第4話:ボニナ都市での生活
そんなこんなで始まった、ボニナ都市の生活。
俺は自警団員の一員として臨時顧問みたいな感じで組み込まれることになった。
そんな自警団員達の生活というのは、ウルティミスと変わらない、朝起きて学の有るボニナ族の大人が勉強を若い奴らに教えて、格闘技の訓練をして、それが終わればつるんで日が暮れるまで遊ぶ、そして飯は詰所で食って、風呂入って、当直員以外は家に帰って寝る。
子供のうちは家族と一緒に過ごし、青年期は自警団員達と一緒に過ごし、大人になれば用心棒として都市に貢献する、俺のいた世界でも変わらない普通のことだ。
ただ閉鎖都市だから外に出ることはない、そこが退屈でもある。
んで男には男の生活と女には女の生活がある。
ウィズは、エシル率いる女性団達と一緒に行動しているようだが、特段変化があるという訳ではなく、勉強と格闘技の訓練の他は、食事を作って食べて、風呂に入る、そんな普通の生活を送っているそうだ。
とはいえウィズは「強い女」としての立場を活かし、明晰な頭脳も持っていることから既に一目置かれているらしい、流石だ。
んで、俺は大人から勉学の授業を受けることはないので、その間は暇である。
そんな日はムクリと昼前ぐらいに起きて、飯を適当に作って食べ、自警団の仕事があるまで、散歩をするのが日課になっていた。
ボニナ都市の広さは狭い、集落とまでは言わないけど、小さな村といった感じで、数時間あれば端から端まで歩けるぐらいだ。
ただの散歩と侮るなかれ、歩くだけでも色々なものが見えてくる。
街並みや人の息吹を感じるだけで色々考えることができるし、そしてこうやって散歩してもボニナの大人たちは俺に話しかけてくることはない。そこは流石に街長の意思が徹底しているのだろう。
そんなボニナ族の大人と子供の違いは、何回も述べたとおりラムオピナの用心棒が義務として課せられることだ。
その用心棒は一か月単位の3班の交代制だ。だからボニナ都市には常に三分の二の大人が都市にいて三分の一がラムオピナにいることになる。
つまり出稼ぎという訳だが、都市内では自給自足ができないため、出稼ぎ組が買い出しも兼ねているそうだ。
買い出し一つにしても、ボニナ族という特殊性から大変らしく、人目に付かない様に購入しているのだという。
「…………」
さて、そんなこんなで日課の散歩もそろそろ終わり、タドー達も授業を終えたころ、その後はお待ちかね。
――自警団詰所
「諸君! この世には貧乳派と巨乳派があるが、それはどちらが優れているという意味ではない! 大好きか超好きの違いでしかない!! 違うか!?」←神楽坂
「「「「「おっぱいおっぱい!!」」」」」←自警団員
「私も人並みに清楚系の美女が大好きだが、ワイルド系美女も大好きだ!!」
「「「「「おっぱいおっぱい!!」」」」」
「だけど巨乳ばっかりだと飽きるから、途中で一回はロリをはさみたくなるこの不思議!!」
「「「「「おっぱいおっぱい!!」」」」」
「ボニナ族の女性もワイルド系美人揃いでお兄さんとっても嬉しい!!」
「「「「「…………」」」」」
「あれ!? なんでそこ黙るん!?」
「いや、まあ、それは、なあ」
「「「「うんうん」」」」
「?? エシルとか十分にワイルド系の美少女だと思うんだけど、アカンの?」
「神楽坂さん、ボニナの女はちょっと他とは違う特殊性があって、さっき言った強い女は、なんていうか、こう、都市外の女の方が人気があるというか、まあ結局は部族内になるんですけど」
「?? つまりどういうこと?」
「ボニナでは戦いは男の仕事なんです。そして単純な強さも男の方が強いんです。幹部たちも街長含めて全員男で女は1人もいません、だから凄い男系社会だと思われているんですよ」
うん、いわゆる九州男児みたいな扱いをされているのは知っている、だけど九州男児っていうけど、実際は。
「ここで大事なのは、当たり前の話なんですが、子供を生むのは女じゃないですか」
「だね」
「だから原則選択権は女にあるんです」
「…………………………まじ?」
「はい、女が優秀な男を見定めるという不文律があるんですよ」
(´;ω;`)ブワッ ←神楽坂
「どこも大変だなぁ、でも選択権はないってことなの?」
「そんなことはないですけど、とにかく女に恥をかかせると怖いので神楽坂さんも気を付けて」
(´;ω;`)ブワッ ←神楽坂
うん、そうやね、九州男児ってそれこそ浮気は男の甲斐性を地で行くけど、それって女が強いからなんだよね、どこも変わらないなぁ。
とまあ、そんなこんなで、先ほどの理屈のとおり、ここでも人気者だったのは。
「レティシア先生、えへへ」
「綺麗だよなぁ」
「おっぱいおっぱい!!」
そうウィズである! 理由は簡単で。
「いや、何かただものじゃないというか、強いオーラが出ているというか!!」
「ああ、実際にエシル達に格闘技を教えているみたいだぜ!!」
「すげーよな! 綺麗で強くて頭も良いとか痺れる!!」
おおう、流石戦闘民族、何かを感じ取っているのね。ちなみに学のある年長者が勉強を教えるとのとおり、ウィズの学院で主任教員をしていると知っているから、先生の役割を与えられたのだ。
結果、こんな感じでここでもアイドル的人気を誇っているのだ。
「明日はレティシア先生の授業があるぞー!!」
「「「「「おっぱいおっぱい!!」」」」」
といつの間にか掛け声のようになっているが。
(*-ω-)ウンウン♪ ←神楽坂
微笑ましいのう。
という訳で、飯を食い終わった後はお楽しみ。
「風呂だーー!!!」
と全員で隊列を組んで、風呂セットを取り出すと共用浴場に風呂場に向かう。
「相変わらず素晴らしい! 涙が出るほどに!!」
圧倒的に広い温泉。
造りはシンプルであるがそこが良い、100人単位で入るからの圧倒的な広さ。そして構造のシンプル、洗い場と湯船だけ、その湯船も半端ない広さなのだ。
しかも周りは高さ2メートルぐらいの仕切りしかない露天風呂であり、平坦な土地だから空が滅茶苦茶広く見える、それもまた乙なり。
ちなみに当たり前ではあるが俺が入っているこの時間は男子タイム。
んでこの後女子風呂タイムである。
「なあ、タドー君や(小声)」
「駄目です」
「ええーー!!!」
「というか、無理ですよ! 若い女はエシルが仕切っているんで、バレたらとんでもないことに! 過去それで罰を喰らった奴もいて!」
「あのさ、エシルって」
「ボニナ族の若い女のまとめ役なのは知っていますよね?」
「知ってるよ」
「それだけじゃなくて、女ながらに最強なんです」
「ああ、本人がそう言っていたのを聞いたよ、本当なんだね」
「だから敵に回すと死にます」
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル ←神楽坂
「だから男は立場が弱くて(ノД`)シクシク)」
「そうか、俺もエロ本すら駄目だし喰らって(ノД`)シクシク」
「まあいい! まあ男の浪漫は何処でも浪漫! ってなわけで!!」
すっぽんぽんになる。
「とう! 秘技! デスロール!!」
と湯船の中でグルグル回る。
スイスーイの平泳ぎ~の後は背泳ぎ~。
ああ、幸せだなぁとプカプカと浮いている、耳元から聞こえる湯のせせらぎの安心感よ。
「ん?」
とふと視線を感じるのでそっちの方向を見ると。
エシル他若いボニナ族の女性陣が策の上から覗いていた。
「きゃ、きゃあああー!!!」←神楽坂
「おつかれー」
「なに、なんなの!? エシル何してんの!!」←股間を隠している
「え? ほら、新しく来た若い男だからね、どんなものかなって確かめないと、ねぇ?」
「「「「「うんうん」」」」」
「どんなものかって確かめないと!? 大したものじゃないよ!!」
「「「「「「クスクス」」」」」
(グサッ!!)
と満足した様子ですっと姿が消えると「まあまあかなぁ」とキャッキャウフフしながらその場を後にしたのだった。
「」←呆然としている
「タタ、タドー!! これって覗き……」
「だから言い返せないんですってば(ノД`)シクシク」
「よし! だが大義は出来たぞ! 向こうがそうなら、やられたら」
「だからやり返したら罰を喰らうんですってば(ノД`)シクシク」
( ゜д゜) ←神楽坂
うん、色々と凄いなボニナ族、そう思ったのだった。
まあ、それはとりあえずとして……。
「なあタドー」
「あの、ですから覗きは」
「そうじゃない、エシルについて聞きたいことがある」
「エシルについて、ですか?」
真面目な口調だったのか自然と固くなるタドー。
「ああごめん、知らないなら知らないでいいさ、そう身構えることじゃない、彼女自身でタドーが知っていることだけでいいよ」
「は、はあ……」
そう言いながら、タドー達と裸の付き合いを重ねるのであった。
――
ボニナ都市に赴任してそろそろ一ヶ月が過ぎようとしている。
起きて、散歩として、自警団とつるんで、男の浪漫をして、飯食って、風呂入って、自宅に帰って寝る、これがボニナ都市での日常。
閉鎖都市と言われるぐらいだから、外に行くということもない。ウルティミスの時は適当に理由つけて、レギオンやら首都に遊びに行っていたり、旅行にも行ったりしているからなぁ、正直ちょっと退屈だ。
俺とウィズの扱いも部外者ではないとはその通りだったが、ワイズ街長ともアレ以来絡むこともなく、一ヶ月は本当にノンビリ過ごすだけの日々だった。
つまり……。
(このままじゃラチが明かないってことだな)
そんなことを思って今日は散歩ついでに、ある人物のところへ向かっている。
しかしこれは「誘い」なのかそれとも「迷い」なのか、メンツというのは大事だからしょうがないかもしれないし、俺も男なので気持ちは分かるがいい加減じれったくなってきたのだ。
メンツが大事だったら、その付き合い方も知っている、要はそれを立ててやればいい。
その目的の人物は、トレーニングをしていた。
タンクトップにホットパンツ、それなりに刺激的だなぁと本当だったら目の保養になるのだろけど、そんな気持ちにはなれない。
俺の来訪が分かると、「彼女」はトレーニングをやめる。
「エロい目で見るのならシバこうと思ったけど、違うみたいだね」
「まあな、ちょっと用事があってきた」
「どうしたの? 一緒にトレーニングでもする?」
「いや、いい加減にじれったくなってきたなと思ってね」
「…………」
「だからさ、一つお願いしたいことがあるんだ」
「お願い?」
「そう、エシルから街長に頼んで欲しい、ラムオピナの用心棒の班に俺とレティシアを組み込んでくれ、用心棒稼業というものに参加したいってな」
「…………」
「…………」
「……ふぅん、修道院出身のそれも曰く付きのエリート様が、私達と一緒に用心棒って、騒ぎになるんじゃない?」
「だからじれったいぜ、二度言わせるなよ」
「…………」
空気がピンと張りつめる。
「いいかい「出来るからこその提案」なんだよ。「そっち」の意向にも乗ってやるって言っているのさ「神の力を使えば」偽装ぐらい簡単だからな」
あっさりと出た神の力という言葉に流石に驚いたようだった。
「…………分かった、街長に話を通しておくよ、それとさ」
すっと俺に近づくと顔を覗き込む。
「何考えているの?」
「ボニナ族の事だよ、街長曰く、俺は部外者じゃないそうだぜ? だから「自分の問題」でもあるからな。その問題を解決するために向こうが動いてくれないからこっちから積極的に動かないといけないだろ?」
「そうだね、そのとおりだよ、本当にね」
「だったら俺も質問だ、エシル」
「ん? なに?」
「お前は何を考えているんだ?」
「…………」
「…………」
「同じさ、ボニナ族のことだよ」
「……分かったよ、じゃあ頼んだぜ」
俺の言葉にエシルはタオルを肩にかけながら、街長の家に向かい。
そしてその日のうちに、次の用心棒の交代から俺とウィズが参加することになったことをエシルから伝えられた。
――夜
「ウィズ、いきなりで悪いが、3日後にボニナ族と一緒にエンチョウに向かうことになったから準備をしてくれ」
俺の突然の申し出だったもの、ウィズは至極冷静だった。
「いよいよ第二段階という事ですね」
「まあな、予想していたか?」
「部外者ではない我々の都市外の活動と言われると用心棒しかありませんからね」
「まあな、とはいえこちらからお願いする形となってしまったが、少し急ぎたかったからな、強引かなと思ったが要望が通って何より」
「え?」
ここで首をかしげるウィズ。
「神楽坂様、こちらからお願いすることになったんですか?」
「ああ、もちろん本当に用心棒をするために行くなんて思っていないのだろう?」
「…………」
ここでウィズは何も答えず考え込んでいる。
「あの、神楽坂様、ひょっとして今の状況は」
「お、流石に鋭い、急ぎたい理由はそれさ。んでエンチョウに行くのは、それを確かめに行くためだよ。まずは用心棒がどんな仕事がなのかを見て、その後で動く。んで実際の動きについてなんだが俺とウィズで役割分担を設けたいと思っている」
「分かりました、それで実行はいつ?」
「いつとはまだ決めていない、まずは用心棒を楽しむつもりだよ」
俺の言葉にウィズは……。
「はい、神楽坂様の命じるままに……」
笑っていた。
その笑顔は、これから起こる血生臭い出来事に対してではなく……。
懐かしいことを思い出すような顔だった。
次回は、5月12日か13日です。