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4、「異世界よりこんにちは!」六畳一間は宇宙の広さ Ⅳ

イルセイドの入れてくれたお茶を飲んで、落ち着いたら、少しうたた寝をしてしまっていたようだ。


炬燵の天板に突っ伏したままの状態で彼女が目をあけると、頭頂部の位置辺りから声がかかった。


「よくその姿勢で寝続けることが出来たものだな……きつくはないのか?」


その声を聞いて、はて?と思う。


ああ、この声のCV(キャラクターヴォイス)はきっと中田譲さん……。

そう言いたくなる、ほどに渋めの低音ヴォイスが響いた気がした。


(こんな声の人居たっけ…?)


イルセイドは低めだが柔らかい声をしているので『渋い』とは違う。

般若は男性の声ではあるが、高めの声をしていたと思う。


では誰の……?


そう思って、彼女が、ゆっくりと顔を上げると、そこでミカンを食べながらこちらを見つめている、いたいけな少年と目が合った。


「……」


「……」


この異界っぽいコスチュームは間違いない……と、彼女は思う。


般若に続いて、親子の侵入者が我が家に現れたらしい。


これは先ず、父親と話しをした末に、イルセイドとは一度腹を割って、「他人の家をベースキャンプ感覚で使用するんじゃない」と、しっかり言い聞かせねばなるまい。


彼女はそう決意した。


しかし、六畳一間だというのに、この人口密度はなんなのか……。


「さっきから人が話しているのに、無視を決め込むとはいい度胸だな。女」


彼女が、いろいろ思案しながら、少年の父親を探して視線をさ迷わせていると、またしても渋めの低音ヴォイスが聴こえてきた。


「調べた中にそのようなものはなかったが、それが異界の流儀か?」


「……」


今、低音が響いたのと同じパクで、目の前のこのいたいけな少年の口が動いていなかっただろうか?

彼女は目をしばたたかせた。


「アテレコ……?」


「それはあにめーしょんなるものの技術だな!一度りあるたいむで見たいと思っていたんだ!!」


「アニメの場合は『アフレコ』って呼んでるようですよ……ってそうではなくて、それよりも……」


聞き間違い見間違いではなく、このとっても渋くて素敵なおじさまヴォイスは、目の前のいたいけな少年から発生しているらしい。


「ちょっと!イルセイドさん!!」


「え?え??何???」


彼女は直ぐ右隣の区画に座っていたイルセイドに詰め寄った。


「うーわー情熱的〜」


左隣の区画に座っている般若が、意味不明な茶々を入れてくる。


それに返事はせず、サクッと無視して、彼女はイルセイドを問い質した。


「また!……一度ならず二度までもまた!どうして!こんな!人間ビックリドッキリショーを!人が見てない間に!勝手に!招き入れてるんですかっ!!」


「カルーヴァは異世界贔屓だから……」


「その理屈で何でも収まると思うと思うなよ!!」


しどろもどろで、目が泳ぐ、イルセイドの胸ぐら……は、甲冑でつかめないので、両肩に手を置いて、揺さぶりながら、彼女は彼を怒鳴り付ける。


イルセイドが「ひッ!」とひきつった声を上げたが、構いやしなかった。


「異界の女と言うのは激しいものなのだな」


「いや〜熱いよね〜イルセ壊れちゃう〜」


脇で文句の原因となっている当事者たちが明後日の方向に盛り上がっている。

当然、どちらも彼を助けたりはしない。

イルセイドは半ば涙目になっていた。


彼女は「この勇者、とことん立場とメンタル弱いな」と思う。


ところで、勇者と言えば……。


「イルセイドさん、その甲冑、室内じゃ邪魔じゃありません?」


先程、つかみかかった時に障害となった、甲冑についての疑問点を彼女は口にした。


そういえば、イルセイドは出会った時からずっと甲冑を纏っており、それを取った姿を一度も見ていない。

その姿では、狭い我が家を移動したり、炬燵を出入りしたりするときに動き辛いんじゃないだろうか……?


昨日はイルセイド一人だけを見ていたので、比較対象が居らず、ファンタジーな世界はかくあるものなのね……と思っていたのだが、今日見た般若もいたいけな少年も、少なくともこの場ではそんなものを身に付けていなかったので、異世界では常に鎧を付けているという訳ではないのだと思う。



「あー……イルセのそれはねぇ……」


「トア」


彼女のその言葉に、般若が何か言いかけたが、当のイルセイド自身がそれを制した。


「俺は大丈夫」


「いや、お前……」


「大丈夫」


そのやり取りを訝しげに眺める彼女に、イルセイドはニコリと微笑む。


「脱いだら場所を取ると思って遠慮してたんだ。許可がもらえるならお言葉に甘えて……どこに置いたらいい?」


「え……ええと、部屋の隅っこの……この辺りにお願いします」


それは、いささか不思議に思わなくもない態度だったが、自分が言い出した手前もあるので、彼女はとりあえずイルセイドに甲冑を置くためのスペースを提供し、案内した。


そして、脱ぎ終わった頃、遠慮がちに声をかける。


「あの、イルセイドさん……もし……」


「あー、障害物がなくなったらお腹空いたかもしれない」


「へ?」


「きみの作ったご飯が食べたいな」


言葉を遮ったイルセイドが、にっこり笑って彼女を見た。


メンタル弱いな……の、前言を撤回しようと思う。


この勇者、会って2日目にして図太く育っている。

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