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第6話:ウルティミス・マルス連合都市:後篇



 私立ウルティミス学院。


 ルルト教会の隣の土地に、広々とした平屋の校舎に運動場がある、全校生徒の200人程度の規模としては比較的小規模の学院で、教養課程は初等学院から高等学院まで設けられている。


「レティシア・ガムグリーです。私立ウルティミス学院の主任教員を勤めています」


 と学院の応接室で挨拶するウィズ。


「わぁ、綺麗な人だなぁ」


 見惚れているティラーにウィズは会釈をすると学院の解説をしてくれる。


「今でこそこんな立派な校舎ですが、創立当初は教会を使う形で運営していたんです。都市外の学院に通う生徒はそのままに、進学できなかった子達を第一期生として学院に迎えました。貴方方をここまで案内してくれたリーケ君とデアン君がそうです」


「そしてウルティミス学院は私立ではありますが、営利目的ではありません。連合都市の子息子女は無料で通うことができて、既に都市外に奨学金を得て進学した生徒達にはその奨学金を肩代わりしています。セク君はこれに該当します、最後の追い込み時は教育指導の関係上こっちの方で勉強してもらいました」


「そしてお二方もご存知の通り、セク君の修道院合格は我が学院の名を上げることになりました、後輩達も順調には育っていますが、生徒数増加に伴う教員の人材不足が課題でしょうか」


 ウィズの解説に感心したように聞くティラー、自分と故郷と照らし合わせて聞いているのだろうか。


「…………」


 ユニアは、それに応えず何かを考えている。多分クォナの事を考えているだろう。


 当然、クォナが言った建前を鵜呑みにすることはない、しかもユニアにとっては同格の相手、距離が近いわけだよな、同じ女だし、感じるところは色々あるのだろう。


 クォナの素の性格は、それこそ不利益が甚大であるから、セレナ達と協力して隠しているぐらいだ、これについては男の俺は女の世界には立ち入れないからどうしようもない。


(この点については何とか誤魔化さないとな、勘が鋭そうだし、俺に惚れているという噂も知っているだろう)


「神楽坂先輩、聞きたいことが」


 まずいな、と思った横でティラーが色めき立つ。


「しし、しっています! クォナ嬢! もの凄い美人だって! お淑やかで、控えめで、清楚で、理想の女性! 健気で儚げな、触れるだけで折れてしまいそうなか弱さを兼ね備えた、上流の至宝と言われる、絶対不可侵な女性だって! 先輩! 本当なんですか!?」


( ^ω^)………………………………。


 ふっ。


「そのとおりナノ! 凄い美人で! お淑やか! 控えめ! 清楚! 理想の女性! 上流の至宝! 健気! はなげ! 違う! 儚げ! 折れる弱さ! 本当! 本当! はははははははははは!!!!!」


「そうなんですか! うわぁ、会えるのかなぁ! その、あの、先輩に頼んで会えるように、とか……」


「いやぁ! ごめんね! 俺も友人なんだけどね! 騎士団のガードが固くて! 会って話をするのには騎士団に入るしかないの! 俺如きじゃ偶然話したりとか偶然遠目から見ることがぐらいかなぁ!」


「それでも偶然でも話したんですか! どうでした!?」


「うんうん、清楚を体現したと言っても過言ではないようかもしれないが、内に秘めたる力を至宝オーラを感じ取りそれを具現化したなりよ!」


「わぁ! 凄いなぁ!」


「…………」


 隣にいるユニアの視線が更に不審感を増したような気がする、くっ、犠牲を払ったのに。


「よ、よし! レティシア、解説をお願いするよ!」


 俺の様子にクスクス笑いながら、ウィズは続けてくれる。


「クォナ嬢の顧問就任により、結果連合都市は社会的信用を得て、副次効果がありました。それは部外者からの手出しができなくなった点です」


「物事はきれいごとでは進みません。その隙に付け込まれた組織は非常に多い、そしてそれは永遠に続く枷となります。しかも私たちは新興勢力、非常にその手の問題が多く、セルカ街長はことのほかそれを危惧されていました、その対処方法として、まず憲兵との協力体制を確立、武闘派と名高いタキザ大尉が率いる第39憲兵中隊が常駐するようになった点、そのおかげで連合都市周辺での不穏な動きが手出しができなくなった、反社会勢力からの独立が無しえたのです」


「そして、国家の有力者たちも同様、これは合法の力を持っているが故に対処が難しいのですが、その点においてクォナ嬢は我々に対してとても親身で協力的をしていただき、ご自身の立場を我々の為に使って欲しいとまでおっしゃっていただきました。結果、合法の力の抑止にも成功しています、ユニア嬢」


「は、はい!」


「ユニア嬢は私どもよりクォナ嬢の距離も近く同格の存在、彼女の名声に甘えるだけではなく、こちら側からも奉仕をしないといけません。ただ原初の貴族については私は無知もいいところ、ユニア嬢が我が連合都市に興味を持っていただけるのなら、是非その点について知りたいと考えております」


「か、彼女とは、そんなに、親交があるわけではありませんが、それでよければ」


 どこか腰が引けたようなユニアは珍しいし、自身も戸惑っている様子。そうか、何となくではあるが、ウィズの神格を感じ取っているのか。直系は、ウィズ神の降臨を聖都で受けているわけだからな。


 しかし流石ウィズだなぁ、こういう時って男は無言になるよね。


 とここで、レティシアは立ち上がる。


「神楽坂中尉」


「分かってる、忙しいところありがとうな、2人とも、連合都市は政治と教育の中心はウルティミス、そして商業の中心がマルスだ、行こうぜ、セルカもそこにいるよ」





 ウルティミスとマルスはホットラインを構築し、独自の道を開拓して、高速馬車を利用している。


 おかげでかなりの時間短縮に成功しており、格段に交通の便が良くなった。


 二つの都市を行き来することは、不便であると感じることもあるが、住民の交流という点において外せないものだ。


 さてこの直通道路は、マルスの居住区に繋がっている、遊廓ということで何処となく緊張した2人であったが。


「「…………」」


 マルスの馬車を降りて、居住区に足を踏み入れた時呆然と立っている。


「もっと汚いところを想像していたか?」


 以前はその想像のとおり、不潔の塊のような場所だったマルスの居住区。


 だが先日、居住区の工事が全て終了し生まれ変わったのだ。


 上下水道を整えて整備され建物も新しくなった。


 マルスを傘下に入れた後、セルカは既存の遊廓ではなく、まず居住区に資金投入、つまり衣食住の中で一番最初に住に着手したのだ。


 割れ窓理論。


 ニューヨークで導入されたことで有名な、この理論をこちらでも採用して徹底してインフラ設備を整えた。


 それはこちらでも同じだったようで治安維持に対して「清潔」を施策に取り入れたことは、タキザ大尉が感心していた。


――「汚い所には、汚い物と人が集まるんだよ、不思議なことにな」


 とのこと。


 さて、まず2人には最初に紹介したい人物がいる。


「さて2人とも、住の他に連合都市であまりクローズアップされないが、大事な部門があることがある、それが医療だ」


「無論、高度な治療を受けるためには専用の設備が無ければならないから、ここでそこまではできない。だがその判断が必要な高度な医療知識が必要なのは言うまでもないし、今から会ってもらう人物は、どっちかというと医者というより医学者として名を馳せているな」


 ここまで言えばわかるのだろう、2人がはっとする。


 ここで目的の到着する、新築された家とは違い、おんぼろのバラックの一軒家があった。


「ここだけは、思い出と言って譲らなくてな、結局そのままになったメディ診療所だ、邪魔するぞ~」


 と中に入った先。


「どうも~」


 とメディが出迎えてくれて、ユニアが答える。


「存じております。メディ女医、シェヌス大学医学部を無返済奨学金を得て卒業、アーキコバの物体の解明功労により国学大臣勲章を受勲し、先日エテルムの特効薬の開発に成功した、その名を学会に轟かせた天才医学者」


「ただのまぐれですよ~」


「ご謙遜を、貴方の論文を読ませていただきました。それだけで貴方の研究者としての能力を知ることができます」


「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、私は現場の方を評価して欲しいのですけど、そもそもアーキコバは神楽坂さんの発見ですし~」


「はい、それも伺っていますが」


 ここでちらっと俺を見る。


「たまたまだよ、趣味が高じてという奴さ、ちなみにメディは連合都市の医師を他に、学院の講師もしてもらっているんだ、だけど人使いがとっても荒いので気を付けるように」


「神楽坂さんは扱いやすいですから~」


「…………まあそんな感じで、風邪をひいたら是非こちらへどうぞ、ここの診療所でかかる診療代と薬代は、連合都市から出るからな」


 ってティラーが黙っているなと思って見ると、メディに対してどう話していいか分からない感じだった。


 そうか、彼女は亜人種のハーフだものな。


「さて、メディありがとうな、また何かあったら頼むよ」


「はいはい~、お父さんが遊びたがっていたのでよろしくお願いしますよ~」


「その時はよろしくな、じゃあな~」


 とここで俺は2人に向き直る。


「さて2人とも、次は連合都市の商業の中枢だ、セルカも待っているよ」





 ウルティミス・マルス連合会社。


 これは、以下の三つの企業が成り立っている。


 ウルティミス・マルス警備会社。

 ウルティミス・マルス流通会社。

 ウルティミス・マルス遊廓会社。


 これを全て統合して連合会社、全て拠点はマルスに構えている。


 警備会社は、トップをセルカとして、社員という形で都市民達を雇い、ルルトが剣術や体術を学び警戒に当たり、アルバイトとしての自警団員達がいる。


 流通会社は、俺達が乗ってきた馬車も管轄する、所謂生活必需品を窓口として流通業務を一手に引き受け、ヤド・ナタム商会長が取り仕切る。


 そして連合会社の資金源、遊廓会社は天河の楼主である、アキス・イミが専務として、それぞれの楼主を取り仕切り、セルカが実務を取り仕切っている。


 今度は、医療法人を立ち上げ、メディと調整を進めているそうだ。


 そして警備会社を窓口として、タキザ大尉とアイカがおり、常に目を光らせている。先日の人身売買組織壊滅により、その立場をより強固なものとした。


 凄まじい辣腕っぷりだ。


 その全てを体現しているのが、彼女。


 執務室に入った時、彼女は自分の机の前に立っていて、スッと丁寧にお辞儀をする。


「初めまして、ユニア、ティラー両修道院生、私はウルティミス・マルス連合都市街長、セルカ・コントラストです」


「ユニアです。それと私のことはユニアでお願いします、敬語も必要ありません」


「分かった、ティラーさん」


「はい!」


「貴方も辺境都市出身だと聞いています。手前味噌ですが、何かを学んでいってください。ユニア」


「なんですか?」


「貴方はサポート能力に突出したものがあると伺っています。さて」


 セルカはすっと、自身の執務机にある書類を指さす。


「これは1週間分の連合会社関係全ての報告書、これを2時間でまとめてね」


(2時間!?)


 これだけの量をたったの2時間って、だって、これをこなすためには、初めてでそんなことができるのか、ある程度内部事情に精通していないと出来ないはずだ。


「2時間でまとめて1時間で私がチェックして決裁印を押す、そうすれば丁度夕食に間に合う、私も今日はご相伴に預かる予定だからね」


 そうか、試しているのか、ユニアのサポート能力。


 さて、ユニアはどう答えるのか、と思ったが、にっこりと笑ってこう言った。


「助かりました」


「え?」


「30分でやれ、と言われたら流石に時間延長を申出ようと考えていましたから」


「あら頼もしい、貴方には執務室を用意しているの。この仕事を終わらせてから、身辺整理をお願いね」


「分かりました、という訳で先輩、失礼します。時間があれば、そちらの駐在官室にも顔を出しますので」


「ああ、分かった、セルカ、よろしくな」


 そのまま伴って2人は姿を消した。


 お互いに凄い気迫だ。


 ティラーも圧倒されている。


 うん、こういう時って男は無言になるよね。


「あの、先輩」


「ふむ、という訳で、我々がやることは一つ、自警団員詰所へ行くぜ!」


「詰所って」


「まあまあ、黙ってついて来いよ」


 と戸惑うティラーを半分引きずる形でウルティミスに戻り。


 そして戻った自警団員詰所という名のたまり場。


 そこに入った時だった。


「え?」


 ティラーが呆けるのも無理はない。自警団員達が待っていてくれたのだ。


 呆然とするティラーに俺はぐっと肩を寄せる。


「ティラー! お前の歓迎会だ!」


「歓迎会?」


「言ったろ? ここいる奴らは気のいい奴らばっかりだって、辺境都市の出身ってことで。んで、お前の仕事はこいつらと仲良くやることだ。セクのことも後輩としてよろしく頼むぜ!」


「先輩……」


「さて行くぜ、野郎ども!」


「「「おう!!」」」


「せーの!」


( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!

( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!




次回は20日か21日です。

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