おまけ:短編集:色々なことをしたりしなかったり ~中篇~
第3話:ユニアと男の浪漫団!!
ユニア、連合都市の駐在官として赴任。
連合都市の中の主体業務は都市運営、その中でユニアは、セルカがカバーできない現場での視察を兼ねた業務を積極的に関わる。
辺境都市の自警団は、憲兵へのパイプは持っているものの、都市内のことは自分達で解決することが原則となっているため、活動は都市ごとに違い、例えばピガン都市の自警団は、狩りの部隊を指す。
そんなユニア赴任し、2週間ぐらい経った日、男の浪漫団詰所の外でのこと。
デアンはユニアに怒られていた。
「デアン、何回同じことを言えばわかるの?」
「すみません」
「貴方は自警団員の中では年は上の方、しっかりしなさい、分かったね?」
「はい」
「まったくもう、次はちゃんとしなさい」
「はい……」
とデアンはすごすごと詰所に戻る。
「デアン……」
と出迎える他の浪漫団に対してデアンは……。
「えへへぇ~、おこられちゃったぁ~♪」
と鼻の下を伸ばしながら頭を掻くデアン。
そんな彼に他の浪漫団が一斉に群がる。
「つーかお前ばっかりずるいぞデアン!」
「俺だって怒られたいのに!」
「言っておくが! 今度は俺だからな!」
「くそう! なかなか上手くいかないんだよな!」
「ふふん、ユニアさんに上手に見つかる感じでミスするのがコツさ」
とキャッキャウフフと騒ぐ浪漫団たち。
そう、現在ユニア赴任に伴い男の浪漫団内部で「ユニアに怒られ隊」が結成されたのである!
デアンを怒った後、浪漫団の詰所に入ってきたユニアはキャッキャと騒いでいる浪漫団たちをみて腰を手に当てて一喝する。
「貴方達何をヘラヘラとしているの! 掃除は終わったの!?」
「そ、それは、その」
「終わった、かなぁ?」
「まだいくつか残っているような」
「えーっと、何処が終わってなかったっけ?」
「だったら口より先に手を動かす! 分かった!?」
「「「はぁ~い♪」」」
「気の抜けた返事をしない! 後でちゃんとできたかチェックしに来るからね! リーケ!」
「は、はい♪」
「本が雑に収納されていた、本は生き物、言ったよね?」
「す、すみません♪」
と今度は本を雑に収納したとかで怒っている。
「いやぁ何だろう、あの怒られたくなる雰囲気!」
「たまんないよなぁ!」
「よ、よし、今度はどんなミスをしようかな!」
「本気でやらかすんじゃなくて、適度な感じが難しいがやりがいがあるぜ!」
「…………」←それを見ている神楽坂
うん、わかりますよ、可愛くて気が強い女の子に怒られる、男の浪漫よね。
なんだけど。
「……先輩」←低くて冷たい口調
「……な、なに?」
「この書類、見直しました?」
「み、見直したよ」
「何回ですか?」
「に、2回?」
「そうですか、2回もですか、誤字脱字が何か所もあるんですが」
「へ、へー、ご、ごめんね、訂正して、簿冊に綴っておくから、次から気を付けるよ」
「駄目です、直してちゃんと私に見せた後、綴ってください」
「で、でもこれ、日誌だからさ、別に誤字脱字があったって内容が分かれば」
「ギロッ!」
「ですよね! 仕事は真面目に確実に! ですもんね!」
「分かればいいんです、じゃ、私は姉さまの仕事があるので、今日の夜にチェックしますからね」
と言い残して詰所を後にした。
「やっぱり隊長が一番だよなぁ」
「ユニアさんのツボを理解しているというか」
「いいよなぁ、あれには勝てないよなぁ」
「静かに怒られるのもいい……」
(ちげーよ! つーか! あれはツボじゃなくて地雷っつーんだよ! これでも全力で避けてんだよ! だけど何でか踏み抜くんだよ! ってなんだよ隊長って! 何で怒られ隊の隊長になってんだよ!)
と声にならない絶叫をしたのであった。
:おしまい:
第4話:営業努力
貴賓室。
原初の貴族の直系クォナをウルティミス学院顧問に迎えるにあたり、今後の社会的地位が高い人物を迎えることを見据えての宿泊施設。
現在は主にクォナがウルティミスに滞在する時に使用している。
今回の滞在目的は、国家最優秀官吏勲章受勲式出席の為。
その夜、クォナはセレナを脇に控えさせた状態で、鏡の前で自分の姿を見ていた。
真剣に自分の姿を見るクォナは、おもむろに片手を上げると……。
「もぉ~、ぷん♪ ぷん♪」←某芸能人のアレ
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、こういうのって殿方の受けはいいじゃない?」
「うーーん、中尉って中途半端に女に夢見ているから逆効果じゃないの?」
「ふむ、そうね、となると」
すっと鏡に向き直る。
「マンモスうれぴー♪」
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、ご主人様の元いた世界では人気のある女性の定番文句だったそうよ」
「うーーん、そもそもマンモスの意味がよく分からない」
「ふむ、そうね、となると」
すっと鏡に向き直る。
「クォナはぁ~、怒っちゃうですぅ~」←体をクネクネさせながら
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、こういうのって殿方の受けはいいじゃない?」
「うーーん、中尉ってその手の動きには可愛いよりも恐怖を感じると思うんだけど」
「ふむ、そうね、そうなると」
すっと鏡に向き直る。
「きゃあぁ~」←わざとコケる
「もう、コケちゃった、テヘッ♪」←手をおでこにコツン
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、こうやって父性本能に訴えるのって殿方の受けがいいじゃない?」
「うーーん、中尉ってベタベタな演技系って乗ってくれるタイプじゃないと思うけど」
「ふむ、そうね、となると」
すっと鏡に向き直る。
「もう、エッチ! 知らないっ!」←頬を膨らませてからのアヒル口のコンボ
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、これってストレート系だから殿方の受けはいいじゃない?」
「ああー、これは比較的あるのかなぁ、でも多分困惑すると思うけど」
「ふむ、そうね、となると」
すっと鏡に向き直る。
「クォナリン星から来たクォナリン星人です♪」
「…………」
「…………」
「どう?」
「いや、どうって、狂っているとしか」
「でも、こういう路線もありだと聞いたことがあるの」
「うーーん、その路線はかなり人を選ぶというかさ、つーかさ」
「アンタの本性は中尉にバレているんだから、普段のままが一番好きなんだと思うよ。中尉がアンタを仲間にしたのは、深窓の令嬢、上流の至宝が理由じゃないんだから」
というセレナの言葉に、
「そうよね! 普段の私のままが一番よね! ご主人様は私の素が好きだものね!」
と上機嫌になるクォナ。
(やれやれ)
と結局それが確認したかったのだと、面倒くさい親友に内心ため息をつくセレナであった。
:おしまい:
第5話:仲直りの儀式
クォナ達がウルティミスに来訪している最中のこと、俺は貴賓室に来ていた。
ちなみに俺は表面上はクォナの友人であり騎士団ではないから公式には会えない、だから身内であってもこういう時はルルトの力を借りて認識疎外の加護を使って会っている。
まあこういうと重たく聞こえるが、情報交換だったり雑談だったり、要は遊びに来ているだけだなのだ。
そんなある日の事だった。
「「キャッキャ、ウフフ♪」」←クォナとセレナ、神楽坂にはこう見える
それにしてもあの2人って本当に仲がいいよなぁ、もちろん侍女達全員が仲いいけど、やっぱりセレナが一番に見える。
確か幼馴染なんだっけ、と俺は、傍にいたシベリアとリコに話しかける。
「本当に仲がいいよな、あの2人」
という俺の言葉にシベリアとリコが「そうだよ~」とか「あの2人はね~」という会話が始まるかと思ったけど。
2人はびっくりしたようで目を見開いていた。
「? どうしたの?」
「へぇ、本当に男の人って分かんないんだね」
とはシベリア。
「?? 何の話??」
そんな俺に今度はリコがあっさりと答える。
「あの2人、絶賛喧嘩中」
「…………へ?」
チラッ。
「「キャッキャ、ウフフ♪」」 ←やっぱり仲良さげに話しているように見える
「?? ごめん、よく聞こえなかった、えっと、今喧嘩してるって言った? クォナとセレナが?」
コクリと頷く2人。
チラッ。
「「キャッキャ、ウフフ♪」」 ←以下同文
「…………」
「…………」
「はっはっは、もー、冗談ばっかり~」
「…………」
「…………」
「え? え? ま、まじ?」
再びコクリと頷く2人。
「い、いや、いやいやいや、全然そんな風に見えないじゃん、け、喧嘩って」
「信じられないんだったら、ほら、会話が終わったみたいだからセレナに聞いてみなよ」
「????」
喧嘩、喧嘩? 全く信じられないが、近くに来たセレナに聞いてみたら……。
「な、なあ、セレナ」
「あら、来てたのね、いらっしゃい、どうしたの?」
「えっと、その、ひょっとして、間違ってたらごめんなんだけど、クォナと喧嘩、してたとか、なーんて」
「へえ、よくわかったね、うん、喧嘩中だよ」
「えーー、あっさりー、けんかのりゆうは?」
「理由っていうか、なんか嫌になったの、理由なんてそれだけだよ」
「ええーー!!」
「ってわけで、ちょっとクォナと出かけてくるから、シベリアとリコは留守をお願いね」
「へ!? 今から2人で出かけてくるの!?」
「うん、遊廓で供される食事なんだけどね、ルール宿屋のメトアンさんの指導のおかげで、どんどん美味しくなってるの知らない? 試食会に呼ばれていて、2人で食べに行く約束をしてたの、すっごい楽しみ♪」
「へ、へぇ~?」
と、再びセレナとクォナは「キャッキャ、ウフフ♪」と仲良さげに貴賓室を後にした。
「…………」
「…………」
「ハッ!」
我に返るとシベリアとリコに詰め寄る。
「たた大変じゃないか! って大変なのか!? けけ、喧嘩しているのなら止めないと! 理由も嫌になったとか結構深刻な感じだし! 早く仲直りさせないと!」
「大丈夫だよ」
「大丈夫なの!? なんで!?」
「あの2人の喧嘩なんてしょっちゅうだし、それどころか絶交も一時期してたよ」
「ぜ、絶交って! 一時期ってどれぐらい!?」
「一年半ぐらいだっけ」
「ながーー!! あの2人って仲いいんじゃないの!?」
「仲いいよ、お互いに一生の付き合いができる親友だと言っているもの」
「そ、そうなんだ、それは良かった……よかったの!? って、1年半って! その間はどうしてたの!?」
「あー、あの時は、大変だったよね、リコ」
シベリアの問いかけにリコは顔を当時を思い出したのか、憮然とした表情をして俺に告げる。
「あの時のクォナはね、上流の至宝としての存在に苦しんでいたの」
「…………」
さっと空気が変わる。
余り思い出したくないかもしれないが、それでもリコは思い出を話してくれた。
上流の至宝というあだ名は本人にとって周りかが勝手につけたものであり、忌々しいと思うものであった。
年を重ねれば重ねる程、男からの黒い感情に晒され、女からの嫉妬を受け、身に危険が及び活動ができない状態だったらしい。しかも状況が余りに特殊過ぎて、対策が中々思い浮かばなくて悩んでいた時期だったそうだ。
その時に立ち上がったのがセレナだった。
セレナは、この事態を逆に利用することを思い付き、クォナに忠誠を誓う男達を集めて騎士団を結成、クォナを神格化することにより、騎士団達に黒い感情を受け止めさせ、それをもって「女を守る」という大義を与えたのだ。
この騎士団結成は予想以上に功を奏し、クォナの身の回りも安定したのだ。
そのおかげで前々から興味を示していた孤児院運営に乗り出し、現在では俺も知ってのとおり、自国だけではなく他国でもその活動の範囲を広げることになったのだ。
その代わり、騎士団結成のための音頭を取ったセレナは矢面に立たされて誹謗中傷を受けた、男からも女からもひどい言葉も投げかけられ、それでも親友の為頑張ったのだ。
「それが今の礎となった。クォナも「セレナがいなければ、私は本当にどうなっていた分からない」と今でも感謝をしている」
「そうか、そんな過去が……」
そういえば、以前にセレナは言っていた「男がクォナに押し付ける感情は本当に身勝手で、クォナが汚いことをしないと本気で思っている」と。
「それに、クォナだけじゃない、私たちもセレナに助けてもらったの」
「え?」
リコの言葉にシベリアが頷く。
「知ってのとおり、私はハーフだからね」
「あ……」
そっか、そうだった、爆発的な魔力を得る代わりに、それを制御できる魔法術式が無い状態で生まれてくるため、放っておくと衰弱死してしまうのが亜人種とのハーフだ。
そのために施した魔法術式である入れ墨はアーキコバ・イシアルが亜人種への「人体実験」として生み出されたと差別の対象になっていたが、真実が明るみになり一石を投じることになったそうだ。
「シベリアだけではなく、私もそう、色々あった」
そういえば、リコは年は下だけど修道院の入学規定での最年少で武官課程を合格し卒業したから実は先輩にあたる。確かにリコの言ったとおり辞める時に色々あったと聞いたが、余り話したがらないから俺も聞けないけど。
「セレナは私たちを助ける為にクォナに進言して「後ろ盾」になってくれた、中尉なら後ろ盾がどれだけ大きな意味を持つのか分かるでしょう?」
「ああ、十分すぎる程にな、それ程までにクォナはセレナを信頼も信用もしている、ってことだろ」
「そう、だからセレナは私達4人の中でも精神的支柱なの」
ここでリコは言葉を切り、シベリアが続く。
「だから私たちはセレナを傷つける奴は許さない、分かる、中尉?」
にっこりと笑う2人に俺も笑みがこぼれてしまう。
そうだよな、思えば初対面の時から、強い仲間意識があったのだ。上流の至宝を支える為に、4人が1つとなって動く。
「人に歴史ありか、義に厚く確かな絆、セレナを、いやセレナ達を見直したよ、俺の目は間違っていなかったんだな」
俺の言葉に誇らしげに頷く2人、そんな穏やかな雰囲気。
「あのさ、ごめんね、話の腰を折って悪いんだけど、この会話のスタートって確か2人が大喧嘩して一年半も絶交したとかじゃなかったっけ?(泣)」
「うん、理由は「相手の全てが嫌を通り越して忌々しい」って」
「ははは、本当は2人ともさ、俺のことからかってんでしょ? 本当は2人して俺のこんな反応見て楽しんでるんでしょ?」
「だから絶交してたって何度も言ってんじゃん、わかんないかなぁ?」
「わかんないなぁ! 全然わからないなぁ!」
「まあでも心配することないよ、仲直りはちゃんとするから」
「ホントかよ……」
――1週間後・今度はエナロア都市
「「キャッキャ、ウフフ♪」」 ←相変わらず神楽坂にはこう見える
スススッ ←2人に近づく
「な、なあ、2人とも、クォナとセレナって、まだ喧嘩中?」
俺の問いかけに前と同じように驚いて俺を見る。
「やっぱり分からないんだ、どう見ても仲直りしてるじゃん」
「どう見ても!? どう見てもなの!? 俺の目は節穴なの!?」
「信じられないんだったら、ほら、会話が終わったみたいだからセレナに聞いてみなよ」
「…………」
なんかちょっと前にやったやり取りだよな、と思いながらセレナに話しかける。
「あ、あのセレナ」
「ああ、来てたのね、いらっしゃい、どうしたの?」
「喧嘩の件なんだけど、ク、クォナと仲直りした、の、かなぁ?」
「うんしたよ、というか見てわかるでしょ」
「い、いやぁ、俺はちょっと変わらない様に見えたからさ」
「あー、男の人は分かんないか、仲直りの儀式が終わったからね、だから元通りよ」
「……なにその仲直りの儀式って?」
「うーーん、口じゃ説明しづらいんだよね、まあそういうのがあんの、分かりなさい」
「わかんねーよ、何だよ仲直りの儀式って!(泣)」
と俺の絶叫が木霊するのであった。
:おしまい:
第6話:男の戦い
彼はウィズ王国ではエリートの王道を進んだ人物であった。
裕福な家庭に生まれて頭脳に恵まれた彼は、当然のように学術都市シェヌスにある王国最高峰の進学校、トゥゼアナ学院を卒業し修道院の文官課程に合格。
修道院を9位で卒業し、恩賜勲章を受勲、貴族枠の生徒にも認められ、第一希望であり人気官庁の一つ、外交府の官吏として道を歩み始める。
そこでも優秀有能と称される能力を存分に発揮し、外交府では出世部署の一つである、ラメタリア王国担当部署に配属となった。
ラメタリア王国はウィズ王国にとって最重要外交対象国家の一つ、彼は当時最年少で、当時の重要外交施策の一つを仕切るための班長として、部下を引き連れラメタリア王国へ出発する。
誰もが出色の官吏と評価する彼の華麗なキャリアとなる、その成果を期待されていた。
そして帰国後、ラメタリア王国側の一方的な提案を飲まされ、それを自分の手柄として話す彼の姿。
これがラメタリア王国、ワドーマー・ヨークィス宰相の外交デビュー戦だった。
――現在
「…………」
ワドーマーは自分の前に座って話すウィズ王国王国府外務官吏達を眺めていた。
例のデビュー戦の後ウィズ王国が自分の対策はシンプル、それは数で攻めることだった。
だが、そこはもちろん単純に数で攻めてくるという訳ではない、ウィズ王国は奇策を打って出た。
それは自分に直接対応する外交官たちは「同列の人物を3人で寄越し外交を行う」といったもの。
同列の人物を用意するのも、序列をつけると、決断決定にどうしても自己保身が絡んでくるから。
更にこちらの提案は全て即答することなく、持ち帰って回答するといったスタンスを徹底させている。
個を信用はもちろん信頼すらしない理想的な組織運営だと思う。
何故なら個を信頼すらしないというのは反発を招くからだ、現に我がラメタリア王国ではその制度を採用できない、個を尊重するというお題目がどうしても通ってしまうからだ。
だからこの対応は、一国の宰相としては羨ましくもあるが……。
(つまらんな)
と思ってしまう自分に驚いた。
そして何に対してつまらないと思ったのかを理解した時にさらに驚いた。
そう、それは神楽坂との戦いだった。
自分は自身の力と宰相としての権力と、神楽坂は自身の力と神の力を、お互いにぶつけ合う「タイマン」だった。
掛け値なしに正々堂々と戦う、策を弄し勝ち続けた男でも、その気持ちよさ、高揚感はあの戦いの中で確かにあったのだ。
だが、この3人を相手にしてもその高揚感はない。
まず誤解の無いように言っておくが目の前の3人は間違いなく神楽坂よりも優秀で有能で、我が国でも通用するレベルの一流の官吏だ。
我が国とて、神楽坂と目の前3人のうちの1人、どちらが欲しいかと聞かれれば、間違いなく後者であると思うし、自分だってそうする。
何故なら自分に従順で使いやすく手元に置きたいからだ、そんな風に思わせる彼らは素晴らしい人材である、何故なら組織は人が構成するものであるのだから。
一方で神楽坂は、露骨に態度に出す、それこそ幼稚と言っていいほど。相手に対して立場で従っているのか、自分そのものに従っているのかの線引きがあからさま過ぎて、言葉にも出すから相当に不快感を与える、しかも本人はそれに無自覚ときた、これがモストの逆鱗に触れたのだろう。
だから神楽坂には優秀の逆、無能の評価を得るにいたる、それが神楽坂の無能の正体だ。
(だが、奴はそれを利用して油断を引き出す、油断がどれだけ恐ろしいか知っているから、奴からすれば、無能という評価だけでその油断というアドバンテージを得られるから、むしろ願ったりと思っているのだろう)
そのとおり油断した相手程容易いものはない。
だから神楽坂に自分が敗北したことは当然に目の前の3人も知っているのだろうから、今までの緊張感が明らかに緩んでいるのが見て取れるのだ。
それはそうだ、無能で神の傀儡如きに敗北、かのワドーマー宰相は噂程ではなく、恐るに足らずと思ったのだろう。
その証拠に、今締結した外交締結は、我々に有利な条件であっさりと終わった。
しかもちゃんと吟味した上で有利な条件を飲んだのだ、今までではこんな簡単にはいかなかったのに。
つまり外交府も油断していることも分かるし、向こうからすればその対価で今のウィズ王国側が、神楽坂の事の真偽を聞きたがっていることも分かる。
なるほど、神楽坂の神の力については、フォスイット王子は詳細を伏せているのか、まあ当然か、あの国は、初代国王の偉業が凄すぎて禁忌扱いとなっているから。
しかし神楽坂の国家最優秀官吏勲章の受勲決定の流れは、明らかに王子の施策であると分かりながらも、目の前にいるその3人がその施策の真意を知らない、いやこの場合は計りかねているといったところか、だが王子には手が出せないからこちらに探りを入れるつもりなのだろう。
だからこそ迷いが出ている、油断しているから迷っていると出てしまう。そして迷いはマイナスの方向に向き、ありもしない偶像を作り出す。
国家の陰謀論なんかがその典型例だ。
まあこれで更なる油断を引き出して、向こうの情報を取るのも悪くないがと思ったが……。
ワドーマーはここで一つの「悪戯」を思い付く。
(そうだ、陰謀論ならばこれを悪戯に利用するか)
ワドーマーは外交官たち3人に切り出す。
「神楽坂イザナミ文官中尉、いえこの度、国家最優秀官吏勲章を受勲して大尉へと昇任するんでしたかな、彼は、息災ですか?」
まさか向こうから言ってくるとは思わなかったのか、3人は絶句する。
「ど、どうして、突然そんなことを?」
「なに、いよいよ彼も表舞台に立った、いや、王子が立たせたのか、と思った次第ですよ、また会って、食事でもしたいと考えていたので」
「…………」
「その表情を見るに神楽坂の現況は存じないようだ、ならばそれで構いませんよ」
と思わせぶりに言葉を切る。
自分の言葉を受けて目に見えて動揺する3人、その3人が何を考えているのか手に取るようにわかる。彼らはきっと「何か密約があったのか」とでも思っているのだろう。何よりその事実確認を取れないのが、今の言葉の肝要なところだ。
陰謀論を作戦として使うのならば、その肝は「本来存在しない陰謀を、如何に存在するように見せるか」というものだ。
官吏という職業は、それを1番に分かっている筈なのに、それでも人のマイナスの思考は勝手に偶像を作り出すのだから面白い。
結果神楽坂が自分に勝利した事実を、より劇的に本国へ伝えてくれるだろう。
(さて、これで向こうの神楽坂に対しての見方は変わる、神楽坂がこの状況の変化でどうするのか、そしてあの王子がどう表舞台に出すつもりなのか楽しみだ)
と少しだけ微笑み、それが3人にはより不気味に映るのであった。
仲直りの儀式ってなんなんでしょうね。
これは元の話があって、それを膨らませて書いていますが、女にこの話をすると「あー、はいはい、わかるわかる」というのです。
だから「どういうこと?」って聞くと「そういうのがあんだよ、察しなさい」と返されて、最後の神楽坂の絶叫に戻るという無限ループ。