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旅して恋する吟遊詩人:後篇



:::ときめきメモリアル ~パグアクスはかく語りき~



 世界最大最強国家ウィズ王国の首都、ウィズ王国城。


 城内の廊下を颯爽と歩く1人の男。


「キャー! パグアクス息よ! いつ見てもなんて美しいのかしら!!」

「抱いて! 壊れるほどに抱いて!!」

「女から誘うのもアリよね!!」


 そんな王国府職員3人組の黄色い声援を受けても涼し気な余裕、だが何処か愁いを含んだパグアクス息の表情、そのコントラストにますます魅了される女達。


 男ながら美しいと呼ばれる容姿。


 次期国王から認められる能力。


 国家の重鎮たる地位。


 ほとんどの男がその一つすらも持ち得ることが難しいモノ。



 この物語は、男が望むであろうモノを全て持ちながら、その全てを台無しにする中性的知的眼鏡系、安心と信頼の不憫ストーカー美男子、パグアクス息の愛の1人物語である。



特別編:パグアクスと寝顔



――エナロア都市、クォナのカントリーハウス内、廊下


 エナロア都市。


 貴族御用達のリゾート都市。その中でクォナが所有するカントリーハウスの廊下を女性使用人たちの視線を浴びなら歩いていくパグアクス。


 陽気のせいか、おもむろに懐からハンカチを取り出し額と頬の汗を拭う。


 本来なら清潔というイメージではない行動も、彼がすればその汗すらも輝いて見えて、その姿をさり気なく見ながらうっとりする女性使用人たち。


(すううううぅぅぅーー! はあ! いい香り!! でもこのお守り(セレナのハンカチ)が古くなってきたから新しいのが欲しいのだが、どうしたものか。ここのところクォナの部屋に忍び込んでも私物が全く見当たらないんだよな~。こうなったらいっそのこと女装して洗濯場に、ん?)


 と正面から自分に近づいてくるクォナの姿を認めて、その両手には執務道具が入っているであろうバッグを持っていたことに気が付く。


「どうしたのだ?」


「いえ、別の場所で仕事をしようかと。ああそうだ、兄さま、もしセレナに用事があるのであれば、至急の用件でなければ遠慮していただきたいのですが」


「……何かあったのか?」


「いえ、資料整理をしようと思ったのですが、私のベッドでセレナが眠っていましたの。このポカポカ陽気、しかもこの頃休みなく仕事をしていましたから、それにつられてしまったのですね。起こすのもかわいそうですし、ゆっくりに寝かせてあげたいと存じますの」


「……へー」


「それでは兄さま、ごきげんよう」


 とクォナは立ち去った。


「…………」


「…………」



 カサカサカサカサッッ! ←ゴキブリを想像してください。





――クォナ自室前



 カサカサカサカサッッ!


 ピタッ!


 キョロキョロ。


(`・ω・´)シャキーン ←ピッキング用具をバルログ持ち


 チャララ~(必殺仕事人のテーマ)。


Q「おはようございます」


「…………」カチャカチャ


Q「おはようございます」


「…………」カチャカチャ


Q「あのー、パグアクス息?」


「…………」カチャカチャ


Q「もしもーし!!」


「うるさああぁぁいい!! セレナが起きたらどーーすんだあぁーー!!」カチャカチャ


Q「いえ、起きたらどうするんだって、だったら、そのまま寝かせてあげた方が」


「馬鹿者! セレナが寝ている! つまり危険な状態に置かれているのだぞ! 愛の戦士として黙って見過ごすは万死に値することなり!!」カチャカチャ


Q「ちょっと言っている意味が分からないですね」


「その程度も分からんのか! こういうことだ! セレナが寝ている! セレナがストーカーに襲われる! 親友のクォナが悲しむ! クォナが悲しめば親父も悲しむ! つまり、つまり」



「ウィズ王国は滅亡する!!」カチャカチャ



Q「な、なんだってー!」


「ゆゆゆえに、これが我が、しめぃだう! せせせセレナの! む、むひゅっ! むふゆぼうび! む! むぼーびの! ね、ねがねが、寝がおぼふぅ!」カチャカチャ


Q「落ち着いてください」


「寝顔寝顔寝顔寝顔寝顔寝顔寝顔寝顔」カチャカチャ


Q「…………」


「ねがおねがおねがおねがおねがおねがおねがおねがおねがお」カチャカチャ


Q「あのー、正直言えば、好きな女の寝顔が見たいって気持ちはですね、分かるんです。ただ、貴方の妹君曰く、創作物に出てくるような女性の綺麗な寝顔って、それこそ「創作」なんですって、つまり、はっきり言えばだらしない顔をしているから見られたなくないと思うんですけど」


「そんなことは分かっている」カチャカチャ


Q「そ、そうなんですか?」


「寝顔がだらしない? 当たり前だ。あのな、中等学院生じゃないんだぞ。って中等学院か、あの時期が一番異性に夢を見る時期だ、懐かしいな、確かに女性の寝顔が美しいと本気で思っていた時期もあったか、ふっ」カチャカチャ


Q「いや、そっちじゃなくて」 


「それと君は大きな誤解をしている!!」カチャカチャ


Q「な、何が誤解なんですか?」


「べべべべ、別にセセセセレナのことなんて、すすすきじゃねえーーし!!」カチャカチャ


Q「そうですか(諦観)しかし喋りながらピッキングとはまた器用な」


 カチャリ。


「よし! 開いたぞ! いいか! 起こすなよ! 大義は我にあり! 同志よ! ついて来い!」


Q「え!? 同志!? う、うそ、そ、そんな」


カサカサカサカサカサッ!


Q「ちょ、ちょっと、あの、ほんとに待って(泣)」





カサカサカサカサカサッ!


ピタッ! ←ベッドの脇下に到着。


Q「あ、あの」


「お黙り! このツナマヨ!!」


Q「ツナマヨ!!?? ってまた懐かしいネタを、確かにアレは個人的にコメディゲームの最高傑作というか、腹を抱えて笑ったというか、今でも大好きで」


「フー! フー! 落ち着け俺! やましいことなど何もないのだから! ここにはセレナの香りがするの! それを心の支えにするの! 頑張れ! パグアクス!」


Q「…………」


 ドクンドクンとそんな緊張がこっちのも伝わってくるようでゆっくりと上体を起こすパグアクス。


 意を決してその、ベッドの上に顔を起こした時。



 そこには、誰も寝てはいなかった。



「…………」


Q「…………」


「…………」


Q「…………」


「ま、しょうがあるまいな」


Q「え!? いいんですか!?」


「良いも何も、ここに来たのはセレナの危険が迫っていたからだ、最初からそう言っていたじゃないか、結果、その危険が無かった、なによりだよ」


Q「なんか爽やかな感じに言ってますけど、最初から危険なんて迫ってませんからね」


「さて、安心したら腹が減ってきたな」


Q「え? 腹?」


 とパグアクスはおもむろに掛け布団を乱れている部分をまくり上げるとガボッと頭を突っ込む。←中腰四つん這い状態


Q「…………」


「さあ! 我と一体となり満たされるべきである!! スウウウゥゥーーーー!!!」


Q「…………」


「ゥゥーーーーー、ッッッ!!!???」


Q「…………」


「…………」


 ガボッ ←頭を抜いた音


 スッ ←立ち上がる


 プルプル ←わなわなと震えている


「よくもだましたアアアア!! だましてくれたなアアアアア!!」


Q「ちょっと待ってください、あの、セレナが寝ていたと騙したことは認めますが、何故今の行動で騙されたことが分かるのですか? 念には念を入れてセレナがいつも付けている香水も振りかけた筈なのに」


「…………」


 俺の言葉にパグアクスは横目で俺を見ると目を少し伏せた次の瞬間。


「ば~~~~っかじゃねえの!? 香水の香りは香水しかしないだろーが!! セレナが付けた香水の移り香はセレナの体臭が混じるから全然違うんだよ!!」


Q「気持ち悪さしかないやんけ!!」


「!!!!!」


 突然何か金縛りにあったかのように動かなくなるパグアクス息。


Q「ど、どうしました?」


 ドクン。


Q「あ、あの急に黙ってどうしたんです」


 ドクン。


Q「え、え、このテンションってまさか」


 ドクン。


 と、急にパグアクスの目がエヴァ初号機のようにバシュンと赤く輝いたと思ったら。


「ウウウオオオオオォォォォォォ!!!!!!」


 と暴走モードで突然咆哮を始めた。


Q「もう辞めましょうパグアクス息!! 人に戻れなくなる!! ってなに!! どうしたの!? ってうお!!」


 跳ね上がるように飛び上がったパグアクスの先、そこにはクォナがいつも使っているであろう椅子があったが。


Q「……え?」


 想定外、そうとしか言えない物が、そこにあった、パグアクスの暴走の原因である……。


Q「パンツ!? どうして!?」


 夢中で気が付かなかった、なんでパンツがここに!?


 当然クォナはちゃんとセレナの私物はチェックして退室したはずだ。


(まさか!!!)


 ここで先ほどのパグアクスの言葉がフラッシュバックする。


――「フー! フー! 落ち着け俺! やましいことなど何もないのだから! ここにはセレナの香りがする! それを心の支えにするの! 頑張れ! パグアクス!」


――「ば~~~~っかじゃねえの!? 香水の香りは香水しかしないだろーが!! セレナが付けた香水の移り香はセレナの体臭が混じるから全然違うんだよ!!」


 ここで大事なのはこの二つ。


――「ここにはセレナの香りがする」

――「香水の香りとセレナが付けた香水の移り香は全然違う」


 この二つから導き出される答えは。



(本当にセレナがここに来たんだ!! そして多分、洗濯物を回収して、自分のものと一緒に洗おうとしたんだ、これはその時の残り!!!)



 この神ともいえるタイミング、流石ラノベ主人公セレナ!!


 だが気が付いた時はもう遅かった。


 既にパグアクスは頭に天使の輪を乗せがら、いつの間に脱いでいたのかトランクス一丁でパンツに向かって弾かれるように一直線状態。


 一方の俺は、自分の失策にやっと気づいて呆然としているだけ。


 これでセレナのパンツ、いや第14使徒の運命は決した、S2機関を貪られ体内に取り込まれるだけだ。


(すまんセレナ、これは俺のミスだ!!)


 と天を仰ごうとした時だった。


「きゅう」


 という突然気の抜けた声共にパンツではなく床に「ドサッ!!」と凄い音のまま前のめりに転倒した。


「!? よ、よし!」


 俺はそのままパンツをぶんどると、そのままパグアクスを見下ろすが。


「ZZZZZZ~」


「ね、寝てる? あ、そうか、そうだったな」


 俺は視線を横に移す。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 手をかざしていたのは息を切らしたシベリアだ。


「なるほど、回復魔法ってのは、睡眠導入としても使えるわけか」


「ええ、睡眠は体と脳を回復させるからね、きつ……」


 両手を両膝の上に置いて息を切らしているシベリア。


 そう、実はシベリアは最初から最後まで、俺の傍にいたのだ。


 ルルトに頼んでよく使う「認識疎外」の加護の魔法に落としたもの。その代わり、常に魔法をかけ続けなければならず、それ以外のことが全くできなくなる上に消耗も激しい。 そこは流石ハーフというだけあるが、それでも汗をびっしょりとかいている。


「ふう……」


 これは俺のため息、シベリアの横にはリコ、そしてクォナと、、、



 ユーリがいた。



「…………」


 ユーリは、トランクス一丁で幸せそうに眠るパグアクスに視線を移す。


「ふひひ、パンツ、うまうま」


「…………」


 今度は全員の視線がユーリに集まり。


 彼女は爽やかに頷いた。



「あの時何かが落ちる音がして、最初は恋に落ちる音だと思ったけど、おそらく別の何かが落ちたんだと思う、危なかった」



「ああ、そうだな、危なかったな」←神楽坂


「こちらも苦労した甲斐があったというものです」←シベリア


「今後の旅で良き相手に巡り合えることを願っている」←リコ



「頑張ってくださいませ、貴方達は大事なパートナーとなる人なのだから」←クォナ



「「「「「はっはっはっは」」」」」



 と幸せな寝顔の上で爽やかな笑顔と笑い声が、クォナの自室に木霊するのであった。





 そして旅立ちの日、シャイナを見送るため、クォナとセレナとシベリアはエナロア都市の出入口で別れの挨拶をしていた。


「クォナ嬢、ご注文の品承りました、揃い次第、連絡差し上げます」


「よろしくお願いしますわ、今後も貴方とはいいお付き合いをしたいと考えておりますから」


「はい、とても有意義な滞在でした」


「ユーリもゴドーさんも道中お気をつけて」


「ほえ、ありがとう、クォナ嬢!」


 と元気よく答えるユーリ。


「思ったより居心地がよかったんで、また来れるのを楽しみにしていますぜ」


 ゴドーの何処かピントがずれた答えにクスクス笑うクォナを見てシャイナが辺りを見渡す。


「えーっと、神楽坂中尉はどちらにいるのですか? ユーリの為に骨を折ってもらったみたいなので、最後に挨拶と考えていたのですが」


 シャイナの言葉に申し訳なさそうにクォナが首を振る。


「神楽坂中尉は、どうしても離れられない用事がありまして、皆さんと会えないことをとても寂しがっておりましたワ」


(ん?)


 なんだろう、今、何か……。


「ニコニコ」


(気のせいか)


 その時、都市の扉が開き道が開ける、シャイナは馬に軽く鞭をくれると一団は歩みだす、お互いに手を振りながら、シャイナ一行はエナロアを後にしたのだった。





「~♪ ~♫ ~♬」


 馬車に揺られてユーリはリュートを奏でて歌う。


 今まで旅の道中で、今までユーリたちは色々な人に出会ってきた。いい出会いもそうではない出会いも、それはこれからも続く。


 行商人は居を構えない、地盤を持たない行商人は所詮は流れ者扱い。


 だけど、行商人たちはこう言い返す、居を構えれば世界は狭まる、そして流れ者だからこそ得難い出会いがあるのだと。


 これからシャイナ達はクォナの注文の品を揃えるために各地を回ることになる。


 そしてシャイナはクォナが依頼した高難易度の商談を完遂し、正式に御用達商人としての契約を結ぶことになる。


 その契約はシャイナに凄腕の商人として名を轟かせたのはもちろんのこと、ウィズ王国はもちろん、他の国で活動する際も「原初の貴族の直系であるクォナのお気に入り」として大きな信用と財産をもたらすことになり、商人としての格が数段上がることになった。


 そして愛する人を見つけるためのユーリの旅は、その運命の人、シアに出会うのは、後ほんの少しだけ、時間を必要とするのであった。



:旅して恋する吟遊詩人×ワイルドカード:おしまい




<おまけ>




:::ラノベかラノベ主人公か! 番外編①



―神楽坂自室、クォナの指示でユーリの恋心を報告しに来た時の事


「まあ、その、ユーリさんが、パグアクス息のことが好き、みたいなんです」


 とユーリがパグアクスに恋に落ちたことを神楽坂に説明したセレナ。


「ああ、そうなんだ、うん、確かに起こりうるべきことなのかもね」


 だよなぁ、思えば今までなかったのは、外面は完璧だということとセレナに一途であること、クォナのカントリーハウス内では色々と難しい部分もあるからだ。


「セレナ、そのためにわざわざここに来たってことはユーリちゃんは諦める様子じゃないってことだろ?」


「ええ、そうみたいです……」


 と、最初から何処か気が散っているようなセレナ。


(ん?)


「セレナ、どうかした? 落ち着かない様子だけど」


「い、いえ、その……」


 顔を赤くしてモジモジしている。


(お! まさか!)


 ふんふんふんふんふん、よくあるアレですよ、なんとも思っていなかった異性に恋人ができるかもしれない、その瞬間に感じる自分でも気づなかった思い。


(いいですな! 憧れる!)


 思えば、「パグアクス息に好きな女の人がいる」ということすら念頭にない状態で話が進んでいたわけか。


 ユーリちゃんには悪いけど、これがきっかけになるかも。


 あのストーカーも案外女が出来れば大人しくなるかも、これもよくあるパターンだし。


「中尉」


「なんだね?」


「私、凄く驚いていて、正直、どうしようかって、頭が混乱していて、整理できなくて、ごめんなさい、醜態を」


「かまわんよ! ちなみに何に混乱しているんだね!?」


 動揺して、泣きそうな顔をしながらセレナは言い放った。



「クォナに妹としてではなく、異性として6年間も片思いしていたなんて!! だけどそれは許されない恋じゃないですか!! いくら心配でも来過ぎだと思っていたんです!! どうしたらいいんですか!!??」



「オーウ、そう来たネ、困ったネ、違うから黙っててネ、ラノベ主人公」



:::ラノベかラノベ主人公か! 番外編②



―トランクス一丁のパグアクスの上で響く、爽やかな笑いの後のこと。


「ふう、一件落着したと思ったら、急に、っとと」


「どうされたのですか?」


「ごめん! ちょっと、ト、トイレに行ってくる!」


「分かりました、って、あ! 神楽坂中尉!」


 ってなんかクォナが呼んでいたような気がするけど、ちょっと切羽詰まっていた感じだったので「ごめん! すぐに戻るよ!」とタタッと駆け足気味に外に出た。


 えっーと、ここから使用人用のトイレはここを右に曲がって、と、小走りに向かっていた時だった。


「きゃっ!」


 ちょうど曲がり角でばったりとセレナに遭遇、危ない、ぶつかりそうになった。


「っと、ごめんねセレナ、怪我は無いか?」


「…………」


 セレナは何故か俺を見ながら呆然と立ち尽くしている。


「? えーっと、クォナに用事なのか? それだったら、その、後にした方がいいと思う、ちょっと、今は立て込んでいるみたいだから」


「…………」


 セレナは俺を見ながら今度は真っ赤になって立ち尽くしている。


「ん? どうしたの?」


 セレナはプルプルと顔を真っ赤にして俺の右手を指さす。


「あ!」


 そう、ここでようやく気が付く、トイレに意識が行っていて気が付かなかった、俺の右手には。


 セレナのパンツが握られている!


 そうか、クォナのアレはそれを注意しようと。


「あ、あの、その、これは」



「忘れたと思って届けに来てあげたんだよ!!」



 と言い終わる瞬間にバシーンと引っ叩かれて目の前に火花が散り、パタッと、床に倒れる。


「最低! そういうことだけはしない人だと思っていたのに!」


 と俺からパンツをひったくるとプリプリ怒りながらその場を後にしたセレナ。


「……ラノベか、ラノベ主人公か、俺」



:::ラノベかラノベ主人公か! 番外篇③



―セレナが神楽坂をひっぱたいた、その日の夜、クォナ自室。


「え!? そうだったの!」


「そう、かくかくしかじかの理由があったの、下着を盗んだというわけでは決していないわ」


「かくかくしかじかの事情はよく分からないけど、クォナが違うというのなら違うのね、それにしても、どうしよう、ひっぱたいちゃった」


 青ざめるセレナにクォナは微笑む。


「後で謝ればいいと思うわ、ご主人様も細かいことを気にするタイプではないから」


「う、うん、あ、あの」


 ここで顔を赤くしてモジモジするセレナ。


「どうしたの?」


「ほら、昼間、パグアクス息の想い人がいる、って、話があったじゃない?」


「!」


 クォナとしては複雑な立場ではある。親友として妹としての板挟み、しかも自分の兄が自分の親友にというのは理屈ではなく「微妙」な感じがするのだ。


 もちろん悲恋で終わればいいなんてことは考えればいいが、セレナは無自覚ではあるが、神楽坂が気になっている様子。


 でも、色々と変わるきっかけになると思うのなら、せめて気付くぐらいは、後押ししてあげたいと思っている。


「兄さまの想い人がいて、それがどうかしたの?」


「うん、その時に、好きってことを聞いた時、私は、何故か自分の気持ちに、もしかしてって思ったの」


「…………」


 そうか、気が付いたか、ついに来たか。


 相手の恋路を見て自分の恋路を自覚した、これもよくある話。


 クォナの葛藤をよそにセレナは続ける。


「だから、クォナにどうしても確認したいことがあって、それは貴方のことを親友だと思うからこそなのよ、だから、受けてめて欲しい、と思っている」


 セレナの言葉を受けてクォナは目を閉じる。


 思えば自分達4人に浮いた話なんて今までなかった、自分自身はとても恋愛なんてできるとは思わなかったし、セレナ達は自分の煽りを悪い意味で喰らっているので余計にできない。


 まあいいか、巷では女の友情はハムより薄いなんて言われているが、そんなことはない、男とは形が違うだけだから。


「分かったわ、言ってちょうだい」


 クォナは親友の言葉を、いや想いを受け止める覚悟を決めた。


 そしてそれはお互い同じ、セレナは真剣な顔で言い放つ。



「パグアクス息の想い人って、貴方じゃないかと思って! 中尉は違うと言ったけれど! だけど妹が心配という理由にしては来過ぎだと思っていたの! もしそうだったら! 親友として私はどうすればいいの!?」



「セレナ、私も貴方の親友として厳しいことを言わせてもらえれば、貴方は恋という分野においてのみ時々「ちょっとアレなんじゃないかな?」って思うことがあるわ」



―おしまい




:おまけ2:




―神楽坂自室



「ふっふっふ、ふが3つ」


 俺の手には小荷物が握られている。


 これはそう、シャイナ一行がエナロア都市に訪れた時に、神楽坂が憲兵の検査を拒否し、その責を負う形で個人的に受けとったものである。


 さて、そんな手間をかけて注文したものとは。



 圧倒的外国春画本すきなものはすきだからしょうがないなのである!



 やっぱりエロ本かよ、もう分かったよと思った方、こんな例えはどうだろう。


 そう、例えば、あくまで例えばであるが、世界で一番有名なネズミの出身国である米の国に行った時に、異国文化の勉強のために修正が無いやつを買ってくる、と言えばどうだろうか。


 大事な事なので何回も言うが、これは例えであることを重ねて申し添えておくと共に異国文化の勉強であるということも強調し、申し上げておこう。


「べ、べつに文化に興味があるのであってアンタになんて興味ないんだからねっ! ツンツン! ってなわけで~、まさかどさくさに紛れてこんなものを注文しているとは御釈迦様でも思うまい、さぁーて、異国だとなんか色々変わったものがあるのかなぁ、わくわく」


 と言いながら、はさみでチョキチョキ~。


「いえーい、御開帳~」


 と中身を覗き込んだ時だった、中から何かパチンとはじけた音がしたなと思ったら、そのまま魔力が周囲に拡散する。


「ん? なんだこれ? あれ~? なんか眠くなってきたぞ~? ふあああ~」


 パタッ。


「ZZZZZZZZZ」


 スッ ←忍び寄る影




:::クォナと騎士団 番外編




 クォナ騎士団。


 上流の至宝、深窓の令嬢と呼ばれるクォナに忠誠を誓った集団であり、彼女の為に命を懸けて守るために日々訓練に勤しんでいる。


 そんな彼らにはいくつか特典がある、その特典の中でメインはなんといっても。


 トントントン


 そんなリズミカルな包丁が材料を刻む音がカントリーハウスの調理場に響き渡る。


「ふう」


 汗をぬぐいながら、白いエプロンをつけたクォナが料理をしているのだ。



 ぽわわ~ん。←覗いている騎士達



「いい……」

「女の子が料理」

「エプロン姿がまた」



 そう、その特典で騎士団達が心待ちにしているもの、それは手料理が食べられるのである。


 女の子の手料理、これは男の浪漫にとっては説明不要のフレーズであろう。


 もちろんクォナも中々時間が取れないため毎食という訳ではないが、時々ではあるがこうやって料理を振舞うのだ。


 丁度シャイナが旅立った日がその日、クォナは騎士団員達に食事を作っている。


 騎士団達は手伝うと申し出るも「いつも私を守ってくださるのだから」と丁重にお断りして、手際よく人数分の皿と用意し、盛り付けをしていく。


「さて、今日は皆さんの大好物を用意しましたわ! メインは獣の肉のステーキ、こってりした味がパワーをみなぎらせます、そして添え物はスープとサラダ、胃の消化を助けますわ!」



「「「おおーー!!」」」



 全員の歓声を聞き届けてクォナは笑顔で告げる。


「さあ皆さん、たーんと召しあがってくださいませ」



「「「いただきまーす!! うまうま!! うまうま!!」」」



 と勢いよく食べ始める騎士団達。


「クォナ嬢はどうしてそんなに料理が上手なのですか!」


 食事中の騎士団がクォナに話しかける。


「まあ上手だなんて、首都に滞在する時に仲のいい料理人に教えてもらいますの」


「そ、そうなんですか、えっと、その……」


「もちろん女性料理人ですわ」


「そ、そうですか! べ、べつにどっちでも、いいんですけどね!」


「クスクス、だからというわけではありませんが、今日はこの後、ちょっと新作に挑戦しようと思っていますの」


 という言葉を聞いた瞬間に騎士団達が次々と立ち上がる。


「あ、試食します!」

「俺も俺も!」

「クォナ嬢が作ればなんだって食べられますよ!」

「ああ! それこそ食べ物じゃない無機物だって!」

「おいおい、それは逆に失礼だろ」

「あ、そうでした、すみませんクォナ嬢」


 そんな騎士団にクォナは笑う。


「お気持ちは嬉しいです、ですけど、恥ずかしいわ(ポッ)」


 ぽわわ~ん ←騎士団達。


 その時だった、クォナの傍にスッとリコが寄る。


「マスター、例の件について」


「分かりましたわ、さて、新作の料理の材料が整ったようです、皆様、ごきげんよう」


 と石鹸の香りを残してその場を後にした。



「いつか、俺1人のためだけに作った料理を食べたい、って妄想ぐらいはいいよな?」



 そんな切ない騎士団の1人の一言に全員が優しい笑顔で頷くのであった。




:クォナの簡単3分クッキング: ~これで彼氏もイチコロ篇~ 


  チャラララチャチャチャ♪(マヨネーズ会社のアレ)



「さて、今日はご主人様だけの為だけに腕によりをかけて手料理を振舞って差し上げますわ! まずは料理を作るにあたって大事なのは材料! これはもちろんご主人様の大好物!!」



タイトル:荒ぶる肉食女子 ~男が女を犯す? 冗談じゃないわ! 女が男を犯すのよ!~



「むー! むー! むー!」 ←縛られて猿ぐつわをかまされている神楽坂


「まあ、なんていいタイトルなのでしょう。そう、女が男に食わせてもらうために淑やかに振舞っていたのはもう過去の話、今は女が男を蹂躙する時代、こんなふうに……ね!!」


 手順①:こんな感じで、呪詛の言葉を吐きながら、エロ本を憎しみを込めて素手で二つに引きちぎります。


「そう! こんな風に!! 犯すのよ!!! 引きちぎってね!!!!」


 手順②:半分に引きちぎったエロ本の片方を更に憎しみを込めて細かく引きちぎります。


「さあこれで下ごしらは終わりです、いよいよ調理にうつりましょう♪」


 手順③:まず残った半分はそのまま焼きます、塩と胡椒で味付けします、はい、ステーキの出来上がり。


 手順④:細かく引きちぎったエロ本を水に入れて沸かします。ドーピングコンソメを入れます、はい、ドーピングコンソメスープの出来上がり。


 手順⑤:残った半分のエロ本を小鉢に入れて、ドレッシングを振りかけます。はい、サラダの出来上がり。


「さあこれで完成ですわ♪ 後は一つまみの「愛情」を隠し味にすれば彼氏もイチコロですね、クスクス♪」



:クォナの簡単3分クッキング: ~これで彼氏もイチコロ(物理)篇~ 完。



「~♪」


 クォナは鼻歌を歌いながらお盆に三つの料理を手際よく乗せる。


「むーむーむ!!」←泣きながら首を振っている。


「クォナはそろそろ言葉で説明するのに疲れてしまいましたノ、となると体でご理解いただけるのが一番近道だと存じますワ」


 お盆を持ちながら近づいてくる。


「むぐ! むぐ! むぐ! ごぶぐふぅ!!」←芋虫状態で後ろ向きに逃げたため壁に後頭部強打してもんどりうつ神楽坂。


「さあ、たーんと召し上がレ?」



「モガガガアアアアア!!!!!」



:おしまい:




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