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第15話:神楽坂イザナミの日常:後篇


::前回までのあらすじ


 ギャンブル禁止令が出ているカリバス。


 その為、絶対にバレないように策に策を重ねた結果、あっさりバレてしまった神楽坂、そんなプルプル震えるくぅちゃん状態の神楽坂を、メディは静かに見つめているのであった。


「残念です、神楽坂さん、お父さんも」


「…………」


 俺は静かに目を閉じ、思考の海を泳ぐ。


 そうか、そうだったよな、今までもこうやって策を練りつつも半分自爆する形でバレているじゃないか。


 さて、となれば、俺のやることは一つ!


 漢気発動!! (`・ω・´)シャキーン


「すまないメディだがこれには訳があるんだ聞いてくれ!!」


「どうぞ~」


「カリバスさんはメディとの約束があるからと嫌がっていたんだ! それを無理矢理誘ったんだ! 男には付き合いというものがあって! カリバスさんは男気溢れる人だから面倒を見てくれたんだ! 強引に俺が全部悪いんだ! だから許してやってくれ!!」←90度頭を下げる


「…………」


(ナイス漢気、ナイス俺、これは惚れるね、んで後はメディの小言に耐えれば計画通り、さあ来いや!)


 そして俺の漢気にメディは。


「そうだったんですか~、だったらお父さんは悪くないですね~、悪いのは神楽坂さんですね~」


(よし!!)←心の中でガッツポーズ


「ああ、分かってくれてありがとう、そしてすまなかったな、メディ」


「もしノリノリだったらお仕置きをしようと思っていたんですよ~」


「そんな訳ないだろ、って俺が言える資格はないけどさ、まあでも確かに、約束を破っておいてノリノリだったら、それはお仕置きだよな、ふっ」


「本当にお父さんはノリノリじゃなかったんですよね~?」


「そそそそんなわけねーし!! 終始罪悪感を感じながらギャンブルしてたし!! だからかけている金額も雀の涙ほどでな!!」


「ちなみに勝ったんですか?」


「か、勝ってないぞ! い、いや、正確には途中までは勝っていたんだがな! 俺もカリバスさんも負けて! い、いや、そうだ! ティラーは凄い勝ってな! ビギナーズラックという奴だよ!」


「なるほど、とはいえ、お父さんもお小遣い全部つぎ込むのはやりすぎだと思うんですよね~」


「えぇえううえけぇ!? 全部って、っっそうなノ!? 知らなイケど!?」


(危なかった! 今のは危なかった!!)


 そう、これで「なんでわかるんだ!?」って言ったらバレるところだったのだ。


 それにしても流石メディ、最初の分かりやすいカマかけはダミーだったのか、それで油断したところ引っかけるつもりだったのか。


(だが甘いぜ! 俺はかのラメタリア王国のナンバー1の策謀策略家であるワドーマー宰相とやりあって勝った男なんだんぜ! 神の力使ったけどね!!)



「甘やかすとろくなことになりませんから、借りた金はお返ししますよ~」



(…………え?)


 ちょちょちょ、ちょっと待て、何故借りたことが分かるんだ。


 と思った時、メディは同じく上着から取ったであろう、カリバスの財布をひらひらとさせている。


「…………」


 待てよ、確かカリバスさんは小遣い制と言っていたな。


 小遣い制ってことは、つまり月の収入、つまり財務状況は把握されているという事になる。つまり負けていたのなら、総額は減るのが当たり前だ。


 つまり金が減っていないから金を借りたと解釈したのか、いやいや、待て、カリバスさんだってひょっとしたら内緒でへそくりをしているかもしれない。


 だがメディはそれでも変だと思っている様子、ということは、メディのこれ見よがしに財布を持っている意味も含めて、まさか……。



「毎日財布の中をチェックしているのか!? それはいくら何でもやりすぎだと思うぞ!!」



「あっ」


 ここでの「あっ」はティラーだった。


「え!? 何!? なにが「あっ」なの!? どういうことなの!? ねえどういうことなの!?」


 狼狽えまくる俺に、ティラーはおずおずとメディ―の顔を見る。


「説明してもいいですよ~」


「は、はい、先輩、その、今の言葉は、メディ女医にカマをかけられたんですよ」


「か、カマって!?」


「いくらなんでも、賭場券がポケットに入っているってだけで、そこまで分かるわけないじゃないですか」


「そ、それは分かっている!! だがそれだけじゃない!! メディはお前に金を借りたことを!!」


「あっ」


 というティラーの言葉に頷くメディ。


「なるほど~、ティラーさんから借りたんですか、本当にすみませんです」


「へ!?」


「で、ですから! さっきからメディさんは全て主語を抜いた状態で話しているんですよ!」


「だから分かっている!! だがメディが金を借りたという事実が分かるのなら毎日財布をチェックしていないと分からない筈だ!!」


「ですから!! 毎日財布をチェックなんてしていないんですよ!!」


 ( ゜д゜)


 つまり、財布の中身を毎日チェックしていることも借りたんだろうという全部が全部「ハッタリ」ってことで、それに俺がまんまと引っかかった形になる訳で……。


「!!!」


 ここまで考えて俺はもう一つ理解し、戦慄する。


 ってことはだ、メディのこのやり方って、そもそも俺達が賭場に行くってことを最初から分かっていて聞いたってことになるよな。


 つまりメディは最初から俺達が賭場に行ったとか行っていないとかを確かめたかったのではなく。



「ノリノリかどうかを確かめたかったってことなのか!?」



 俺の慟哭にメディはニッコリと笑う。


「…………」


 俺は目を閉じる、今度は強く。


 もう駄目だ、最初から全て駄目だったんだ。


 それもこれもあの時最終レースで4番が来てくれれば俺とカリバスさんも勝ってバレることなんてなかったんだ、だから全部アイツが悪い。


 俺は目を開けて、気持ちよさそうに寝ているカリバスを見る。


「…………」


(もうこうなりゃ情に訴えるしかない!!)


「なあメディとりあえず色々あるから聞いてくれ!!」


「どうぞ~」


「メディ、俺は感動しているんだ、何に感動しているか分かるか? それは奥さんを今でも愛しているということにだよ!」


「はい?」


「飲む打つ買うは男の遊びでありステータス! これはメディだって分かっているだろう? だけどなカリバスさんはなくなった奥さんに操を立てて女遊びをしない! そんな漢気に俺は感動した! 俺もそうなりたい! 確かにメディとの約束を破ったことは俺達が全面的に悪い! それは言い訳できない! だけど! いやだからこそ、ステータスの二つを! つまり今回のことを俺がすべて悪いということにしてカリバスさんを許してやってくださいお願いします!!」


「…………」


 メディは黙っている、駄目か、と思ったが。


「しょうがないですね~」


 と今度は本当に、許した笑顔を見せてくれた。


「ありがとうメディ! そしてごめんなさいメディ! 俺は感動しているよ!」


「いえいえ~、神楽坂さんは漢気がある方ですよね~」


「そんなことないさ、まあでも男は男の責任を取るもの、二言は無いのさ!」


「男らしいです~」


 よかった、泣きそうになった、一時はどうなるかと思った、これで平和的解決が出来て本当に……。



「それじゃあ、お仕置きは神楽坂さんですね~」



「…………え?」


 と手渡された紙、そこには1週間のメディの出張とそれに伴う自分の雑用がびっしりと埋まっていた。


「」←神楽坂


「さて、丁度、シェヌスに用事があったので、護衛と雑用係が欲しかったところなので助かります~」


「あ、あのあの、メディさん……」


「なんですか?」


「ほらさ、俺も漢気を見せたんだから、メディも漢気を」


「私は女ですから」


「……あ、ああ~、思い出した、そうだ、俺明日は、ちょっと仕事があって~(棒)」


「ああ、そうだ、神楽坂さん」


「な、なにかな、ごめんな、手伝いたいんだよなぁ、本当は、罪滅ぼしに~」



「男は男の責任を取る、二言はないですよね~?」



「…………」


「…………」


「あああああたりまえだっつーーの!!」


「それでは明日から1週間よろしくお願いしますね~、折角なのでティラーさんでしたか、今日は遅いので神楽坂さんと適当に寝床を作って神楽坂さんと休んでいいですよ~」


「ど、どうも」


「それと今回のことは全て神楽坂さんが悪いわけですから、ティラーさんは大丈夫ですよ、ねえ神楽坂さん?」


「あああああたりまえだっつーーの(泣)」


「流石ですね、男らしいですね~」


 とスッとメディが持っていた賭場券を渡された。


「え?」


 と渡された賭場券を眺める……。


 ( Д ) ゜ ゜ ←神楽坂


「そうです、これは今日の賭場券じゃないんです、前にお父さんを叱った時に持っていたのを拝借して、そのまま私の机の中に置いたものなんです~」


 _| ̄|○ ←神楽坂


「絶対にギャンブルしてくるだろうと思って、出迎えた時に既に仕込んでいたんですよ~、まだまだですね~」


 _| ̄| コロコロ(((○ ←神楽坂


「それではおやすみなさい~」


 とツカツカと、カリバスの部屋から消えた。


「…………」


「…………」


 神楽坂は立ち上がり、爽やかに笑うとこういった。


「な?」


(何が「な?」なんだよもおおおお!! 完全な自業自得じゃないか!!)




――現在・修道院・某教室




「ほう、それで?」


「1週間後にクタクタになって帰ってきて、そのままその日はずっと寝てました」


「他に何か気づいたことはないのか?」


「それが本当になくて、寝たいだけ寝て、起きる時に起きてと、自堕落な生活を送っています。妹君の指導も完全にセルカ街長に任せっきりです」


「ユニアと本当に絡んでいないのか?」


「はい、というか、時折一緒にやる駐在官の実務ではむしろ妹君にガッチリと管理されている有様で」


「な、なに?」


「駐在官の仕事をセルカ街長に丸投げしていてやり方が全然分からなかったみたいで、駐在官補佐のフィリア武官軍曹と共に一から妹君にしごかれていました、何度も書類の訂正をさせられながら」


 ティラーの報告に流石に絶句していたモストだったが、歪に笑う。


「そうか、それと繰り返しになるが、神楽坂にスパイだと疑われていないだろうな?」


「はい、モスト息、先輩は完全に信じ込んでいます」


「そうか、ユニアはセルカに興味があり、神楽坂はそのダシにした。アイツもダシにされておいて気にせずマフィアの犬と遊び惚ける、か、ははっ、まさに類は友を呼ぶ、だな」


「はい、懇談会でフォスイット王子の周りに神楽坂先輩はいなかったわけですから、その裏付けが取れました、本当に友人としてだけの付き合いのようです」


「王子か……」


 途端に渋い顔をするモスト。


「まあ、どうなんだかな……」


 とぶつぶつ言っているが、ここは突っ込まない方がよさそうだと、ティラーは黙る。


「それにしてもセルカか、ウィズ神とルルト神の友好締結の時も切れ者だと思ったが、あの人材だけは確かなようだな、適材適所をちゃんと理解している」


「適材適所?」


「ティラー、無能の適材適所は何処だと思う?」


「どこって……」


「どこにもないさ、何もさせない、何かをさせたら害悪しかないからな、神楽坂の運用としては実に正しい判断だな」


「…………」


「それにしても本当にあいつは変わらない、ティラー、後は分かっているな、報告大会直前で、神楽坂を裏切り、恥をかかせろ」


「はい、ですがモスト息、本当にいいのですか、先輩に恥をかかせてしまうと妹君の方にも」


「ふん、アイツはアイツでどうにかするさ、だてに直系は名乗っていまい」


「それと、モスト息、神楽坂先輩の前の首席監督生は最下位を取り、せ、責任を取る形で職を辞したと聞いていますが」


「はっ! それこそどっちでもいいだろう? 続ける恥知らず、辞める無能、奴にはお似合いだ、さて、ティラーよ」


 モストはティラーの肩に手を置き、優しく微笑む。


「お前は、故郷の期待を一身に背負っているのは分かっている、だからこそチャンスを与えた、分かっているな?」


「は、はい!!」


「そしてスパイという心身ともに多大な負担がかかる重責の任を果たした暁にはちゃんと俺は報いる、まずお前が乗り換え先の監督生は既に選定してある、経済府所属の監督生だ」


「!」


「そして既にそいつには、お前の加点を満点にするように言いつけてある。そしてお前が経済府に配属された時、その監督生との繋がりは大きなパイプとなるだろう」


「はい! モスト息には感謝しかありません!」


「だがそれを活かすか殺すかはお前次第だ、努力をしろ」


「分かりました! ありがとうございます! 頑張ります!」


 とモストはティラーの言葉に笑顔で見せると、踵を返しその場を後にした。


「…………」


 その後ろ姿を熱を帯びた目で見るティラー。



 1年前、入学するまでティラーは片田舎の1庶民にすぎなかった。それが今では国家の最高幹部となる原初の貴族の次期当主とこうやって話をして、密命を帯び、完遂すれば口をきいてもらえる立場にまでなった、修道院の凄まじさに興奮して身震いするティラー。



――「ティラーさん、偉くなっても俺達のこと忘れないでくれよな」



「っっ!!」


 いきなりリーケとデアンの姿と言葉が思い浮かび、ズキンと心が痛み、その痛みを紛らわすために首を振る。


「神楽坂先輩、しょうがないですよね、先輩は修道院最下位、皆が必死で努力をしている中、貴方は何もしなかった、だからこうやって利用されて恥をかかせるのは自業自得、それに先輩は今更自分の評価なんてどうなってもいいでしょう」


 と言い残し、その場を後にした。



 ここで、さっと別の人影も同時に去ったのであった。




――、一方そのころの神楽坂




「~♪ ~♪」


 と上機嫌にとある場所に向かっている。


 今日でひと段落ついでに、外泊申請をして無事許可が下りたから、馴染みの宿屋に向かっているのだ。


 俺が修道院を卒業してから首都に寄る時は必ず使っている宿屋、女将さんとは顔なじみ、値段も割引きしてくれて、無理も聞いてくれる。セクの修道院受験の件では拠点として使わせてもらったのだ。


 そんなわけで、無事宿屋に到着、俺は扉を開くと中にいた女将さんに声をかける。


「おばちゃーん! ただいまアイダ!!」


 と持っていたお盆でスパーンと叩かれる。


「だーれがおばちゃんだ」


「あの、俺、お客さん」


「ああそうだったね、つい昔の癖で、お帰りなさいお客様」


「もう……」


 とぶつぶつ言う俺を意に介していない様子の女将さん。



 いや、去年の首席監督生ミローユ・ルール先輩だ。




次回は6月1日か2日です。

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