Mission:Impossible ~花より女子(だんご)~ 後篇
――後篇
ここは、世界最大最強国家ウィズ王国、その首都にそびえ立つ王城、王子の執務室。
席に座りゲンドウポーズの王子。
横で後ろで手を組み冬月のように立つ神楽坂。
目の前では、矢吹ジョーのパグアクス。
結局、あの後俺が無我夢中で割って入り「仕事があるから駄目!」とセレナ手を強引に引っ張ってその場を後にした。
だが流石イケメン、いきなり別の男が割って入っても余裕そのもので、今夜参加する社交界を見据えて「絶対に俺の女にする」と自信満々な様子だった、というか俺なんて眼中にない様子だった、腹立つな。
んで現在、本来パグアクスとセレナはそのまま2人でデートに向かう予定で、仕事はこっちでやるから任せとけ、みたいな感じで進める予定だったのだが、その予定も変更を余儀なくされることになり、結果セレナは俺と2人で私物を買いに行くことになり、ファビオリ男爵家まで送り届けて現在に至る。
そして我々は王子の執務室において緊急対策会議を開くことになった。
「「…………」」
重い、その一言だ。
「神楽坂、イケメン連合から引き離した時や買い物中のセレナはどうだった?」
「ぱっと見、特に揺れている様子はないように見えました。一応、セレナには男は顔じゃない誠意である、というのを繰り返し説いたのですが……」
「それで?」
「考えている、とだけ……」
「…………」
王子は、渋い表情のまま背もたれに深く腰かける。
「神楽坂、俺はセレナに、あの3人の猛攻をあしらえというのは、あまりに酷な事だと思う」
「はい、男に例えるのなら、美女3人からの猛アタックを受けているということですからね、なびかない方が変です。あの時はセレナも動転して現実感が無かったのでしょうが、今頃は多分……」
「…………」
「…………」
しかしこれは流石にパグアクス息が可哀想すぎる、折角のチャンスだったのに、まさかこっちが用意した社交界を向こうが利用される形にすらなってしまい、意図せずお膳立てをすることになってしまったのだから。
「あの、パグアクス息、大丈夫ですか?」
――「中に誰もいませんよ」
「ヤンデレしている場合じゃないですってばよ!!」
駄目だ、今はもう何を話しかけても、ヤンデレ台詞しか言わなくなっている。
「そうだった、ラノベ主人公って、そうだったんですよね、まさかこんな方向に来るとは思わなかった、そもそも何でライバルが1人だと思ったんでしょうか……」
「それにしてもこれが噂に聞く乙女時空か、実際に体験すると絶望感が半端ないな、本当に俺達が存在が許されないのだからな」
「王子、それにしたって、今の状況は突発過ぎるように思うんですけど……」
「んー、いや、実はそう突発でもないんだよ」
「え?」
「まずクォナとセレナを含めた4人は恋愛できる状況にない、というのは分かるか?」
「はい、それは分かります、セレナから少し聞きました」
「うむ、深窓の令嬢、上流の至宝としての存在を維持するために、あいつらがどれだけ気を払っているかは推して知るべき。その過程で煽りも喰らっていてな、特に矢面に立たされることも多いセレナは男嫌いで有名だったんだよ」
「あー、前に一度話したことがあります、確かに最初は結構辛辣だったんですよ、自分への態度が」
「そうなのか?」
「はい「必要最低限の会話しかしない、それ以外に関わるな」って感じで、後でその理由を聞いて納得したんですけど、確かにそう思えば変わりましたよね、実は優しくて気立てがいいんですよね」
「うむ、家柄もしっかりしているし、クォナのような目を引く美貌は持っていないが、実は結構美人さんだからな。だから派手にモテないが、一緒に過ごせばモテるという奴だ、社交界の間でも柔らかくなったと評判で、男性人気がドンドン上がっているんだよ。実際あの3人以外にも声をかけられている」
「マジですか! でも、彼氏がという話は聞きませんが」
王子がそっと耳打ちをする。
「それがセレナも義理堅くてな、クォナの秘書としての業務もあるが、ドゥシュメシア・イエグアニート家としての職務も優先しなければならないという理由で、断っているんだよ」
「おおう、いい女ですなぁ、それにしても、男嫌いのセレナが、どうして変わったんですかね?」
「さあ、それは俺もそれが皆目見当がつかないんだ」
「うーん、女心は難しいですなぁ」
とうんうん唸る。
ちなみにぶっちゃけると別にイケメンが何股かけようがどうでもいいのだ。
問題なのが、その相手がセレナという事なのだ。ほら、仲のいい女友達と例えると、必死で止めるこの感じ。それか「覚悟を決めろよ、浮気される前提で付き合え」とかアドバイスするこの感じ、お分かりだろうか、男は義理と人情に生きる生き物なんですよ、にんにん。
とはいうものの、打開策が思い浮かばない。
「しかし今回の場合、難しいのがパグアクス息最大の武器であるイケメンが武器になっていない点に尽きますね」
「だな、そもそもこんな状況で俺達に出来ることなんてあるのか? 仲間がイケメンに喰われるのをただ指をくわえて見ているしかないのか?」
「ううむ、顔面戦闘力の高さが意味をなさないこの乙女時空、我々では、いいとこセルに勝てると思って戦いを挑むミスターサタン、乙女時空で必要なのは「女心の理解と察しの良さと扱いの上手さ」が肝になりからね、まさに「不可能任務」ですが」
ここで言葉を切り、俺は立ち上がる。
「秘中の秘を出す必要がありますね(ドヤァ)」
「何かあるのか神楽坂!?」
「王子、前回のネルフォルのナンパ作戦の際、顔がよければいいという訳ではないということを学んだじゃないですか?」
「ふむふむ」
「要は体系化はしたものの、上辺をなぞるだけでは駄目だという事。イケメンでも内面から沸き立つ魅力が大事だということが分かったのです。この点については、今回は考える必要はありません、何故なら戦うのは、私ではなくパグアクス息です。クォナの実兄だけあって、内面から沸き立つ魅力があるという事は王子もよくご存じの事でしょう」
「つまり?」
「つまり……」
俺は両手をバンを広げる。
「名付けて、乙女時空対応作戦! 神楽坂プロデュース!!」(エコー)
「神楽坂プロデュース?」
「はい、繰り返しますが前にナンパしたときは、記号化されたテンプレを模倣するだけだからこそ失敗しました。今度は、その乙女時空を研究し、策を練り、対応する精神を作り上げて適合させる。なによりパグアクス息こそ天より与えられた「魅力」がある、その魅力をもってすれば、パグアクス息を勝利へと導くことができるでしょう」
「なるほど、だが問題なのは、どうプロデュースするかだ、もう時間が無いぞ」
「王子、前に私、女性向けの作品をたくさん読んだと言ったじゃないですか、その中で、まんまこのシチュエーションに使える作品があるのですよ」
「まんま、ということは、逆ハーレム物か?」
「はい、今から私が参考にするこの作品は、我が祖国での逆ハーレム物での一番の名作であり、今でも人気があり売れ続けるロングセラー。その人気は日本にとどまらず、他国ではその美男子4人組のグループ名がそのままアイドルグループとして活躍し、社会現象を起こした程です」
「す、凄いな、そこまでのものか、4人とは数も丁度あう訳か、乙女時空の研究は分かったが、だけどさ、神楽坂さ」
「なんでしょう?」
「まあ絶対にいないだろうと思うけど、その美男子の中でヒロインのパンツ食おうとする奴はいるのか?」
「いませんね、実際女性向けの作品でそんなキャラがいたらちょっと怖いです、でも大丈夫なんですよ」
「だ、大丈夫? それが大丈夫になるの?」
「なんと! この作品の男の1人が憧れの女性のポスターに頬ずりするシーンがあるんです!(ドヤァ)」
「え!? 本気で!?」
「そのキャラはなんと一番人気」
「なんと懐が深い、そうか! その理屈で言えば、ヒロインのパンツ食おうとしても誤差で終わるだけだな! 良かったなパグアクス!」
――「そういう事です。モテるなら何があっても祟り、セレナが罪があろうがなかろうが、モテるであれば駄目。そういう考えが問題なのです。そしてあなたはその蔓延で燻された穢れた思考に汚染され迷信妄信許せないお前のような存在が許せないお前のようなやつがセレナを追い詰めて追い詰めてセレナが可哀想本当に可哀想彼女が何をしたの? 何もしてない何もやってないただセレナであっただけそれにどんな罪が罰が祟りが呪いがどうして降りかからねばならなかったのかセレナに一体何の罪があぁあー!?」
「よし! それではプロデュースを始めようぞ!(諦)」
●
「まずストーリーラインから追っていきましょう。この作品の舞台は有力者の子息子女が通う私立学校、そこでイケメンたちは4人組を作っていてグループ名を作っています。同じようにセレナにアプローチした3人組も、通学先の学院で有力商家等の子息で構成される倶楽部を作っているのですが、やっていることがこの作品と同じなんです」
「というと?」
――学業や稼業そっちのけで女遊びと夜遊びを繰り返し、気に入らない奴がいたら赤札を張り苛め抜く、この苛めにより何人もの生徒が退学に追い込まれている。
「………………え?」
「これはマジなんです、赤札が張られると周りもそれに賛同してイジメを始めるんですよ」
「うわぁ、それはどうなんだ普通に、しかもなんかこう、やり方が女々しいというか、男じゃない感じが」
「そこは単純に作者が女性だからだと思います、逆に男性向け作品の場合って、女キャラが男っぽくイジメたりしますからね」
「うーーん」
「とはいえそう現実離れしているとは思いません、モストとやっていることが一緒なんですよ、アイツも連絡事項をわざと俺だけに伝えないとかしてきましたよ」
「あー、有力者の子息子女が通うと言っていたな。この4人はつまり修道院の貴族枠ってことで、他の生徒からすれば不興を買いたくないから逆らえない、というわけか。まあ王子としては耳の痛い話ではあるがな、って神楽坂さ」
「はい?」
「そんな現実的な話なの? 男にとってハーレム物って夢物語だからこそ面白いと思うのだけど、女は違うのか?」
「比較的現実的な感じが多いと思います。例えばこれとは違う別の作品の話なんですけど、主人公の女の子が最初は太っていたんですが、あるきっかけで痩せて美少女になりまして、その途端に急に周りのイケメンがチヤホヤするとかありましたよ」
「ううむ、逞しい」
「これも女性向けの特徴なんです。女が頑張るというか、そういう傾向が強いんです。現にこの作品も男は全員ヘタレなんですけど、主人公の女の子が凄い頑張るんですよ。だから個人的には男よりも主人公が好きですね、私は」
「なるほどなぁ、これだけでも軽いカルチャーショックだな」
「私も理解するまで大分時間がかかりました。次は、それぞれの個別の分析に行きましょう、まずは、文化人の家元の跡取り息子シニド・ロウカジソウについてですが、彼についてはこんな感じですね」
立ち振る舞いに気品があり、「女の賞味期限は1週間」と豪語する女好き、ナルシストで「仕方ないよ、俺、カッコいいからさ」という発言あり。
「うわぁ、ナルシストな上に女の賞味期限は1週間て……なあ神楽坂、これ……」
「これも女性向けの特徴なんですよ、男性向け作品だとこの手の設定のある女キャラって噛ませポジションか、やられ役じゃないですか。ここが男性向け女性向けの最大の違いと言ってもいいですよね」
「だがパグアクスは一途だぞ、このキャラはちょっと合わないんじゃないか?」
「まあこれはもとより、それでは次、サカミマ・アラキについてです、彼についてはこんな感じですね」
マザコン、気が使えて常識人、不倫ばかりしていて、相手の夫に刺されそうになった経験がある。
「不倫ばっかりして刃傷沙汰まで起こした人間が気を使えて常識人なの? 矛盾していないか?」
「まあ「清楚なヒロインがエロ下着付けて誘う目している抱き枕」と考えれば辻褄は合うかと思います」
「あ、なるほど、こういう矛盾はわりかしあるのか、ってちょっと待った! マザコンってあるぞ! これは駄目だろ、マザコンが女に嫌われるって俺だって知っているぞ!」
「これも驚きなんですが、多いんですよこれが、女性向け作品に出てくる男キャラのマザコン設定って」
「そうなの!?」
「実際にこの4人組の中で2人がマザコンなんです、私も色々な作品に触れていく上で、これにも衝撃を受けたものです」
「なんかもう良くわからない(泣)」
「これについては、よくわかっていないんです、すみません」
「まあどの道これは普通に無理だなぁ。確かに一夫多妻は認められているが、それは不倫を許すという意味ではない。まあこの登場人物のように勘違いして刃傷沙汰になったり、社会的地位を失ったり、痛い目に合う男は後を絶たないがね」
「男のしょうもなさはどこも一緒ですね。そういう部分ではリアルと言ってもいいのでしょうか、となれば、やっぱりこのキャラですね! このキャラは、この主人公の女の子と結ばれるキャラなんです!」
「おお~!!」
「このキャラについてはこんな感じですね!」
財閥の御曹司、マザコン、嫉妬深く、俺様主義、ヘタレで気と器が小さい自己中男。
「なあ神楽坂、この会話って続けて大丈夫なのか? なんか色々な方面に喧嘩売っているような気が」
「だ、大丈夫だと思いますよ! 名作であることには間違いないんです!」
「うーーん、それにしてもイジメはするわ、ナルシストだわ、嫉妬深いわ、粗暴だわ、不倫はするわ、マザコンだわ、ヘタレだわ、自己中だわ、気も小さい、器も小さいってロクな男がいないような気がするんだが、本当に女子人気があるの?」
「個人的に性別が違うというだけで、これだけ違うのは面白いと思うんですけどね。多分男性向けヒロインを見た時の女性の気持ちってこんな感じじゃないですか?」
「そっかー、でも俺だったら、やっぱりそんな女は普通に嫌なんだが」
「で、でも、この人物はヒロインに凄い一途なんですよ! この手の作品には珍しく過去の恋愛経験はなく、モテるんですけど、他の女が寄ってきても無視! ヒロイン以外に色目を使うこともなく! ヒロインに別の男が寄ってきても戦って勝つ! それを最後まで通して最後は結ばれるんです! そこらのラノベ主人公とはわけが違います!」
「おお! それなら分かるぞ! やっとまともな感じなってきたじゃないか! 確かにそれは男らしい! それでいこう!」
「しかもちょっと天然も入っているのです」
「なるほど、隙の無い布陣だな、んでその天然とは?」
「言い間違いなんかしてしまうんですよ、こんな感じです」
――「腹が減ったら戦が終わるってな」
――「戦が終わるってなら、食べない方がいいじゃん」
「……これって萌えポイントなのか?」
「みたいです、ほらこんな感じに性別を逆にすれば」
――「腹が減ったら戦が終わるっていうニャン!」
――「戦が終わるってなら、食べない方がいいじゃねえか!」
「こうすれば分かるかと」
「うーーーん、そのアピールはちょっと、パグアクスは一応国家の重鎮、それをしてしまえば上流への悪影響が心配だ」
「となれば、一途で売りましょう! 特にこのヒロインに対しての好きアピールの台詞がたくさんあるんです! パラパラと……お! これなんかどうです!?」
「おお! いいじゃないか! よしパグアクス、このセリフを言ってみろ!」
――「いや、忘れようと思っても、実際って顔を見ると思いはたぎるつーか、そうなると止められないが男の純情つーもんよ」
「「…………」」
下着を食おうとした男のこう、凄い言いそうな言い訳にしか聞こえない、そう思った2人であった。
「い、いや、もうここは、ストレートにいきましょう! パラパラと……あ! これこれ! 王子、私は個人的にこれが一番情熱的だと思うんですけど!?」
「お! いいじゃないか! パグアクス! 次はこれ言ってみろ!」
――「好きだ、気がおかしくなるほど惚れてる、俺が欲しいのはお前だけだ」←目のハイライトが消えながら
「「ひいいぃ!! こわ!! 凄い怖い!! ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル」」
「あれ!? これヤンデレ台詞じゃないのに!?」
「なあ神楽坂、やっぱりこの会話ってさ、色々不味くないか、段々不安になってきたんだけど」
「ですけど、他に策となると、もう、時間が、後1時間しかない……」
「ぐっ、俺達には何もすることができないのか……」
苦渋の表情を浮かべる俺達。
その時だった。
「セレナを守らなきゃ」←パグアクス
「ん?」
「何ヲ犠牲ニシテモ……」
「あ! この流れはやばい! 我妻が出る!!」
「シネェ!! ミンナシンジャエエエェェェ!! セレナヲクドクモノハァ!!」
スベテシネバインダー!!! ┗(゜Д゜╬)┓三三三
「あ! そのまま外に出たらだめですよ! パグアクス息!!」
一つ一つの言動が下手をすると政治的にも影響を及ぼす原初の貴族の直系の次期当主が、我妻由乃モードで出てたら!
ガチャ!!
「きゃあ! パグアクス息よ!」
「素敵! 綺麗!」
「一日に2回も見れるなんて!」
「こんにちは、君たちはいつも元気でいいね(爽)」←パグアクス
「ズコー!!」←神楽坂
「「「きゃあ~!!」」」
「少し落ち込んでいたんだけど、元気をもらったよ、さて、残りの仕事を頑張らないとね」
「「「頑張って! パグアクス様!!」」」
爽やかな笑顔を浮かべて、そのままバタンと扉を閉める。
「おかしいのはセレナと私が結ばれないこの世界の方ダヨ!!」←目のハイライトが消えている
「器用だな!! こっちがびっくりしたわ!!」
しかし色々やるけど本当に我妻由乃が似合うよなこの人。
「これって母親の躾の賜物なんだよね」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、ラエルは5人の夫人がいるんだが、その代表で仕切役が第一夫人のルズアリという人物でな、彼女がパグアクスとクォナの2人の母親なんだよ」
そ、そうなんだ、な、なんか会ってみたいな、2人の母親に……。
「王子」
俺は覚悟を決めて王子に告げる。
「ここに至っては、やはり手練手管を使うほかないでしょう」
「て、手練手管って、いや、乙女時空は」
「違います王子、手練手管を使うのはパグアクスではなく私です」
「え!?」
「私でも乙女時空に対応できる、付け焼刃ではない手練手管を使うのです!」
「その心は?」
「誠意ですよ」
「誠意か、良い言葉だ、して、その誠意はどう見せる?」
「アイツらと付き合うの辞めてって、誠意をもってお願いします(泣)」
「…………」
この時の神楽坂は、ウィズ王国の男の中で五指に入るカッコ悪さだった。
だが。
「伝わったぞ! お前の魂!!」
カッコ悪さではお互いにもうそれが美点だと思っている王子は理解したのだった。
●
結局、パーティー直前に、王子の威光を使って再び強引に理由をつけて城に呼び出し、会うことになった。
そこに現れたセレナは、いつもの侍女の服ではなく、プライベートの服でもなく、紋章が刻まれた貴族服を着用していた。
「ご、ごめん、パーティー直前で忙しいだろうに」
「いいよ別に、後は出迎えるだけだから……」
「…………」
「…………」
何となく、お互いに黙ってしまう。
ほら、言わないと、色々と。
「あ、あのさ、そ、その、聞いたよ、文を交わす約束、したんだって」
「……よく知ってるね」
「ま、まあな、しかも他に2人からもなんて、びっくりしたよ、それで、その……」
「どうするの?」
俺の言葉に空気がピンと張りつめる。
「…………どうしようかな、全員美男子だし、より取り見取りってやつだよね、なんで私に」
「やめときなよ」
「っ!」
ぴくっと震えるセレナ。
「…………」
少し考えたあと……。
セレナはスッと俺に近づいてきて、手を俺に伸ばして来たと覆うと。
軽くデコピンされた。
「??」
「言われなくても断るつもりだよ、つーかさ、何本気で心配しているのよ」
「え、だって、その」
「軽い男は好みじゃないの、ていうかさ、夜遊びしまくって、女遊びしまくっている男に誰がなびくかっての」
「でで、でも、文を交わす約束をしたって」
「断る一つにしても面倒なの、私の秘書業務って根幹に関わるから、ちゃんと考えた末にお断りしますってしておかないと、相手のメンツに関わるでしょ、男ってプライドが高いじゃない?」
「ででも、美男子で……」
「あのね、顔だけで全部許すとか思ってんの? それは舐めすぎ、それとも誰かとくっついてほしいの?」
「駄目!!! 絶対駄目!!!!」
自分でもびっくりするぐらい大きな声を出だしてしまってセレナがびっくりする。
「ご、ごめん! その、あの」
「はいはい、わかってるよ、しょうがないなぁ、「当主様」のご命令だからね」
「は、はは、あ、ありがと」
「なんのお礼なのよ、じゃ、もう時間だから、またね」
「あ、ああ、こっちこそ、変な用事でごめんね……」
とセレナは城を後にしたのだった。
(なんだろう、この空気)←物陰から見ていた王子
――数日後
ここは世界最大最強国家ウィズ王国、その首都にそびえ立つ王城。
次期国王であるフォスイット王子の執務室。
その執務席でゲンドウポーズをしている王子。
隣では後ろで手を交差させ冬月のように立つ神楽坂。
目の前では……。
「王子、これが先の会議の資料です、予想される質疑については別紙にまとめておきましたので、一読願います」
復活したパグアクス息が差し出した資料を一読し、王子は頷く。
「問題ない、相変わらず早いな、いつも助かっているぞ」
「はっ! 王子、それと、今日から数日程首都を離れますが」
「分かっている、連絡だけはすぐに取れるようにしておけ」
「はっ」
「じーー」
「? 王子?」
「なあ、パグアクスよ」
「なんでしょうか?」
「お前さ、毎回エナロア都市に行って何しているの?」
王子のここでパグアクス息は、爽やかな笑みを浮かべて
「私には、やらなければならないことがあります、我が使命を」
と不自然にでかい荷物をもって言い放った。
「…………………………その不自然にでかい荷物の中はなんだ?」
「その使命の為に使うものです」
と言い残してバタンと扉を閉じた。
「…………」
「それにしても、よくやったドゥシュメシアよ」
「はっ、まあ究極の手練手管は誠意に勝るものはありません、まあ私が本気を出せばこんなものです」
「そうだな、世の中女にモテる為と称する流言飛語が飛び交っているが、それは関係ないと言ったところか、ふふっ」
「くっくっく!」
「はっはっは!」
「「はぁ~~~」」
とヘナヘナと机に突っ伏した。
「なんか凄い疲れた……」
「まさか、辞めてっていって、本当に辞めてくれるとは思わなかったです」
「しかし分からない、神楽坂さ、もし立場が逆で、お前が美女3人から猛攻を受けて、それを例えば仲間の女たちに辞めた方がいいと言われたら辞めるのか?」
「王子、その問いかけってそもそも自分が美女3人にモテるというシチュエーションが非現実的過ぎて回答不能なんですよ」
「確かに、い、いや、俺はエンシラ一筋だぞ!」
と結局、これだけ七転八倒した挙句、お願いして後は本人の決断に任せるという指をくわえてみるしかない結論しか出なかったものの。
「「まったく、女ってのは面倒な生き物だぜ!」」
という結論に誤魔化して場を締めたのであった。
ちなみに異論は認めるが聞く気はない。
とりあえず、不穏な動きがあるぞと、クォナには伝えておいた。
:おしまい:
:おまけ:その後のエナロア都市
「「「「キャッキャウフフ♪」」」」←クォナの自室でおしゃべり中の4人
ガタタっ!
(((ピクッ)))←セレナ以外
「? どうしたの?」
「いえ、何か、クローゼットの方で黒い影が見えたから、ひょっとしたら害虫かも」
「げ! どどど、どうしよう! ククククォナ!」
「はいはい、貴方虫は駄目だものね、ちょっと見てくるわ」
とツカツカと歩いて、クローゼットを開ける。
そこには頭隠して尻丸出し状態のパグアクスがいた。
「…………きゃー、害虫よー、こわいわー(棒)」
「え!? 何で急にぶりっこ!?」
「見る? 1.8メートルの害虫」
「ぎゃあああ!! やめてよ!! すっごい想像した!!」
「ごめんなさいね、くすくす、駆除しましょう、シベリア!」
とクォナはバタンと勢いよくクローゼットを締めると数歩下がる。
「任せて! 害虫駆除魔法! △◇◇■★☆□▼▲□」
とすぐにクローゼットがシベリアの放った魔法力に包まれる。
「これは、粘膜を思いっきり刺激して涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、立てない程の痛みが襲う害虫駆除魔法よ!!」
「それって害虫駆除じゃなくて変質者駆除じゃない!?」←セレナ
ガタガタゴトゴト!!
「ひいい!! なになに!? 害虫が暴れているの!?」
「大丈夫よ、私が守るから、目を閉じて耳を塞げばいいと思うわ、後は害虫が早く駆除されるように祈ってて」
「う、うん!」
バチバチバチバチ!!
「ニヤァ」←クォナ
ガタガタゴトゴト!!
ガタッゴトッ!
バタッ……。
…………。
…………。
シーン。
「さて、無事駆除されたようだから、チェックしないとね♪」
とガチャリとクローゼットを開ける。
「」←あへ顔ダブルピース状態で気絶している絶世の美男子
「………………ふふっ」
「さあ、おしゃべりを始めましょうか♪」
とエナロア宅では夜が更けていくのであった。
:おまけのおまけ:
古来より男は、命を懸けて外の世界へと戦いに赴く。
戦いとは、命のやり取りの戦場だけではない、政治の場、商談の場、男とは様々な戦いの場に身を投じ、勝利を目指す。
だが当然のことながら、常に勝利できるわけではない、いや、むしろ敗北を多く味わうものである。
その敗北を糧にして勝利を目指すといえばカッコよく聞こえるがそれは理想論、時には心の拠り所が欲しくなるものである。
心の拠り所は男によって様々で、場所であったり人であったり物であったりする。
自分が戦う場所もまた、策謀渦巻く伏魔殿。
その疲れた心の拠り所、それは。
愛する者の物。
(計画通り……)
と心の拠り所(セレナの侍女用の上着)を頭にグルグル巻いてターバン状にして悪辣に笑う絶世の美男子。
ここは3人組の侍女用の服が保管されている3人専用の更衣室。
忍び込むに為に策を練り無事成功、これで一ヶ月は戦える。
ふふ、くっくっく。
あーはっはっはっは!
と脳内で高笑いをするのであった。
―――
「ふひひ、計画通り、むにゃむにゃ」←女装姿で幸せそうな顔をして寝ている絶世の美男子
「なるほど、ご主人様が言っていた、不自然にでかい荷物の中身はこれだったのですか」
「それにしても、いくら中性的な容姿つったって、体格は男だからバレるに決まっているのに、どうしてやり遂げられると思ったんだろう?」←シベリア
「その類の発想は神楽坂大尉に通じるものがある」←リコ
「今回も被害は未然に防いでよかった」
「「「…………」」」
「でも、どうしよう、これ」
「放っておくわけにはいかない」
「クォナ、お願いね」
「え!?」
「兄の不始末は妹の不始末」
「いや! 絶対に触りたくない!! リコ、シベリアがやってよ!!」
「「やだ! 気持ち悪い!!」」
「「「…………」」」
「じゃあこうしましょう、台車に大きな箱を持ってくるから、台車の上に乗せた後、箱をかぶせて自室に放置、だから台車に乗せる時だけ全員で我慢しましょう」
「「…………そうだね、それしかないか」」
と台車に乗せられて自室に放置された結果、風邪をひく羽目になったパグアクス。
目覚めた瞬間「看病イベントキタコレ!」と妄想逞しくするも結果放置され続け、理由が理由なだけに王子にも言えず、それでいてクォナから報告を受けていたフォスイット王子に体調管理がなっていないとコッテリと絞られたのであった。
:おしまい: