第5話:ウルティミス・マルス連合都市:前篇
――ウルティミスへの道中の馬車内。
「というわけで! 彼らがリーケとデアンだ、ウルティミス自警団所属、私立ウルティミス学院の高等学院生! ちなみにまだ進路を決めていない親のすねかじり組」
「「余計なお世話だ!」」
「後は! 我が連合都市の希望の星!」
ここで俺はもう1人いるセクを引き寄せる。
「こいつが我が連合都市の初の修道合格者セク・オードビア! ティラー! 丁度お前がティラーの1年先輩にあたる、修道院での生活を色々聞いておけよ」
「よ、よろしくお願いします、ティラー修道院生」
「こ、こちらこそ」
とまだぎこちない感じ。
「「チラチラ」」
その一方でリーケとデアンがちらちらとある人物を見ている、気になってしょうがない様子、うんうん初心な反応でオジサン嬉しいよ。
「さて、最後に紹介しますはこの馬車の中での紅一点、ユニア修道院生だ」
という俺の声ににっこりとした笑顔で話しかける。
「初めましてユニアです。短い間ですがお世話になります」
ぽわわ~ん。←リーケ、デアン
「ユ、ユニアさん! 是非自警団にも遊びに来てくださいよ!」
「是非是非! 男だらけのむさくるしい所ですけど!」
「はい、時間があれば是非遊び行きますね」
ニッコリとした笑顔に再びぽわわ~んとなる2人。
うん、しっかり猫を被るとは流石女の子だ。
と軽口はここまでにしてと。
「さて、到着してからの行動を確認するぞ、荷物整理の後、連合都市を案内する、それが終わればティラーは、自警団員に所属してもらうことになる、自警団員に所属させる理由は、お前はこれから国家の中枢へ向かって進むからな、そのために、最前線を味わっておけ」
「は、はい!」
「というのは建前で」
「え!?」
「楽しんでくれ、思う存分、な」
「…………」
「ユニアは、案内後、そのままセルカに会わせる段取りを組んでいる、そしてセルカから一つユニアに伝言を預かっている」
「伝言?」
「お前は自分の秘書を担当してもらいたいそうだ」
「秘書ですか?」
「ああ、お前に向いていると思う」
「ちょっと待ってください、二つほどいいですか?」
「どうぞ」
「秘書が不在とはどういうことです? まさか1人で切り盛りしているのですか?」
「以前はレティシアに頼んでいたのだが、彼女は私立ウルティミス学院の主任教員としての業務にあたることになってな。そちらに専念してもらっている」
「代替要員はいないのですか?」
「いない」
「理由はなんです?」
「能力不足だ、ってこの場合は適正不足といった方がいいか、恥ずかしながらね」
「……ならば先輩がその代替要員としては?」
「能力不足だよ、これは正真正銘、恥ずかしながらね」
「…………」
「2つと言っていたな、もう1つは?」
「セルカ街長の秘書業務というのは、必然的に都市の中枢部分に関与することになります。私に手の内をさらしてもいいのですか?」
「そこらへんはセルカはちゃんと考えているから大丈夫だろう」
「セルカはちゃんと考えているって、なら先輩は何を考えているのですか?」
「俺の噂は知っているだろう?」
「っ!!」
「別に卑屈になっている訳でも「プレッシャー」をかけているわけじゃないよ、まあ頭で考えすぎず、自分で判断して自分で決めてくれ、ユニアに対しての俺の指示も変わらないからな」
「え?」
「楽しんでくれ、思う存分」
「……それが監督生としての判断なら、従いますよ」
という2人の会話を遠巻きに見ていた3人。
「どうしたの?」
全員が顔を見合わせて、セクが口を開く。
「な、なんか、いつもの団長じゃないみたい」
「色々あるんだよ、って見えてきたぞ」
馬車から身を乗り出して景色を見る。
「ウルティミス・マルス連合都市だ!」
●
ウルティミス・マルス連合都市。
格付けは4等、都市能力値は王国の4等都市の中でナンバー1。
俺はまず、都市の中に入らず外壁をコンコンと叩く。
「この壁は先日やっと完成したばかりでな、俺が来た時とウルティミスとは違い、壁も強固に作り直したんだ。かつての山賊団の襲撃は元より、外敵の排除と脅威となるためだ。色々と防御装置を兼ね備えているのだが、細かいことは企業秘密だ」
「そして街への出入口は一か所しかない、これは都市へ出入りを管理を容易にするためと、ここ自体にそこまでの出入りする人物が多くないからこそできる手法だ、リーケ」
「はいはい」
と慣れた手つきで門を開いてくれた。
「ありがとな、リーケとデアンは、馬車を厩舎に入れたら、適当に過ごしてくれ。自警団員達に俺達の到着の伝言頼む」
2人は「分かった」と返事をすると「ユニアさん! 絶対に来てくださいね!」と手を振りながら馬に軽く鞭を入れると、そのまま後にして、俺達3人が残された。
「ユニア、出来れば一回ぐらいは顔を出してくれよ」
「時間があれば」
「ま、今はそれでいいよ、まずは俺の拠点に案内するよ、同時に2人はそこで寝泊まりをしてもらう拠点でもある、言っておくが綺麗なところは期待しないでくれよ」
●
俺がウルティミスに来てからの拠点。
そこはウルティミスの名もなき湖、その湖畔に建てられている古城だ。
「ここが俺の住んでいる所であり、仕事場でもある。湖畔の古城で石造の2階建て、ちなみに由来はよくわかっていない。ウルティミスが出来る前からあったのか、後から出来たのかも分からないんだそうだ、だけど温かく、それでいてほんのちょっぴりの廃墟感がたまらなく好きなんだよね」
「んで、近くから伸びている橋からの釣りがお勧めだ。ここから釣れる魚が美味くてな、副官の武官軍曹が美味しく調理してくれるから、期待してくれよ、あ、今日の夜飯はここでその副官が振舞う予定だから楽しみにしていてくれよ!」
――1階・資料室
「ここが資料室という名の図書室だ、ここにある本は歴代のウルティミス駐在官が退職する際にそのまま置いていった色々な本がある。娯楽本から真面目な歴史書まで様々だ、色々面白い本も多くてな、自由に読んでくれて構わないぞ、自室に持ち込むのも問題ないが、大事にしてくれよ」
2人にそう紹介した時だった。
「貴重な本がいくつかありますね」
と言い放ったのはユニアだった。
「へ?」
「パッと見ただけでも何冊か、先輩、自室に持ち込む冊数に制限はありますか?」
「いや、特にそういった決まりは」
「分かりました、それではお言葉に甘えて、それと、大事にしてくれと言いながら、強引に突っ込んだりしていて、大事にしているとは言い難いですね、本は決して安価ではありません。その点について先輩はどう考えていますか?」
「ど、どう考えって」
「その様子だと特に考えている様子ではありませんね。いいですか? 本は生きているんです。ただの言葉の羅列ではない、作者が本当に伝えたい気持ちが何なのか、それに思いを馳せることもまた、読書というものなのですよ。本を大事しないというのは作者を大事にしないという事なのです」
「す、すみません、えっと、その整理は」
「それは時間が空いた時に私の方でやっておきます。先輩は大雑把な性格だと聞いています、整理しても余計に本の為になりませんので」
「は、はい、お願いします」
うむむ、趣味は読書って言っていたけど、こう、よくある感じに書いたんじゃなくて、本当に本が好きなのか。
「先輩、掃除用具は何処にありますか?」
「え? えーっと、1階は資料室以外は倉庫だけで、備品が入っているから中にある筈、だから自由に使っていいよ」
「分かりました、繰り返しますが、清掃関係は私がやります。先輩は手出しをしないように」
「は、はい……」
ううむ、やっぱりイニシアティブを握られた感があるが。
「まあいいや! 次は2階だ、ここが居住スペースになるぜ!」
と資料室脇の階段を上っていくと階段あがったすぐに廊下があって、その奥には交互に木製の扉が設置されている。
「まずは、荷物だけでも置いてくれ、簡単な個室だけど、必要最低限の物が揃っている、掃除しておいてくれたから、1人でいる分には十分な広さだと思う」
と扉を開ける。8畳ほどの広さにベッドと机と本棚と衣装棚の造りになっている。2人はおずおずと荷物を置くと、再び階段脇のすぐのドアに立つ。
「さて、次が職場だ」
と意気揚々とガチャリと開いた先に我が相棒が立って待っていた。
「フィリア軍曹、先日話した俺の副官、フィリア・アーカイブ武官軍曹だ」
俺の紹介を元にルルトはつかつかと歩くと挨拶をする。
「ボクはフィリア・アーカイブ武官軍曹、よろしくね」
「ティラー修道院生です! よろしくお願いします!」
「ユニア修道院生です、お世話になります」
「と、固いのはここまでだ、ねえイザナミ」
「そのとおりだ、結構広いだろ? 入ってすぐに俺達駐在官の席があって、その横には……」
遊び道具やらボードゲームが散乱していた。
「たはは、まあこんな感じで、自警団員達のたまり場になったり、テラスも併設されていて、そこで昼寝したりしているんだよ」
とここでガチャリと扉が勢いよく開く。
「「「「フィリア兄」姉」ちゃんあそぼーー!!!」」
と子供たちが入ってきて、ルルトが頭を撫でる。
「まあこうやって、毎日を過ごしてるよ、そんなわけで、聞いていると思うけど今日の夕飯はボクが作ってここで食べるからね、じゃあねイザナミ~」
と子供たちを伴って執務室を後にした。
「…………」
ちなみにユニアはずっと無言だったが。
「なんか、故郷に似てますね」
懐かしむような口調、これはティラーの言葉だ。
「そうなのか?」
「はい、ピガンの駐在官も子供の頃からずっと一緒の人で、そろそろ定年を迎える軍曹で、街長と仲良くて、いつもゲームをしていますよ」
「そっか、良い故郷なんだな」
「はい」
「…………」
「先輩?」
「いや、何でもないよ、次に案内する場所は、ルルト教会だ」
●
ルルト教会、ルルト神のための教会。
王国でたった一つだけの教会だ。
「1年前の神々の小競り合いで壊れてしまってな、新しく作り直したんだ。街長が司祭を兼ねていてセルカの住居もここにある、彼女は今、連合会社の方に詰めていていないけどね、ここは連合都市の重要意思決定を行う場でもあるのさ」
俺の説明を聞きながら2人とも物珍しそうに見ている。
「異教の教会は初めてか?」
「はい、ただ紋章が違うだけで、中は変わらないんですね」
とはユニアだ。
「2人はルルト神話は知っているか?」
今度はティラーが答える。
「知っています、統一戦争の敗戦国の民にルルト神が加護を与えて、当時の王国軍の追撃を逃れて、ここに街を作ったと」
「そのとおり、困難な状況でも笑顔を忘れない胆力と団結力、それは今でも受け継がれているのさ、1年での大躍進もこれが大きい」
「先輩、ルルト神はウィズ神と違い偶像が無いですけど、何か理由があるんですか?」
「んー、どうなんだろう、偶像を作らない神の方が多いからなぁ、理由はそうだな、照れくさいとかじゃないか?」
「そんなまさか、でも、ルルト神も今や知らない人はいないですからね」
「そのとおり、連合都市躍進のきっかけとなったのが」
「ルルト教とウィズ教と友好関係締結ですね」
今度はユニアが答える。
「そうだ、これで異教徒の問題がほぼクリアとなったんだよ」
「そして記録されている人類史上で神々が友好関係を結んだ実例は存在しない、つまり初の出来事。先輩はその神々の橋渡しを行い、その功労から政府5級勲章を受勲し、結果ウルティミスは、ウィズ神からも一目置かれる都市として注目を集めることになった。その注目のとおりに、結果を出し続けている」
「凄いよな、セルカもそうだけど、周りの人間もだ、懇談会には参加したんだろ?」
「はい、王子の側近たちは一際注目を集めていました。そうそうたるメンバーですね」
「ウチの部下の1人と拝命同期も含まれているからな、上司として拝命同期として鼻が高いぜ」
「存じてます、アイカ・ベルバーグ武官少尉とレティシア・ガムグリー文官二等兵ですね」
「そうだ、次はそのレティシアと会ってもらう。彼女が普段勤めている場所がルルト教会に併設する形で建てられているのが私立ウルティミス学院だ」
次回は17日か18日です。