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第8話:クォナとユニアと




 シレーゼ・ディオユシル家。


 当主は王の秘書官、王の執務の全てを取り仕切り、王国府の長を務める、一番政治力を持ち政治色を持つ一家。


 国民に直接影響力はないが、政治的策謀や策略に長け、王の執務を滞りなく完遂することが稼業。


 その例外的な存在がクォナだ。


 当主から溺愛される彼女はその汚い政治色に染めない教育方針から、稼業から遠ざけられることになった。


 そしてクォナの学院顧問就任は、原初の貴族の間でも随分話題になった。様々な憶測を呼んだが、それでもその政治色はない、ということで一応の収束を見せたが。


 彼女が王子と仲間となり、政治的な場に姿を現すようになった。


 原初の貴族と王族の関係は一言では語れないものがある。直系といえど普段から王族と交流があるわけではない。


 自分だってその例に漏れない、当然にお互いの顔は知っているし、話はするが、それは公的な機会だけだ。


 その彼女がセルカ街長との仲間になったタイミングと王子との交流、ラエル伯爵は、その件については無言を貫いている。


 そして以前のクォナを巡っての神楽坂の反応。


 バレバレもいいところだったが、騎士団達のような狂信的なもの、そしてティラーのような憧れものとは明らかに違う。


 騎士団を介してしか話をしておらず遠目でしか見ていない、なんてのは明らかな嘘、明らかな深い付き合いを示すものだし、惚れている噂が立つのも頷ける。


 彼女が、何かを言えば騎士団は命を懸けて遂行し、体調を悪くすれば周りの騎士団が慌てふためく、その全て男を手玉に取って計算されつくしているような振る舞いは、同性の敵も多い。


 当然、そんな可憐といった言葉とはむしろ正反対な人物であることは分かっている。同性相手でも徹底しているが、そこはセレナ達3人がしっかりと支えている。だから個人的にユニアは、クォナよりもセレナ達のサポート能力の方を評価していたりする。


 そして彼女のそういった本性をさらすことによるリスクも理解しているからこそ、セレナ達の動きも分かるから、ユニアはクォナに関しては思うところはなかったりする。


「…………」


 ここは、クォナの為に用意されたゲストハウス。ここだけはかくの違う調度品が整えられている。


 視察と孤児院に対しての視察を終える。


 セルカは、視察の他、所用があるので自分は、今後の出立までの折衝係となった。明らかに自分と2人だけにされているのは理解する。


 連合都市、マルス側正門、セルカはユニアと共にその人物を待ち、目の前に馬車4台が中央の1台を四方を囲む形で進んでおり、正門前で止まった瞬間、周りの馬車から男たちが一斉に降りると、馬車を背にする形で周りを囲む。


 それを待ち、御者台にいたリコが軽快な足取りで扉を開けると恭しく頭を下げ、中からクォナが姿を現す。


 そんな彼女にとってはいつもの光景、ユニアにとっては馬車に刻まれた紋章もまた、見慣れたものだ。


「こんにちはセルカ、視察に来ました」


「ようこそクォナ嬢」


 と雑談に花が咲く、その2人の姿を見ている時、クォナと目が合い。


 彼女はにっこりと笑い。


「…………」


 ユニアは静かに睨むのであった。





 ラメタリア王国。


 統一戦争で生き残った数少ない国の一つ。


 当時のファムビック王は、当時フェンイア国と名乗っていたリクス王が出した無条件降伏に応じる。


 当時は弱腰と批判を受けたが、現在では世界有数の国家である。


 だが、時代の変化により、王族は2名にまで減少。


 元より王族減少の危機はあった。


 現に残っていた王族は現国王であるゼスト、その姉エンシラ王女の2名。



 そして王族を神聖なものと崇め徹底した弱体対策を取ったのがワドーマー・ヨークィス。



 ゼスト国王は幼く、エンシラ王女は政治的な立場は皆無。


 だが、偉大と結んだ無条件降伏の契約があるから、手が出せる存在ではない。


 だがここで変化が起こる。


 エンシラ王女がフォスイット王子に「色仕掛け」を始めたのだ。


 自身の形勢不利と見ての明らかな愚策、ウィズ王国に手を出すことがどういうことか、分かっていないのか。


 同時に、ワドーマーによりもし色仕掛けが証明されたのなら王籍剥奪の発議をかけるという言質を取る。


 ここでお互いの国の利害が一致、ウィズ王国側はこれを了承、エンシラ王女の処断をもって、ウィズ王国外交担当、カモルア・ビトゥツシア家は王族を消滅するものと判断し、ラメタリア王国の王族消滅及びワドーマーの公主就任による公国への変化を受け入れる。



 だが当然フォスイット王子からストップがかかる。



 とはいえこれは想定どおり、このストップについては国益に反することも声も多く、とはいえワドーマーの動きの制限はかけられない。ならばエンシラ王女の所業は表に出る、王家の失脚も時間の問題、後は王籍剥奪を立てて、責任を取らせればよい。


 ここで王子は、何故か王子は神楽坂をパグアクスとクォナを介して招聘した。


 当然この動きは把握しており、ラメタリア王国に出張に行った際は注視していたが、公務にかこつけて観光だけをして帰ってくるというものだった。


 結局は、何の意味も無かったこと、神の力を当て込んだのかもしれないが、とんだ見当違いだと結論付けた。


 その神楽坂は、最終的にはクォナと共に入国する。


 社交界にも参加せず、クォナの好意に甘える形で城の中を観光し浮かれていた。


 呆れていたが、その直後だった、ワドーマー宰相が失態を犯し、クォナを激怒させた、と王家及びシレーゼ・ディオユシル家への報告が入ったのだ。


 ラエル伯爵も寝耳に水だったらしく、王子の招へいに向かった時、フォスイット王子はこう言い放った。



――クォナのストーカーの処分を依頼した際、ストーカーではなく、間違ってセレナを襲ってしまい、骨を5本折る大けがを負わせてしまった。結果親友を傷つけられたクォナが激怒して、予定を切り上げ緊急帰国した。



 意味不明。


 何かわからない原初の貴族を前にして王子は更にこう言い放った。



――「エンシラ王女と婚約を結び、新たな時代の幕開けとする」



 唖然とするしかない、この言葉の意味すること。


 つまり、これは自分が生み出した状況であること言うことであり。


 次期国王の意志であるということだ。


 とはいえこれが何の外交のカードとなるのか。エンシラ王女を婚約したとして、何故これでワドーマー宰相が王族へのスタンスを本当に変えることになるのか。それは立派な内政干渉。


 他国による内政干渉の結果は、国民に対して洒落にならない程の反発を生む、特に王族は力は持っていないとはいえ、国民に敬愛されていたのは事実であるのだから。



 だが王子の言うとおり、王子主導でワドーマー宰相の王族へのスタンスが激変、王族との協力体制を確立することになる。



 このスタンスの変化は様々な憶測が当然行き交うが、ワドーマー宰相は、ラメタリア王国の国益のためと建前を貫いており、その折にこんな話が出てきた。



 ワドーマー宰相は神の力に触れた。



 ここで神楽坂の噂が登場するのだ。


 神々の橋渡しを成しえた人物である神楽坂、タイミング的に関与しているのではないかと。


 だからこそ、敵ではなく味方に付けた方が得策と判断させたということ。


 上流にとっては、神の力は利用するものではなく恐れるものであるのだから。


 だがここで疑問が出てくる。


 神の力に触れさせたうえでワドーマー宰相を「降伏」させるという攻略算段を誰が組んだのか。


 原初の貴族ですらも知らされていなかったことを考えると、別の人間が動いていたことになる。


(見えている時がある、それは誰も分からなくて、分かった時に誰しもが驚く)


 セルカあの言葉は、その戦いを物語るということ。



 そして目の前にいるクォナは、その戦いに間違いなく関与しているということだ。



「ユニア、そんな顔をされたら、私はどうしたらいいか分からないわ」


「……まあ、聞きたいほどは山ほどあるからね」


 上流の至宝、理想の女性と言われるクォナ。


 だがその実、信用しているのは侍女3人組だけで他人は一切信用していない。何より自分のために命のかけると誓ったクォナ騎士団を最も信用していないのだから徹底している。


 確かに下手に拒絶すると敵にすると厄介だからこその手法、悲壮感と覚悟を持っている。


 この顧問就任も当然に「身分関係なく分け隔てなく接する」という好意的にとらえており、更なる人気が上がったが。



 そんな下手をすると上げ足を取られかねない迂闊なことをする人物ではないのは理解している。



 綺麗な建前はリスクを背負うことになるし、空々しく響いてしまうからだ。


 彼女の根幹をなす「好感度対策」は生半可なものではないというのは理解している。


 だからユニアは語気を少し強めて話し出す。


「セレナ」


「はい、なんでしょう、ユニア嬢」


「怪我は大丈夫? 骨を5本折られたのだっけ? 後遺症が残るんじゃないかって心配していたのよ」


「お気遣いありがとうございます。シベリアは優秀な医者ですから、付きっ切りで治療にあたってくれて、このとおり後遺症も無く全快いたしました」


「あっそう、よかったわ、ねえクォナ」


「なにかしら?」


「私とあなたはもちろんのこと、セレナ達も含めてここには原初の貴族の系譜に連なる人物しかいない、胸襟を開いて話す場でもあると思う。つまり今の私は修道院生ではなく、原初の貴族の直系として話をしたい、と考えているということよ」


 彼女は何も答えず微笑んでる。


 本当に色々ある。でもユニアは最初に彼のことを聞く。


「クォナ、神楽坂先輩のことについて聞いていい?」


「神楽坂中尉? もちろん私の大事な友人」


「クォナ、貴方に対して同じことを2回言う、というのは失礼にあたると考えているの」


「…………」


「そうね、まずは私の所見から言うわ、セルカ姉さまもそのために貴方との折衝を私に一任して、席を外したのだから、ね」


 ここでユニアは話し出す。


「確かにセルカ姉さまは凄い、あれほどの人材が眠っていたなんて私自身も驚き、だけど、それでもありえない、何故なら優秀なだけでは駄目なの。政治的立場も無ければだめだし、人脈も、その全てが無ければならない」


「セルカ姉さまは、そういう意味において、優秀しか持ちえない人物であったはず。だからこそ辺境都市の街長としては就任当初から全く目が出ず、これからも出ないはずだった」


「つまり「とっかかり」が分からないってことよ。しかも一回じゃない、ウルティミスがここまでの地位を得るまでの、全てのきっかけよ」


「まず資金源となっているマルスの吸収合併。当時マルスは王国でも有数の遊廓都市、顧客に上流を多数抱えており多額の利益を上げている」


「当時はロッソファミリーというマフィアが治安維持にあたっていて、その黒幕は現在失踪中であるアナズリ・キネリ文官大佐となっているけど、当然に1人ではあのシステムの維持は無理、それ故にロッソファミリーは頭目と副頭目が分かれて内部分裂状態だった」


「手っ取り早くという表現はあれだけど、それでも資金源について遊廓に目をつけるというのは驚いたし、流石だと思った」


「そしてその機に乗じてというのも筋が通るかもしれないけど、上手く行き過ぎているのが引っ掛かる。調べてみたけど、吸収合併するにあたってほぼ障害は無かったと言っていい。だけどそんなことありえるの?」


「何故なら多分アナズリ文官大佐の後ろにはもっと強力な人物がいたと考えるのが自然、となれば、その人物からすれば、マルスという金銭パイプをあっさりと手放してしまったということになるのか、あるいは手放さざるを得ない事情があったのか、そしてその事情があるのだとしたら、その事情を知っていたということになるけど、徹底した自分の身を隠しそれを暴くというのならもっと大ごとになってもいいのに、それも無かった」


「次にアーキコバの物体の解明、240年に一度の解、その論文は読ませてもらったけど、あれは、ほぼメディ女医によるものだった。あれだけ読めば確かに神楽坂先輩は本当にただのマグレで発見したってことになる」


「だけどこの「まぐれ」の結果、神楽坂先輩の立場が劇的に変化した、それが貴方も知ってのとおりお父様が後ろ盾になったこと」


「便宜を超えての後ろ盾、これは私たちにとっても相応のリスクを背負うもの、なら何かを別の目的があるのかと思えば放置するだけで、実際一度も会っていない、この件についてはサノラ・ケハト家でもよく分かっていないの」


「とはいえ普段のお父様を知っていれば、あれで酔狂で悪趣味な趣味人であることは分かるから、その一つだと一応の納得はした」


「だけど、私の中ではそれに匹敵するぐらい衝撃的なことがあった、それが貴方が神楽坂先輩に接触をしたことなの」


「男と個人的に接触することのリスクは、貴方の場合洒落にならないぐらいの事態を生むはず、だからこそ、相当に対策を練った上での接触したことがわかる。それでも貴方が先輩に惚れて、お茶会に誘ったという噂が出てしまっている、その点について貴方は肯定も否定もしない、一瞬虫よけの為のスケープゴートとも考えたけど、なら最初から接触しなければいいものね」


「だからクォナ、貴方は神楽坂先輩について何を知っているの?」


 じっと睨むユニアに目を閉じて考えるクォナであったが。



「偉大なる初代国王リクス・バージシナ」



「え?」



「私はひょっとして、リクス初代国王は、神に選ばれた者であるかもしれないけど、意外と傑物ではないのかもしれない。むしろ傑物と言うのなら、私や貴方の始祖様の方がよほど傑物だったのかも、なんて思っているの」



「…………」


 クォナが言った内容、それは、神学学会で不興を買った論文と一緒。


 そしてその不興を買ったのは……。


「あ、あ、あ、あなた!! そ、それは! シレーゼ・ディオユシル家の言葉と捉えられてしまったら大変なことになる!! 誰が聞いているかもわからないのに!!」


「それは聞かれる相手によるわ、この場で言うのなら、貴方が触れ回らない限りはね」


「そ、そんなことするわけない! だけど! そんな迂闊なことを口にする人だったの!?」


「…………」


 クォナはそのまま黙っている、なぜ黙っている。


 少し待つ、私はクォナになんて問いかけた。


「!!!」


 思わず立ち上がる。


「あ、ありえない!! 貴方は本当に何を言っているの!? 偉大に並べて人を論じてはならない!! これは我々原初の貴族間の不文律!!」


「そのとおりよ」


「こ、この! あのね! 確かに神の繋がりは分かる! だけど初代国王は! アーキコバ・イシアルを見出し! その他歴史に名を残す傑物達を人の世に送り出し! 人類の歴史を良き方向に変えたディナレーテ神に見いだされた者なのよ!」


「だけど歴史は時に、必要に迫られて誇張や脚色をするものだと思うわ」


「確かに歴史に誇張や嘘はあってしかるべき!! だけどそれでも偉大の名を冠するのはリクス初代国王ただ一人よ!!」


「ええ、「私もそう思う」わ」


「っっ! そして我がサノラ・ケハト家の歴代当主の中でも、偉大の名を冠するのは、始祖様、サノラ・ケハト初代当主のみよ!」


 ユニアの言葉にクォナはニッコリと笑ってこう言った。


「だから「私もそう思う」わ」


「は、話にならない! 貴方の社交界での悲壮な覚悟は個人的に買ってはいたけれど! こんなバカなことを言う人物なんだってね!」


 と剣呑の雰囲気になりかけた時、ここでタイミングよくセルカが姿を現した。


「セ、セルカ姉さま!?」


「ユニア、話は終わった?」


 という問いかけに代わりに答えたのはクォナだった。


「ええ、終わりました、ユニア、話せてよかったわ」


「…………」


 憮然とするユニアであったが、それ以上言葉を発することはない。その姿を見ながらセルカが話しかける。


「ユニア、貴方はもうあがっていいよ、そろそろ首都に戻って発表会の準備を進めなければいけないから、その準備に使ってね」


「……はい、お気遣い感謝します」


「それでは私の方も失礼しますクォナ嬢、今日はゆっくりくついでください」


 セルカの言葉にクォナはニッコリと笑い、2人はその場を後にした。



「……喋りすぎじゃないの?」


 セレナがクォナに話しかける。


「確かにこの場で、クォナの言った事が噂で流れたのなら流した相手は特定されるから、確かに考えにくいかもしれないけど、噂って本当にバカにできないよ」


 そんな諫めの言葉、が。


「ユニアの言ったとおりよ」


「え?」


「全てはディナレーテ神の導くままに」


 本人は特段意に介していない様子で、セレナはため息をつくのであった。




次回は26日か27日、若しくは29日か30日です。

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