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第2話:歓迎会


 そんなこんなで、話が終わってすぐに首都からウルティミスへ帰還、ユニア達に事の次第を報告した。


 ユニアは相変わらず「分かりました、頑張ってください」とあっさりとしたものだったのが頼もしい。


 確かに俺が自分が「部外者」として俯瞰して見ると、ウルティミス・マルス連合都市はとても強固な都市だってことが改めてわかったからだ。


 仲間たち全員が都市を支えていることに嬉しく思う。


 んで異動の報告から数日後、正式にボニナ都市への異動の内示が出た。そして発令日までの準備期間で荷物をまとめる。


 本当だったら異動前に異動先へ挨拶へ伺うものだが、特殊な形での異動、ボニナ族からは当然に何か連絡がないため、異動して到着した後にすればいいことだろう。


「簡単でいいやね、俺の場合」


 そんなわけで今日は発令日、部屋の中には修道院から旅立つ時にもらった革袋とその時に着ていたラフな服装。娯楽関係は詰所に置いてあるから、ここには小説ぐらいしかないんだっけ。


 俺は今日からウルティミス・マルス駐在官ではなく、ボニナ都市の駐在官となるのだ。それにしても色々な思惑があるとはいえ、異動するなんて思わなかった。


 俺はよいしょと荷物を持つと、古城を出て正門に辿り着く。


「団長、行ってらっしゃい」


「ああ、見送りありがとな、リーケもデアンも後は頼んだぜ~」


 自警団員達に軽く挨拶すると見送りに来てくれた他2人に話しかける。


「とまあそんなわけで、後は頼んだぜ、ユニア」


「はい、といっても、私のやることは変わりませんけど」


「相変わらず頼もしいね、いやぁ特段引継ぎが必要ないというのも楽でいいやね」


「気を付けてくださいよ、相手は危険な亜人種なんですから」


「へいへい、ユニアもそうだけど、お前も俺の留守の間、頼んだぞ」



「ルルト」



 そう相棒たるルルトに呼びかける。


「まあユニアではないけど、ボクもいつものとおりだねぇ、はっはっは」


 とカラカラ笑う。


 繰り返すが異動先は危険な亜人種達の巣窟、んで今回多分、いや絶対に荒事に巻き込まれる。


 だからいつものとおりルルトを一緒に連れて行こうと思ったのだが、仲間に異動を告げた時、ルルトではなく意外な人物が手を挙げた。


 その手を上げた人物は既に、乗り込んだ馬車の御者台に座っていた。


「今回は私のわがままを聞いていただき感謝します神楽坂様」


 同じく身支度を整えたウィズが座っていた。



 そう、今回の相棒は、ルルトではなくウィズ。



「じゃあね~」


 と手を振りながら、彼女と2人でウルティミスを発したのであった。







 統一戦争を勝ち抜いた、リクス初代国王率いるフェンイア国。


 フェンイア国は統一戦争において三つの偉大な勝利をした。


 神の力を用いて当時のラメタリア王国の宰相を廃人にし、無条件降伏させた無血戦争。潤沢の資金を元にパンとサーカスを使い10か国を一度に平定した娯楽戦争、そして当時の最強最悪、一度キレれば相手を皆殺しに虐殺するまで収まらない程の凶暴性を持ったボニナ族に対しての武力戦争。


 そんな統一戦争時の記録は全て残っており、現在の研究対象にもなっている。


 んで目の前にいる彼女はまさに統一戦争時代にリクスと共に戦った人物でもあり、正真正銘の歴史の生き証人である。


 確かに今回の出向ではウィズほど適任者はいない、それに何か決意の様なものを感じたので、今回の相棒はウィズになったんだが……。


 彼女はかつての相棒の話をする時、凄い辛そうな顔をするので、正直今日まで聞けなかった。


 ううむ、どうしよう……。


「聞いてもいいんですよ」


 と俺の言葉を察したのかクスクス笑いながらそんなことを言うけども……。


「というよりも神楽坂様、私の目的は一緒ですよ、実は私自身もよく分からないのです、あの都市、いえボニナ族のことは」


「え?」


「歴史の記録のとおり、私が知っているのは、ボニナ国に戦って勝利をするところまでなんです。当時のボニナ族は危険すぎる程の凶暴性を持ちながらも、なんとか勝利を収めました。ですが、戦後交渉はリクスだけでずっと重ねていたのですよ」


「王子もそれを言っていたけど、実際は例えば俺がルルトに頼んで使ってもらう認識疎外の加護を使ったりはしなかったのか?」


「それは絶対にするなとリクスに言われたんです、態度に出てしまうからだと」


「…………」


「勝利をしたとはいえ危険な民族であることは確かでしたし、心配していましたがその敗戦交渉の結果、何かの条約を締結して、ボニナ族は全面的に協力をしてくれることになりました」


「ウィズから見て当時のボニナ族はどんな奴らだったんだ?」


「秘密主義なのは相変わらずなので、リクスだけを窓口にしてほとんど交流はありませんでした。正直、何か対価を要求されるのではないかと思いましたが、当のリクスは「大丈夫だよ」と呑気なものでした」


「そして統一戦争に勝利した後、リクスの言葉のとおり閉鎖都市としての権利保障締結後、あっさりと表舞台から姿を消します。現在は、王子も言ったとおり、カジノの用心棒で生計を立てているのです」


「リクスはどうして、敗戦交渉について話さなかったんだ?」


「それが盟約であるからだと」


「……ウィズ、統一戦争時で勝利した時のリクスの権利の保証内容について詳しく聞きたいが」


「それも含めてボニナ族についてはリクスの専権だったんです。それが現在どのように受け継がれているかは分かりません。もう……昔のことですから」


「…………」


「それとルルト様のアーティファクトについては、私で応用が利きます」


「え? そうなの? それは意外」


「あの、タイプで言うのなら、ルルト様と私は一緒なんですよ」


「え!? あ、ああ~、そうか、なるほど、そういえば、そうだったったなぁ」


 最強が最高という少年漫画のような理屈が通るのが神の世界、その世界でウィズは最高神を狙っていたってことは、実はウィズって武闘派なんだよな。


「うーーん、あんまり武闘派には見えないけど」


「主神として、そんな感じは駄目だという話になって」


「そんな感じは駄目って、ああ、あの時の、主神としての姿って、随分芝居がかっているなと思ったけど」


「ってアレはリクスがそうしろって言ったんですよ! その時は「まあいいか、面白そうだし」と思ったんですけど、あのキャラで固まるなんて誰が思うんですか!」


「キャラって、はは」


 苦笑する俺にむむむと不本意そうなウィズ、な、なんか、今の彼女こそそれこそいつもとキャラが違うような。


 そんな俺に気付いたのか、彼女はあっさりと「私はこんなものですよ」とあっさりしたものだ。


 でもあの時のウィズは本当に神様だった、ただあれでも手加減というレベルではないぐらい力を抑えているのは分かっている、神の力の凄まじさは実際にこの目で見ているからな。


 神の世界か、何度も思うが実際はこうやってスケールの大きい人間社会ってイメージだ。


 思えばウィズは王国の主神だけじゃない、学院の主任教員としても、自警団の憧れの的のアイドルとしても、色々な顔を持っている、でもあまり本心を出さない彼女、だからなのか、今回ようなわがままを言ってきたのは初めての様な気がする。


 ちなみにウルティミスの授業は、教員の人材自体は徐々に揃っているらしいし、ウィズがいなくなった補い分については、業務は問題ないそうだ。


 んで俺と2人での異動は自警団員達は随分落ち込んでいて「レティシア先生とねんごろになったら許さない絶対にだ」と詰められたのはまた別の話。


「そうだウィズ、ボニナ都市に着く前でいいんだが神石に身体強化の加護をかけてくれないか?」


 俺の言葉にウィズは勢いよく立ち上がる。


「神楽坂様! まさか何か気づいたのですか!?」


「い、いやいや! そんな大層なものじゃないよ! というかむしろ……ガキって感じ?」


「え?」


「ま、まだ何もわからないのは本当だよ」


「そ、そうですか」


 がっくりと肩を落としている。


 うむむ、でもしょうがないんだよなぁ、まだまだ分からないことの方が多いからなぁと、そんなことを考えながら、馬車を進めるのであった。







 ボニナ都市は以前訪れた魔法都市ウルリカと一緒で閉鎖都市だ。


 だがウルリカの場合は閉鎖都市と言っても、ウルティミス・マルス連合都市と姉妹都市の関係を結んでいるし、ゴドック街長は表舞台に立つ政治家だ。


 だからウルリカにとって閉鎖都市とは秘密主義という訳ではなく、亜人種差別を政治的利用するための手段として使っている。


 だがボニナ都市は、閉鎖都市のイメージ通りの秘密都市、街長は存在するが、辺境都市議会には一切顔を出していない。


 まあこの事自体は珍しい話ではない。俺のところの第三方面の辺境都市議会も開催しないで適当に書類で終わらせている。


 んで更に首都で開催されている王国議会にも出席していない、これは珍しい。何故なら首都開催の王国議会に出席しないことは義務を果たしていないとみなされ権利は認められなくなるからだ。


 だから扱いはかつてのウルティミスとは別の意味で「無視」されている。だけど王国の扱いなんて必要ないというスタンスで今までずっと通している。だからこそ駐在官も置いていない、これも歴史上ただ1人もだ。


 故にボニナ都市へ通じる公共馬車も無い、ボニナ都市に行くためには、私的な馬車を使うしかない。


 ちなみに最も危険な亜人種族を見たいと度胸試しとして私用馬車が時々来るらしいが、当然に対応することはなく、無視する形で門前払いされているそうな。


 だからこそ俺の異動に手を上げるという「権利」を主張するのは初めてであるのだ。


 今回の異動は、憲兵だけではなく裏社会にも激震が走ったらしい。例の皆殺し事件の直後だったし、俺の噂もあって余計に混乱を招いたらしく、タキザ大尉も憲兵のお偉方呼び出しを喰らってから質問されまくったらしい。だけどそこは流石ベテラン、美味く捌いて、カイゼル中将も表に立ってくれて守ってくれたそうだ。


「ん?」


 御者台に乗って馬を操っていると見えてきた、あそこがボニナ都市か、外見は他の辺境都市と変わらない……。


「あらら、ウィズ、ってここからはレティシアと呼んだ方がいいか、見てみろよ、まさかの出迎えだぜ」


 ズラリと並んだボニナ族の、若い男達だ、ひょこっと顔を出すウィズは真剣そのものだ。


 俺は馬車を正門前で止めると、地面に降り立つ。それを見て一歩前に出てくれたのは、見覚えがある顔だった。


「久しぶりっすね、神楽坂さん」


 俺も御者台から降りてそのボニナ族と話す。


「えっと、確かタドー、だよね?」


「覚えていてくれたんすか!! 嬉しいです!!」


「まあな、あの迫真の演技に最初はすっかり騙されたからな」


「いやぁ~、あの時は本当にすみませんでした」


 とお互いにからからと笑う。そう、彼の名前はタドー、一番最初のクォナの悪戯の時、悪役の中心だった人物だ。


 そしてそんなタドーの後ろには、ズラリと若い男たちが並んでいた。


「彼らは?」


「自警団っすよ、俺が一応代表者って形なんです」


 ふーんと自警団員達を眺めると、俺のことをギラついた目で見ている。


 ふんふんふんふんふん、これはひょっとしてと、タドーに耳打ちする。


「なあタドー、ひょっとしてなんだが」


「あ、分かりますか?」


「あれだけ露骨だと流石に」


「ですよね~、あの、初対面で失礼かもしれないですけど、神楽坂さん、つきましては、その出来れば俺も」


「ふふん、楽しく喧嘩でいいか?」


「流石! 後腐れなく! 一戦お願いします!!」


「分かった、ちょっと準備する、レティシア!」


「へ?」


 圧倒されているウィズに話しかける。


「ちょっと、こいつらと喧嘩してくる、後は頼む」


「は、はあ……??」


 理解できない様子、そりゃそうだろう、これはしょうがない、ウィズを置いていく感じでタドーと向き合う。


「どうする? タイマン?」


「もちろん! おーい!! みんな!! 神楽坂さん、良いってよ!!」


「「「「「うぉぉおおお!! マジかああ!!」」」」」


 と歓声を上げると、俺とタドー中心にガシっと肩を組み、正門の中に入っていく。


 そう、これは彼らが考えた「趣味と実益を兼ねた歓迎会」だ。


 まあ一般に歓迎会というと酒を酌み交わしたりして交流を深めるのかもしれないが、タドー達が選択したのは喧嘩だったというだけの話だ。


 喧嘩して交流を深める、女にはわからない男の領域なのだ。


(やっぱり、想像は良い方にあたったかもしれない)


 ウィズに最初に頼んだ身体強化の加護はこれを見越してのことだ、最強の戦闘民族に対して当然素手ゴロで勝てるわけがないので、かけてもらったのだ。


 そして不安が一つなくなったことに、嬉しさがこみあげてくるのであった。







 喧嘩の後、戻ってきたのは自警団の詰所だ。


 口の中が痛いし血だらけ、片目が塞がって見えないし、全身が痣だらけで動くたびに体が痛むから動くのも億劫、使徒であるにも関わらずのこのダメージは流石最強戦闘民族。


「いだだだ! もっと優しく!!」


 そんな傷だらけの俺を手当てしてくれるのは。


「いやぁ! 神楽坂さん流石!」


 同じように顔を腫らしたタドーだ、当然女の子が手当てなんてノリじゃない、他の奴らもお互いがお互いに手当てをしているむさくるしい光景なのが、何か良い感じだ。


「それにしても本当に強いよな、流石戦闘民族」


「10連勝した人の台詞じゃないっすよ!」


 当然ただの「人族」の俺がボニナ族相手に10連勝するなんてことはありえない、神の加護があったことはタドー達はちゃんと分かっている、だがそれを卑怯とは言わない、ボニナ族の戦いとはそういうものだ。


 んで喧嘩した後は、今度は一緒に飯を食う、しかも飯は女ではなく男が作るんだそうだ。ふむふむ、感心感心、自炊すら適当な俺も見習わないとなぁ。


 そして飯を食った後は戦闘民族と言えど同じ男、男の浪漫をこよなく愛することにはかわりはなく、そんな感じですっかり意気投合したのだった。


「ほほーう、ボニナ族では喧嘩が強い女が良い女なのか」


「外見だけじゃダメなんですよね~、だからクォナ嬢なんかは美人だとは思うんですけど、ボニナ族基準だとちょっと違うんです」


 こんな感じでクォナとの関係もあっさりと言ってくれた。


 クォナとの付き合いの始まりは何てことはない。クォナが孤児院運営で動いている時のことで、よからぬことを企んでいた輩がいたらしく、その輩もまたボニナの敵認定されたらしく、撃退するための利害が一致して協力して以降の付き合いだそうだ。


 なるほど、これもやっぱりではあるが、本当に友人同士だったのか、そうだよな、だからこそクォナが「深窓の令嬢ではない顔で一緒に遊ぶ」のだろうし、クォナが本当の意味で友人として扱われるのは理解した。


 それにしても、久しぶりにすっきりとした「暴力」を使った気がした。


 モストと殴り合いはしたことがあるが、アイツ自身がねちっこい奴だから、ばっちり遺恨は残った上に、結局王子の威光に縋ることになったことを考えれば尚更そう思う。


「…………」


 ちなみにウィズは空気を読んで空気に徹している。


 そんな時だった。


「や、や、やばい!!」


 血相を変えて自警団員の1人が詰所に走ってきた。


「街長が戻ってきた!!!」


 と言った瞬間に全員の血の気が引く。


「た、た、確か、二日後じゃなかったっけ!?」

「わかんねーよ!!」

「どどど、どうするんだよ!!」

「どうするって、どうしようも!!」


 突然右往左往する自警団員達、慌てまくっている自警団員達をポカーンと見ながら、聞こえてきたコツコツと足音で全員がすくみあがる。


 バタンと詰所の開けた先に立っていたのは、あの街長……。


 ではなかった。



(…………女?)



 そう、女、ボニナ族の女、野性的な感じのするタドーと同じぐらいの女だった。


 彼女は、俺を含めた全員を見渡す。


「タドー」


「は、はい!」


「この惨状は何?」


「そ、それは、その……」


「喧嘩?」


「そ、そうだけど、それは、交流というか」


「交流?」


「そ、そうだよ、ね!? ね!? 神楽坂さん!?」


「え!? あ、ああ、うん、男同士って、こう、後腐れない喧嘩というか、そういうので仲良くなるというか」


「ふーん」


「「「「「ビクビク」」」」」


 黙っている女のボニナ族にビビっているタドーたち、なに、何なの、この力関係は。


「まあいいか、神楽坂イザナミさん」


「は、はい!」


 と思わず直立不動になってしまう。


「剣の達人って聞いたけど、この様子を見ると、素手でもイケるみたいね」


「は、はあ……」


 ここでその子は意味深に微笑む。


「まあいいか、私はエシル、よろしくね。それと街長が呼んでる、神楽坂さんだけで私と一緒に来て、タドー」


「は、はい!」


「レティシアさんに住まいを案内して、荷物はちゃんと持ってあげな、分かったら返事」


「了解です!(`・ω・´)ゞビシッ!!」


(´;ω;`)ブワッ ←神楽坂


 そうか、ボニナ族も女が強いのか、なんか何処も変わらないなぁ、と未だにビクビクしたタドー達を置いて、詰所を後にしたのだった。



次回は、6日か7日です。

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