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第12話:遅すぎた事態


 邪教、神の「悪意による干渉」の神話に基づき設立された宗教。

 表向きは普通の別の宗教に入り善人を装い潜伏しており、国家の秩序を乱す、分かりやすく言うとばテロ組織のような存在、王国憲法では入信するだけで重罪だ。


「俺含めたウルティミスの駐在兵全員に邪教入信容疑か……」


 俺は今、憲兵の護送馬車の中に乗せられてウルティミスに移送されている。

 監視という名目の元、護送馬車には俺と向かい側にアイカ座り2人だけの状態になっている。


「3日前に突然ウルティミスの正規兵たちを拘束しろって命令が上層部から来たのよ、おそらく今頃、フィリア軍曹はモストが拘束していると思う、ただあんたがここにいることは誰も知らないから、おやっさんに頼んで先手を打たせてもらったの」

「ありがとな、お前は本当にいい女だよ」

「はいはい、それで、情報は取れたの?」

「やっぱり教皇選抜のために動いていてウルティミスが巻き込まれたってのが今の大まかな状況だ、憲兵はどんな感じなんだ?」

「私達現場には反発しかないよ、はっきり言うとね、証拠なんて何もないの、情報源もタレコミ程度、はっきり言えば国家権力乱用ね」


 かなり怒っているようだ、国家権力乱用ね……。


「おそらく、ロード大司教も百も承知だろうよ、俺が本気で邪教入信しているなんて向こうも思っていないってことさ」

「なら、どうして?」

「そもそも俺が邪教入信していたら、修道院に入学している時点でロード大司教の責任は免れないからな、だからこその徹底した身辺調査をするのだし」

「あ、なるほど、分かりやすい」


「んで、ここからが本番なんだが、向こうが何を言ってくるかで啓示内容が分かる」

「え!?」


 驚くアイカは驚愕の表情で俺を見る。


「アイカ、ここでの敵はモストじゃない、ロード大司教だ、あの人は手ごわいぞ」


 俺の言葉に息をのむアイカ。


「……どうするの?」

「寝る」

「は!?」

「だから寝る、監視ばっかりで凄い疲れた、それに向こうについたらこれが最後ののんびりできる時間だ、だからウルティミスが近くなったら起こしてね」

「……もう、アンタって奴は」


 呆れながらも寝かせくれるアイカに感謝しながら、俺は護送馬車の椅子に横たわる。すぐに睡魔が襲ってきたのだった。



 レギオンからウルティミスに護送馬車が出発してほぼ一日、起きたのはつい1時間ほど前だったがやはり堅い木製の椅子じゃ体の節々が痛い、そろそろウルティミスだと思った時だった。


 ウルティミスを包囲する王国軍が見えてきて、検問役の兵卒が馬車を止めると、馬車の乗り手に何かを話している、複数の軍人が窓から俺の姿をのぞき込み、また何かを話すと再び馬車が走り出した。

 あの軍人たちが何なのかは、言うまでもないだろう。


「アイカ、一応確認だがあいつらは……」

「察しのとおり、パパがロード大司教に貸し出した連隊よ、邪教入信容疑事件ということで、都合よく近くで訓練していた連隊たちが駆り出されって訳ね」

「……なあ、アイカ、邪教入信ってこんな連隊規模を出すぐらいのものなのか?」

「当たり前よ」


 断言するアイカに俺は黙ってしまう。


「アンタって、そういうところずれているよね、外国人だからしょうがないのかなぁ、でも外国でも神の存在は変わらないと思うのだけど」

「ま、まあ、俺の国は、その、外界とあまり接点がないからというか、だからよく知らないというか」

「ああ、そうだったよね、一緒に遊び始めた時に常識全然知らないから面白かったなぁ~」

「その節は色々とご迷惑をおかけしました」

「はいはい、んで話は戻るけど邪神と邪教徒が今まで何をしてきたなんて口にするだけでも忌々しい、ウィズ神が睨みをきかせているから邪神たちはウィズ国では国家レベルの厄災は起こしていないけどね」


 だそうだ。神学では邪神のことはさわり程度しか教わってない、つまりはルルトが悪意を持っているということだと解釈した、っていかんいかん、興味はあるが今は関係ない、目の前のことに集中しないと。


 もうウルティミスは目の前、本来なら自警団員が開けてくれる門は、王国軍の手によって開けられたのだった。



(うげ……)


 ウルティミスに到着し、馬車から降りた俺を出迎えてくれたのは、ドヤ顔のモストだった。

 後ろにはいつものコルトを含めた5人を引き連れている。

 確実にアイカが連れてくると分かってこんな出迎え方法を採用したんだろうな。

 かっこつけてるつもりなんだろうし、男として俺は偉いんだ強いんだというアピールを好きな女の子にしたい気持ちは正直分かる。

 だからやりきれない、アイカがお前のそこを一番嫌いなのだけども、いつ気付くのだろうか。


「流石アイカさんですね、恩賜組は伊達じゃない」


 感激した様子で俺の後に降りてきたアイカの手を取るモスト、一方のアイカは露骨に顔を引きつらせている。


「ええ、こいつは分かりやすいから、捕まえるのなんて簡単よ」

「はっはっは、おい神楽坂、捕まえたのがアイカさんでよかったな、俺だったら手加減できなかったところだ」


 相当にご満悦で、得意の絶頂という様子だ。


「ウィズ神の啓示をうけたことがそんなに嬉しいのか?」


 俺の突然の言葉にモストは目を見開く。


「悪いが調べさせてもらった、それが俺がここにいなかった理由だ、まさかウィズ神の啓示をお前が受けるなんて信じられなかったからな」


 もちろんこれはハッタリ、今ここにいる相手がこいつだけなら好都合だ。ロード大司教もいるのだろうが、今のうちに仕入れるだけ仕入れないといけない。

 俺の言葉に見下したようにモストは含み笑いをする。


「美しく、素晴らしい女神だった、最強で最高の神だった」


 必死で声を抑えようとするも、恍惚した表情で語るモスト、かろうじて抑え込んで俺に話しかける。


「それにしてもよく俺が啓示を受けたなんて分かったな?」

「まあ、教皇選となれば国を挙げて行う国家の大事だからな、一応ウルティミスの駐在文官兼武官とすれば影響は全くないとは言えないだろ?」

「ふん、部下に呼び捨てにされても何も言わない奴がよく言う」


 部下、そういえばルルトは拘束されているとはアイカの弁。特に今のこいつにルルトと会わせるとどんな対応をするかは分かるだけに不安だ。


「おい、モスト、念のため聞くが、俺の部下に何かしていないだろうな?」


 と言い終わった瞬間に頬に衝撃が走り、目の前に星がパッとちらつき、数歩後ずさり、遅れて殴られた頬がジンジンする。


「ってぇ~」

「これをしたんだよ、文句あるか? 王国憲法は知っているだろう? おっと、外国人のお前じゃ、難しくて読めないか、最下位殿」

「…………」


(やっぱり、啓示を受けただけでヒステリックになるやつを教皇選抜候補予定者にさせる意味が分からない、となると多分こいつは……)


 とここまで考えたところでモストは取り巻きの1人に命じる。


「おい、神楽坂を連れていけ、俺はロード大司教の元へ報告にいってくる、それと神楽坂、すぐに大司教の謁見が開催されるからな、さっさと着替えて来い」



 俺を連れてきたのはモストの取り巻きの1人の女子だ。俺の部屋の中で壁に寄りかかりこちらをじっと見ている。


 着替えろとのことだが、逃げないで外で待っててと言ったら「気にしないから大丈夫」とのことだった。


 まったく女の子ならもっとこう慎みをと思ったものの、1対1は好都合、しかも俺の同期だし遠慮なんていらない、モストの時と同様情報は仕入れるだけ仕入れる必要がある。さて親愛なる我が同期の女子に呼びかけるとする。


 そう、呼びかけるのは名前だ、えーっと、えーっと……。


(ってやばい、出てこない!)


 うん、教官に「お前はもっと他人に興味を持て」と怒られたことを思い出す、そんな俺の動揺した顔を見抜いたのか同期の女子はジト目で見てくる。


「ミリカだよ、忘れてたわけじゃないの? アンタのことだからコルトぐらいの名前さえ覚えていればいいとか思ってたんでしょ?」

「……ごめんね、しまらなくて」

「アンタは修道院時代からそうだったけどねー、変わってないねー」


 こんな緊迫した場面で名前を忘れたという理由でイニシアティブを取られる俺が間抜けだが、これは完全に俺が悪いので素直に謝るしかなかったけど……。


「聞きたいことがあるのなら聞きなよ、答えられる範囲で答えてあげるから」


 まさに意外な申し出だったので驚いて固まってしまった。


「大丈夫なのか、モストから不興買うんじゃないか?」

「別に、モストからは特に口止めされているわけじゃないし、あんたには少なからず興味もあったからね」

「…………」

「警戒しないでよ、というか女としては複雑なんだけどその反応」

「はは、で、なんなの興味って?」


 憮然とした様子のミリカだったが話し始める。


「王立修道院は、学術機関というよりも将来への立場の理由と箔付け、そして貴族との繋がりを持つために設けられた政治的機関と表現した方が正しい、だからみんな必死で貴族との繋がりを持とうとする。だけどアンタは全然それに興味が無いみたいだし、学生生活の延長上で来ている感じだった、それがどうしても納得いかないのよ」


「それ、本当によく聞かれるけど、別に俺みたいな修道院生がいてもいいだろ、修道院出身でも現場に生きがいを見つける人もいるからな」

「そうなんだけどさ、私が何より気になるのは、あんたの出身地、何ニホンって、何処にあるの?」

「日本は神が降臨した際に人と交わり子をなした民族の末裔たちで織りなされる国なのさ」

「は? なにそれ? 全然カッコよくないんだけど、気持ち悪いんだけど」

「気持ち悪いはいらないだろー! じゃあ今度はこっちが質問な、今回のロード大司教とモストの件についてミリカの私見を聞きたい」

「……ノーコメント」


 ふーん、不自然さを感じていないわけじゃないのか。


(となればもう結論をもう出してもいいだろう)


 俺はミリカに微笑みかけて、怪訝そうな表情のミリカを無視する形で結論を告げる。


「ウィズ神は、教皇選なんてやるつもりがない、別の目的があるぜ」


 この言葉に今度こそミリカは目を丸くする。


「取り巻きのお前には悪いがはっきり言わせてもらう、モストは教皇選抜候補生予定者にふさわしくない、それがずっと引っかかっていたんだ。現在の教皇は歴代の中で屈指の名教皇と言われる人物だ、保守的でありながら柔軟な姿勢、他宗教への寛容、我がウルティミスの切れ者街長も他宗教ながら高く評価していたほどだ」


「…………」


「その後継者の1人がモストってのは無理だ、さっきのアイツのヒステリックな言動はお前だって見ていただろう? お前はどうだ、修道院でも今でも近くで見ているものとして」


「だからノーコメント、んで自信満々のアンタが言ったウィズ神の別の目的って何?」


「それは分からない、まあ教皇選をカモフラージュしているくせにウィズ神の私情のようなものも感じるけどね。まあ王国史の専門家に聞けばウィズ神話の詳細まで知っているから何かピンとくるかもしれないぜ」


「別の目的があると思った根拠は? あてずっぽうじゃないんでしょ?」


「モストがふさわしくない理由について実はもう一つある、モストは教皇選抜のスケープゴートに適任だからなんだよ。あいつは将来の爵位が保証されている、ああ見えて政治力はあるやつだし優秀なのは俺もお前も知るとおり、だからこそ「使い捨てる」にはこれ以上の人材はいないと思うね」


「……ひどい言い方だね」

「まあ人並みにムカついてはいるからな、ちなみにこの推論に俺の私情が入っているのは認める次第なので話半分に聞いてね」


 俺の捲し立てるような推論にミリカは呆れたようだった。


「……あんたってそんな奴だっけ?」

「そんな奴だよ、最初からね、ああそうそう、お返しに調子に乗ってもう一個、ウィズ神がモストに課した試練の内容についてなんだが」

「まさか、それも分かったの!?」

「違うよ、これからつく交渉の席での要求が試練の内容だってことさ」

「はあ? どうして?」

「用意周到なロード大司教がここまで大々的にやるんだぜ、これで間違いでしたじゃ責任問題になる、つまり試練のいよいよ本番ってわけだ」

「…………」


 口をあんぐりと開けるミリカが可愛い。

 その時、部屋がノックされて別の取り巻きが姿を現した。


「神楽坂、ロード大司教がお会いになる、来い」

「なあ、フィリア軍曹はどこにいるんだ?」

「…………」


 答えないか、一切ルルト達やセルカ司祭に会わせないつもりか。この周到さはロード大司教のやり方だな、自分たちの場に相手を乗せて徹底して有利にやり込めてから相手に選択肢を与える方法だ。


 おそらくセルカ司祭をはじめとした街の幹部達にも、俺が邪教入信容疑としか伝えず不安を煽っているに違いない。

 落ち着け、相手の出方はある程度予想がついている。実際に対峙してその都度やり方を変えていく、それは変わらない。



 案内されたのは、いつもの執務室だった。応接スペースなんてものはないが、入ってビックリ、勝手に模様替えされている。


 まったく、最低限の礼儀も知らないのかと思ったものの、中にいた人物を見た瞬間、緊張感が跳ね上がる。


(ロード大司教……)


 ロード大司教を中央に両脇に教皇庁の文官将校2名が座り、モスト、取り巻き達は大司教の後ろに控える形で立っていた。

 視線を移すと対面の席にはセルカ司祭がすでに座っており、後ろにヤド商会長、ルルトも後ろに控えており、俺はセルカ司祭の隣に座る。

 着席を確認したロード大司教が口を開いた。


「さて神楽坂、拘束された理由は既に聞かされているだろう、今からその容疑についての聴聞を始める、お前には黙秘権が認められることを伝えておこう」


 ロード大司教の目配せで両隣の文官たちが書類を書き始めた。


「まず、今回の邪教入信容疑について弁明はあるか?」

「事実無根ですね」

「ふむ、認めないのか?」

「はい、そもそも私が邪教入信したという情報が何処から出てきているのかすらわかりません」


 俺の返しにロード大司教はニヤリと笑う、なんだ、あの笑みは、ロード大司教の笑みなんてめったに見ないから、それだけで警戒レベルがマックスになる。

 ロード大司教は机の上に置いてあった資料をめくる。


「お前の疑問に答えよう、神楽坂イザナミは、日本という出身国不明状態であり、得体のしれない神の加護を受けているからだ」

「っ!」


 ここでそれをついてくるのか。というより、出身国については不審に思わないように加護をかけているはずだがとルルトを見るが、分からないとばかりに首を振る。

 くそう、そこを不審に思うように加護が切れていたのか、ウィズ神のせいなのか。

 俺の動揺を見抜いたロード大司教はさらに続ける。


「神楽坂、お前は自分の出身国である日本という国について、着任時に街長達に対してどのような説明をしたのか?」

(これは知っていて聞いているな)


 いずれにしても嘘はつけない、正直に答えるしかない。


「神の力を使わないといけない場所にあり、神が人の世に降りた時に人と交わり子をなした人物たちの末裔と、説明しました」


 それを聞いたロード大司教の両隣の文官将校や周囲を囲んでいた兵士たちが目に見えて動揺するのが分かる。ロード大司教はルルト達に視線をやり、俺の言葉に嘘がないことを確認した後に続ける。


「それに神楽坂は私の授業中に複数の神を信奉し、その中からルルト教を選択したという発言をしている。問題なのがそのルルト教以外の神だ。具体的に神の名前について述べてくれないか?」

「…………」

「黙っているか、まあいい、黙秘権については認めているからな、ならばこちらは続けさせてもらう、要はお前が信仰するという複数の神の中の一つに邪神がいるというものだ。邪教に入信し、邪神の加護を得た人物が何をしたか、ウルティミスにその影響がないとは言い切れない」


 ロード大司教は俺の発言の揚げ足を取る形でうまく言葉を織り交ぜて説得力を持たせて話している。


(つまり、全部俺のせいですよってことかよ)


 変わらず汚い、だが嘘じゃないのが説得力を持たせている。

 さて、どう反論するかと思った時に、立ち上がったのはなんとヤド商会長だった。


「ロード大司教閣下よろしいか?」

「どうぞ」

「神楽坂少尉が邪教に入信しているかどうかなんてのは知らない、だが神楽坂少尉は本来ならエリートとしての地位が保証されいる王立修道院出身であるにもかかわらず、辺境地への赴任に腐らず、この街のために必死で尽くしてくれた」

「なるほど、それについては評価をするべきでしょうな」

「それに、王立修道院生の赴任地にあなたの力は大きいと聞く、まさか邪教入信が当時から認められていての赴任ならば、辺境地を軽く見ているばかりか、それを見抜けなかったあなたの責任の追及は免れないと思うが」


 商会長からの援護射撃であり嬉しく思うものの。


「辺境地を軽く見ているのは誤解です、ですが神楽坂少尉の邪教入信が事実であるのならば、当然のことながら責任は全て私にありますよ」

「っ!」


 責任逃れの言葉が出てくることを見越していたのだろうが、逆のことを言われて言葉に窮してしまう。


(悪くはないが、俺が邪教に入信していないことは事実だからな、だからこうやって堂々とした発言ができる)


 くそう、やっぱり手ごわい、やり込められたと思ったヤド商会長は息を荒げて反論する。


「神楽坂少尉は、迫りくる盗賊団をバッタバッタとなぎ倒しだのだ! アンタが無視した陳情だ! だから邪教入信なんてありえない!」


 商会長が発した言葉、感情論ではあるが神楽坂をかばいたいが故のこの言葉を、それが失言であることを気づけないことをどうして責めようか。

 それに気づいたのは俺と対面でキュッと口を結んだセルカ街長と……。


「なんだと!?」


 ロード大司教だった。

 その反応に今度はヤド商会長があっけにとられてしまう。

 報告書には、フィリア武官軍曹の魔法の補助を得て、村人たちと協力して壊滅させたと「解釈できる」ように書いてあるのだ。

 だが、実際2人で賞金首クラスの山賊団30人ほどを相手にして1人で倒せるなんてありない、俺の剣術部での腕前は平凡だったからだ。

 ロード大司教はすぐにフィリア軍曹に問いかける。


「フィリア武官軍曹、山賊団壊滅時に神楽坂が神の加護を受けていた様子はないか?」

(いきなりついてくるか……)


 そうだ、すぐに違和感を感じ取り勘づく。ここでやっとヤド商会長は自分の失言に気付くが遅い。


「知らないね、というか、そもそも具体的な邪神の名前を教えてよ」

「それこそ言えるか、というか、心当たりはあるようだな」

(ぐっ……)

「しかし、本当だったのか、いや、どうして気づかなかったのだろうな、地図上で存在しない国という神楽坂の言葉を、どうして信じてしまったのか、これも加護なのか、恐ろしいな、となると、常人離れした戦闘力も頷ける、ひょっとしたら使徒であるかもしれないのか」

(まずいぞ……)


 邪教入信、向こうからすれば瓢箪から駒になってしまった、俺の言動履歴は、それを裏付ける形になってしまう。自分が用意したスケープゴートとしての設定が丸ごと悪用されている形だ。


「神楽坂イザナミ文官少尉、フィリアアーカイブ武官軍曹よ」


 ロード大司教が呼びかける。


「今の問答で、より邪教入信の容疑は濃厚になったと考える、そしてそれはウルティミスにも及ぶのは分かるな」


 ここで言葉を切るロード大司教、邪教入信の重罪、下手すると極刑だ、どうすると考えを巡らせていると、急に優しい表情を見せる。


「だが神楽坂、真実はどうであれ、邪神の手を逃れ、かつウルティミスの名誉を守ることができる一番確実な方法がある」


 穏やかなロード大司教、つまり、次に出てくる言葉が本当の本題なのだ。


「ウルティミスの民全員がウィズ教へ改宗せよ、これは善意の提案である」


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