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プロローグ ~セク・オードビアの物語~ 前篇



 セク・オードビア。


 生まれも育ちもウルティミス。


 容姿も運動能力も平凡、同世代の友達と遊ぶが一番の楽しみというごく普通の男の子であったが、彼は一つ、他人には無いずば抜けた才能を持って生まれた。


 それは明晰な頭脳。


 幼いころよりそのずば抜けた能力を発揮したセク、その能力を見た両親は喜び、周りの大人たちの賞賛に気を良くした彼は、努力を怠らず年を重ねるごとにますますその能力を開花させた。


 いつしか、そのずば抜けた能力はウルティミスをあげて支援することとなるのにそう時間はかからなかった。


 当時のウルティミスは経済的に貧しい辺境都市であり全員が進学できない。とはいえ学がある人間がいないと都市運営が成り立たなくなるため、誰を進学させるかはウルティミスの大人たちが選定されなければならなかった。


 大人たちの選定関係なしに進学したいのなら、最低でも奨学金が得られるレベルの学力が必要だが、環境を整えることが困難なウルティミスではそれすらも難しい。


 事実セクは同世代たちのほとんどが親の稼業を継いだり、出稼ぎに都会に向かう。


 だからこそセクの両親は、こう諭す。


「お前はウルティミスのお金、つまり皆でお金を出し合って進学して勉強をしているの、だから結果を出さなければいけないんだよ」


 将来は王立修道院かシェヌス大学に入りウルティミスに貢献する、周りは当たり前のようにそれを言ってくる。


 それを受けてセクはこう思っていた。



(なんでお前らが俺の人生決めてんだよ!!)



 成長し多感な年頃になったセクは年相応に反抗期を迎え、周りの期待が嫌で嫌でしょうがなかった。


 だがセクは言い返さない、何故なら「お前らの言うとおりになんてならない」と言ったところで大人はこう返す。


「なら何になりたいの?」


 セクはその答えを持っていない。そして答えを持っていないセクを見て大人たちは「なら修道院かシェヌス大学へ、絶対に将来のためになるのだから」と言ってくるのだ。


 それも嫌だったが、セクにとって何より一番嫌なのはこのセリフだった。



「第二のセルカ街長だ!」



 そう、セルカと比べられることだった。両親は自慢げに周りに「街長とタメを張る」なんて言っている。



 ウルティミスの若い男連中にとってセルカは、気軽に話しかけられるような存在ではない。



 セクから見れば、彼女こそ物心ついた時から衆目を集めていた傑物だった。


 努力を怠らず、学術都市シェヌスのトゥゼアナ高等学院に無返済奨学金を取り入学、進学先でも周囲から認められ、優等生なだけではなく怖い先輩を尻に敷いていた胆力を持つ。


 そして先代街長である父親が急逝する形で急遽街長の地位を継ぐことになり、同時に自分の親もセルカの配下になった。


 自分の息子とあまり年が変わらない人の下につく、本来なら反発の一つでもあるはずだが、自分の親も含めて周りの大人たちは、セルカはウルティミスが創設されて最高の街長になる、あの人の下でウルティミスを盛り立てると口々にいう。



 だから当然に理解する、ずば抜けた頭脳を持つ自分より、その頭脳含めてセルカに劣ることだと。



 むしろ年は離れていたが先代の街長の方が自分たちにとって距離が近くよく話していた記憶がある。優しいおじさんで怒ったところを見たことが無いような人で、大体自分たち世代は可愛がってもらっていたので、病で急逝した時は全員が悲しんだし、セクも悲しかった。


 せめてもの反抗に勉強をしないで遊ぶことを選択したセクにとって、そんなセルカと比べられる思いは推して知るべきだ。


 だがセルカが就任したからといって、何かが変わることはなかった。


 ウルティミスの売りは農業というが、どう考えてもそれを商売に出来ている様子も無いし、ドンブリ勘定だから、政府に税金を取られるだけでいいようにされている。


 王国の補助が無ければ成り立たない都市、王国最弱の都市、それがウルティミス。


 今のウルティミスに何かがあったとしても、王国は簡単に俺達を見捨てる、セクはそう思った。



 そしてそれはブート山賊団の襲撃、結果無傷で終わったものの自分の家が焼かれる被害に遭ったことが決定打となった。



 これを受けて街長は中央政府に討伐依頼を出したそうだが、当然のように却下、噂ではウィズ教徒ではないから、なんて言われているが、こんなことを方便に使われてあしらわれるってことは、王国から切り捨てられる程度の存在であるという意味だ。


 しかもこれだけ自分の街が蹂躙されても、セルカは結果、保護料を徴収されていることを選び、現状維持しか選択できなかった。


(何がウルティミス創設以来の最高の街長だよ! 全然何もできないじゃないか!)


 何もしない自分を棚上げしての言葉であることをどこかで自覚しつつも、ウルティミスの為にということもモチベーションにならず、何かしたいという訳ではなく、反抗的な気持ちだけが残り、成績は低迷する。


 そんな中だった。


「王立修道院の卒業生が赴任して来る!?」


 にわかには信じられなかった、エリート中のエリートであるはずの修道院がどうしてと思い、一瞬だけ追い風になるかと思ったが……。



 成績は最下位、人脈も構築せず、院長から目をつけられ、原初の貴族の次期当主との仲は険悪、という人物なんだそうだ。



 明らかな押し付け人事、これで山賊団の陳情を聞いたつもりなのか。


 思えば今の駐在官だって、若くて優秀だって話だけど、不祥事を起こして左遷されたという噂だったが、これで決まった。



 ウルティミスは左遷先ってことだ。



(何が最強最大国家だ! そんなクソなことをしてくる国家のために尽くして! その修道院ってやつに俺は入らなければならないのか!!)


 これにはセクだけではなく他の市民や自警団員達も反発も相当なものだった。


 その評判のとおり、そのエリートは赴任日に遅刻、理由は道に迷ったというふざけた理由、外見はまるでホームレス、ぼーっとした表情で才気をまるで感じない。


 栄光が約束された修道院で、いきなり出世の道が断たれた男なだけあると思ったが……。



 そのエリートは赴任して数日で山賊団を壊滅させた。



「やるよな! つえーんだよ!」

「ああ! なんか祖国の剣術の達人って噂だぜ!」

「俺は神の血を引いてるって聞いたぞ!」


 自警団の詰所で興奮気味に話すのはセクと仲のいいリーケとデアン。


 男にとって強いというのは単純に憧れの対象になるし、同じ男であるセクもよくわかる気持ちだったが、まさかこんなにも早く、劇的に解決してくれるなんて思わなかった。30人を超える山賊団をフィリア軍曹と2人で全て倒したのだそうだ。


 この一件で、少なくとも自警団員達の見る目は変わり、セク自身も実際に神楽坂と話してみると修道院のエリートという近寄りがたいイメージとは違い、気安くて話しやすく、性格も優しく面倒見も良く、あれで頼りになるところもある。


 まだ不信感はあったけど、それでも大分距離が近くになったし、少しづつ話すようになった。


 そして更に状況は激変する。



 ウルティミスでの神の力が暴走する事件。



 神の「魅力」により多数が失神、神々の「小競り合い」で死者は出なかったのはそれこそ奇跡だ。


 その暴走の原因は教皇庁の発表によればウィズ神がルルト神と友好関係を結びたいという意味での啓示を、修道院長が勘違いをしてしまい、改宗させようと動いたため怒りを買ったというものだった。


 その勘違いにより神楽坂に邪神入信容疑がかけられたとのことだが、実は神楽坂は邪神入信により動いていたのではなく、神と神との橋渡し役を任されただけというものだったものだ。


 教皇猊下も神楽坂の功績を称え、正式にルルト教はウィズ教との友好関係を締結、これで異教徒としての問題はクリアされ、補助金を獲得することに成功。


 そして街長の施策の一つである教育部門の充実のため、私立ウルティミス学院が設立された。


 さて、ここまで話すとトントン拍子によくなっていると思うかもしれないが、学院としての名誉は当然、高レベルの進学実績が必要なる、となれば当然、大人たちはこういう。



「私立ウルティミス学院の一員として、貴方は修道院に進学するのよ! 今はちょっと成績が低迷しているだけで貴方はやればできる子なのよ!」



 やっぱりこうきたか、冗談じゃない、確かに別の都市の学院通うのは面倒だが、友達だってあっちの方にいる。自分の能力を利用して対外的に利用するなんて「ふざけるな」の一言だ。


 もちろんウルティミスが良い方に向かっているのは知っている、今はもう神楽坂に対しては不信感はない。頼れるしょうがない兄貴分って感じだし、フィリア軍曹だっていい人だ。


 セルカ街長だって、色々な思いを抱えて必死で頑張っているのは分かったから、前ほどの反発は無い。ウルティミスの歴代1番の街長ってのも今はもう素直に認めている。


 だがそれはそれ、これはこれだ。


(俺は絶対に大人たちの思い通りにはならない!)


 と年相応に反発した彼の考えは


「初めまして、セク君、レティシア・ガムグリーです。貴方はとても明晰な頭脳を持つと聞きました。今は少し足踏みしているけど、貴方は修道院に合格できる実力を持っていると思います。一緒に合格を頑張りましょう」


 とウィズ扮するレティシアを見て、リンゴーンと頭の中で鐘が鳴り響き。


「はい! 頑張ります!」


 と年相応に考え方を変えたのだった。



――ウルティミス・自警団詰所



 詰所の一角で、セクとリーケとデアンは集まりお互いに向き合って座っている。その中でリーケが口を開いた。


「俺の兄貴さ、最近働き始めたんだよ」


「「ふんふん」」


「その兄貴が言っていたんだけどさ、ほら女ってさ、学生時代にはイケメンにチヤホヤするだろ?」


「「だな」」


「だけど働き始めた瞬間に、収入の多い男とか社会的地位の高い男をチヤホヤするんだって、すんごい掌返しするんだって」


「「こえー、女こえー」」


「でもさ、よく考えてみたらさ、つまりさ、美男子じゃなくてもいいんだよ、運動神経だって普通でいいし、女の扱いだって上手じゃなくてもいいってことだろ? つまり、セク、お前にとってチャンスだと思うんだが、どうだ?」


「…………」


 リーケの言葉にセクは渋い表情を崩さない。


「なあセク」


「分かってるよ、女の好みってのは男と違って変わるんだよってことだろ? それはレティシア先生だって変わらないってことだよな。別にいいさ、そりゃエリートの方がいいよなって思う。確かに俺が修道院に合格すればまさにレティシア先生に相応しい男になると思うし、だから頑張っているんだし」


 セクの言葉に今度はデアンが発言する。


「だけど修道院の、特に文官課程は半端ない難関だって話だよな?」


「ああ、エリート中のエリートってのは伊達じゃない、その代わり入学するまではただの一庶民が、卒業する1年後に貴族の側近になる、なんて成り上がり話が毎年のように存在する、だからこそ世界レベルの難易度を誇るわけだからな」


「貴族の側近か、確かにレティシア先生も、そんな男だったら落とせるよな」


「すげーよな、そんなところにセクは合格しようと頑張っているわけだよな」


「つっても、まだ受かったわけじゃないし、今の学力じゃ合格は到底望めない」


「マジか、修道院って、俺からすれば雲の上の話だよ」


「修道院生ってだけで、凄いことだよな」


「「「…………」」」


チラッ


( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!

( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい! ←神楽坂


「「「…………」」」


「いや、俺団長好きだぜ、時々「この人、本当に修道院出身かな?」とか思うけど」


「ああ、あれで優しいし、頼りがいがあるし、時々「修道院って噂程大したことないんじゃないかな?」って思うけど」


「だけど女はどう見ても俺たち側だよな、同じ匂いがするもん」


「「うんうん」」


「だからこそ、かな、説得力があるよな、だってさ」


「ああ、あのアイカって美人憲兵さんだけじゃなくて、噂じゃメディ女医も愛人だって話だし、あのセルカ街長もって話だものな、噂じゃクォナ嬢までって、それに、その……」


 言い淀むリアンにセクはあっさりと言い放つ。


「はっきり言っていいよ、レティシア先生もって話だよな」


「「…………」」


「いいんだよ、別に、あんな綺麗な人なんだ、浮いた話もあるだろうし、さっきも言ったとおり修道院ってエリートの肩書に弱くてもいいのさ、だけど団長とはあくまで噂だし、本人も否定しているし、他に彼氏がいるって話は聞かない、だから、頑張るよ」


「セク……」


 リーケとデアンは2人で顔を見合わせて頷く。


「分かった、お前の恋を応援するぜ、告白大作戦については俺達に任せてくれよ!」


「そう、だからお前は勉強を頑張れよ!」



「ああ! よろしく頼むぜ!」



 と男たち3人組はお互いに誓い合ったのであった。





 そこからのセクの集中力は同じ自警団員の友人をもってしても話しかけられないぐらい凄まじいものだった。


 元より修道院も夢ではないずば抜けた頭脳を持つ、という評価は正当な評価であり、王国の学術試験では中の中ぐらいにまで落ち込んでいた成績だったがたった3ヶ月で上の上にまで上昇する。


 だがそもそも修道院はその上の上の人間が受験生として集まるから、まだやっと資格を得ただけに過ぎない。


 修道院の合格基準は、実施される全ての科目が飛び抜けていなければならず、更にその中で更に2科目以上が飛び抜けていなければ合格は出来ないレベルなのだ。


 そんなある日、セクはふらりと自警団詰所に現れた。


「ようセク、なんか久しぶりだな」


「ここに来て大丈夫なのか? 追い込み時期なんだろ?」


 リーケとデアンが出迎え、セクは2人の傍にドカっと座る。


「うん、ちょっと気晴らしに来た、勉強して気が付いたら2週間たってさ、なんか疲れがたまってさ」


「勉強って気が付いたら2週間たつものなのか? すげえな」


「そうか? でも今日はなんか、思いっきり馬鹿話したくてさ、付き合ってくれよ」


「ああ、いいぜ、んでだ! レティシア先生への告白大作戦の話なんだが、作戦を立てて来たぜ!」


「マジか! 早速話してくれよ!」


 とここから2人が作戦内容を話す。


 まず修道院の受験場所は、修道院の建物を使って行われる。


 そしてセクは受験日1週間前から前のりという形で、首都へ何かあった時のためのパイプ役である神楽坂とレティシア先生の2人で向かう。


 そして1週間はレティシア先生厳選の問題集をひたすら繰り返し、最後の追い込みをかけて、本番を迎える。


 受験後は、そのままウルティミスへ帰宅するのだが、その最後の追い込みの時に合格したらご褒美に2人でお祝いをして欲しいと約束を取り付ける。


 合格発表日は、パイプ役として神楽坂も同行、合格していた場合は、先生は色々手続きに追われるため、リーケとデアンも世話役という形で付いて行く。


 まず合格発表は、修道院で行われる。


 合格していたら、そのままレティシア先生と2人でデートに行く。


 団長はリーケとデアンと3人で遊びに行く約束を事前にして、そのまま離脱する。


「ってところだ、レティシア先生とのデートのために自警団員としてのバイト代も貯めてるんだろ?」


「ああ、一つ星レストランなら一回ぐらいなら何とかなるぐらいには」


「よしよし、兄貴曰く女はそういうのに弱いらしいからな、その後は、首都にはお勧めの告白デートスポットがあってな。ザシィヨミラの鐘って知ってるか?」


「あ! それは知ってる! あの偉大と呼ばれるリクス初代国王が、ユナ初代王妃に愛を告げた場所だと言われている場所だろ!?」


「そう、ウィズ神話によればあの場所でリクス王はユナ王妃に「黙って俺について来い!」って男らしく愛の告白をした場所だそうだ、そんな男らしいリクス王にユナ王妃も、ふっ」


「おお! 完璧じゃないか!」


 ウキウキしたセクを見てリアンは感心したように頷く。


「しかしお前も変わったよな、俺の能力を名声に使うな、なんて怒ってたのに」


「いいんだよ別に、というよりも俺の名前でウルティミス学院の名前じゃなくて、それを教えたレティシア先生の評価も上がるわけだからな。俺にとってはチャンスだし、それにただ利用されるだけじゃないぜ」


 セクは少しだけ男の顔をして2人に告げた。


「団長は、ライバルだから」


「「ライバル……」」


「「「…………」」」


 チラッ


( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!

( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい! ←神楽坂


「「「…………」」」


「なあ、ひょっとして勝てるんじゃないか?」


「ああ、こう、手強い感が全然……」


「いや、言っておくけど、俺団長好きだぜ、面倒見もいいし、優しいし」


「ああ、なんだかんだで、やる時やるよな」


「やっぱり女はどう見ても俺たち側だよな」


「「だよな」」


「って俺だって団長は好きだよ、だけど、レティシア先生のことは別、悪いけど、こっちも利用させてもらう」


「ああ、頑張れよ、セク、俺はどうすっかなー」


 という言葉で2人は自分の将来の進路について話し合う。


 その姿を見てセクは思う。


 どうする、ほんの1年前まで、自分の進路で「どうする」なんて言葉はなかった。


 ウルティミスの幹部たちが見込みがある人物だけ進学させて、それ以外の人物は金を借りて進学するしかなかった。


 というのは、そういう奴は進学した後もウルティミスに雇用先なんてないから、ウルティミスに見切りをつける奴だったし、それは仕方のないことだと思っていた。


 だけど、今はウルティミス・マルス連合会社は第三方面の中で突出した会社になっており、今では都市外からの応募もあると聞く。


 ウルティミスに見切りをつけたはずの若者も戻ってきて、連合会社に所属するということは今ではステータスとなった。


 目の前にいるリーケとデアンの親たちも、連合会社の所属して仕事をしており給料が支給されているから、こうやって勉強できているわけだし、現に自分は親の給料で学校に行かせてもらっている。


 自警団も警備会社の所属ということで小遣いにも不足しなくなった。


 だけど……。



 たった1年で、こんなにも変わるものなのか。



 他の辺境都市もウルティミスと同じような都市はたくさんあって、同じような問題も抱えているのに……。


 確かに街長の手腕は凄いとは思う。


 ウルティミス学院設立から始まり、その資金源にまさか遊廓に目をつけて、遊郭都市マルスを乗っ取り吸収することにより都市としての格付けを上げ、資金源を獲得。憲兵の常駐や、原初の貴族直系の顧問獲得、王国議会ではその名を知らぬものにまでなって、次期国王との繋がりまである。


 でも、いくら街長が凄いといっても、誰も相手にしてくれなかった辺境都市の街長が1年でここまで急成長できるものなのだろうか。


 そもそもそれだけのきっかけをどうやって得たのだろうか。


 そういえばと、セクは神楽坂を思い浮かべる。


 配属されるはずのない王立修道院のエリート。


 そのエリートは山賊団の壊滅の時、それこそ演劇の主人公のように30人を超える賞金首までかけられたならず者相手を無傷で勝った。


 そして彼は神々の間を橋渡し役を仰せつかった人物だった。


 思えば、神楽坂が全てのきっかけだったように思える。


 ひょっとして、このウルティミス全ての、出来事に。


 神の橋渡しのとおり、本当に、神懸っているとしたら……。



「あ! そうだ! セク!」



 丁度神楽坂のことを考えていただけに飛び上がるほどびっくりする。


「な、なに!?」


「届いたぜ、受験票」


「え?」


 神楽坂が差し出した厚紙。


 それは修道院受験のための受験票、申し込みは無事受理されて、日時場所と自分の受験番号が印字されていた。


 決戦の日は一か月後だ。



(まずは、自分の事だ)



 セクは改めて気合を入れるとリーケとデアンに別れを告げて、勉強に向かうのであった。





 後篇は明日になります。

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