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第11話:愛すべき2人の後輩達:前篇



 俺にとって修道院は異世界生活のスタートとして大事なところであったけど、俺には必要のない場所だったとは前に述べたとおりだったが、それは今回の件でも同様だった。


 政治的策謀と策略の中に身を置くことの意味、今回の俺の首席監督生という立場は色々と勉強になった。


 やっぱり俺には向いていない、だからこそ俺は受勲の理由を理化したから修道院に戻る前、ユニアとティラーだけ先に帰らせて俺はある場所にいた。


「はぁ~~」


 というため息に。


「ははっ、辛そうだな神楽坂」


 と笑う王子。


 そう、最優秀官吏勲章は、王が最終決定権者となる、てなわけで反則だとは思ったけど王子に直接聞いたのだ。


「やっぱり人には向き不向きがあると思うんですよね、それで王子、こういうやり方はどうかなぁと思ったんですけど、正直修道院は雑音が多すぎて」


「雑音とはまたお前らしいな、まず国家最優秀官吏勲章についてなんだが、全ての官吏が対象となり、毎年推薦者が選抜され、その選抜された推薦者を王族が吟味し、王が最終決定を下すというのが大まかな流れだ」


「だが当然に受勲者を出すというのは色々と不都合な部分も多くてな、だから毎年当たり前のように却下される、これは官吏として基準を作ってしまうと、絶対にしがらみが出てくるからだ」


「でも受勲者は出ているんですよね、確か14年前でしたか?」


「その折衷案として認められたのは官吏としての「職務領域以外での功労」だ、前回は慈善分野での多大な功績が評価された形となったんだよ」


「私の推薦は本当なんですか?」


「本当だ、そして先述した理由で却下を申し渡すわけにはいかなくなったとも言っておく、ウィズ教への貢献と学術部門の貢献、だからな」


「…………」


 そうか、つまりここで固辞をしてしまえば、間違いなく王と王子に……。



「と、建前はここまでだ」



 びっくりする俺にニヤリと王子は笑う。


「お前の推薦についての裏事情はこちらでもお見通しだからな」


「でも王国府のメンツを潰してしまうんじゃ」


「構わん、そもそも、浅はかなことをしてくれると呆れていたところだ、神の力が欲しいのは分かるが、制度の悪用は論外なんだよ


 王子は深く椅子に腰かける。


「そもそも型にはめてしまうと、お前は全くと言っていいほど力が発揮できなくなってしまうから、これは原初の貴族としての損失でもある、だから」



「お前のやりたいようにやれ、俺の役割はそれをサポートしてやることだ」



「王子……」


 ありがたい、そして頼もしい、そんな王子の言葉で目の前の霧が晴れたようだった。


 さて、となれば、まずはアイツに会わないとな。


「分かりました、ならば色々と策を練らないといけないですね」


「おっ、顔つきがよくなったな、まあ結果はなんであれ、ユニアの件も含めて、な」


 と言う王子に礼を言って執務室を後にして、修道院へ向かったのだった。





 女子寮。


 修道院の特に女子寮については厳しい規定とそれに伴う制裁処置がなされている。


 まず男子禁制であること、これはただの文言だけではなく、女子寮に1人で一歩でも立ち入った場合は解雇処分となる。当然に監督生も教官ですらも例外ではない。


 緊急事態が発生したときは教官だけは立ち入りを許されるが、緊急事態が仮に発生したとしても大体は女性教官が中に入り、その後必要と認めれば入るのが実情だ。


 だから用事があった時の会い方も決められている。寮に入ったすぐの寮当番に会いたい人物の名を告げて、連絡をして、それまでエントランスで待つことだ。


 このやり方はアイカに会いに行くときによく使っていたな、付き合っているのかなんてからかわれたりしたけれど、アイカも余りそんなことを気にする感じではなかったから、楽しく遊んでいたっけ。なんか懐かしい。


 そして今、当然に会いに来た人物は1人だ。


「なんですか? 今資料作りに忙しいんですが」


 と不機嫌そうな小生意気な後輩である、ユニアだ。





 修道院には、その名前のとおり教会がある。ここで院長の授業が行われ、朝の点呼代わりに礼拝が行われる修道院生にとっては馴染みの場所。


 大講堂と変わらない広さで、修道院生全員を収容できるように設計されており、ウィズの肖像画が飾られている。


 俺はユニアを大講堂に連れてくるとウィズ神の肖像画をバックにユニアに話しかける。


「ユニア、大事な話がある」


「ごめんなさい、先輩のことはどうしようもないお兄ちゃんとしか見れなくて」


「え、ええーー! い、いや、そうじゃなくて!」


「分かってます、冗談ですよ」


(分かりづらい、ってどうしようもないお兄ちゃんも冗談なんだよな、それは冗談には聞こえなかったが)


「ごほん! まあ今から話す大事な事ってのは、まあ、面接のようなものだよ、いくつか聞きたいことがあるんだ」


「はあ」


「まず、報告大会の後に進路への最終希望調査があるな、何処にするか決めたのか?」


「…………」


 ユニアは答えない。


「本当に王国府を始めとした中央政府は考えていないのか?」


「…………」


「ユニア、これは監督生として聞いている、真面目に答えてくれ」


 俺の真剣さも分かるんだろう、ユニアは自分をここに連れ出したことも含めて理解したようで口を開いて話し出す。


「……このまま中央政府に進み、やっていける自信はあります。でも、このままでいいのかと思うんです、全てが出来上がったシステムの中で自分の人生を使うのかと、そのことについて無力感を感じていたのは事実なんです。だったらもっとこれからの場所で自分の力を活かしたいと思うようになったんです」


「その時に、ウルティミスの話を聞いたんです。1年で驚異的な伸びを示した都市、しかも原初の貴族の繋がりと王族の繋がりまで持つ、しかし黒い噂も付きまとう異質な都市、誹謗中傷も散々聞きました。ですが何故か私はウルティミスで自分の力を試したかったと強く思うようになったんです」


「ウルティミスに興味を持っていたことを周囲に秘密にしていたのは、我が家の特色もあるのですが、公言することによる面倒と後始末が私自身だけではなくウルティミスに波及するのが大きな理由でした、私が家の意思ではなく個人で動いているのは先輩が推理したとおりですから、だからこそ先輩が監督生として就任したと聞いた時、先輩を選ぶと決めたんですよ」


 ここでふうと、言葉を切るユニア。


「なるほどな、ちなみに俺が監督生に就任しない場合はどうしてたんだ?」


「どの道、先輩とは我が家の繋がりを通じて接触を図るつもりでした」


「それで、結論は出たのか?」


「……まだ、少し迷っていますよ」


「そうか、ユニア、まずはウルティミスを候補に挙げてくれたことに駐在官としてウルティミス市民として感謝する。特にセルカがお前のことを高く評価していてな、本当に仕事が半分になったと言っていた」


「それは、嬉しいことですが」


「だがセルカは最後まで、俺に「ユニアをスカウトしてくれ」と言わなかったんだ。最後はユニアの意思に任せたいと言っていてな、セルカのそれは俺の監督生としての立場があったからこその言葉だ」


「…………」


「とはいえ俺が監督生として出来ることは一つしかないがな」


「え?」



「つまり、お前がウルティミス以外の道を選択した時に障害にならないことだ」



「は?」



「お前は今すぐ監督生を俺から別の監督生に移せ」



「はああぁぁぁ!!!???」


「いいか、首席監督生はシンボルとしての役割が求められるのは分かるな、となればモストの狙いは分かるか?」


 突然出てきたモストの名前と狙い、すぐに理解したユニアは顔をしかめる。


「……分かってます。先輩を最下位にすることですね」


「そうだ、シンボルとしての役割を最悪の形で果たせなかった、そう俺に恥をかかせるのが狙いだ、そしてそれは実現しつつある、いや、もう実現すると言っていい、分かるか?」


「……なるほど、このまま先輩につくと、最悪の形で恥をかかされた首席監督生を選んだということになり、ウルティミス以外を選んだ時、私の将来に不利になるから変えろ、ということですね」


「そのとおりだ、その際には一つ頼みがある」


「頼みって、何をさせようというんです?」


「俺から乗り換えた際に、お前が付く監督生にあいつが最も欲しがっている「俺が無能である」という情報を積極的に提供してくれ」


「はあああぁぁぁぁぁ!!??」


「言ったろ? アイツは俺に対して初めて焦っているのさ、ユニアの行動で初めてな。そう言う意味ではお前は相当に信用されているんだな、修道院時代、お前のサポートでモストを首席に押し上げた、なんて噂があったが、それが本当なんだなと理解したよ」


「確かにサポートしたのは事実ですが! それについては私も修道院を目指していたので対価交換といった形です! そんなことよりも本当にこのまま兄様を放置して最下位に甘んじるつもりなんですか!?」


「うん、俺の評価なんて今更下がったところで、どうとでもなるからね」


「……そうですか、先輩、ならば今度はこちらから聞きます」


「なんなりと」


「先輩の監督生としての私の評価を聞かせてください、包み隠さずに、本心を」


「……俺の評価か」


 じっとユニアを見る。


「お前には、中央政府の官庁で活躍して欲しいと思っている」


「ウルティミスには不適格であると?」


「まさか! 来て欲しいさ! セルカの負担が大きすぎることがずっと課題だったんだよ! ユニアが来てからのセルカは負担が目に見えて減ったのが俺でも分かった!」


「ならどうしてですか?」


「先輩としてお前なら上に行って欲しいと思ったからだよ。兄貴を悪く言うようで悪いけど、モストなんかよりずっと期待できる。お前が将来偉くなったとき、お前の下にならついて、命令に従ってもいいって思うぐらいにな」


「そうですか」


 とユニアは突然満面の笑みを浮かべる。


「私をそんなに高く評価してくれるなんて、とっても嬉しいです」


 とその笑顔のまま俺に近づいてくる。


「…………」←何かを察しして後ずさる


「どうして逃げるんですか?」


「ど、どうしてって、怒ってるでしょ?」


「怒ってませんよ」


「嘘だぁ、怒ってるでしょ」


「怒ってませんよ」


「本当に?」


「怒ってませんよ」


「何もしない?」


「怒ってませんよ」


「じゃあ……」←近づく


 ドゴォ!! ドゴォ!! ドゴォ!!


「アイダダアアア!!」


 思いっきり尻を蹴られた、しかも3発、凄い痛い。


「もうっ!! 何もしないって言ったのに!!」


「馬鹿! 本当に馬鹿ですね!! 本当の本当に馬鹿ですね!!! 馬鹿以外の言葉が見つからない大馬鹿ですね!!!!」


「ひ、ひどい、俺、先輩なのに……」


 ユニアは「はーっ!」と、強くため息をつくとジロリと睨む。



「それが、泳がせている理由なんですか?」



「…………」












「ティラーが兄さまのスパイである。その問題に対して、一向に対策を取らないのは」



次回は14日か15日になります。

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