プロジェクトX ~挑戦者たち~ 前篇
――エナロア都市、クォナ所有のカントリーハウス内・神楽坂自室
クォナの簡単クッキング(物理)後のこと、開放された神楽坂は自室にて一息つくのであった。
「はー、怖いんだもん、まさかエロ本食わされるとは思わなかった、お前は山岸由花子かっての(泣)」
ちなみにエロ本を食わされたけども体に異常はない、すこぶる良好である。
何故なら神の加護を受け続けた人は使徒となり、不老不死を伴わない不死身の体になったからだ。
(しかしこう、そんな歴史的には数少ない神の奇跡である設定の使徒の能力をこんなしょーもないことで役に立たせるとは、本当に俺って奴は、でもそんなところが大好きさ!)
っとそんなことはさておき、割と困ったことになった、このままではエロ本を買って帰れないのだ。
さて、皆さんはそんなにエロ本が買いたいのなら、いくらでもやりようがあるんじゃないかと思うかもしれないだろう。
だがこれは譲れない信念があるのだ。
自室の夜空を眺めて改めて誓いを立てる神楽坂。
(王子! 待っていてください! 必ずや漢の約束を果たしてみせます!!)
それは女には理解できない男の、いや、漢の約束。
この物語は、漢と漢の約束を一途に愚直に守ろうとする、1人の馬鹿な男の物語。
:::プロジェクトX ~挑戦者たち~
――首都・王城
時期は、エナロア都市に行く直前にさかのぼる。
俺は、王子と仲良くなって以降、首都へ遊びに行くようになった。
原則お忍びであるため、この時ばかりはルルトに認識疎外と身体強化の加護をかけてもらい遊びに行っている。
遊びに行くと言っても場所は王城だけだけど。王子は国家の重鎮であるから、おいそれと外出できる身分ではない。だからなのか幼いころから自分だけの遊び場所をたくさん作ってそこで遊んでいたらしい。
その王子の仕事は多岐に渡るが、その一つに原初の貴族達の報告を聞くというものがある、この場合当然俺の報告も含まれて、それを遊ぶ口実としているのだ。
今回城に来たのは遊ぶ半分仕事半分、ウルティミスの現状報告に来ている。今やウルティミス・マルスは王子の保護下にあるのも同然であるからだ。
俺の報告を聞いた後、王子は感心したように頷く。
「凄まじいものだなウルティミスは……」
腕を組みながら王子は続ける。
「まず遊廓というマイナスイメージ部分について、その繋がりを疑われる人身売買犯罪組織壊滅功労を主体として、知名度を一般層を取り込みクリーンをアピール、クォナのイメージを絡ませて、嫌われ役を犯罪者にして、憲兵の功績を取り込み、今後の治安維持活動の大義を作った」
「経済部門もウルティミスナンバー2であるヤド・ナタムをトップに幹部商人の仲間入りを果たし、レギオン商会会長ウィアン率いる会社と取引を開始し、資金源となる遊廓の売上も5割増しを果たす」
「生活水準の向上については、ウルティミスの住民をそれぞれの会社の社員として登録し給料を支給、安定した収入と住民に金を持たせることにより生活水準の向上を実現」
「教育部門も生活に余裕が出てきたからのを見計らい、ウィズ神を主任教員に据えて先ほどのクォナを顧問に据えた私立ウルティミス学院に投資し、初等学院から高等学院まで無料で入学させ、進学率の向上。その教育の結果の第一弾として、セク・オードビアが現在修道院受験に向けて頑張っているわけか」
王子の言葉に俺も頷く。
「ホントに頼りがいのある仲間達ですよ、どんどん結果を出してきている」
「全ての人物が各々の役割を持ち、それを果たすか、便宜を与えた関係なしにウルティミスにも一度行ってみたいものだな、行幸を何時にするかな、パグアクスにスケジュール調整を頼むか」
「行幸なんて公式行事じゃなくても、アーティファクトを使ってお忍びでくればいいのに、王子なら心配ないと思うんですけど」
「まあ、いずれはな」
王子はこんな感じで神の力の行使については難色を示している。無理もない、神の力を借りて何かをなすというのは「偉大」と同等となるから、そういった心理的抵抗もあるらしい。
と思った時だった。
「あー、えー、そのー、げふんげふん」
突然わざとらしく咳ばらいを始めた。
「フッ、王子、巨乳物でいいですか?」
「か、かぐらざか、いいのか?」
「もちろんですよ」
男には思い出のエロ本があるとは以前述べたとおりだ。
そして王子は、かつて恋人であるエンシラ王女への筋を通そうとして思い出を一度は捨てようとした、だけど捨てきれなかった、そんな思い出の物。
が、それはそれ、これはこれ、新たな刺激が欲しいのである。
「新しい思い出を王子の手に、ですな」
「いやぁ、すまないな、神楽坂よ」
「なんてことはありませんが、そのパグアクス息とかには頼まないんですか?」
「あいつはムッツリだからなぁ~」
「ムッツリですか、それをこじらせて好きな女の下着を食べようとするぐらいなら、エロ本買えばいいのに」
聞くところによれば王子という身分になるとエロ本一冊も買いに行けないそうで、それでいてエロ本を買ってきて欲しいと言える間柄の人間もいないらしい。
パグアクス息以外の他の原初の貴族の次期当主達は、どちらかというと友人よりも部下としての立ち位置が濃いため、頼みづらいのだそうだ。
「ちなみに王子の私物ってどうしているんですか?」
「日常生活に使うものは全て王国府が一括手配をして仕入れている。物を一つ買うにしても俺が使うとブランド化や喧伝材料に使われかねないからな」
更に王子の趣味といった本当の私物は信用できる人物にしか頼めないため、アレアが普段の買い物を装って買ってきてくれるのだそうだ。
「しかし、アレアだとエロ本頼めませんよね」
「そのとおり、だから一計を案じたんだ」
「というと?」
「ほら、エロ本ってさ、それと分からないようなタイトルがあるじゃん?」
「ありますね」
「だから、そのタイトルだけを厳選して、アレアに頼んで、後でこっそり抜こうと思ったんだよ」
「おお!」
「だけど、バレた」
「うわぁ」
「突然バーンと扉が開いたと思ったらさ、鬼の形相をして木刀を持ったアレアが来てさ、滅多打ちにされた」
「」←絶句
「凄い怖かった、殺されるかと思った(泣)」
「おいたわしや(´;ω;`)ブワッ」
とそんなこんなで、あの手この手の小細工を尽くして少しづつ貯めた大切な蔵書達なのだそうだ。
「そんな子たちを恋人への義理を通そうとして一度は捨てようとする、その義理堅さに、この神楽坂、感動でありますよ」
「ありがとう、お前だけだよ分かってくれるのは、ってお前はどうしてるんだ?」
「修道院時代は制服で買うと凄い目立つので、私服を買って公衆トイレで着替えて買ってました」
「今は自由に買えるだろう?」
「それが、我が家の直系女子達が許してくれなくて(泣)、私物ではなく自警団の蔵書という形で保管しています」
「お前も大変だな(´;ω;`) ブワッ」
「とはいえ分かりました王子! お任せください! 必ずや王子の下に我が厳選した至宝を献上することをお約束いたします!」
「うむ、なれば報酬を与えねばなるまいな」
「報酬、でございますか?」
「そうだ、我が蔵書に加えて、男の浪漫団の蔵書を「好きなだけ」我が財源にて寄付しようぞ」
「なんと豪儀な! この神楽坂! 光栄至極! ありがたき幸せに存じます!」
「とはいえ大丈夫なのか、神楽坂よ、相手は強大ぞ!!」
「我に秘策あり(ドヤァ)」
「おお! 頼むぞドゥシュメシアよ!!」
●
と、そんな厨二病やり取りがあっての今ここにいる、そして現在、俺は次にどんなエロ本を買うかの作戦を練っていた。
まず今回の作戦の成功条件について。
ちなみに「エロ本をクォナに見つからないで持ち帰る」というのは少し違う、無論それに越したことはないが、正確にはクォナの女の勘で発見された時に如何に「ギリギリセーフである」という言葉を引き出すかである。
だがここで問題なのは俺は女心が分からないことだ、そしてそれは付け焼刃や一朝一夕でなしえるものではない。
さて、この成功条件と問題を踏まえた上で大事なのは、文字通り自分の身を犠牲にして獲得した貴重な情報を活用する、そう、それはまさに死に戻りの能力を駆使しての打開策を練るのである。
さて、それでは今までの失敗事例を検証しよう。
まずは巨乳物は駄目。
胸の大きさって男が考える以上に深刻なことらしく、例えば俺の幼馴染は貧乳を理由に修学旅行中にクラスメイトと一緒に風呂に入らなかったぐらいだ。そのことを話す彼女は鬼気迫っていてちょっと怖かった。だからまあ、駄目なのだろう。
とはいえ貧乳物も駄目。
クォナは別に貧乳ではないと思うが、確かに巨乳を基準にしてしまうと貧乳になるから、これも「あてつけ」だと思ったのだろう。
だけども自分と同系統は駄目。
身体のパーツ云々ではなく外面にクォナに寄せることを思いついたが、寄せている感が逆に腹が立つらしい、まあ自分に似ているってのは確かにキモいよな。
とはいえ内面に寄せた肉食系女子も駄目。
クォナは外見よりも中身を重視するタイプだと思ったが、クォナからすれば寄せるという意味では外面も無い面も関係ないということだ。この情報を得るために外国製の貴重なエロ本が犠牲になったけど、しょうがない。
さて、ここで導き出される結論は自分に内面及び外面に類するもの及びパーツに絞った趣向は駄目だという事だ。
となればこれだ。
タイトル:ただの同級生が女に変わる時 ~2人だけの放課後~
逆転の発想、自分に類するもの及びパーツを比べられるのがダメというのなら、同じ知り合いの感じに寄せる、アイカ、すまない。
ウィズを選ぶと必然的に巨乳になってしまうからな、許せ、ウィズよ(謎)。
さて、後は絶対に見つからない場所に隠して時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
――その日の夜
「ハイポォォォォ!!!!」
――次の日
「なるほど、確かに、よく考えてみれば知り合いってのは腹が立つものなのだな」
ここでの俺の失敗はアイカとクォナが友人同士であるという点、確かに自分の友人をネタにされるなんてのは不愉快だろう。
それにしても俺は本当に女心の理解不足、いや修行不足を痛感する「彼女とは遥か彼方の女と書く」とは、加持リョウジもよく言ったものよ。
さてこの失敗事例を検証し導き出された結論は、自分及び知り合いに類するものではなく、かつパーツを比べるものではないという二つの条件を満たす必要があるということだ。
となればこれだ。
タイトル:使用人たちのご奉仕活動 ~ご主人様のためなら何でもします♪~
そう、再逆転の発想、シチュエーションモノだ。
何故ならシチュエーションモノは男の要望を具現化された具現化系能力者ということだからだ(意味不明)。
さて、後はこれを絶対に見つからない場所に隠し、時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
―その日の夜
「ショウヘイヘーーーーイ!!!」
――次の日
「しまった、使用人はもろにセレナ達を連想させる、こんな基本中の基本を見落とすとは俺もまだまだ未熟よ」
知り合いに寄せてはならないと自分で言っておきながらこれは完全な失敗だった。
以上のことを踏まえると、シチュエーション系統で攻めるのは間違っていないのだから、今度こそ2つの条件を遵守した上での選定をする。
となれば、これだ。
タイトル:お兄ちゃん、一緒にお医者さんごっこして遊ぼ♪
「うーーーーん、買っといてなんだけどロリ物はあんまり好みじゃないんだよなぁ」
おそらく王子の趣味と俺の趣味は似ている、前に預かった紙袋の中に1冊もロリ物はなかったが、まあ1冊ぐらいはあってもいいだろうというレベルの認識の筈。
まあいいか、たまーに欲しくなったりするのがロリ物だからな。
さて、後はこれを絶対に見つからない場所に隠し、時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
――その日の夜
「オグエエエエエエーーーー!!」
――次の日
「これが実戦ならとっくに死んでいた」
ここでの失態は明白、クォナは孤児院運営しているのだ。クォナからすれば子供たちは守るべき存在だ、だからそれを連想させてしまったのだろう。
名誉のためにいうが子供に本当に手を出すようであるのならば、そいつは人間ではない、鬼畜外道以下だ。
だがエロ本は「ファンタジー」である。それは「男しか理解できないファンタジー」である。だからこそロリ物というのはちゃんとファンタジーブランドとして存在できるのだ。とはいえ女に理解しろというのは無理がある話だ。
これは逆でも言えて、例えばBLなんかは女性向けの一大ジャンルであり、まさに女の浪漫なのだろうが、やっぱり男の俺は頭でしか理解できないのだから。
今度こそ、今度こそだ、全てを被らないジャンル。
それはこれだ。
タイトル:ご主人様私を縛って! ~愛をこめて~
「うーーーん、SMものもイマイチなんだよなぁ」
エロ本といったものは「男性向けファンタジー」とは先ほど述べたとおりだが、これはそれに加えて露骨な演技臭というか、あんまりハマって見れない。まあ王子も一冊しか持っていないけど、事情を話せば許してくれるだろう。
さて、後はこれを絶対に見つからない場所に隠し、時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
――その日の夜
「モオオオォォォォォ!!!!!」
――次の日
「ふむ、いつも縄で縛られているから、これを用意したら、性懲りもなくエロ本を買うのは縛って欲しいだったのかと誤解させてしまったのか」
無論そんな趣向はない。何故なら俺はSでありMであるからだ、とそんなアルファでありオメガであるみたいなヨハネの黙示録っぽく言ってみる。関係ないけどヨハネの黙示録のこの文言って最高に中二病が疼く言葉だと思うのは俺だけだろうか。
それにしても本当に女心は難しい「男と女の間には海よりも広くて深い谷があるってことさ」とは加持リョウジもよくいったものよ。
さて、思考の海を泳ごう、俺は今まで、それで戦ってきたのだから。
まず特殊性癖は悪くはないが、下手をすると相当にニッチな方向に進んでしまうのが難点だ。
SMとかロリはまあ一冊ぐらいは持ってもいいってレベルだが、それ以上ディープなのはちょっと生理的に受け付けない。
俺と王子と好みは似ているから、ニッチな特殊性癖は却下だし、クォナも許しはしないだろう。
さて、これだけの難題を満たすものが本当にあるのか。
それがあったのだ、メジャージャンルでありながら、シチュエーションを満たしたものが。
それがこれだ。
タイトル:人妻のいけない昼顔
人妻もの、ディープな特殊性とまでいかず、シチュエーション萌えも満たし、しかも俺は独身だ。
さて、後はこれを絶対に見つからない場所に隠し、時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
――その日の夜
「モモンガアアアアァァァ!!!」
――次の日
「抜かった、ウィズ王国は一夫多妻制を導入している」
血を残すという名目で認められているこの制度、男女差別を別論として、これは文化的側面を持つ。我が日本でもかつて側室制度があり、大奥はドラマの題材や研究対象にもなるほどだ。
1人の男が多数の女を相手にする、全くもってうらや、ゲフンゲフン、善悪では語れない歴史の一つだ。
だが、そのおかげで、俺は遂に真実に至った。
答えは最初からあったんだ。
繰り返す、エロ本は男性向けファンタジー。
ファンタジーとは、俺に魔法の才能は無くても本物の魔法言語を必死で覚えさせる力を持つ夢の言葉。
つまり現実は不要であるということ。
それが、これだ。
タイトル:To Loveるダークネス
「何故、気づかなかったんだろうな、剣や魔法のファンタジーがずっと支持されるように、ハーレム物もまたずっと支持されている。それは現実にはあり得ないけど、あったらいいなと憧れずにはいられないシチュエーションだからだ」
これを俺に例えると、クォナに加えて、セルカもアイカもウィズもってことになって、後はそうだな、それでネタが尽きれば何故かセレナとかも加わるとか、そんな展開ってことだ。
って自分で言ってこれは恥ずかしい、他人には絶対に言えないよなこれ、確かにファンタジーもいいところだ。
仮にこれが成立するのならば、俺が超絶イケメンだった場合のみだ、おおう、自分で言って虚しくなるが、これもまたファンタジーだ。
さて、後はこれを絶対に見つからない場所に隠し、時が過ぎるのを待ち、勝利を確定させるだけだ。
俺は両手を広げて天を仰ぐ。
「完璧」
――その日の夜
鏖
※壁一面に赤インクで
――次の日
「実は分かってた、全部駄目だって」
別に言われなくてもね、分かってたんですよ、マジで、でも悪あがきしたくなるじゃん、それが男の子じゃん。
つまり作戦失敗、敗北だ、王子との約束を果たせなかったのが申し訳ないの一言だ。
でも王子、俺、頑張りました、昨日のクォナのあの目、本当に次は無いと思ったのです、まだ死にたくないんです。鏖って、冗談って言い切れないところがまた、もう、心に刺さる。
楽しみにしていたんだろうなぁ、本当に申し訳ないなぁ。
まあでも、せめてお土産を買っていくか、王子と自警団の奴らに一冊づつ。
俺が手に取ったのはこれ。
タイトル:王国美女特集
別にエロ本のみが男の浪漫ではない。
特に自警団たちは10代の男の子たちだ。エロ話だけじゃなくて、どの女の子が可愛いとかで盛り上がっているのを何度も聞いたし、俺も加わったりしている。今回のこの本はティーン向けに特化されているから喜んでくれるだろう。
ティーン向けに特化されているとはいえこの写真集のメインの1人、俺と同世代であり、その年で既に悪女と言われながら男を魅了し続けるネルフォル・デルタントの童貞を殺すセーターからのぞいた横乳は神であることに異論はない。王子とはこの横乳の浪漫を語り合うとするか。
あ、そうだ、童貞を殺すセーターで思い出したけど、何処に書いてあったか忘れたが「童貞は童貞を殺すセーターで殺されません、清楚な格好の女の子に殺されるのです」というツッコミに確かにと笑ってしまったが、まあそれはどうでもいい。
写真集を机に置いて、椅子に深くもたれかかる。
思えば、戦いの日々で疲れた、クォナはやっぱり強敵だった、まあいいさ、負けて悔いなし、王子だって相手がクォナなら納得してくれるだろう。
「しかし革袋1つでいいとは、男ってのは簡単でいいね」
出立の日は明日、この本を持って、まずは首都に行って、王子と遊んだ後ウルティミスに帰るか。
安心すると、心地よい疲れが身を包み心地よい眠気が訪れる。
今日はもう寝るか。
もうこそこそ隠す必要なんてない、バレるかもなんて気を張る必要はない、お仕置きを受ける危険だってない。
俺はネルフォルの横乳を思う存分眺めると、机に置き、ベッドにもぐりこむ。
そして俺は安らかに眠りについたのだった。
●
「ん……」
なんだろう、何処か寝苦しさを感じて、身じろぎした後に、うっすらと目を自然と目が開いてしまった。
変だな、俺疲れてなかったっけ、そんな寝ぼけた思考を漂わせながら、まだ焦点が合わず、寝ぼけているからぼんやりとした眺めで、自然と机に視線が入る形になったが、そこに灯りが付いていて、誰か、人が座っているのが見えて。
「!!!!!!!」
誰か分かった瞬間に瞬間爆発的に覚醒した。
(クククククク、クォナ!?)
まま、まちがいない、な、なにしてんだ、あいつ、俺の机に座って、あれ、何か、読んでる。
あぐふあ! あれだ、あの写真集だ! え、なに、なんなの、あれエロ本じゃないよ。う、嘘、ま、ま、まさか。
「クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス」
(ひーーー!!! 童貞を殺すセーターのページ見て嗤ってる!! こわいよーーー!! 駄目なの!! 駄目な奴なの!!!???)
やばい、これはやばい! どどどど、どうしよう。
とここで、すっと、クォナが本を閉じた時だった。
「ギン!!!」
「っ!! zzzzz」
あ、危ない、いきなり睨むからびっくりした、ここは寝たふりだ、寝たふり、大丈夫、バレてないバレてない。
とスタスタと上品に歩く音が近づいてきて、目の前で立ち止まると気配がすると、すっと目の前に迫ってくる。
「zzzzz(汗)」
「…………」
「zzzzz(滝汗)」
わかる、今俺の目の数センチの前にクォナの目があるんだ、あのハイライトの消えた目が。
(ひーーー!!! 石鹸の香りがするよーーー!!)
お願いします神様! いや、ルルトじゃなくて、この場合日本にいる八百万の神様! あんまりお参りもしたことないし、特定の神を信仰している訳も無いし、お賽銭も奮発したこと……あ! 一度、目をつぶって財布から金を摘まんで出してそのままお賽銭を投げるとご利益があるとか吹き込まれてその通りにしたら投げてしまって死ぬほど後悔した500円玉! あの時分のご利益をどうか! 我が身に!
と思いが通じたのか、すっと遠のく気配がすると。
「気のせいでしたか、寝ているようですわね」
(しゃあああああああ!! 我勝利セリ!!!!)
と心中でガッツポーズを上げている、良かった、ありがとう500円。
そんな勝利の余韻に浸っていると。
「準備にとりかからなくてはね」
と不吉な言葉を残して、ガチャリと扉を開き、バタンと閉じた。
「!!」
その瞬間、ささっと起き上がり、机の下に駆け寄るとすぐに本を確認する、外見異常なし、ペラペラとめくり中身を異常を確認する。
「良かった! 無事だった! どどどど!! どうしよう!! どうすればいい!! 考えろ、考えろ神楽坂イザナミ!! お前なら出来る!! 今までもそうやって!!」
「っ!!!!」
考えた結果、衝撃が走る、それは妙案を思いついた、
ではなく自分の迂闊さだった。
「…………」
自分で自分を抱きしめる。
普段の神楽坂ならこの状況の最も不自然な部分に容易に気が付くはずだった。
だが彼は恐怖のあまり動転し、冷静さを失っていたのだ。
気が付いた「最も不自然な部分」から一気に駆け巡る思考の海。
最も不自然な部分、それは言うまでも無くクォナが机の上でこの本を読んでいたことだ。
まず忍び込むというのは、当たり前のことではあるが、忍び込まれた相手に気付かれないようにするのが大前提だ。
そして自分が忍び込んだことを相手に気付かれないためには、相手が在室している時ではなく、不在の時を狙うもの。
現に今までのエロ本の時は明らかにその手法を採用していた、俺がいない間に忍び込んで、エロ本を探して確保する、その後お仕置きをすればいい
だからどうして俺が寝ている時に、わざわざ忍び込んだのだのか、という点がまず不自然。
確かに出立は明日ではあるが、出立時間は昼過ぎだし、別に急ぐ用事もない、出立までその間部屋を不在にすることもあるだろうし、その時間を狙えばよい。
仮にどうしてもこの時間でなくてはならない場合が相手側にあったとしても、クォナが忍び込んだ時に確実に俺は寝ていたのだ。
つまりわざわざ見つかるかもしれないリスクを冒して明かりをつけて読んだ、ということだ。
ここまで気づけば、俺の顔を覗き込んだ時のクォナの台詞だって明らかにおかしいことがわかる。
――「気のせいでしたか、寝ているようですわね、さて」
――「準備にとりかからなくてはね」
完全に説明台詞だ、わざわざ口に出してそんなことを言う必要を無いのだから、声を出してしまえば俺が起きてしまうかもしれないのだから。
極めつけはクォナの最後の行動だ。
それは最後に扉を開けて締めた音を立てたことだ。これも相手に気付かれないようにする、という点において不自然な行動だ。
ここから導き出せる結論、それは読んでいたことも音を立てたことも、俺に気付かせるために「故意」にしていたということだ。
つまりあの時クォナが俺に顔を近づけて確かめたこと。
それは俺が寝ているかを確かめたんじゃない。
俺が起きているのかを確かめたんだ。
そして俺が起きていることが分かったのなら、次にすることは、そう、相手を捕まえることだ。
だがここで俺を逃げると選択したらどうなるのか、逃げた相手を捕まえるのは容易ではない。
となればだ、例えば、あくまで例えばであるが、こんなのはどうだろう。
扉を開けて、そのまま部屋から出ないで扉を閉じる。
そんな子供騙しなトリック。
そして俺のその推理は多分正解。
え? 何故かって?
だって、後ろから、ほのかに石鹸の香りがするから。
そこで問題だ!
この抉られた状況でどうやってあの死をかわすか?
3択―ひとつだけ選びなさい
答え① ハンサムの神楽坂は突如反撃のアイデアがひらめく
答え② 仲間きて助けてくれる
答え③ かわせない、現実は非情である




