」


 まずワイズ街長を頭にして馬車の集団でエンチョウに向かう。


 エンチョウには関係者用の門があるのでそこから入り、そのままラムオピナに向かう。


 ラムオピナにはボニナ族専用のスペースが特別に設けられているため、そこで街長立会の下、班長他副班長の幹部達と引継ぎ事項及びボニナの必要な物資等の検品及び引き渡しが行われている。


 引継ぎが終了次第、その後は班長の指揮の下、持ち場の用心棒の仕事をする。


 ちなみに居住スペースも特別に設けられており、狭いながらに個室なんだそうだ。食事は交代で作り、これもボニナ族専用のスペースで取る。


 なるほど、男女に関わらず自分で料理を作る習慣があるのはこのためでもあるのか。


「ここで大事なのは、生活はあくまでラムオピナの中で全て終わらせてほしいということ、買い出しは必ず個人でやらず担当者だけがするの。それだけは絶対に守って、神楽坂さんは観光とか食べ歩きが大好きだって聞いたけど、我慢してよ」


「分かったよ、それとラムオピナの客層は上流なんだろ? 用心棒の仕事を実際にするなんてことはあるのか?」


「ラムオピナはステータスの場でもあり、社交場でもあるからそう滅多にはないけど、お酒も出るからね。たまに酒癖の悪い人がいるから、その世話ぐらいかなぁ」


「エシル、この用心棒という雇用形態は、何時から始まったんだ?」


「統一戦争に勝利をして、国を整えて、娯楽都市としてエンチョウを作った時みたいだよ」


「契約交渉は誰がしている?」


「もちろん街長だよ」


「契約相手は誰だ?」


「ラムオピナの支配人」


「名前は?」


「テビーヌという男の人」


「その前まで、いや、統一戦争前に、ボニナ族はどうやって糧を得ていたんだ?」


「ぶっちゃけると、山賊団とかの輩とか襲って金品を巻き上げてたみたい」



「リクスとの契約内容は何だ?」



「…………」


「…………」


「それが本命?」


「いや、前のも大事だぜ、エシル、大事な質問だ、嘘だけはつかないでくれ」


「……わかった、だったら正直に話す、街長は知っていると思う、だけど契約内容も中身は本当に、少なくとも私は分からない、多分若い奴らはみんな知らないと思う」


「…………」


「そして大人たちが街長以外で誰が何処まで知っているのかもわからない。そして知っているのかどうかも知ることもできない、これも分かる?」


「ああ、皆俺の状況について、何も突っ込んでこないからな」


「んでさ、神楽坂さん、今度はこっちからいい?」


「なんだ?」


「エンチョウについた後、私に何かして欲しい?」


「そうだな、俺とレティシアは姿を消す、その件について何も聞かないでくれ」


「あらら、はっきり言うね」


「隠してもしょうがないだろ、見習い班ってことは重要なことは担当しない筈だからお前1人でも大丈夫だろ? 周りの大人たちに聞かれたら勝手にどこかに行ったと言ってくれ、まあ積極的には話さないで欲しいが、大人たちから聞かれたら答えて構わんぞ」


「…………」


「とはいっても、最初は用心棒稼業なんて初めてだから、楽しんでみるさ、人生なんでも楽しむことが大事なんだよ」


「分かったよ、じゃあ、短い間だけどよろしくね」




――翌日




 早朝、俺達を乗せた馬車はボニナ都市を発つ。


 特段何かイベントな感じではなく、淡々と出発したものの、普段は陽気なボニナ族であったが、外に出た瞬間に雰囲気がガラッと変わった。


 全員が無言で視線すら合わせなくなった、格好もボニナ族は鋭い爪と牙と尻尾という外見に特徴があるため、俺も含めて全身を服で覆い、顔も半分ぐらい覆うマスクを付けているから周りからすれば余計に不気味に見える。


 馬車は御者台以外、幌の切れ目のから外の様子をうかがうことができるだけ、エシルによれば、軍隊に襲われても大丈夫なように丈夫に作られているらしい。


 途中で食事休憩を挟みながら馬車は進んでいく。


 俺は馬車に揺られながら、目の大きさ位の隙間から見られる景色を眺めながらこれから起こることを考えていた。


 そして馬車は目的地へと到着する。


(見えてきた……)


 視界一杯に広がる広く高い壁、そこからも分かる熱気。


 今回のメインになる舞台。


 娯楽都市、エンチョウ。







 エンチョウ。


 格付けは2等。


 その歴史は古く、統一戦争時代から存在する「エンチョウ国」がそのまま現在都市の名前として残っている娯楽の殿堂だ。


 当時、エンチョウ国は「娯楽は潤い」を信条に栄えていた当時の有力拠点、そこを仕切っていたのが、原初の貴族の始祖、ツバル、トゥメアル、シーチバル三兄弟で、リクスはフェンイア国として立ち上げた後にいの一番に同盟を結んだそうだ。


 リクスが娯楽を重要視したのは、娯楽は豊かさのバロメーターであるからだそうだ。


 その目論見は見事に成功し、十か国を一気に平定したパンとサーカスによる戦争は三兄弟の存在なくしては勝利を得られなかった。


 統一戦争に勝利した後も固い絆で結ばれた三兄弟は、王国が繁栄するにあたり必ず起こるであろう子孫達の骨肉の御家争いを憂い、3人で一つの家とし、後継者を1名にした。


 その功績を称え、偉大より唯一ミドルネームを始祖の三兄弟を名乗ることを許され、その娯楽ほこりは子孫たちに受け継がれている。


 エンチョウが提供する娯楽の内容は一言では括り切れない。ありとあらゆる全てを揃えているのが娯楽の殿堂だ。


 ちなみにここに来るの初めてではない、というよりも国王が開いた晩餐会もここで開かれて参加した時に来たし、お芝居も好きだからそれを見て楽しんだ。


 大衆向けの娯楽ももちろん提供しており、カリバスさんやスィーゼと来た競馬場、カジノだって庶民向けの賭場もある。


 あのメトアンさんも、料理人として修業するためエンチョウにある王国2大レストランの一つネクファバムで働いていた場所でもあるのだ。


 娯楽とはつまり人の欲の具現化だ、欲に人が集まる、故に多額の金が動く、マルスのように「男性向け娯楽」に特化した場所とは違う、比較にならない程の規模の大きさだ。


 もちろんそれを食い物にしようとする連中も大勢集まる、それはマフィアに限った話ではない、ありとあらゆる人物が色々な欲にまみれて舞い踊る都市だ。


 俺はそのエンチョウの「ロクでもない」感じが好きだったりする。まあ今回は仕事だからそれを楽しむことは出来ないが、それでもラムオピナに入れると聞きそこはすごく楽しみにしていた。


 馬車はそのまま頻繁に人が行き交い、常に解放されている正門ではなく、そのまま外壁に沿って走らせると、小さな門の前でとまる。


 来訪を察知したのか、門が開き、ボニナ族はそのまま中に入る。


 ここは壁の中、そのまま詰所から出てきた、憲兵その数60人ぐらいに囲まれる。


 憲兵が出てくると同時に慣れた様子で馬車から降りて、一列に並ぶボニナ族、憲兵も2班に分かれて、1班が馬車の見分、もう1班が所持品検査をしている。


 その間、憲兵もボニナ族も無言だ。


 憲兵の検査を終えた時に責任者である憲兵中尉に報告する。


「ご協力感謝します」


 という声の下再び全員が馬車に乗車し「開門!!」という号令の元、両開きに門が開く。


 そこから広がるのは狭い裏路地だった。客が通る道は整備されているが、関係者が通る道なんてこんな感じで汚く人通りは少ない。


 だが興味深そうに馬車を遠巻きに見ている人物達がいて、何か興奮気味にそれでも声を立てない様にヒソヒソと何かを話している。


 なるほど、最も危険な亜人種の民族を見たい奴らもいると聞いていたが、ここでも張り付いているのか。


 馬車はその取り巻き達を気にすることもなく歩を進める、幌から見える景色も狭い路地だから風景は見えないままだった。


 これは諦めるかと思って小一時間後、馬車が止まり、全員が無言で馬車を降り俺も外に出た。


(ふおおう~)


と思わず声が出そうになるのを必死で堪える。


 広がった先は別世界だったからだ。


 ここがラムオピナ。


 中世の城をモチーフにしたような建物、俺のウルティミスのオンボロ古城とは比べ物にならないハウス型カジノ。周りは草原で邪魔にならない程度の木々があり、魔法の照明だろうか、そこを暗く明るく照らしている。


 個人的には噴水が無いのがツボだ、案外水って綺麗なようで汚れにもなるし、昼間に見るとがっかりすることもあるから余計にそう思う。


 そしてここが話には聞いたエンチョウの「特別区」か。


 特別区、名前のとおり本当に特別で富裕層しか入ることができないの場所。


 そして実は修道院生には無縁の話だったりする。


 何度も言っているが修道院出身は世間的には「エリート」として扱われている、だが「エリート」と「富裕層」は同義ではない。


 これも日本と一緒、上流の世界ではエリートと富裕層は社会的立場は対等であるが、所詮公僕、金持ちの世界では「門前払い」なのだ。


 だから俺がここに来ることはもちろんこうやって仕事でもない限り入ることができない。


「フルフル」←感動している


 まあいい、後でたっぷりと堪能してやる、今は仕事に集中と、ボニナ族と一緒にそのまま建物の裏手からラムオピナに入る。


 ここがラムオピナのボニナ族専用のスペースなのだろう、ボニナ族の大人たち幹部数人が待っていた。


「ご苦労」


 久々に聞いたような気がする街長の声で、そのまま別室に向かう。


 それを合図に、物資の積み込み作業が行われる、あれが生活必需品だろう、色々と積み込んでいる。


 積み込み作業が終了して少し経った後に引継ぎを終わらせたのだろう、街長と幹部達が出てくる。


「引継ぎ終了、特段口頭で指示することはない、いつものとおり部屋で着替えて持ち場で交代しろ」


 と言い残して、それぞれに散会する。


「さて、お二人さん、10分で着替えてこの場所に集合ね、部屋番号はあらかじめ伝えてある場所に入ってね」


「ああわかった」


 とエシルとウィズは女子棟に向かい俺は男子棟に向かうと、そのまま教えられた部屋番号の個室にはいる。


 個室は本当にシンプル、ベッドとタンスと机で広さは3畳ぐらい。


 早速とばかりにバッグから服を取り出す。


 フォーマルな服装が必要という事で、首都で贔屓にしている仕立て屋のおばちゃんに頼んで動きやすい正装をウィズの分も含めてそれぞれ2着ほど注文して作ってもらったのだ。


 10分後とのことだから早速とばかりに着替える。ううむ、様になっているのかいないのか、鏡を見て身だしなみを整える。なんだろう、修道院の制服よりも気を使うこの感じ。


 着替えてすぐに指定された場所に、向かうと既に2人は待っていた。


「さ、行こうか」


 あっさりとしたエシル、そのまま俺達は誰にもわからない様に、裏口からこっそりとラムオピナに入る。


(ふおおう~)


 とまた変な声が出そうになった。


 カジノの中はクレルモンカジノクラブを彷彿とさせるような内装で、美術品も飾られていて、カジノではなく美術館と表現してもいいぐらいだ。


「仕事と言っても、私たちは表に出る存在じゃないからね、こうやって徒歩警戒をする、お客様達の通行の邪魔にならない様にね、何かトラブルが起きれば呼ばれるから対処すればいい、簡単なお仕事だよ」


「ふむ、客が結構来ているんだな、皆殺し事件の直後なのに」


「元よりそれもボニナの仕事だと解釈されるのさ、そもそも男性客達は「私達にビビってラムオピナに行かない」ってこともしないのさ。ここに客として認定されるだけでも厳正な審査を経てやっと許可されるからね」


「…………」


 エシルによればラムオピナは、最高級ホテルとも提携しており、送り迎えはもちろんのこと、食事やサロンも完備された、全てが「豪華絢爛」といったレベル。


 同じ高い格式でも「豪華」に振り切った感じ、王城はどちらかと言えば質素な豪華という感じだから真逆だ、まあそうか、城の目的はあくまでも「戦争の為」なのだから。


 豪華なシャンデリアに赤絨毯、エシルの言うとおりまさに大人の社交場だ。


 しかもここで客の「負け額の一部が慈善事業として寄付される」という徹底ぶりで、負けても粋と解釈される。


 そしてエシルに案内されたのは、1階の隅の部分だ。


「私たちは見習いだから、客がほとんど通らないここが持ち場なの、さて、神楽坂さんの要望通り好きにどうぞ、ただ食事の時間にはちゃんと戻って来てよ、それでお互いの仕事状況をチェックしたりするからさ」


「了解」


 と言ってウィズと2人で歩き出し、色々と眺める。


 お、アレは王国商会の大幹部ウィアン・ゼラティストか、凄いな、一回の賭け額が俺の給料分ぐらいかけている、相変わらず景気のいいこって。


 そんなウィアン他富裕層をもてなすのは当然ボニナ族ではない普通の職員、まあここで働くぐらいだから、才能をと認められた人たちだろうけど、ディーラーやらバーテンダーやら色々な人が支えている、むしろボニナ族は少数で全然目立たない。


【なあ、ウィズ、あの、いいか?】


 とトランシーバー代わりのアーティファクトを通じて話しかける。


【クスクス、分かってますよ、私も散歩を楽しむとします】


【うんうん、じゃあ飯休憩までね~】


 と言って認識疎外の加護を強くする。


 これで俺の姿はいつものとおり気にされなくなった。


 …………。


 ふっ。


「フンフンフンフンフン!!!」


と滅多に入れる場所でもないため、とりあえず奇行に走るのであった。




次回は、15日か16日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ