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第4話:2人の可愛い後輩達



「モストの妹!?」


 思わずでかい声でを上げてしまいジロジロと見てしまう。


 背の高いアイツの妹って割には背が低く、可愛いけどその大きな目が気が強そうな印象を受ける、兄とはあんまり似てないような、その点に突っ込んでもいいものなのか。


 ん? となるとあの時のユサ教官のあの質問って、まあそれは後で考えるとして、それにしても妹か……。


「妹は分かった、だけど色々と大丈夫なのか?」


「兄様のことは気になさらず、兄様も私も好きでやればいいので、当然お父様も関係ありませんから」


「…………」


 あ、そうだ、思い出した。確かクォナが以前言っていたじゃないか、モストにはサポート能力に目を見張るものがある妹がいると、たぶん彼女がそうなんだろう。


 実は当時同期達の間でも実は噂になっていたのだ、モストの首席にはサポートをした妹による功績も大きいと、クォナに言われるまで半信半疑だったが。


 まあ、当然モストにそんなことを言えるわけが無いから誰もそのことには触れなかったけど……。


「…………」


 とはいえどうする、まあ、どうするって、選択肢は一つしかないが、まさかモストの妹が来るなんて思わなかった。


「2人とも、本当に俺でいいんだな?」


 2人ともコクリと頷き、俺はため息をつく。


「分かった! もう四の五の言わない! じゃあまずは定番の自己紹介からだ! 俺は神楽坂イザナミ、階級は文官中尉、役職はウルティミス・マルス駐在官、趣味は旅行と食べ歩き、んで自警団員達とのボドゲにもハマっている、よろしくな!」


 という自己紹介を終えると最初にユニアが発言する。


「先ほども言いましたが、私はユニア・サノラ・ケハト・グリーベルトです。出身は首都、貴族枠で入学しました。趣味は読書です」


「私はティラー・グダユトです! 出身はピガン5等都市出身! 一般枠で入学しました! 趣味は演劇鑑賞です!」


 とそんな無難な自己紹介を終わらせる。


「さて、次は質問タイムだ、俺に何か聞きたいことがあれば答えるぜ」


「神楽坂先輩! 先輩は普段は何をしているのですか?」


 いの一番に手を上げてこう言ってきたのはティラーだ、ちなみに修道院生は階級に関係なく監督生を「先輩」と呼ぶのだ。


 もちろんティラーの質問に俺は笑顔で答える。



「起きたい起きて、寝たいときに寝て、自警団員達と一緒に遊んだり、釣りしたりしているよ」



「え!?」


 ティラーはびっくりして目を見開いて固まる。


「どうした? 駐在官ってのは、住民との交流が仕事だぜ」


「ご、ご謙遜を、ウ、ウルティミス・マルス連合都市は、たった1年で、凄まじい功績を上げていて、先日も、次期国王の便宜をへたファシン・エカー率いる曙光会の中核の人物と王子との」


「それは俺じゃなくて、街長の功績だよ」


「け、憲兵と協力して、遊廓からの反社会勢力の徹底排除を」


「それは、俺の拝命同期と頼りになる上司たちのおかげ」


「駐在官が学院と協力して! 確か合格者がついに出て!」


「それは頭脳明晰な部下の手柄」


「分け隔てなく孤児院の受け入れを」


「それは貴族の友人のおかげ」


「都市民と、子供たちと仲良くして、自警団員達とも」


「ははっ! それは俺だね! もう1人の武官も同じだ!」


「かか、神楽坂先輩は、王子との繋がりや、ワドーマー宰相とやりあって勝ったという話で!」


「繋がりじゃなくて友人としてな、後者はただのデマだよ」


「その勲章……」


「全部まぐれだよ、嘘じゃない、見てみろ? 今の光景を」


 たった2人だけ、今頃モストは大講堂に残り、多数の修道院生達を相手にしているだろう。


「俺がもし本当にそれこそ王子と友人を超えた付き合いがあって、便宜を図ったりする間柄だったら、ワドーマー宰相とやり合って勝てるほどの相手だったら、それはもう国家クラスの人物ってことだ、それこそ「モストも無視は出来ない」存在となるはずだ」


「…………」


 ティラーは俯いて黙っている、ごめんな、嘘じゃないが、本当の事でもないんだ。思えば、俺は仲間に恵まれたものだ。


 さて、問題なのはここからだ。


 前に述べたとおり、監督生がどう修道院生を指導するかは一任されている。


 一任とは文字通り、好き勝手やっていいってことだ。



 それが例え、本来監督するべき修道院生にへりくだることも含めて。



 モストは凄かった。当時の首席監督生以外全員を手下にして、完全に立場が逆転していたっけ。そんな暴君としてのモストの振る舞いに、当時は「腐ってんなぁ」とか思ってたなぁ。


 だが無理もない、原初の貴族は恐ろしい、それがこの国の不文律だ。


 だが俺も一応、偉大の系譜に名を連ねる原初の貴族の当主ではあるが、その威光は全て他人様の物で、例外的な存在にすぎない。


 だからこそユニアの場合は俺につくのは問題ないだろう、モストの不興を買ったところで「兄弟喧嘩」だ。そもそも本来なら彼女自身の不興を買わないように動かなければならない相手だからだ。


 となれば問題なのはティラーだよなぁ、どうするか。


「神楽坂先輩、一つ聞きたいことがあります」


 とここで発言したのはユニアだ。


「ん、何?」


「モスト兄様」


「え?」


「モスト兄様について神楽坂先輩の所見を聞きたいです」


「…………」


 びっくり、ここで兄貴のことを聞いてくるとは思わなかった。


 うーん、どうするか、正直に言ってもいいが、ユニアは実の妹なんだよな、アイツにだって兄貴のメンツがあるだろうし、ユニアだって兄を悪く言われれば気分が悪いだろう。


 親父さんにも後ろ盾になってもらっているし、恩はあるからな、それぐらいの義理は通すか。


「流石首席殿だよ、後輩の面倒見もいいし人望もある、今回も監督生として着々と将来に向けての人脈を広げているみたいだからな」


「はぁ?」


「へ?」


「先輩、私は先輩について状況に応じて臨機応変に相手の心理を見抜く能力という点について突出するものがある、と判断したのですが、それを本気で言っているのなら間違っていると言わざるを得ませんが」


「え!? えっと、えーっと、いやぁ、別にさあ、嘘ってわけじゃないよ、修道院は政治的運用の場でもあるから、アイツの振る舞いもー、理解できるというかー」


「つまり七光りってことですよね」


「そ、そんなハッキリと、いやその、生まれついたコネクションとか、親の威光を利用するのは、別に欠点ばかりじゃないし、むしろそれを利用して勢力の拡大を」


「いやいや、全然自分の勢力をコントロール出来てないじゃないですか、自分の周りにイエスマンばっかりで将来どうするんでしょうね」


「うえ!? い、いやぁ、どうなんだろうなぁ、アイツもアイツで当主の重責があるからなぁ、肩ひじ張らないといけないんじゃないかなぁ」


「どう考えても器じゃないですよ、お父様を尊敬しているのは分かりますが、そんなんだから劣化コピーとか言われているんですよ、知らないんですか?」


「し、知ってますけど、そのー、あのー」


「先輩がモスト兄様と仲が悪いって、先輩も要はそこが嫌いってことですよね?」


「はえ!? う、うーん、どうなんだろう、あーでもいや、君の兄貴は努力家だったよ?」


 ってなんで俺がさっきからモストのフォローをしなきゃならんのだ!


「大体兄様は」


「ねえ待って!! ちょっと待って!!」


「なんですか?」


「あ、あのさ、な、なんか兄貴に、厳しくない?」


「そうですか? 妹なんてそんなものかと」


「…………」


 そういえば前に自警団員達と「妹にお兄ちゃんって呼ばれるのは男の浪漫」という話をした時のこと、リアルに妹がいる奴らは、全力で拒否した上に最終的には虚ろな目をして天井を見てたっけ。


 思えばクォナも兄貴には厳しい、まああれは兄貴が全部悪いんだけど、な、なんか、妹ってそんなにいいものじゃないかも。


「まあ、さ、モストについては置いておこうよ、ね?」


「まあいいいです、私の所見と一致することは感じ取れたので」


「ど、どうも、なら今度はこっちが聞きたいことがあるんだ」


「なんですか?」


 さて、ちょっとここは言葉を選ばせてもらうか。



「ユニア、この何故状況について何も言わないんだ?」



 ここでユニアは驚いて目を見開き、隣のティラーは「?」と首をかしげて問いかけてくる。


「あの、神楽坂先輩、今のはどういうことですか?」


「ユニアがここにいることだよ、だから今の状況は明らかに変だろ?」


「え、それは、妹だから」


「ティラー、神楽坂先輩は、それが聞きたいんじゃないの」


 とここで遮ったはユニアだった。


「え? なら、なにが」


「ちょっと黙ってて、考える」


「か、考えるって……?」


 戸惑うティラー。流石、今の言葉で一発で気づくとは、やっぱりそうだったのか。ユニアは、少し考えた後、こう返した。


「失礼を承知で申し上げれば、私にとってはこれ以上ない都合のよさがあったからなんです。だからこそ、この状況を生み出さないために、何かしたという事はありません、まずはそれをお詫び申し上げます」


 ここでティラーがはっとする。


「あ、なるほど、少数の方がやりやすいってことか、サノラ・ケハト家の関係上」


 ティラーは感心している。一方の俺は素直に驚いていた、凄いな、それを言い切るとは流石直系。


「更に失礼を重ねて申し上げれば、私は、神楽坂先輩を選んだわけではありません」


「え?」


「別の目的があり、そのために神楽坂先輩を自分の監督生として選びました」


「というと?」



「私はウルティミス・マルス連合都市そのものに、そして何よりセルカ・コントラスト街長に興味があったからなんです」



「セルカに?」


「私は奇跡という言葉が好きではありません。ですがウルティミス・マルス連合都市はまさに奇跡としか言いようがありません。その立役者であるセルカ街長はその奇跡の体現者、いえ」


「奇蹟の体現者」


「…………」


「ウルティミスの都市能力値はほんの1年前まで最下位だったんですよ、それが今では、4等都市ではもちろん、王国全域でも上位に食い込み、フォスイット王子との繋がりまで持ちえて、まだ伸びしろしかない状況」


「ユニア、王子が与えた便宜はセルカじゃなくてファシン・エカーだぜ?」


「ファシンは優秀で有能な政治家ではありますが、王子が便宜を図る理由にはなりませんね、あの御方は為政者としてよりも情を優先される方ですから」


「そこがいいんじゃないか、友人としての名誉は、俺自身も誇りに思っているよ」


「原初の貴族の直系としては、正直不安な部分もあるんですよ」


「ははっ、それも道理か」


「だからこそ、王子が「対等と認めた」セルカ街長をすぐ傍で見てみたいというのが理由です、そして神楽坂先輩はセルカ街長に一目置かれていると聞きました。是非口利きをお願いしたいのですが」


 真剣な表情で見つめてくる、もちろん俺の答えは一つだ。


「よっしゃ分かった! セルカに引き合わせるよ!」


 これはまさに渡りに船だ、まさかこんな話が向こうから舞い込んでくるなんて。


「いやぁ、凄い! セルカはどんどん国家の有力者に興味を持たれる存在になっているってことか! 凄い凄い!」


「い、いいんですか?」


「もちろんだ! 折角だから、セルカだけじゃない他のメンバーとも交流を深めてくれ、全員ただものじゃないぜ!」


 ウキウキ顔の俺に驚きを隠せない様子でジーッと見てくる。


「怒らないんですか? 相当失礼なことを言ったと思ったんですが」


「ん? ああ、いいのいいの、気にしないで、むしろ俺に付いた理由が分かって納得したぐらいだ、それに何より仲間に興味を持ってくれたことは素直に嬉しいんだよ!」


「……なるほど、そういう部分も噂通りなんですね」


「? となると、これから指導作成書類を作らなくてはいけない、んーー、メンドイが仲間のためならしょうがないか」


 という間もなくユニアからスッと書類を差し出してきた。


「ん? なにこれ?」


「快諾ありがとうございます神楽坂先輩、その為の計画書は既に作成済みです。先輩は書類作成が非常に苦手であると伺っていますので、無礼のお詫びとして用意しました。政治的繋がりがない、いえ「必要ない」先輩だからこそ、この状況を利用し、かつ監督生としての目的を達成するための起案内容となっています」


「お、おおう」


「ユサ教官は聡明な方です。恐れず理を尽くして説明すればこの計画書に異を唱えることは無いと思います、交渉術については私がアドバイスをします。もっともやってはいけないことは、逃げることですよ。先輩は修道院生時代、反省文書くの面倒という理由で、イベントがあったらどさくさに紛れて逃げようとして3回も捕まって余計に怒られていますよね?」


「は、はい」


「それをして余計に怒られるとは思わなかったんですか?」


「その、すみません」


「いいえ、そのエピソードを聞いたからこそ、分かったことがあります」


「はい?」


「神楽坂先輩は極端な振れ幅があると見ました、それを含めた上でいい案だと思いますが、一読の上、適宜質問を交えてお願いします」


「…………」


 なんだろう、既にイニシアティブを握られた感があるが。


(とはいえ手間が省けるのは大歓迎、しかし丁寧な字で良く書けている上に内容も分かりやすく頭に入ってくる)


 実は、俺につく監督生には徹底して無気力っぷりを見せて、早々に見切りをつけさせる算段だったのだ。


(と思っていたが、原初の貴族の直系の方から興味を持ってくるというまさに棚から牡丹餅! しかも監督生としての寝食を共にするのが、本拠地というのもまた都合がいい!)


(ユニアはセルカにつきっきりになる、つまり俺はいつものとおりの日々を送れるという事だ、よーし決めた! この書類はこのまま教官のところへ持っていこう!)


「ティラー!」


「は、はい!」


「今回の俺の監督生としての活動場所はウルティミス・マルス連合都市だ! いいな?」


「は、はは、はい!」


 とここでティラーにこっそりと耳打ちをする。


「お前には、自警団に研修という形で入って、男の浪漫団に仮入団という形にしてやろう、全員明るくて気のいい奴らばかりだぜ」


「お、男の浪漫団?」


「女の胸や尻や足首とかの話をするの! 早速、リーケとデアンに連絡して、蔵書を増やさないとな」


「ぞ、蔵書って?」


「蔵書はネルフォル・デルタントの童貞を殺すセーターからの横乳にするか! あ、お前巨乳派?」


「ええー!!」



「先輩、途中から声がでかくなって丸聞こえですが」



「ビクッ! よし! さっそく教官にお願いしてみるぜ! 許可が出れば、俺の贔屓の食堂の店に親睦を深めるついでに一緒に食べに行こうぜ、奢るぜ!」





「ふむ、お前のところはユニアとティラーが付いたのか」


 ユサ教官は教官室で、書類を受け取り一読して机に置く。


「はい、正直1人も来なければどうしようかと考えていたのですが」


「1人も来なければお前は喜んで首都で遊びほうけるつもりだったんだろうが、ついたところで、大方仕事を全然しないで相手から切らせる算段だったんだろう?」


「(バレてる……)え、えっと、まあ、それはユニアが来たことで、変更することになりましたが」


「具体的にどう変更することになったんだ?」


「ユニアは、私が駐在官をしている連合都市の街長のセルカに興味を持っています。原初の貴族の直系がですよ? こちら側から関係を構築しなければならないのに、向こうから興味持ってくれた、こんなに嬉しいことはないですよ」


「お前の駐在官としてのスタンスに一つ疑義がある」


「なんです?」


「官民の癒着、という誹りを受けかねないと感じる点だ」


「問題ありませんね」


「ほう、どう問題ない?」


「駐在官の長所は癒着しないと仕事にならないところです。それはアイカ武官少尉やレティシア文官二等兵が証明して結果を出しています。それに官民癒着の誹りはいくらでも交わす用意がありますので」


「…………」


「教官?」


「それはお前が交わすのか?」


「え!? い、いえ~、頼りになる街長が中心となって」


「そうか、駐在官を辞退しようとした時の言葉と「重み」が違うと思ってな。お前が関わるのかと思ったよ」


「ぎくっ! ま、まさか~、重みなんて、ないですよ~、だから最下位なんですから」


「この計画書の作成者は誰だ?」


「え!? それはもちろん……ワタシデス!」


「…………」


「…………ユニアです」


「だろうな、重みが違うからな、しかし躊躇なくこれを持ってくるとは本当にお前は」


「まあでも、それを抜きにしても良くできています、ユニア自身の立場、それを私に付いた人数も少ないこと、モストとの兼ね合い、それを利用して目的を達成するという形を基に上手に建前を構築していますよ」


「その点については私も同感だ、お前が活動拠点として首都にすると、モストとかち合うからな」


「モストはどんな感じなんです? 結局、どれぐらいの人数がついたんですか?」


 ここでユサ教官は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「文官課程はお前の班以外全員モストにつくことになった、まさかここまで偏るとは思わなかったよ」


「全員!?」


「正確には他の文官監督生達を人数分の班に分けて班長に任命、その班ごとに修道院生達を均等につかせるという配置を取っている」


「…………」


「神楽坂?」


「教官、確か今回貴族枠での監督生はいませんよね?」


「そうだ」


「ひょっとして、モストは貴族枠の修道院生達を自分の班に入れているとか?」


「ご明察、今は全員を連れて首都に繰り出している」


「繰り出すって」


「既に首都の貴族御用達の5星レストランを貸し切りにしている」


「え?」


「どうした?」


「変ですね」


「変か? 自分の立場を作るために金を使う、男の世界じゃ基本中の基本なんだろう?」


「その通りですが、だから変なんです、貴族の家同士は個人間で仲のいい人物はいるようですが、家同士となると利害や思想がぶつかることもあるから関係はかなり複雑なはず」


「モストの心配よりも自分の心配をしろ神楽坂」


「…………」


「それとここに来た用件を言え、まさか書類を出しに来ただけ、という訳ではないだろう?」


「はい、教官、まずユニアの原初の貴族の直系についての動きを教えて欲しいのですが」


「その様子を見るとある程度は感づいているか、察しのとおりユニアは、貴族枠としてはかなり特殊でな、一切のコネクションを作らなかった」


 と始まるユサ教官の所見。


 サノラ・ケハト家は、原初の貴族の中では実は最小規模、だが専権という意味では原初の貴族最強の特権を持っている。


 その特権とは予算監査権及び予算決定権。


 公共分野においてどの予算をどう配分してという使うのかということを調査し認定する最終決定権者だ。


 これがどれだけ凄まじい特権であるかは言うまでもない、金が無ければ何もできないのだから。


 同時に一番悪意にさらされる家でもあり、王国で一番嫌われている原初の貴族でもある。


 サノラ・ケハト初代当主は、嫌われるということに誇りを持ち、病的とまで揶揄されるほどの中立性を持ち、初代国王以外と会話すらしなかったという。


「そういう意味において、その特殊さを不思議と思うことはなかった。だからこそユニアがウルティミス・マルス連合都市に興味を持っていたという事自体が一番驚いたことだな」


「驚いたって、教官も同期もご存じなかったんですか?」


「ああ、徹底して自分を秘匿する、というのがアイツの印象だな」


「…………」


「神楽坂、その点についてお前はどう考えている?」


「……仲間に興味を持ってくれて嬉しい以外の感情はありませんよ」



「ユニアのそれが方便であり、サノラ・ケハト家の意志は考えられないのか?」



「…………」


「先ほども言ったが、後ろ盾を得ているサノラ・ケハト家の直系ユニアがお前と「組んだ」というのは、相当な衝撃でな」


「あ、なるほど、やっと合点がいきました」


「え?」


「さっきの「モストへの心配」のことですよ。モストに全員が付くのがおかしいと思っていたんです。これで違和感が無くなりましたよ」


「待て、お前は何か知っているのか?」


「何も知りません、ですが今でのはっきりとしました」


「は?」


「彼女が家の思想は関係なく個人で動いていることは間違いないでしょう、私自身も教官と同様それが懸念していたのですが、それが無くなって何よりです」


「ど、どういうことだ?」


「ただの勘です」


「…………」


「別にあてずっぽうではないですよ、まあ任せてください。ちなみに教官、ユニアの成績はどれぐらいです?」


「恩賜組ぎりぎりと言ったところだ。恩賜組に入るか入らないかはお前の加点に関わってくるだろうな」


「分かりました、一応聞いておきますがユニアの希望部署は?」


「当然知らん、恐れ入るよ、噂でも流れてこない、だから希望調査の際にそれが判明することになる」


「その希望調査って、監督生は知ることができますよね?」


「そうだ、それも大事な監督生としての仕事だ」


「分かりました、次にティラーのことについて伺いたいのですが」


 ティラー・ユダクト。


 彼は出身はピガン5等都市。


 都市自体は特筆すべきところはない。主要産業は畜産業で、自分のところに教育機関が無いため、他の都市に通いで通学している。


 都市自体は徐々に衰退の一途を辿っていたが、起死回生、辺境都市で初めての合格者が出て、それがティラーだった。


(ウルティミスと似ているな……)


「どういう奴なんです?」


「性格は純朴な田舎の青年、という感じだ、とにかく一生懸命でな、自分の故郷の期待を一身に背負って、それに応えるように頑張っている。だからお前に付くと聞いた時、ウルティミスで何かを掴みたいと思ったのだろうな」


「ティラーの希望は何処なんですか?」


「経済府だ、いずれは故郷とのパイプを構築したいと考えているそうだ」


「王国府に次いで人気なところですね、成績はどうなんです?」


「……真ん中よりかは上だが、お前の加点が満点をつけて、ギリギリのライン、と言ったところだ」


「……そうですか」


「言っておくが、監督生の加点については審査が入る、そして審査官は私だ」


 監督生でも、どうしても自分が面倒を見た後輩には情が移ってしまう。その甘さを正すために監督生達にではなく、ユサ教官のように1人統括官として存在している。


「分かっています」


「まあ、経済府ではなくても故郷に貢献できる部署はいくらでもある、そこを探して何とかしろ、成績は悪いわけじゃない、選択肢はいくらでもある。それはアイツ自身も分かっているからこそだろうからお前を選んだのだろう、他の質疑はあるか?」


「ありません」


「後は報告大会を楽しみにしているぞ」


「まあ、それはモストの圧勝だと思いますが」


「それも含めて楽しみにしている。出立はいつだ?」


「2日後の朝に出発します。制服を届けに来てくれた自警団員にそのまま出立準備を頼んでいますので」


「…………」


「教官?」



「お前は、政治的な意味が含まれなければ監督生に向いているかもしれないな」





次回は14日か15日です。

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