第9話:先輩として……
初代国王の伝説。
ウィズ王国民なら誰でも知っている、24人の原初の貴族の始祖たちを従えて、大陸全土を巻き込んだ統一戦争に勝利。
リクスは主神ウィズ神の相棒であり、ディナレーテ神より見いだされた神の傑物。
ウィズ神は自身の神話の編纂に非常に熱心で、特に初代国王の物語は始まりから終わりまで、事細かに記録されており、ウィズ神との出会いから始まっている。
神話の始まりの舞台はリクスの生まれ故郷であるフェンイア。
今では聖地の格が与えれているフェンイアも当時はただの田舎町。訪れる人物と言えば目的に向かうための途中で立寄る宿場町のような小さな町だった。
そして統一戦争が始まれば一番に蹂躙されそうな最弱の町。
だがウィズ神とリクスと出会ってから、フェンイアは激変する。
運命に導かれるかのように、リクス、ユナ、そしてドゥシュメシアの元に傑物達があつまり、ただの宿場町から、物流の交差点になり、交易拠点となり、交易都市となり、一大拠点にまで成り上がった。
そしてその機を熟すのを待っていたかのように、統一戦争が始まり、リクスは自らをフェンイア国国王を名乗り、統一戦争に参戦し、戦争を通じても始祖を仲間にして、神の加護を元に連戦連勝を重ね、統一戦争の覇者となった。
リクスの国王としての功績は、手腕はもちろんのこと、後世の神話学者たちが評価するべき部分はここにある。
「リクス初代国王は、原初の貴族24人すべてを自ら見出し仲間にした点にある」
1人で事をなしうることには限界があり、リクスは自身の足らない部分を補ってくれる仲間を見出すことに熱心であり、始祖たちはそれに見事に応えた。
「全ての仲間を自分で見出し、引き入れ、仲間は応えた、その出来上がるさまは、周囲から見ても驚異的であり、まさに神懸っていた、そしてそれは、今のウルティミス……」
「違う!」
ぶんぶんと首を振る。
「クォナの言葉にあてられているだけ!! ウルティミスがそうであるなんて!!」
見えている時がある。だけど見えている時の神楽坂が何を見ているのかわからない。
セルカ姉さまだけじゃない、つまりクォナも同じことを言っている。
「そしてそれは、多分王子も一緒、いやあの言い方だと王子ですらも仲間の1人ということになる!」
あの懇談会ではつまり、意図的に外されていたという事なのか。
思えばフォスイット王子もまた、噂は神楽坂と似ている人だ。
王子の噂、一言で言えば愚鈍。
原初の貴族ですら立場以上の敬意を払っていない人物も多い。だがその分、数は少ないが熱烈に支持されている。
それこそ、偉大と評する人物も。確かに偉大と並べて評することが許されるのは当然に、その系譜に名を連ねる王と次期国王だけだ。
とここまで考えて自分で自分を諫める。
「まずは先輩と話をする! 想像だけで結論を出すのは愚の骨頂! セルカ姉さまも時間をくれた、あれは多分、残りの時間を使って先輩と交流をしろということ、つまり結論を自分で考えて自分で出せということよ!」
と古城に戻る。
神楽坂は、先ほど言ったとおり、自分の仕事をセルカに丸投げしている状態であったため、仕事をするように言いつけてあるから執務室にいるはずだ。
「先輩、突然ですがお話があります!」
と執務室に扉を勢いよく開けたが。
執務室はもぬけの殻だった。
「!!」
何処に行ったと思った時、まさかとユニアは顎に手を添える。
今までの活動について、自分はセルカにつきっきりであり、神楽坂とはほとんど交流が無かった点。
そして一番最初に言った「セルカはちゃんと考えている」という言葉。
それは自分の立ち位置を全て見抜いた上での言葉だった。
となればひょっとして私は泳がされたのか、という思考に至る。
神楽坂は何か別の目的があって、動くために自分の存在が都合が悪かった。そしてセルカに興味があったことが事実だったから、ウルティミスの利益にもなるからと言って、それに乗っかる形になった。
その別の目的は分からない、が、セルカの様子だと、目的があることは分かっても、その点について、深く追及しない信用の関係にあるということを匂わせていた点。
となれば、神楽坂の真価はまさに今発揮されていることになる。
「しまった! こんな簡単なことを見抜けないなんて!」
最初からだったではないか「貴方に興味はない、セルカに興味がある」なんて失礼なことを言っておきながら、あんなにあっさり許したのは変じゃないか。
サポート能力は相手の特性を知らないと発揮できない、自分もまた神楽坂の噂しか知らなかったのだ。
それが分かっていたからこそ、神楽坂は自分に関与することなかったのだ。
何処にいるのかわからないが、ティラーは今日は首都に戻っているとのこと、だから自警団員達に聞くのがまずやるべきことだろう。
そんな後悔をしながら、急ぎ足でウルティミスの正門付近にある、自警団員の詰所に辿り着く。
「…………」
ふうと、ここで息を少し整えると、詰所への扉を開く。
そしてその先にユニアが見た光景は……。
( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!
( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい! ←神楽坂
( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!
( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい! ←神楽坂
「ふいー、すっきりしたぜ、さあ皆もご一緒に、さんはい」
「団長!」
「なんだね?」
「この不思議な、それでいて何かがみなぎってくるこのフレーズって、意味は一体何が込めれているんだ?」
「馬鹿野郎! ( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!は( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!なんだよ! 魂で理解せんか不心得者が!! 考えるな! 感じるんだよ!!」
「考えるな、感じるんだ……」
「この言葉は、我が祖国の民ではないが、歴史に名を残す人物の言葉です」
「た、確かに、なんか、魂に、響いた感じがするよ!」
「よし! もう一度やるぞ!」
「「おう!!」」
と自警団員達が顔を上げた時だった。
「「っ!!」」←笑顔のまま固まる。
「どうした? まさか今更になって恥ずかしいとか言わないだろうな?」
「「…………」」←笑顔が消えて真顔になる
「な、なんだよ、別にここには男しかいないんだよ、女の前でやれなんて言わないぞ!」
「「…………」」←顔面が青くなっている。
「お、おいぃぃ! 辞めろよその顔! 後ろに何かいるんだよ はっ! まさか!」
このパターンはまさか、そう、いつものお仕置きパターン。
クォナとかセルカとかアイカが実はこっそりと何処からか見られているとか、そんな感じで、立っているとかだ。
(これはまずい! こ、これは誤魔化すしかない!)
「なんてな、さて、自警団員達よ、ウルティミスの将来は若い君たちにかかっている、食事をしながら将来のウルティミスについて語り合おうじゃないか……」
と爽やかな振り向いた先、そこには予期していたクォナとかセルカはいなくて……。
その顔から一切の感情が消失したユニアが立っていた。
( д) ゜ ゜
「…………」
「先輩、仕事は?」
「え?」
「え? じゃないです、与えられた仕事を終わらせろと言いましたよね? 何故かセルカ姉さまがしていた駐在官の仕事です、終わったのなら見せてください」
「エ?」
「見せろと言っているんですよ? まさか仕事しないで遊んでいた、なんて論外なことをまさか首席監督生がするわけないですよね? 後輩の模範となるのが監督生であり、シンボルですものね?」
「そ、その、ちょ、ちょっと、休憩を、そしたら、盛り上がってしまって」
「そうですか、なら休憩は終わりです、途中経過を見せてください。どれぐらい終わっていますか?」
「……ななわり」
「なるほど、つまり、全くやってないってことですね、サボっていたってことですね」
ガシっと襟首をつかむ。
「ちょっと性根を叩きなおしましょうか先輩、大丈夫、首席監督生に選ばれるほどの功績を残した方ですから、ね?」
「そ、そこまで怒らなくても、何で急にそこまで? 何かあったのほぴょ!」
と割とガチギレした、ユニアに連行されていく。
「アンギャアア!!!」
一縷の望みを託して自警団員達を見るが、全員が敬礼で見送ったのだった、こいつら覚えてろよ。
「…………いいなぁ」
おい、デアン、いいなぁじゃねえよ、お前、実は3軒隣の勝気なハンナに惚れているの知ってんだからな、ばらすぞ。
●
「シクシクシクシクシクシクシクシクシク」
同じ日誌をひたすら繰り返して書かされた。字が汚いと言われて直されて、内容が駄目だと言われて直されて、何回も何回も。
「なあ知っているか? こういうことって俺の祖国じゃパワハラと言ってね」
「ギロッ!!」
「ですよね! まずはちゃんと仕事をしてからですよね! 権利は義務を果たしてから! 基本中の基本ですよね!」
「分かればいいんです」
くっ、俺先輩なのに、そんな俺の横では。
「ぷしゅーーーー」
と頭から湯気を出してルルトが机に伏せっていた。
「しかしフィリア武官軍曹、書類1枚も書いたことが無いなんて、まあ、下士官任用過程でもたまに驚天動地の書類を書いてくるという話も聞いたことがありますが、それでもこれはひどいですね」
「…………」
黙っている、というよりも反論する気力がもうないらしい。
とここで、トントンと書類を整えると、俺に差し出す。
「はい、これでいいでしょう。神楽坂先輩、決済署名をお願いします、先輩もフィリア軍曹もそれでもう今日は上がっていいですよ、お疲れさまでした。今後は不定期にチェックしますからね、理由無くサボったら倍の書類をかかせますからね」
と有無を言わせない様子で執務室を後にした。
そして残された俺達……。
「なんだよう! ボク達の仕事が増えたじゃないかよう! なんであの子を連れてきたんだよう!」
「うるさいな! しょうがないだろう! ウルティミスの利益になると思ったんだよ! 実際になっているから口出せないんだよ!」
「だけど君は先輩じゃないか! 後輩のあの態度はどうなんだい!」
「んなもんとっくに逆転しとるわ! というかあっちの言っていることが100%正論でこっちが100%間違っているんだからしょうがないだろうが!」
「……だよね、仕事全部ぶん投げてたもんね」
「駄目駄目だよな、俺達」
「だね」
「なんか前にこんな会話したね」
「したなぁ……っと」
すっと立ち上がるとルルトに話しかける。
「ルルト、お前のアーティファクトに身体強化と認識疎外の加護をかけてくれないか?」
俺の言葉にルルトは目を丸くする。
「不穏なことがあったの?」
「うーん、違う、と言っていいのか、使う目的には関係が無いと言えばないのか」
「また、何か考えているみたいだね」
「だから出張に行ってくる」
「期間はどれぐらいになる?」
「1週間だな、スケジュール的に」
「わかった、1週間なら丁度いいね」
「丁度いい?」
「1日から1週間ほどずっと効力を保つように改良した。ちなみにもっと長くすることも可能みたいで更に改良を重ねているみたい。ただし、使徒以外に使わせない様に、使ってしまうと使徒になってしまうし、神の力に人の体が耐えられなくなって壊れてしまうかもしれないからね」
「分かった、ありがとな」
と首にかけるとおなじみの力が包まれている感覚、軽く体を動かすと、窓の縁に立ち、そのまま。
「あ!! ちょっと待ったイザナミ!!」
「わあ! びっくりした! な、なに!?」
「あのさ、出張って言ってたけど、こういう場合報告書って書くものなの?」
「え? 書くと思うぞ、たぶん」
「どうやって書くの?」
「さ、さあ? 書いたことないし、しかもこれって公式な出張じゃないから」
「そうだよねぇ、どうしようか? またサボったとか言われて怒られるの嫌なんだけど」
「た、確かに、うーーん、あのさ、悪いんだけど、なんとかユニアを誤魔化してくれない? やっぱりこれは非公式で行きたいんだよね」
「そうだね、そうしようか、もうメンドクサイから、認識疎外の加護を応用して、色々とした方が楽だね」
「そうだな、でも派手にやりすぎるとバレるからな気を付けてくれ」
「了解、しかし躾けられているよね、ボクら」
「元から俺達の仕事だから悪いのは完全に俺達なのがまた、だからせめて、陰で役に立たないとなっと」
今度こそ、窓に縁に足をかけて飛び立ったのであった。
次回は少し間が開いて6日か9日です。




