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おまけ:短編集:色々なことをしたりしなかったり ~前篇~


第1話:お見舞いのあれやこれ



 首席監督生という任も無事(?)終えてウルティミスに戻ってきた。


 今は、俺の最優秀国家官吏勲章の受勲式の為の段取りのため、ユニアが中心となりウルティミスの関係者は忙しくしている中のこと。


「むむむ」


「ぬぬぬ」


 執務室で俺とルルトは向かい合って悩んでいた。


 さて、何に悩んでいるのかだが、過労で倒れてしまったセルカのお見舞いの品を何にするかについて悩んでいるのだ。


 思えば今回セルカが倒れた時、俺はもちろんルルトも流石に責任を感じたのだ。思えば色々と丸投げしているのも関わらず、セルカの疲労が限界にまで達しているのに倒れるまで気づかないのだから。


 んな訳でルルトと相談し、これからのことと普段のお礼も兼ねてプレゼントを贈ることになったのだが……。


「ルルト、お前はセルカの小さいころから見ているんだろ、好きな物とか知らないのか?」


「うーーん、小さいころからは見てはいるけど、ずっとあんな感じなんだよ、凄い甘え下手って感じで、色々なものを背負って抱え込んでいてさ」


「それだと話が終わってしまうんだが」


「じゃあ君はどうなのさ」


「うーん、俺もよくわからないな、女子会とかで楽しく遊んでいてガス抜きしているのは知っているけど……」


「それだと結局丸投げになっちゃうねぇ」


「うーん、でもセルカも女なんだから、色々と好きなものぐらいあるだろう」


「例えば?」


「例えば、その、宝石とか、お洒落な服とか……」


「あんまりピンとこないんだけど」


「うん、俺も自分も言っていてそう思う」


「…………」


「…………」


「むむむ」


「ぬぬぬ」


 と堂々巡りで、結局結論は出ずしまいなのだ。


「イザナミさ、やっぱり、人に聞くのが手っ取り早いと思うけど」


「うーん、とはいえアイカ辺りに聞いてもいいけど、こう、仲間の手を借りたくないって感じなんだよなぁ」


「だねぇ、となると聞く人は限られてくるけど」


「仕方ない、となればあの人に聞いてくるか、ルルト、ちょっと聞いてくるから、決まったら連絡するよ」


 と言い残して執務室を後にするのであった。





 俺が向かったのは、ウルティミス婦人部、ウルティミスの縁の下の力持ち的存在で「男たちが外で威張っていられるのは私たちのおかげ」というスタンスだ。


 だけどここ1年で立場も変わり、縁の下の力持ちはもちろんのことマルスの色々な面倒見も兼ねるようになり、相談役としても活躍してくれている。


 そんな婦人部をまとめるのが、ウルティミスナンバー3であるキマナ・グランベルだ。


 キマナさんはウルティミスとマルスの連絡役として活動してくれている。


「あ、キマナさん! ちょっといいですか!」


 とマルスへの直通馬車に乗ろうとしているキマナさんを呼び止める。


「おや中尉、どうしたんだい? アンタから話しかけるなんて珍しいじゃないか」


「はい、えっと、ちょっと聞きたいことがあって、その、セルカにプレゼントがしたくて、好きなものを知りたいんですけど」


 と言った時だった。


「…………」


 ともの凄く真面目な顔をして俺を見て黙っている。


「あ、あの」


「聞いているよ、30分後に教会へおいで、すぐに準備をするから」


「は、はあ、って、今からマルスに用があったのでは?」


「そんなことはどうでもいい、いいから待ってな」


 と言い残して足早に消えた。


 な、なんだろう、妙に勘違いしているような気がするが、今ここじゃダメなのかな、ひょっとして忙しい中、だったら悪いことしたかも。





 と先にルルト教会に来て待っていたのだが、30分経たないうちに、キマナ婦人部長が来て……。


「へ? ヤド商会長?」


 何故かヤド商会長もそこにいた。


 2人は、教会の席に俺と向かい合わせで座ると早速とばかりにヤド商会長が切り出す。


「まず安心してくれ、この件は俺とキマナしか知らない、人数が多いと気後れするだろうからな」


「は、はい」


「さて、まず良く決断してくれた、ありがとう」


「はい?」


「おっと、突然過ぎたか、この礼はウルティミスの幹部としてではない、セルカの死んだ父親、ルーイの親友としてだ」


 横で懐かしそうに頷くキマナ。


「私はセルカの母親のソロミアと仲良くしててね、懐かしいね、ソロミアは学院で有数の美女だったんだ。実は当時の修道院やシェヌス大学に進んだ頭も顔もいい男達に声をかけられたんだけどさ、これが驚き、ルーイみたいな不細工、ごほん! 優しい男を選んだんだよ」


「…………」


「全く何をトチ狂ったんだと説教したもんだ、ルーイは甲斐性無しだったからねぇ、いつ浮気をされて捨てられるのかと心配していたんだが、結果そんなことも無くてね。最期までウルティミスのことを考えてくれた、女の私から見ても間違いなく「いい女」だったよ」


「…………」


 この2人、もしかしなくても……。


「それにしても、セルカはルーイに似なくてよかった、母親に似て美人に育ってくれたし、能力は申し分なし。となれば相手は誰かと思ったが、まあアンタならいいよ、もうちょっとしっかりして欲しいと思うけどね」


 まくしたてるキマナにヤドもうんうんと頷く。


「俺は最初、正直不信感があった、頭でっかちの使えないエリートだってな。だが今のアンタには一目を置いている、いくらなんでも分かるぜ、連合都市の中核をアンタもまた担っているのだろう?」


 ここでキマナは力強く俺に肩に手を置く。


「さて、となれば早速アドバイスといこうか、まず中尉は女心に鈍いというかアンポンタンだから、女心を教えようか、いいかい? 複雑なことは考える必要はないんだ、女にプレゼントを贈るなら心構えは一つでいい、それはね」



「女ってのはね、100万回愛している言われるより、プレゼントを渡してたった1回の愛しているという言葉の方が安心する、そんな生き物なんだよ」



「…………」


 そうなんだ、それを俺のオカン世代の人に目を輝かせながら諭されるって、いや、別にさ、良いんだけどさ、なんだろうね。


「さてタイミングもばっちり! 弱っている時に優してくてくれる男ってのは、特別にいい男に見えるものだ、中尉でも十分に勝負になるよ!」


「あの! だろうなと思ったけども! ちょっと待ってください!!」


「「?」」


「いや、そういう意味じゃなくてですね! 普段から世話になっているから! お見舞いの品のためなんです!」


「「…………」」


 ここで何か言われるかと思いきや、2人でクルリと後ろを向くとぼそぼそと何かを話している。



「ヤド、アレは照れ隠しなのかい?」

「いや、中尉のことだから本気で言っているだろうさ」

「なんだい全く、本当にただのお見舞いの品という事かい」

「どうかな、俺はあのペースでいいと思うぞ、元より中尉は奥手だし、時間をかけての方があると思う」

「わかった、存外にライバルがいるのが心配だけど、まあいいか」



「……………………」


「分かった、勘違いして悪かったな」


「いいさ、セルカも喜ぶと思うよ、そうだね、あの子は特に趣向というものはないから、普段使うものの方が喜ぶと思うよ」


 と2人からのアドバイスの下、使っている愛用の万年筆が古くなっているということで、それをプレゼントすることになったのだった。





 教会の脇にあるセルカの自室の前に俺は1人で立っている。


 ルルトと一緒に渡しに行くと伝えたら「お前マジか?」みたいな顔をされて「1人で渡せ」という2人の無言のプレッシャーの元こうなったわけだが……。


 まあ、別にそんな意味はないし、別に仲間に会いに行くだけだからと、緊張する自分を律しながらコンコンと部屋をノックして入ると、ベッドに座りながらセルカが本を読んでいた。


「あら、イザナミさん、どうしたの?」


「お、おつかれ、えっと、お、お見舞い……」


「あら、ありがとう」


「…………」←立ち尽くしている


「?」


「あー、えっと、その、体は、大丈夫か?」


「ええ、こんなに体が軽くなったのは久しぶりよ、シベリアに感謝ね、ずっと回復魔法をかけ続けてくれたの」


「そ、そうか、うん、あれは気持ちいいよな、えっと、その、ちゃんと休みを取らないと駄目だよ」


「クスクス、分かっているよ、ユニアにも怒られたのから、それにあの子が正式に駐在官として赴任したから、休みは取れるようになると思う」


「そ、そうか、それならよかった」


「休みが取れたら色々なところに遊びに行こうかなって考えているの、とっても楽しみ」


「…………」


 びっくり、こう、セルカもちゃんと休みが好きとか、ちゃんと取ろうとしているいうのが、ちょっと意外。でもそうだよな、前も時間作って、女性陣だけでレギオンとか遊びに行っていたもんな。


 さて、ほら、そろそろ渡さないと……。


「それでね、あの、その」


「うん、どうしたの?」


「そのーあのー、実はさ、色々と今回のことで、俺だけではなくて、ルルトも責任を感じておりまして~」


「え?」


「あ、あのさ、その、今後は駐在官としての仕事は俺が、って当たり前なんだけどさ、だから、俺とルルトで何とかするので、ユニアはずっとセルカのサポート任務で大丈夫だから、だから、そのー、あのー、こ、これ、お見舞いとお礼……」


 おずおずと差し出す。


「…………」


 突然でびっくりした様子だったが、すぐに笑って受け取ってくれた。


「ありがとう、開けていい?」


「ももももちろん!」


 とガサガサ開くと中に会った万年筆を取り出す。ピガンの角を材料にして、貴金属で装飾した、それでいて品のある高級感があるものだ。


「ありがとう、品のある素敵なデザインの万年筆よね」


「ああ、ピガンの角の一番いい所を使った高級品でさ、芸術都市ゴレヴートの職人に頼んで作ってもらったんだ、これで公の場で、箔が付くというか、ハッタリがかませるというか、その……」


「イザナミさんのプレゼントにしては洒落てるよ」


「はは、気に入っていただけたようで何より、後はその、じっくりと休んでね」


「はい、ありがとう、だけどね、実は今日で長く続いた休みも終わりなの」


「そ、そうなの?」


「そうだよ、これからユニアが来て王と王子の受け入れる段取りを説明してもらって戻るつもり、イザナミさんの晴れの舞台だもの、頑張らないとね」


「そ、そっか、えっと、頑張りすぎないようにな、じゃあ俺は、その駐在官の仕事があるから」


「はい、プレゼント、ありがとうね」


 とそのまま踵を返して扉を閉める時。


 バイバイと小さく手を振ってくれたセルカと目が合うと、お互いに我に返ると照れくさくなってぱっと視線をそらしてしまった。


 ううむ、な、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。


 と扉を閉めて一息ついて横を見た時、



 すぐ傍にヤド商会長とキマナ婦人部長がいた。



「…………」


 お互いに黙っていると、2人でぼそぼそと話し出す。



「キマナ、少し押しが弱いんじゃないか?」

「馬鹿だね、単純に押せばいいってもんじゃないよ」

「そうなのか? 女は強引な方がいいと聞いたが」

「そんなのは完全に人によるよ、ソロミアはどっちかというと男に引っ張られるよりも、包容力や安心感を求めていたからね、セルカも同じだ」

「なるほど、そうか、なら一歩前進か」



「…………」


「という訳で、これからもよろしく頼むぞ中尉、いや、もうすぐ大尉になるのか、俺に出来ることなら尽力しよう」


「婦人部もアンタには期待しているよ、それと女に対してはね、優しさもいいけど、それだけじゃ駄目だからね、分からなかったら聞きにきな」


 と2人は立ち去った。



「……………………………………」



:おしまい:




第2話:仲間の為に出来ること




 ウルティミス・マルス連合都市とピガン都市とのピガン取引契約成立。


 その契約内容の一つである流通方法について少し説明しよう。


 まずピガンは、その狩りの危険性の高さや、繁殖方法があくまで自然繁殖で賄っているため大量生産しての安定供給は難しい問題があった。


 その問題点を流通という観点から、逆に売り出し文句として、徹底した希少価値戦略で宣伝することにした。


 具体的にはピガンを食べるためには、ピガン都市に直接赴くしかないという点。


 そのために、新しく建設した観光客用の宿屋屋食事処を作り、そこで供することとした。


 とはいえそれだけだと、卸先を自分の都市だけ流通させるだけになってしまい利益は望めない。


 故に稀少価値という手法を取るとなると、卸先が重要になってくるのだが、色々曰く付きの連合都市相手に、部外者でかつ信用出来て、こちら側の事情を理解し、更に結果を出した人物という条件が必須であった。


 連合都市側からすればかなり都合がいい人材となるのだが、ここでこの問題が思わぬ形で解決する。


 俺の修道院時代の先輩であり、元王国府事務官でありルール宿屋の経営者ミローユ・ルール先輩。


 彼女が運営するルール宿屋は、細やかなサービスはもちろん、何より料理が素晴らしいということで、開業後わずか1年で星を与えられることになった新進気鋭の宿屋。


 当然料理だけではなく彼女の内助の功としての功績も大きく、その能力は折り紙付きでセルカとタメを張るレベル。


 ミローユ先輩もセルカを高く評価し、結果ピガンの唯一の部外者への卸先として契約を締結。しかも卸先を拡大する時は、先輩も同席するという特権を付与されているに至る。


 結果新装開店したルール宿屋にて供されるピガン。


 その評判は爆発的に広がり、先輩は宿屋としてだけではなく食堂経営にも乗りだすことになる。


 余りの人気に完全予約制にして、半年先まで待たないと食べられないという繁盛っぷり。稀少価値を高める為に、あえて利益を乗せて高値で提供しているのだが、狩りで収穫した分はあっという間に捌けてしまう。


 料理人のメトアンさんも激務で大丈夫かなと思ったが、凄まじい手際の良さで、むしろ充実感を持って仕事をしており、休日もちゃんと作っているのだから恐れ入る。


 そしてミローユ先輩との契約については続きというか、極秘に一つ対価を頂く形になった。


 それは、ウルティミス・マルス連合都市の拠点として使わせてもらうということ。


 連合都市の課題の一つであった都市外拠点、その初めの一歩としてのルール宿屋を使わせてもらいたい願い出てミローユ先輩も快く承諾してくれた。


 具体的には新装開店に合わせて「秘密の部屋」を1室作ってもらい、そこを連合都市が独占的に使えるという契約を結んだのだ。


 こうして更に勢力を拡大した連合都市、その王国首都で新たな拠点であるルール宿屋。


 その秘密の一室で俺は。



 グルグルと簀巻きにされて床に転がされていた。



「あ、あの、なにこれ?」


 俺を見下ろすのは、いつもの女性陣と。


 ミローユ先輩もいた。


「先輩、あの、これは?」


「いや、私も来てくれって言われて来ただけなんだけど、それにしても簀巻きが板についているね~」


「ぜ、全然嬉しくない、な、なんなの?」


 と俺の問いにアイカが代表して答える。


「神楽坂、私たち仲間だよね?」


「へ? も、もちろんだけど」


「ありがとう、そして仲間が人の道を踏み外そうとするのなら、身を挺して止める、それが仲間だよね?」


「う、うん、そ、そうだよ」


「分かった、その言葉を忘れないで」


 何が何だかわからないままに、アイカは続ける。


「神楽坂、私はね「人を好きになる」ということについて自由であるべきだと思う」


「は、はぁ」


「でもやっぱり、自由であるべきだけど認められないことはどうしてもあると思うの」


「う、うん?」


「でもごめんね、貴方の苦しみに気付いてあげられなくて」


「あ、あの、全然意味が分からない、つまり?」



「貴方の想い人って、ミローユ先輩なんでしょ?」



「……………………へ?」


 と他の女性陣見ると全員心得たりと頷いている。


「いや、普通に違うんだけど、ねえ、ミローユ先輩?」


「うげぇ」←心底嫌そう


「全然そんなことありませんからね先輩! アイカ達が勝手に勘違いしているだけですからね!」


 そうか、何回か会いに行ったから、そういう風にとらえたのか……。


「ってちょっと待った、というかアイカはそもそもミローユ先輩の事当時から知ってるだろ、宿屋に一回遊びに来なかったっけ?」


「もちろん覚えているよ、ミローユ先輩とアンタのコンビは色々有名だったし」


「だ、だったら」


「だから元々噂になっていたんだよね、あんまり他人と交流しないアンタがさ、凄い楽しそうにしていたから」


「えー!!」


「だけど神楽坂、貴方が進もうとしている道はね、流石に仲間として容認できないよ、だからこの場を設けたの」


「あ、あのね! まぁ親しくはさせてもらっているけど、あくまで先輩と後輩としてだけだよ! 別に惚れてるとかないし! ってそもそもさ、前提が違っているというかさ、論ずる価値が無いというかさ、そもそもセルカも含めてここにいる人たち全員知っているでしょ?」


 俺は、言葉を切ると改めて継げる。



「ミローユ先輩は料理人のメトアン・ルールさんと結婚しててさ、先日子供も生まれたばっかりなんだよ」



 そうミローユ先輩とメトアンさんは夫婦、修道院に入る前からメトアンさんと恋人同士だったそうだ。


 だけどお互いに料理人と修道院という違いすぎる進路の為、一度別れて別々の道に進むことになったそうだ。


 メトアンさんは料理人としての才能はずば抜けていて、首都の最高評価の料理屋に勤め、そこでめきめきと頭角を現したそうだ。


 ミローユ先輩もまた、恩賜勲章を受勲して官吏として活躍しており、接待として料理屋を使った時に、運命的な再会をしたのだという。


 メトアンさんは、別れた後もずっとミローユ先輩を想い続けていて、再会した後、毎日のように弁当を作ってくれたらしく、それに心打たれたミローユ先輩は、よりを戻す形で交際を再開。


 そしていつしか、お互いに自然と独立して宿屋を営むことが夢になり、結婚と同時に宿屋を開業することになった。この時が、俺が修道院生として先輩に世話になっていた時だ。


 んで先ほど述べたとおりメトアンさんの料理の腕とミローユ先輩の優秀な能力もあり、開業1年で星を与えられるまでになる。


 そして星を与えられ、それを機に新装開店の準備をしていた時が、セクの受験の時だったのだ。この時は新装開店の為臨時休業しており、同時に身重でもあったので、その休暇も兼ねていたのだ。


 その間ではあったが、無理を言ってウィズとセクを始めとした、俺達の拠点として利用させてもらったり、今度は俺が首席監督生として相談に乗ってもらったり、ピガン絡みで契約の席に座ってもらったりしてくれたのだ。


「以上説明終わり、この中でそのこと知らない人っていないよな?」


「当たり前でしょ、出産祝いと開店祝いも贈ったんだし」


「そ、そうならそれで終わりじゃないか、何で簀巻きに?」


「まあ、こんな状態じゃ正直に言えないよね」


「い、いや、だからさ、違うってさ」


「神楽坂、アンタが進もうとしている道はね、不倫っていうのよ」


「だから違うの!! 何で信じてくれないの!?」


「証拠があるからよ」


「はい!? しょうこ!?」


 女性陣がコクリと頷く。


「なにそれ、そんなに自信満々に、全然心当たりが無いのが怖いわ……やだ……」


「私たちとしては出したくない証拠なのよ、だからその前に認めてくれると嬉しい」


「なんだよもう! いいよ! 分かったよ! 証拠でも何でも見せてみ! あるなら見せてみ!」


 という俺の声に女性陣一同は「残念だ」とばかりにため息をつくと、アイカがバックを持ちだして中を探ると……。


 バサッと俺の目の前に放り投げた。



タイトル:人妻のいけない昼下がり

タイトル:隣の人妻がドMだった件

タイトル:俺の知らない妻の素顔



「ギョワワーー!!!」 ←簀巻き状態でのたうち回る


「無いなぁ! おっかしいなぁ! って思ったらお前らかい!? 何してくれてんのよ!? って証拠ってこれ!? こんなの証拠になるかーい!!」


「だから出したくないって言ったでしょ、だけど私たちは理解がある方よ」


「ええーー!? そうだったかなぁ!?」


「だからさ……」


 ここでアイカはあくまで優しく語り掛ける。


「ちゃんと告白して、ちゃんと振られなよ、それで終わりにしなさい」


「だから違うからぁ!! もうやだー!!」


 とシクシクと泣くけど、全員目がマジだった。


 え、う、うそ、ほ、本気で、告白しなきゃいけないの、そうしないと終わらないの。


(あ、そうだ! ミローユ先輩が一言言えばいいことじゃないか! 思い出した、そういえばあったんだ同じことが!)


 あれは俺が修道院生時代のこと、ミローユ先輩が同期から「神楽坂って後輩、アンタに気があるんじゃない?」という驚天動地なことを聞かれたとかで、そんなことを食堂で話したな。


――「って言われたんだけどさ、アンタは「絶対ない」わぁ(ケタケタ)」


――「先輩、お互い様って言葉知ってます?(#^ω^)ピキピキ」


 こんな感じ、当時からメトアンさんと交際していたことは知っていたから「よくこの人の彼氏とかできるよな」って思ったものよ、言うと怖いから言わないけど。


 そんな、俺の視線の先のミローユ先輩は。



 とても辛そうで切なそうな表情を浮かべていた。



(くっ!!! あれは楽しんでいるな!!)


 というミローユ先輩に女性陣の視線が向く。


「ミローユ先輩、神楽坂の気持ちについては……」


 というアイカの言葉について、ミローユ先輩は首を振る。


「ごめんねアイカ、全然気が付かなかった、駄目ね、先輩なのに……」


(ぬあああぁあぁぁ!!!!)


「そうなんですか、しょうがないですよね、コイツ、強がっているけど本当に奥手でヘタレだから、神楽坂、最後ぐらい男らしく決めなよ、場を整えてあげたんだから」


「はん! 好きでもないのに何で告白しなきゃいけないんだよ! へーんだ! ぷい!!」


 とそっぽを向いていたら、今度はクォナが先輩に話しかける。


「ミローユさん、こんなことを頼むのはお門違いかと思いますが、神楽坂中尉を諦めさせてはくれませんか?」


「へぇ!!??」


「…………」


 ミローユ先輩は、少し考えた末、力強く頷く。


「そうですね、可愛い後輩のためです、私は鬼になりましょう」


(ぐううおおあぁぁああ!!!)


 そして先輩は、知り合ってから今まで見せた中でいちばん優しく、真剣な表情で俺に告げた。



「貴方の気持ちはとても嬉しい、だけど私には心に誓った相手、メトアンがいるの、だからごめんなさい、貴方の気持ちには応えられない(wwwww)」



(ホアアアアアア!!!! (wwwww)←じゃねえよ! 隠しきれてねぇよ!!)


 プルプル震える俺の頭を先輩は優しく撫でてくれる。


「でもね神楽坂、貴方は私の可愛い後輩であることに変わりはない、官吏を辞めてからも、貴方だけは私を慕ってくれたことは事実、今後も仲の良い後輩として付き合いを続けてくれたら嬉しいわ」


(くぁwせdrftgyふじこlp!!!)


 ミローユ先輩の言葉にアイカが言う。


「ほら、神楽坂、なんか言うことは?」


「ぷーい!!!」


「はあ、本当にアンタは、でもこれで諦めたと思います、ありがとうございました」


「いいえ、でも一番辛いのは神楽坂だと思う、そのフォローはお願いね」


(フンンンンィゥゥゥ!!!!)


「はい、任せてください」


 とやっと、勝手に騒いで勝手に俺を巻き込んで、勝手に解決したような雰囲気になってホッとしたような女性陣一同、おい、これって公開処刑だかんな。


 それにしても、好きでもないし告白してもいないのに振られたのは流石にモテない我が人生でも初めての出来事だ、はは。


 とここでコンコンとノックの音がして、姿を現したのは。


「あ! メ、メトアンさん! 丁度いいところに! なんか俺がミローユ先輩のこと好きだという話になっていたんですよ! メトアンさんからも何か言ってくださいよ!」


「…………」


 それに応えず、すっと料理をテーブルに出してくれた。


 あ、あれは、賄い飯で俺の一番の好物だった魚の叩き丼の胡麻和え。シンプルながら素材の味を生かした、それだけに職人の目利きが問われる逸品だった。


 修道院時代、その余りの美味さに何杯もお代わりしたっけ、そんな図々しいお願いも嫌な顔を一つ見せずに「俺の飯を美味い言ってくれている人がいるから」と頼んだ分だけ作ってくれたっけ。


 そっか、覚えていてくれたんだ、思えば感情を表に出す人じゃないし、一見して無愛想でぶっきら棒な感じがするからちょっと怖そうだけど、優しい人なんだよな。


「ってメトアンさーん!? あの! メトアンさんにも失礼になっちゃうんですけど! ミローユ先輩は俺だって無しですから! というかあの先輩とよく結婚したなと尊敬するぐらいでしてね!!」


 メトアンさんはコクリと頷くとそのまま無言で立ち去る、その背中は「皆まで言うな、だが悪いが諦めてくれ」と言っているのだろう。


(これはメトアンさんも分かっているな……)


 もういいや、はいはい、振られましたよーだ、こうなったらメトアンさんにお代わり一杯作ってもらおうっと。


「それでは無事解決したことですし、どうです、女子会とか?」


 と提案したのはクォナでアイカも同調する。


「あ、いいですね、契約も無事締結して、そのお祝いも兼ねて」


「最高級レストランを押さえていますわ」


 とここでユニアが発言する。


「お代の心配はしないでください、会社の経費にもできますし、それとミローユ先輩の噂は私も聞いています、是非話をしたいと思っていました」


 そんな誘いにミローユ先輩も笑顔で応じる。


「もちろん、私でよろしければ、ウルティミスの話とか私も聞きたいですし」


「でも大丈夫ですか? 今は営業中では?」


「大丈夫ですよ、今は食事時も終わって、旦那は今は後片付け中、他の従業員たちも交代で休憩に入る時間ですから」


 と言いながら、ぞろぞろと仲良さげに部屋を後にしたのであった。



「…………」


「…………」



「え!? このまま放置!? ちょっと待って!! 戻ってきて!! せめてほどいて!! メトアンさん! メトアンさーーん!!」



と秘密の部屋で神楽坂の声が木霊するのであった。



:おしまい:



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