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第1話:世界で最も危険な亜人種民族



――王城・王子執務室



 首都全てを一望できる位置にある王城、国の中心、その次期国王であるフォスイット王子の執務室。


 深夜、指定された時間に人目を忍んで執務室内に入ると、そこには王子だけではなく意外な人物がいた。


「アイカとタキザ大尉?」


 そう、憲兵である2人が既に王子の傍に控えていたのだ。


「突然の呼び出しすまない、神楽坂」


「いえ、それでその」


「うむ、早速用件に入りたいところだが、その前に前段階を話す必要がある、神楽坂、お前が受勲した国家最優秀官吏勲章の件についてだ」


 国家最優秀官吏勲章。


 受勲基準は、任務外での顕著な功績。


 俺は、神々との橋渡しをした功労とアーキコバの物体の解明功労が認められ受勲し、階級も1つ上がったのだ。


 そういえば王子は、俺を受勲させた理由について確か……。


「王子、ということは今回の用件は例の「気になる動き」ですか?」


「まあ話は最後まで聞け、国家最優秀官吏勲章の受勲は、副賞として「好きな部署に異動できる特典」があるというのは繰り返し述べたとおりだ」


「はい、私はその権利は行使しませんでしたが」


「だがな、実は「好きな部署に異動できる権利」などというのは存在しないのだよ」


「……? どういう意味です?」


 ここから始まる王子の説明。


 異動が好きなところに行けるとあるが、正確には違う。異動システムでそのような例外は存在しない、異動というのは当たり前ではあるが、決定権は組織にある。


 それを前提としてどういう方便を使っているか。


 人事の決定権は組織にあるが、実際の異動がどのように行われているのかというと、各部署における幹部達による「ドラフト会議」なるものが開かれて、それぞれに欲しい人材の名前を上げたり、それぞれの人材の異動希望を照らし合わせる形で決定される。


 つまり希望しても、希望先のニーズが合わなければ通らない、これは出世も同様だ、何故なら出世もまた「異動」なのだから。


 故に人間関係は非常に重要であり、修道院が入学試験とその後の順位は全て実力主義を採用しているが、入った後は能力より人間関係を重視するのはそのためである。


 つまり「受勲者が希望した先と、その希望先のニーズが一致する出来レース」という方便が国家最優秀官吏勲章の好きなところに異動ができるというシステムの答えである。


 ということはつまり……。


「お前が異動対象者として内部に公示した時、たった一つだけ手を挙げたところがある」


「俺の意向を知っていて、ですよね?」


「そうだ」


 そうか、これが前に言っていた「動き」ってやつか、そして王子は今、次期国王としてここにいて、俺をドゥシュメシア・イエグアニート家当主に話しているということだ。


 もちろんここで重要なのは。


「お前を「欲しい」と手を挙げた都市はな」


 王子は一息つくとその名を告げる。



「ボニナ都市だ」



「ボニナって……」


 ボニナ都市、ってボニナボニナ、何処かで聞いたことが……。


「あ! 思い出した! 亜人種の戦闘民族!!」


 ボニナ族。


 統一戦争時代からその危険性と凶暴性を世界に轟かせた民族、鋭い牙に爪、そして人の数倍の身体能力を持ち、性格は極めて残虐、一度キレたら相手を絶滅させるたまで止まらない世界で最も危険な亜人種にカテゴリーされる民族だ。


 だが実際は当時深窓の令嬢が存在すると信じていた純真無垢な俺を巻き込んだクォナの「悪戯」に協力するぐらいお茶目な人たちだったけど。


 ああそうか、そういえば、そのお茶目な部分ってこのメンバーだと俺しか知らないんだっけ。


 だが、ここでアイカとタキザ大尉がいる意味を考えると……。


「ボニナ族はな、統一戦争時代から生き残った数少ない国の一つだったんだよ」


「国ということは、法整備とかの秩序はあったという事なんですか?」


「いや、当時は一つの活動単位を「国」と呼んでいたのだよ、だから当時リクスは統一戦争に参戦した時、自分の故郷であるの町の名前をそのまま取ってフェンイア国と名乗っていたんだ」


「リクスは統一戦争時において、三つの偉大な勝利を収めた。その一番最初の勝利が当時覇者となる最有力候補の一つであったボニナ国に対しての勝利、そして勝利後、協定を結びボニナ族がフェンイア国の一員として参戦を表明、一気にリクスの名を世界に轟かせたのだ」


「そして統一戦争に勝利した後、リクスはボニナの権利保障の締結を行い、現在は閉鎖都市として活動を続けている」


「王子、王国が把握しているボニナの活動情報を教えて欲しいのですが」


「…………」


 ここで王子が黙る。


「王国最古のカジノ、ラムオピナの用心棒、以上だ」


「…………」


 それ、だけ。いや、確かエンチョウはツバル・トゥメアル・シーチバル家が仕切っている筈。


「原初の貴族のが、ケツ持ちをしている、という解釈なんですか?」


「いや、あくまで契約を交わしているという形だ、繰り返すがこれがウィズ王国の公式上で把握していることの全てなんだよ」


「公式上ということは」


「タキザ、説明を頼む」


 王子の言葉で今度は会話がタキザ大尉に代わる。


「昨日のことだが、第19地区に拠点を構える詐欺グループの大規模マフィアが一夜にして、皆殺しで全滅する事件があった」


「…………」


「今回の被害者って言葉は忌々しいが、名前はグーファミリー、主な収集源は人身売買と詐欺を主としている。凶暴で有名でな、マフィアがビビるマフィアって奴で、近々憲兵の特殊部隊を投じて壊滅作戦が水面下で進行していたんだが……」



「この皆殺し事件の犯人がボニナ族だ」



「昨日って、もうそこまで情報を掴んでいるのですか」


「そこは本業だからな、実行犯までは不明だが、あの小太りの街長が現場に来ていたそうだ」


「なるほど、だから憲兵がピリピリしていたんですね、タキザ大尉、一応聞きますが、ボニナ族を捕まえたりはしないんですよね?」


「ははっ! そう返してくるのがお前の面白いところだな、ご明察だ、だが何故だと考える?」


 とニヤニヤしながら聞いてくる。


「そうですね、憲兵とボニナが実は裏で繋がっていて、取引が成立している。という陰謀論なら面白いですね」


 そう、俺の世界でもよく言われるこんな感じの陰謀論。


 だが現実はもっとシビアだ。


 実は公になっていないだけで、日本でも反社会勢力同士の拉致殺害は日常的に行われているし、行方不明になった事件も多数発生している。


 当然捜査当局も把握しているが、実は表立った捜査は行っていない。


 憲兵はマフィアが被害者を表現することをタキザ大尉が忌々しいと表現したように、マフィアの為に捜査なんて、税金の無駄遣いとしか捉えていない。そしてマフィアも憲兵へ被害届を出すなんてことはありえないからだ。


 更にマフィア同士の報復が始まるのならお互いに削り合ってくれるので仕事が減るのでむしろ願ったりと考えている、そういう奇妙なバランスの元成り立っているのだ。


 どういうことなのか、これは難しく考える必要はない、堅気に手を出さないのは手を出すと憲兵が敵になるからである。


 結果、徹底的に攻撃されてシノギもままならくなり、組織運営が出来なくなる。そしてホウホウの体になったところを、敵対組織に潰されて終わりを告げる。


 マフィアの世界では、弱ったものは徹底して追い込みをかけ搾り取られる世界、なので単純に「割が合わない」のだ。憲兵側もそれが分かっているから堅気に被害が及んだ時に備えて迅速に動けるように警戒待機をしているのだ。


 反社会勢力は堅気に手を出さないことが「仁義」として大層な名前までついている。だが現実はこれが答えとなり、この奇妙な利害の一致が「裏で繋がっている」という陰謀論として解釈される。


 以上が捕まえない理由だ。


「今回カタギへの実害はゼロだったからな、鋭意捜査した結果、迷宮入りだ、残念無念」


 と言葉とは裏腹に上機嫌そうなタキザ大尉。


 だが、その理屈を通すってことは。


「タキザ大尉、ボニナ族は反社会勢力として認定されているんですか?」


 今度こそタキザ大尉は、真剣な表情で答える。


「まず反社会勢力と呼ばれるのは、職業犯罪人としての定義だ。つまり犯罪で経済的利益を上げている集団を指す、故に」


「ボニナ族は、反社会勢力ではない、これが憲兵の公式見解だ」


「…………」


「もちろん俺達が把握していないだけかもしれない、奴らだって必死だ。奴らのシノギの把握が遅れるということもザラにある。しかもボニナ族はそれこそ統一戦争時代からの秘密主義を徹底しているから、俺はそっちの線も強いと考えている」


「だが現在、ボニナ族の反社会勢力としての活動の情報は掴んでいない。だが無縁ではない「だろう」というだから故に監視対象団体どまりなんだよ」


 ここでタキザ大尉の話が終わる。


「その唯一の情報が娯楽都市エンチョウ、最も歴史がある最古のカジノ、ラムオピナ、その用心棒ってことですか、ボニナ族の用心棒としての振る舞いはどうなんです?」


「淡々としているよ、仕事は真面目に確実に。寝泊りは建物の中で、食事も自分達で持ってきたものを食べている。人員はランダムに班編成をして、一ヶ月交代、終わればそのまま本拠地へと向かう。徹底して自分たちの情報を外に出さないようにしている、閉鎖都市の特権が認められているが故に、都市の中に入ることすらできない。」


 閉鎖都市、同じ閉鎖都市であったウルリカは亜人種の差別の歴史を方便に使う形で機密保持に使っていたから、当初想像としていた「秘密都市」としてのカラーは実はあまりないが、ボニナ族はそれを本当の意味で使っているということになる。


「…………」


「だから今回の件はむしろ俺達憲兵にとって衝撃的だったんだよ。あの秘密主義のボニナが駐在官としてお前を迎え入れるという事、つまり情報がある程度外に流れることを想定するした上での行動だ、今までは考えられなかったことだ」


「…………」


「神楽坂?」


「……あ、失礼しました、王子、聞きたいことが、統一戦争時のボニナ国との交戦の記録は残っていないのですか?」


「統一戦争時の? 無論記録に残ってはいるが、肝心なところが抜け落ちているんだよ」


「肝心なところ?」


「統一戦争時代というと無秩序を思い浮かべるようだが、ちゃんと戦争の秩序ルールは存在していてな。ボニナ族との戦いともちゃんと手順を踏んで交戦して勝利を収めたんだ、ここまでは分かっている。だが問題なのはこの後なんだよ」


「この後?」


「戦争というのは「お互いに殺し合うという外交手段」の一つだ。当然勝利をしたことでリクスは戦後交渉を行ったのだが……」



「その戦後交渉についての記録が存在しない」



「…………そんなことがありえるのですか?」


「普通はありえない、唯一残っている記録はリクスが1人で交渉に赴いたことだけなんだよ、その交渉内容は謎に包まれている、だが交渉終了後、ボニナ族は仲間となったのだ」


「仲間? 原初の貴族とは違うのですか?」


「違う、今仲間と表現はしたがボニナ族の立場は「従うが下に付かず」というスタンスなんだ。そしてボニナ族の名前のおかげで戦意を喪失した相手も多く、犠牲者も少なくすみ、いざ戦いが始まれば、味方の被害を最小限に抑える。まさに八面六臂の活躍だったそうだ」


「王子、私の原初の貴族の立場の件は」


「お前がディナレーテ神に選ばれたことは、ドゥシュメシア・イエグアニート家と当主達しか知らない。そして当然この事実は、当主達以外に知られることは洒落にならない事態を生み出すことは分かっているから、口外はしないと考えていい」


「…………」


「神楽坂、何が気が付いたのか?」


「気が付くというよりも、今の話の中で外側がばっさりと切り落とされているのが気になりますね」


「外側?」


「はい、タキザ大尉、そのボニナ族による皆殺しの件についてなんですが、ボニナ族と他のマフィアと関係はどうなっているんです?」


「……ボニナがマフィアとの関係はあくまで敵対行動で繋がりはない。ラムオピナという多額の金が動く賭場を「縄張り」にしているわけだからな。そこを奪えば莫大な金が得られるという理由で過去手を出すということがあったのだ、結果は今回のように皆殺しの憂き目にあっているがな」


「となればますます気になりますね」


「何がだ?」


「動機ですよ」


「……動機?」


「どうして皆殺しにしたのか、という点ですよ。今回マフィア側からの動きはないんですよね?」


「ああ、現在のところはな」


「となるとボニナ族側から戦を仕掛けたことになる、これが反社会勢力なら動機については金のためで終わる、ボニナ族がそうではないのなら、どうしてなんです?」


「専守防衛だとの見方が大半だ」


「専守防衛ということは、今の話と逆、つまりマフィアの方から喧嘩を売ったということですか、タキザ大尉はどう考えています?」


「……正直、筋は通るが現実味が無いと考えている。さっきも言ったがボニナに手を出して皆殺しされるのは過去何回があったし当然に知っている。だからリスクが高すぎる、俺がもしマフィアなら、ボニナ族とは敵対よりも友好を選ぶ……とまあこれも何の根拠もない話だ、情けない話だが、正直見当がつかないというのが本音だよ」


「タキザ大尉が個人的に考える、可能性が一番高いのは?」



「虐殺」



「…………」


「前にも言ったとおり、マフィア共が死ぬのは良いことだからな。お前のいうとおり、堅気に迷惑が掛からない限り俺達も本気を出そうとは思わない。向こうもそれを見越して、世間とマフィアをビビらせるための虐殺だ」


 可能性が高いと言いつつ、渋い表情のタキザ大尉。


「とはいえこれが動機と考えるとやっぱり弱い、そんなことをしなくても、マフィア達からは十分に恐れられているからな」


 ここでタキザ大尉の話が終わり、王子がまとめる。


「つまり何もかも分からない状態、しかもボニナ都市は曰く付きとはいえ王国がちゃんと行政単位として認めている都市、つまりこちら側からのフォローが一切できない、向こうで何があるのかは正直分からない」


 つまりボニナ族の調査が今回の指令ということか、王子がわざわざ次期国王としてドゥシュメシア・イエグアニート家の当主に指令するほどの。


「どうだ神楽坂、受けてくれるか?」


 受けるか受けないか、そんなもの決まっている。


「もちろん受けますよ」


「……即答するんだな」


「はい、面白そうじゃないですか」


「神楽坂、マフィアを皆殺しした凶暴性のある戦闘民族だぞ、分かっているのか?」


「分かってます、まあ実際に会ってみないことには何ともってとこですけど、折角なんで、楽しんできますよ」


「ははっ、楽しんでくるか、お前のそういう所は頼もしく思うよ」


「それと王子、調査と言いましたが私の身分はどうなるんです? 出張なのか出向なのか、それとも異動なのか」


「異動という形になる。理由は国家最優秀官吏勲章の「特典」の建前を通す必要があるからな、もちろん指令が終われば、再びウルティミスの駐在官へと戻す予定だ」


 異動、つまり一時的とはいえ、俺はウルティミス駐在官ではなくなるのか。


「分かりました、新天地で頑張りますよ」


「やり方はいつものとおり任せる、準備が終わり次第内示が出るから、その時を待て」


「わかりました」


 というわけで、秘密主義であるボニナ族の調査が今回の指令であったが、まあ楽しむは嘘じゃない、面白そうというのも本当だけど……。


「王子、タキザ大尉もアイカも聞いてください、最後に一つだけいいですか、今回の私の「予想」についてです」


「予想?」


「はい、まだよそう「あてずっぽう」のレベルなんですが……」


 ここで話した俺の予想、それにそこにいる全員が驚いていた。


「なるほど、面白いというのはそういう意味か」


「といっても、本当に「あてずっぽう」のレベルです。ですがそれがもしあてずっぽうではないのなら、下準備を今から始めないと」


「分かった、となれば私はケツ持ちをする必要性が出てくるか、タキザ」


「はっ」


「この神楽坂の予想について責任は私が取る、カイゼルとアイカと連携しろ、調整は任せる」


「わかりました」


「神楽坂は今すぐウルティミスに戻り、今回の件をセルカ他仲間たちに伝えろ」


「はい!」


と執務室を後にする。



(世界で最も危険な亜人種、ボニナ族か……)



 今回もまた色々と血生臭い匂いがする、そしてその匂いに心躍らせるのであった。






次回は3日か4日です。

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