第1話:精鋭たちの降誕
――合格者懇談会
修道院の建物の配置はシンプル。
校舎と大講堂と屋内運動場と屋外運動場と寮。
今俺達がいるのは大講堂周辺、合格者は既に講堂内に集められており、周辺には大講堂への入場許可を待つという体で都市の有力者が集い、お互いの人脈を構築する政治的な場、修道院絡みでのいつもの風景。
修道院生というただそれだけで上流からは無条件に「将来の自分のパートナー候補」として見られる。だからこそ修道院合格者誕生は都市を挙げての一大イベント、自分の都市能力値を都市外にアピールできる最も有力なステータスだからだ。
つまり合格者だけではなく、周囲の者にとっても自ら掴んだチャンスの場であるが……。
「っぷ、団長、これ」
リアルに口を押えて辛そうにしているのはリーケ、デアンも隣で辛そうにしている。
「な? 凄いだろ? 性に合わんのよこの空気、我慢してくれ2人とも、セクのためだ」
「うう、好奇心で入るんじゃなかった」
「セクは、これからこんなところに入るのか」
辛そうにしているが無理もない。俺も慣れるまでいや、結局慣れることなんてなかったけど耐える以外に方法が無い。
血で血を洗う戦いなんて言うが、修道院は血を一切出さないだけの、泥沼の人間関係戦争だ。
だが一方で、この場に適合し飛躍した人物も多数いる。人脈を売りにするウルヴ文官少佐なんかはその典型例だ。
(さて、そろそろか……)
と思った時だった。
「お、おい、あれは」
小さな、それでも大きく響く来場者の声で全員がその場に現れた人物達に注目が集まる。そこにあるは3人の姿。
「やはり来たか……」
「レギオンとウルリカ、毎年修道院生を輩出しているからなともかく、この場に姿を現すのは初顔であり新米、だが黒い噂が絶えず、それでも一目置かれる存在となった」
「セルカ・コントラスト、ウルティミス・マルス連合都市の街長!」
「数が絶対正義の世界で、少数絶対を実現させた、王国議会の台風の目!」
「まて! 曙光会はファシン・エカーだぞ! フォスイット王子の便宜を得たのは彼だ!」
「だが口利きをしたのは彼女何だろう? フォスイット王子との橋渡し役だ!」
「まま、まて! それは噂だろう!? いくら何でも4等議員如きに荒唐無稽すぎる話だだ!」
と全員が噂する中、視線は隣の人物に注がれる。
「隣にいるのは、アイカ・ベルバーグ武官少尉だ」
「セルカ街長の警護役としてきたのか、修道院の恩賜組出身でありながら、武闘派集団に籍を置き、数々の鉄火場をくぐり、今では中隊の要にまでなっているというぞ」
「その隣にいるのは、レティシア・ガムグリー文官二等兵だ」
「今回の連合都市初の修道院合格者を出した功労者、私立ウルティミス学院の主任教員も兼ねていると聞く」
「文官二等兵? 修道院の合格者を出した教諭がか? どういうことなんだ?」
「色々と謎の多い人物らしいぞ」
と数々の噂の中だった、とある馬車が指定場所に止まる。
さて、次は誰が来るのかと、その馬車を見た時だった。
「……え?」
誰の声だろうか、全員がその馬車に刻まれている紋章を見たはずなのに、なんのことだか、分からなかった。
「「「!!!!!」」」
そして刻まれている紋章を理解した時、激震が走り、全員の会話が消失する。
その凍り付いた空気の中、まるで意に介さず、その紋章が付いた馬車を操っていた小柄な侍女が軽快な足取りで地面に降り立ち、扉を開き、恭しく頭を下げる。
「う、う、うそだろ、あの紋章は! 確か!!」
「ま、まさか! そんなはずは!!」
「だがあの侍女は知っているぞ!! となれば、ここに来た人物は!!」
「ありえない! ここは政治的な場だぞ!!」
その人物が姿を現した時、パッと花が開いた、そんな幻想を見てしまうような、紳士たちは夢心地に包まれ。
現れた女神を讃える。
「偉大なる初代国王リクス・バージシナを支えし原初の貴族24の始祖達、その血と誇りをつけ継ぐ1門、シレーゼ・ディオユシル家、現当主ラエル伯爵の直系!」
「クォナ・シレーゼ・ディオユシル・ロロス!」
参加した紳士たちの視線を一手に受け、それを受け止める器量を持ち、3人の侍女を従えて優雅に歩く。
「う、うつくしい、上流の至宝、まさか社交界以外で、あ、挨拶を」
とふらふらと複数の男が近寄ろうとした時だった。
「おい! 迂闊に近づくな! ここは社交界ではない!! ラエル伯爵の不興を買うぞ!!」
誰かの声にはっと全員が我に返る。
「原初の貴族の不興を買うことが! この場でどういう意味をさすのかわかるだろう!!」
「でも! 余計にどうして、ここにいるんだ、何故!?」
「ラエル伯爵は、汚い政治的抗争に巻き込まれるのを嫌うからこそ遠ざけていたのに!」
「実際、彼女は政治能力はなかったはずだ!」
「なあ、でもさ、噂であったじゃないか」
「噂?」
「知らないのか、もし、彼女がその政治的な場にいて、ラエル伯爵の不興を買わない状況、そして、セルカの噂を考えれば!!!」
その時だった、その発言をした男の隣にいた男が、姿に気が付いた人物が、袖口を引っ張る。
「嘘だろ……どうして、ここに」
そのあまりの自然な登場に徐々にその姿を現した男のことが、少し広まり、その直後に爆散し、全員が道を開ける。
「そうだったんだ、あの噂は、噂じゃなくて、本当だったんだ、ラエル伯爵が、不興を買わない、いや、それを実現できるのは、この国では2人しかいない!」
全員が道を開ける。
その人物は警護役に2人連れている若い男。
「偉大なる初代国王リクス・バージシナの血と誇りを受け継ぐもの!!」
「フォスイット・リクス・バージシナ・ユナ・ヒノアエルナ・イテルア王子!!」
「次期国王がこの場に姿を現すのか!?」
「だが筋が通る! 原初の貴族当主より上の立場! ラエル伯爵とて口出しできぬ!」
「だが上流で王子の動きが活発化しているのは知っていたが」
「それと警護役の2人も見てみろ!」
「あれは、カイゼル・ベルバーグ武官中将、第三方面本部のトップの武官!」
「あれだけの地位にいながら一兵卒にも慕われている稀有な人物で、リスクを恐れず数々の功績を残してきた人物だ」
「その隣にいるのは、その親友のタキザ・ドゥロス武官大尉だ、数々の犯罪組織を壊滅に追いやった最強の武闘派部隊を率いる憲兵だ」
「こ、こえ~、雰囲気が半端ない」
全員が固唾を飲んで見守る中、王子が立ち止まり最初に挨拶をしたのはクォナだった、2人は雑談を終えると、今度はセルカがレティシアと伴って、王子に挨拶をすると今度は全員で雑談を始める。
王子を中心に集まっているその姿、その誰も立ち入ることのできない、いや許されない壁のようなものがある。
そしてやっと王国の有力者たちが理解した。
繰り返す、ここは政治的な場である。
そしてここに次期国王が現れて、人を集める理由。
「次期国王の側近たちっ!!」
それを、王子自身が王国に知らしめしたということだ。
政治的な場でありながら次期国王、原初の貴族の直系が現れたにも関わらず誰も挨拶できないまま、大講堂が解放されたことを知ると、そのまま大講堂の中へ消えていった。
ここでやっと緊張から解放され、一息つく他の有力者たちと……。
「すげぇ、街長」
「出来る人だとは思っていたけど、どんどん別の世界に行ってしまうような」
リーケとデアンも圧倒されているようだった。
「ああ、凄いよな、次期国王の側近になったわけだ」
「なあ団長、レティシア先生も、なんだな」
ぼそっと呟くリーケにデアンも続く。
「そっか、そうだよなぁ、あんなに綺麗で優秀なんだから、それは取り立てられるよなぁ、団長は知ってたの?」
「まあな、いやぁ、優秀な部下を持つと上司は楽出来ていいんだぜ」
「ははっ、もう、この人は、団長も修道院出身なくせに」
少しだけ緊張がほぐれた2人は再度大講堂を見つめいて、気が付けば周りの有力者たちはぎらついた目で見ている。この後の懇談会でも中心となるだろう。
お披露目はこれで終わりだ、後は王子たちがうまくやるだろう。
さて、大講堂が解放されて王子たちが中に入ったのに後に続く者はいない。
これは別に圧倒されたこととは関係が無い。今回の合格者の集いのイベントはこれだけではない、実はこの懇談会の主役たちは修道院生達ではないのだ。
「講堂への許可が出たってことは、そろそろ来る、今回の舞台の主役たちが」
誰かの言葉が終わった時、校舎の正門から、十数人の若い人物たちが列をなして出てきた。
場は静まり返り、その人物達に全員の注目が集まり、必然的に石畳の列が割れる形となる。
大講堂の建物へと続く石段の廊下を颯爽と歩く、文官と武官の修道院の制服の集団が、主任文官少佐の教官を先頭にして歩いていく。
その主任文官少佐に続く、十数名の修道院の制服に身を包んだ若き文官と武官たち。
その襟もとに輝くのは。
「団長、あの人たちが」
リーケが話しかけてきて俺は頷く。
「ああ、監督生だ」
監督生。
卒業を控えた修道院生達のために、一ヶ月ほど寝食を共にして、先輩としての心構えと人間関係を構築する名誉あるもの。
選考基準は、修道院卒業後3年以内の中で、優れた功績を上げた人物。
ここでの特徴は、修道院の学業成績は一切関係ないという点、単純に仕事の功績を基に選出されるのだ。
監督生に選ばれた人間は監督生章を授与され、恩賜組勲章と同じく、生涯にわたって誇れるステータスとなる。
「王国に認められたエリート中のエリートから更に選抜された者、王国の将来の幹部候補生達だ、これで監督生達の顔が一気に王国中に知れ渡るのさ、自分の功績を、将来をな」
「な、なんかオーラがあるような」
「まあな、この監督生の姿を修道院合格者たちは自分の将来の人物像として、卒業を控えた修道院生達は将来の自分のパートナーとして重ねるのさ、2人ともよく見てみろ」
俺は顎でしゃくる。
「先頭を歩いているのは、今回の監督生の統括教官の文官少佐だ、ってあれ、ユサ教官じゃん」
「知ってるの?」
「知ってるも何も俺の担任教官だった人だよ、とまあそれは置いといてだ、ユサ教官に続く、監督生達の先頭を歩くのが」
「首席監督生! 今年の首席監督生はモスト息だ!」
俺が説明するまでも無く誰の声が飛ぶ。
首席監督生。
監督生として選定されるとき首席だけ唯一序列をつけられる、つまり……。
「ナンバー1だ、そして首席監督生は、今期の監督生のシンボルになるのさ、本当にハンパないよな」
ごくりとつばを飲み込む2人に、周りの声が聞こえてくる。
「あれが、サノラ・ケハト家次期当主」
「恩賜組に加えて」
「いろいろ言われてはいるが、首席な上に首席監督生、能力はずば抜けているな」
「それにしてもたった1年で選ばれるとはな」
首席監督生に1年で選ばれる。
ちなみに監督生としての選考基準に当たり、仕事の功績は蓄積されて計算される。当然1年よりも3年の方がポイントが蓄積されているのは当たり前の話である。
現に監督生自体普通は卒業3年目のメンバーがほとんど選ばれるし、2年で選ばれたら相当に話題になる。
だから1年選ばれたのは驚異的だ。
「なあ団長、あのさ、先頭を歩いている人が、サノラ・ケハト家の次期当主って」
「そのとおり、俺の後ろ盾のドクトリアム卿の息子で、俺の同期でもあるの」
「同期か、だけど、原初の貴族の次期当主だろ、なんか出来レースって感じ」
「モストはサノラ・ケハト家次期当主でもあるからな、上司が低評価をつけるなんて考えられないし、おのずと好評価をつけざるを得ない」
「やっぱり……」
「だがそれでも1年で選ばれたのは間違いなくアイツの実力だ。不本意ながら絡むことも多かったからそれは良く分かる」
「「…………」」
しかも注目されて色々と噂されているが、流石注目を浴びているのに慣れていて、何処か緊張気味な監督生と比べて堂々を振舞っている。
(本当にあいつは能力だけはあるんだよなぁ)
「同期でそこまで言うってことは、仲良かったの?」
「ううん全然、むしろ向こうが俺のこと嫌いでしょうがなかった感じだね」
「ええーー、それで何でサノラ・ケハト家の後ろ盾を……」
「まあ、そこは別ってことなんだろうよ、それに能力はずば抜けているけど、気が弱すぎて器が小さすぎるのが欠点だからな、アイツの場合」
「……団長も色々凄いよな、本当に修道院出身なの?」
感嘆したような呆れたようなリーケとデアンに俺は話しかける。
「とはいえ見ておいて損はないぜ、監督生ってのは対外アピールの材料にもなっているからな」
「アピール?」
「2人ともさ、エリート中のエリートってだけだと、「頭しかよくない」って思うだろ?」
「ま、まあ、確かに、そんなイメージがあるかも」
「だがあいつらは違う、頭もずば抜けていてよく、実務もずば抜けたと認められた人物達が監督生だ、そして先頭を歩くアイツ、って言い方は失礼かね、そのシンボルとして崇められるのが首席監督生なんだよ」
「首席監督生か、なんか殿上人って感じだな」
「だねぇ」
「いやいや、だねぇって、団長も一応対象に入っているのに他人事かい!」
「うん、他人事、自分の評価を決めるのは自分じゃなくて他人だからな」
「「…………」」
びっくりした様子で俺を見る2人にふふんと笑うと続ける。
「自分の評価って自分で決めてしまいがちだし、だからこそ「俺は不当に評価される」って不満が生まれる。だがあそこにいる監督生達は、それを誰よりも早く理解し、他人の評価を得ることに全てを捧げているのさ。俺とはスタンスは一緒だが結論が対極にある奴らだ」
「え?」
「俺は他人の評価を気にするとコストパフォーマンスが極端に悪くなるの。俺は出世に全然興味が無い、俺はやりたいようにやった方が一番いい結果が出るの、だからよくできてると思うぜ。俺は中央政府でやっていけるとは思わないし、ウルティミスで本当に良かったって思っているよ」
「で、でも、監督生達は能力は優れているのは事実なんだろ?」
「他人から自分の能力で高く評価をされるってのは10人いて10人いないよ、修道院だって例外じゃないし、そういう場所だった。そして多分修道院だけじゃなくて、他でも同じだと思う」
「「…………」」
「だからお前達2人が、これからどういう道を歩むのかは、ちゃんと考えな。こういうのって直感ってバカにできないからな」
俺の言葉に感心したように頷く2人。
「いや、なんか初めて、団長が修道院出身なんだなって思った。じゃあ団長は、ぶっちゃけ最下位ってのはどう思ってんの?」
「ふふん、俺は不当に評価されている、なんて思ったことはないよ。やりたい放題好き放題やってれば、最下位ってのは妥当な評価だ、見りゃ分かんだろ」
「ははっ、って団長、それならさ、何で修道院に入ったの?」
「え!? えーっと! その~、ほら、公務員って安定しているから」
「台無しじゃん、なあ団長の時って、懇談会にはどういった人たちが出席したの?」
「…………忘れた、というか覚えようとも思わなかった」
正確には出ていないんだけどね、着校日当日だったし。今思えば本当にあの適当神はやってくれたよな。
「俺さ、時々、団長が修道院出身だって忘れるんだよね」
「ふっ」
「いや、ふっ、じゃなしに」
「色々あるの! まあ、要はああいう奴らって好きでやってるから、出世を頑張ってもらうとして、だ!」
ニマニマして、俺とリーケとデアンは顔を寄せる。
「分かっているな?」
「「もちろん」」
「ここからは懇親会参加者以外は帰らされるからな、えーっと」
持っていたカバンから一冊の本を取り出す。
「この本によればこの店に可愛い子がたくさんいる店があるそうだ!」
「「おお!!」」
「高い注文をすればするほど、指名した店員さんが付いてくれているらしい、気に入られれば文通も可能!」
「「おお!!」」
「ちなみに今回の資金は今回俺が首都にいることを出張の名目にして日当をせしめてあるから、それを資金源として使う」
「せこい……」
「うるさいな、言っておくが修道院っつっても、給料はちょっと高いだけで、公僕だから安月給なんだよ!」
「「はいはい」」
「後それと、巨乳は俺だからな」
「ちっ、納得いかないが団長がスポンサーだからな、しょうがない」
「ふっ、お前らに奢る漢気を見せて、文通ゲットだぜ!」
「漢気の意味ってなんだっけ?」
「だからうるさいよ、それといいか、ここが一番大事なんだが、セルカとアイカとかには内緒だからな、あいつらホントそういうの厳しくてさ、怖くて怖くて(泣)」
「漢気の意味ってなんだっけ?」
「うるさいな! 今はセルカもアイカも忙しいからな、こんな機会は滅多にない! やっと待ち望んだ今日この日! さあ行かん! 戦いの舞台へ!」
「「おう!」」
とリーケとデアンが2人は顔を上げた時だった。
「「っ!!」」
とここで急に笑顔のまま固まる。
「な、なんだよ、まさか今更になって怖気づいたとか無しだからな」
「「…………」」←笑顔が消えて真顔になる
「べ、別に可愛い女の子とお話しするだけだぞ、お前ら彼女いないんだろ?」
「「…………」」←顔面が青くなっている。
「おいいいぃぃ!! 辞めろよその顔! 後ろに何かいるんだよ はっ! まさか!」
このパターンはまさか、そう、いつものお仕置きパターン。
クォナとかセルカとかアイカが実は講堂に入ったふりをするかそんな感じで、立っていてとかだ。
(これはまずい! こ、これは誤魔化すしかない!)
「なんてな、さて、2人とも、食事をしながら将来のウルティミスについて語り合おうじゃないか……」
と爽やかな振り向いた先、そこには予期していたクォナとかセルカはいなくて……。
監督生達を先導していた主任教官、ユサ・ピウィダ文官少佐が立っていた。
当然のことながら、先導する教官が俺の目の前に立っているという事は、監督生達も歩みを止めて見ている。
モストも当然気が付いていて凄い目をして睨んでいる。
当然周りの注目は完全に俺に集まっている。
ちなみにユサ教官は、俺のクラスの担任教官だった人でもあるのだ。
でも、なんだろう、注目浴びるの嫌なんだけど。
「久しぶりだな、神楽坂」
「ど、どうも」
「どうも、だぁ!!??」
「ひっ! し、失礼しました! お久しぶりですユサ教官!!」
「そうだ神楽坂、お前は教えたことをすぐに忘れるし守らないから定期的に締め付けないとな」
「その節はお手数おかけしました!! それでは用事がありますので神楽坂帰ります!!」
と回れ右をしようとしたところでガシッと肩を掴まれる。
「神楽坂、露骨に逃げようとするな、寂しいじゃないか」
「あ、あの、教官、その、えっと、察するに監督生の統括の仕事があるのでは?」
「そうだ」
「そ、そうだって、となると皆さん待っているみたいですから早く」
「まだ1人来ていないからな、仕事が始められない」
「そうなんですか、それは大変ですね」
「ああ大変だ、首席監督生、神楽坂イザナミよ」
「…………」
「…………」
「はっはっは、ユサ教官って時々そういう冗談言いますよね、ぐえふっ!」
胸ぐらを掴まれガンと額を合わせられる、こ、怖い。
「冗談ではないんだぞぉ? 前代未聞の珍事に私は怒りでどうにかなってしまいそうだ。やっぱり把握していなかったようだな!!」
「……え!? 把握って、本当に、俺が、監督生!?」
「そうだ、繰り返すが、首席監督生だ」
「な、なんで?」
「それを説明する、来い」
「とと、突然過ぎますよ!! だって、俺これからこいつらと遊びの予定をいっぱい立てて!!」
「遊び、だぁ!!??」
「ひっ! そそそそっその、住民の交流も駐在官の仕事でして!!」
「ふむ、なるほどな」
ユサ教官はリーケとデアンをギロッと睨む。
「私は今からこの神楽坂の大馬鹿野郎に大事な用があるんだが、構わないか?」
と静かに脅しをかけるユサ教官、ふっ、甘いなユサ教官、俺達は男の浪漫団という、固い絆で。
「「もちろんです!!」」
「おいいいぃぃ!! なんだよう!! ぐえふ!!」←襟首を掴まれる
「住民の許可も得たようだし、行くぞ神楽坂」
「アンギャアアアアア!!」
とずりずり引きずられながら、最後に見たのはリーケとデアンの2人の敬礼姿だった、こいつら、覚えてろよ。
次回は5日か6日です。