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おまけ:グッドルーザー神楽坂V3 ~僕はただ好きなだけさ~ 前篇



 知られざる原初の貴族の1門、ドゥシュメシア・イエグアニート家。


 それぞれの世代の国王と次期国王の為に陰ながら支えた重要人物。


 その当主である神楽坂イザナミ。


 次期国王のフォスイット王子の信任も厚く、ビジネスパートナーを超えて友人、仲間として活躍し、彼もまた女性陣を性別を超えた仲間として確かな絆を持っていた。


 だが彼の男、いや、漢の戦いは連戦連敗。


 女遊びをするために、エロ本を買うために、いかなる戦術と戦略を練っても、それが全て露見し、結果女性陣より記憶を飛ぶほどの壮絶なお仕置きを受け続けた。


 だがそれで引くは漢に非ず、神楽坂は戦い続けた。


 同じ轍を何度も踏む、傍から見れば愚かともいえる行為だろう。



 だが歴史上、愚かな行為を愚直に重ねていき、それが奇跡を起こすからこそ人の世は面白い。



 ここは、娯楽芸能都市エンチョウ。


 格付けは2等。


 人として欠かせない娯楽、裕福な象徴としての娯楽、ギャンブルや芸能活動を始めとした政府直轄都市の一つ。


 その都市で行われる王主催の晩餐会、VIPルームのバー。


 庶民には手が出せない高級酒を始めとした飲み物が供されるムードのある場所。


 そのバーカウンターの席に座るのは神楽坂イザナミであり。



 その横に絶世の美女が座っていた。



 彼女から発せられる「魔力」に誰もが魅了される、そんな美女。


 だがその美女は、その生き様で初めて魅了されるとことを選択し、神楽坂の肩に寄り添い、潤んだ目で表情で神楽坂を見つめている。


 その彼女は恥ずかしそうに、顔を軽く神楽坂の胸に埋めながら小さく囁く。


「……場所、変えようよ」


 当然にその意図を察することができない程神楽坂は「鈍感」ではない。さりとてそのまま素直に応じるのは無粋とばかりに神楽坂は悪戯っぽく微笑む。


「おや、俺は嫌いなタイプではなかったのかい?」


「も、もう、意地悪言わないでよ、それと、その」


 口元を耳元に寄せて今度は彼女が切なげに囁く。


「噂どおりの軽い女だなんて思わないで、私だって、初めて出会った男の人に、なんて、自分で自分が信じられないのだから」


「俺は噂を信じない主義さ、何故ならそんな噂を信じていないからこそ、君に声をかけたのだから」


「ふふっ、何処まで本気なんだかね」


 そんな男と女の駆け引き。


 そう、彼女が言ったとおり神楽坂は初対面である。


 そして神楽坂は彼女をなんと「ナンパ」したのである、そして「お持ち帰り」に成功したのである。


 誤解の無いように言っておくが、この状況に対して、神楽坂は一切神の力を使っていない、つまり彼女は洗脳はされていない、正真正銘神楽坂の成果である。


 その証拠に……。



 少し遠くで見ていたドゥシュメシア・イエグアニート家の女性陣は自身たちが許可した公認のナンパであるため手が出せないのだから。



「…………」


 その女性陣の横では、何かをいや、親友の奇跡に、穏やかな笑みを浮かべるフォスイット王子。



 そう、ついに神楽坂は勝利という名の奇跡を実現したのである。



 さあ、今宵は神楽坂が、その自身の戦術と戦略でつかんだ勝利の、歓喜の瞬間が生まれるまでを振り返ることとしよう。




――グッドルーザー神楽坂V3 ~僕はただ好きなだけさ~ 




 パンとサーカス。


 ユウェナリスが古代ローマの世相を揶揄してローマ市民の政治的盲目に置かれていることを揶揄した言葉。


 パン(食料)とサーカス(娯楽)を提供すれば自身の能力と関係なく民の人気が取れる。これは綺麗ごと抜きにして現在の政治においても欠かせない要素となっている。


 そしてそれは異世界であるウィズ王国も同様だった。


「あまり気分のいい話ではないが、これも政策として割り切る必要があるのさ。それこそ初代国王リクスも統一戦争時代、他国の民をまさにパンとサーカスで支持を得て「自分に従えば豊かな暮らしができるぞ」というアピールにかなりの金を使ったという記録も残っているぐらいだからな。戦争と言っても武力で殺し合いだけじゃない、こういった形の戦争もあるということなのだ」


 と王子は述べる。


 世の中、綺麗事で終わればそれでいいが、当然それでは終わらない。必要なのはそういった事態に対してどう向き合うかが大事だと説く。


 王子の言葉に俺も頷く。


「そして平時である今は、武力よりもそちらのほうがより主力であるとということですか?」


「よりけりだがな」


 王子の言葉に答えず俺は階下を見下ろす。


 招待状を持った客がそれぞれの「パンとサーカス」を楽しんでいる。娯楽都市エンチョウで開催されるのは王主催の「もてなし」だ。


 特徴的なのは国外の来賓は呼ばれず「国内の有力者」に限定される点。当然今集まっている建物は歴史ある劇場で傍らにはカジノや星付きのレストランなどが揃えている。


 今回はその建物を全てを貸し切っている、自分の好きなパンとサーカスを好きなように楽しむのだ。しかも全て「王族の奢り」というもの。ここに招待されるだけでステータスにもなり、建物の周辺は憲兵が警戒している。


 ちなみに有力者とは、政治的経済的な力を持つ者ばかりではない。あらゆる分野の著名人が招かれている、学術部門だったり研究部門だったり、芸能部門だったりする。


 ちなみに俺がここにいる理由は、王子の施策のとおり、国家最優秀官吏勲章を受勲したことで王国の有力者として認定されることになった。


 思えば、自分が認定されたということは初めてなのか、なんか感慨深い。


 まあそれは抜きにして、前回の男子会の反省を兼ねて、ドゥシュメシア・イエグアニート家としての会合も兼ねていたりする。


 歴代王の私設部隊であり仲間でもあるドゥシュメシア・イエグアニート家、唯一の地の繋がりではなく、歴代王と次期国王の仲間としての立ち位置。


 まあ、今回はそういった難しい話を抜きにした話、カイゼル中将とタキザ大尉はカジノでギャンブルに興じている。


 んで演劇鑑賞が終わった今、星付きレストランで食事を食べようと思ったのだけど。


「「「「「(・∀・)ニヤニヤ」」」」」


 と笑うのはいつもの女性陣。


「「なんでこんなことに(´;ω;`)」」


 と半泣き状態のいつもの俺達。


 いったいどうしてこうなった、どうしてこうなった。



――時は更に遡る



(ふぉーー!!!)


 と演劇を見ながら内心興奮しまくる俺。


 男の娯楽は飲む打つ買うというが、それだけじゃない、俺はこんな演劇も見るのが大好きなのだ。


 俺が座っているのはもっとも由緒のある劇場の中央部最前列、王子に無理を言って席を確保してもらったのだ。それぞれの役者たちの表情までちゃんと見れて大・満・足!


 ちなみに演目は初代国王リクスの物語だ、それを王国を代表する演者たちが揃っての熱演している。


 リクスを演じる主演は2枚目で女性客の視線を独り占め。


 ユナを演じる主演女優は実力ナンバー1の呼び声も高い名女優。


 コミカルな立ち位置で会場を和ませる三枚目。


 場を締めるいぶし銀の脇役たち。


 そしてこういった英雄譚では欠かせない観客から憎まれ恨まれて敗れ、カタルシスを上げる敵役。


 初代リクス王の物語というからどこぞのマンセー演劇だと思いきやさにあらず、リクスが困難な目に遭うのはもちろんのこと、失敗や失態をちゃん描き、それが成功のカタルシスへとちゃんと示されている一流の物語だったのだ。


 さて、大満足のうちに演劇も終わり、ポテポテと歩いている。本来こういった場は、まず王主催の夕食会が開催されてそれがメインになる筈なのだが、始まる時に王が簡単な挨拶をするだけで、好きに過ごしていいのだから気が利いている。


 とはいえこの気が利いた場で色々な思惑が交差するが、俺には関係ない、はあ、この自由な感じ、一応制服は持っているけど、当然に着るつもりはない、修道院とは違うこの開放、極楽極楽♪


 ってなわけで演劇が終わった後は、星付きレストランのシェフたちが腕によりをかけて料理を振舞っているフリーレストランに足を踏み入れることにする。


「お、ピガンじゃないか! シェフさん、これを1人前! ミディアムレアでね~」


 という注文にシェフは恭しく頭を下げると、見惚れる手際の良さで目の前で焼いてくれて「どうぞ」という声と共に出てくる。


「~~っっ! うまーい!」


 はぁ、幸せ。それにしてもピガンが早速こういった場所に登場してくるとは、流石セルカだ、いや、ピガンの品質の確かさなのだろう。新装開店したミローユ先輩の宿屋でもスイートルームでのメインデッシュを張っているそうな。


 それにしても高級肉をこんな形で振舞うなんて流石最強王国。


 モグモグと食べ終わると、そろそろ待ち合わせ時間だから外に出る。


 ちなみに王子はパグアクス息と共に有力者達へのあいさつ回りをしている。それを差し置いてと申し訳ないと思ったが、気にしなくていいとのことなので遠慮なく存分にパンを楽しませてもらった、


「~♪」


 さてと、待ち合わせ場所に到着して上機嫌で待っていると。


「待たせたな、神楽坂」


 と声が聞こえ振り返るとそこには王子がいた。


「いいえ、さあ、行きましょうか、戦場へ」


「ああ、腕が鳴るぜ」


 男の娯楽は飲む、打つ、買う、そう、今宵は王子と一緒にカジノを楽しもうと約束しているのだ。


 カジノ、それは大人の社交場。


 カリバスさんと行った大衆賭場の雑多な感じが大好きだが、こういった品のある賭場も大好きだ。


「……ん?」


 と一歩足を踏み入れた時だった、カジノの中のその雰囲気の違和感を感じ取る。


 まず目に入ったのは男性陣の表情だった、全員があえて無表情を装うもの、何かに気を取られている、要は浮ついており、女性陣は真逆で何やらヒソヒソと噂話をしている。


 なんだろう、政治的、なものではないような感じがするけど……。


「理由は簡単だ、有名人が来ているからだ」


 同じように違和感を察したのだろう、横にいた王子がそう言い放つ。


「有名人が来ているって、それでこんなに浮つくものなんですか、そもそもこの場を考えれば有名人がいるぐらいで騒ぐほどでは」


「お前も名前は知っている筈だ、いや、さっき近くで見てたはずだ」


「……え?」



「我がウィズ王国の2大美女と讃えられている人物がいる」



「…………まさか」


 王国の2大美女、そのウチの1人はお馴染み上流の至宝と言われるクォナ、王子がその人物はとは、もう1人の美女のことだ。



 そう、まさに「神」は一つの時代にまるで誂えたかのような対照的な女を我が国に誕生させた。


 となれば、この男性陣の浮つき具合も、女性陣の厳しい表情も頷ける。


 そして王子が言っていた「先ほどお前も会っていた」というのは、リクス初代国王の演劇の話の舞台俳優のことを指す。


 そしてそれはユナ初代王妃を演じていた主演女優ではない。



 観客から憎まれ恨まれて、カタルシスを上げる敵役を演じた助演女優のことをさす。



 その彼女の名前は。




「ネルフォル・デルタント」






 ネルフォル・デルタント。


 彼女は才能を持って生まれた。


 まずは異性を魅了する容姿。


 次に異性を惹きつける魅力。


 幼いころから男を魅了し、視線を一身に集め、それは年を重ねるごとに肉感的な艶気を放つようになった。


 その魅力はもはや魔力と表現するのが正しく、彼女を見るだけで男は惑わされ、幾人の男が身を持ち崩してきた。その伝説は彼女がまだ齢13の時から始まるのだからまさに才能というほかない。


 更に彼女は、天から役者としての才能も与えられる。


 エンチョウにある王国芸能学院に入学した後は、めきめきと頭角を現し、最高峰の劇団である王国劇団に最年少で入団、舞台女優として活躍する。


 そしてその役者としての才能は、男の理想を体現したような清楚な女性、所謂「ヒロイン」ではなく、彼女の生い立ちそのものを表すような男を手玉に取る悪女という役柄に発揮される。


 今回の演劇、ネルフォルが演じた役は、簡単に言えば色仕掛けでリクスを誑し込もうとした悪女役だ。


 こう書くと何とも陳腐な響きではある、だがその魔性の魅力をもってリクスに近づく姿は、本気でリクスが誑し込まれるのではないかと観客に思わせ、それを撥ね退けたリクスの豪胆さに観客は歓喜する。


 結果、策謀が表沙汰になり証拠を抑えられて彼女は自分で死を迎えるのだが、その死にざまも美しいものであった。


 クォナが男の夢を体現した美女ならば。


 ネルフォルは男の悪夢を体現した美女と呼ばれる。




 その悪夢が、現在カジノで繰り広げられていた。




 彼女の前で腰を抜かして、紳士が床に座り込んでいて。


 彼女は右手に拳銃を持ち、そこから硝煙が立ち昇る。



 彼女は何も言わず、地べたに座り込んだ紳士を見て微笑んでいた。


 その紳士は彼女を見ることが出来ず真っ赤になって屈辱に震えている。


 この状況が生まれた経過は簡単、ネルフォルの魔力に魅了された男は声をかけ、愚かにも彼女に「一晩過ごす権利」を要求した結果だった。


 その要求に対し、彼女はこう返す。


――「ギャンブルに勝ったら付き合う」


 そして彼女が提案したギャンブル。


 それはロシアンルーレット。


 その結果が今の光景だ、男の見栄とばかりに無理をしてそのギャンブルを受け、いくらなんでも実弾は入っていないという高をくくっていた結果である。


 そう、これ以上ないほどの無様を晒すことになった。


 彼女が男を見るだけで何も言わないのは、彼女の温情だろうか。


「ぐっ!!」


 せめてもの意地と顔を赤くしながら、無言で足早に立ち去る。


 その男達に注がれるのは、同じ男からの冷めた視線。


 既に負けた男の噂が立っている、彼は今後、女に赤っ恥をかかされた男としての噂は当分消えないだろう。


 本来なら、ここまでの恥をかかされるネルフォルの行為は、別の男からの不興も買う行為であるはずが、彼女の行動を無言で讃える男達。


「流石一流の賭場人、度胸も含めて物が違うな」


 そう、彼女の、エンチョウに名を馳せる一流のギャンブラーとしたの才能もある。


 優れた容姿、魔性の魅力、演技の才能、賭事の才能。


 天はそれだけの才能を与えてもまだ飽き足らず、彼女に最後の才能を与えた。



 人間は平等ではない、不公正であり不平等であり理不尽、だからこそ人の世は面白い。



 それは家柄。


 彼女は、原初の貴族、経済担当、偉大より三つのミドルネームを許されたツバル・トゥメアル・シーチバル侯爵家直系。



 ネルフォル・ツバル・トゥメアル・シーチバル・ネルダント。



 ついたあだ名が「悪女優!」



 数多くの天から与えられた才能を持った彼女は再び、カジノのバースペースでグラスを傾ける。



 その悪女優を前にした神楽坂と王子の2人は……。



「王子、私の祖国の映画の話なんですけど、とある推理アニメのヒロインがですね、生死が懸かった場面で、助かるためには爆弾の導火線の最後の一つを赤の線か青の線をどちらか切らなければいけなくて、どっちを切るのを迷ったシーンがあるんですね」


「ふむふむ」


「結果、彼女は結局青を切り、見事生還を果たしました。それで当然聞かれるわけですよ、「どうして青を切ったのか?」と」


「その心は?」



――「だって、切りたくないもの、赤い糸」



「ギップリャ! なるほど!! 理にかなっている!! つまり!!」


「そうルーレットは次は赤に来ると示している!! という訳で、赤にドーーン!!」


 と、悪女優のことなどこのモテない2人は何の関係も無いことだった。


「たあああ!! なんだよこれ!! 全然勝てないじゃん!!」


「王子! 次です! 次で取り返す! って」


 2人の前を足早に立ち去っていき、カジノから姿を消した男が見えて、辺りがざわついてるのを感じ取る。


「なんなんですかね、さっきから騒がしい感じがしますけど」


 と言いつつ王子と一緒に聞き耳を立ててみる。


「ナンパが失敗して、大恥かかされたみたいですよ」

「ということはギャンブルか」

「なんの賭け事ですか」

「ロシアンルーレット、だそうだ」

「これはまたえぐい、それで負けてあの様か、当分社交にも出れまい」

「しかしロシアンルーレットで本当に実弾が入っているとはな、流石一流のギャンブラー、正気の沙汰じゃない」

「それが彼女の魅力、いや魔力だよ」


((うわぁ))


「可哀想に、ってその男はイケメンだったんかね?」


「いえ、さっきチラッと見えたんですけど、容姿は普通ですね」


「あらら、イケメンじゃないのに無理するから、まあ俺には関係のはない話か」


「まあ、あれですよね、しょうがないですね、イケメンじゃないものですからね」


「俺達には関係ないもんね~、イケメンじゃないし」


「そうですよね~、イケメンじゃないからしょうがないですよね~」


「「ね~!!」」


「あ! そうだ! 神楽坂! 実は面白い余興があってな!」


「詳しく」


 と言った時だった。



「ま、神楽坂には一生無理だよね」



 と聞きなれた声聞こえて振り向くと、そこにはドゥシュメシア・イエグアニート家女子一同がいた。さっきのネルフォルとは別の意味で注目集めている。


「い、一生無理って、な、なんだよ急に」


「だから神楽坂には一生無理だって言ったのよ、あんな美人さん相手だものね」


「ふん! 俺だってやればできるんだよ!」


「うんうん、男の見栄って可愛いよね」←アイカ


「ナンパなんてご主人様には荷が勝ちすぎるかと」←クォナ


「自然体なままが一番ですよ」←ウィズ


「イザナミさん、身の丈に合ったことをした方がいいよ」←セルカ


「プークスクス! ププークスクスクス!!」←ルルト


「相変わらずのアンポンタンですね」←ユニア


「むむむ! なんだよう! なんだよう! 突然みんなしてさ! うわーん!」


 と半泣き状態な俺をガシっと王子が抱きしめる。


「そのとおりだ! 神楽坂は神楽坂だけの魅力があるんだ!」


「お、おうじ」


「神楽坂、俺は分かっているからな」


「王子!」


「神楽坂!」


 だきっ!


「言っておくがな! 俺達だってナンパぐらいやればできるっつーの! ねー王子!」


「ああ! そんな不誠実な事をしないだけだもん! ねー神楽坂!」


「「ねー!!」」


「じゃあやってみれば?」


 あくまで挑発するアイカ達だったが、そんな挑発には乗らないとばかりに俺と王子はニヒルに笑いあうと俺は女性陣に言い放つ。


「アイカ、言っておくが不誠実ってのは、ナンパをする相手にじゃないぜ」


「は?」


 俺は、精一杯爽やかに微笑むとこう言い放った。



「アイカ達に対してだよ、こんなにもいい女に囲まれているのに、他の女をナンパするなんて失礼極まりないだろ(爽)」



「は?」


「…………」


「…………」


「そ、そんな即座に「は?」って言わなくても……」


「はーん、自信ないんでしょ? だからさ」



「使ってもいいよ、神の力」



「…………」


「…………」


「は?」


 と今度はこっちがこう返事する番だ、言っている意味が分からん。


「……いや、普通にそんなチート使ったら、結果は明らかじゃないか、美男子に変化して終わりじゃないか」


「だからそれでいいよって言ってんの」


「…………」


 他の女性陣を見るがニコニコしている。


「いやいやいやいや、話の流れが強引すぎるぞ! あれだろ! 実際にやったらまたお仕置きするんだろ!?」


「だからしないって言ってんじゃん」


「…………」


 え? 本当に? 確かに女性陣は余裕しゃくしゃくと言った感じ、クォナの目のハイライトもちゃんと灯っている。


「い、言っておくが、本当にやるぞ! 彼女と一緒にモーニングコーヒー飲むぞ!!」


「モーニングコーヒーでもお好きにどうぞ」


「「…………」」


(ふ、ふん! ナンパなんて不誠実なことしないもん! 俺は紳士だもん! 紳士は女性を大事にするんだもん!) ←言えない


「「「「「(・∀・)ニヤニヤ」」」」」 ←それを察している女性陣


((って、なんでこんなことに(´;ω;`)))


 と半泣き状態のいつもの俺達。


 ということで冒頭に戻る。


 とまあここでなら、いつもの場合、そのまま退場するところだけど……。


 俺は王子の方を見る。


「王子、こうまで言われては男の沽券に関わりますな」


「ああ、ならいいんじゃないか、ナンパしていいそうだぞ、神楽坂よ、神の力も使っていいそうだ」


 王子の言葉を受けてもう一度アイカ達を見る。


「これが最後だ、本当にいいんだな?」


「くどいね」


「…………」


「ならお言葉に甘えましょうか、じゃあやってやるよ、ナンパでもなんでもな、王子、作戦会議を開きましょう」


「作戦会議と言っても俺はナンパなんてしたことないぞ、お前は?」


「私もありませんね、ですが」



「我に策あり(ドヤァ)」



::神楽坂のモーニングコーヒー大作戦!!



――女性陣から少し離れた位置にいる2人


「ふっ、神楽坂よ、その顔を見ると策があるようだな」


「はい、まずは作戦を説明する前に、前段階から話します」


「前段階?」


「簡単に言えば容姿が与える印象についてです。とまあここから小難しい理屈を並べてもセンスが無いので、分かりやすくイラストを描いて御覧にいれましょう、まずはこんな感じです」


 さらさらとフリップに書いてドン。


――お前らが美少女に壁ドン。


「大変だ!! 女の子が襲われているじゃないか!! 憲兵さんこいつです!!」


「ですね、じゃあ次、これはどうでしょう?」


 さらさらとフリップに書いてドン。


――イケメンが美少女に壁ドン。


「す、すごい! 抱かれてもいい感じになってる! 襲うの意味が180度違ってる!  って、そうか! そういうことか! お前の言いたいことが分かったぞ! まさか! あの忌み言葉を作戦に組み込むとは!!」


 忌み言葉、戦慄する王子の言葉にニヤリと笑い高らかに作戦名を告げる。


「それでは発表しましょう、作戦名……」



「ただしイケメンに限る!!」(エコー)



 ただしイケメンに限る。


 世の多くの男を真実という名の現実に突き落としてきた忌み言葉。その現実に生きる者にとって「モテる」という出来事を実現させるためには「冴えない男に美少女たちが夢中」という異次元空間を発現させるしか方法はない。


 もちろんそんな異次元空間は実際には作り出すことは不可能である。その異次元空間を実現させたものがハーレム物である。


 ちなみにその現実を深く知るかぐらざかにとって、仮に女性側から気に入られるという現実が発生した場合、嬉しさよりも恐怖が先行する。


 王子は滴り落ちる汗を腕で拭う。


「ぬう、本来であるのならば、99、9%の男が認めたくない真実! それを躊躇なく使うとは、神楽坂! 恐ろしい子!」


「よしてください、とはいえまさか男として生を受けて幾星霜、生きてこの言葉に感謝する日が来るとは思いませんでした、何故ならまさにその絵に描いた餅を実現させることが我々にはできるのですからな!」


「おお~(パチパチ!)」


「これを踏まえた作戦は実にシンプル、先ほども言ったとおりルルトの加護をつかって絶世の美男子へと変身します、まあ正確には「絶世に美男子に見えるようにする」という加護ですが」


「だが神楽坂よ、美男子とはいうが、その定義は難しかろう?」


「はい、容姿がよくなればそれだけモテるというわけでもないですよね? しかも男から見た男の「カッコいい」と女から見た男の「カッコいい」は言葉が同じでも全然違いますからね」


「だがどうするんだ、女の好みなんて分からんぞ」


「ヒントは身近なところにあったんです。王子、我が国の娯楽文学ライトノベルには男性向けの作品と女性向けの作品があるのですが、当然男性向けには美少女、女性向けには美男子が出てきます、そこまではいいですね?」


「ふむふむ」


「王子は、女性向けの作品を読んだことがありますか?」


「アレアが持っていたやつを借りて何冊か読んだことがある、なんかこう、キラキラした感じの男が出てきたな」


「はい、その「キラキラ」という部分についてなんですが、男性向けと同様に体系化出来ることが分かったのですよ」


「体系化とはどういう意味なんだ?」


「例えば男性向けのヒロインには「年齢」というカテゴリーに絞ってもこんな感じで分類することができます」


――年上・お姉さん系


――同い年・気さくに話せる同世代系


――年下・父性本能に訴える妹系


「なるほどな、だがそれでも難しいぞ、要は異性の好みを体系化するということだろう? それは女心を知るのと同じではないのか?」


「ふっ、実は私、一時期その女性向けジャンルをたくさん読んだ時期がありましてな」


「読んだ時期って、ま、まさか、お前は、成し遂げたのか!?」


「ニヤリ」


「おお! それでこそ我が右腕よ! なれば披露して見せよ!!」


「はっ! これが我が用意したラインナップにございます! 美男子中の美男子達! 出てこいや!!」



※ナレーション:立木文彦 BGM:PRIDEのアレ



――お前の物は俺の物! 俺の物は俺の物! だけど妹と母親に弱い! あら不思議! ドSってぶっちゃけジャイアニズムの千変万化じゃね!? 王道ドS男子!!



――ボクはお姉ちゃんがいなければだめなんだキュ! くすぐるのは女心!? それとも母性本能!? ゴマちゃん系男子!



――普段は穏やかな草食系お兄さん! だけど夜はミナミの帝王! それが優しいと言われるのは納得がいかない! 癒し系いやらしい男子!!



――冷たいかも! だけどそれは不器用なツンデレ! 自己矛盾はギャップ萌え!? それが良いとか単純に不公平だと思うの! クール系男子!!



――気さくな美男子! 親しみやすさの中に一歩踏み出せない甘酸っぱさに乙女はキュンキュン! だがそれはヘタレとどう違うのか厳重に抗議をしたい!! 王道イケメン男子!!



――何もできないダメ男!! 一定の需要があるダメンズウォーカー!! 実際やるにはちょっとプライドが許さない! 出来ないんじゃないやらないだけだ! 気だるげ系男子!!



「感動した! 体系化とか言いつつ最初から最後まで私情が入っていたような気がするが、それも込みで感動した!!(パチパチ)」


「ふっ、さて王子、これでもまだ前段階なのです、何故これをわざわざ体系化する必要があったのか分かりますか?」


 意味深な神楽坂な笑み、ここで王子は理解する、何故、この話をしていたのか。


「そ、そうか! やっとわかったぞ! お前の作戦が!!」



「はい、ナンパを許可するという言葉でしたが、その回数については言及されていません! それが最大のミス! ならばその全てをぶつければいい! 名付けて! 絨毯爆撃虱プレス!!」



「完璧だ、完璧だ神楽坂よ(感涙」)」


「まあ、こんなものですよ」


「だが、神楽坂、仮にそれで成功したとして……」


「安心してください、モーニングコーヒーなんて飲みません。楽しくおしゃべりして終わりですよ」


「そうか、安心した、ならば行ってくるが良い、私はお前の親友として、ここで成功を見届けようぞ」


「はっ、よしルルト、話は聞いていたよな、最初はドS系美男子の注文で頼むぞ」


「プークスクス!! い、いいよ!! プークスクス!!」


「な、なんだよ、何がそんなにおかしいんだよ」


「い、いや、べべ、別に、分かった、はい」


 と力を込めて、いつものアーティファクトのペンダントを首にかけるといつもの力に包まれた感触がある。


「どうですか、王子?」


「おおう、間近で見るとドS系美男子って迫力があるな! これは間違いないぞ!!」


「はい、それでは神楽坂行ってまいります!!」


 とそんなモデル歩きで意気揚々と歩きだしたのであった。


 そしてその姿を見て、何人かの女が色めきだったのであり、その光景に最初は感涙して見つめる王子であったものの……。


「…………」


 冷静になって考えてみると、さっきの話ではないが展開が強引すぎるような気がするし、そもそもナンパなんてさせてどうしようというのだろう。


 ちらっと女性陣を見て見ると最初から変わらずの笑顔で、クォナの目にハイライトがちゃんと灯っている。


 やっぱりなんか変じゃないか、エロ本もロクに買えないような筈なのに。


「王子、「血の雫は固まる」ですわ」


 疑問を察したのか発言したのはクォナだ「血の雫は固まる」ウィズ王国の諺だ。


「え? え? でも、その諺の意味って……」


 戸惑う王子、そして意気揚々と歩きだす神楽坂を見ながら女子全員がクスクスと笑うとアイカが王子に話しかける。


「王子、神楽坂って、いくらお仕置きしても懲りないじゃないですか?」


 まあ、それは記憶が飛ぶほどにお仕置きをしているからな、と言いたくなるがなんか怖いので言えない。


「アイツはもっと、黙って私達が傍にいることを、もっとありがたく思うべきなんです。今回はそのお仕置きなんですよ、王子」


「…………」


 まだ理解できない王子。


 さっきの「血の雫は固まる」の意味。


 血は体外に流れ出れば当然に固まる。


 意味はそのままで……。



 分かりきった結果。



 そう、ハーレムは男の浪漫とか堂々と公言する、モテないを掛け算で生きてきたような神楽坂イザナミ。


「何故かな、今日朝起きた時から、胸騒ぎがしていた、その原因が君に出会う運命を予兆していたものだったんだな」


 とクイっと彼女の顎を自分に向けさせこういった。


「お前、俺の女になれ」



 負け戦は百戦錬磨!!




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