おまけ:短編集:色々なことをしたりしなかったり ~後篇~
最終話:色々な人のこれから
国家の施策による勲章を始めとした賞と呼ばれるものは国が個人や団体に「与える」という性質を持つ。
だから受勲者や受賞者は、例えば日本なら公的な場所に赴き立場ある人物から「与えられる」のだ。
その中で、特異ともいえるのが国家最優秀官吏勲章である。
名称こそ官吏としての功績が認められたかのような名称ではあるが、官吏としての受勲基準を作ると、それぞれの官庁が自分の部署から出そうと躍起になってしまうため、しがらみが発生する。
故に、官吏としての職務範囲外での顕著な功績が基準とし、更に最終決裁者は王という位置づけにしてしがらみを排除、そして勲章の立ち位置そのものを変えることにした。
つまり国家最優秀官吏勲章は国が「与える」のではなく「贈る」という立ち位置にした、だから受勲者を呼ぶのではなく、贈るためにお邪魔するというものだ。
だから式といっても、有力者を招いて盛大にという形ではなく、仲間内での祝うといった形になる。
その受勲式は、なんとルルト教の教会。
ウィズ王国国王が異教徒の教会に赴くこと自体が異例であるが、それは元々お互い神が友好関係を締結していることもあり、今回の受勲式は、そういった意味でも改めてその締結を確認するという意味で衝撃が走ったのだ。
とはいえ王も多忙であり急遽の受勲となった経緯もあり、滞在期間は1日だけ。明日の朝には首都に戻ってしまうため、まず出迎えて落ち着いた後はすぐに受勲式を行い、その後に王達と連合都市の食事会で、後はそれぞれ自由にという慌ただしい段取りになってしまった。
参加者は、連合都市側は、ウルティミスからは、セルカ、ヤド、キマナの3名。マルスからは、メディ、アキスの2名。そしてルルト、ウィズ、ユニアの駐在官。招待者としてクォナ達とカイゼル中将とミローユ先輩。アイカとタキザ大尉は、今回の警護を担当しているから、それを兼務する形で出席。
そして王国側からは4人。
まず御馴染みフォスイット王子とパグアクス息。
シレーゼ・ディオユシル家当主ラエル伯爵。
そしてウィズ王国国王クインド王。
「貴方の功績は我が国にとっていくつもの奇蹟をもたらしました。今後は貴方の功績はウィズ王国を良き方向に導くでしょう、私は偉大なる初代国王から続く系譜を担う1人として、王国への尽力、感謝いたします」
とガッチガチに緊張した俺に微笑むクインド王。
そして王みずから新しい勲章と階級章をつけてもらい、俺は本日付で文官大尉へと昇任した。
そんな感じで割とあっさりと、受勲式は終わったのであった。
――男の浪漫団詰所
「今頃、受勲式も終わって会食も終わっているころかなぁ」
とリーケが寝転がりながら呟く。
「団長も、これで正式に認められたわけかー、最初はなんのホームレスかと思ったけど」
デアンも頷く。
「まあでもさ、よくよく考えれば、それだけの功績をあげているんだよなぁ」
「うん、これで勲章って6個目だろ? なんで辺境都市で駐在官なんてやってんだろ」
「それはさあ、ほら、なんかさ、案外見るとはちゃんと見てんのかって思う」
「というと?」
「団長が、例えば王国府に異動とかなって、エリートとしての道を歩んでる姿を想像してみ?」
「…………」
――「俺の祖国ではブラック企業が社会問題となっていてな、俺はそんなことは絶対にしない、ホワイトな職場を目指すんだよ」←ボードゲームの駒を持ちながら
――「どうしよう、制服が虫に食われた、これって怒られるんだよなぁ、管理がなってないとかで、んー、まいっか! 気にするのも面倒くさいや!」
――「よし! 今度の出張は会議を名目にして首都の食べ歩きツアーにしよう!」
「……………………」
「な?」
「ああ、いや、何度も言うけど、俺団長好きだぜ、やるときはやるし、結果も出すし」
「ああ、俺も好きだぜ、あれで頼れるんだよなぁ」
とここで、ずっと黙っていた人物に視線を向ける。
そこには、自分の腕を見て力を籠める人物がいた。
セク・オードビア。
今年、文官課程第204期として修道院入学を果たした、連合都市始まって以来の修道院生、明日入学のため、首都に立つ、今日はウルティミスにいる最後の夜だ。
「なんか、気合入ってるじゃん」
「ああ、俺はさ、まだ受勲式にも参加できない立場だってことが分かったからさ」
「? ああ、まあそれはしょうがないんじゃないか、俺達はただの辺境都市の自警団だからな」
「ああ、そうだよ、俺はただの辺境都市の自警団員なんだ」
「セク?」
「懇談会、覚えているだろ?」
「あ、ああ、あの時も凄かったよな、噂には聞いていたけど、街長、本当に王子の側近にまでなっていたなんてさ」
「その時に、話したんだよ」
「話したって」
「そう、フォスイット王子、ウィズ王国の次期国王」
――懇談会
懇談会。
入学予定者たちの顔見せと、人間関係構築のための一番最初の舞台。
当然、中心となるのは貴族枠の入学生徒だ。
一番最初の舞台であるはずなのに、既に人間関係が出来上がっており、中心人物の1人の周りには既に有力者の子息と思われる取り巻きがいる。
その中心人物の1人、男爵家直系の人物が取り巻き達に話しかける。
「そういえば知っているか? フォスイット王子がこの頃動きを活発化させていることを」
「はい、ここ半年足らずで急に自分の「取り巻き」を作っていると聞きました、理由は存じませんが」
「ふん、自分の力の弱さをようやく自覚した上での動きだ、流石愚鈍の王子だな」
直系の言葉にニヤニヤと周りの取り巻きが同調する。
「まあそんな取り巻きを作ったところで、何処まで出来るのかは疑問だがな、功を焦らなければいいが」
ここで周りの貴族枠以外や取り巻き以外の修道院生も同調する。
「そうなんですか、次期国王の噂は聞いていますが」
ここから始まる直系の評価、優しいと言えば聞こえがいいが、気が弱く、頭も良くなく、幼いころから問題行動も多かったという。
そんな中、まるで焦ったかのように、自分の側近を集め始めたが。
「黒い噂のある連合都市の街長や暴力憲兵、ロートルの将官といった者たちばかりでな、自分より下の者たちを集めたのはいいが、それでどうするつもりなんだかな、その極めつけが神楽坂イザナミだ」
さっと空気が変わる。
「これも、噂は本当なんですか?」
「ああ、順位は最下位であるが、何よりもモスト息の不興を買い、当時の院長も無能と断じ、辺境都市へ飛ばされた人物だ」
「モスト息、原初の貴族、サノラ・ケハト家次期当主との不仲、本当だったんですね」
「しかも本人は今回首席監督生に選ばれたことを知らず、先ほどユサ主任教官に怒鳴られていたそうだ」
「そ、そんなことがあるんですか? か、監督生は大変名誉なことの筈では」
「ああ、私も信じられないがな、まさに無能との評判通りの男だよ、神の傀儡と聞いたが、その裏付けが取れたな」
「なんと、203期生の方々が可哀想ですね」
「いや、心配には及ばんさ、同じ監督生にモスト息がいらっしゃるからな」
「モスト息! 貴族枠で首席卒業という偉業を成し遂げたという!」
「あの方なら監督生と修道院生をまとめられるだろう。現に去年の首席監督生も王国府を逃げ出したような人物らしくてな、その人物と、その人物についた神楽坂を締め出し、修道院生という身分でありながら、監督生達相手に統率したそうだ」
「流石原初の貴族の次期当主ですね!」
「おっと、言っておくが神楽坂と実際に会ったならちゃんと敬意を払い、敬語を使え、呼び捨ても駄目だ。何故なら一応我々修道院生の先輩であり階級も上であり今回の首席監督生なのだからな」
その言葉にクスクス笑う、周りの取り巻き達。
「そうだ、思い出した、その神楽坂はその王子と仲が良く、一緒に遊んでいて、そう」
ここで言葉を切り、自分の方を向く。
「確か、ウルティミス・マルス駐在官で、君の出身だったか?」
「……そうです」
「そうか、辺境都市も色々大変だろうが、頑張りたまえよ、君の頑張り次第で、君の人生は大きく変わる、修道院というのはそういう場所だ。その頑張りを怠った人物がどうなるかは、君の場合は言わなくても理解しているだろう?」
「…………」
「君も王子の庇護を受けているかもしれないが、ここは修道院だ、そもそも庇護を受ける相手を誰にするのかということをちゃんと考えたまえ」
「……はい」
なるほど、要はそれを言いたかっただけか。
(しかし団長も、こんな奴を相手を無視して空気を読まずに遊んでたのか、何気に精神力と度胸が凄いよな)
「分かっているな、そもそもあの愚鈍な王子は」
とまだ続けるつもりかと思った時だった。
周りの空気が変わる。
「? 何だ……」
とここで、その動きをいち早く察知したのは貴族枠の生徒達と、セク本人だった。
その姿、懇談会に入ってきた集団。
その集団が誰であるかを察知した瞬間に、飛び跳ねるようにして人は道を譲る。
セクは自分で自分が不思議でならなかった。
集団の中に、セクが思い焦がれてきたレティシアがいたのに、何故か彼女の姿は全く目に入らず中央にいる人物に目を奪われたのだから。
そしてその人物が誰であるか、そんなのは語るまでもない。
(そうなんだ、あの方が……)
ふと、視線を移すと、先ほどまで王子の陰口を叩き、豪語していた男爵家の直系は。
真っ青になりガタガタと震えていた。
王子は、その直系に向けて歩を進めて、正対したところで歩を止める。
さっと、男爵家直系は、王子に対して膝まづく。
「ご機嫌麗しゅうございます! フォスイット王子!」
やたら響くその直系の声、ここでやっとシンと静まりかえっていることを理解したセク。
そんな頭を垂れている、直系に対して王子は首をかしげる。
「お前は、何処の田舎者だ?」
「ひっ! お、おうじ!!」
王子の言葉を受けて、さっと他の貴族枠の生徒たちが取り巻き達に耳打ちをして、それはすぐに広がる。
王子はすっと、その直系の肩に手を置くと耳元で囁いた。
「……冗談だよ、修道院生として、頑張んな」
その言葉は、救いの言葉、心の底から胸をなでおろす直系。
後は、フォスイット王子の今の言葉がちゃんと広まればと、周りを見るが。
自分の周りにいた取り巻き達全員は既に別の貴族枠の取り巻きとなっており、周りには誰もいなかった。
呆然とした直系は、懇願するような視線を送るが、王子はそれを無視する形でセクに向き直った。
「お前がセク・オードビアだな」
「は、はい! フォスイット・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルア王子!」
「はは、フォスイットで構わないよ、セルカから聞いている、頭脳はもちろん集中力がずば抜けている逸材だとな」
「い、いえ! 自分はまだまだです!」
「頑張れよ、何かあれば俺を頼れ「今のように万難は排して」やるよ」
「…………」
そうだ、そうだよ、世界に名を馳せる修道院の、間違いなく中心となる人物は、今、地べたに額をこすりつけて許しを得る為に懇願しているではないか。
色々と修道院の噂を聞いていたから俺も惑わされていたんだ。
俺の仕えるべき人は、こいつじゃない。
(この方だ! 偉大の血と誇りを受け継ぐ、この方に仕えるんだ!)
――
「ということがあったんだよ」
「かっけーな!! 胸がスッとする話だぜ!! 辺境都市だからって見下しやがって!! ざまあみろってな!!」
「団長と仲がいいって聞いたけど、成程、人柄も知れるってことだよな、あーウルティミスに来るから間近で見れるかなぁって思ったけど、憲兵に囲まれて歩いていたから、チラッとしか見えなかったなぁ」
「しかしセクも、凄いな、次期国王陛下と話すなんてな」
「いや、俺が凄いんじゃないってことが分かったのさ、だけどこれから凄くなる、なって見せるさ!」
「応援してるぜ、でもさ、セク」
「え?」
「辛くなったらいつでも戻って来いよ、ティラーさんも色々あったみたいだし、俺達も修道院の休みに合わせて首都に行くぜ!」
そんな熱い友情の言葉にセクは嬉しくなる。
「ああ! ありがとな!」
「しかしセクがそこまで言うなんてな、カリスマって本当にあるんだな、未だにウルティミスにいるってのがまず信じられないけど、今頃何してんだろ」
「多分もう休んでいるんじゃないか、明日には首都に戻るって話だし、って」
デアンはきょろきょろと辺りを見渡す。
「って、そういえば団長はどうしてんだろ」
「なんか、食事会が終わったらくるとか言ってたよ」
「となると、そろそろか」
と噂をすればなんとやら、詰所のガチャリと開けて神楽坂が入ってきた。
「いやぁ~、受勲式は緊張したけど、それまでユニアがいないから、思う存分羽を伸ばしたぜ~、好きなだけ寝れるっていいよね~」
「……団長、ユニアさんって後輩で部下じゃ」
「うるさいな! もうわかんだろ! ってなわけで~」
と神楽坂はパンパンと手を叩き、自警団員が全員が注目する。
「いきなりだけど、紹介したい人がいるんだ!」
「紹介したい人?」
「ほら、俺今回首席監督生でずっと首都に詰めていただろ? そこでな、仲良くなった人がいるんだ! この人は凄いぞ! 男の浪漫の体現者だからな!!」
「お~、って何の男の浪漫の体現したの?」
神楽坂はニヤリと笑うと告げる。
「風呂覗き!!」
「「「「まじか!?」」」」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 風呂覗きって実際は無理だろう? 覗ける仕組みにはなっていないのが現実な筈だ!」
「その人は、先日ついに500人斬りを達成したそうです」
「「「「すげーー!!」」」」
「お、おれ、かーちゃんのおっぱいしかみたことないよう!」
「泣くな! 俺もだ!」
「はは、かーちゃん以外だと、エロ本ぐらいしか、ぐすっ!」
「俺もだよ!」
「ってお前妹居るだろ!」
「だから辞めて!! ぐああ!! 想像した!!」
「マジか!? なあピンクなの!? ねえピンクなの!? 教えろよ!!」
「ぎゃああ! だからやめろってばよ!!」
「だだだだんちょう! やっぱりおっぱいはいっぱいだったのかな!?」
全員がわいわい騒ぐのを見て、嬉しく思うのと同時に、今日を最後にしばらくは騒げなくなると思うと、寂しくなるセク。
でも、セクには目標が出来た。
(王子にもう一度会う!)
おそらくそれは年単位、いや、10年以上は後の話になるだろうし、本当に会えるかどうかも分からない。
でも、明日首都に立ち修道院に入学することは間違いなくそのための一歩だ、だから今日は目一杯楽しむぞと、神楽坂を見る。
騒ぐ男の浪漫団を手で制する神楽坂。
「焦るな同志諸君、そこから先は先輩に譲る、先輩! せんぱーい! お願いします!」
と神楽坂の呼びかけに応じて詰所の扉が開くと、ツカツカと歩いてきた1人の男が壇上に立ち、それを見届けた神楽坂が紹介する。
「さて我が同志諸君よ、この人が、俺が首都で仲良くなった王国府に勤めている」
「フォス先輩だ」
「フォスです、よろしく」
いえーい、とピースをする。
(あれ王子じゃね?) ←セク
●
「諸君、私は、おっぱいが好きだ、諸君、私はおっぱいが好きだ、諸君! 私はおっぱいが大好きだ!」
「魔乳が好きだ、巨乳が好きだ、貧乳が好きだ、爆乳が好きだ、美乳が好きだ! 淫靡で奔放で浪漫で、この地上でありとあらゆるおっぱいが大好きだ」
(なんだろう、後ろに白いコートを着た小太りの男が見える)
ごしごしと目をこすっていると思うと、隣の2人も同じようにこすっていた。
(なあ、何故かフォス先輩の後ろに白いコートを着た小太りの男が見えるだけど、誰あれ?)
(お前もかいって)
なんだろう、なんだこの感じ。
「おっぱいを並べた女の体を洗う姿が好きだ! 空中高く放り上げられたおっぱいが並んで歩いているのは心が躍る!」
(やばい、なにこれ)
「おっぱいに撃破されるのが好きだ、悲鳴を上げて覗きから逃げる女を想像すると胸がすくような気持ちだった」
「おっぱいが敵の戦列を蹂躙するのが好きだ、覗かれた女たちが私を何度も何度も罵倒する様を想像すると感動すら覚える!」
いつのまにか全員が、軍隊のように気をつけの姿勢を取り、ニヤリと笑みを崩さず王子を見る。
「夏に胸の谷間に流れる汗が様などはもうたまらない! 性格の悪い女たちが、金切り声を上げなら逃げることを想像するなど最高だ! 哀れな女たちが俺のように冴えない男に覗かれているということに絶頂すら覚える!」
そうだ、これは、そうだ。
「女に滅茶苦茶に罵られるのが好きだ、本来守る筈の女を邪な視線で見て楽しむのはとてもとても悲しいものだ」
「おっぱいの物量におしつぶされて殲滅されるのが好きだ、こそこそと自分が風呂覗きの姿を第三者目線目線から想像するのは屈辱の極みだ!」
ここで右掌を突き出す王子。
「諸君、私は戦争を、地獄のような戦争を望んでいる、諸君、私に付き従う男の浪漫団諸君、君たちは一体何を望んでいる?」
両手をあげて全体を見渡す、もう全員が王子から目が離せない。
(何かがみなぎってきているんだ!!)
「更なる戦争を望むか? 情け容赦のないクソのような戦争を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界のカラスを殺す、嵐のような闘争を望むか?」
「「「「「クリーク!! クリーク!! クリーク!! クリーク!! クリーク!! クリーク!! クリーク!! クリーーーーク!!!」」」」」←片手をあげながら
「よろしい、ならばクリーク(おっぱい)だ」
「我々は満身の力を込めて今まさに振り下ろさんとする握りこぶしだ、だが、この暗い闇の底に半世紀もの間耐え続けた我々にただのおっぱいではもはや足りない!」
「大戦争を! 一心不乱の大戦争を!!」
「我らはわずかに一個中隊、100人に満たぬ敗残兵に過ぎない、だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している、ならば我らは諸君と私で総兵力百万と一人の軍集団となる」
「我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中らを叩き起こそう、イケメンの髪の毛を掴んで引きずり出し、眼を開けさせ思い出させよう」
「連中に恐怖の味を思い出せてやる! 連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる!」
「天と地のはざまには、奴らの哲学では思いもよらないことがあることを思い出させてやる」
「「「「「ヨーロッパだ! ヨーロッパの灯だ!!」」」」」
「一千人の吸血鬼のカンプグルッテで、世界を燃やし尽くしてやる」
「そうだ、あれが待ちに望んだ女子風呂の灯だ」
「私は約束通り連れて帰ったぞ、懐かしの戦場へ、あの懐かしの戦争へ!」
「「「「「少佐殿! 少佐! 代行! 代行殿! 大隊指揮官殿!! 少佐殿! 少佐! 代行! 代行殿! 大隊指揮官殿!!」」」」」
「そしてゼーレではついに大洋を渡り、丘へと昇る」
「男の浪漫団各員に伝達、次期国王命令である」
「さあ諸君、浪漫を作るぞ」
(すげえええ!! なんて無駄なカリスマなんだああぁ!! 要するにおっぱいが好きだっているだけなのに!! 風呂覗いたとか言っているだけなのに!! さり気なくイケメンも排除しているし!! って次期国王命令とか言っているし!! なにしてんの!!??)
「やばい! なにこれ!」
「凄い高揚感が! このみなぎってくる力は何なんだ!」
「クリークって何!? ヨーロッパって何処だよ!?」
「誰なんだろう、後ろに見えた白いコートの小太りの男って」
「す、すごい一体感、何者なのフォス先輩!」
「な、なんなのって、おおお、王子だよ!!」
とぐいぐいとデアンの服を引っ張るセク。
「へ?」
「だから! フォスイット王子!」
「はい? 次期国王が、こんなところでおっぱいが好きとか熱弁するわけないじゃん」
「いやいや! って、団長、団長!」
「いやぁ、先輩、少佐もびっくりの演説でした、ってどうしたセク?」
「団長さ! フォス先輩ってフォスイット王子だよね!!」
「…………何言ってんだよ、次期国王がこんなところでおっぱい好きとか言う訳じゃなん」
「ええー!!」
「なんだ疑っているのか、あ、先輩、聞いてくださいよ、ウチの後輩が、なんか先輩のことをフォスイット王子とか言っているんですけど」
「はは、ここでも言われるのか、よく言われるんだよ、似てるって、まあ王子の顔を間近で見るなんて、貴族とか側近ぐらいだからな、間違うのも無理はない」
「ええーー!!」
「ええーって、セク、お前だって王子の顔は間近で一回だけだろ?」
「そ、そりゃ、そうなんだけど、さっき次期国王命令って言ってたじゃん!」
「ですって、先輩」
「ああごめん、ちょっと普段から似ているとか言われたから盛り上がっちゃって、つい」
「ええーー!!」
「まあ細かいことは気にするな! 先輩は明日には帰ってしまうからな! 今日はボードゲームをして徹夜で遊ぶと約束したんだよ!」
と、ウキウキ気分でボードを広げて、王子含めた全員が遊びつくし、浪漫を語りつくして意気投合、そのまま雑魚寝をして、一晩を明かしたのだった。
●
そして朝、浪漫団全員が寝ている時、王子と神楽坂はこっそりと起きる。
「楽しかった、ありがとう、また遊ぼうと伝えてくれ」
楽しかった本当にそう思っているのだろう、神楽坂は笑みで答える。
そのまま静かに詰所を後にして、廊下を歩いている時だった。
「フォスイット王子!」
セクの響き渡る声に、王子は神楽坂と共に振り返る。
「ああどうしげふんごふん!」
「…………」
「…………」
(ええぇぇーー!! 誤魔化すの下手糞すぎだろ!!)
「あ、あの王子」
「…………」
「……フォス先輩」
「なんだ?」
「あ、あの、俺、将来王国秘書室を目指して頑張ります!!」
「え?」
「今度はちゃんと、自分が認められて! 貴方の前に立ちます! その時まで! 待っていてください!」
精いっぱいのセクの言葉、王子はそれを表情を変えずに聞いている。
「それをなんで俺の言うのかは分からないが、まあ、王国府だと時々王子とすれ違う時があるし、もしそれで話すことがあったら、伝えておこう」
「はい!! よろしくお願いします!!」
と踵を返し神楽坂と並んで歩きだした。
(次こそは、絶対に……)
固く決意するセク。
と、結局修道院の休日では首都で変装した王子と神楽坂と割と遊ぶことになり、王子も結局設定が面倒くさくなったのかあっさりと身分を明かすことになり、更に連合都市に用事がある時はついでで自警団員達と遊ぶことになったのは別の話。
結果、もちろん本人の努力もあるが「王子に近しい人物」ということでセクの修道院での立場を高めていくのであった。
:おしまい:
ちなみに王子の演説の元ネタは有名なのでご存知の方も多いと思います。
実験的に元ネタの動画のアドレスを張っておきます。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm4652913