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Mission:Impossible ~花より女子(だんご)~ 前篇



 社交。


 ウィズ王国において、正式な社交の意味は「男爵以上の正貴族が主催するパーティー」を指し、社交に参加することが王国に認められたという最初の一歩でもあり、様々な有力者が参加資格を得る為に奔走する。


 パーティではあるが、単純な交流会という体ではなく、華やかな衣装に身を包んだ紳士淑女が集う一見して華やかなだが、裏では様々な思惑が渦巻く舞台でもある。


 ここは首都の貴族居住区、ファビオリ男爵家。


 当主は、マヴァン・ファビオリ・ディル男爵。


 男爵家と子爵家は、伯爵以上の原初の貴族に習い、始祖のファーストネームのみをミドルネームとして名乗る習わしがある。


 そしてマヴァン男爵はシレーゼ・ディオユシル家当主、ラエル伯爵の側近であり後ろ盾を得ている。


 マヴァン男爵家の担当は、秘書業務統括、多岐にわたる王族の秘書業務をラエル伯爵1人でまとめきれるものではない、故にそれぞれの分野で直の臣下を持っている、その一端を担うのがファビオリ男爵家だ。


 だからセレナはクォナとは幼馴染であり親友であるも、公式の場ではセレナはクォナをマスターと呼ぶ侍女として振舞う。


 だがこの時ばかり主催者はホストの直系として、あまり見ることはない紋章を埋め込んだ貴族服を着て、招待客に応じている。


 招待客の中で一際注目を浴びる1人の男がいた。


 彼の名前はハナザ・ワイル。


 その気まぐれな言動は、淑女を翻弄し、求められてやまず、数多の社交で落としていた女は数知れず、それでもまだ、遊ばれることを覚悟で淑女の方から声をかけられ、関係した女性の数は三ケタにのぼろうとする、上流を代表する美男子の1人。


 彼は、今宵、その女性達からの誘いを断り、相手はもう決めていた。



 その相手は……。



 セレナ・ファビオリ・ディル。



 彼はセレナに挨拶をするとすっと自然に手を取り、セレナに微笑み。



 彼女もまたハナザに微笑んでいた。





 世界最大最強国家ウィズ王国、暗雲立ち込める首都にそびえ立つ王城。


 ここは次期国王の執務室。


 その席に座り、ゲンドウポーズをしている王子。


 その後ろで手を後ろに組み冬月のように立つ神楽坂がいた。


「司令、じゃない王子、由々しき事態が発生しましたな」


「詳細については?」


「先日行われた、ファビオリ男爵家主催の社交界にいて使徒いけめん襲来、対象者と接触を確認しました」


「感触はどうだ?」


「話は弾んでいたようです、それと」


 俺は表情を厳しく王子に告げる。


「お互いに文を交わす約束をしたと」


「なんだと? 確かなのか?」


「はい」


「ううむ……」


 王子が唸る。


 社交では、品格が求められる。


 様々な思惑が交差する社交には細かい決まりがあり、決まりを守らないことは品のない行為とみなされ、場合によっては、社交界から追放されることもある。故に参加者は社交規約を徹底して勉強し、恥をかかないように振る舞う。


例えば、女性が意中の男性を誘うのは「はしたない」と見られるために「お茶会に誘う」という体裁を整えると同時に、紳士側にも体裁を整える必要があるのだ。


 その中で「文を交わしていただけませんか」というのは、男からの誘い文句。「貴方のことを魅力的に思っています」という意味。それを承諾するのは「私もです」という意味だ。


 これが交際の第一段階、まだ正式恋人同士ではないが、承諾をすれば今後はその人物のみ相手をダンスに誘うことが許され、その相手以外に女性を誘うのはまた品格を問われる。


 何度の社交でのダンスを経て、「今後も文の相手をしてもらえませんか」という言葉を承諾すれば、交際が成立し、今後は大人な2人同士の自由意志となる。


「神楽坂よ、現状におけるお前の考えを聞かせろ」


「文を交わす約束をすること自体はしょうがないと思います、相手の容姿を確認しましたが、オーラが出ているというか、男の私から見てもかなりの美男子ですからね」


 俺の言葉に王子は頷く。


「そうだな、セレナを責めることはできん、できないが、それにしてもその美男子、ハナザといったか」


 ここで言葉を区切り、王子は薄く笑う。


「愚かだな」


 底冷えする王子の言葉に神楽坂も頷く。


「はい、此度の敵は強敵ですよ、王子」


「相手にとって不足なし、といったところか」


 その時、激しい稲光が2人の影を彩る。


「これは傑作だ! この世界最大最強国家、ウィズ王国次期国王! フォスイット・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルアの仲間に手を出すとはな!」


「我が始祖のドゥシュメシア・イエグアニートの血は受け継がずとも、遺志と誇りを受け継ぐ当主神楽坂イザナミ! 我が直系に手を出す愚か者よ! その末路を楽しみにしていているがいい!」


「ふっふっふ」


「くっくっく」


「「あーはっはっは!」」


 2人は高らかに笑い、執務室に木霊し彩る。


 そう、2人は笑う。



 何故なら笑うしかないからである。



 この物語は、自分の仲間を爽やか女たらし美男子から守るために背景人物モブキャラが七転八倒とする物語である。





 ひとしきり笑った後のこと、城の中をテクテクと歩く王子と神楽坂



「あの、王子、とりあえず今回の問題よりもまず対処しなければいけないことがあると思うんですけど」


「うむ、言いたいことはわかるぞ」


「ええ、その、パグアクス息は、このことは」


「まあ、知らないわけが、無いと思う、セレナの毎日食べている食事の内容もチェックしているぐらいだからな」


「それだけのことをして、秘書業務をちゃんとできるというのが凄いですよね」


「うむ、ストーカー行為と仕事って両立させることができるのかと学ばせてもらった」


「ちなみにパグアクス息は、今日はどちらへ?」


「それが分からないから、こうやって探しているんだ」


「こういう事って今まであったんですか?」


「無い、さっきも言ったが秘書としては間違いなく一流だ、報告連絡は一度として欠かさないから、無断はありえない」


「…………」


「…………」


「多分城にはいると思う、まあアイツのことだからその辺を歩いていれば……」


 とここで前方から王国府の女性3人組がうっとりとした表情で歩いてきた。



「はあ、今日も綺麗よね、パグアクス息」

「しかも厨房で料理していたじゃない! その姿も素敵! マジいいよね~!」

「やっぱ男は顔もそうだけど! 料理も出来ないとね!」



「「…………」」


 その3人組の言葉を聞いて俺たちはテクテクと、厨房へと歩いて行った。





 そして到着した厨房、女性料理人や厨房員は、作業をしながらもうっとりとして顔をして視線が一か所に集中している。


 その視線の先の絶世の美男子、パグアクス息。


彼はエプロンをつけて、鍋にお玉でかき回していた。


「何作ってんだパグアクスの奴」


「いいえ、多分あれ何も入っていませんね」


「はい?」


「つまり空鍋です」


「つまり空鍋です、の意味が分からんが」


「まあ我が祖国の娯楽動画あにめでそういうシーンがあるんです、それにしてもしっかりと押さえるなぁ、王子、どうします?」


「どうするも何も、ここにおいておくわけにはいかないからなぁ」


「ですよね、あのー、パグアクス息、いいですか?」


――「セレナのお世話をするのが私の生きがいですから、セレナが幸せならそれでいいんです」


「はいはい、分かりましたから、とりあえず執務室へ行きますよ」


 と火を消してズルズルと2人して執務室に引っ張るのであった。





 ここは最大最強国家ウィズ王国の首都にそびえ立つ王城。


その中の王子の執務室。


 椅子に座りゲンドウポーズで座るフォスイット王子。


 横には手を後ろで組み冬月のように立つ神楽坂。


 そして目の前でシュッシュッと剣を研ぐパグアクス。


 その中で切り出すのは王子だ。


「今回の問題は、敵が手練手管の美男子であるということだ。政治や権力、戦略と戦術では、そもそもジャンルが違うため太刀打ちできない点にある。そもそもプライベートな上に相手の合意がある、つまり現在の危機は具体的にいうとこんな状況だ」


 サラサラとフリップに書いてドン。


 美男子に声をかけられる→手練手管にセレナがメロメロになる→2人でモーニングコーヒー


「この感じだ、下手をすると既に第二段階にまでいっているやもしれん、だが神楽坂、お前のことだ、当然に策はあるのだろうな?」


「ドヤァ」


「ほう、ある意味、今まで対峙した中では一番の強敵、頼もしいぞ我が右腕よ、述べてみよ、その策を」


「はっ、とはいえそもそも今回の状況について考えてみれば、考えるまでもない、といったところでしょうか」


「考えるまでもない?」


「つまり、今後の展開を考えれば既にオチは決まっているようなもの、という意味です」


「どういう意味だ?」


「はい、これはもうストーリーラインとしては恥ずかしいぐらいの王道ということです、まずはこちらをご覧ください」


 さらさらとフリップに書いてドン。


イケメンがヒロインにアプローチ→ヒロインメロメロになる→しかしイケメンの性格最悪であることが判明(別に女がいる等)→ヒロイン傷つく→主人公たちが成敗→ヒロイン主人公たちを見直す。


「いかがでしょう、マイマジェスティ(ドヤァ)」


「おお! なるほど! 筋が通っている!」


「ここでいう主人公たちとは我々です、つまり美男子は噛ませ犬、まあ手練手管でモテる美男子は性格悪いって相場が決まっているんです、というかそもそも私が認めません」


「同感だな、だが現実問題、そんなに都合よくいくとは思えんぞ……」


「ドヤァ」


「ってまさか! 本当にそうだったのか!?」


「はい、先ほど言ったとおり、恥ずかしいぐらいの王道だったのです、そういう意味では面白くも無い結果でした、我が灰色の脳細胞を使うまでもないですな」


「そうか」


 王子は安心したように椅子に深く腰掛ける。


「あれだけ七転八倒した割にはあっさりと解決したな、ならば早速報告を聞こうぞ」


「はっ、まずは簡単なプロフィールではハナザは、大手物産商家の御曹司であり、有力者の子息子女が通う高等学院に所属、親のつながりで準貴族として認められおります」


「ふむふむ」


「ですが今回の社交についてはその準貴族としての立場、というものではなく、社交の場に参加した女性招待客の伝手で参加しております。というのはあの場で確認できるだけで女性3人と交際しており、その力添えがあったのです」


「なるほど、それはそれは、まさに誠意の欠片もないな、いつ爆発するかもわからん爆弾を抱えており、しかもその女たちの前で別の女を誘う、爆発するかもという危機感も持ちえない、というわけか。なるほど、恥ずかしいぐらいの王道とはよく言ったものだ」


「いいえ、それが面白いもので、女たちはそれを許しているそうなのです」


「……え!? そうなの!?」


「はい」


「…………」


「王子?」


「あの、神楽坂さ」


「なんでしょうか?」


「急に雲行きが怪しくなってきたような気がするんだが」


「そうですか? さっき書いたストーリーラインからすると、第三段階まで順調にきているじゃないですか」


「ああ、うーん、変だな、そのとおりなんだけど、なんかこう、違うような、思えばさ、何か今回の流れはいつもの流れと色々と違うような気がするんだよなぁ」


「んー、でも例えばいくら美女でも三股かけるような女って俺は普通に嫌なんですけど」


「ああそっか、確かにな、うーーん、まあ気にしてもしょうがないか、今の事実をセレナに伝えれば、そのまま終わりということに変わりはないからな」


「とはいえ、一つだけ気を付けなければいけないことがあります」


「なんだ?」


「さっきの話の続きなんですが、下手にその男の噂を流すと、その女たちから不興を買ってしまうという点にあるんです。むしろ「遊ばれてもいいから、関係を持ちたい」とのこと、ですからセレナに伝えることを一つにしても、策を練る必要があるかと思います」


「…………」


「王子?」


「なあ、神楽坂さ、ひょっとしてなんだけど」


「?」


「つまりさ、お前の言うストーリーラインって、さ、実はこんな感じじゃない?」


 サラサラとフリップに書いてドン。


イケメンがヒロインにアプローチ→ヒロインその気になる→しかし性格最悪であることが判明(別に女がいる等)→ヒロイン「それでも傍にいられるだけで幸せなの」→めでたしめでたし(仮)


( ˘ω˘)…………( ゜д゜)ハッ!


「あ、あれ!?」


「つまりさ、この話ってさ、性格悪いのは分かったんだけど、モテる男がどれだけモテているかという話だと思うんだよね」


「そ、そうか、魅力も突き詰めるとそこまでいくのか……」


「なあ神楽坂、この場合だと、メロメロになっていた場合、今の事実を伝えることが逆効果になりかねないという事にならないか?」


「…………」


「…………」


 ここで、途切れてしまう。


 結局、元に戻ったわけだが……。


「だったら、不本意ですが、権限を使いセレナを参加させない様に命令、いや、そんなことをしても下手をするとこちら側が不要なリスクを背負う……」


「だがセレナをイケメンにとられる事態は避けねばならん」


「ですが、確実に交際を受けるとは」


「その保証はない」


「ですが、このままではパグアクス息が!」


「かまわん、このまま告白へと舞台を移す」


「王子! それは……」


ATいけめんフィールドの届けかない目標を倒すにはこれしかない」


「王子、まだ早いのではないですか?」


「いや、チャンスだ神楽坂」


「しかし……」


「時計の針は元には戻らない、だが自らの手で進めることができる」


「…………」


 俺はすぐに王子の意味を理解する。


「分かりました、ならば」


 王子は頷く。


「そう、策は不要だな」


 俺の言葉に満足げに微笑む。


「はい、いよいよ結末に向かうものであると思います、後は勇気を」


「だな、おいパグアクス」


 王子の言葉にぴくっと震えると、剣を研ぐ手を止めて無言で王子を見る。


「私が呼んでいるのだ、立て」


「は、はっ!!」


 威厳のある王子としての言葉に我に返り直立不動で立ち上がる。


「パグアクス、思えばお前との付き合いも長いものになるな、普段の政務も含めて私がやりたいようにできるのは、陰で支えてくれるお前のおかげだ」


 ここで王子は、パグアクスと正対するとじっと見る。


「そしてお前の想い人のことも知っている。お前は非常にモテて、数多の美女達からのお茶会に誘いを断り続け、6年間も一途に1人の女性を、セレナを想い続けている。その点については、王子としてではなく一人の男として認めている次第だ」


「王子……」


「だがな」


 ここで厳しい表情をしてパグアクスに告げる。



「6年をかけて! 何の結果も出せないとは何事だ!」



「っ!」


 パグアクスはっと息を飲む。


「いいか、確かに恋が成就するとは限らない、ままならないものだからな。だが例え片思いが失恋という結末でも、それすらも迎えることができないのは、お前の責もあるのではないか?」


「…………」


 言い返せないのであろう、肩を落とすパグアクスに視線だけ俺の方に向ける王子。


「神楽坂」


「はっ」


「今、突然思い出したのだが……そうだ、洗面具だ」


「洗面具、でございますか?」


「ああそうだ、エンシラが好きな製造所の洗面具が無くなりかけていてな、それを買ってきて欲しい」


 王子の問いに俺は微笑む。


「申し訳ありません王子、私は多忙であるが故にその任を果たすことができません、それに女性向けの洗面具の売り場に男の私1人ではちょっと……」


「そうか、それはそうだな、ならば、神楽坂よ、代わりに頼まれてくれないか?」


「なんなりと」


「ファビオリ男爵家は家族全員今宵の社交の為に今は本家にいる筈だ、私から話を通しておく、今からセレナに私の私物を買ってくるように伝えてくれ」


「分かりました、おっと、王子」


「なんだ?」


「セレナは女性、1人歩きは物騒ではないですか?」


「おお、そうだったな、気が利くじゃないか、ならばパグアクスよ」


「は、はい!」


「用件は聞いていたな、セレナのボディーガードを頼めるか?」


「も、もちろん! で、ですが! 今日の仕事がまだ!」


「それは私で何とかする」


 ここで王子は男の表情をして、パグアクスに告げる。


「決めてこい!」


 王子の力強い言葉にパグアクスの表情も力がみなぎる。



「はい!!」



 と張り切るパグアクス息は執務室を飛び出した。


その後ろ姿を見ながら俺達は微笑む。


「神楽坂」


「はい、後は見届けましょう、ハッピーエンドを」



――2時間後



 あの後、王子のとりなしにより男爵家に話を通し、パグアクス息と共に、女性向けの洗面具を買いに行くことになり、待ち合わせの時間場所を指定した。


 そんなちょっとデートを意識したのも演出の一つだ。


 本来なら女を待たせてはならないとばかりに早めに来たはいいものの、一足先に待ち合わせ場所に来ていたセレナ。


 おそらく家の格を考えて向こうも待たせてはならないと思ってきたのだろうけど、そんなセレナだったが。



「いーじゃん! 俺達と付き合えよ!」

「俺達色々な有名人を知っているんだぜ!」

「ぎゃはは! 優しくするぜ!」



 と性質の悪いナンパ3人に絡まれていた。


「…………」


 そんな3人に対し、何も言い返さず無視を決め込むセレナ。


 それを物陰から見ている俺達3人組。


「まずいな、神楽坂、お前喧嘩って出来るか?」


「軍刀を持ってきているので、日本剣術を使って助けることは可能です、出ますか?」


「いや、パグアクスも王国徒手格闘術を修めている。チンピラ数人程度なら負けんよ」


「おお~」


「ただあの手の奴らは何をしてくるか分からないからな、何かあれば加勢するぞ」


「はっ!」


 ※ ちなみに2人の後ろでパグアクスはアップを始めています。


「それにしても」


 ここで言葉を区切り笑う王子。


「この怖いぐらいの流れ、完璧じゃないか」


「ええ、まるで、チンピラからヒロインを助ける、少女漫画のワンシーンのようです。それをこの目で見られるなんて」


 そうこれは、まさに説明不要、白馬の王子様シチュエーションだ。


 それが女子の憧れだなんて俺だって分かる。


 後はもう余程のことがない限り俺の出番はないだろう。


「よし! 後はもう助けるだけだ! 行って来い!!」


 と王子の言葉が相図にするかのように、チンピラに絡まれたピンチのヒロインに颯爽と舞い降りるヒーロー。


 その白馬の王子様の如く颯爽と現れたヒーローはセレナの前に立ち、チンピラたちと対峙する、その姿を見ていきり立つチンピラたち。



「なんだコイツら! 女の前だからってカッコつけてやがるぜ!」

「俺、この場合でボコられた奴3人は知ってるぜ!」

「ぎゃはは! その綺麗なお顔が傷つかないうちに逃げた方がいいぜ!」



 そんな挑発を軽く受け流し、逆に挑発する白馬の王子。


 その挑発にいきりたち、殴りかかるチンピラたちであったが……。


 あっという間に華麗な徒手格闘術で組み伏せられた。


 組み伏せられた後、とどめを刺さずにすぐに離れて距離を取る。チンピラたちは自分の無傷が分かると再び殴りかかるも、再び組み伏せられ、それを繰り返す。


 それが侮辱であるとわかると我を忘れてついには刃物を取り出したが。


 結果、より苛烈な形で負けボロボロになり、ようやく目の前の相手に勝てないことを悟ると。



「俺達に手を出すとどうなるか思い知らせてやる!」

「俺たちはマフィアと繋がってんだ!」

「ぎゃはは! 後悔した時の顔が思い浮かぶぜ!」



と捨て台詞を言いながら逃げていった。


 そして、自分を助けてくれた白馬の王子に、セレナはこう問いかける。


「どうして、ここに?」


 セレナの言葉に、白馬の王子は爽やかに答えた。


「ただの揉め事だったら、面倒くさそうだし帰ろうと思ったけど、女のためなら悪くない」


 そう発言したのは、著名な文化人の家元の跡取り息子であり有名な女たらし、シニド・ロウカジソウ。


「王子様が、いつかぴったりの指輪をもって迎えに来るかもね」


 その隣には、年上女性との道ならぬ恋を繰り返した、マダムキラーである サカミマ・アラキ。


 そして最後の1人。


「どっかで泣いている気がして、心配で……」


 最後に登場したのは、クールなマイペースな性格、昼寝が好きで、ぼーっとしていることが多く、何を考えているか分からない猫系男子、王国の大手物産商家の御曹司ハナザ・ワイル。


 その3人が揃って手を出し。


「みんなで決めたんだ、今日のダンスの相手は、セレナだって」


 と白馬の王子達は華麗に登場したのであった。




 工工工エエエエエエェェェェェェ(゜Д゜)ェェェェェェエエエエエエ工工工!! ←神楽坂、王子




「ななななんなん!? これなんなん!? 嘘だろこれ!?」←王子


「」←絶句


「かかか神楽坂!! 俺達なんか突然別の乙女時空に迷い込んでしまったんですけど!!神楽坂ってばよ!!」


「そ、そうか! これが今流行りの異世界転移! しかも転移先でさらに転移したのか! 俺!」←現実逃避


「しかし! あれはなんなんだ、いや、呆けている場合ではないぞ」


 と王子は近づこうと手を伸ばすが。


 バチン! と手が弾かれる。


「ぐああ! な、何故だ! ちち、近寄れないぞ!!」


「無理に入っては駄目です! こ、これは、六条院夢想術です、ば、馬鹿な、し、信じられん、あの伝説が本当だったとは…………!!」


「知っているのか神楽坂!?」


「左様……」



――《六条院流夢想術》――



 源氏物語、その作者とされる紫式部。


 彼女が、文学者としてよりも武術家としての名を馳せていたことは余り知られていない、その彼女が創設した武術が六条院流無想術である。


 この武術は、紫式部が編み出した奥義を繰り出し、人の肉体の破壊を目的とする武術の中では特異な流派で、肉体ではなく精神を破壊することを目的とした武術である。


奥義を喰らった相手は動悸、息切れを引き起こし、体を硬直させ、相手と視線を合わせられなくなる、もしくは相手しか見れなくなる、という現象を引き起こす。


 コンマ何秒の世界での武術において、それが如何に致命的な隙となるか言うまでもなく、精神を破壊する危険性から、紫式部はこの武術を公にせず、一部の才能ある弟子たちにのみ伝授し、現在でも極秘に受け継がれている。


 尚、作中で繰り出している奥義は「美男子電子遊戯空間おとめげーむ」と呼ばれるものであり、この空間内では美男子しか存在を許されない。


 我々が無理に入ろうものなら存在ごと「なかったこと」にされる球磨川禊びっくりのオールフィクション、この世でもっとも取り返しがつかない奥義の一つであり、王子が入れなかったのはそのためである。


 更に余談ではあるが奥義の一つに「壁ドン」があるが、この技の創設者は紫式部の孫である「賀部譚かべどん」であり、同人の名前がそのまま技の名前になったのはいうまでもない。



――民明書房刊「古典文学と古代武術との一考察」より――



「いいいいかんぞう! まずいぞう! このままでは本気でイケメンに食われる!!」


「あわわわわ! どうしよう! モーニングコーヒーを飲む羽目になる!!」


 そんな慌てふためくモブキャラ2人をよそに、全身に爽やかイケメンオーラをまとった3人の誘いに。


「えっと、その」


 戸惑っている様子のセレナ。


「どどどどうすれば!? どうすれば打開できる!!??」


「我々では無理です!! なんてったって我々の立ち位置が乙女ゲーの背景モブキャラ以下ですもん!! あ! そうだ! 圧倒的閃き!! これなら戦えます!!」


「そうだな!! 男は顔じゃないもんよ!! 心意気sa!!」


「俺達じゃ無理Death!!」


「ズコー!!」


「だからこそのパグアクス息なんですよ!!!」


「はっ! そうか! そうだった! 奥義、美男子電子遊戯空間だったか! クックック、何を慌てていたのか! 我が布陣には女性向けでも十分に耐えられるスペックを持つパグアクスがいるではないか!!」


 パグアクス・シレーゼ・ディオユシル・ロロス。


 容姿、男ながらに「綺麗」と称されるほどのレベル。

 身長、180センチの長身。

 体型、足が長くすらりとしたモデル体型

 家柄、国家の重鎮たる名門中の名門、シレーゼ・ディオユシル伯爵家次期当主

 財産、当然に金持ち

 仕事、次期国王の信頼も厚い一流の秘書官。


「こうしてみると、パグアクス息は十二分に過ぎる程です! しかも今の状況は、普段のラノベ空間ではなく、まさに気障にヒロインにアピールできる空間、それが乙女時空なのですよ!!」


「うむ! パグアクスはストーカーであることを除けば全てにおいて3人よりも上! 逆に言えばあそこに参戦できるのは、パグアクスしかいないではないか!」


「元より、セレナに告白するためのシチュエーションです! 計画に変更なし!!」


「よし! パグアクスよ!! ここは男らしさを見せるしかない! 決めてくれ! いっけえええ!!!!」


 そう、これはチャンスなのだ! 


6年続いた一途な想い!


それを伝える為にここに来た!


イレギュラーはあったが元からの変更はない!



「さあ、戦え! 戦って勝ち取れえええ!!!」



 王子が絶叫するが……。


「」


「パグアクス?」


「」


「パグアクス! おい! パグアクス!! しっかりしろ! 起きろ!」←肩を掴んで揺さぶる


「」


「パグアクス……」


 パグアクスをギュッと肩で抱きしめる王子の横に俺は両腕を合わせた状態ですっと立つ。


「死亡確認」



「パグアクスウウゥ!!」



 ※ 神楽坂も王子も凄いテンパっていたので色々と雑であることをお詫びいたします。




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