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短編集:迂闊勇者、この勇者が俺YOEEE上に迂闊すぎる  前篇


第1話:神楽坂・修道院生活1か月目



 世界最大最強国家ウィズ王国、首都。


 その首都に、世界に名を轟かす政治機関がある。


「おい見ろよ、文官課程の修道院生だ」

「確か202期だったか」

「例のサノラ・ケハト家次期当主が在学しているという噂の期だろ」


 そう、その政治機関に在籍している人物が首都を歩けば通行人から注目を浴び話題に上る存在である。


 その視線を浴びるのは神楽坂イザナミという男。


 彼が所属するのはウィズ王国のエリート中のエリート養成機関。



 それが王立修道院である。



 王立修道院とは王国の将来の文官と武官の幹部養成学校。


 その入校するためには、4つの選抜枠から合格を勝ち取らなければならない。


 国内の優秀な人材を獲得するための一般枠。


 亜人種の優秀な人材を確保するための亜人種枠。


 外国の優主な人材を獲得するための外国人枠。


 そして王国の上流階級が入学してくる貴族枠。


 世界に名を轟かす理由はこの貴族枠に理由がある。


 この枠を使って準上流の人材も貴族枠で入学してくるが、王国貴族が入学してくるのだ。


 その王国貴族と懇意になるために入学してきた修道院生達は必死でコネクションを構築する、その結果一年前までただの一庶民が卒業後に貴族居住区の邸宅に出入りを許される、そんなシンデレラストーリーが毎年のように実現するのだ。


 ある者は国の期待を一身に背負い。


 ある者は故郷の救うためにその身を捧げる。


 そして修道院生は入校と同時に敷地外でも制服の着用を義務付けられる。


 この制服は修道院生しか着ることは許されず生涯にわたって着用する、同じ将校としての階級でも叩き上げは別の制服を着るのである。


 文官課程は何者にも汚されない純白の詰襟。


 武官課程は何者にも染まらない漆黒の詰襟。


 敷地外でも着用を義務付けられているのは、覚を鍛えるためという名目で設けられている、何故ならエリートに向けられるまなざしは羨望だけではない。


「勉強だけで出来てればエリートだからな」

「頭だけいい奴集めて国家が運営できるんかね、視野が狭すぎる」

「学力しか評価されないとは、もっと個性を評価すべきだ」


 そう、エリートはこういった「誹謗中傷」を受ける覚悟を持たなければならないからである。


 だが修道院生達はこの制服着用の規定について「そんな規則は必要ありません」と口を揃えて言うのだ。


 その理由について皆口を揃えてこういう。


「そんな覚悟はとっくにできています。修道院の制服は身に付けるものではなく、心に身に着けるものですから」


 と……。



――首都・仕立て屋



「キャストオフ!!」←神楽坂


 シュパパッと制服を脱いでいそいそと店の隅っこで私服に着替える。


「はぁ~、毎度毎度制服を脱いだ時の解放感が半端ない。ってなわけで、おばちゃん、いつものクリーニングよろしくね~」


「はいはい、いつも御贔屓にどうも、制服はいつものとおり明日取りに来るの?」


「そうです、いやぁ、いい仕事してますねぇ~、おばちゃんが仕上げてくれると服装点検が一発で通るから楽なのね!」


「ありがとね、でもね私もここで長いこと仕立屋と洗濯屋やっているけど、現役の修道院生が制服を預けに来たのは貴方が初めてよ、確か敷地外で活動する時は制服着用の規則があるんじゃ……」


「1流の仕事人はメリハリが出来てこそです」


「うん、その通りだと思うけど兄さんが言うと都合のいい方便に聞こえるんだよね、まあ金払いは割増料金貰っているから文句はないし、首都で服屋を営む上で修道院生を顧客に抱えるってステータスだから助かっているんだけどね」


「こっちも服を預かってくれて助かっていますよ~」


 さて、この状況について説明する必要があるだろう。


 まず修道院に入校すると詰襟の制服が上下2着支給されるのだが、生活を営む上で以下の問題点がある。


1:当然制服の手入れを怠ると怒られて面倒くさい。


2:時間が無い中わざわざそれを割いてパリッと仕立てるのも面倒くさい。


3:抜き打ちの点検で不備があれば始末書をかかされ面倒くさい。


 全てにおいて有限が世の常。


 ならばこの問題をお金で解決しよう!


 実は修道院の制服自体はおばちゃんの現役の修道院生が初めての言葉のとおり、制服は毎日使うものだから当然劣化する。


 だからこうやって仕立て屋を使って予備の制服を作ることが認められている、転売したら犯罪で当然解雇されるけど。


 とはいえそれは卒業してからの話で、修道院生は予備の制服を持つことが認められていない、当然に「員数」も検査されるのだ。


 んで一般市民にも着用義務があるのも当然に知られている、ということでそこらへん緩くて腕も確かな良い店はないかと思ったところ、このおばちゃんが経営する洗濯屋兼仕立て屋を発見したのだった。


 この店、星はないけど、さっきも言ったとおり仕事が丁寧で確か、おばちゃん自身も細かいことを気にしない性格もあり意気投合、こうやって常連になったのだ。


 んで制服を余分に2着を注文して、それを外出及び外泊許可日にサイクルして使い、普段着も併せてクリーニングに出すという名目で預かってもらっているのだ。


 修道院内でも服装は流石に毎日チェックされるわけではない、外出日までに2着を使い切り外出、んでこうやって仕立て屋に預けて遊んで、帰りに普段着をクリーニングに出し制服を戻して修道院に帰るのである。


 これにより先の問題が全て解決するのである!



1:当然制服の手入れを怠ると怒られて面倒くさい。←怒られない!


2:だからと言ってパリッと仕立てるのも面倒くさい。←プロに任せて安心!


3:抜き打ちの点検で不備があれば始末書を書かされて面倒くさい。←始末書を書かなくていい!



 お互いにウィンウィンの関係なのである!


「じゃあおばちゃん! また明日ね~」


 と言いながら、店の外に出る。


 この身を包む開放感、すうと吸い込む空気も美味しい。


 修道院の制服は身に付けるものではなく、心に身に着けるものですから、か……。


(けけけ! そんな決まり誰が守るかっつーの! これは誇りという名のやりがいの搾取っっ! こういうブラック的なのは何処にでもあるものだねぇ、私は将来の幹部候補生の1人として、こういう悪しき風習こそ変えなければならんのですよ!)


「レディーパフェクトリー、準備は完全に整った」


 と意気揚々と歩きだした先、目の前にユサ教官が立っていた。


「始末書」


( ゜д゜) ←神楽坂



――次の外出許可日



「キャストオフ!!」←神楽坂


「そんなわけでおばちゃん、またよろしくね~」


「……貴方さ、確か怒られてなかったっけ?」


「大丈夫です、俺を怒った教官は今日は休みなんですよ」


「大丈夫ってそういう意味じゃないからね、それにしても……」


「なんです?」


「本当に修道院生だったんだね、ごめんね、ちょっとおばちゃん疑っていた」


「ふっ」


「いや、ふっ、じゃなしに」


「まあ細かいことは気にしないでいきましょう! でわ~!」


 と意気揚々と店の外に出て首都観光に勤しむ神楽坂。



 そう! この物語は手を抜くことには手を抜かず、一切の妥協をしない1人の馬鹿な男の物語である!



::第2話:神楽坂・修道院生活4か月目



 世界最大最強国家ウィズ王国、首都に存在する王立修道院。


 世界最難関の一つであり世界に名を轟かせる政治機関、その施策の中で貴族枠の特殊性と同じぐらい特殊性なのが外国人枠である。


 受験時は外国人でも入学の際にウィズ王国に帰化されることが求められるが、外国人に国家の要職に就かせるという、他の国では真似できない施策をやってのける。


 日本でも戦前当時占領下にあった朝鮮人に士官学校への入学を認め将官を輩出し、万を超える日本兵が指揮下に入ったがそれをウィズ王国もやってのけたのだ。


 世界最大最強国家と強いパイプを作れるとあって、各国は選りすぐりの人材を受験させる。


 ちなみに外国人枠で入学してくる人物は出身の母国語で試験が行われるが、実際に入学してくる人物はウィズ王国語の大学論文を読み解ける程の語学力を身につけてくるのである。


 その外国人枠で入学してきた男、神楽坂イザナミ。


 彼もまた自室でウィズ王国語の本を読んでいた。


「あめんぼあかいな、あいうえお、かきのきくりのき、かきくけこ、ささげにすをかけ、さしすせそ」


 初等学院(所謂小学生が使うやつ)の教本を読みながら読み上げる、修道院に入学したはいいものの、ウィズ王国語が全く話せなかったことから徹底して勉強を行った。


 それにしても、こうった異世界物の言語設定ってさ、チートという設定すらなく当たり前のように皆話せる、ほら、ほんにゃくこんにゃくの設定が最初だけという奴さね、いっそのことドラえもんたちが食べればいいんじゃねと思うあれですよ。


 だから普段話しているのは日本語じゃなくてウィズ王国語なのだ、実はバイリンガルなのである。


 ちなみに最初のあの文言は「ウィズ王国語を話すための練習文言を日本語に訳したもの」という非常にややこしい文言なのだ。


 しかし人間必死になればなんとかなるものだ、話すこと自体は仕立屋のおばちゃんとの会話のとおり簡単な日常会話なら一ヶ月で何とかなるようになった。


 そして入学して4カ月も経つと日本でいう「ライトノベル」まで読めるようになったのだ。これでも日本にいた時は進学校に通っていたのだぜと、自分では早い方だと思うが、周りが化け物だらけなので、遅いと怒られてしまった。


 まあそれはどうでもいい、これで一段階進める。


 さて、言語を学ぶというのはその目的は「言語学」として学ぶ場合はあるがそれは少数派、主たる目的はコミニュケーションツールを身に着けるためであり「読み書き聞く話す」でそのツールの役割を果たす。


 んで初等学院レベルのウィズ王国語は完璧に読めるようになった。


 さて、今日は外出許可日、いよいよ必死で身に着けた語学をついに活かす時が来たのである。


 その時とはなんなのか。


 ちなみに外国語を学ぶのに、こんなジョークがある。



「外国語のエロ小説を読んで興奮することが出来れば一人前であると!」



 おっとエロがモチベーションかと侮るなかれ、俺の友人は高校生時代、パソコンを何度もウイルスで駄目にし、OSのフォーマットを繰り返しながらもエロ動画を収集し、一家言持つに至ったのだから。


 ウィズ王国語の勉学カリキュラムは、本当は勉強のために使うものだが、まあそんなものもどうでもいいのだ。


 さあ、行こう、戦場へ。


 と教官室に向かったのであった。



――首都・仕立て屋



「キャストオフ!!」←神楽坂


 シュパパッといつもの店の隅で着替えを完了させる。


「というわけでおばちゃん! 今回も預かりよろしくね~」


「はいはい、あの女性教官とやらは大丈夫なの?」


「大丈夫です、今日は当直なので修道院にいますから」


「はいよ、いってらっしゃい」


 とそんな会話をしつつ店の外に出る。


 変わらずの解放感、極楽極楽。


 んで店を出た後は首都観光を終わらせ宿屋に泊まり、帰る前に本屋に直行し前々から吟味に吟味を重ねていたエロ本を無事購入した。


 異世界でも男は変わらない、巨乳物を筆頭に同じようなジャンルが並ぶ、ハーレムが変わらずの男の浪漫で嬉しかった、唯一違うのは亜人種の女のエロ本もあったことぐらいか、いや、これはこれでもう、十分にごっつぁんでした。


 さて問題はここから、エロ本についてだが修道院の制服は非常に目立つから買えないのは分かるだろうし、そういったものは持ち込み禁止物にあたる。私服姿でなら買うことは容易ではあるものの、問題は如何にして持ち込むかについてだ。


 さて、計画はこうである。


 修道院は帰校報告をする際の流れは「門番の教官に申告する→教官室に入る→当直教官に申告をする→所持品検査を受ける→了解を貰う」となっている。


 問題なのは、当然に所持品検査ではあるが、ここでのミソは俺は今回の外出許可日で余分に1つのカバンを買ったのだ。


 つまりカバンの中にもう一つのカバンを入れる、そのまま門番の教官に敷地内に入ると、教官室脇のデッドスペースにこっそりと取り出したカバンを置き、教官室に入る。


 ここでのポイントは、所持品検査の時は堂々と自分から見せる点、教官の安心を引き出し、許可を得たら教官室を出て、回収する。


 こそこそしては駄目、堂々とすることも大きなポイントだ、ハッタリというと姑息に聞こえるかもしれないが、立派な戦術の一つだからだ。



「レディーパフェクトリー、準備は完全に整った」





「…………」


「…………」


 王立修道院の正門前、門番をしていたユサ教官と鉢合わせしたのだった。


「なんだこれは?」


 パラパラとエロ本を流し読みするユサ教官。


「その、あの、いぶんか、こみゅにけーしょんをごにょごにょ」


「ほほーう、そういえばお前は外国人だったな、異文化を知るためか、立派な心掛けだ」


「きょ、きょうしゅくです、で、では、そろそろ」


「ならば語学の復習がてら、ここで読み上げるが良い」


「え!!??」


「どうした? 異文化コミニュケーションなんだろう?」


「だだだ、だってこれ! え、ええ!! そそ外で!? だってユサ教官は、女性で、その、あの、あ! 祖国でそういうのはセクハラといいましてですね!! これは我が国では社会問題にもなっているものなのですよ!!」


「ふむ、成程、セクハラか、それは問題だな」


「ですよね!?」


「大丈夫だ、私が命令しているのにお前をセクハラと訴えるのは筋が通らないだろう?」


「うえええ!?」


 う、うそ、本当に、読み上げるの。


「あの、教官、も、もう、冗談が上手なんだからぁ」


「…………」


「本当に、あの、その……」


「…………」


「…………」



「主人公はヒロイン達それぞれに服を脱げと命ずると文句を言いながらもピーーーーーーーー(以下18禁ハーレムHの為自己規制)」



「始末書」


( ゜д゜) ←神楽坂



::第三話:神楽坂・修道院生活6か月目



 世界最大最強国家ウィズ王国、世界に名を轟かす王立修道院。


 修道院生は1年間の教育を経て首席から最下位まで全て序列がつけられる。


 その順位付けはいたって簡単、前期試験と後期試験と監督生が付ける点数の合計点で上から順位付けされるだけ、採点基準も完全マニュアル化されており、なんといっても素行点の存在を認めないのがウィズ王国らしい。


 そして前期試験が終われば長期休暇に入る。


 だがそこは修道院、休みはただの休みではない。


 例えば外国人枠での入学生は帰国ではなく凱旋と呼ばれるほどで、母国の首相や国王といった国家の最重鎮に直接報告し、晩餐会に招かれる。その時に貴族枠の生徒も招かれていることも多く、関係を強固なものにする。


 今年の外国枠で入学した修道院生もまた、入学前まで庶民だったのが、自国の国家の重鎮とウィズ王国貴族と肩を並べて晩餐会に参加できるのだ。


 だがそれは早くして王国貴族に見込まれた「成功者」の話だ。


 結果が出せず、単独での「凱旋」も決して珍しくない、何故なら王国貴族は自身の力の強さを知っているからこそ容易に繋がりを許しはしない。


 だがそれでも修道院に入れるだけで名誉なこと、卒業後で出世した人物もまた決して珍しくないのだから。


 一方で「敗北者」が存在するのも事実。


 容易に繋がりを許しはしないが、同じ理由で断絶をしたりしない。


 だが文官課程第202期ではその敗北者が前期試験終了時に1人出てしまった。


 その名は神楽坂イザナミ。


 断絶をしたのはモスト・サノラ・ケハト・グリーベルト。


 モストはただの王国貴族ではない。


 ウィズ王国を建国し、唯一の偉大の名を冠する初代国王リクス・バージシナ、彼が率いし、原初の貴族と呼ばれる24人の直属の部下。


 その中で国の金庫番を任され病的とまで揶揄された中立性を保ち、現存する原初の貴族の中では最小規模でありながら予算決定権という最強権力を持ち、金の魔力により最も嫌われているサノラ・ケハト家。


 その当主ドクトリアム侯爵の息子であり次期当主なのだ。


 次期当主が貴族枠で入学すること自体前代未聞、その影響力は院長ですら巻き込む形となり、繋がりを得たい全ての人は入学時期をずらして入学した人物もいる程だ。


 繋がりを得れば繁栄が約束され、モストから見込まれた取り巻きコルト他3人は修道院生としては桁が違うリードを得たと言っていい。


 だが神楽坂は、当初からモストとそりが合わず、取り巻きを連れている姿勢を「器が小さい」とばかりに非難、険悪が決定的となった。


 モストは神楽坂を排除する方針を打ち出し、周りも同調、関わり合いにならない方がいいという噂がすっかり広まってしまい、更に前期試験で最下位が確定、孤立することになった。


 出世するしないに関係なく、人間関係の荒波である修道院において孤立は死を意味する。



 その死の宣告を受けた神楽坂は、前期試験が終わり、長期休暇に入った時、自室で荷物をまとめていた。



 その理由はもちろん。


「けけけ!! 期せずして面倒事が全部俺から避けていくことになったぜ!! あのバカボンはムカつくけど影響力は半端ないからなぁ!! これだけは感謝! 圧倒的感謝! ありがとうモスト、子爵だかよくわからん凄い家の次期当主様よ、さて旅行旅行♪」


 せっかくの長期休暇、この日の為にせっせと貯めたお金で海外旅行に行こう、ラメタリア王国なんていいなぁ、あそこならウィズ王国語が第二公用語だから便利だし、のんびりバカンスでもするかぁ。


 ふんふんと鼻歌を歌いながら旅行の準備をして、外泊届を作成する。


「レディーパフェクトリー、準備は完全に整った」


 ササっと教官室に向かう。



「ユサ教官お願いします! 文官課程第202期神楽坂修道院生は旅行届及び外泊届の提出に参りました!!」



「始末書」


( ゜д゜) ←神楽坂


「え、え、どう、どうしてですか?」


「…………」


「も、もう、冗談ばっかりなんだからぁ~」


「冗談、だぁ!?」


「ひっ!!」


「前期試験の結果が出たが、まあ酷いものだったな、自分の順位は分かっているか?」


「は、はい、最下位だったそうで、次は頑張ります、だから、その」


「だからなんだ? まさか旅行に行きますとか言うんじゃないだろうな?」


「え!? 駄目なんですか!?」


「駄目に決まってるだろうが!」


「ええーーー!!! そそそんなぁ!!!」


「当たり前だろうが!! なんで普通に遊ぼうとしているんだよ!! 補習!!」


 ほしゅう、ほしゅう、ほしゅう(エコー)。


 膝からガクッと崩れ落ちる。


「う、うそ、そ、そんな、たのしみに、してたのに、かいがいりょこう、シクシク」


「最下位取った時はケロッとしていたくせに!! お前は本当に!!!」


「だって、それだけが、楽しみで、メソメソ」


「…………」


 とここで俺の顔をじっと見るユサ教官。


「神楽坂、一つ聞かせろ」


「いえ、ですから、さいかいについては」


「それじゃない、モストがお前を排除しようとして動いているのは知っているんだろ?」


「へ? は、はあ、知っていますよ」


「どう考えている?」


「どうって、女々しい奴だなぁって思っています」


 ここでユサ教官ではなく、他の教官の顔が青くなるのが分かった。


「俺が嫌いなのはいいんですよ、人間ですから、好き嫌いはどうしてもあります。だけど何でその好き嫌いに振り回されるのかなぁって、何でもっとスッキリ生きないんですかね、アイツは能力は飛び抜けているのに」


「能力は飛び抜けていると思うのか?」


「え? はい、アイツの凄いところは自分の能力に胡坐をかかずの努力家ですから、本当の能力を持つ人間って例外なく努力家なんですよね」


「…………」


「ユサ教官?」


「なんでもない、補習と言ったが、お前がやるのはこの課題だ、終わり次第解放してやる、休みが欲しければ早くやるんだな」


「シクシク、メソメソ」


 と教官室を後にした。


「サノラ・ケハト家次期当主を、女々しいって……」

「アイツはこの言葉がどれだけ恐ろしいか分かっているのか」

「ロード院長も嫌っているからな、本当にあいつはどうしようもないな」


 そんな教官達の言葉に複雑そうに顔をしかめるユサ。


 どっちが「正しい姿勢」なのだろうか、そんなことを考えたのだった。



 後篇へ続く、、、。


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