プロローグ
「イルセイドってさ、ちっちゃいこ好きなの?」
「チッチャイコスキー?」
旅の仲間から突然に言われた言葉を繰り返し、勇者は首を傾げた。
いや。正確には、言われた言葉を正しく繰り返えせてはいない。
この場に彼の女性が居たならば、間違いなく「なんですか、そのロシアの作曲家さんのパチもんみたいな名称は。訴えられたらどうするんですか」という突っ込みが入っているところだろう。
……と、彼女を知る『ただの人』は、それを端で聞きながら思った。
残念ながら根本から住む世界の異なる彼女は、今、都合よくこの場に居らず。そして恐らくその突っ込みを受けたところで、突っ込まれた勇者のほうは、その元になっている『ロシアの作曲家』が誰なのか解らないと思われる。
そんな下らない事を考えつつも。どこか惚けたところのある勇者のことだ。このままでは、二人の会話は平行線のままだろうと判断し、ただの人は助け船を出すべく話に割って入った。
「イルセ。シェッゾは、謎の『チッチャイコスキーさん』について訊いてんじゃなくってさ、お前が、『ちっちゃい子を好きなのか』って訊いてるんだよ」
「何でちっちゃい子?」
「たぶん、異世界の彼女の事だろ?あの人、お前と比べるとだいぶちっちゃいじゃん」
それを受けて、旅の仲間がこくこくと頷く。
イルセイドは「なるほど」と言って、ちょっと考えてから続けた。
「確かに、彼女は小さい。けど……」