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6、炬燵の暖かい熱源を抜けると異世界であった Ⅰ

「……はて?」


目の前にあるのは豊かな緑。

広がる田畑。


少しばかりの家々。



といってもジャパニーズDENENFUUKEIとは違う。


南フランス地方。といった雰囲気のヨーロピアンな農村の風景だ。


などと思いつつも、彼女は生まれてこのかた南フランスに行った事なんてないので、実際の南フランスがどうだかは知らない。あくまで雰囲気だ。


そんな余談はさておき。


彼女は自らの手にしているミカンを見つめた。


(私、確か炬燵の中に転がり込んだミカンを取ろうとして、それから……)


何か炬燵の電熱線が異様に光輝いたと思って……気が付いたら、ここにいた。


(ここ……どこだろう……)


よもや本当に一瞬で南フランスまできたんだろうか……?

これ、世界が仰天ニュースするバラエティー番組とか出れちゃったりするんだろうか。


そう、彼女が考えていると、どこからか声が聞こえた。


「あれ〜?キミ、こんなとこで何やってんの〜?」


理解できる言葉だ。


という事はここはガチな南フランスではない。


異国をモチーフにしたどこかのテーマパークに来てしまったということだろうか。


国内でも仰天ニュースする番組に取り上げてもらえるかなぁ…。

と、彼女が思っていたら、再び声がする。


「お〜い、親しげに声かけただけにガン無視されるとおれ辛いものがあるんですけど〜」


「あ」


そう言われて初めて声の主に注意を向けたら、そこに般若のお面が見えた。


「やーっと気づいてくれた……」


「ええと……トア・モラさん、ここで何してるんですか?」


「いやそれこっちのセリフだから……」


どうやらここは南フランスではなく、どこかのテーマパークでもなく、彼らのいる、彼女にとっての異世界であるらしい。


「なんで私、唐突に来られちゃったんですかね?」


「おれは知らないけど……うーん、イルセのことといい、繋がり易くなっちゃってんのかなぁ……」


「そういうものですか」


もといた場所へ帰るにはどうしたらいいかと問うたら、通って来たと思われる魔道は閉じているのでここでは無理だと答えが返ってきた。


「カルーだったらそういうのこじ開けるの得意だから」


そう言われて、とりあえず、ついておいでという般若の横に並んで歩く。


「それで、トア・モラさんはお一人で何してるんですか?」


「あ、そこ戻ってきちゃうんだ?……おれはねぇ、『ただの人』のお仕事中」


聞けば、般若は、必要品の買い出しに出ていたのだという。


「この先に魔物が出没する場所があってさ、討伐の依頼を受けてしばらく滞在することになったの。で、ここらの村にはなにもないからちょっと戻ったところにある町でいろいろ買い物」


そう言って般若はいくつかの袋を掲げてみせたので、彼女はミカンをポケットに入れたあと、手伝います……と二つほど引き受けた。


「重っ!トア・モラさんひょろい割りに力持ちですね」


「ひょろいって……まあ、キミを軽く持てるくらいはあるだろうね。ほら何しろ『ただの人』は体力勝負なところがあるから」


ご存じだろうけど……みたいな言い方をされたが、彼女には『ただの人』が『パシリっぽい』ということしか解ってないので、曖昧に笑っておく。


そうして般若としばらく歩いて行くと、数人の男女が集まっているところへたどり着いた。


その中に、彼女は見知った顔を見つける。


「ただいま〜」


「貴様、遅いぞ!」


重い荷物を持ちながらもにこやかに手を振る般若を怒鳴り着けたのは、見た目は子供、お声はしぶ目、その名も、いたいけな少年、カルーヴァさんだった。


「カルーヴァ、近くと言っても町まではそこそこ距離があるんだし、俺たちがトアに無理な買い物を頼んだんだから仕方ないよ」


そしてそのいたいけな少年に続いて現れた人物は、彼女の存在に気付き、目をこれでもかと見開いた。


「きみ……なんで……?」


「さて……なんででしょうねぇ?」


彼女があははと乾いた笑いを上げる間に、相手はよろよろとこちらへ近付いてくる。


「あの……?」


そして、彼女の頬をスルスルと撫でたあと、自らの頬をつねり……………………おもむろに腰に帯びた剣の柄へ手をかけた。


かちゃりという音と共に引き抜かれた剣の切っ先は、そのまま、その人物の指へ……。


「ストーップ!!!!!ダメ!それ、やっちゃダメって言ったじゃないですか、イルセイドさん!!」


『剣の先で指をちょっと切る方法』という、この世界で頬をつねるに並んでメジャーな現実確認の仕方を実行しようとした人物……間違う事なき、勇者、イルセイドに彼女は慌てて待ったをかけたのだった。

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