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プロローグ ~セク・オードビアの物語~ 後篇



 王立修道院。


 ウィズ王国が勢力拡大した際に、その国力の維持と成長のため優秀な人材の確保のため、王国の将来を担う幹部候補生育成のために設立されたのが最初。


 校舎は、現在の王国城に移ると同時に、旧王国城を内装を改築するだけで、ほぼそのまま使われることとなった。


 その後修道院は時勢の波を受けながら紆余曲折を得て、現在の姿へと完成することとなった。


 現在、修道院はその優秀な人材を確保するため4つの枠を設けている。


 国内の優れた能力を獲得するための一般枠。


 国外の優れた能力を獲得するための外国人枠。


 亜人種の優れた能力を獲得するための亜人種枠。


 そして準貴族以上の「人脈」を確保するための貴族枠。


 ほんの1年前までただの一般人だった人物が、1年後には貴族に認められカントリーハウスに出入りを許されるというシンデレラストーリーが毎年実現する。


 1人の修道院合格者が、自分の生まれ故郷である辺境都市を救うという事例も多数存在する。


 そんな世界に名を轟かす王立修道院。


 その受験倍率は3倍前後。


こう聞くと案外低いと思われるかもしれないが、受験する人物が既に選抜されているのだ。


 その試験方法は至ってシンプル。


 一発勝負で単純に点数が上から合格させるだけだ、事前の加点や推薦は一切なしの、純粋な学力主義、その枠を巡って世界有数の頭脳が集まり、少数の枠を争う。


 特徴的なのは、一次試験に合格して、二次試験はそのまま、邪神入信、犯罪歴、思想調査を徹底的になされる。


 その文官過程と武官過程を受験し、入学して1年間の修行を重ね、順位がすべてつけられ、その順位によってそれぞれの希望先がかなう。


 上位10位は恩賜組と呼ばれ、勲章を授与され、生涯の誇りとなる。


 その試験を管理するのは、修道院試験管理委員会。


 任期は1年3カ月。


 仕事内容は、入学試験にかかるすべての内容。


 それぞれの官吏から選抜され、その任につき了承した日から、建物の中に軟禁状態で勤務、一切の外部との交流が絶たれ、それは親も例外ではない。


 その親が死んでも許可が下りることはない、交流が発覚すればその時点で解任、不名誉異動となるのだから徹底している。


 だがその任務を無事勤め上げれば勲章を授与され、今後の躍進に大きな手柄となるのだ。



 と執務室で俺は入学資料をパタンと閉じる。



「なんだって、修道院ってすごいよな、よく出来てるよ」


 と横に座っているルルトに話しかける。


「凄いよなって、なんで知らないの?」


「それはお前が無理やり入れられたからだが……」


「ははは」


「はははちゃうわ、というかどうやってお前は俺をねじ込んだんだ?」


「ああ、それね、えーっとね、認識疎外の加護を使って、不合格者の答案を採点者に合格点にあると認識させたんだよね」


「いやいやいや、それは変だろ」


「何が?」


「何がって、今の話を聞く限り」


 隣にいるウィズに話しかける。


「例の試験管理委員会、ウィズの息がかかっているだろ?」


 俺の問いかけにウィズは微笑む。


「はい、おっしゃるとおり、邪神の調査については私が担当しています。だから任期を設けて秘匿を徹底しているのですよ」


「なるほど、ってことは、知っていて許可したの?」


「まあ、そうですね、1人ぐらいなら誤差ですし、あの時は色々とありましたし」


 ああそうか、ウィズからすればルルトは最強神であり、迂闊に手を出せるわけじゃないからか、そう思えば本当に今の俺の立場ってのは特殊なんだなと思う。


「なあウィズよ、正直、セクはどんな感じだ?」


「はっきり言えば五分といったところです、セク君はとにかく集中力に突出したものがあり、なにより目標意識が高いのがいいですね。修道院受験まで行くと学力があるのが当たり前なので後はメンタルの問題になってきますから」


「…………」


 目標意識、セクの目標はわかる、アイツは高い地位が欲しいというわけじゃなくて……いや気づいているか、ウィズなら。


 まあいい、恋愛ごとは俺が首を突っ込むとろくなことにならないのは前回で分かった。リーケとデアンも交じって何やら作戦を練っているみたいだし、ああいう時って何故か楽しんだよな。それもいいリフレッシュになっているのだろう。


「さて、明日はいよいよ首都ですね」


「ああ、セクには頑張ってもらわないとな、ルルト、留守の間はよろしく頼むぞ」


「任せてくれたまえよ、いつもの通りふるまえばいいってことだからね」


「私も、修道院の試験の準備がありますので」


 とウィズは執務室を後にした。



(頑張れよ、セク、勉強も恋愛もな)



 その後ろ姿を見ながら、柄にもないことを思ってみる。


 首都に行った後、ウィズとセクは最後の追い込みをかける。俺は何かあった時の対応役だ。


(あ、そうだ、首都に行くのならあの人のところにもいかないとな)


 となれば、一応非公式で首都に行っているわけだから、この頃全然顔を出していなかった。


「イザナミさ、何か嬉しそうだね」


「まあ、な、久しぶりに世話になった人の下へ会いに行こうと思ってね、手紙を書かないとな」


 とペンを取り出したのであった。



――首都



 ウィズ王国の首都、王国のすべてが集まる場所、ここに王立修道院がある。


 修道院へと続く道、この日ばかりは、そこに向かう全員の顔つきが違い、尋常じゃないほどピリピリしている。


「お前は我が都市始まって以来の天才だ! 自信を持て!」


 そんな、言葉があちこちから聞こえてくる。


 その一方セクは驚くぐらい落ち着いていた。


 とはいえ、内心は緊張しまくっている筈、ここは年長者として俺もなんか励まさないと。


「セセセク、お前はやればできる子だぞ!! おおおれはおまえをしんじているぞ!!」


「団長落ちつきなよ、別に団長が受けるわけじゃないんだから」


「ああ、そうだな、ごめんよ、すーはーすーはー!」


 と俺のそんな姿を見てウィズがくすくす笑う。


「ってセク、落ち着いているよな」


「ん? まあ、もうこれ以上の努力はできないからさ、それぐらい勉強したし」


「……そ、そんなものなのか」


 そうだよと言い切るセク、なんだろう、何か一本芯が通ったような、そんな落ち着きようだった。


「なあ団長」


「な、なんだ?」


「あのさ、今年駄目だったら来年も受けたいんだ、修道院一本で、だから街長に話しておいてよ」


「ええ!? もももちろんだ! 任せろ! 何としてでもセルカは俺が説得する!」


「ははっ、だから落ち着きなよ、そこは「そんなことを言うな、今年合格しろ」って言ってよ」


 とここで、修道院の正門まで来る。


 ここから先は受験生、そして修道院試験管理委員会委員だけ、教官はもちろん院長ですらも今日だけは立ち入りが一切許されないのだ。


「じゃあ、行ってくるよ」


 と手を振りながらその場を後にしたのだった。


「凄いな、セク、なんかこっちが圧倒されたよ」


「ええ、頼もしい限りです。さて神楽坂様」


「ああ、わかってる、そっちも頑張ってな」


 とウィズから神の力を少し感じたと思ったら、ウィズも修道院の敷地内に消えた。


「…………」


 修道院試験は、合格発表は一か月かかる、ウィズによれば、修道院は完全一発勝負の点数制、内部で一次合格者を選抜して、そこまではすぐに終わるのらしいが、その一次合格者に対して調査を行うのだがこれが大変なのだそうだ。


 故にウィズは、その日から長期出張で合格発表まで戻ってくることはない。結果を知っているとどうしても表情や会話に出てしまうし、邪神の調査も手間がかかるらしい。


 セクたちには、ウィズはセクの試験を見届けてから、私立ウルティミス学院の研修のために、シェヌス都市へ行っていると伝えている。


 ぽつんと1人残された、俺。王子は仕事だろうから、となると。


(……さて、行きますか)


 そんな締まらないことを思いながら踵を返したのであった。



「お久しぶりです先輩」



 落ち着いた感じの雰囲気のある女性。


「久しぶり、神楽坂、色々噂を聞いているよ」





――自警団詰所


 試験は無事終了し、セクは神楽坂と共にウルティミスへ戻ってきた。そこから一か月は解放されたセクは仲のいい2人とレギオンで遊んだり、まったりと過ごしたりしていた。


 そしていよいよ試験発表日が近づき、合格発表はセクはリーケとデアンと神楽坂と一緒に見に行くという約束を取り付けていた。


 そして出発前日、セクはリーケとデアンと共に集まっていた。


「ってなわけで無事俺たちは親の許可をもらってきたぜ、羽目を外しすぎるなよってさ」


 とのリーケの言葉にセクは頷き、デアンが問いかける。


「レティシア先生は、来るのか?」


「団長に確認した、現地で発表前に合流だってさ」


「了解、次に確認だ、肝心かなめなデートの約束は取り付けたんだよな?」


「ああ、最後の追い込みの時、合格したらデートしてくれって頼んで、オッケー貰った、んで団長とレティシア先生を引き離す作戦はどうなんだよ?」


「それは実はどうってよりも、向こうから遊びプランを提示してきた」


「え? そうなの?」


「ああ、珍しく熱心に仕事しているから何してんだろうって聞いたら、合格発表後に食べ歩きプランを練っていて、良い店があるんだってさ、合格したら一緒に行こうって誘ってきた」


「はは、あの人は、本当に修道院かよって感じだよな」


「…………」


「セク?」


「……団長って、多分、デートの約束しているの知っていているんだろうなって、思った」


「……先生が団長に言ったのか?」


「いや、あの感じだと気づいていると思う」


「そうなの、鈍い感じがするけど」


「んー、団長って何も考えていない時が大半なんだけど、時々凄く深いことを考えている時があるってのは分かったよ」


「そ、そうなのかなぁ」


「そうでなければ、あの街長は一目置かないと思うし、レティシア先生とだって噂は立たないだろうさ。とはいえ、それでも俺を堂々と先生とのデートを見逃すってのは随分余裕だよな、そこが狙いか」


「「…………」」


 なんだろう、同い年であるはずなのに、少しだけ成長したセクに、少しだけ焦りを感じた2人なのであった。




――修道院・合格発表日




 修道院の合格発表はシンプルに掲示板に番号だけ張り出される形式だ。


 この日ばかりは、申請すれば受験者以外の立ち入りが許される日。


 既に受験生らしき人物は全員揃っており、独特の緊張感に包まれている。


「せせせく、おおおおおおまえはややややればできるこだぞ!」


 とプルプル震えながら、励ます神楽坂。


「だからなんで団長が緊張してんだよ、やればできるも何も、もう結果は出ているんだから落ち着けって」


「おおおう! 落ち着くぞ! すーはーすーは! リーケとデアンも落ち着けよ!」


「うん、俺は落ち着いているよ団長」


「ああ、こう、動揺しまくっている人見ると逆に落ち着くって本当なんだな」


 そんな神楽坂を見ながら「まったく、この人は」としょうがない兄貴分を見て、視線をチラッとレティシアへと移す。


「神楽坂中尉ではないですけど、セク君の落ち着き具合を見ていると、先生として何もするの必要が無いというのも寂しいものですね」


「はは、まあ……」


 と言った時だった、修道院試験管理委員会と思わしき人物複数が大きな紙を持ってきており、一気に場の緊張は跳ね上がる。


 その2人は、紙を張り出すとこういった。


「以上が合格者となります! 合格者は今日中に合格受付を済ませてください! 受付を行わない場合、特段の事情が認められない場合は合格取り消しとなります! 受付終了後、3日後懇談会を行います!」


 と言い残し、合格者に道を開けると、わっと群がる。


「よし! ここは我が先陣を切らずんば虎児を得ずといわんがや!!」


 と自分でも何を言っているのかよく分からないが、手と足が同時に出したところでセクにポンと肩を叩かれる。


「俺が見てくるよ、俺の結果だし」


「そそそうだな! 俺はここで見守っているぞ!」


 とテクテクと歩くセク、その後ろ姿を見て、今更ながらに気が付いた。


 セクが落ち着いている理由、それは自分は努力をしたから、というのももちろん嘘じゃないだろうけど、それだけじゃないとすれば。


 セクは、張りされた合格発表を見て、そのままテクテクとこちらに歩いてきて。



 笑顔で片手で〇を作ってくれた。



「ふぐぅ! セク! よく頑張ったよ! わーんわーん!」


「って、だからなんで団長が泣いてるんだよ」


「セク、お前、自信があったんだな!」


「ああ、手応えはあったんだよ、んで今年はさ、去年、一昨年と比べてレベルは少し下がると思ったから、ギリギリだけど多分いけると思ったんだ」


「そうなのか! お前頭いいな! わーんわーん!」


「頭いいなって、団長はその一昨年の合格者じゃ」


「ぐしっ! お、俺は適当にマークシートしたら当たったんだよ!」


「まーくしーと? 記述式試験なんだけど?」


「うううん!! 記述試験でマークシートでつけたらそれが全部正解でさ! 一生分の運を使い果たしたんだよ!」


「……そういう時の団長の誤魔化し方って、妙に説得力があるんだよなぁ、なんなんだろうな」


「まあいいじゃないか、でもよかった、ほんとよかった」


「団長がそんなに喜んでくれるなんて思わなかったよ、それと、えっと、その……」


「うんうん、わかったよ、お兄さん退場するから、頑張ってな」


「…………」


 退場するから頑張ってな、か、やっぱりばれてるよなと思いながらも、神楽坂はリーケとデアンを連れて姿を消して、レティシア先生と向き合う。


「セク君」


「え?」


「おめでとう、修道院合格、貴方の合格に少しでも役に立てたのなら、こんなに嬉しいことはありません」


「あ、ありがとうございます! その、あの……レティシア先生! 約束! 覚えていますか!」


「もちろん覚えてますよ、今日は合格祝いですから私が」


「美味しい店を奢ります!!」


「……え? でも、セク君の合格」


「自警団のバイト料をコツコツ貯めて、なんとかしました!」


 少しびっくりしていたが、にっこりとほほ笑んだ。


「わかりました、じゃあ、リードをしてくださいね」


「はい!」


 そこからのセクは頑張った。


 首都の観光名所を回り、リーケとデアンから教えてもらった話をしながら必死にリードした。


 一つ星のレストランは流石にレティシア先生が出すと言われてしまったが、そこは男のプライドとばかりに固辞。



 そしていよいよ訪れた本日のメイン、ザシィヨミラの鐘。



 首都で有数のデートスポット。日が落ちた世界に、周りにはそこかしこにカップルがデートをしていて、抱き合ったりしている男女も多い。


「し、知ってますよね、ここ! 観光スポットであると同時に、歴史的な場所ですから!」


「……はい、知っていますよ」


 その時の彼女の顔は何だろう、何かを思い出しているようなそんな顔をしていた。その顔を見ながらドキドキしていたが、でも話しかけられないような、悲しいような、説明がつかない感情が沸き上がるがそれでもと続ける。


「か、かの、偉大なる初代国王リスク・バージシナは、こ、ここ、ここでユナ初代王妃に、愛を告白したと言われています、その初代国王の愛の告白は、男らしくて、ユナ初代王妃もすぐに気持ちを受け止めて、両想いになったと」


「…………」


「もも、もちろん、初代国王は、美男子で男らしくて、カリスマもあって、歴史に名を残す傑物で、俺は、その、なにも、持っていないけど」


 ぎゅっと、勇気を出して手を握る。


「で、でも、先生、俺、修道院に合格したよ、これで俺は、王国のエリートって認められて、レティシア先生に、相応しい男に、なったよ! だから、だから!」



「好きです! 俺の彼女になってください! 幸せにします!」



 精いっぱいのセクの言葉、それを彼女はじっと真剣に聞いて、彼女はその答えを放つ。


「セク君、貴方の言葉と気持ちを、とても嬉しく思います」


 セクはその表情を見て、答えを悟ってしまった。





「…………」


 セクが宿屋に帰った時、部屋でリーケとデアンが座って待っていた。


 セクを見ると、2人は無言で立ち上がり、両脇にすっと立ち、一斉にガシっと肩を組むとこう言った。


「女なんていくらでもいるさ!」


「お前にふさわしい女がいつか見つかるよ!」


「お前ら……」


 言うまでも無く表情で分かったのだろう。そんな2人の不器用な優しさが……。




「だああああ!! 滅茶苦茶腹立つわ!! 女がいくらいてもしょうがないだろ!! 相応しい女がいつか見つかるっていつ見つかんだよおおお!!」



 と部屋の中にセクの言葉が木霊し、その日はリーケとデアンがこっそりとお金を出し合った巨乳物のエロ本を肴に、どんな女いいかとか宿屋の女将さんに夜通し騒いで怒られたのであった。





 同時刻、神楽坂は共用浴場の帰り道、珍しく勘が働き、何となくではあるがウィズが何処にいるのか分かって、自室に風呂道具を置くと、宿屋の屋上に向かうとそこにウィズが立っていた。


 彼女は自分の来訪に気付かず、じっと、空を眺めていた。


 ここからは表情からは読み取れないが。


「ああ、神楽坂様、いらっしゃったんですか」


 気配に気が付いたのか自分に振り向く。


「ああ、1人のところ、悪かったな」


「いいえ、丁度部屋に戻ろうとしたところだったので」


「…………大丈夫か?」


「何がですか?」


「なにがって……」


 俺の言葉にウィズは表情を崩す。


「だから言ったじゃないですか、私は男の好みにはうるさいんですよ、生徒としては出来が良くて、素直で可愛い子でしたよ」


「そっか……」


 リーケ達がザシィヨミラの鐘で告白すると言っていたのは知っている。


 だから多分昔を思い出していたんだと思う。


 リクス初代国王がユナ初代王妃に愛を告白したとされる場所、ウィズにとっても思い出の場所なんだろうから、彼女がこういう時は、凄く寂しそうな顔をしているので、ちょっと心配になったけど。


「三日後ですね」


「え?」


「合格者の懇談会ですよ。まだ修道院生としての身分はありませんが、事実上のスタートの日です」


 修道院の合格者は、合格発表の前から、貴族枠で入学してくるであろう人物が誰なのか調査が行われる。


 合格者は番号しか公表されていないが、それでも誰が入学するのを把握するのは基本中の基本事項だ。ちなみに一足早くセルカにリストは手渡してあるそうだ。そこは試験委員会の特権を利用させてもらった。


「今回の貴族枠の入学中で正貴族が4名います、彼らが中心になることでしょう」


「そうか、セクも頑張ってもらわないとな」


「そうですね、ここだけの話、セク君は自分で言ったとおりギリギリでした。神楽坂様が入学された時だと不合格でしたね」


「ふーん、年によってレベルにばらつきがあるんだな」


「といってもほんのわずかですけど、ただ神楽坂様の入学した年は、なんといっても原初の貴族の次期当主であるモストが入学しましたからね」


「アイツか、そもそも、何で修道院に入学なんてしたんだろうな、必要ないと思うが」


「さあ? 元より入学する必要が無いので、理由までは分かりませんが」


「そんなものなのか」


「さて神楽坂様、懇談会のその日まで私はセルカへの報告と調整してきます、貴族枠の入学する修道院生の趣味趣向から調べることは山ほどありますからね」


「そっか、いよいよだな」


「連合都市から見ても地盤固めの為にセク君の合格はとても大きなことですからね、さて、また忙しくなりますよ、セク君の為に頑張らないと、ね」


「わかった、例の件については?」


「スケジュール調整は終わっています、後は「懇談会でお披露目」ですね、そのお披露目出回りがどう動くのかも注目しておかないと」


「そっか、頼りにしているよ」


「はい、それと神楽坂様」


「なんだ?」



「神楽坂様の何も聞かないところは優しいと思います、でも分かりづらいです」



「え!? は、はい、すみません……」


「くすっ、冗談です、じゃあ、おやすみなさい」


 とそのまま屋上を後にした。


 ううむ、なんか、冗談じゃないように聞こえたけど。


 と何となく、胸がもぞもぞする感じの中、俺も自室に戻ったのであった。



 こうしてセクの初めての失恋と共にウルティミス初の修道院生が誕生したのであった。





次回は、4月2日か3日です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウィズは神楽坂ハーレムの一員として数えて良いのか割と疑問なところあるからわかりづらい…
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